四国の全駅制覇とお遍路を同時にやったら大変なことになった【徳島・高知編】[PR]
「四国全駅制覇をしつつ、お遍路を同時に達成する」という謎の旅にでかけます。今回の旅でも、旅の記録にアプリ「駅メモ」を使用。取材スケジュールも1度では取れず、記事も長いため、まずは徳島・高知のみを配信させていただきます。(読了時間目安 : 40分)
4日目 6:00 高知駅
お遍路の朝は早い。朝から足が筋肉痛だった。一瞬、昨日は死ぬほどの登りだったから筋肉痛になるのも無理はないと理解したけど、良く考えたら初日の焼山寺の惨劇とかあの辺を経て筋肉痛が出てないことのほうがおかしいわけで、たぶん、今は初日の筋肉痛が出ているだけなのだと思う。この筋肉痛のタイムラグこそが「老い」なんですよ。
早朝から高知駅前に佇む三体の高知出身の志士たちを眺める。なかなか立派な巨像だ。
なぜか志士像の横のベンチに魚とり網みたいなやつが置き去りにされていた。一体何があったのか。
6:51 とさでん交通 桟橋通り五丁目行き
あまりの腹痛に駅でトイレなどしていたら何本か電車を逃してしまった。朝っぱらから出遅れた格好だ。せっかく早起きしたのにもったいない。またもや乗り換えポイントである「はりまや橋」駅に行く。その間に今日の作戦を確認しておく。
まず「はりまや橋」から乗り換えて昨日取れなかった東側の路面電車の駅を取りつつ「後免町」にいく。そこからは28番札所がまあまあ近いのでそこに行き、そこから自転車で西に進み高知市に戻りつつ点在する札所を巡る。最終的には高知市を突き抜けて土佐市の方まで行き、具体的には36番札所までいきたい。今後の展開を考えたら死んでも今日中に36番には到達しておく必要があるので石にかじりついてでもここまでは行きたい。
朝の息吹が少し冷たい。ただこの高知って町はとことん南国らしくもう11月であるのに寒さは感じない。確かに気温は低いのだけど、寒いとはまた違う雰囲気だ。寒いのではなく冷たい、その表現が適切な高知の朝だ。あと、すげえお腹痛かったので近くのコンビニでトイレを済ませた。またか、と思うかもしれないが、路面電車にはトイレが装備されていないのでやりすぎなくらい事前に出しておく必要がある。
7:03発 とさでん交通 後免町行
後免町行きの電車がやってきた。ひらがなで「ごめん」と表示されてるので過去何度となく「ごめんとかwwwww路面電車が謝ってるwwwwww」とか弄られたんだろうなあと思いつつ、僕も後免行きの電車が謝りながら駅へと滑り込んできた、と表現させていただく。
駅を取りつつ後免町を目指すのだけど、淡々と駅にチェックインしていたら高知のヌシみたいな人と駅の取り合いになっていることに気づいた。駅メモは駅にチェックインするだけでなく、駅を守護する他プレイヤーのでんこと戦い、勝てば自分が駅を守護できるようになる。そうなると今度は自分がチェックインしてきた他のプレイヤーのでんこと戦うことになるのだけど、何個かの駅を守護していたら「高知のヌシ」の一角に名を連ねていそうな剛の者が執拗に攻撃してきた。
実は駅メモは県ごとの貢献度ランキングみたいなものを見ることもできる。いま、この県で活躍している駅メモスターは誰なのか、誰がホットなのかをランキング形式で表示している。調べてみるとヌシは完全に高知県のランキングの上位の一角に名を連ね得てきた。こりゃとんでもない大物がでてきたもんだ。
ヌシは僕が取る駅を数秒で取り返してくるので、もしかしたら同じ電車に乗ってる? と思ったがお婆ちゃんしか車内にいなかったので違うっぽい。まさかガラケーのおばあちゃんがヌシなわけない。どうも、向こうは車で追従してきてるみたいで余所者の侵入を許さない、東京もんはお帰りくださいみたいな熱い気概をビンビンに感じた。路面電車とヌシの激しいカーチェイスを経て、後免町駅へと到着した。
7:39 後免町駅
チェックインした駅 デンテツターミナルビル前、菜園場町、宝永町、知寄町一丁目、知寄町二丁目、知寄町、知寄町三丁目、葛島橋東詰、西高須、文殊通、介良通、新木、東新木、田辺島通、鹿児、舟戸、北浦、領石通、清和学園前、一条橋、明見橋、長崎、小篭通、篠原、住吉通、東工業前、後免西町、後免中町、後免東町、後免町
これで路面電車の駅を全て取ることができた。同時に高知の東側の駅も全てとったことになり、あとは西側を攻めるだけとなる。
ちなみに、この終着の「後免町駅」は昨日、土佐くろしお鉄道ごめん。なはり線で通った駅だ。つまりここではくろしお鉄道と路面電車に乗り換えができる。ただ乗り換えと言ってもちょっと広い駐車場を横切るくらいの距離を歩かなくてはならない。
ちょっと先に見える高架駅が「後免町」駅だ。もう一つ注意しなければならないことがあって、この「後免町」駅の一つ前が「後免」駅で、昨日JRから土佐くろしお鉄道に乗り換えた駅だ。「後免」と「後免町」が続くのなかなかややこしいなと考えつつ「後免町」駅へと到達した。
後免町駅の柱にやなせ先生の詩が掲示されている。「ごめん駅とごめんまち駅ややこしくない?」とやなせ先生も僕と同じことを考えていた。
駅に昇り列車を待つ。ここから2駅ほど行った方が札所に近いようなので今日も土佐くろしお鉄道に乗る。ベンチにはお婆さんが二人座っていて仲良さそうに会話していた。その会話によると、どうやら昨日僕が行った室戸岬まで行くつもりらしい。なんでも昨日見たあの灯台が防災訓練か何かで中まで公開しているらしく、またとない機会だ、ぜひとも見るべきだ、みたいな主旨の会話をしていた。つまりこれから室戸岬まで行くんだろう。
「安芸まで乗って行ってそこでバスに乗り換えるといいらしい」
「昨日、娘に調べてもらった」
みたいな会話をしていたので、ちょっと心配になってスマホで調べてみたら、確かにこの列車で安芸まで行けばそこから室戸岬行きのバスに乗り換えることができる。ただ、その乗り換え時間は2分だった。とてもお婆ちゃんがクリアできる乗り換え時間とは思えない。なにせこの土佐くろしお鉄道はほとんどの駅が高架駅だ。確か安芸の駅も高架だったように思う。つまり下まで降りて行ってバス停に行き、乗り場を見つけて乗る、これをお婆ちゃんが2分でやるのは至難の業だと思う。体がバラバラになっちゃうんじゃないか。
「すいません。ちょっと聞いてたんですけど、安芸で乗り換えって2分しかないですよ。かなり厳しいかもしれません。それだったら次の列車は安芸までしか行かないですけど、その次は奈半利まで行きます、それを待ってそこで乗り換えた方がいいんじゃないですか」
昨日僕が辿ったルートを提案する。
「ありがとね。でもたぶんダイジョブ」
「2分で充分。1分でも行ける。1分だ!」
と二人ともすごい豪語してくる。試合前のプロレスラーみたいなビッグマウスを見せるのでなんだかきっと大丈夫なんだろうなって気持ちになってきた。こりゃとんだ余計なお世話だったかもしれないと反省した。
7:56 土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線快速 安芸行
2駅しか移動しないのですぐに到着した。
8:01 のいち駅
ここ「のいち」駅の周辺は少し大きめのショッピングセンターなどがあって少し栄えている印象。実際に乗り降りする人も多かった。ここで自転車をトランスフォームさせ次の札所を目指す。
また今日もよろしく頼むぜ、相棒。
朝の街を颯爽と次の札所に向けて自転車を走らせる。すでに向かう方向が完全に山なのだけど気にしない。途中、ちょっと道を間違えつつ走っていると、前方になにやら楽しげな賑やかな施設が見えてきた。
遊園地的な施設がある。
なんだろうと近づいてみると
アクトランドという施設らしい。やはり遊園地なのかな。もちろん朝早すぎて営業はしていないのだけど、その内容を見てみるとなかなかすごい。
「龍馬歴史館」「世界偉人館」「アフリカンギャラリー」「世界クラシックカー」とどう考えても脈略なさそうなラインナップ。カオスという表現が適切なのかもしれない。「世界偉人館」までわかるが、そこからアフリカに飛ぶ意味が良くわからない坂本龍馬も戸惑っているんじゃないだろうか。中に入って見ればその脈略も理解できるのだろうか。つくづく開園前なのが惜しい。
遥か先の山の頂に城みたいな建物が見える。あれが次の札所だったらどうしよう。もうそれだけで死ねる。ちょっと心臓の鼓動が早くなるのを感じた。けど、あんな西洋風の寺があるものか、あれは関係ないやつだ、と自分を落ち着かせた。
ついに次の札所の案内が表れた。あの城ほどではないが、やはり登りなのである。
見事に5連発で登りだったが、ここはそこまで険しいのぼりではなかった。まあまあ楽勝で登りきることができた。というか、ここんところの過酷な試練で完全に足の筋力が増強されてる。自分の肉体が頼もしくなりつつあるのを感じる。この程度の登りではもう何も感じない。
花などの植物が彩る境内、朝の爽やかな雰囲気と相まって落ち着いた気持ちになることができた。昨日訪れた4つの寺院全てが汗だくでゼーゼー言っていたことを考えるとかなり落ち着いた水面のような気分でいることができた。気分が良かったので久々に本堂にて今これを読んでいる皆さんの平穏な日々を祈願しておいた。
落ち着いた心でゆったりし、何らかの悟りを開きそうになったけど、あいにく今日はあまり時間がない。絶対に36番までいかなければならない。愛機ファルコン号を駆りすぐに次の札所に向けて走り出した。
自転車を走らせていると久々にかなり難しい分岐に躍り出た。
左に行くべきか
右に行くべきか
案内が全くない。基本的に遍路みち案内は過剰すぎるほどあるのでこうやってない場所にでると困惑してしまう。右なのか、左なのか、迷いながら探していると案内表示があった。
正解はまっすぐ。見落としてしまいそうな細い路地に入れという指示が象形文字みたいな絵でなされていた。
なんて細い路地! と思うかもしれないが、これでもお遍路みちとしては広い方に入る。
細い路地を駆使して進んでいくと川に出た。どうやらけっこう大きめの川を渡らなければならないらしく、少し大回りして大きな橋に向かう。
「超カーブ」
急カーブじゃ弱いしな、ここはいっちょ「超カーブ」と行きますか! みたいな作った人の心理が読み取れる。ただ超が付くほどのカーブではなく、普通に急カーブだった。
川が綺麗。
魚を追い込んで捕まえるみたいなギミックがある。
川を渡ると田園風景の中を横切るようなルートになった。そこでどこからともなく聞きなれない音が聞こえてくるようになった。
ピロロロロロロロロロロ
なんだ、なんの音だと周囲を見回すけれども音の主が分からない。
ピロロロロロロロロロロ
なんだなんだとキョロキョロする。分からない。どうやら音は僕から聞こえてきているっぽい。そんな音を出すものを身に付けていないしなんだろうな焦るのだけど、なんてことはない、僕のスマホが鳴っていた。ただ、僕のスマホはあらゆる音を鳴らない設定にしているのでそもそも音がしてくること自体がおかしい。なんだろうと焦って画面を見るととんでもないことになっていた。
うっそ! 大津波警報と避難勧告でてる! やばい、はやく高い場所に避難しないと! と焦って周囲を見回すも田園のど真ん中、だあー高い建物が一切ねええええと死ぬほど狼狽したのだけど、よくよく見たら「訓練」って書いてあった。めちゃくちゃ焦った。
前にも述べたが、ここ高知は特に津波などの災害に対する警戒が高い。至る場所に海抜が表示され、避難の必要があるかないか示されている。その一環で訓練もあるのだろう。こうして対象地域全域に緊急メールを送るのだ。もしかしたら駅でお婆さん二人が「今日は防災訓練で灯台の中が開放される」とか言っていたのもその関係なのかもしれない。
なんとか安心しつつ、訓練でよかったけど本当だったらどうするんだ。地域の人は避難ビルとか分かっているかもしれないけど僕みたいな余所者は完全にダメだぞ、と怖くなった。
遍路みちはここを曲がれと指示される。
大丈夫かよこれ、人の家の庭とかに繋がっているんじゃないのか、みたいなルートを通らされる。
なんとか路地を駆使して次の札所を目指していると目の前に一人のキッズが現れた。
キッズはちょっとマウンテンな自転車で僕の前に躍り出て、右へ左にスラローム、完全に僕を挑発している。たぶん自転車が小さいから舐められたんでしょうかね。抜けるものなら抜いてみな、そう言っているようでした。やれやれだぜ、大人の怖さを知らない子供ってやつはいつの世もいるものだな。でもそういうの、嫌いじゃない。俺だって子供の時はそうだったさ。その無謀さが原石の輝きなんだぜ。大切にしろよ。そう呟いてペダルに力を込めます。
すまんな、人は大人げないって言うかもしれないけど俺は大人としての本気を見せつけるのが大人の使命だと思っている。ここは本気出させてもらいますよ。ぶっちぎって泣かせてしもたら堪忍な!
おいつけねえええええええええええええ。はえええええええ。ぶっちぎられた。
なんだあえ、競輪選手の英才教育と受けているのか?
ぶっちぎられたと思ったらまたキッズがスピードダウンして挑発して来たりして、一進一退のカーチェイスを演じながら、そのうちキッズは別のルートに進んでいきました。
「でっかくなれよ」
その背中に言葉をかけます。
そんな白熱のデッドヒートを演じつつ次の札所へと到達しました。ななななななななな、なんと、山登りではなく平地にあるお寺でした。たぶんけっこう内陸に入ってきたからだと思う。
基本的にこのへんの駅は前日に取っているので取る必要がない。
山門からまっすぐと伸びる通路、その両脇に立ち並ぶ背の高い木が外界との繋がりを遮断し、静かな雰囲気を境内にもたらしているように感じる。
この落ち着いた静かな雰囲気に心が洗われるようで、さっきまで子供相手にむきになっておまけにこてんぱんにやられた自分が心の底から恥ずかしくなってきた。争い事からは何も生まれない。
さて、次はいよいよ三十番の札所となる。大台にのった。高知市方面に走っていけば間違いないのでつき進む。ただ、ここは結構難易度の高いルートの連続だった。
最初は田園風景の中を進むコースだったが、次第に道が怪しくなっていく。
道が大きくカーブしたかと思うと
こんなんになる。一歩間違えたら転落しかねない道だ。
木も覆い茂ってきていよいよメイを助けるためにトトロに会いに行くみたいになって
やっと道がまともになったと思ったら
ミラーがぶっ倒れていたりする。
暴力だけが支配する力こそが正義みたいなバイオレンスなゾーンに入りこんだのかと不安になった。
地味に長いのぼりが続くようになり、昨日までの僕なら完全にヒーヒー言ってるんだけど、なにせ完全に慣れてしまったので平気で登っていく。もう息切れすらしない。完全に覚醒している。趣味、山登り。
やけに坂道きついなって思ってたら峠だった。そりゃ峠越えは坂道続きになりますよ、と思いつつ進んでいく。「峠を超える」って日本語の表現は本当にそのとおりで、こうやって峠を通過すると今度は下り坂が続くようになり、すいすいと進んでいけるようになる。まるで人生のようだ。
ここが徳島からスタートしてここまでで最高難度の分岐だった。あまり案内がないのに今まで通ってきた大きな道から階段を降りて脇道に入らなければならないらしい。たぶんこのまま大きな通りを下っていっても同じところに出るような気がするのだけど、指示された通りに行ってみる。本当に気を抜いていたら見落としてしまいそうに分岐だ。まるで人生のようだ。
すいすいと進む。まるで人生のようだ、そう思っていると
倒木が行く手を塞ぐ。嘘だろ。なんでこんなことになっているんだ。順調だと思っていたら何が起こるか分からない。まるで人生のようだ。
なんとか木々の隙間をくぐり抜けて先へと進む。なんとかかんとか30番目の札所に到達した。どうやら途中で案内を見落としていたようで、微妙に遠回りしてしまった。それもまた人生。
ここ善楽寺の大師堂は厄除け大師として知られている。ゴリゴリの厄年の僕としては是非ともお参りしておきたかった。立派な参道を歩いていく土佐神社が隣にあり賑やかな印象がある場所だった。ちなみにここでも外国人お遍路さんがいたので「ウクライナ人か?」と質問したらなぜかチョコくれた。なんでだろう。
次は31番札所である竹林寺を目指すわけだけど、事前情報によると高知市の街中にあるっぽい。しかもここから一気に坂道を下っていった場所にあるようだ。さすがに高知市の町中なら山登りはないだろう、しめしめと思いながら出発した。
完全に高知市に帰ってきた。高架道路が都市部であることを表していて頼もしい気持ちにすらなってくる。
途中、県立美術館に差し掛かったあたりで異様な音が周囲に響きはじめた。
バラバラバラバラバラバラ
かなりの轟音が響き渡る。自転車を停めて音の主を探ってみる。同じように向こう側からやってきたおばちゃんも自転車を停める。
「何の音かしら」
「ヘリの音っぽいですね」
県立美術館の横の敷地からヘリが2機飛び立った。
「やっぱりヘリでしたね」
僕がそう言うとおばちゃんがすごい興奮して
「え!? ヘリ!? アパッチ!? アパッチ!?」
とか言い出して、僕もあまり詳しくないけどたぶんアパッチじゃねえよ、なんで最初に出てくる名称がアパッチなんだと思いつつ、僕もそういやヘリの名称といえばアパッチしかしらないやと納得した。
飛び立つ自衛隊のヘリ。たぶんアパッチじゃない。今日ずっと続いている防災関連の訓練じゃないかと思う。
竹林寺に向かって坂道を駆け下りていると途中で結構長いトンネルが出現してきた。地図的には完全に竹林寺はこの道路の脇にあって、イメージとしてはこの道路の脇にひょこっと入口あるんだろうなって思っていたのだけど、トンネルを抜けるといつの間にか竹林寺の場所を通り過ぎていた。あれ、寺への入り口とかなかったぞ、と振り返って見るとそこには山が。
そうではないあらゆる可能性を模索してみるのだけど、どう考えてもあの山の上に見えるものが竹林寺だ。方角的にも距離的にも間違いない。とんでもねえ。道路脇じゃなかったんだ。トンネルと山の上の寺が重なっていただけなんだ。街中なのに登りだ。海の近くの寺は高いところにある。ずいぶんと南下してきて海岸が近くなったので、やはりそのセオリーは守られていた。
もう山登りに関しては特に多くは語らない。
ドン
ドドン
バーン
覚醒したとはいえ、さすがに自転車担いで本格的山登りは死ぬかと思った。
小学校の裏手から伸びる近道的な山道を登りきると竹林寺の山門が現れる。隣には植物園があり、車や人の往来がなかなか激しい場所だ。山門を抜けた先にある本堂までの通路が美しい。
見所は境内にある五重の塔だ。なんでも高知県内唯一の五重の塔らしい。ちょうど11月の日曜日ということもあってあちこちで着飾った子供たちが七五三の撮影を行っていた。境内のいたる場所が絵になる。あらゆる場所が美しい。そんなお寺だった。
坂を駆け下りて次の札所を目指す。場所的にはさらに海に近づくようだ。つまりどうせ次も登りだ。次の札所の名称が「禅師峰寺」峰とつくものもまあ山の上だ。
道路の両脇がそれぞれ別の川、という少し変わった場所を爆走していく。
お婆ちゃんが畑の脇でみかん喰いながら井戸端会議をしている、そんな光景を横目に見ながら爆走していく。少しだけ東に戻るルートになり、随分と街中から離れてきて何もない道を進んでいると興味深い看板が目の前に現れた。
武市半平太の旧家と墓。
武市半平太。幕末、土佐勤王党を率いた志士の一人だ。まさかこんな場所に家と墓があるなんて。
家のほうは見学できるっぽいのだけど、普通に民家として一般の方が居住しているので迷惑にならないように見学しなさい、と書いてあった。見学してみようと思ったけど、中にケルベロスみたいに猛り狂っている犬がいたのでやめておいた。さらに上にのぼったところには墓があった。
ここで一つ、重要な情報を伝えたいと思う。
僕はコカ・コーラゼロという飲料が好きで、まさに狂ったように愛飲していて、こういったハードな旅の水分補給にも欠かすことなく飲めるよう、リュックのサイドのポケットにいつも突き刺しているのだけど、なぜか四国ではこのコカ・コーラゼロが入手困難だった。
まず販売機に並んでいることがほとんどなくて、コンビニで買うしかないのだけど、そのコンビニにも置いていないことが多々あった。理由は分からないけど本当に四国にはコカ・コーラゼロが少ない。トクホのやつはあるんだけど黒いゼロが本当にない。もしかしたらZEROの概念がないのかもしれない。四国だけに4以外は眼中にないのかもしれない。そこまで思い詰めていた。
仕方なく別の飲料を飲んでいたのだけど、どうせ今回もダメだろうと武市半平太の旧家の前の自販機を覗いたところ、
あった。
武市先生、ありがとうございます。ありがとうございます。
声を大にして言わせていただきますけど、四国の自販機にはコカ・コーラゼロがあまりありません。でも、武市半平太先生の旧家の前にはあります! 皆さんも四国でコカ・コーラゼロを飲みたくなったら是非とも武市先生の家にお立ち寄りください!
コカ・コーラゼロで水分とやる気を補給できたので先へと進む。すぐに次の札所っぽい場所に出た。
朝に取った路面電車の駅がまた取れるが、ここからはむちゃくちゃ遠い。この辺りは全く鉄道が存在しない不毛地帯だ。
小高い山の上に鎮座する寺で、古くは漁師や船旅に出る人たちが海での安全を祈ったようだ。境内には波で削られたような変わった形の岩があちこちにあり少し異様な雰囲気を醸し出している。ここから見える海岸線の景色は美しい。
さてここまでは比較的トントン拍子でやってきた。この調子で行けば目標である36番札所までいけるのではないか。ただ、どうやら次の札所まではやや距離があるみたいだ。現在、高知市の西側にいて次の札所が東側の方、つまり高知市を横断しなければならない。海岸線を突き抜けていこうと考えた。
山を降り、もう少しで海岸に出るのかな? といった場所をひた走っていると異様にお腹が空いてきた。ご飯を食べた後に死に物狂いで自転車を漕ぐと気持ち悪くなるのでここまでの旅路であまり食事を摂ってこなかった。それでも我慢できないくらい空腹が襲ってきた。うどんかカツオのたたき、どちらかを食べたい。前者は胃に優しそうで気持ち悪くならなさそう、後者は高知の名物である。どちらかを食べたい。
広くて綺麗な道路を爆走していると、遥か前方に「うどん」と書かれた看板が見えた。うどんだうどんだと小躍りし、力を振り絞ってその店まで到達すると、完膚なきまでにその店はつぶれていた。圧倒的に閉店していて、戦国時代に攻め落とされた本陣みたいな感じになっていた。兵どもが夢の跡みたいになっていて盛者必衰の理みたいな感じだった。
まあ正直言って、行きたかった店が閉店しているなんて日常茶飯事。僕の旅ではそんなことは当たり前に起こることでね、なあに、進んでいけばきっとうどん屋かカツオのたたきの店があるさ、そう信じて進んでいくと、やっぱりうどん屋があったんですよ。
ほうらね、ちゃんとうどん屋、ある。しかも美味そう。最高だね。よっしゃーもう2杯とか食っちゃうぞーと勢いよく駆け寄った。
ダイジョブ、ダイジョブ、こういうこともよくある。まだ焦るような場面じゃない。きっとねうどんには縁がなかったんですよ。それだったら高知の名物、カツオのたたきを食べればいいじゃないですか。
ちょっと進むと観光客向けの「かつお船」っていうお土産物センターみたいな施設がありまして、そこに観光バスがガンガンやってきて賑わっていたんですけど、その片隅にお食事処があったんです。他のカツオのたたきの店は観光客で死ぬほど混雑していたんですけどここは比較的空いてた。
おまけに店の前に並べられたディスプレイによると完全に「カツオのたたき定食」がある。これですよ、これ。これに巡り合うためにうどん屋が潰れて麺が切れたんでしょ。もう威風堂々と店に入って、席に座ってオーダーですよ。
「カツオのたたき定食で!」
「すいません、今しがたカツオのたたき切れちゃったみたいで」
もうこれダメなやつでしょ。頭が真っ白で、それだったらこの店にもうどんがあるんだから第二希望としてそれを食べればよかったのに気が動転して訳の分からない脂っこい定食を食べていた。美味しかったけど、ショックすぎてなんて名前の定食だったのか覚えてない。
涙の昼食を終えてさらに走り出す。名前は覚えてないけど脂っこいものを食べたからあまり激しく動くと気持ち悪くなる。なので厳かに、ゆっくりと進んでいくことにした。
進んでいくとすごい大きな橋が目の前に現れた。橋が大きいのは別に構わないのだけど、歩道がアホみたいに狭い。危ないから自転車を押して歩道を歩いているんだけど、狭すぎて怖い。人一人がやっとの狭さに、車道は車が狂ったような速度で完全に殺しにきてる。
こんな怖い状況なのに橋はすごく長くて
はるか先まで続いている。山登りとは違ったきつさがこの橋にはあった。神経すり減らし過ぎてすごい消耗した。狭いところで自転車押すとペダルがガンガンすねにあたる。内出血になった。
橋を渡りきると海が見えた。砂浜だ。
もしかして、この高知市の南に位置する場所に砂浜があるって、かの有名な桂浜なんじゃないか、そう考えると俄然興奮してきた。いつか桂浜には行ってみたかったんだ。その予想は的中していて、左に曲がると桂浜、みたいな案内が出現してきた。迷わず左に曲がる。
僕の予想では、橋を渡ったあとでそのまま降りることなく結構高い位置にいるので、浜まで坂道を降りていく感じかなって思っていたらなぜかそこからちょっとした山を一つ越えさせられた。死ぬ。気軽に山越えを設定されると自転車は死ぬ。
桂浜だ。
僕の予想では有名な桂浜と言ってもポツンと浜があるだけでそんなに人もいなくて、たまに砂浜に使用済みの浣腸が半分埋もれている感じだと思っていたら、思いっきり観光地化されていて駐車場や土産物屋が整備されていた。すげえ賑やか。こんながっつりと観光地だとは思わなかった。
駐車場から土産物屋街みたいなものが伸びている。完全無欠の観光地。たぶん使用済みの浣腸は落ちてない。
イカ焼きのお店もある。「おいつけるか この味に!」の煽り文句が勇ましい。そもそも何がイカ焼きを追いかけてくるのか。
この観光地エリアから砂浜へと抜ける間に、美しい松林を湛えた小山があるのだけど、また登りかとぼやきながらそこを歩いていると、やけにテンションの高いおばちゃんに話しかけられた。
「すいません、シャッター押してもらえますか?」
こういうお願いは基本的に緊張する。あまり写真のセンスがないので依頼者の満足いく写真が取れないんじゃないのか、それでも頼んだ手前、文句を言うわけもいかずその場は「ありがとうございますー」とか取り繕うけど家に帰ってからその画像を見なが全員で文句を言ってるんじゃないか。「気配りゼロ」「センスゼロ」「テクニックゼロ」「リュックに刺さっていたコカ・コーラゼロ」と罵られてやしないかと僕の中での緊迫感だけが異様に高まる。
「いいですよー」
それでも断るわけにいかないので引き受けるのだけど、見ると10人くらいの大家族が今か今かとスタンバイして待ち構えている。
「この石碑と砂浜が入るように撮ってくださーい」
とテンションの高いおばちゃんが言う。
「男前に撮ってな」
という叔父っぽいポジションの人が言って大家族がドッと笑う。なんとか役割を全うして素敵な写真を撮ってあげたいと思うのだけど、ファインダーを覗くと思いっきり逆光で大変なことになっている。
「すいません、逆光なんで上手く撮れないです」
って申し出るんだけど、テンションの高いおばちゃんは
「いいって! 逆光でもいいから撮って~」
と聞く耳を持たない。
「逆光でも男前に撮ってくれたらええで」
またドッと大家族が笑う。親戚の中ではひょうきんなおじさんで通っているかもしれないけど僕から見たらめんどうくさいオッサンやでと思いながらシャッターを切った。
やっぱり逆光なんで全員が黒い影みたいになっていてコナンの犯人みたいになっている。
「すいません、逆光なんで」
と謝りながらカメラを渡すと
「大丈夫です、大丈夫です。ありがとうございます」
と言われた。でも絶対に帰ってからむちゃくちゃ文句言われてるわ。
松林を抜けると砂浜に出た。
通路とかも整備されていて綺麗に清掃されている砂浜という印象。龍馬たちもこの砂浜を眺めていたのだろかと思いを馳せる。
波は激しく風も強いが、穏やかな雰囲気にさせてくれる。やはり使用済みの浣腸とかは落ちてなさそうだった。
少し小高い場所にある龍馬像は海の向こう、そのさらに向こうを見据えている。
さてと、桂浜で妙に時間を食ってしまった。山を一つ越えて寄り道したということは、本線に戻るためにもう一度山を超えなければならない。なんとか本線に合流し、先へと進む。今日は絶対に36番札所まで進まなければならない。あと4つだ。
砂浜が下にみえる。この海岸線に沿って進んでいくことになる。
けっこう日が傾いてきた。急がなければならない。
なんやかんやで強風を受けながら次の札所へと到着した。
ここも周りに駅が全くないのでどこの駅が取れるかとやってみたら、昨日闇だと言った桟橋通り5丁目が取れた。路面電車の南北のラインの終着駅だ。高校生カップルが闇に消えエロいことしたであろう駅だ。ただ、最寄りと言っても全く近くはない。
非常に海から近い寺院であるにもかかわらず山の上ではなかった。普通に平地にあった。高知の寺院セオリーから外れる立地だ。どうやら四国88か所霊場のなかで2つしかない臨済宗妙心寺派の寺院であるらしく、なかなか珍しいらしい。何度か名前が変わっていたりと紆余曲折のあった寺院のようだ。
先を急いで出発する。次の寺はなかなか内陸に入ったところにあるようだ。向かっている最中、遍路みちはこっちだから、と何度となく山越えをするコースに誘導される。
普通に舗装道路を進んでいるのに「ね、こっちだから、こっち近いから、次の寺まで、近いから、曲がろう」と完膚なきまでの山道にいかせよういかせようと誘ってくる。ただ方角的に絶対に山道を通らなくていいはずなので無視して舗装道路をつき進んでいく。それが功を奏したのか、たいして登りに苦しめられることなく次の寺院に到着することができた。
ここは安産の薬師さんとして知られているらしい。山間の平地にある塀に囲まれた敷地で、僕が到着したときなぜか門の前で屈強な男が仁王立ちしていた。微動だにせず、まっすぐ前を見て仁王立ちしていた。本当に屈強な男で、キャラメイクの時にステータスを全部パワーに振ったんだけどさすがにやりすぎだろうと思いとどまって1だけラックに振った、みたいな感じの男で、もしかしてこの寺に入りたかったらこの男を倒さないといけないシステムなのかもしれない。そうだったらどうしようとビクビクしながら通過したら普通に入れた。
境内ではなぜか「アイスクリン」というアイスを売っているお婆ちゃんがいた。どうやらこれ、高知名物らしい。左に写ってる爺さんはどうもこのアイスクリン屋の元締めみたいな立場らしく、お店が4時で終了すると店ごとお婆ちゃんをハイエースに乗せて撤収するような雰囲気だった。
冷たくて美味い。
もう一つの見所としては、このお寺の境内には徳光さんが寄贈した石碑がある。
ずいぶんと日が傾いてきたが今日の目標である36番札所まであと3つもある。急いで移動しなければならない。ここからは高知市を出て土佐市へと進む。ちなみに土佐市は立地的には鉄道が通っていてもおかしくない場所なのになぜか駅がない都市だ。よって駅メモでとるべき駅がない。
仁淀川を渡り土佐市へと入っていく。ちなみに仁淀川は奇跡の清流として有名な川だ。四国の清流というと四万十川が有名だが、この仁淀川は水質日本一にも輝いたことがあるらしく、ツウは仁淀川を推す、とまで言われるほどだ。
四国の川は全てが美しい。
土佐市入りし、案内されるままに次の札所、清滝寺を目指す。もうここまでくると第六感的な感覚が研ぎ澄まされていて、なんとか2キロくらい手前から次の寺のオーラみたいなものを感じられるようになる。もう雰囲気的に「次は山登りだぞ」と寺が語り掛けてくる感じになる。寺が近づくに連れてその山登りの瘴気は色濃いものになっていく。なんとなく、もう山登りなんだろうともう一人の自分が理解し始めるのだ。
そうなってくると、今度は「自転車を担いで山登り、しんどい」という邪(よこしま)な心が消え失せ、「山登り、尊い、ありがたい」みたいな感謝の気持ちが生まれてくる。
この門から山登りが始まる。ありがとうございます。今日も試練をお与えくださって。
この過酷な山道が何より尊い。もう感謝しかない。というか連日5時前は山登ってる気がする。
山門まで到達してもさらに過酷な階段が続く。
ありがたい。本堂まで到達し、感謝の気持ちを伝えておいた。
もう5時になり、日が暮れてしまったがあと1つ行かなければならない。山を降り、土佐市をつき切る形で南下していかなければならない。けっこう距離があるどころか、途中で峠を超えるらしい。峠を超えるということは山を越えるということである。ありがたい。
日が暮れそう。それでも僕は進まなければならない。
峠の途中で完全に日が暮れた。峠はなかなか過酷で、おまけに真っ暗だったけど、僕は愚直に進んでいくことしかできないので進んでいく。
峠を超えて坂を下ると、海岸に出た。この海岸から橋を渡って半島の先に行くと、そこに本日の目標の札所がある。あともう少しだ! 頑張れ! と思った瞬間、海岸沿いの静かな集落に爆音が轟いた。
ブワンウワンブワンブワン!
闇夜を切り裂く轟音、何事かと思ったら暴走族だった。暴走族が後ろから暴走して僕を追い抜いていく。カマキリみたいなハンドルをしたバイクや、新発売のテンガみたいなカウルをつけたバイクが完膚なきまでに暴走しながら僕の自転車を追い抜いていく。っていうか、絡まれたらどうしよう、ヒャッハー!こいつ自転車小さいぜーとか言いながら釘が刺さりまくったバットとかで殴られやしないかと気が気じゃなかった。
暴走族は30台くらいはいたのかな、数分は囲まれて走っていたのだけど、なんとか追い抜いて行ってくれた。助かったーって思ったのだけど、追い抜いたバイクたちの轟音が橋を渡り、向こう側の半島に渡ったかと思うと、明らかに僕が目指している寺があるであろうあたりで留まり、ずっとグワングワン言っていた。暴走族がお遍路をするわけないので多分あの辺にバイクとかが集まれるパーキングエリアみたいなゾーンがあるのだろうけど、また暴走族の中を通過すると思うと気が重くて仕方なかった。
僕も橋を渡って半島に入り、暴走族に絡まれていきなりジャックナイフとかで刺されても大丈夫なように持っていたヤングマガジンを腹に忍ばせて通過した。今週号のヤングマガジンはまあまあ分厚いので助かる。グラビアも充実していた。やはり暴走族たちは浜の駐車場みたいな場所でたむろしていたのだけど、なんとか目立たないように通過したので絡まれることはなかった。僕のヤングマガジンが火を噴くことはなかった。暴走族たちも命拾いしたものである。
真っ暗な大きな通りを海沿いに進んでいくと煌びやかな宿泊施設が表れる。そこから路地へと入っていって暗闇の中をしばらく走ると、目的の青龍寺がある。ただ真っ暗すぎて何が何やら分からなかった。山門を抜けて結構長い階段を経て本堂に行くのだけど、真っ暗すぎて何も撮影できなかった。唯一撮影できたのが下の方にあった偽の山門みたいな建造物だった。
どれだけ移動してもかわらず駅メモで取れる駅が「伊野」であるという恐怖。昨日の夜に行った東西路線の路面電車の終着駅だ。グレイ歌ったところだ。それはつまり、先の札所からここまで周囲に全く駅がないことを指し示している。どうすんだ、これ。
まじで真っ暗だった。
なんとか目標の36番までくることができた。これで札所巡りはかなり目途がついた格好となる。
ただ、今日は朝に路面電車の駅を取った以外に駅を取っていない。このままでは編集部にぶん殴られるので、最終日である明日は駅を取ることを中心に移動していきたい。また、この先の札所巡りは、37番はそうでもないが、38番が足摺岬の先端にあり、100キロくらいの移動を伴うので行って帰って来るだけ1日かかってしまう。さすがにちょっと取れないので最終日は札所巡りは37番までとし、駅を全てとった後に東京へと戻りたい。明日の動線を考えて高知駅まで舞い戻り、この日の移動を終了とした。
ということで4日目のまとめはこちら
路線
寺
総評
感謝の気持ちをもって山を登るべきである。
「駅メモ!」と一緒に旅にでかけよう!
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