旅で見る絶景やおいしいグルメもいいけれど、最近それと同じくらい博物館に興味を持つようになりました。数多くの文化遺産や資料、美術品が展示され、広く歴史や世の中のことを伝えてくれる博物館では、旅をするように充実した時間が過ごせるからです。
全国各地にはすごい数の博物館が存在します。そんな博物館あるの?というディープなものから、身近だけど意外と知らなかった歴史やモノを取り上げたところまで、その世界は多種多様です。
そこで、今回は ブログ「知の冒険」を運営し、“博物館マニア”として全国各地の博物館を巡る丹治俊樹さんに、おすすめの博物館について教えてもらいました。丹治さんは夏頃に全国の博物館を取り上げた本を出版予定です。
―丹治さん、よろしくお願いいたします。
「おすすめ博物館はいっぱいありすぎて選ぶのに迷っちゃいますが(笑)なるべく博物館になじみのない方でも楽しめるところをご紹介致しますね」
―ブログでも全国各地の博物館をいろいろ取り上げていますね。「こんな博物館あるんだ」と驚きます。
「博物館に行く度に自分の無知さに気づかされて「こんなことがあったのか」と驚くと同時にすごく素直な気持ちになります。博物館って、いろんなことを教えてくれるすごくいい場所のはずなのに、うまく世の中に伝わっていないところも多いように思います。それってすごくもったいないと思っていて。だからこの紹介をきっかけに見てみたいと思ってくれる人がいたら嬉しいですね」
―ありがとうございます。しばらくはお出かけしづらい日々が続きますが、この記事を読んで改めて博物館に興味を持ったり行きたい博物館を考えてみたり、そんなきっかけになればいいですよね。それでは丹治さん、博物館の紹介をお願いいたします!
(以下文章は、丹治さんのコメントを編集したものです)
目次
世界のカバン博物館(東京)
はい、ではまずは東京の博物館からご紹介します。
「世界のカバン博物館」は、世界中から集められた550点ものカバンが収蔵され、常時300点が入れ替えられながら展示されています。著名人や冒険家のバック、古今東西の美しいバックなどが展示されていて、見ているだけで華やかで飽きません。
ほの暗い館内でカバンがきれいにライトアップされていて、雰囲気もいいんです。カバンの歴史・文化から最先端の技術、パッキングのコツ、良いバッグの見極め方などカバンにまつわるあらゆることが紹介されていて、カバンを見る目が鍛えられそうです。
日本のバッグメーカー・エース株式会社が運営していて、入場料は無料です。東京都台東区にあるので、浅草やスカイツリー観光と合わせて訪れやすい場所だと思います。
カバン博物館は7階で、そのひとつ上の8階にはビューラウンジがあって、スカイツリーがよく見えます。ミュージアムを見た後はここでのんびりくつろげますよ。
世界のカバン博物館
https://www.ace.jp/museum/
入館料:無料
学校給食歴史館(埼玉)
埼玉県には、誰もが食べたあの給食がズラッと展示されている「学校給食歴史館」があります。脱脂粉乳、パック牛乳、コッペパン、揚げパン、ソフト麺などなど、懐かしい献立の数々が本物そっくりの食品サンプルで再現・展示されている知られざる穴場です。
給食メニューは年代ごとに展示されています。その時代の食生活や経済状況が給食に反映されているので、給食から見る日本の近代史が興味深いですよ。
自分で適量取って食べる「バイキング給食」なんていうのもあったようです。
バイキングスタイルの食事は今やホテルや飲食店などですっかり浸透していますが、1958年の帝国ホテルで提供されたのが初めで、すぐに給食にも反映されて「バイキング給食」が誕生。方針は「自ら考え食べようとする給食」で、自分で食べられる分を考えて適量取るようにするためのものだったようです。
展示を見て行くと、年代だけでなく地域によっても給食の内容が全然違うことがわかります。何人かでいくと「自分の給食はこうだった」「そんな給食だったの?」と盛り上がるので、みんなで行くのにおすすめの場所です。
ただ難点があって、平日しかやっていないんですよね。でも面白いのでぜひ! 海外から日本の給食を学ぼうと視察に来る方々もいるみたいです。
学校給食歴史館
http://www.saigaku.or.jp/profile/library/
入館料:無料
音浴博物館(長崎)
長崎県の西彼杵(にしそのぎ)半島の静かな山奥にある「音浴博物館」は、約16万枚のレコードのコレクションを所有し、実際にレコードに触れ、かけて聴くことのできる全国でも貴重な体験型博物館です。「音を耳だけでなく、全身で浴びるように聴いてほしい」との思いで運営されています。
多数のスピーカーがあって「スピーカー界の世界遺産」と言う人がいるくらいすごいスピーカーもあるんです。希少価値の高いスピーカーはスタッフ立ち合いで、一曲だけ聞くことができます。いいスピーカーの奏でる音に衝撃を受けました。
まさに目の前で演奏しているような臨場感で、音が全然違います。立体的というか、ベースやドラムの音それぞれが際立っていました。レコードの演奏を聞いて涙を流す人もいると伺ったのですが、本当にその気持ちがわかるくらい感動しました。
電波も入らない山奥だからこそ、音の世界に没頭できるような環境です。わざわざ遠方から行くなら平日の方がゆっくりできていいかもしれません。私が訪れた時は平日で人が少なかったので気兼ねなく楽しめました。
音浴博物館
https://onyoku.org/
入館料:一般750円、小・中学生320円、小学生未満無料(※保護者の同伴が必要です)
ビートルズ文化博物館(兵庫)
ビートルズ文化博物館は、館長岡本さんのビートルズ愛・熱量に引き込まれる場所です。初めて訪れたとき、岡本さんの熱量に圧倒されて5時間も滞在しました。
岡本さんは少年時代にビートルズの『A HARD DAY’S NIGHT』 のレコードを聞いて、最初のギターのジャーンって音を聞いた瞬間雷に打たれたようになって、以来ビートルズにはまったそうです。ポリシーがあって、ビートルズの偉業を見て話して楽しめるものだけを展示しています。
ビートルズが世の中に与えたファッションや文化などの影響も含めて「世界無形文化遺産」にしたくて、その活動の一環として情熱を持って文化博物館を運営されています。
たくさんの博物館を巡ると、点と点だった知識がつながる楽しみもありますけど、知識よりも人との出会いが魅力だと感じています。知識は忘れることもあるけれど、人と会った思い出はいつまでも残るので。そんな風に岡本さんと話した楽しさが印象に残っている場所です。
ビートルズ好きはもちろんですが、そうじゃない人も岡本さんのトークを聞けばビートルズに興味を惹かれるかもしれません。
ビートルズ文化博物館
https://beatles21.jimdofree.com/
入館料:200円
TOTOミュージアム(福岡)
日本の水まわりの変遷が分かる「TOTOミュージアム」は、みんなすごく馴染みがあるのに、実は知らないトイレの歴史がわかります。背景を知ると面白いですよ。福岡県北九州市にあります。
今でこそ「トイレと言えばTOTO」というくらい有名ですが、創立した大正6(1917)年頃は、まだ日本の下水道が整っておらず、トイレを作っても売れなかったそうなんです。だから同じ陶器類の食器などの製造で食いつないでいたとのこと。
その後戦後の高度経済成長期に、下水道のインフラ整備や住宅建設ブームもあり、衛生陶器の需要が増加しました。1970年に食器製造事業を停止して、ここから住宅設備機器メーカーとして爆進していくんです!
また、トイレが普及してからは節水技術の改良を繰り返して、昔は1回流すのに20L使っていた水が、最新のものは一回の大洗浄で3.8Lまでと大幅に節水されています。節水の次は「いかに掃除の手間を省いたトイレをつくるか」の試行錯誤をしていて、時代に応じて改良を重ねている企業姿勢が伝わってきます。
これだけの展示内容を無料で見られるのがすごいですよね。見た目もインパクトがあるし、みんな使っている身近なトイレのことなので、誰が行っても楽しめると思います。
TOTOミュージアム
https://jp.toto.com/museum/
入館料:無料
門司電気通信レトロ館(福岡)
福岡県北九州市にある「門司電気通信レトロ館」は、NTT西日本が運営する電話の博物館です。
明治、大正、昭和、平成と、昔から現在までの電話がずらりと並べられていて、見ごたえがあります。技術が進化して、電話機が小型化していく様子がよくわかります。
日本初の電話帳なんかもあって、今じゃ考えられないような個人情報がのっています。よく見ると、大隈重信や渋沢栄一など誰もが知る歴史上の人物の名前がけっこうあるんです。歴史好きの人は、眺めていて飽きないと思います。今は天気予報電話サービスとして使われている177は、昔は大隈重信の電話番号だったみたいですよ。
公衆電話は、出始めた1950~1970年代にかけては赤色が主流だったようです。その後100円玉が使える黄色、24時間使える青と、機能に応じて色が塗り分けられていたようです。今まで知らなかった雑学をたくさん学べました。
単純に見ているだけでも楽しいし、写真を撮ったらSNS映えしそうな面白い場所です。
門司電気通信レトロ館
https://www.ntt-west.co.jp/kitaQ/moji/
入館料:無料
松本市時計博物館(長野)
長野県松本市にある『松本市時計博物館』には、古時計の研究者であり技術者でもあった本田親蔵氏(1896〜1985)による和洋の古時計コレクションが展示されています。今まで見たこともないようなユニークな時計が見られる場所です。
特にすごいのが、約110点の時計が丁寧にメンテナンスされており、ほとんどが現在もちゃんと動いているところです。館内は常に時計の「カチカチ」と時を刻む音が聞こえていて、0分になると一斉に「ボーン」と音を鳴らすのが圧巻です。
昔の時計はまるで美術品のように美しくて、一つひとつの時計に見入ってしまいます。
床屋の時計というものもあって、鏡越しに見られるように左右反転させて作られているんです。
松本市時計博物館
http://matsu-haku.com/tokei/
入館料:大人(高校生以上)310円、小人(中学生以下)150円
氷見昭和館(富山)
昭和レトロの世界観に浸るなら、富山県にある氷見昭和館です。館内には、たばこ屋や駄菓子屋、食堂、電器屋、カメラ屋、酒屋、くすり屋、時計屋……など、懐かしい昭和のお店が20も再現されていて、昭和の時代にタイムスリップしたような気分が味わえます。
館長さんが16年かけて趣味でコレクションした物のほか、地元民や閉店するお店が寄贈してくれたものが数多く展示されています。
館内には喫茶コーナーがあって、ジュークボックスから流れる音楽を聴きながらのんびり過ごせます。
こちらの館長・苦楽多さんは似顔絵がすごく上手で、似顔絵を描いて稼いだお金でこれらのコレクションを集めたそうです! 1000円~で似顔絵を描いてくれますよ。
氷見昭和館
https://himishouwakan.jimdofree.com/
入館料:高校生以上600円、中学生以上400円、乳児無料
重監房資料館(群馬)
最後に、ここは自分がすごく衝撃を受けた場所なので紹介したいと思います。
草津温泉のすぐそばにある「重監房資料館」は、かつてここにあったハンセン病患者を対象にした懲罰用の建物(重監房)を再現し、資料や当時の証言を展示しています。本当に想像を絶する内容です。
重監房は1938〜1947年までの9年間稼働しており、全国のハンセン病療養施設から特に反抗的な方々のべ90人が送り込まれ、記録に残るだけでも23名の人々が房内で亡くなりました。
監房内はあまりに過酷な環境のため、毛布をちぎって首をくくる人までいたと聞きました。また、冬は想像を絶する寒さで、実際多くの方が冬に亡くなっています。遺体を引き取る際には、体液が凍って布団が床にへばりつき、それを剥がすこともしなくてはいけなかったそうです。
資料館のそばには、その跡地がひっそりと残されています。
重監房は1947年に廃止され、その後建物自体が崩壊して跡地が残るだけになっていました。しかし、ハンセン病国賠訴訟で国の責任が明らかにされた後、この犯罪的な建物は決して無かったことにしてはいけないと、10万7,000人を超える復元要求の署名が行われて重監房の復元事業が始まったのです。
ちなみに、草津温泉の湯畑に湧いている温泉は旅館へと流れていますが、実は一番端っこにある木桶だけ、他とは異なり先へ流れず地下へ潜りこんでいます。
実はここだけは、3km近く離れたハンセン病療養施設「栗生楽泉園」へと送られていると最近知りました。
人気温泉街の華やかな場所から少し離れると、こんな場所と歴史があったことに驚くばかりでした。
重監房資料館
http://sjpm.hansen-dis.jp/
入館料:無料
―どうもありがとうございました。丹治さんは博物館を巡るようになって、自分自身の中に何か変化はありましたか?
自分が思っている以上に、日本中に様々な歴史や物語があると思うようになりました。ほとんどの博物館は安い入館料や無料で運営されていますが、後世に発信していきたいとか好きで始めたとか、それぞれの背景や思いを知るとありがたみを感じます。震災など天災関連の博物館に行くと、他人事とは思えません。
―いろいろ巡ってこられて、魅力的な博物館に共通していることはありますか?
展示物ももちろん大事なんですけど、やはり運営している方々の思いが強いところは響きますよね。個人で運営されている博物館は、展示物からその方の人生まで垣間見えてきて興味深いです。情報は忘れてしまうこともありますが、人との思い出はいつまでも残ります。
―最後に、丹治さんが博物館に行き続ける理由を教えて頂けますか?
博物館に行くと、今まで知らなかった世界や歴史に触れられて楽しいのが理由ではあるんですけど、実は最近はよくわからなくて……。
もう「博物館があるから行く」みたいな境地に入りつつあります。眠かったり体力的にしんどかったりしても行かずにはいられないんですよ。博物館に行きたい思いが強くて、いろんなことを犠牲にしている気がします(笑)
この記事を読んで気になった方は、ぜひお近くの博物館から行ってみてはいかがでしょうか? 何気ない訪問が、新しい世界への扉を広げてくれるかもしれません。
画像提供:丹治俊樹