高精細画像で楽しめる!海外美術館に存在する日本美術の傑作25選+α

皆さまは、アメリカやヨーロッパの美術館に国宝級の日本美術が多数存在していることをご存じでしょうか。

快慶、雪舟、俵屋宗達、尾形光琳、葛飾北斎……日本史の教科書にも載っている人たちの作品が、欧米の美術館で門外不出となっていることもあります。

なぜ海外に流出したのか? その波乱万丈なエピソードとともに、海外にある代表的な日本美術を紹介したいと思います。

米国ワシントンにある、最晩年(87歳)の葛飾北斎の貴重な肉筆画『雷神図』(1847年、ワシントン フリーア美術館蔵)

目次

なぜ国宝級の日本美術が海外にあるのか?

江戸時代以前から日本とヨーロッパの交易は行われていましたが、日本の美術品が最も大量に海外へ流出した時期といえば、やはり明治維新後です。

社会構造の変化により、「大名道具」と呼ばれた大名やその家臣たちの古美術品が大量に売り払われました。

また、政府による神仏分離令がきっかけとなり仏教排斥運動(廃仏毀釈)がおこり、仏教寺院が破壊されるとともに大量の仏教美術品が市場に出回ることになりました。

日本人の目は古いものよりも欧米の先進技術・知識に向いていた時代。

今からみれば捨て値同然で売られている大量の古美術品。

そんな宝の山を前にして日本人以上に日本美術にハマったのが、お雇い外国人や外国人実業家たちでした。

大森貝塚を発見したことで有名なお雇い外国人エドワード・モースや、その紹介で日本に来たアーネスト・フェノロサ、鉄道王チャールズ・フリーアなど、日本美術に開眼した外国人たちが日本の美術愛好家たちと交流しながら、稀代の日本美術コレクションを構築していきます。

彼らにとっては夢のような時代でした。

海外のどこにあるのか?

海外における日本美術の殿堂といえば、前述のモースやフェノロサ、ビゲローらのコレクションが元になったボストン美術館です。日本にもないような国宝級の傑作を所蔵しています。

次にフリーアが作ったワシントンにあるフリーア美術館。他にもメトロポリタン美術館や、ヨーロッパならギメ東洋美術館、大英博物館などが有名です。

そして、それらの美術館の多くがオンラインでもコレクションを公開しています。

コロナ禍で一層充実する、美術品のオンライン鑑賞チャンス

オンライン美術館といえば、GoogleのGoogle Arts & Cultureが有名ですが、2020年8月にはカルチュラル・ジャパンという、世界で公開されている日本美術の横断的検索サービスもできました。便利な時代になったものです……!

東京国立博物館に展示されていた神奈川沖浪裏/葛飾北斎

実際に美術館でみるのが一番なのは間違いないですが、ものによっては思ったより小さかったり、作品保護のため薄暗かったり、混雑してゆっくりと鑑賞できなかったりすることもままある日本美術。美術鑑賞って体力いりますよね……! 絵巻物や仏画なんかは特に。

その点オンラインだと高精細画像を使って、時間をかけてディティールまでじっくりと楽しむことができます。

この記事では、そんなリアルとは別の楽しみ方も見つけていければと思います!

著作権はどうなってるの?

作品紹介に移る前に、すこしだけ著作権のことを少しだけ話したいと思います。

オンラインコレクションにはパブリック・ドメインとなっていて商用利用可のものの他、個人利用のみダウンロード可のもの、ダウンロード不可のものがあります。

例えばメトロポリタン美術館はほとんどのものがパブリック・ドメインなので画像引用していますが、ボストン美術館の場合はすべて個人利用のみ可のため、画像引用せずにリンクを貼っています。リンク先でご覧ください。

ここからは日本美術の名品25選(+α)を紹介します!

筆者は『原色日本の美術』全30巻が1人暮らしの部屋に鎮座している程度に美術好きではあるのですが、そこは幅広く奥深い日本美術。大海をひとり筏で進むようなものなので、今回は『流出した日本美術の秘宝』(中野明著、2018年、筑摩書房)、『別冊太陽 海外へ流出した秘宝』(1987年、平凡社)、『在外日本の至宝』(全10巻、1979~1980年、毎日新聞社)などの参考文献をもとに紹介していきたいと思います。

それでも偏ってしまうところもあるかとは思いますが、そこはどうかご容赦を。

 

本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳など琳派の名品は海外に多数ある

1. 日本美術の海外代表、俵屋宗達『松島図』

海外に流出した日本美術として、まっさきに挙げられるのがこの俵屋宗達の『松島図』。

国宝『風神雷神図屏風』で有名な俵屋宗達ですが、幕末から明治にかけては忘れ去られた画家だったそうです。それを一足早く再発見したのがフリーアやフェノロサ、三渓園を作った原三渓、三井財閥を支えた益田孝などの先見性のある日本美術愛好家たちでした。日本にあったら国宝間違いなしと言われるこの傑作は、門外不出のフリーア美術館にあります。

このたゆたう波のリズム感!

激しいようでいて、陽光にあふれたおおらかな雰囲気がただようこの松島図に対して、ボストン美術館にある尾形光琳の『松島図』はより荒れ狂う波を表現したかのような作品で対照的です。

2. こちらも名品、俵屋宗達の『雲竜図』

「たらしこみ」と呼ばれるにじみを活かす技法をふんだんに使い、微妙な濃淡の差で描いた龍は、恐ろしいというよりはどこか柔らかく空間の広さを感じます。

また、琳派といえば本阿弥光悦が書、俵屋宗達が下絵を描いた『鹿下絵和歌巻』(シアトル美術館蔵)や、華やかな『扇面散図屏風』(フリーア美術館蔵)なども有名です。

3. 国宝『燕子花図』と並ぶ名作、尾形光琳『八ッ橋図』

国宝『燕子花図屏風』が有名な尾形光琳。誰もが一度は見たことのある絵でしょう。それと比較されるのが「伊勢物語」第九段を題材にしたこの『八ッ橋図』です。

同じカキツバタの反復を描いていても、真ん中を橋が通るだけで絵に緊張感が加わるというか、まるで別の絵になっていますね。むしろ熱海のMOA美術館にあるもう一つの国宝『紅白梅図屏風』に近い構成。

尾形光琳といえば、フリーア美術館蔵の『群鶴図』も、向かい合う鶴たちがシュールでインパクトの強い絵……!

4. どこまでも華やかな鈴木其一『朝顔図屏風』

鈴木其一は同じ琳派とはいっても俵屋宗達・尾形光琳から100年以上たった19世紀前半の絵師です。この『朝顔図屏風』は過去に行われた鈴木其一展(サントリー美術館)でメインビジュアルを飾った代表作。金地に朝顔だけというシンプルな構成なのに、この華やかさ。一方で派手すぎずどこかモダンな感じもして、この絵は本当に好きです。

あの快慶作品も!仏像の名品たち

明治時代初期の廃仏毀釈(仏教排斥運動)により、日本の寺院は大きなダメージを受けましたが、それでも仏像の傑作はほぼ日本にあります。逆に言えば海外はやや層が薄い。

その中で、特筆すべきはボストン美術館にある9世紀の『木造菩薩立像』でしょうか。最近国宝に昇格した唐招提寺の木彫群像によく似ていて、非常に珍しいものです。ボストン美術館と、のちにケルン東洋美術館を作るフィッシャー夫妻の間で争奪戦となったとか。

5. 快慶の『不動明王坐像』とボストン美術館の『弥勒菩薩立像』

快慶といえば運慶と並ぶ鎌倉時代を代表する仏師ですが、その作品の特徴はとにかくバランスがよく完成度が高いこと。3尺(約90cm)の小品が沢山残っています。

特に有名なのは快慶のデビュー作ともいわれるボストン美術館の『弥勒菩薩立像』ですが、こちらの不動明王もなかなかの作品です。怒っているようでどこか理知的な雰囲気がただよっていて良い……!不動明王って、実はおさげ髪なんですよ……!

実は、以前に東京国立博物館で開かれた快慶展でどちらも実際に見ましたが、高精細でみるとまた違った表情が見えてきますね。

6. プロポーションの良さが最高!鎌倉時代の『地蔵菩薩立像』

快慶もそうですが、鎌倉時代の仏像といえばリアルで力強い造形が魅力です。この地蔵菩薩は、横から見たときのあごを引いて胸を張った立ち姿が最高です。メトロポリタン美術館の人もさすが撮り方が上手い!(当たり前ですね)
日本にあったら重要文化財級でしょうか。

7. 奥出雲の廃寺からはるばるオランダへ。人気者になった『金剛力士像』

こちらの仏像、名だたる作品というわけではないのですが……、以前に観た『みんなのアムステルダム国立美術館へ』というドキュメンタリー映画で印象的に取り上げられていたものです。

奥出雲の山奥の廃寺にあった金剛力士像が、画商の手を経てオランダの国立美術館に新蔵される過程が描かれており、学芸員や観客に愛されている感じが伝わってきます。こんな第二の人生、金剛力士自身も想像してなかったでしょう。ミュージアムグッズにもなっているのだそう。

 

リアルよりオンラインの方がはるかに見やすい仏画

仏像に比べて仏画は持ち運びしやすいからか、日本にも存在しないような名品が海外にあります。

美術館だと暗く細やかでなかなか集中して観れない仏画。名品は主にボストン美術館に収蔵されているので画像引用はできませんが、ワンクリックして是非細部までみてください。

8. 日本にもそうそうない『宝楼閣曼荼羅』

この『宝楼閣曼荼羅(ほうろうかくまんだら)』は、密教で行われる宝楼閣経法の際の本尊で、日本でもその遺品は極めて少ないそうです。藤原期(平安時代後期、平等院鳳凰堂が有名)の優美な雰囲気が特徴だとか。

9.奈良時代の確かな仏画、『釈迦霊鷲山説法(法華堂根本曼荼羅)』

『釈迦霊鷲山説法(法華堂根本曼荼羅)』 奈良時代 ボストン美術館蔵

ボストン美術館では館外不出となっているこの仏画は、もともと奈良の東大寺にあったものです。以前は唐から招来したものだと考えられていたのですが、今では日本で作られたものとほぼ確定しているそうです。仏教絵画における大陸の強い影響がわかるという研究的意義でも大変貴重なものだそうです。それはそうと、お釈迦様の円満な顔が美しい……!

10. 岡倉天心が死ぬまで手放さなかった『大威徳明王図』

『大威徳明王図』平安時代 ボストン美術館

明治時代にフェノロサとともに日本美術の保護、発展に尽くしたことで知られる岡倉天心ですが、その後渡米しボストン美術館の中国日本部長に就任します。その要職についてからは、むしろ日本美術を積極的に買い集め、ボストン美術館のコレクションを充実させていきます。

そんな岡倉天心がこれだけは唯一、死ぬまで日本に置いておいた……というのがこの『大威徳明王図』です(天心の死後、ボストン美術館が遺族から購入)。国宝級の作品と言われています。

この時期に岡倉天心が集めた仏画は、『四天王(多聞天)/重命作』『毘沙門天』など名品揃いです。躍動感にあふれていてめちゃくちゃかっこいい……!

 

ロマンあふれるヨーロッパ輸出品、工芸・陶磁など

11. 圧倒的に派手!南蛮貿易で輸出された『草花鳥獣蒔絵螺鈿洋櫃』

螺鈿(らでん)は貝殻の真珠層を使った装飾技術のことで、洋櫃(ようびつ)は桃山時代~江戸時代にかけてヨーロッパへの輸出用に作られた大型の箱のこと。いわゆる南蛮貿易というやつですね。当時のヨーロッパ人好みに合わせて、和風かつ派手派手に作られています。このメトロポリタン美術館のものはその典型例。日本製の陶磁器とともに、ヨーロッパの宮殿をきらびやかに飾っていたようです。

留め金部分

面白いのがこの留め金。ここだけ西洋風の天使になっている……らしいのですが、あんまりかわいらしくないところがいいですね。変にぱっちり二重とかじゃなくてなんだか安心します。

12. 江戸時代に日本で作られた『ローマ景観図蒔絵額』

これもヨーロッパ輸出用の蒔絵(漆の上に金銀紛を「蒔く」ことで作られる伝統工芸品)ですが、主題が面白い!

おそらく向こうの注文で、こんなローマの風景を模写することもあったようです。“ササヤ”という銘が残っていますが、当時の日本の職人の目にはこの遠い異国の景観はどのように写っていたんでしょうか。

そういえば、この手の輸出用の工芸品の中にはフリーメイソンのマークが入ったものもあります。ロマンを感じます……!

13. 最初期の柿右衛門、『伊万里 柿右衛門 色絵花鳥文徳利』

上にあげた螺鈿や蒔絵の工芸品以上に盛んに輸出されたのは磁器です。沢山ありすぎて、どれを取り上げればよいのかわからないのも陶磁器……とはいえ、これは『在外日本の至宝 7巻 陶磁器』の解説で「メトロポリタン美術館で、最も貴重な磁器」と書かれています。

中国・明の滅亡による混乱・磁器不足がきっかけで世界市場をつかんだ伊万里焼ですが、中国の模倣から次第に独自の様式を作っていきます。

柿色の赤に緑・黄・青の上絵具を使う柿右衛門様式では最初期のもので、それゆえ貴重なものだそうです。

その他、アムステルダム国立美術館の長次郎作といわれる赤楽茶碗やフリーア美術館の光悦の黒楽茶碗など、わかる人にはわかる貴重なお宝が多数眠っているようです……!

 

めくるめく絵巻物の世界

日本一有名な絵巻物といえば鳥獣人物戯画だと思いますが。実はその鳥獣人物戯画の一部もブルックリン美術館に寄託されているのです……!寄託品なので残念ながらオンラインでは見れませんでしたが、他にも魅力的な作品が多数存在するようです。

14. ユーモラスな怪獣が楽しい『北野天神縁起絵巻』

北野天神縁起とは、菅原道真の出世と悲劇、その後もろもろあって神として崇められるまでを描いた物語です。見どころは地獄編で、のちに学問の神様とたたえられる菅原道真も醍醐天皇に対する恨みから結構やんちゃしていて、激しい描写が魅力的な絵巻物です。

この場面は地獄の四門の前にたたずむ僧・日蔵の目の前で怪獣が火を噴いているところ。この怪獣の造形に関しては、作者によって結構アレンジされているようで書いていて楽しかっただろうな、と思います。

15. 海外にある絵巻物の中でも最も著名な『平治物語絵巻(三条殿夜討の巻)』

『平治物語絵巻(三条殿夜討の巻)』鎌倉時代 ボストン美術館蔵(サイズが小さいので上の動画がおすすめです)

源平合戦の序章、平治の乱を扱った鎌倉時代の絵巻物の一部で、平清盛の不在時に藤原信頼と源義朝が後白河法皇の三条殿を急襲する場面です。保元・平治の乱はのちほど屏風としても紹介していますので、あわせてどうぞ。

この絵巻物は散逸しており、世界を探してみてもボストン美術館、東京国立博物館(国宝)静嘉堂文庫美術館(重要文化財)に一部が残るのみだそうです。

16. 戦前の文化財法にも影響を与えた、ボストン美術館の『吉備大臣入唐絵巻 (第一巻)』

『吉備大臣入唐絵巻 (第一巻)』平安時代後期 ボストン美術館蔵(サイズが小さいので上の動画がおすすめです)

吉備真備が遣唐使として中国へ渡った際、唐人たちから数々の難題をふっかけられるも、阿倍仲麻呂の霊(鬼)と協力して次々と突破していくという説話です。『在外日本の至宝 2巻 絵巻物』の解説には「唐文化に対するコンプレックスを裏返したともいえる」と書かれており、平安時代版「世界で活躍する日本人」みたいでちょっとほほえましいですね。

さて、この絵巻物が文化財指定されぬままボストン美術館に買われた“事件”は、「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」という文化財の国外流出を防ぐ法律ができるきっかけとなったともいわれており、その意味でもエポックメイキングな作品です(wikiにも簡単な経緯が載っています)。

 

雪舟から長谷川等伯、狩野派など……水墨画、障壁画の名品

水墨画といえば雪舟が有名ですが、雪舟の作品とされるもの(あくまで“伝 雪舟作”)も海外にはいくつもあります。その中でもフリーア美術館の『山水図』は『在外日本の至宝 3巻 水墨画』でも「雪舟作といってもよい」とされており、一見の価値ありです。雪舟といえば、京都国立博物館の『四季花鳥図屏風』がぞくぞくする作品でした……。

また、狩野派の基礎を築いた狩野元信作と思われる『白衣観音図』も、フェノロサが彼の最高傑作と称揚したボストン美術館の至宝のひとつです。

個人的に気に入っているのは単庵智伝の『鷺図』。かすかに不敵な笑みを浮かべているような鷺の姿がかっこいいです。

17. 雪村のユーモラスな『龍虎図』

雪村は16世紀に活躍した絵師で、雪舟よりも1世紀弱後の人です。この『龍虎図』はどうみても溺れているような龍と、それを見つめる虎の表情がユーモラスで楽しい……!龍を取り巻く雲も生きて触手を伸ばすかのような不思議な描写。

時代は違えど、長谷川等伯の『龍虎図』(龍図 虎図)とは大きな違いです。

 18. 海北友松の晩年の名作『月下渓流図』

『月下渓流図(右隻)』桃山時代 カンザスシティ ネルソン・アトキンス美術館

『同図左隻』

桃山時代の孤高の画家、海北友松の晩年の名作。オンライン画像であっても、漂う空気感がまるで違いますね。京都国立博物館で2017年にあった海北友松展のラストを飾ったそうで、自分は行けなかったんですが是非見たかった……。生きてるうちにまた来るんだろうか。

 19. 村上隆もインスパイアされた、狩野山雪『老梅図』

垂直に引き伸ばされたような枝ぶりが強烈なインパクトを残すこの『老梅図』は、若き日の狩野山雪が描いたと言われています。写実を超えて抽象化されたこの画風は、現代美術家の村上隆が金田伊功のアニメーションと関連づけ、スプラッシュペインティングという現代アート作品の元ネタになりました。

ちなみに狩野派といっても作風はそれぞれ、大英博物館にある『秋冬花鳥図』は華やか・こまやかでまた魅力的です……!

20. 京都の混乱を描ききる『保元・平治物語図』

後白河天皇と崇徳上皇の対立に源氏と平氏が絡んで大きな政変となった保元・平治の乱。この戦いをきっかけに、平清盛と源義朝(頼朝・義経の父)が存在感を高めていくのです。

その物語を右隻・左隻それぞれにまとめたのがこの保元平治物語図。豪華な画面の中に流血と残虐が生き生きと描かれています。1枚の中に時間経過を伴う諸場面が配置されているので、右から左へと読んでいくそうです。

保元の乱、白河殿の夜襲シーン

この手の屏風は、実際に美術館でみるとすごく体力がいるのですがオンラインならいくらでもクローズアップし放題!

上のシーンは、後白河天皇方についた平清盛や源義朝らが鳥羽上皇側の本拠地・白河殿に夜襲をかけるシーン。最初は劣勢の後白河天皇方ですが、手前の藤原家成邸に放った火が燃え広がり、勝利につながります。

江戸時代中~後期の諸派と浮世絵

この時代で今の一番人気といえば伊藤若冲でしょうか。ですが、ボストン美術館やフリーア美術館など戦前からのコレクションが中心の美術館には伊藤若冲は意外と多くありません。

そもそも伊藤若冲が再評価されたのは戦後になってから。それゆえエツコ&ジョー・プライスコレクションのように、美術館よりも今も存命の収集家による個人コレクションに名作が多いのです。

21. 江戸中~後期を代表する絵師、円山応挙の『夏冬山水図』と『虎図』

京都で活躍した絵師、円山応挙。『雪松図屏風』が国宝指定されるなど、江戸時代中期~後期を代表する絵師です。この『夏冬山水図』は湿度まで感じられそうな夏の夜と、怜悧な空気感ただよう冬の日中の対比が印象的。

また、円山応挙といえば虎。写生を極めた円山応挙ですが、本物の虎を見たことがなかったそうです。だから、虎の毛皮を手に入れて写生し、猫の動きと合わせて絵にしたそうです。実際に『虎皮写生図』という絵も残っています。

クローズアップすればするほど、その細密な描き込みに圧倒されます……!

22. 稀代のエンターテイナー、長沢芦雪の『海浜奇勝図屏風』

長沢芦雪といえば、伊藤若冲や曽我蕭白と並ぶ“奇想の絵師”のうちの一人ですが、もとは円山応挙の弟子のひとりで作品は大胆ながらどこか茶目っ気があるように感じます。白象黒牛図屏風のかわいすぎる犬が有名で、奇才というよりはエンターテイナーのイメージ。

荒々しすぎる奇岩が怪物のようにも見える実験的な山水画を描いたかと思えば…

こんなユーモラスな絵も描いています。

23. ボストン美術館といえばこれ!曾我蕭白の『雲龍図』    

『雲龍図』曾我蕭白 1763年 ボストン美術館蔵

奇想の画家、曾我蕭白。アクの強い画風と圧倒的な画力で有名です。個人的には曾我蕭白って、高円寺とか中野なんかの中央線的サブカルチャーの雰囲気をちょっとだけ感じます。

東京国立博物館のボストン美術館展のメインビジュアルに使われていたので、知っている方も多いのではないでしょうか。曾我蕭白といえば『蝦蟇鉄拐図』も有名。その人物描写に圧倒されます。

24. 葛飾北斎の珍しい肉筆画『富士に笛吹き童図』

『富嶽三十六景』などの版画は日本にも多数あるけど、この肉筆画はフリーア美術館にしかない貴重なものです。構図のダイナミックさと、富士山と少年の間の遠近感がシンプルにすごいなあと思います。

画狂老人卍

この画狂老人卍とは、北斎が最晩年に名乗っていた雅号(ペンネーム)。84歳とは思えないやんちゃっぷりに感動します。

25. 喜多川歌麿の希少な肉筆画『品川の月』と、浮世絵の代表作『鮑取り』

美人画で有名な浮世絵師・喜多川歌麿。『品川の月』として知られる肉筆画は、西洋の遠近法と日本の俯瞰視点がまじりあった3mを超える大作です。『雪月花』という三部作のひとつで、他二つである『深川の雪』は箱根の岡田美術館に、『吉原の花』はコネチカット州のワズワース・アセーニアム美術館にあるそうです。

最後にもう一つ紹介させてください。花魁、芸者、看板娘などの喜多川歌麿の十八番から離れ、田舎の海女さんの自然な姿を描いたのがこの『鮑取り』。

決めポーズをとる美人画もいいですが、この絵はより生き生きとした女性の姿が魅力的です。世界でも完好品はいくつかしかありませんが、そのうちの一つが東京国立博物館に存在します。

美人画といえばハワイにあるけど雪の中、鈴木春信の『雪中相合傘(ホノルル美術館)』も素敵ですね。

おわりに

ここまで長いことお付き合いありがとうございました。ですが、ここで紹介できたものはほんの一部です。

もしひとつでも気になる作品がありましたら、それをきっかけにご自身でお気に入りの日本美術を探す旅に出てみてください……!