日本を滅亡から救うため、登山初心者が槍ヶ岳に登ってきた
本当は一か所しか許されないはずなのに、日本の中心を名乗っている場所が多すぎる。、そんな状況では「我こそは日本の中心なり」と覇権争いが起こりかねない――そんな思いから真の日本の中心を特定して長野、岐阜をまたぐ槍ヶ岳に行ってきました。ライターは登山初心者。標高3,180mの槍ヶ岳に登り、この危機的状況を脱却できるのか……!?
失礼します。東京大学2年生の、高野りょーすけ(@tonbonline)と申します。
突然ですが
日本が滅びるかもしれません。
その証拠に、次の2枚の画像をご覧ください。
おわかりでしょうか?
日本の中心(へそ)を、2つの市が宣言してます。
それぞれの主張を見ていくと
【西脇市】
- 東経135度と北緯35度の交点
- 「わたしたちは日々日本の中心に立つ喜びを感じています」とコメント
- 昭和52年に「日本のへそ」を宣言してシンボルマークであるへそ鳥を制定
- 元々あった岡之山公園を日本へそ公園へと改称
- 日本へそ公園駅を開業
- 「日本のへそまつり」を開催
- 「日本のへそです大作戦」を発動して「日本のへそモニュメント」を作製
【渋川市】
- 本土最北端の宗谷岬と最南端の佐多岬を円で結んだときの中心
- 昭和59年に「へそ祭り実行委員会」を組織し、へそ踊りパレードを行う「へそ祭り」を開催
- へそ地蔵の設置
- 渋川市が “日本のまんなか・へそのまち” であるという「へそのまち宣言」を全国645市長宛てに自ら宣言
という状況です。
日本の中心を名乗る都市が複数ある以上、中心をめぐっての戦闘は避けられません。今こうしている間も、どちらがより中心にふさわしいか、市の最重要事項として臨戦態勢に入っているはずです。両市ともにただではすまないでしょう。
そう、戦(いくさ)の勃発です。
これは緊急の案件と判断して、ほかにも「日本の中心」「日本のへそ」を宣言している都市はないか、市町村のお問い合わせ窓口へ順番に電話して調べることに。
すると、なんと合計12都市が、日本の中心を思い思いに主張していることが判明しました。
【栃木県佐野市田沼地区】
最北端の町である椎名市と佐多岬、日本海海岸線の中間地点と太平洋側の海岸線の中間地点を結んだときの交点だから。道の駅の名前は「どまんなかたぬき」(公式Twitterアカウントでも宣言 )。
【山梨県韮崎市】
宗谷岬と佐多岬、南鳥島と与那国島を結んだ時の交点だから。
【岐阜県関市】
2010年の国勢調査によって人口重心であることがわかったから。公式サイトでも「日本の真ん中」と説明。ちなみに、関市以前に人口重心となっていた美並村は22億円かけて「日本まん真ん中センター」を建設して高さ37.3mの日時計を作製。しかし首都圏へ人が移動することで人口重心は当然東へずれていくため、美並村はすでに日本の中心ではなく、毎年「日本まん真ん中センター」の高額な維持費がかかっている。
【石川県能登半島 禄剛崎】
日本国土の重心(東経137度42分33秒・北緯37度31分03秒)に最も近い陸地だから。
【徳島県三好郡東みよし町毛田】
緯度経度の下2桁同一の地の北端は、北海道常呂町(北緯44度・東経144度)から南端は沖縄県竹富島(北緯24度・東経124度)まで9つあるが、その9つの中心にあたるのが、北緯34度・東経134度の地点だから。
【青森県東北町】
坂上田村麻呂が掘ったとされる「日本中央」と彫られた碑が出土したから。
【福井県】
交通が便利だから。
【長野県南牧村】
19の区域に分けて定められた、直角座標で位置表示する「平面直角座標系」の「平面直角座標系原点」について、その内のひとつが村有地の中にあることが確認されたから。
【長野県辰野町】
緯度経度が0分00秒で交わる点は国内に40カ所ほどあるが、その中でも「辰野町のゼロポイントは日本の地理的中心である」との記載が「信州学大全」(元長野県立歴史館館長 市川健夫氏著)にあるから。公式Twitterアカウントでも宣言 。
【長野県上田市下之郷 生島足島神社】
日本国全体の御霊として奉祀されている生国魂大神と足国魂大神を祀っており、太古より日本総鎮守として位置付けられているから。
【ネット上では「日本の中心」とされているものの、公的には認めていない都市】
- 長野県諏訪市・・・日本の中心を宣言する旅館もあるが市としては認めておらず
- 長野県上松町・飯田市、千葉県銚子市、新潟県糸魚川市、・・・一時期うわさが出回ったが誤り
- 静岡県湖西市・・・ふるさと納税の一環として中心を名乗ったことがあるが、正式なものではない
- 長野県塩尻市・・・日本ど真ん中ウォーキングなどが行われたが、公式な企画ではない
いかがでしょうか。「日本の中心(へそ)」を巡って12都市が争っていることがわかると思います。
このままでは日本の中心をめぐった戦(いくさ)が勃発。血で血を洗う真・戦国時代に突入し全国の自治体や教育組織が軒並み壊滅し、わが母校の東京大学も暴徒化した市民の手により消し飛ぶでしょう。
そこで膨大な負傷者が発生する前に、日本が滅ぶ前に、知能指数500万くらいある私の頭脳を活かし、次の戦術にうってでることにしました。
こちらで勝手に真の中心を決定し、市町村に伝達。全国の市議会を仲介し、真の中心地は未来永劫、その地であるという中心講和協定を(むりやり)結ばせるのです。
これによって日本の中心地をめぐる血なまぐさい戦いはなくなり、経済大国日本として、ジャパンアズナンバーワンとして、日本は世界を牽引していくでしょう。たぶん。
さて、肝心の方法についてですが、これはすごくシンプルで、
地球は実際には完全な球体ではなく楕円に近似できる形をとっていることからここでは一旦各地点の経緯度を地心直行座標に変換しまして同質量の12質点からなる質点系を仮定します。ここから質量をつけた位置ベクトルの加重平均をとろうかと一瞬迷いましたがその地点の質量というものを綺麗に定義できないのでやめにして物理的重心を直行座標のまま算出したのち経緯度表示に逆変換して真の中心を計算。中心と重心どっちがどっち?と思いますが12地点の中ですでに混ざっているのでこれで計算しそしてここから十二角形からなる平面図形いや厳密には十二面体の重心すなわちその1点をもって当該剛体を支えられるモーメントの和が0になる位置を探ろうと考えたのですが2年ぐらいかかりそうなのでこれもパスし平面直角座標系はその性質から適当ではないでしょう。
要約するとがんばって求めるということですね。
日本の中心を巡る戦いを沈めるため、真の中心を決めます。勝手に。
「どこだここ」
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槍ヶ岳に到着
というわけで日本の滅亡を防ぐため、槍ヶ岳の登山口にやってきました。東京からバスで6時間、現在は朝の6時です。
狙いは、こうです。
槍ヶ岳の山頂から、「日本の真の中心」を写真で撮る
やはり、日本の中心を争っているところへいきなり「本当の中心は北緯36.3505002777度・東経137.672002度の地点なので戦うのはやめてください」
と説明しても「なに言ってるの?」となりますし、メリケンサックで殺されるだけでしょう。
説明用の資料として真の中心の写真を撮る必要があるわけですが、正規の登山コースから外れたところにあり、
登山初心者である僕が現地に行くと8割くらいの確率で遭難するので、登山コースが比較的整備されている槍ヶ岳の山頂から撮ってこよう、というわけです。
ちなみに槍ヶ岳といえば
標高3,180mで、登山時間は最短コースでも8時間。わかりやすく言うと一歩間違えれば簡単に遭難して死ぬ日本屈指の山で、「アルプス一万尺」の舞台でもあります。
アルプス一万尺 小槍(こやり)の上で
アルペン踊りを さあ踊りましょう
ランラララ ララララ
ランラララ ラララ
ランラララ ララララ
ランランランランラーン
しかし、怖気づいてはいられません。なぜなら真の中心の写真を撮れないと、日本が滅ぶからです。
さくっと山頂にいって写真を撮って各市町村に見せて、日本を救ってみせます。
「死ぬ」
出発してから5時間。
歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いてきましたが、
これでようやく中間地点くらいです。
ちなみに全て三脚を立てて一人で撮影しています。
途中、デカルトの「困難は分割せよ」を用いて登山ルートを区切らなければ本当にダメだったかもしれません。東京大学で哲学を学んでいて本当に良かった。
さて西脇市・渋川市・佐野市は3者協力して全国へそのまち協議会を結成していますが、今ごろ大丈夫でしょうか。歴史をたどれば三国協商の行く末は…。青森の東北町の動向や、徳島の本州上陸、激戦区である長野の状況も気になります。マルヌ会戦まったなし、という所でしょうか。
マルヌ会戦……第一次世界大戦中、ドイツ軍とフランス軍が激突した戦い。フランスはこの戦いによってドイツ軍の進撃を食い止める事が出来たが、その後泥沼の塹壕戦に突入する。
やはり、自分が真の中心を写真におさめて、日本が火の海になるのを阻止しないといけません。
この国を守らないと。
体感的に2万時間ぐらい経ったかと思うころ、山林を抜けてやっと頂上が視野に入り
植物が消え失せた急傾斜の岩山をはって
ついに
あとは、山小屋の右隣にあるもっこりしたところをよじ登って山頂へ行き、そこから…真の中心の写真を撮れば…争わなくて済む……。
無駄な血は流させません……。僕のポツダム宣言を受け入れてさえくれれば……!
しかし、登ろうとしたら霧が生じたので、山頂にいくのは、明朝に。
……もし……仮にではありますが…………
万が一にも、
明日も曇ったら
いや、それは………
…………絶対にない
絶対……
ない……
………真の中心は……………
……9時間半……
……日本を………
………
帰って寝ます。
追記
※「初心者の単独行は大変危険である」というご指摘を頂きました。ご指摘の通りライターさんを危険な目に遭わせる可能性があったことを真摯に受け止め、今後は企画段階で行き先などを確認した上で可否を決めさせて頂ければと思います。大変申し訳ありません
※なお、槍ヶ岳はこれから更に厳しい季節を迎えますので決して真似をしないようにお願い申し上げます。