夕焼けが綺麗だった。

 

済州市のほど近くの海岸にある龍頭岩も有名な観光地だ。夕焼けをバックにした龍頭岩の景色は壮大で、いまにも龍が海面から上ってくるような気配を感じた。天に昇る龍、その迫力は圧倒的だ。

 

周辺には獲れたてのアワビやサザエを売る店が並んでいて、この夕焼けの龍頭岩を一目見ようと多くの観光客が詰めかけており、狭い通路は人でいっぱいだ。

 

三姓穴での謎を解くと、あの謎の男がまた口を開いた。「龍頭岩にいけばミレイに会える」そう言い残し、最後の紙片を手渡してきた。

 

 

運転手が紙を眺めながらつぶやく。

 

「どういう意味だこれ?」

 

「わからないけど、なんらかの道順かもしれませんね」

 

「ワイはカケル、って言葉からカケルさんって人を探せばいいのかな。きっと、これを解いた先にミレイが……あっ……」

 

そこまで口にして、その先の道路に2つの人影があるのが見えた。一つは、あのコートの男、そしてその横に佇む、華奢な人影は……。

 

「ミレイだ……!」

 

大きな声で叫ぶ。そこにはミレイの姿があった。

 

「もうその謎は不要です。ミレイを見つけました」

 

急いで駆け寄る。

 

「ミレイ!」

 

ミレイはこちらの姿を確認するとニッコリと、いつものような優しい笑顔で笑った。

 

「早かったね」

 

急いで息を整える。

 

「必死だったさ。飛行機に乗って、謎をといて、2回も山登りみたいな階段を上って……」

 

やっとミレイに会えた。おそらく、ここまで追いかけてくれたことにミレイも感動しているはずだ。きっともとの二人に戻れる。一歩踏み出し、ミレイに駆け寄る。

 

「でも、謎なんて解く必要なかったんだよ?」

 

予想外の言葉に、動きが止まってしまう。

 

「え……?」

 

「エウォル地区、オルレ市場、中文リゾート、サンバンサン、城山日出峰、三姓穴、そしてここ龍頭岩、みんなわたしが行きたいって言ってた場所じゃない」

 

そういえば、いつも海外旅行に行きたい、チェジュ島に行きたいって言ってたような気がする。旅行情報誌を片手にいつも元気よく説明してくれたっけ。

 

「だから、謎なんて解かなくても、わたしが行きたがってた場所にくれば見つかったのに。私はずっとここにいたもん」

 

「いや、それは……」

 

じっとこちらを見つめるミレイの瞳には反論しがたい何かが宿っていた。

 

「だから私は、この人と、それらの景色を一緒に観てきたの」

 

ミレイはコートの男の左腕にしがみついた。

 

「そんな……」

 

コートの男はそっとミレイを抱き寄せる。

 

「なるほどねえ、お別れを言うためかあ」

 

後ろで運転手が呟く。

 

もう、日がすっかりと落ちてしまい。周囲は暗くなっていた。龍頭岩も、その雄姿は見えず、黒い影が元気なく佇んでいるように見えた。

 

この島で僕とミレイの恋が終わりを迎えた。もう、ミレイの表情も闇に溶けて見えなくなっていて、彼女が何を考えているかすら分からなかった。ただただその事実が現実であることを告げるように、岩場を叩く波の音がいつまでも聞こえていた。もう、龍は天へと昇らないだろう、そんな気がした。

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当の続きは別のページにあるかも……)