タクシーが山を越えていく。

 

先ほど、エウォル地区まで乗せて行ってくれたタクシー運転手が、心配で様子を伺っていたらしい。ポケットに残された紙片の謎を解いた瞬間に話しかけられた。

 

「いやー、俺もちょっと心配でさ、あんたの様子を見てるいと誰かを探しているようでな、でも、その誰かが見つからんかなかったら困るんじゃないかと思ってよ。バスも難しいし、タクシーを捕まえるのも難しいだろうしよ」

 

なかなか親切な運転手のようだ。前を見て運転してくれないところ除けば最高の運転手と言えるかもしれない。

 

「そしたらよ、もう一人、アンタを見守ってる男がいるんだな」

 

運転手の言葉に身を乗り出す。

 

「ど、どんな男ですか!?」

 

「サングラスにコートによ、なんか怪しい男だったよ、で、そいつが渡してくれってこれを」

 

 

それはなんとも難解な図だった。

 

右側は、なんとなくハングル文字であることが分かる。けれども、左側の文字が分からない。

カタカナの「キ」に似ているけど少し違う。もしかしたらこちらもハングルで、なにか意味のある文字なのかもしれない。

 

「なんなんでしょうか、これ」

 

もしこれがハングルの文字だとしたら、こちらに意味が分かるはずがない。運転手に訊ねてみる。

 

運転手は首をひねりながら紙片を逆さにしたり、裏から透かしてみたりして、しばし考え込んだ。

 

「これ、あれだな、『西帰浦毎日オルレ市場』だわ。オルレ市場のアーケードになってる通りの形だと思う」

 

「そこに連れていってください!」

 

食い気味に運転手に詰め寄る。

 

「いいけど少しい遠いよ。島の反対側だし」

 

結局、チャータータクシーという形にしてもらった。少し値は張るが、こうあちこち行かされるならその形式の方がずっといいようだ。なにぶん、鉄道のないこの島で観光をしようと思うなら、チャータータクシーかレンタカーが自由に移動できてお得らしい。

 

オルレ市場に向かいながら景色を眺める。

 

ミレイはどこにいるのか。

 

なぜこの島なのか。

 

こんな謎解きみたいなことをさせて何がしたいのか。

 

もう八だというのにコートを着た謎の男。

 

三角の崖が並ぶ景色をぼんやりと眺める。ここチェジュ島は火山でできた島らしく、あちこちにこういった景色が見える。

 

「で、誰を探しているの?」

 

さすがに険しい道路を通っているからか、運転手はさすがに前を見ながら話しかけてきた。

 

「恋人?」

 

追い打ちをかけるように質問を浴びせる。

 

これまでのやり取りを見るに、ただ事ではない気配を感じ取っているようだ。

 

「ええまあ、そうなんですけど、もう、なにがなにやら分からなくて」

 

「大変そうだね」

 

「はい、大変です」

 

「諦めちゃえば? そんな面倒な女」

 

「諦める……」

 

確かに、ここまでしてミレイが何をしたいのか分からない。ここまでしてそれが何も意味のないことだとしたら……。そんな考えが浮かんだ。

 

「諦めるなんてできませんよ。愛した人ですから」

 

それっきり、運転手もこちらも無言になってしまった。

 

 

———————————

 

しばらく走ると、賑やかな場所にでた。いくら遠いと言ってもそこは島の中での話だともっていたので、そこまで遠くないとふんでいたが、この島は予想よりかなり大きいらしく、かなりの時間を要してしまった。もし、この島を自転車で一周しようとしたらかなりの時間がかかるのだろうと思った。

 

「ここがオルレ市場さ、あいにく、車ではアーケードの中にまでは入れない」

 

かなり賑やかで、たくさんの店が並ぶ一角を通り抜け、細い路地を抜けると、アーケードの入口が待ち構えていた。

 

チェジュ島南部の港町、西帰浦(ソギポ)にある毎日オルレ市場はチェジュ島を代表する在来市場のひとつだ。農産物や海産物、土産物などを売る店が軒を連ねており、観光客に人気のスポットだ。特に、様々な店でちょっとずつ食べ物を購入して食べ歩きグルメを楽しむスタイルが人気のようだ。

 

みたところ、ミカン類を売る店が多く、通り全体がオレンジ色に彩られている印象を受ける。

 

「そういや、ミレイもミカン、好きだったよな」

 

なぜか、チェジュ島の風景は、ところどころでミレイを思い出す。

 

「とりあえず、この場所に行ってみてください」

 

この謎の記号がオルレ市場を示しているならば、この部分に何かあるはずだ。

 

「あいよ」

 

運転手は颯爽とタクシーを走らせた。

 

 

 

 


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