タイトルなし(青森県)

※この記事は「楽しかった思い出の場所記事コンテスト」の応募作品です。
ライター :脳みそ天ぷらさん


 

青森県。

東京生まれ東京育ちの私には縁も所縁もない場所だった。

ここ数年、仕事で1年に2~3回青森出張があり、

出張の度に自費で延泊して観光も楽しみ、

青森の人々の優しさ、自然の美しさ、海鮮と酒の旨さを堪能していた。

 

ただそれだけだって思ってた。私と青森は。

忘れられない場所になるなんて思いもしなかったんだ。

 

訪れる度に青森が好きになっていた私は

昨年のゴールデンウィーク直前に入った出張の際も延泊を決めた。

 

出張はいつも通りそつなくこなし、

仕事を終えた私は今夜はどこで飲もうかと考えていた。

 

ゴールデンウィークに差し掛かっていたこともあり、

仕事関係の人を飲みに誘うのも気が引けたので、

マッチングアプリを使って飲む相手を探すことにした。

 

くそ…田舎め…。

ターゲットを10km圏内、年齢を23歳~28歳に設定すると誰もいない。

東京だったら捌ききれないほど男がいるというのに。

 

仕方なく20歳~35歳までターゲットの幅を広げる。

ようやく20人くらいまで人が増えたが、好みのはたった一人だけだった。

 

20歳か…。一回り年下…。

 

前に東京で大学生と飲んだが、なんだか申し訳ない気分になり、

飲み代もホテル代も出してしまった。

待て。これが巷でいうママ活への一歩か…。と余計に落ち込んだので、

それ以降大学生と会うのはやめていた。

 

いや、もう青森だし。どうにでもなれ。

一か八かでその男の子にライクをすると、

幸いにも向こうもライクしてくれていたので即座にマッチした。

すぐにメッセージを送り、夜のアポを取りつけた。

 

駅前で待ち合わせ。写真通りのかわいい男の子がやってきた。

 

「お姉さん本当に32歳ですか? 25歳くらいに見えます!」

なんて嘘みたいな言葉にほだされながら楽しく飲み、すぐ近くだという彼の家に行くことに。

 

「僕、亀甲縛りが得意なんですよ!」

32歳にして、恥ずかしながら大学生に初めての亀甲縛りを捧げる。

 

「お姉さん、ダメですよ。全然Mじゃない。痛みを快楽に変えないと」

は?

だんだん腹立たしくなってきた。

ごめんね!!!私Mじゃないのかも!!!いや、お前が雑なだけじゃない???

んだよ、セックスの相性悪いぜ!!!あばよ!!!

 

ということで一人、宿泊していたホテルに帰った。

くそ、明日はどこに行こうかな。

 

前に行った十二湖。本当にきれいで心癒される最高の場所だったなア。

ただ、青森旅行は運転免許のないシティガールにはちときつい。

このときもローカル線や特急、バスに乗ったりなんだりと、往復6時間もかかったのだ。

 

あ、なんかよく聞くし八戸行ってみたいな。

2日間もあるし、せっかくだから行ってみよう。

と、旅程を考えてる間も誰か車運転してくれないかなアなんて思って

アプリの設定を80km圏内くらいまで広げて男を漁っていた。

 

青森を車で一人旅している男の子とマッチしたので、

一緒にいろいろ回ろうなんて話をし、翌日青森駅で待ち合わせをした。

 

まだ見ぬ八戸に胸を躍らせるも、当日そいつは待ち合わせに来なかった。

連絡するも、返事が来ない。うーん。ちょっと待ってみるか…。

 

とりあえず青森で有名らしい「味噌カレー牛乳らあめん」を食べに行く。

うめえ~~。

カレーと牛乳のまったりとしたコクのあるスープに

どかっとのった罪なバターが最高。

もちもちのちぢれ太麺がスープによく絡んでうめえ~~。

青森駅から少し歩いて、路地裏に入るとレトロで素敵な建物がいっぱい。

このラブホめっちゃかわいい。

「クレオパトラ」という渋い喫茶店でひとやすみ。

手作りアップルパイが美味。

連絡こねーーーー!!!!!!

くそう。八戸いきたいいいいいいい。

 

喫茶店でまたも男を探す。

なんだか意地になってきた。ぜってー探す。

 

数時間後…

 

八戸に帰省している男の子を捕まえることに成功。ラッキー!

 

捕まえるのに時間かかりすぎてすでに15時。

彼の実家の最寄り駅で待ち合わせをしたが、

駅に到着するのは17時すぎになりそうだ。

 

ローカル線に2時間ほど揺られ、

聞いたこともないクソ田舎の駅に着いた。

 

人っ子一人いない駅でキョロキョロしていると、

一台の車がやってきた。

 

「ん?あれか??まじ??」

プロフィール写真を見返す。私好みのロン毛。

目の前には野球部みたいな坊主頭の男。

 

「○○さんですよね?」

 

やばい、声をかけられてしまった。

この田舎の駅に人類は私とこの男の子しかいない。

どう考えてもごまかしきれない。

 

「そ、そうでぇ~す…」

 

とりあえず車に乗り込み、地元を案内してくれと頼んだ。

もうこうなったらマジで観光する。

まア、最初から観光したかったんだけど!

なんか有名な神社につれてきてくれた。

天気もあいまってすごい幻想的。

なにやら工事中で上には登れなかったんだけど。

鳥めっちゃいる。

彼が昔よく行ったという海にも連れて行ってくれた。

なんかもう無理心中でもしそうな雰囲気。

 

海辺を散歩しながら、彼は身の上話などを聞かせてくれた。

静岡で建築関係の仕事をしている社会人1年目。

夢を追いかけながら仕事に一生懸命取り組む純粋で気持ちの良い青年だった。

最初は坊主かよって思ってごめん。

 

おなかがすいたので、八戸っぽいもの食べたい!とお願いしてみたが、

彼はグルメにはあまり詳しくないようだ。

 

「僕が高校生のときによく行ってたところでもいいですか?」

んんんんんん!? 

なんかめっちゃ見たことある気がする。この看板。

 

彼「「八戸酒場」って書いてあるし、八戸だけなんすかね」

 

どうだろうね。わかんない。今日は八戸にしかないってことにしよ。

ごはんを食べた後は小さな小屋のような屋台が並ぶ「みろく横丁」へ。

 

ここは私が事前に調べておいた場所。

彼も初めて行くという。

適当なお店に入って、地元のおじさんたちと話しながらすすむ日本酒。

嗚呼、最高の夜。

明日は近くの港の朝市に行くことをおすすめしてもらった。

 

そのままラブホに流れ込み、セックスして就寝。

ああ~朝市楽しみだなア!

 

朝4時。

凄まじい吐き気で目覚める。

トイレに駆け込み、嘔吐。

 

日本酒飲みすぎたかしらん?

なんて思うと同時に下痢。

 

下痢?

これは飲みすぎが原因ではないな。

再び嘔吐!

 

ついでに下痢!

 

やだ…。まさか…。妊娠…?

じゃなくて

食当たりか。

何がいけなかったんだ…。

 

…………

あ。2日前、仕事中に通りがかった屋台で食べたホタテ…。

3個200円という破格と旨さにやられて調子こいて15個食べたんじゃった…。

 

胃をつかまれるような痛み。

とまらない下痢。

 

最悪の体調。

私は今、八戸のラブホテルにいる。

 

そして今日、帰京せねばならぬ。

 

目覚めた彼に「朝市どーする?」なんてのんきに聞かれたが、

私は立ってることもままならないほど胃が痛い。

 

チェックアウトぎりぎりまでトイレにこもり、彼の車で駅に向かう。

途中で薬局に寄ってもらい、

胃痛の薬と飛行機で漏らしても良いように紙おむつを買った。

 

「もうね、下痢が下痢じゃないっていうの?うんちじゃないんだよ。

黄色い汁がケツの穴からしぼり出る感じ」

 

彼「僕のこと、本当にどうでもいいんですね」

 

なんてちょっと切ない会話をしながら、駅に着いて彼とはさよならをした。

 

その後、私たちは一度も連絡を取らなかったし、

数ヵ月後、好きな人ができたとかそんな理由で私はマッチングアプリを消した。

 

彼とはアプリ上でしかやり取りをしたことがなく、

もう二度と連絡をとることができなくなった。

なんなら名前も忘れたし、顔も覚えてない。

 

だけど、確実に、私たちは一緒に八戸を旅したし、セックスもしたんだよ。

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