それは編集部からの突然のメッセージで始まった。
SPOT編集部
「patoさん、patoさん」
pato
「なんですか?」
編集部からの問いかけはいつも突然だ。そして、いつもろくなことがない。
編集部
「新型コロナウィルス感染症の影響で非常事態宣言が発出され、外出自粛のステイホームが続きました。今はそれらが解除され、移動の自粛も解除され、徐々に経済活動を取り戻しつつあります」
pato
「そうですね」
編集部
「それでもやはり、まだ海外旅行は難しい状況と言えるわけです」
pato
「なかなか難しいですよねえ」
編集部
「そこでですよ! そんな状況を踏まえて、今回、済州観光公社様から提案があったわけなんです!」
韓国の南海上に位置する火山島、チェジュ島、その依頼を受けて2人のSPOTライターが独自の取材を敢行し、島の魅力を伝える記事を執筆したことは記憶に新しい。
雑に海外旅行に行ってみる in チェジュ島
【チェジュ島一周】48時間の旅におっさんが一人自転車でチャレンジしてきた
pato
「ああ、あの周囲200kmくらいある島を自転車で一周させ、なおかつ所持金は3万円という海外旅行とは思えない金額で、その半分くらいをしょっぱなに自転車レンタル代でぶん取られて、最後にカジノで負けた、あの旅ですね。飛行機で到着してから帰りの便に離陸するまでずっと自転車こいでたやつ、あれはまあまあ地獄でしたね。知らない国を夜中に自転車で走ってると怖いんですよ」
そんな地獄の案内人、済州観光公社、もしかしてまた自転車で一周してこいとか、一輪車で一周してこいとか、それとも泳いで一周してこいとでも言ってくるのだろうか。いいや、でもやはり今のご時世は海外取材なんて難しいし……。
編集部
「本当は是非とも竹馬でチェジュ島を一周して欲しいそうなのですが、このご時世、それも難しい、そこで我がSPOTが展開する「ひきこもり支援企画」を大変面白い試みと興味を持っていただいたんですよ!」
https://travel.spot-app.jp/hikikomori/
おでかけ支援サイトなのに取材に行けなくなってしまったピンチを打破するために期間限定で設けられたSPOT企画。1741市町村の日本一を家から一歩も出ずに調べるコタツ記事など、引きこもりならではの記事が更新されている。
編集部
「そこで!」
ほうらおいでなすった。また無理難題がくるぞ。くるぞ、くるぞ。
編集部
「引きこもり支援企画として、お家でひきこもりつつも、まるでチェジュ島を訪れているように島の雰囲気や美しい景色などに触れあえる、そんな記事をpatoさんに書いて欲しいのです」
pato
「引きこもりながら、チェジュ島を楽しむような記事?」
だんだんトンチ合戦みたいになってきた。家にいながらチェジュ島を巡って楽しんでいるような記事……。では、その屏風から虎を出してくださいなとか言いかねない雰囲気があった。
pato
「それには単に見どころとかを紹介する観光記事じゃダメですよね……」
SPOT編集部
「あたりまえですよ! さあ、何か考えてください!」
そんな元気いっぱいに無茶苦茶なことを言われても困る。
これはめちゃくちゃ難しいぞ。こんな無理難題を押し付けられるなら、竹馬で一周しろとかそういうやつのほうがマシかもしれない。とにかく、考えるしかない。一体どうやったらチェジュ島に行かずにチェジュ島の景色を楽しむことができるのか。考えに考え、ひとつの結論にたどり着きました。
そして出来上がったのが以下の記事です。
チェジュ島の恋
この記事は、次のページに行くのに謎解きが必要です。文章を読んでヒントを探しましょう!
謎を解き、真相に辿り着いた方には謎の景品が当たるキャンペーンに応募可能です。(応募期限 : 2020年9月25日まで)
※Googleストリートビューの他、検索などネットを利用して解いていただければ幸いです。
また、皆様に楽しんでいただけるよう、解いた方もSNSでのネタバレなどはお控えいただきますようお願いいたします。
ふと窓の外を見ると、まるで青い海に張り付いたかのように佇む大きな島が見えた。茶色の岩肌に緑の草原、ビルが密集する場所まである。
「まもなく、当機はチェジュ国際空港に着陸します」
韓国語のアナウンスのあと、日本語でそうアナウンス流れた。
飛行機はゆっくりと、まるで見せびらかすように島の上空を回った。海の上に楕円形を描くその島は、海の上に突如現れたかのように見えた。それほど唐突な存在感、海上に浮かぶ幻のような非現実感、それがこの島にはあった。
「ねえ、最初にどこ行くんだっけ?」
「ホテルに行って荷物置いて、それからツアーだろ?」
「あ、みてみて! 何か大きなスタジアムが見える!」
隣に座っていた女性が窓を覗き込みながら身を乗り出してきた。艶のある茶色い髪が揺れ、その隙間から白い楕円のイヤリングが見えた。目を輝かせながら眼下の島を眺めるその大きな瞳は、どこかミレイを思い起こさせるものだった。
この隣に座る彼女とチェジュ島旅行だったらどんなに楽しいだろうと思うが、残念ながらそうではない。彼女の無邪気な言葉は通路側に座る彼氏と思われる男に向けられていた。3人掛けの座席の一番窓際の席に居心地悪く体を押し込めている僕は、二人から見たら邪魔な存在でしかないのだろう。普段以上にシートを狭く感じた。
もう一度、眼下に広がるチェジュ島の景色を眺めながら考えた。
ミレイが突然姿を消した。
僕とミレイは付き合っていた。意を決したプロポーズをしたわけではないが、そろそろ結婚でもって意識している頃合だった。おそらくミレイ自身もはっきりと口に出さないまでも、同じ気持ちだったと思う。けれども、ある日を境に、急に連絡が取れなくなってしまったのだ。
メッセージアプリにどれだけメッセージを送っても「既読」すらつかない。電話をかけても着信音すらならない。ずっと電源が切れた状態のようだった。5日ほど経っても何も動きがなかった。
何かあったのだろうかと心配が募り、その気持ちが限界に達した頃、ミレイからメッセージが届いた。それは本当に突然のことだった。
「いまチェジュ島にいます」
ミレイからの言葉はそれだけだった。姿を消した理由の説明でもなく、弁解でもなく、ただそれだけだった。
チェジュ島!? あの韓国の?
すぐに頭が回転する。
たしかチェジュ島は韓国の南海上に浮かぶ島で、リゾート地だったはずだ。そんな場所にミレイがいる。仕事も、彼氏も放り出して何をしに!? すぐ頭によぎったのは誰か別の男と一緒じゃないか、ということだ。あまり考えたくないが、心変わりしたミレイが全てを投げだしてその男とリゾート旅行にいったんじゃないか。考えれば考えるほど、モヤモヤとしたどす黒い思考が渦巻き始めていた。
「誰かといるの?」
「いつ帰ってくるの?」
必死に呼びかけるが、返答はなかった。
「なにか嫌なことでもあった?」
それでも返答はなかった。どうやら、絶対に応答する気はないようだ。
とりあえず、いてもたってもいられなく、チェジュ島行きの航空券を調べていた。パスポートも準備した。何かあったら島まで文字通り飛んでいけるようにだ。
チェジュ島行きの飛行機は、海外へと行く路線なのでさぞかし高価かとおもったが、LCCを使えば意外にも安いことが分かった。これなら下手な国内線より安い場合もあるだろう。
それから2日経って、またミレイからメッセージが届いた。
「空港の到着ゲートを出て、目の前に見えるゲートの番号を押して」
もはや意味が分からなかった。それでも、ミレイの言う「空港」とはチェジュ島の空港のことなのだろう。チェジュ島に来れば何かが分かる。そう考えるしかなかった。気が付けば、下調べしておいた航空券を購入し、そのまま空港へと向かって飛行機に飛び乗っていた。
—————————–
航空機はゆっくりと旋回しながら徐々に高度を下げていく。上空からはラウンドアバウト(環状交差点)という円形の交差点がいくつか見えた。日本ではあまり見ないそれらの円形が行くつも見えたので、やはりこの島は外国なんだなと感じた。この場所にミレイがいる。彼女はいったい何を考えているのか。
「最初は三姓穴(サムソンヒョル)に行くツアーだよね?」
隣の女性がガイドブックを眺めながら彼氏に話しかける。また白い楕円形のイヤリングが揺れていた。
「なんか有名な遺跡なんだよな」
「なんかね、チェジュ島を創始したとされる3人の神様が出てきた穴だって」
「へえ」
楽しそうに笑う彼女の姿に、またミレイを重ねる。
飛行機はさらにゆっくりと高度を下げていき、滑りこむようにして着陸した。滑走路から見える景色は日本のそれとあまり変わらないような気がした。
——————————–
ずらりと並ぶ入国審査の窓口が目の前に見えた。これを見るとやはり外国なのだあと実感するものだ。
何度か海外にいったことがあるが、この入国審査はいつも緊張する。下手なことを答えてしまって入国拒否されたり、別室に連れていかれたり、大騒ぎになっては困るからだ。ある程度、頭の中でこう聞かれたらこう答えるとシミュレートして臨むが、実際にはそこまで根掘り葉掘り聞かれることはない。拍子抜けするくらいあっさりと通過できるので、こちらが不安になるくらいだ。
ただ、この「済州国際空港」の審査官は違っていた。ジッとパスポートを見つめる。パスポートの写真とこちらの顔を何度も確かめる。その回数があまりに多い。
「なにかまずいことでもしたのだろうか?」
急に不安になってきた。審査官はパスポートに書かれた署名の部分を睨みつける。
「高梁星夫?」
そう言って睨みつける。
「はい」
そう答えるとニッコリと笑いかけてきた。そして、そのまま別室に連れていかれることもなく、入国となった。
なんだったのだろうと思うが、それがこのチェジュ島独自の歓迎なのかもしれない。そんなことを考えながら、特に大きな荷物を預けたわけではないので、そのまま到着ゲートへと向かう。
「空港の到着ゲートを出て目の前に見えるゲートの番号を押して」
到着ゲートまでいけばミレイのあの言葉の意味が分かるかもしれない。その前に、ミレイの言葉が本当なら、いまこの島に滞在しているはずだ。ミレイに会って何があったのか直接聞けるのかもしれない。なんだかこの自動ドアがとても重厚で、これまでの世界とこれからの世界を分け隔てる重要なもののような気がした。
一瞬だけ立ち止まり、それから国際線到着ゲートを出る。ハイジャック防止の観点から、この自動ドアは一度外に出ると引き返せない。ドアにもそう書かれている。ただただ意味深に「引き返せない」という言葉が心の中で反響した。
そこには送迎の人々がたくさん立っていた。手にはホテル名や会社名が書かれた紙を持っている。その後ろに、ゲートの番号が書かれた看板が見えた。
黒い看板に黄色い文字で書かれたその番号は、まさしく到着ゲートを出て目の前にあるゲートの番号だ。ただ、ミレイはその番号を押せという。
「とても届かないだろ」
ドアの頭上に掲げられたその番号を押すことはおそらく不可能だ。
「どうしろっていうんだろ」
到着した客も消え、迎えの人々も消えた到着ロビーで、ただ呆然と佇むことしかできなかった。
※この記事は、次のページに行くのに謎解きが必要です。”文章を読んで”ヒントを探しましょう!
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Googleストリートビューで、済州島国際空港の到着ゲートを探してみよう!
https://www.google.co.jp/maps/@33.5061626,126.4923811,2a,75y,289.85h,86.94t/data=!3m6!1e1!3m4!1s5ZTQiciYMlMAAAQvyATsQA!2e0!7i13312!8i6656
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