プロローグ「終わりの始まり」
「ハアハアハアハア」
真っ暗な山道を、息を切らしながら自転車を漕ぐ男がいた。
いちばん近い街は20km以上先。人家の明かりはなく、街灯だって一つも見当たらない。傾斜がキツい峠道の道沿いにはジャングルのように木々が覆い茂っている。森の中からけたたましく鳴く夏虫の声に混ざって「キイーキイー」と獣のような声もする。声のする方向へスマホのライトを向ける。無数の目が反射して光った。
「獣(じゅう)やん!」
ここから一刻も早く走り去りたい。
購入したばかりのライトは30分前に突如点かなくなった。しっかりと充電したのになぜだ。ライトが消えるとほとんど何も見えない。
田舎の山道、本当の暗闇。その暗闇と相対するように反響する虫や動物の大合唱が、不気味さを増幅させる。
スマホのライトを頼りになんとか前を照らすが、夜の山道を走行するのに十分な明るさとは言えない。
自転車に取り付けたメーターを確認すると走行距離は100kmを超えていた。35℃を超える炎天下の中、自転車を漕ぎ続けた太腿は限界を迎えている。
「ハアハアハア」
どうしてこうなったんだ。
「ハアハアハア」
どうしてこうなったんだ。
「ハアハアハア」
どうしてこうなったんだ!!!!!!!
〜時は2週間前に遡る〜
「今年の夏は全国的に厳しい暑さになるでしょう」
僕はクーラーが効いたリビングでぼんやりとニュースを見ていた。たしかに7月でこの暑さはおかしい。「〇〇県で7月としては観測史上最高の気温」というニュースが毎日のように流れる。東京でもいままでの人生で経験したことのないような暑さが続いていた。
「8月、仕事はほどほどにして川で遊ぼう!」とライターのヨッピーさんと盛り上がっていたので「今年の夏は川に浸かってゆっくりと過ごすか〜」と気分は既に夏休み。毎日ゴロゴロ転がって過ごしていた。
そんな楽しい夏休みを夢想していたら突然友人から電話が来た。
そう、電話は突然やってくるのである。恋のように、嵐のように。
友人「5歳さん8月って暇ですか?」
お!夏休みの遊びのお誘いかな?などと思いながら、とってもすごく、たくさん暇であることを伝えた。事実暇なのである。普通の人が見たらびっくりするくらいにスケジュールが空いている。いや、空けてある。こちとら完全に夏を楽しむ臨戦態勢を整えていたからだ。
友人「良かったー!スケジュール空いてるんですね!企画考えたんで記事書いて欲しいんですけど、締め切りがヤバくて!8月いっぱいでどうにかできませんか?」
「あ、失敗したな」と思った。遊ぶ気まんまんで「暇だよ!」と答えたのに仕事の相談とは。もう少し話を詳しく聞くと、その友達は最近、動画編集ソフトで有名なアドビ株式会社に転職したらしい。
Adobe(アドビ)と聞いてピンとこない人も多いと思うのですが、動画編集や画像加工の仕事をしている人は絶対に知っているソフトを開発している世界的な会社なのだ。
そんなAdobeが【Adobe Express】という、素人でも簡単に画像加工なんかが出来ちゃうアプリを開発したらしく、そのアプリを使えば僕のような素人でもポスターも簡単に作れちゃうんですって。そのアプリのPRをしたいとのことでした。せっかくの友人の申し出なので「まあ、やりますけど……」と答えた。夏は遊びたかったけど、まあ仕事で2,3日拘束される程度は仕方ない。
友人「さすが5歳さん!自転車で日本を縦断しながら、お世話になった人にポスターを作ってあげる企画なんです!こんなのできるの5歳さんしかいないですよ!」
「頭がおかしいんじゃないか」と思った。真夏に、しかも8月いっぱい、1ヵ月で日本を縦断するのは流石に無理じゃないか。日本縦断ってだいたい3,000kmくらいある。30日と考えれば自転車で1日100km走る計算になる。しかもポスターを作りながらである。「流石にそれはちょっと……」と言ったところ、
友人「でも5歳さん、ロードバイクなら1日200kmくらい余裕で走れるって前に言ってたじゃないですか!あれウソなんですか?」
いや、ウソじゃないけど、それは相当無理をした場合だし、1日だけならなんとか、というレベルである。しかもポスターまで作らなきゃいけないんでしょう?
友人「あーさすがに5歳さんでも無理かあ!でもそれは仕方ないっすね。じゃあ別の方に……」
この辺でつい口にしてしまっていた。「やったろうやないか」と。ハードルは高い方が燃えるし、単純に自転車で日本を縦断する、というチャレンジは楽しそうでもある。
そんなわけで自転車で日本を縦断しながら、【Adobe Express】のアプリを使ってポスターを作るという、決して誰もやらなさそうな企画が決まったのであった。
来年40歳を迎えるライターが日本を駆け抜けた、30代最後の夏の冒険がここに始まる。
ポスターを作りながら日本縦断3053km
自転車で走破した男の話
〜この記事はAdobe(アドビ)株式会社の提供でお送りいたします〜
2022年8月3日
ライターの5歳です。
暑さ極まる8月のはじめ、僕は鹿児島空港に降り立っていた。
Adobeの友人から電話があったのはつい2週間前の出来事である。ものすごい勢いで準備をした。
幸い8月のスケジュールは川遊びしか入っていなかったので、ヨッピーさんに謝って丸々一ヶ月を空けることができた。
自転車で日本縦断するはめになったことを息子たちに伝えると「え、なにそれかっこいいじゃん」と言っていた。家族の理解を得て出発したわけだが、帰ってきたら夏休みの分はどこか旅行に連れて行く約束をして僕は飛行機に乗り込んだのだ。
着きました。鹿児島空港。
鹿児島に降り立った最初の感想
「めちゃくちゃ暑い!!」
鹿児島に対して涼しさの期待は1mmもしてなかったんですけど、心地よい南国のそよ風くらいは吹いているんじゃないかな〜などと思っていました。なんか田舎って暑いけど気持ちの良い風が吹いてるイメージありませんか?僕にはありました。
しかし全然そんなことなかった。認識が甘すぎた。
鹿児島!しっかり南国!超暑い!
重い荷物を肩に担ぎ、汗だくになりながら空港の周りをウロウロしていると、地元っぽいおじさんが話しかけてきたので「鹿児島は毎年こんなに暑いんですか?」と質問をした。
おじさんは答えた。
「今年の鹿児島の暑さは異常」
どうやら異常な暑さは東京だけではなかったようだ。もしかしたら、僕はとんでもないタイミングで自転車日本縦断をスタートさせてしまったのではないだろうか。不吉な予感が頭をよぎる。しかしここからはもう決して後戻りすることはできない片道切符だ。とにかくスタート地点である本州最南端の佐多岬に向かうしかない。
鹿児島空港からバスで目的地へと向かう。
ちなみに鹿児島県に詳しくない人にはわからないと思うんですけど、佐多岬は鹿児島県民の人でも「佐多岬?めちゃくちゃ遠いよ」とみんな口々に言うくらい地の果てにあるような場所です。
ちなみに鹿児島空港から佐多岬まで124km。
東京駅から熱海くらいの距離。
新大阪駅からだとナガシマスパーランドくらいまでの距離。
とりあえずこの日は佐多岬からいちばん近い鹿屋という街までバスで移動をした。
そしてこれは岬あるあるなんですけど、岬って大体半島とかの先っぽにあるので街が栄えてるわけでもなくて、交通の便も良くない。1日にバスが数本とかなので、行くのがめっちゃ大変なんです。
加えてこの荷物。
自転車&荷物。めちゃくちゃに重い。
空港の、荷物を預けるところで測ったら23kgありました。これに自転車が10kgなので合計30kg以上。担いでいる肩にバッグの紐が食い込みまくる。なぜ僕はこんなに荷物を持ってきてしまったのだろうか。後悔の二文字が頭をよぎる。
鹿児島空港からバスに揺られること85分。今日の宿泊先である鹿児島県鹿屋市のビジネスホテルに着いた。
「これから始まる旅に胸がワクワクが止まらない」という顔をしている。
とりあえず明日も早いので即就寝。自転車旅の朝は早いのである。
朝7時に出発。これから始まる旅路を祝福してくれるような晴れやかな夏空が広がる。朝の涼しい風が吹いている。
まずは鹿屋の市街から鹿児島湾に進み、そこから南下して佐多岬を目指す。小さい町なので5kmも漕ぐと広大な畑の中を突っ切る一本道に出る。THE カントリーロードって感じの道。夏真っ盛りの鹿児島では蝉の大合唱が元気に響き渡っている。
つい2週間前までこんな旅に出るなんて思ってもいなかったな、と不思議な笑いがこみ上げてくる。人生とは何が起こるかわからないものである。
『耳をすませば』のカントリーロードを口ずさみながら、鹿児島の田舎道を自転車で元気よく走り進むと海が見えてきた。鹿児島湾だ。
右手に海を見ながら風を切って進む。鹿児島湾を挟んで対岸には薩摩半島が見え、先の方には薩摩富士と呼ばれている開聞岳が、海から突き出るようにそびえ立っている。
なんて気持ちが良いのだろうか。早起きをして海風を感じながら自転車で走っている。弛みきった体と60兆個の細胞が、だんだん目覚めていくのを感じる。
「おれ!めっちゃ生きてる!」
【自転車旅をしている人が心の底から湧いてくるセリフランキングNo.1】の「おれ!めっちゃ生きてる!」が自然と口から出てしまった。海に向かってそう叫びながら時速25kmで突き進む。
−9:00 鹿児島県錦江町(きんこうちょう)通過
9時をまわると気温はぐんぐん上昇していく。スマホで天気を確認すると今日の最高気温は34℃。すでにかなり暑く感じているのだけど、ここからさらに暑くなるのか。
気温の上昇に伴い、尋常ではない量の汗が吹き出てくる。大げさではなくサウナに入ってる時よりも汗が出る。大粒の汗が全身の毛穴から浮かんでくる。昨今サウナブームで、多くの人が汗をかくことに夢中になっているが、「汗をかく」ということ一点で考えれば、次は自転車ブームがやってくるかもしれない。ゴールに水風呂を用意しておけば完全にととのうはず。(ただし炎天下で20〜30km本気で漕ぐ必要があるので手軽さは一切ない。そこがネック)
そして暑さとともにやってくるのは猛烈な喉の乾き。
「失われた水分を今すぐに摂取せよ」
体からはそんな指令が出されている感じがする。コンビニを見つけるたび小休憩を入れて水分を補給。冷えた水が異常なほどに美味しい。思わず「くぅぅぅぅううう〜!!!!」と心に飼っている川平慈英が顔を出す。
すでに水だけで1.5リットルを完飲。
「水を飲んで、汗を流す」
古来から伝わるデトックス法である。スタイル抜群の美尻筋トレ系インスタグラマーもストーリーズでそんな投稿をしていた。きっとこのペースで水を飲んで汗を流し、デトックスし続けたら北海道につく頃には老廃物が体内から完全消滅し、透明感のある中年になっていることは間違いないだろう。
そんなくだらないことを考えながら南大隈町を通り過ぎた。地図で見る限りここから35km海岸線の山道を延々と漕ぎ続けるようだ。
「気合いを入れていこう!」
こまめに自分に喝を入れるのだが、上昇し続ける気温とともにちゃんと体力が削られていくのを感じる。今回の3,000kmを自転車で走り切るという企画は急遽決まったため、事前の体作りをする時間はなかった。だいたい3,000kmを走るための体ってどうやって作るのか検討もつかない。自分のありのままの体力で今挑んでいるのである。39歳、体力の実力テストである。
海岸線のアップダウンは予想外にキツく全然準備が出来ていない僕の体を容赦なく試し続ける。
【流れる汗、乾いた体。】
いま、ポカリのCMのオーディション受けたら、中年というアドバンテージを考慮したうえでも最終選考くらいまで残れそうな気がする。
さっきコンビニで補充した水とスポーツ飲料を一瞬で飲み尽くしてしまったので、コンビニor自動販売機を探しながら走り続けるも一向に見当たらない。いくら進んでも山と海しか見当たらない。
「おれ!めっちゃ死にかけてる!」
ついさっきまで「おれ、生きてる!」と調子に乗っていたのが「おれ、死にかけてる!」に変わった。生と死は意外とすぐそばにあるのかもしれない。漕げば漕ぐほど体から水分が失われていく。どうやら15km手前にあったコンビニが、最後のコンビニだったらしい。気付いたときにはすでに遅し。僕は知らない間に陸の孤島ゾーンに踏み込んでいたのだ。
北海道に行くと【ここが最後のコンビニ】とか【ここが最後のガソリンスタンド】という看板が親切に教えてくれたりする。北海道だと100km先までコンビニがないのはざらなので自転車で旅をしていると舗装された道路なのに食べ物や水がなくて遭難する可能性があったりする。しかしまさか鹿児島にも同じような空白地帯があるとは完全に油断をしていた。普段200m間隔でコンビニが立ち並んでいるのが当たり前になってしまっている都会人の末路がこれなのか。
「ちょっと待って……いや…………これマジでヤバいぞ」
水のことしか考えられなくなった脳内でアラートが鳴り響く。
「おれ!やっぱり死にかけてる!」
こんな風に書くと「またまた〜ちょっと大げさじゃない?」と思われるかもしれないが、このときの乾きは記憶に残るくらいにやばかった。そもそも喉の乾きって人を狂わせるくらい精神にくるものがあるんですよね。あしたのジョーで力石が減量時に水抜きをして完全に正気を失っていたのを思い出して欲しい。
渇きは人を狂わせる。
かつて山で2回ほど遭難しかけたことがあるのですが、どちらの遭難も水分の確保を怠って水筒が空になってしまい、喉が完全スーパードライのカラカラの状態になりました。一度目のときは我慢できずに水たまりの泥水を飲みました。もちろん衛生的なことを考えたら、水たまりの水なんて絶対に飲んじゃいけないんですけど、喉の乾きの前にはそのような理性は脆く崩れ去ります。ちなみに同じパーティーにいた優等生タイプでいつも理性的な女の子も水たまりを一緒に飲んでました。二度目の遭難ではおしっこを飲みました。飲尿経験者はわかると思いますが、おしっこはこの世で一番苦い飲み物です。
このように喉の乾きに関しては一家言ある僕なのですが、人生で三度目の激しい乾きに今まさに襲われているわけです。
しかし漕げども漕げども一向にコンビニや自動販売機は見当たりません、その代わりにあるのが海岸線の山道です。登って、下って、登って、下っての繰り返し。
水のことしか考えられなくなった僕は意識が朦朧とした状態で漕ぎ続けた。
「初日でちょっとハード過ぎるだろ、むしろ半日も経ってないぞ」
フラフラとしながら1時間30分くらい漕いだところでトンネルが見えてきました。
「もしこのトンネルを越えて街がなければ死」
思考がほぼ停止しかけている脳内で、そんなことをボーッと思いながら、トンネルを下っていくと、突如として街が現れ、Aコープが見えた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!Aコープだぁぁぁあ!!!!!」
おそらく歴史上でAコープを見た人の中でいちばん大きな叫び声だったと思う。大げさではなくこのAコープがなかったら僕はこの原稿を書けていなかったかもしれない。まさに命のAコープである。(Aコープ佐多店さん、そこにあってくれて本当にありがとう)
即座に入店して水を買って一気飲みをする。
「うまい!うまい!うますぎる!」
水ってこんなにうまかったんだ。【世界で一番美味しい飲み物ランキング】はビールが長年不動の1位でしたが、この瞬間「水」に変わりました。水がいちばん美味しいです。
喉の渇きを満たした僕は圧倒的な空腹を感じた。喉の渇きが凶暴すぎて気が付かなかったが、お腹も相当減っていたのだ。すぐにおにぎり4つ、サンドイッチ2つ、メンチカツ2つをむしゃむしゃと食べながら生きる喜びを噛み締めました。
「おれ、めっちゃ生きてる」
さっきとはまた違ったテンションでつい【自転車旅をしている人が心の底から湧いてくるセリフランキングNo.1】がつい口から出てしまう。この数時間で生きていることを実感しまくっている。
身体の回復を確認して再びスタート。さきほどの教訓を生かして、多めに水分とスポーツ飲料を買った。これだけあればバッチリだろ。
気温はさらに上昇する。日の当たる場所に出ると殺人的な暑さである。こまめに水分補給をしながらとにかく進む。
お昼前にようやく佐多岬の入り口に到着する。ここから8km進めば辿り着く。もうひとがんばり。
(※ちなみこの時点で僕はスタート地点に立ててもいないことを補足しておく)
しかし、ここからが地獄のようにきつかった。いままでの海岸線のアップダウンがかわいく見えるくらい、とにかくずっと山道。縦断中にたくさんの自転車で旅をしている人たちに出会ったが、みんな口を揃えて「佐多岬の最後がマジでキツかった」と言っていた。本当に記憶に深く刻み込まれるくらいのハードな登り坂が延々と続く。ほぼ山だ。
そして自分でも本当にバカなのかなと思うんだけど、この山登り8kmの間にまた飲むものがなくなった。2時間ぶり、人生4度目の超絶ハードな喉の渇きを体験。(またさっきのを繰り返し)
それに加えて途中で寒気がしてきて、暑いはずなのに鳥肌が立ちまくっている。完全に熱中症。塩分を摂取しないと危険だとよく聞くので、自分の腕の汗を舐めながら塩分を摂取。
見ている人には本当に注意して欲しいのだけど、水分やミネラルが足りないと熱中症の危険があるし、糖質が失われた状態で運動し続けていると「ハンガーノック」と言われる低血糖で危険な状態になる。
夏の自転車旅で絶対に陥ってはいけない状態を初日でコンプリートしている気がする。
そして命からがら(冗談ではなく)やっと佐多岬にたどり着きました。ぶっちゃけこれ最後の力を振り絞って「キュンです」のポーズをとっています。このあと日陰でしばらく気絶。これが人生最後の写真にならなくてよかった。(夏のサイクリングは体調管理を気をつけようね←)
売店に命の水が売っていたのでがぶ飲み。これが正真正銘の「財宝」だなと思ったよね。ちなみに「きばいやんせ!」とは鹿児島の方言で「頑張って」という意味。このパッケージは僕のために作られたのではないだろうか。
「きばいやんせ!おれ!」
ようやくたどり着いた佐多岬だが、正直体力の残りライフゲージ5くらいしか残ってない。ちなみに僕の中でライフゲージ5は「あと風呂に入って寝る」をギリギリできる残りの体力を示す。ある程度の過酷さは覚悟していたが、正直ここまでしんどいとは思っていなかった。この先が思いやられすぎるな。
しかしそんなことは言ってられない。
気分を切り替えていってみたいと思います。
日本縦断スタートです!
いま来た道を60km戻る
途中にゴールである宗谷岬の看板を発見。ここからあと2,700kmだって。車のナビでも見たことない数字だな。
気を取り直して順調に走っていると「ぷす〜」と後輪から音がした。パンクしちゃったみたいです。しかしこれは自転車旅をしていたら当たり前。細心の注意を払って走行しても小さい針みたいのを踏んじゃうことはあるんですよね。別に落ち込むことはありません。さっさと直せばいいです。
むしろ日が昇っている明るい時間帯だったら「修理もしやすくてラッキー☆」って感じですよ。日が落ちた暗闇の中のパンク修理なんて最悪ですからね。
穴が空いたところを見つけて、ヤスリでこすってしっかりと布で拭く。
接着剤をつけてシールをつければ修理完了です。15分もあればできます。
はい!さっさと進んでいきましょう!
〜1時間後〜
本日二度目のパンク
穴が貫通していたので、チューブを交換することにしました。
修理を終えたらもう日が暮れていました。
「なんか今日はいろいろあった〜」
そんなことを思いながら夕日を眺める。
夕日に照らされる鹿児島湾を左手に眺めながらのんびりと漕ぐ。ライフゲージはとっくに0。体力はとっくのとうに尽きている。なのでこれ以上の速さで漕ぐのは無理。
〜15分後〜
めっちゃすぐ暗くなるじゃん!!
しばらく走行していると、突如として自転車のライトがつかなくなる。バッテリー充電したはずなのになぜだ!しょうがないのでスマホのライトで前を照らしてゆっくりと走る。
〜体力と精神力はここで尽きた〜
「ハアハアハアハア」
暗いし、獣の気配がするし、めっちゃ怖いんですけど!!
「ハアハアハア」
どうしてこうなったんだ。
「ハアハアハア」
どうしてこうなったんだ。
「ハアハアハア」
どうしてこうなったんだ!!!!!!!
暗闇と獣の気配に怯えながら、ノロノロと山道を走る。
街灯も無ければ人家もない。走る車さえいない。進む先にあるのは完全なる闇。
次の街までは20km。そこまでは、この恐怖に耐えるしかない。
あまりにも過酷な旅のはじまりである。
そしてこれは信じられないことに初日なんです。
初日でこれって神様ちょっと試練与え過ぎじゃない???!!!折れちゃうよ?そろそろ俺、折れちゃうよ?
「この旅であと何回こんなことがあるんだろうか」
そんなことを考えながら一時間ほど走っていたら街の明かりが遠くに見えてきた。街灯を見つけてこんなにホッとしたことは今までの人生でなかったように思う。
最後の力を振り絞って鹿屋のホテルに辿り着いたのは21時。朝の7時に出発をしたので14時間におよぶ長い1日だった。フロントで鍵を受け取りにいくと初老の男性スタッフの方が「お客様、大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。よほど僕の姿がボロボロに見えたのだろう。今日のことを話すと「それは大変でしたね、今夜はゆっくり休んでください」と労いの言葉を掛けてくれた。疲れ切った体に人の優しさが染みる。
しかし!
僕の1日はここでは終わらない
僕には果たすべき大きな使命がある。
【Adobe Express】を使ってポスター制作をしなくてはいけないのだ!!!
冒頭にも書きましたが、今回は【自転車で日本縦断しながらお世話になった人にポスターを作る】という企画なのです。記念すべき初日にポスターを制作しないなんてありえません。そして僕は一日中探していたんですよ!ポスターを作るチャンスを!そしてしっかり見つけました。
これだ!!!!!!!!
宿泊しているホテルのエレベーターホールにあったの自動販売機にの故障中の張り紙を発見です。しかも「『フロントにて販売しております」』の部分が手書きで付け加えられている!
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!
善は急げ、さっそくポスター制作に取り掛かる。
こちらがポスター制作のために持ってきたプリンターとラミネーターです。普通の自転車旅では絶対に必要ないものなのでみなさんは真似しないでください。すごく重いです。
さっそくデザインを決めるところから始めます。
今回の企画のためにAdobe Expressのプロフェッショナルの方からレクチャーを受けたので完璧に使いこなすことができます。
まずはテンプレートから探していきます。膨大な量のテンプレートが用意されているので、作りたいテーマに合わせて検索をする。
すぐにかわいいお酒のイラストが入ったテンプレートが見つかったので、これを編集していく。
〜20分後〜
編集完了
プリントアウト
ラミネートして完成
作業時間約30分
【Adobe Express】を使えば炎天下の中120km自転車を漕いでボロボロになった体でもめっちゃ簡単にポスター制作ができることが本日実証されました。(全身全霊でPRをするライターこと俺)
さっそくホテルのフロントに行く。先ほど程対応してくれた優しい初老男性スタッフの方が出てきてくれた。「差し出がましい申し出なのですが……」と前置きをしたうえ上で、今回の企画の趣旨を説明してポスターをお渡しすると「ありがとうございます!明日さっそく明日貼らさせていただきますね!」と受け取ってくれた。
ボロボロでチェックインしたかと思えば、すぐに戻ってきてポスターを渡してくる完全なる謎客になっていたのは間違いないだろうが、とりあえず受け取ってもらえて良かった。本当に使われているかどうか、誰か確認しに行ってください。使われてなかったら泣く。
ミッションコンプリート!!
こうして僕の長い長い一日は終わったのであった。布団に入ると3秒で気絶するように眠った。
【2日目】鹿屋市〜鹿児島市内 60km
そして翌朝。大きな決断をすることにした。
荷物を減らそう。
昨日1日走ってみて、「このままでは北海道まで辿り着けない」と確信した。
キャンプ泊もできるように、はりきってテントや寝袋をはりきって一式揃えて持ってきたが、とにかく重すぎる。総重量23kgを自転車にくくりつけて走っていたら8月中の完走に着くことは絶対にできない。ちなみにこの企画は8月中に日本縦断を終えて、速攻で記事を納品しなければならないというタイムリミットがある。
出る前は「なんとかなるっしょ」くらいのお気軽なテンションだったが、昨日過酷な一日を過ごしてみてこれは結構ヤバい企画かもしれないと思ったのだ。(気がつくのが遅い)
2日目は火山で有名な桜島を通って鹿児島市内まで行く。60kmほどの道のりなので今日は楽そうだ。
実は、東京の友達から「鹿児島でオフ会のイベントをやるから来ない?」と誘われたのである。僕は誘われたら絶対に断らないタイプの人間なので「必ず行きます」と返信して鹿児島市内を目指すことにしたのだ。あと、イベントとなればポスターを作らせてくれるかもしれない。この旅は北海道を目指しながら、同時にポスターを作れる場所を探す旅でもあるのだ。ポスターを作るために鹿児島市内を目指す。
そんな意気込みで朝7時出発。天気は大快晴。爽やかで気持ちの良いこの青空も、太陽が昇れば再び僕に牙を向くのだろう。
今日も涼しいのは最初の少しだけで、30分もすると大粒の汗が吹き出てきた。水とスポーツ飲料を交互に飲みながら、塩レモンタブレットを摂取。
ノーモア熱中症。ノーモア渇き。
幸いにも、昨日のような山道ではないし、ちゃんとコンビニもあるので涼みながら適度に休憩を取る。マジで自転車旅をする者にとってコンビニはオアシスのような存在なのである。
しばらく鹿児島湾を左手に見ながら走っていくと前方に大きな山が見えてきた。
桜島だ!デカい!
数日前に割と大きめの噴火があったとニュースでやっていたが、黒煙がモクモクと上がっている。桜島に近づくと「え?これ本当に大丈夫なの?」と思うくらいに絶賛噴火中って感じで火山灰が降り注いでいる。引き返すわけにもいかないので突き進んでいくのだが、どんどんと火山灰がひどくなっていく。
桜島は東側が陸続きになっているので、そのまま上陸。風向きの関係かもしれないけどサングラスをしているにも関わらず、マジで目が痛くて開けていられない。特に通行止めの標識が出ているわけでもないので、これは桜島では通常運転ということなのだろう。
ようやく火山灰から抜け出した。さっきまでの灰色の空が嘘みたいに青い空が広がっている。
10km走るとフェリー乗り場についた。太陽はすでにギラついていて汗と灰にまみれた僕はこのままフェリーの客室に入っていいのだろうかと迷うくらいにグチョグチョに汚れていた。
自転車に乗った乗客は車が乗船する入り口で待機しなければならない。ススに汚れた僕はうだる暑さの中、ボーッとしながら待っていたのだが、そんな僕を見て心配そうに交通整理のおばちゃんが喋りかけてきてくれた。
「自転車大変でしょ?今年の鹿児島の暑さは異常だからね〜」
あれ?デジャブ?どこかで似たようなセリフを聞いた気がする。
フェリーに乗るとこの世の天国かと思うくらいに涼しかった。自動販売機で冷えたカルピスを買って一気飲みをする。このカルピス、間違いなく世界でいちばん美味しい飲み物だ。異論は認めない。
15分、天国の船旅はあっという間に終わり、鹿児島港に到着。
でもここまで来ればゴールしたも同然である。下船したら速攻でホテルに向かいチェックイン。早くシャワーを浴びたい。そのことしか考えられない。ユニットバスで体を洗うと足元には引くくらい真っ黒なお湯が流れていた。火山灰恐るべし。鹿児島では外に洗濯物を干せないと聞いたことがあるが、この流れ落ちた黒いお湯を見れば納得である。
体を流して綺麗になった。この日は鹿児島県の長島で食堂を営んでいる長年の友人、料理人のカイくんが市内に来ているので会うことに。
【お仕事の時間です】
その前にホテルに呼び出す。
僕「ねえ、食堂のポスター作らせてくれない?」
カイくん「いいっすよ」
話が早くて助かる。やはり持つべきものは友である。
カイくん「この企画って一応仕事なんですよね?」
僕「うん、そうだよ」
カイくん「世の中には色んな仕事があるんですね」
たしかにそうだよな。自転車で日本を横断しながらポスターを作りながらPRする仕事って聞いたことがない。
「ってかなんか良くない?」
そんな会話をしながらできあがったのはこちら。食堂の開店中を知らせるポスター。なかなかかわいポスターができた。カイくんも「いいっすね!」と言っていた。これで2日目もミッションコンプリート。
その後はカイくんと夜の鹿児島を楽しむ。
ポスターも作ったし、ご飯は美味しいし、鹿児島はとにかく最高である。
昨日のツラかったことなどスッカリ忘れて観光を楽しみながら、こんな時間がずっと続けばいいのになと強く思う。
【3日目】鹿児島に停泊
この日は友人が夕方からイベントをするので、市内にとどまることに。新しい自転車用のライトやパンクの修理セットを補充して、旅に必要なものの買い出しもする。
こちらは今回の旅でベストバイだった空気入れ。二酸化炭素のボンベになってて一瞬で空気を入れられるんだけど、自転車旅をする人は絶対に買ったほうがいい。パンク時の空気入れが2秒で終わります。マジ最高。
買い出しが終わったら、イベント用のポスター作り。
【お仕事の時間です!!】
〜20分後〜
てかこのポスターめちゃくちゃかわくないか?ポスター職人歴3日目で圧倒的な成長を感じる。作ったポスターを自画自賛しながら、さっそくイベント会場へと向かう。
人気酒飲みYouTube【なおたか酒場】のなおたかさんと、料理家であり呑んべえでもある魔女っこれいさん。
ポスター持って行ったらめっちゃ喜んでくれた。
【4日目】鹿児島市内〜鹿児島県長島町 108km
昨晩の酒飲みイベントは大いに盛り上がった。そして今日から魔女っこれいさんたち御一行は長島に遊びに行くという。「5歳さんも一緒に行こうよ!」と猛烈に誘われた。
いや行けるわけないでしょ。
旅はまだ始まったばかり。スタート地点からまだ200kmも進んでいない。北海道宗谷岬まで約2,800kmでタイムリミットはあと24日。毎日120km進んでやっとゴールできる計算だ。
きっと途中でハプニングもあるだろうから、スケジュール的にはかなりギリギリな気がする。
友人「えーなんで来ないんですか。せっかく鹿児島まで来てるのに。そんなノリ悪い人でしたっけ?」
だから僕は自転車で日本を縦断しなきゃいけないんですって。
友人「そんなのあとから巻き返せば良いじゃないですか。何をビビってるんですか」
「ほな行ったろうやないか」煽られた僕はつい口にしてしまっていたのでした。
50kmの遠回り!マジかよ!!
そうと決まれば早起きして出発。今日も最高に快晴。憎らしいくらいの青空だぜ!!
さて今日の鹿児島の気温は34℃。相変わらずの暑さである。蝉が元気よく鳴いている。日陰はほとんどない。4リットルの水とスポーツ飲料はあっという間になくなった。
さて、ここでこの記事を読み進めていくうえでの注意点というか、心構えに関して念を押しておきたいことがひとつあります。
またここから僕が自転車で走るシーンがえぐいレベルで続きます。
殺人級の暑さのなか、ヒーヒー言いながら汗をかき、ときには喉が渇いて干からびそうになり、限界突破をしながらとにかく自転車を漕ぎ続けるのです。
今、これを読んでいる読者の皆さんはきっと空調の効いた部屋のソファーベットで横になりながら、この文章をサラッとスクロールしていることでしょう。なのでもう一度!もう一度念を押させていただきます。
34℃です。34℃!
34℃
34℃
34℃
34℃
!!!
かなりの暑さだよ!
外に出るの躊躇する暑さだよ!!
外でソフトクリームを持ってたら一瞬で溶けてしまう、あの感じをイメージして欲しい。イメージし続けながら読んで欲しい。
というか、僕はジリジリと焦げつくアスファルトの上を漕ぎながら毎分思っていた。
真夏のこんな企画にGOサインを出したヤツは誰だ!!!!!!!
「………………」
俺だ!
俺だ!!
俺だ!!!
全力で暑さアピールしてごめんなさい!結局全部僕のせいでした!
暑いとか文句言わずに楽しめ!
いま!この瞬間を!魂を燃やせ!!
とにかく前見て自転車漕げ!!
菅野康太!!
(※僕の本名です)
皆様におかれましては、筆者がそんな過酷な状況に置かれていることを片時も忘れることなく応援しながら読んでもらいたいです。
ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
108kmを漕ぎきって長島に到着したのは17時のことでした。
今日もなんとか無事にゴール。よし!飲むぞ!遊ぶぞ!
「はぁ〜!鹿児島って最高に楽しいな〜!」
はぁ〜毎日こんな生活したいよ〜
「5歳さんがまたゾンビのマネしてるよWWW」
「5歳さんがまた変なポーズしてるwww」
ハハハア〜www
(こだまするみんなの笑い声)
このまま鹿児島に住んじゃおっかな〜www
テッテケテッテケテッテテッテテッテテ〜♪
テッテケテッテケテッテテッテテッテテ〜♪
テッテケテッテケテッテテッテテッテテ〜♪
テッテケテッテケテッテテッテテッテテ〜♪
テッテケテッテケテッテテッテテッテテ〜♪
(iPhoneの着信音)
僕「はい、もしもし〜」
Adobe友人「5歳さん!まだ鹿児島いるんですか??」
僕「はい、そうですけども?」
Adobe友人「き!か!く!企画忘れてませんか?!」
………………
…………
!!!!!
僕「今日は何日!?」
Adobe友人「8月9日です!もう鹿児島に着いて一週間経っちゃいますよ!!!!」
完全に竜宮城で遊んでいた浦島太郎になっていました。(ちなみに諸説あるけど、浦島太郎は鹿児島が発祥の地という説もある)
楽しさに身を任せて本来の目的を完全に忘れていました。
僕「ヤバいじゃん!!」
Adobe友人「いますぐ鹿児島から脱出してください!」
僕はすぐに荷造りを始めた。
【7日目】鹿児島県長島〜熊本市内132km
朝5時に出発。本当の意味で目が覚めた。旅スケジュールの全行程の1/4を鹿児島で過ごしてしまった。信じられないことにまだ1県目である。
ここから僕は本気モードになる。
鹿児島脱出
この日は友人のカイくんが一緒に同行してくれたんだけど
この顔です。途中で死にそうになってました。
比較対象するものがなかったので、いまいちすごさが伝わっていなかったかもしれませんが、僕の有り余る体力と持久力、総合的なフィジカル力が証明された瞬間です。(カイくんはまだ29歳の若者)
出発前は「5歳さん、僕に着いてこれますかね?」なんて余裕かまして言ってたんですけど、このありさまです。
しかし気合いでゴール。
ゴールの湯らっくすでは8年来のツイッターフレンズが仕事をさぼって待っててくれた。
「顔バレしたら終わっちゃうんで」と言っていたので、スタンプと厳重なモザイクで隠します。ってか各地でフォロワーさんが応援に駆けつけてくれるのめっちゃ嬉しいな!僕は自分のことをとっくに旬の過ぎた枯れたインフルエンサーだと思っていたんだけど、まだまだイケるかもな!!!!来てくれてありがとう!!!
【8日目】熊本〜下関 207km
深夜1時に出発。湯らっくすで完全に体力回復。日本随一のサウナと言われているだけある。3時間の仮眠で3日間休んだくらいの効果がある。
僕の勢いは止まらない。
朝8時、博多到着。みんなが寝ている間に120km走ってました。まさに朝飯前です。
「博多なう」とツイートしたら相互フォローの男の子が僕を探しに来てくれた。
「博多だったら絶対にWELLBEにくると思ったんで待ち構えてました!」
めちゃくちゃ勘が良くて笑っちゃった。ちなみにWELLBEは全国展開している最高のサウナです。汗を流してサッパリしたところで、これからフォロワーさんとオフ会です。
長年僕のTwitterを追っかけてくれていたフォロワーさん。僕の7年前のツイートとかも覚えているくらいのガチファンで感動しました。ガチファンっているんですね!ウェルカムパーティーin博多を開いてくれるというので僕はポスター制作担当をしました。
自分で作ったポスターに自分でサインをしてるんだけど、めちゃくちゃ喜んでもらえた。ポスター作って良かった。博多でのオフ会は最高に盛り上がった。
深夜1時から自転車を漕ぎ、サウナに入り、朝からオフ会をして、ポスターも作る。完全にシゴデキである。
よし!出発!(切り替えの速さ)
九州脱出までもう少し!
門司港到着
関門橋なう。海の向こうは山口県。
関門トンネル人道という海底を通るトンネルで山口に渡る。
ついに九州脱出!!!
走ってしまえばあっという間だったけど、本当に長い道のりでした。まあ僕が竜宮城に迷い込んで遊びまくったのがいちばんの要因なんですけど、タイムリミットは刻一刻と迫っている。
ネクストゴールは大阪。
ここから果てしなく長い山陽超えが僕を待っている。
第1幕
夢幻九州編 完
鹿児島県佐多岬〜福岡県関門橋 走行距離622km
獲得標高4,422m
第2幕
山陽激走編
〜果てしなき大阪への道のり〜
【9日目】山口県下関〜山口県岩国 148km
いよいよ中国地方へ上陸したわけですが、ここから大阪へと続く2号線をとにかく東に進んでいきます。自転車用のナビを見てみると距離は大体530km。
文章もガンガン飛ばしていきます!着いてきてください!
では行きます!
壇ノ浦
山口県岩国
食のデ◯ズニーランド
いろり山賊
岩国錦帯橋(めちゃ綺麗)
【10日目】山口県岩国〜広島 44km
プリンターとの別れ。この旅に、お前は少し重すぎた。
だってコンビニでもポスタープリントできるんだもん!
襲いかかる左手の激痛
鍼治療でなんとか治まった
お世話になった治療院の案内ポスターが少し古くなっていたので、「もしよろしければ……」と新しいのを作ってお渡ししました。マジで左手の感覚が麻痺していたので、ここで治療を受けなかったらやばかったと思う。
あんまり書かなかったけど連日の走行で明らかに疲労が蓄積していました。
・左手の激痛(ちょっと麻痺してる感じ)
・両脇腹の経験したことのない痛み。ペダルを漕ぐたび「ピキピキ」っていう。
・尻の痛み(1日走行100km超えるとサドルに座ることができなくなる)
・夕方になると太腿が痙攣してくる
あと毎日筋肉痛。僕は弱音を吐かない漢なので、黙々と自転車を漕ぎ続けていましたが、相当体に負荷がかかっているのは間違いないです。
適度に体を休ませるのも大切なので広島で休憩。
広島ではなぜかフォロワーさんの高校の同窓会に参加することになりました。最後はみんなで肩を組んで安室奈美恵の『SWEET 19 BLUES』を大合唱してめっちゃ楽しかった。初めて会う人たちとの同窓会だったんだけど、あるはずのない彼らと過ごした青春の記憶が呼び起こされました。
【11日目】 広島〜尾道(しまなみ海道)〜福山 133km
今日は日本のサイクリストの聖地である尾道の「しまなみ海道」に寄り道をすることにしました。
しまなみ海道は日本ではじめて海峡を横断できる自転車道として整備されたサイクリングロードで、世界7大サイクリングロードとしても知られています。瀬戸内海の6つの島を結ぶ海道は全長60kmに渡り、潮風に吹かれながら眺める島々の様子は絶景だと聞きます。
行くしかない。
尾道駅に到着。駅の周りには全国から来たサイクリストがマジでたくさんいる。九州から山陽地方に入って、海岸沿いを走るサイクリストをよく見かけるようになったが、尾道周辺は段違いに多い。日本の自転車乗りは全員尾道を目指している気がしてくる。
尾道駅の目の前にはフェリー乗り場がある。乗船すると10分で向島に着く。
ここからは写真を見て感じてください。
ずっとこの風景が続きます。
走っていてほんとーーーーーーーに気持ちが良い。ロードバイクに乗っている人も多かったけど、レンタルサイクルで家族や友達と来てる人たちもたくさんいました。坂道もそこまで急勾配ではないので、普段本格的に自転車に乗っていない人でも楽しめるサイクリングコースです。
あまりの良さに一週間くらい、会う人全員に「しまなみ海道に行ってください!」と宣伝しまくっていた。ちなみに僕は来年息子たちを連れて行く予定です。
さあ!みんなでしまなみ海道へ自転車を漕ぎに行こう!!!
わざわざ広島まで行く価値があります!!!!
今回は向島〜因島の往復20kmを走ったんですけど次回は愛媛まで走破したい。ってか絶対にやる。
【12日目】 広島県福山〜兵庫県網干 不徹寺 137km
「進む」と決めてから順調に大阪に近づいている。このまま走ればあと2日くらいで大阪に着きそうだ。
今日は高校の後輩が兵庫のお寺にいるというので立ち寄ることにした。
15年ぶりに再会した後輩。お寺のSNSの広報担当になってたんだけど、「テラ(寺)ノサウルスっていうんです」と言いながらコスチュームを着ていた。自転車で日本を縦断する仕事もあれば、寺ノサウルスになってお寺の宣伝をする仕事もある。
高校を卒業して20年さまざまな人生模様を感じさせる。
お寺の名前は「不徹寺」といって全国で唯一の女性のみが受け継いだ尼僧庵。本来、男性は泊まれないのですが、「就寝時に鉄のパンツを履く」という条件で宿泊させていただくことになりました。(これは尼寺ギャグらしいです)
上座に座らせてもらったのだけど、ここに座った人は質問役になります。例えば今日の掛け軸は誰が書いて、どのような意味があるのか、みたいな質問です。お茶の作法は全然詳しくないけど、知らないことがたくさんあって面白かった。
庵主さんのお人柄、お寺に集まっている人たちも含め、みなさん面白い方が多くて居心地が良く、座禅で精神がシャキっとしました。兵庫の近くで仕事、家事、子育て、旦那がイヤになったら是非「不徹寺」でプチ出家してみてください。
【13日目】 兵庫県網干〜神戸市塩屋〜大阪 105km
自転車を漕ぎながら僕は人生を振り返っていた。
今年39歳になり、来年には40という区切りの歳を迎える。
「四十にして惑わず」と孔子は言ったが、旅に出る前は今後の人生をどう生きていいのかすごく迷っていた。本来は楽天家で、ポジティブが服を着て歩いていると言っても過言ではなかったんですが、自分でも「どうした?」って思うくらい食欲がなくなり、挙句の果てには不眠症になったりして、「惑わず」どころか、どんどん沼にハマっていくような感覚に襲われていました。
細かい悩みの種はたくさんあって、それらが集合体になって襲いかかってくるような感覚。「漠然とした未来に対する不安」と言ってしまうと掴みどころのない話になってしまうのだけど、自分の心が揺らぐのを感じながら眠れぬ夜を何ヶ月も過ごしていたのだった。
、
Adobe友人から「日本を縦断してください」と電話がかかってきたときは、実は運命的なものさえ感じていたのだ。
「何かが変わるきっかけになるかもしれない。」
膨れ上がった悩みや不安が自転車を漕ぐだけですっかり無くなるとは思っていなかったけど、なにか少しのきっかけで良い方向へと流れが変えられるかもしれない。という希望のようなものを友人からの電話に感じたのである。
日本一周をしていた時の僕
運命といえばこれも偶然なんだけど、僕はちょうど20年前の19歳のときにママチャリで日本一周の旅をしていた。あの頃の僕は自分の中に爆発しそうなくらいのエネルギーを抱えて「とにかく全力で何かをやりたい!」と生命力を漲らせていた。そのエネルギーをペダルを漕ぐ力に変えて、日本中を周り、好奇心と冒険心を満たしたのだった。
今回「自転車で日本縦断をしながらポスターを作る」という企画が持ち上がった時に、仕事をしながら自分の人生を振り返ることができる絶好の機会だと感じた。
20年前の僕は燃え上がる好奇心を原動力に旅に出た。そして、その20年後、これからどう生きていくのか、その答えを探す自転車での旅に出る。
旅に出てからは連日炎天下のなか自転車を漕ぐことに一生懸命だったし、様々なトラブルを乗り越えることに忙しかった。他のことを考えている余裕がなかったとも言える。体力的な意味で言えばまさに完全燃焼の日々を過ごしていたんだけど、長らく忘れていた食欲が完全に呼び起こされた。毎日食べるご飯がとにかく美味しい。特に晩御飯はまさしく五臓六腑に染み渡る美味しさだった。不眠症も完全に治った。体力を使い果たしているので布団に入っておやすみ3秒。肉体を追い込むことによって本来備わっている生命力が湧き上がってくるように感じた。
あと僕にとってすごくよかったのが、いろんな人に会って話すということだった。僕が自転車で旅をしているのを知って「会いましょう!」とメッセージをくれる人がたくさんいたので、遠回りだとしてもなるべく会いにいくようにした。
この日も大阪へと続く国道2号線を走っていると、フォロワーさんが差し入れを持ってご家族で応援に来てくれた。旦那さんとはずっと前から付き合いがあったんだけど、初対面の奥様に「5歳さんめっちゃかっこいいです!」と、すごくストレートに褒めてもらいすごく嬉しかった。
僕は自転車をただ漕いでるだけなんだけど、「かっこいいです!」とか「すごいですよね!」と会う人みんなに褒められて、すごく単純なんだけど元気になった。
人生の悩みが根本的に消えたわけではないとは思うんだけど、精神的な悩みがあるとき、一旦考えるのをやめて、体を思いっきり動かしてみることが良いのかもしれない。健全な精神は健やかな体に宿るというが、肉体と精神はきっとバランスを取り合う両輪のようなものなのだ。
鹿児島から大阪までの道のりでいろんな人と出会い、いろんなことを経験して、ずっと晴れなかった心のモヤモヤが少しずつだけどクリアになっていくのを感じている。
そしてついにネクストゴールであった大阪に到着。
山口〜広島〜兵庫〜大阪 525km走破!
第3幕
雨と涙の北陸東北編
〜自転車との別れ〜
大阪〜奈良〜京都〜滋賀〜福井〜富山〜新潟〜山形〜秋田〜青森 1,016km
【14日目】大阪〜奈良〜京都 56km
大阪から北陸に向けて出発する日の朝、関西北陸地方には大雨洪水警報が出ていた。しかし雨だからといって歩みを止めることはない。自転車が盗まれでもしない限りとにかく漕ぎ続けるのである。というかスケジュールを考えると1日たりとも無駄にはできない状況なのである。
ちなみにカッパなどの雨具は持ってきていない。なぜならどっちみち汗をかいてビショビショになるからである。雨で濡れるか、汗で濡れるかの違いだけで結果には変わりがない。なので大雨洪水の予報が出ていても突き進む。むしろ暑さで熱中症になるよりも雨でクールダウンができて助かる。
気持ちを前向きにしていざ出発。
まずは奈良で、うつわ屋さんを営む友人の下へと向かう。以前、東京で開かれていたライター講座を一緒に受講していた友人なのだが、実に4年ぶりの再会である。
友人のきょうこさん。3年前に奈良に移住して【暮らしとうつわのお店 草々】をオープンさせた。ずっと来たいと思っていたので念願の来店が叶った。
きょうこさんは「しみじみ」と「ほのぼの」という言葉がぴったりな人だ。4年ぶりに会うきょうこさんは奈良でうつわ屋さんをしながらやっぱり「しみじみほのぼの」していた。
周りに安心感を与えられる人にはいろんなタイプがいるけど、この「しみじみほのぼの」が僕は最強なんじゃないかと思っている。天然物って感じもするし。
憧れはするものの、僕はまったくちがうタイプの人間なので、 きょうこさんみたいな人から「しみじみほのぼの」を摂取させていただく。
気になる器を片っ端から爆買する(まず買い方が「しみじみ」としていない)
きょうこさんは「そんなに買ってくれるんですか〜」とほのぼのとした接客をしていました。
あと僕に内緒で奈良に住むライター講座の同期が二人も来てくれた。(もう一人は仕事をサボってきてくれたので写真には写ってない)
同窓会のようにお互いの近況を報告し合う。あの頃はみんな東京に住んでいたけど、ここに集まっている友人たちは東京を離れて、奈良で頑張っている。僕がライター講座を受講したのは35歳のときだったけど、大人になってからできる友達は学生の頃とはまた違う面白さがある。
ずっと話していたかったけど、先へと進む。旅は出会いと別れ。また会おう。
ちなみに土砂降り!!
【15日目】京都〜琵琶湖〜福井県越前市 134km
今日も天気は大雨の予報。北陸方面は土砂災害警報&通行止めの情報もある。
琵琶湖沿いを駆け上がり
土砂崩れで通行止めになった県道を15km戻ったりしながら夕方に敦賀湾にたどり着き
毎度おなじみ夜の国道サイクリング。泣きそうになりながら突き進む。
「雨に濡れてもへっちゃらだぜ!」と強がってましたが人間は「濡れて」「腹が減って」「暗くなる」とメンタルがゴリゴリに削られます。この三拍子が揃いそうになったら全速力でなんとしても回避してください。危険です!
【16日目】福井県越前市〜富山県高岡 142km
連日の大雨洪水警報も一旦収まって、僕はさらに北上をしていた。
3時に金沢駅に着き、さらに北を目指し高岡まで自転車を進めた。
天候には恵まれていなかったが、順調に進んでいる。明日はようやく全行程の半分である1,500kmに達する。相変わらずタイトなスケジュールには変わりないが、このまま進むことができれば、自転車が盗まれでもしない限り無事に北海道に辿り着けそうだ。
今日の目的地である高岡市内まで残り3kmのところで自転車がパンク。
もうこの旅で何回もパンク修理はしてきましたので、お手の物です。サクッと直して「よっしゃ!進むぞ!」と漕ぎ出すと何故かまたプシュー」っと音を立てて空気が抜けてしまう。「あれれ?おかしいぞ?」とまた直すんだけど、空気を入れるとまた同じ。プシューっと抜けてしまう。そんなことを3回くらい繰り返したのち、多分これタイヤにめちゃくちゃ小さい針みたいのが刺さってるんじゃないかと気がついて、目を凝らして入念にチェックしてみたんですが、夜ということもあってマジで見えない。
諦めも肝心。
ここは一旦諦めて、自転車を押してホテルまで行こうと歩きだしました。3kmなら歩けないこともない。「自転車屋があればな~」と思いながらトボトボ100mくらい歩くとすぐに自転車屋さんを発見しました。
「めっちゃあるううううううううう!!!」
どうやら自転車屋さんのすぐ近くでパンク修理に悪戦苦闘していたみたいです。
「早く気付いていればよかった〜!!」と地団駄を踏んだのですが、自転車屋さんはもう閉店していたので、とりあえず自転車屋さんの看板の鉄柱にワイヤー錠で括り付けおく(これは地球ロックといって地面に固定されているものと一緒にロックすると持ち去られない)明日の朝イチで戻ってきて修理をしてもらうことにした。
ホテルに着いたら、夜の街へと繰り出す。富山はとにかく料理が美味しい。富山湾の新鮮な魚介類は僕の胃袋を震わすほどに喜ばせた。
富山最高!!ビールも旨い!!
これこそが自転車旅の醍醐味である。道中、大変なことやトラブルも多いがそれを乗り越えながら、自分の足で突き進む。当然ご飯がめちゃくちゃ美味しく感じる。大体の計算ではあるが1日ずーっと自転車を漕ぐと5,000カロリーというとんでもないカロリーを消費するのである。美味しいという表現ではまだ足りない、全身の60兆個の細胞が震えて喜ぶのである。
どんな過酷な状況でも夜宴の前準備だと思えばなんてことはない。
「今日も大変だったけど楽しかったな〜」
鹿児島からのトータル走行距離は1,500kmを今日越えた。日本縦断、ようやく半分までこれた。
自転車さえあれば!どこまでも行ける!
自転車さえあれば!僕は自由に羽ばたくことができる!
自転車旅最高!ビバ自転車!!!
富山の料理とお酒に気分を良くした僕は旅の前半戦を振り返りながらこんなことを思っていたのであった。
(読者のみなさんもよくここまで読み進めてくれました。あと半分ですよ!!ファイトです!)
僕の旅もいよいよ後半戦である。がんばるぞい!!
【17日目】
北陸の大気の状態がとても不安定である。朝の天気予報をみるとまたしても大雨洪水警報が出ている。
「今日もちょっと大変そうだな〜」
自転車屋さんに向かうためにホテルからタクシーに乗る。窓から外を眺めると大粒の雨が降り注いでいる。晴れる様子が一切ない、ドンヨリとした空を見上げてそんなことを思っていた。パパっと修理をお願いして出発しないと。
ない
ないぞ
俺の自転車がないぞ
自転車屋さんは開店していたので一縷の望みをかけて店長さんに聞いてみる。
「昨日の夜、修理してもらおうと思って、ここの柱に自転車を繋いでおいたんですが知りませんか?」
「朝、来たときにはなんにもなかったですね〜」
状況が素直に飲み込めず、力なく周辺をウロウロと探索してみる。
雨の勢いは増すばかりである。僕はだんだんと現実を受け入れ始めた。
チャリ、盗まれたっぽい。
しばし、絶望。
こんなことってあるのだろうか。
僕も過去に何回か自転車を盗まれたことはあります。みなさんも同じ経験はあるかと思います。
でも日本縦断中に、しかも富山で、盗まれることってあります???
自転車屋の店長さんも「ここらへんで盗まれることってあんまり聞かないんですよね〜」と首を傾げる。
しかしこの現実を受け入れるしかない。でも今だけは落ち込ませて欲しい。
〜5分間の絶望〜
よし!まずは新しい自転車を探すぞ!
(持ち前の切り替えの速さ)
店長さんに自転車を購入したい旨を伝えると、あいにく僕の体のサイズに合う自転車の在庫が切れているとのこと。街の方の自転車屋さんに連絡を取ってくれて、車で連れて行ってくれた。(本当に感謝してもしきれない)
〜2時間後〜
NEWチャリゲット!!!!
この一連の流れなんですが、マジで僕はラッキーボーイでした。
まず、旅仕様の自転車にしようと思ったときに、必要な装備の在庫が店舗にない場合が多いんです。自転車に合った荷台なんかは、取り寄せで一週間かかることもあるんですよね。今回の旅では出発前の準備で道具を揃えるのに結構時間がかかったので、まさか2時間で再出発できるとは思いませんでした。
整備室にあった日めくりカレンダが目に留まる
自転車を失ったことはかなりの不幸な出来事だったけど、気の毒に思ってくれた自転車屋の店長さんが、在庫のある自転車屋さんを紹介してくれて、そこにピッタリの自転車があって、装備も全部揃って2時間で再出発できるって、自分は相当運がいい。
そう思わないとやってられない!
M-2さん!!そして紹介してくれてここまで車で連れてきてくれたURBAN BIKES VELOAの皆さん本当にありがとうございました!
再出発
富山県に大雨洪水警報発令
水槽の中で泳いでるのかと思った
「神は耐えられない試練を与えない」と聞くが、それは生き残った人の生存バイアスだということを今日、身を持って知った。
チャリをパクられた人に対して大雨降らす??
人間が耐えられなさそうな試練も神は気まぐれで与える。オーバーキルのやつね。
しかし僕は負けない。気合いで今日のゴールである富山県朝日町に到着。
富山県高岡市〜富山県朝日町 64km走破
【18日目】富山県朝日町〜新潟県上越市 74km
昨晩は朝日町に住むライターのなつめさんの家に泊まらせていただいた。色々なことがあり過ぎて疲れ切っていたので午前中はゆっくりとさせてもらった。
これは予言なんですが富山県朝日町、近い将来めちゃくちゃ注目を浴びる地方になると思う。環境がマジで良い。
さてさて昨日自転車を盗まれてしまったわけですが、そのことを投稿したら……
めっちゃバズった
「チャリ、盗まれてみるもんだな~」そんなことを1日中考えながら漕いでいたら新潟県上越市に到着。
18時に到着。良さげなスーパー銭湯があったので少し仮眠を取って夜中に出ることにする。
【19日目】新潟県上越〜新潟県村上 180km
0時に出発。深夜のサイクリングは涼しくて最高だ。
これは早朝4:30にパンクを修理している様子です。なんかどんどんたくましくなっている気がする。何が起こってもすべてをすぐに受け入れて、淡々と対応する。全ては偶然ではなく必然なのである。パンクでさえも。
雄大な日本海から吹かれてくる海風を、その体いっぱいに浴びていた。
爆弾低気圧が去ったあとの空は雲ひとつなく、青々としていた。
【20日目】新潟県村上市〜山形〜秋田市 203km
ここから僕の自転車はさらに加速する。今回の企画の原稿締切日を逆算すると明日までには本州を脱出して函館に上陸していたい。そのためには今日なんとしても200km先の秋田まで進む必要がある。
もう旅に出て20日が経つが、足も鍛えられてきたので自分が1日で進める距離が大体わかってきました。この記事を読んで自転車で旅をしたくなった人もいると思うので書き記しておきます。
【100km】
かなり余裕。むしろ楽な距離。休憩とか含め、大体時速20kmで計算したとしても5時間でクリアできる距離。標識で【◯◯まで100km】と表示があれば「もう少しで着くな」という感覚。ちなみに残り50kmはゴール目前。残り20kmはほぼゴール。残り10kmは今晩の夕ご飯について考えている間に到着します。
【120km】
普通の距離。あくまでも僕の感覚ですが、ロードバイク(タイヤの細いめっちゃ早そうな自転車)なら早起きをしてスタートすれば夕方にはゴールできる距離。僕の場合は荷物が15kgくらいあったので峠道がしんどかったのですが、荷物なしなら結構余裕でいける距離だと思います。しかも120kmくらいなら連日で漕いでも、翌日に体に影響がないちょうど良い距離です。
【150km】
自転車競技の経験者は除いたとして、素人だとここからキツくなってくる距離です。連日だと厳しいかもしれません。あと150kmいけるかどうかは天候、気温などにも大きく左右されます。真夏だとすれば日が昇る前にどれだけ距離を稼げるかで勝負が決まります。
あとかなり重要なのは「お尻問題」です。自転車に長距離乗っているとお尻がめちゃくちゃ痛くなります。痛みの種類は色々ありますが、切れ痔になることもあるし、デリケートゾーンが擦れて真っ赤になることがあります。(ちなみに僕はデリケートゾーンが赤くなるタイプ。股擦れみたいな痛さです)
僕のお尻の強度は大体100kmまでは耐えられるのですが、それ以降は痛くてサドルに座れなくなるので立ち漕ぎです。ただずっと立ち漕ぎするのも20km〜30kmが限界なので、お尻休憩を取りながら進んでました。なので150kmを漕げるかどうかはお尻の強度によります。ぶっちゃけお尻が強ければ、1日250kmとかもいけるんじゃないかと思います。
【180km】
ここからは気合いのゾーンに入ります。とりあえず早朝出発はマストです。僕は180kmの日は5時には出発してました。そこからは気合い。お尻問題とかって言ってられない。お尻が痛くなる100kmゾーンからプラス80km走らなくちゃいけないから、痛みの向こう側へと突き進む精神力が求められます。
1日の走行時間は9時間。食事、休憩などでプラス2時間だとして、5時出発で18時には到着できます。そして日が落ちてからの夜間走行は危険だし、だんだん暗くなってくると「まだ着かないのかよ」っていう絶望感に襲われるのでゴリゴリに精神力が削られます。
日没までに勝負を決めるのが重要です。そして180kmを走ると翌日にしっかり疲れが残ります。普段運動をしていない人がこの距離を走ると多分3日は筋肉痛で動けなくなると思うので、かなり体を慣らした状態じゃないと難しいかなと思います。
【200km】
この日本縦断中にたくさんの自転車旅の人と話しましたが1日200kmを漕いでいる人には最後まで会いませんでした。200kmを走り切るポイントはまず休憩時間を極力減らすこと。200kmの日は走りながら自転車競技用の羊羹を食べてました。自転車競技とかでは走りながら食事を摂るんですがまさにあれです。あとは集中力を切らさずに10時間とにかく走り続ける。精神力と気合いが最も重要です。
走っている時はほとんど「無」の状態でしたね。体力的にもギリギリの状態になるので余計なことを考えられなくなります、これはもしかしたら「禅」に通ずるかもしれないと思ったりもしました。そして200km走破のいちばん良い点は達成感が半端ないことです。
今後の人生でツラい局面に立たされたとしても「自分は1日で200km自転車を漕ぐことができたんだから大丈夫だ」と奮い立たすことができると思う。
ちなみにこれが200kmを漕いで秋田駅に到着した時の僕です。
疲労感450%のキュンです
【21日目】秋田市〜青森〜函館 182km
一昨日は180km、昨日は203km、そして今日は182km。
3日間で565km進んだので「5歳さん、電車に乗ってズルして進んでませんか?」と3人の友人から電話があった。そんなこともあろうかと撮ってありますよ!証拠写真を!
これは一部ですが県境、市境の看板の写真はちゃんと収めてありますから!!!
「車に自転車を積んで移動するっていう手もあるのでは……?」という方には
この顔を見て判断して欲しい。車で移動していたらこの顔にはならないはず。
東北を最大出力で駆け抜けたわけですが、いよいよ本州とお別れする日が来たようです。
途中自転車を盗まれたりもしました。大雨のなか漕ぎ続けたりもしました。出発の地である鹿児島からは2,185km。思えば随分遠くへ来たもんだ。
夏のあの日が遠い過去のように思えます。とてもとても長い道のりでした。
北海道上陸
第3幕
雨と涙の北陸東北編
〜自転車との別れ〜
完
最終章
試される大地、北海道
〜旅の終わりの光景は〜
【22日目】函館〜長万部 104km
昨晩、感動した話をしたいと思う。
フェリーで函館に到着したのは21時。そこで僕を待ち構えてくれていたのは函館在住のライター、尚さんだった。尚さんは去年僕が主宰していたライター講座の受講生でメッセージでやり取りはしていたのですが会うのは今回が初めてです。
「5歳さんが函館に来るタイミングをずっと見計らっていたんですよ!」
尚さんは数日前から「あとどのくらいで函館着きそうですか?」とこまめに連絡をくれた。フェリーの着く時間が少し遅かったので遠慮はしていたのですが
「旦那には『5歳さんをおもてなししてくるから!!』と言ってあるんで大丈夫です!」
めちゃくちゃ気合いが入っていたのでお言葉に甘えてアテンドしてもらうことにした。
まずは函館の名物チェーン店「ラッキーピエロ」
僕は初めて知ったのですが、函館を中心とした道南地区に17店舗を展開するハンバーガー屋さん。
こちらが人気No.1の「チャイニーズチキンバーガー」
まずデカい。甘辛のタレがかけられた大きな唐揚げが3つも入っている。これでお値段なんと350円。マジで美味しい。函館に住んでたら多分毎日食べると思う。
そしてオムライス。これもまたデカい。卵が4つ使われているらしい。ボリューミーなだけではなくしっかり美味しい。お値段780円。マジで東京にも出店して欲しいと熱烈に思うんだけど、函館でとれた食材にこだわっているので、他の地域では出店はしないんだって。ちなみにこれらの情報は尚さんが全部解説してくれた。函館の取材をめっちゃしているライターさんなのでバスガイドさんばりの説明をしてくれる。
函館のベイエリアから函館山に向かう途中にある坂。
こちらが「チャーミーグリーンの坂」という、めっちゃ昔のチャーミーグリーン(洗剤)のCMのロケ地です。ドラマとかのロケ地としても有名です。坂の上から見る函館の夜景もとっても綺麗。
尚さんはカメラマンでもあるんだけど、僕の写真を撮るために一眼レフと撮影用で使う震度3くらいでもビクともしなそうなごっつい三脚を持ってきてくれた。
そのあともドライブをしながら、名所を回りまくって(丁寧な解説付きで)ホテルに戻ったのは23時30分。2時間30分で函館の主要観光スポットをほとんど回りました。
「じゃあ明日は朝市を案内するので6時に迎えに行きますね!!」
そう言い残すと尚さんは颯爽と走り去っていった。
ホスピタリティーが凄すぎる!
全力投球フルスロットルでおもてなしをしてくれている。完璧としか言いようがない。僕も人のことをもてなすのは好きな方だけど、東京を案内するとしてここまでのアテンドができるだろうか?いや、無理だ。しかも函館に対する愛情と造詣が深すぎる。とにかく函館の良いところをギュウギュウに濃縮したような2時間30分だった。
そして今朝、6時にホテルの前に現れた尚さんは、いちばんオススメの海鮮丼のお店に連れていってくれた。
さっきまで生きていたイカがまるごと乗っかった「活きいか踊り丼」
醤油をかけるとイカが足をバタバタさせます。味はもちろん最高。食べごたえがある一杯です。
市場をぐるりと案内してくれて、7時に尚さんは「ではこれで!」と仕事に向かって帰っていった。
函館に滞在したのは夜から朝だけだったんだけど、すごく充実した時間を過ごした。僕もこれくらい人を感動させられる案内をできるようになろうと強く思った。
それにしても本当にすごいおもてなしだった。
【22日目】長万部〜札幌 163km
旅の中で起こる偶然性について考える。
昨晩宿泊していた旅館の隣の部屋に、以前一緒に仕事をしたチームメンバーが偶然泊まっていたんです。長万部って北海道のマジで本物の田舎なんですよね。東京から2,000km以上離れたそんな街で普通は再会することってなくないですか?でも会うんです。旅をしているとそういうそんな偶然ある???とびっくりするようなことが結構起こります。
昔バックパッカーをやっていたとき時に、タイのバンコクの道端で声をかけられて仲良くなった青年が僕の幼馴染の彼氏だったこともあったし、インドのドミトリーで仲良くなった青年のおじいちゃんが、よくよく話をしてみたら僕のおじいちゃんと親友だったこともありました。(帰国後、一緒に墓参りに行った)
どちらもすごい偶然です。
なぜ旅に出ると「事実は小説より奇なり」みたいな現象が起こりやすくなるのか?
このことについて考えてみたんだけど、普段の生活は行動やパターンがある程度決まっていて、通常運転の枠外から出ないからほとんど同じことしか起こらない。しかもそのパターンを繰り返しているのは自分ひとりだけじゃなくて、周りの人も同じなんですよね。
「事実は小説より奇なり」みたいな出来事ってまず最初にイレギュラーな状態があって、そこに偶然が重なり合って、それがすべて繋がる瞬間に成立するですよね。
だから日常生活を送っていると、まず起点となるイレギュラー状態になりずらいので、「奇なり」現象が起こらないのだと思います。
そう考えると旅は毎日がイレギュラーだし、動き回っていれば偶然に巡り合う確率も上がってくるし「事実は小説より奇なり」みたいな出来事が起こる条件が揃うわけです。
【23日目】札幌滞在
朝起きたら太腿が僕に向かってこう喋りかけてきた。
「今日は自転車漕げません。本当に疲れているのです」
これ冗談とかではなく僕に向かって本当に訴えかけてきたんです。たしかにベッドから立ち上がろうとしても力が入らないし、太腿が自分に喋ってくるのも初めてだったので、その声に素直に耳を傾けることにしました。ゴール目前ではありますが今日は休息日にします。
あと僕には1つやらなくてはいけないことがあります。
今回の自転車旅で僕に課されている最重要事項……
そう、ポスター作りです。
決して忘れていたわけではありません。マジで作る時間がなかったんです。東北に入ってからはほぼ毎日180km〜200km漕いでいたし、毎日全力で体力を使い果たしていたんですよね。(言い訳終わり)
さっそく制作に取り掛かります。
実はずっと作りたいと思っていたポスターがあったので作りました。
試しに自転車に付けてみたら5分でおばちゃんに声をかけられたので効果は絶大。
なんとなくこういうの恥ずかしかったから付けなかったんだけど、こんなにすぐ話しかけられるなら初日から作っておけばよかった。
いつだって周りの人に対して「自分はこういう者で、こういうことをしてます!」とわかりやすくしておくと、コミュニケーションのハードルがグッと下がるもんですよね。学び。これから自転車旅に行こうと考えている人は絶対に作った方がいいです。そしてその時はAdobe Expressのアプリで作ってみてください。(しっかり宣伝)
【24日目】札幌〜羽幌 180km
ついに明日、ゴールである宗谷岬に着く。長い旅もいよいよフィナーレである。
あと昨日ホテルの鏡で自分の体を見て気がついたことがあった。
「あれ??ひょっとして体、めちゃくちゃ引き締まってないか?」
急いで、過去の半裸の写真と比べてみた。
去年の年末 82kg 現在 72kg
完全に結果にコミットしてる!
もしかしてダイエット本とか出せるんじゃないだろうか。夢が広がるな。
真面目な話、自転車ってスポーツの中でもカロリー消費が激しいスポーツとして有名なんですよね。ちなみに僕の走行に照らし合わせて、簡単に消費カロリーを算出してみました。
120kmくらい自転車で走るとおおよそ4,000キロカロリー消費することになります。
4,000キロカロリー
おにぎりだと20個
ラーメンなら8杯
カレーライスなら5人前
僕の場合は後半は180km〜200km走っていたので6,000〜7,000kcalは消費していたはずです。
そりゃ痩せるわ。
しかしながら僕もいろいろダイエット法を試してきましたが、ダイエットに自転車は最適だということを身を持って実証したことになります。このことを多くの人に知ってもらうために書籍化します。タイトルは
「漕ぐだけ!自転車3,000kmダイエット」
この本に書いてあることを実践したら絶対に痩せる画期的なダイエット本です。
【最終日25日目】羽幌〜宗谷岬 168km
天気は快晴。気持ちのよい風が吹いている。南風なので北に向かう僕にとっては背中を押してくれる嬉しい風だ。気温は27℃。自転車を漕ぐにはちょうどいい。
地平線まで続くまっすぐな道路の横には、風力発電の大きな羽が風を受けて勢いよく回っている。北海道のすごいところは、この風景が2時間進んでも全然変わらないところにある。日本を縦断してきたけど、こんな景色が見れるのは北海道だけだと思う。
果てしなく続いていて、終わりがないように見える道だけど、その先にはちゃんとゴールがあることを僕は知っている。
この1ヶ月間、僕はひたすらに進んだ。大変なことやトラブルもたくさんあった。数えだしたらキリがない。しかし不思議なことにこの旅をやめようと思ったことはなかった。
嬉しいことも、辛いことも、すべて地続きに繋がっている。
いいことばかりではないけど、悪いこともずっとは続きはしない。
そして……
よ うやく宗谷岬に辿り着きました。
念願の最北端です。
日本縦断達成
走行距離3,052km
総走行距離3,052km。果てしなく長い道のりでした。正直かなりハードなスケジュールだった。本当に自分でもよくやったと思う。
鹿児島で浦島太郎になり、熱中症でぶっ倒れそうになりながら走り続け、チャリを盗まれ、さまざまな人に出会い、助けられてなんとかゴールすることができました。
スタートする前、僕はこれからの人生を色々と思い悩んだりしていたしていました。
旅を振り返ってみてしみじみ思うことは、頭と心を空っぽにして自転車を漕ぐということが今の自分にとってはとても良かったということです。長い人生の中でいくら悩んでも答えがでないことってやっぱりあると思います。
自転車で旅することは根本的な解決にはならないけど、何かに一生懸命になることで気が紛れたりもするんですよね。そうやって自分が打ち込めることや、一生懸命になれることと向き合っているうちに、「なんとかなるかな」と思えるようになるのかもしれません。ケ・セラ・セラです。
ポスターを作りながら日本縦断3053km自転車で走破した男の話
最後まで読んでくれてありがとうございました。
そして僕からのお願い
Adobe Expressのアプリをぜひダウンロードしてみてください。僕は今回PR記事として書いていますが、使い勝手が良くてめっちゃ便利なアプリです。ぜひ一回でいいので試してみてください!
チャリで来た。
完
2022年8月31日 ライター5歳
【おまけ】
原稿を見終えたアドビの友人
「いやー、流石っすね。自転車で日本縦断、真夏の一か月で出来ちゃうんですね」
5歳
「ちなみに、自転車が盗まれて買いなおしたやつ、経費として請求して良いんですか?」
アドビの友人
「良いわけないじゃないですか。さすがにそれは計算外ですよ」
5歳
「あと、全国各地で死ぬほど飲み食いした代金とか……」
アドビの友人
「それも5歳さんが勝手にやったやつでしょ」
5歳
「ちょっと待って。今回のギャラと、かかった経費を計算してみる」
アドビの友人
「それ、やめといた方が良いと思いますよ」
5歳
「えっ、赤字じゃん」
アドビの友人
「やめといた方がいいですって」
5歳
「大赤字じゃん!」
アドビの友人
「やめなさい」
5歳
「本当に、大赤字じゃん!!!!!」
本当の意味での
完
Adobe Express
https://www.adobe.com/jp/express/