【怪情報】”猫”が切り盛りする謎の焼きいも屋が鳥取にある……? 2時間くらい話を聞いてみた

鳥取県にある変わった焼き芋屋「山田三毛猫」をご存知ですか? 店主が猫の着ぐるみを着用したまま倉吉駅のメイン通り付近に立ち、甘くておいしい紅はるかの焼き芋を販売しています。以前は、猫のラーメン屋さんもやっていたんだとか。今回は、その謎の正体に迫るべく店主に2時間にわたって取材。変わった商売をしている理由が分かったような、聞けば聞くほど不思議な気分になってきて、やはり信じがたいというか……?

鳥取では、猫が焼き芋を売っているらしい……。

そんな怪情報を耳にした。

 

東京別視点ガイドでへんてこなスポットばかり紹介しているせいか、読者からときおり怪しげな噂がはいってくる。

いわく「電気がついてて人の気配もするのに、ドアが外からふさがれているスナック

いわく「タクシードライバーに女の子は絶対行かないほうがいいと止められる混浴温泉

などなど。

 

どこも現場に足を運んでみると、噂にたがわぬ怪しげな実態を持っている。

しかし、「猫が焼き芋を売っている」というのはどうだろう。ピクサー映画じゃあるまいし、そんな世界あるはずがない。どうせ誇張された表現だろう。せいぜい、店主の飼い猫がちょこんと荷台に乗っているだけ。

 

そんな想いを抱きつつ、出没エリアとされる鳥取県の倉吉駅前に向かった。

 

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いた。

 

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まごうことなき猫だ。

 

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猫が焼き芋を売っている。そう表現するしかない状況。

なんの誇張もなく真実そのまま、猫が焼き芋を売っていた。

 

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焼き芋の品種は紅はるか。甘いことでおなじみの安納芋よりもっと甘い、人気の高い芋である。

お値段は中300円、大400円、特大500~800円で相場と同じくらい。猫だが商売は手堅くしっかりやっている。

 

山田三毛猫

山田三毛猫のTwitterアカウント

Twitterアカウントfacebookページもある。

プロフィール欄の「現在ラーメンは休業していて、焼き芋の営業のみ」とはどういうことなのか。

謎に満ちたその正体が気になって取材依頼を出したところ、丁寧な返答があり、2時間も話を伺うことができた。どうやら紳士的な猫だったようだ。

 

 

寒空のもと、焼き芋を売る猫の話を2時間聞いた

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――あ、声、男性なんですね

山田三毛猫さん(以下、猫):ええ、オス猫です。

 

――見えにくくないですか

猫:目玉の面積がすべて視界なのでかなりよく見えます。

それから、このバイク、3輪なんでミニカー登録なんですよ。だからヘルメットもいらないんです。

自動車で移動するのもいいけど全身見えてたほうが目立つでしょ?

 

――なんか陽気な音楽かけて乗ってきましたよね

猫:Superflyです。好きなんで。
まったりした歌だとテンションが下がっちゃうので。ヴィーンってエンジン音で走るのは退屈ですからね、音楽かけてくるんです。

車体の色を黄色にしたのも、目立つしお客さんのテンションも上がるかと思って。白は地味だし、赤は消防車みたいだし、青は冷たいかんじでしょ。お客さんにも盛り上がってほしいので。

 

――たしかに、テンション上がってないと猫から焼き芋買わないかも。毛がもさもさしてるし温かそうですね。

猫:はい、猫スーツは仕上がってから猛吹雪の日、空き地に突っ立って試したんですけどぜんぜん大丈夫でした。

 

――吹雪の空き地にこれ立ってたら、妖怪だと思われますよ!

猫:そうかも~。逆に普通に寒いぐらいの日は暑くてしかたないので、空調服のシステムがついてます。全部自作でずっと手直ししてるんですけど、予算の関係で足首にまだ毛が足りてないんです。(※現在は完成済み)

5~6時間売ってると、のどが渇くので、ペットボトルぐらいは飲めるようにしてますし、芋ぐらいならパクパク食えますよ。

トレーラーを買う資金貯めて、ラーメン屋台やるためにこれやってるのに
「今よりもっと良くしよう!」っと改良しつづけちゃってて、儲けてるのか使ってるのかわかんないですわ!

 

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――もともとはラーメン屋さんだったんですか?

猫:そうです。まず焼き芋屋をはじめて、つぎに猫のラーメン屋台をやって。

そのあとに店舗も持ったんですけど儲かんないので店舗をやめて、去年12月末からは焼き芋一本ですね。

 

――猫の焼き芋屋さんは、初めて何年なんでしょうか

猫:5年くらいですね。冬しかできないですから、それ以外の時期はラーメン屋をやってました。

この前まで資金稼ぎにダンプの運転手をしてたんですけど、勤め仕事してるほうがお金かかるのが判明しまして。

お弁当代、通勤代、服が汚れるから洗濯代もかかる。朝早いし夜もおそい。ね?

現在はぼくが社長ですからねー。

こっちのほうが効率いい気がするんです。

 

――このスタイルでの営業、最初から受け入れられたんですか?

猫:都心ならまだしもこのあたりで、この格好で突っ立ってたら不審者だとおもわれまして。すぐ警察呼ばれました(笑)

 

――なんのこっちゃ分からないですし、そりゃ怪しみますね!

猫:まず言われたのが「免許証みせてくれる?」です。

でも誰がどんな目的でやってるか分かれば大丈夫になりました。その後はパトカーが通りかかってもスルーされてます。警官もけっこう優しいんですよ。

 

――なんでそうまでして猫でやるんですか?

猫:僕がもし女の子だったらビキニでやってましたね。でも女の子じゃないし。

というのも興味をもってもらえる3要素は「子ども、動物、セクシー」なんです。

そのうち、子ども、セクシーは僕には難しいけれど、動物ならできるんじゃないかと思ったわけです。

 

――なるほど、ビキニ代わりの猫

猫:初めたころは「怖い」「気持ち悪い」ってビックリする市民もいてウケなかったんだけど、だんだん慣れてくるようです。

案外、普通に人でやってたほうが商売としてスムーズに立ちあがってたかも!

ただアグレッシブな人を見分けることができるようになりましたね。猫から焼き芋買う人たちはアグレッシブです。だから、友だちになれる。常連さんもできる。

 

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焼き芋を買っていくお客さんたちはみんな楽しそうだ

インタビュー中にもお客さんが次々に現れる。こちらの2人組は大阪からやってきて、たまたまこのお店を見つけたそうだ。

「いま、そこの道歩いてて偶然見つけたんですよ! 『あ、猫や!』って言ったけど信じてくれなかった

「暗くて見えなかったし、猫が焼き芋売ってるって意味がわからなかったので」

と2人。そりゃそうだ、自分の目で確かめなきゃ信じられるわけがない。

「お友だちに説明するときに、写真がないと困りますもんね」と記念撮影にも気さくにこたえる山田三毛猫さん。

 

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猫だがお客さんへの礼を欠くことはない

一見さんだけでなく、常連さんたちもやってきた。

「あ、模様がリニューアルしてるー」

「ずいぶんお久しぶりです。娘が学校卒業したんですよ」

と会話をかわしては、焼き芋を買っていく。

もう、この人たちにとって焼き芋を売る猫は日常風景なのだ。

 

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――普通にしゃべるんですね

猫:しゃべらないと理解してもらえないので。商売なんで。

 

――1日どれぐらい売れるんですか

猫:1日で40個くらい。売り切れ次第終了ですね。人がたくさんいる町でもないから1日で売り過ぎてもしょうがないんですよ。

週に4日、17:00~22:00ぐらいでやってます。倉吉駅前のメイン通りから見えるとこにいます。不定休なんで、お客さんにとっては運だめしですね。

 

――会えたらラッキー

猫:本来、オスの三毛猫って自然界にぜんぜんいないんです。いたら数千万円の値段がつくぐらいの縁起物。会えたらラッキーですよ。

運が良くなるよって受験生に売りつけようかなー。芋はおつうじがよくなるし「よく通るよ」とか言って。

 

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中サイズを1つ買って食べた。寒空の下でずっと立ち話をしていたので、熱々の焼き芋が冷えた体にうれしい。

しっとりとしていて、すごく甘い。いや、これ、今まで食べた焼き芋のなかで一番うまいわ。

 

猫は自分の焼き芋についてこう話していた。

「いろんなところの芋を試した結果、1つの農家にたどりつきました。甘くておいしいでしょ。

ほんとの食べごろは明日の朝なんです。水分ぬけて冷えて固まると羊羹みたいな状態になるんですけど、そうなると甘くなるんですね。3日目なんて絶品です。色も半透明ですよ」

たんなるイロモノとして売れてるわけではない。焼き芋屋としての底力、半端じゃない。

 

 

「冒険するなら、みんなが絶対やりたくないこと」

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猫:お客さんもひと段落したし、一服してもいいですか?

――え、一服? あぁどうぞ……。

 

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猫:……はあ。

 

―― え~~~、キセル!

猫:……それにしても、やっぱりね。冒険、チャレンジするなら、みんなが絶対やりたくないことやるのがいいですよ。

 

――キセル吸ってる猫がそのセリフ言うの、めちゃくちゃかっこいい!

猫:20、30代で冒険するなら地元でやったほうがいいです。地縁のないとこだと、何をやるにもお金が必要になるけど、こっちなら友だちとか助けてくれる。

失敗してもやり直せる。借金できても最悪、親が何とかしてくれる。ただ、反対はされますけどね。

 

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芋をつつむ新聞紙にミケのスタンプがおされてる。障がい者施設に仕事の依頼をしているそうだ

猫:この商売、副業でできるのにやる人がいないんですよ。

だからって、こっちから募集しちゃうと「いくらくれるの?」って人しか来ないでしょ。自分から来てくれれば、やりかたも教えるし、猫のスーツだって作ってあげるのに。

さすがにこの町に2匹いたら儲からないけど、自分の町でやればいいですよね。どこに立てば売れるのか、考えながら歩いているといつもの町も楽しくみえるでしょ。作戦考えるの楽しいですよ。

 

――今までいるんですか、やりたいって言ってきた人

猫:同じことしたいって人が米子にいるんですよ。いま軽トラでやってますよ。この三毛模様はわたし1匹なので、彼はトラ模様にしてるんですけどね。

 

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――猫になるまえより猫になってからのほうが楽しいですか?

猫:こっちのほうが楽しいですよ。好きな時間に寝られて起きれて。

人を使ってたら思いつきをなかなか実行してくれないんです。でも1人でやってれば思ったことを自分で実行できるんで。

昔スナックで女の子に「水着でやってみない?」って言ったら「無理!」って断られちゃって。セーラー服ならOKだったんですけどね(笑)

ひとりでやってると思いついたこと、なんでもすぐできますよ。

 

――スナックやってたときもあるんですか! すごい手数。

猫:思いついたこと、なんでもやっちゃうんですよ。人のふところにさえ飛びこめればどんな商売でもやっていける。そこで自分なりのオリジナリティーを出せばいいんです。

……あ、この音は!  昔ラーメン食べにきてくれた人のバイクだ。

 

――いま通りすぎたバイクですか?排気音だけでわかるんですか?

猫:最初ぜんぜんこのスタイルがウケなかったんで、来てくれるのがすごくうれしかったんですよ。だから覚えちゃってるんです。

疑い深い人はなにを見ても怪しがるので。逆に、近づいてくる人はみんないい人なんです。

雨の日に捨て猫みたくニャーニャーって鳴いてたら同情して買ってくれるかな。優しい人たちばっかりなんで、その優しさにつけこんで売れるかも(笑)

 

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一服がてら熱い言葉を口にした猫は、バイクにまたがって夜の町に消えていった……。

 

 

◎取材、文章:松澤茂信(別視点代表)
◎写真:齋藤洋平(別視点カメラマン)

東京別視点ガイド@another_tokyo