【チェジュ島一周】48時間の旅におっさんが一人自転車でチャレンジしてきた_PR
ライターのpatoさんに、韓国チェジュ島の一周旅行に行ってもらいました。(読了目安 : 30分)
この記事は済州観光公社の提供でお送りします。
1日目 10:00 関西国際空港
みなさんこんにちは!
今日は関西国際空港にやってきています。なぜこんな場所にいるかというと、これから飛行機に乗って韓国はチェジュ島に行くことになっているのです。
チェジュ島とは韓国の南に浮かぶ火山島で、韓国内でも南に位置する島であることから「南国リゾート」「韓国のハワイ」と称されるリゾートアイランドです。日本から見た場合、長崎より先の海上に浮かぶ島であり、沖縄などと比べてそこまで南にある島というわけではありません。けれども、飛行機を使って2時間程度でいける外国、ということで人気のある島です。島全体の人口も67万人と多く、総面積も大きく、だいたい沖縄本島の1.5倍ほどあります。
では、なぜそんなチェジュ島に行くことになったのか、話はそこから始まります。長くなりますが是非とも聞いてください。あれはSPOT編集部から突然すぎるメッセージが来たことから始まりました。
SPOT編集部
「patoさん、チェジュ島に行きましょう! 今回、済州観光公社さんからの依頼で観光記事を書くことになりましたよ!」
いつもながらテンションの高い編集部は危ない。
pato
「いやですよそんなの。だって今まで観光記事なんてなかったじゃないですか。理不尽に歩いたり理不尽に電車に乗ったり、そんなのばかりじゃないですか!」
SPOT編集部
「今回は大丈夫です。歩いたり電車に乗ったりはありません。正真正銘、チェジュ島を周ってもらって記事を書いてもらいます」
pato
「まあ、それならいいですけど……」
こういったやり取りがあった上で、チェジュ島へと行くことになったのです。
チェジュ島へは成田空港や関西国際空港から直行便が出ています。しかも僕がこれから乗るティーウェイ航空という格安航空の場合、なんと往復で3万円もかからないという格安さ。これなら国内のちょっと遠い場所に行くより安いというものです。
そんなチェジュ島への旅ですが、僕はちょっと心をときめかせている部分がありました。編集部の話が本当ならば、ついに観光記事を書けるのです。足が壊れるまで歩いたり、人知を超えた時間を電車に乗って過ごしたり、そういったことをせずに、観光名所を周って紹介する記事が書けるのです。これはもう胸がワクワクしてくるというものです。
なんなら、ちょっとグルメレポーターの練習とかしてましたからね。チェジュ島の名物とか出されて、それを口に含んで「とろけるような味わい、だけど芯がしっかりしている味」とかワザとらしくない感じで言う練習とかしてました。それだけこのチェジュ島の観光記事に賭けていたのです。もう一度言います。この観光記事に賭けていたのです。
ということで行ってまいりましょう。観光記事の島、チェジュ島へ。
今回の旅のルールです。
チェジュ島の旅ルール
・制限時間は48時間
・所持金は3万円とする
・チェジュ島を周って名所を紹介する
これだけです。まあこんなのあってないようなものですよ。これは完全に観光記事ですからね。観光記事にルールはいらない。あれは苦行とかに課されるものだ。
ルールなんて必要ないのですが、まあ編集の都合で必要なのでしょう。制限時間48時間というのは、完全に「週末に気軽に行けるチェジュ島」を意識してのことでしょう。三連休を利用したり、土日に有休を足したりすれば、ゆうに旅行できる場所、というPRですね。
そして、所持金3万円というのはちょっと気になりますが、まあ、チェジュ島に行けば済州観光公社の人が出迎えてくれるらしいですからね。僕の旅で出迎えがいるって初めてのことですからね、その現地の人が色々と段取りをすると思うので、お金を使うことはほとんどないのかもしれません。まあ、完全に観光記事ですわ。3万円はお小遣いってことですかね。
さて、出国審査を終え、いよいよ飛行機へと乗り込むわけですが、まずは所持金の3万円を韓国ウォンに変えておきましょう。
所持金 30,000円→ ₩270,000
韓国は日本でいうところの5千円札が最大の紙幣で、100円札まであるので、使いやすいように小さい紙幣も混ぜて両替してもらうと札束みたいになるので金持ちになった気分がします。
さあ、いきましょう。観光記事の島、チェジュ島へ。
チェジュ島へは関西国際空港から2時間ほどのフライト。位置的には長崎よりちょっと先、という位置にある島なのであまり遠い気がしません。
12:10 ティーウェイ航空 関西空港発 チェジュ島行き
機内でも胸をときめかせます。色々ありましたけど、ついに観光記事を書くまでになったのです。今回はよく分からないきついことなんてあり得るはずがない。そもそも今までの旅はあんなもの旅じゃない。苦行だ。普通に観光名所を周って名物などを食べる、これこそが旅だ。
「とろけるような味わい、だけど芯がしっかりしている味」
機内でブツブツと練習します。そんなことをしていたらあっという間でした。
島が見えてきた。
航空機はまるで見せびらかすようにチェジュ島上空をぐるっと一周して着陸態勢へと入っていった。地図で見るとけっこう小さい島なのかな、って思ったけど、こうやって見るとなかなか大きい島だ。この島でいったいどんな観光記事が待っているのか。
済州国際空港に到着し、入国審査などを終える。あまりに胸がときめきすぎて入国審査で不愛想な審査官に「へへ、これから観光記事書くんスよ」とか言いそうになった。
さらに、もう一つの事実が僕の胸をときめかせていた。到着ゲートを出ると現地エージェントとして済州観光公社の方が待っているということだった。先ほども言ったが出迎えがあるなんて僕の旅で初めてのことだった。いつもは勝手に行って勝手に取材してこいやと地獄に放り込まれるが、出迎えがいるのだ。
到着口でよく見る「pato様」とか紙を持ったエージェントが立っているに違いない。いつも到着ゲートで見ていた光景だが、今度はあれを自分が体感できるのだ。いよいよ観光記事だ。ワクワクする。
到着した。どこだ。エージェントはどこだ。
いねえええええええ。
「pato様」とか紙を持った人が気配すら見せない。いるのは「チェジュ島観光ツアーご一行様」とかそういう紙を持った人ばかり。本当に誰もいない。本気で誰もいない。
「もしかしてこれは手の込んだ壮大なドッキリなのでは?」
黒いモヤモヤとした疑念が心の中を支配する。あいつ、観光記事だって言ったら飛行機に乗ってチェジュ島までいきやがったぜ、ギャハハ、みたいな感じになってSPOT編集部内で盛り上がっているのでは? そんな考えが浮かんでは消えていく。
というか、外国の空港に放置されるとむちゃくちゃ不安になってくる。一応、他にも出口があるのかもしれないと空港内をうろついてみるけど、やはり到着口はここしかなさそう。どうするべきか。勝手に街に出て行って観光記事を書くべきなのか。それとも帰りの飛行機をとって日本に引き返すべきか。
いたああああああああ!
最後にもう一度到着口を見てから次の手を考えようと思っていたら、いました。まさかこんなに早く到着するとは思わず、紙を出していなかったみたいです。よかった、本当によかった。観光記事を書ける。
「こちらです」
現地の人はめちゃくちゃ日本語ができるので大安心。これはなかなかいい観光記事が書けそうですよ。
「先日まではヨッピーさんがきてましてね」
「へえそうなんですか、どうせサウナはいったんでしょ」
「たぶん入ってますね」
「あの人、血液の半分がサウナでできてるから」
そんな会話をしながら空港の外へと出ます。
「こちらです」
お、迎えの車が来ている。まずは到着したばかりだから休憩の意味でもどこか手軽な店で腹を満たしたいものですな、それからゆっくりと観光記事の取材を始めましょうや、などと考えていたら、なにやら様子がおかしい。
迎えの車の屋根に自転車が乗っとる。それもけっこうスポーティーなやつだ。
もしかして、ドライバーさんの趣味だったりするのかな。ドライバーの仕事をしつつ、ちょっとした空き時間や待ち時間に自転車に乗って楽しめるように乗せているのかな。もしかしたらけっこう公私混同するタイプの人なのかもしれない。まあ、観光記事書くのに支障はなさそうなんでいいんですけど。
なんか自転車を下ろしてガチャガチャしはじめる。現地エージェントの人も手伝ってガチャガチャしはじめる。おいおい、趣味の自転車はあとでやってくれよー、本当に公私を区別できないのかな、こいつはちょっと困ったなあ。などと考えていると自転車に乗るように指示される。
え? なんで? あんたらの自転車だろ? なんで僕が乗るの?
自転車にまたがる僕の姿を見てドライバーの人が何か言っている。すぐさまエージェントの人が通訳してくれる。
「サドルをもう2センチ上にあげて調整します。お待ちください」
なんで? なんで? なんで僕に合わせて調整してんの? 観光記事に自転車いらなくない? 頭の中でクエスチョンマークがたくさん出てきてボワンボワン動いていた。
「スタート地点まで移動しますので」
そんな訳の分からないことを言われ、調整が終わった自転車がまた車の上部に乗せられ、僕も車に乗るように指示された。そのまま空港横の、何もない殺風景な場所へ移動することになった。飛行機の騒音に混じって銃声をかき消し、人とか殺しそうな場所だ。
「この島には“一周道路”というサイクリングコースがあります。この青いラインを辿れば島一周できますので、頑張ってください!」
何かめちゃくちゃ訳の分からないこと言ってる。エージェントの人、日本語喋ってるのに外国の言葉みたいに何言ってるのか分からない。とにかく、どういうことか問いただします。
「え、どういうことですか?」
それを受けて現地エージェントの人が実に不思議そうな表情をして言うわけですよ。
「今から自転車に乗って48時間で島一周してもらいます」
「は?」
「今から自転車に乗って48時間で島一周してもらいます」
「は?」
あまりにも意味不明すぎて同じやり取りを2回繰り返してしまった。
どういうことかちょっとわからないのですが、いま飛行機で着いたばかりなのに、帰りの飛行機までの48時間、自転車を使ってチェジュ島を一周するらしいです。なんで?
すぐにSPOT編集部にメールで問いただして、おかしいじゃないか、言ってることが違う、話が違う、観光記事じゃないのか、と詰め寄ったのですが、返事はとても無慈悲なるものでした。
SPOT編集部
「ちゃんと言ったじゃないですか。“チェジュ島を周って”って言いましたよ」
そうかー。周るってそういう意味かー。あー、それならば仕方がない。仕方がないなー。最初から言われていたわ。
ということで普通の観光記事は書けないらしく、自転車でチェジュ島を一周するようです。沖縄本島の1.5倍あるというこの島を。こうして、いつものごとく旅のルールが設定されました。
チェジュ島の旅、新・ルール
・帰りの飛行機ギリギリの48時間でチェジュ島を一周する。(約234 km)
・基本的に一周道路を通るが、途中に設定された10個のチェックポイントを通ればよい
・所持金は30,000円(₩270,000)とする。
そうかー、最初に「周って」っていってたか、それならば周らなきゃだなー、とついに旅を始めることになったのです。
時間制限48時間もきついけど、所持金制限₩270,000もきついなー、宿泊や食事を考えたらかなりきつい、うまくやりくりしないと、と考えていました。しかし、そこにさらに追撃です。
「出発前に、自転車のレンタル代を先払いしてください」
ああ、そうか、この自転車レンタルなのか、ドライバーの人は自転車レンタル屋さんなのか、じゃあ3日分払わないといけないですな。
「いくらですか?」
「₩128,000です(13,000円くらい)」
所持金₩270,000→142,000₩
ひええ、いきなりめちゃくちゃ所持金が減った。いけるのか、これ。これで宿泊と食事いけるのか。
「お気をつけてー!」
そんな言葉を交わして現地エージェントの人とドライバーと別れる。結局、また一人で苦行をするのか。
時間は間に合うのか。そして金は足りるのか。そもそもなんでこんなことをしなきゃならないのか。そんな多くの不安を抱えつつ、チェジュ島一周サイクリングの旅がスタートしたのだった。
15:00 済州空港脇
走行距離 0 km
残り時間 48時間00分
残り距離 234 km
残り所持金 ₩142,000
この道路の右側にある青いラインがチェジュ島一周道路の目印のようだ。とりあえずこれに沿って進んでいき、第一チェックポイントである「エウォル地域」という場所を目指す。
空港の横を走るコースだ。チェジュ島に入るには飛行機とフェリーがあるが、かなり盛んに航空機が出入りしているようで、ガンガン航空機が着陸してくる。5分に1本はありそうな感じなので、かなりのものだ。
かなり間近を飛行機が通る。
しばらく走るとすぐに海沿いの道に出てしまった。景観を楽しむようなちょっとした公園と石碑があったりする。
まあ、石碑はハングルとかで書かれているので基本的に何書いてあるのか分からない。
走り出して30分くらいして気が付いたのだけど、チェジュ島、おしゃれなカフェが異常に多い。海沿いに居並ぶようにして当たり前のようにおしゃれなカフェが存在する。もしかしたら人口当たりのカフェの数が世界一なんじゃないかと思うほどにカフェが存在する。
比較的立派な道路が島を一周するように走っていて、青いラインで示されるサイクリング一周道路は基本的にその道路を通るのだけど、海岸線がある場合はそっちのほうに延びていたりする。漁港だとか海水浴場だとか、住宅地だとか、幹線道路を離れて海岸線に誘導されることが多いので、素晴らしい景観や観光的な見どころを逃すことないようなコース設定がされている。青いラインを辿っていれば間違いないが、かなり遠回りを強いられることが多々あるようだ。
あと、普通に走っていても突如として青いラインが消えたりするので注意が必要だ。その場合も大体の方角を見失わないように、常に海を右手に意識していればいつかは青いラインに合流するので焦る必要はない。この島を反時計回りに一周する意識さえ持っておけば大丈夫だ。
ちょっとインスタ映えしそうな海岸線を走る。気候もちょうどよく、寒くもなく、暑くもなく、気分が良い。
人類は海岸線の絶景を見るとよく分からない石碑やオブジェを建てたくなる習性がある。つまり、こうして海岸線ばかりをひた走っているとそういったオブジェを数多く目にすることになる。これもこのコースの醍醐味だろうか。こういった石碑は無数にある。
海女さんの金色像などもある。チェジュ島の水産業は海女さんによって支えられてきた歴史があるようで、こういったオブジェが数多い。
これにいたってはちょっと何を表現したいのか分からなかった。
青いラインは大きな道路を外れ、港町の方へと延びていった。雰囲気としてはかなり日本の漁港に似ている。幹線道路だけでなくこういった場所も走ることになる。
漁港で獲れる海産物を食べさせる店が軒を連ねる。その通りを抜けると、海沿いに作ったちょっとした公園みたいな場所に出た。
完全によくわからんオブジェだなこれ。なにがしたいんだ。赤い服のヤツ、ブリーフでとるし。だいたい、顔をリアルに作りすぎだろ。
しかも、その横にはさらに似たようなオブジェがあったりする。
ああ、なるほどね、昔ながらの遊びをする子供たちをモチーフにしたオブジェなんだな、これ。たぶんメンコみたいな遊びをしているところなのだろう。それにしても、顔をリアルに作りすぎだろ。
なんかめちゃくちゃムカつく顔してる。ここまでしなくてもいいだろ。
めちゃくちゃムカつく。
くわー、ムカつく。
とにかく表情の作りこみがすごい。なんでこんな真に迫った人形を作るんだ。
あ、ブランコある。しかもそこにも人形が置いてある。くわー、これもムカつく顔してるわー、みてよ、あの顔、とか思ったら、普通に生身のおっさんだった。本物のおっさんが海を見て佇んでいた。
気を取り直して先に進む。見失っていた青いラインがいつの間にか復活していた。
チェジュ島は火山活動によってできた火山島とされている。島の中央にあるハルラ山は韓国最高峰で、それを取り巻く島々の地形も火山性のそれである。切り立った山々や、荒々しい断崖絶壁、こういった岩場の海岸線などが見ることができる。
海岸線のいたる場所は観光用に整備されているのか、綺麗になっている場所が多い。さらには、そう言った場所は必ずと言っていいほどアベックがいる。どうやら韓国の人はハネムーンでチェジュ島に来ることが多いらしく、おまけに恋愛ドラマの舞台になったりするし、おしゃれなカフェが多いしで、恋人たちの恋愛スポットとしての側面もあるようだ。
チェジュ島とは愛の島なのだ。
そんな愛の島を自転車で爆走する小汚いおっさん、これほどまでに悲しい存在もそうそうない。
しばらく進むと、砂浜のある地形に出た。ここはちょっと変わっていて、海岸線は砂浜なのだけど、それを取り巻くように岩場が形成されている。なぜかそこに中国からの旅行客みたいな人たちが旗を持って撮影していた。
熱烈な政治的アピールだったらどうしようかと思ったが、たぶんなんか青春の1ページ的な撮影なのだと思う。旗に何書いてあるのかわからないけれども多分そうだと思う。
これは完全に青春の1ページでしょ。ドラマで言ったら最終回の1回前くらいの回のエンディングでしょ。
旅の指針となる青いラインはそこまでしっかり描かれているわけではなく、交差点などでは途切れがちである。そこで見失うことが多々あるので注意されたい。僕のように見失うと、こんな道路なのか私有地なのかよく分からない場所を通過することになる。
馬がいた。
なんてことはない、ただの道路の脇の三角地みたい場所に普通に馬がいた。
基本的に、チェジュ島を訪れる人は海岸で佇む傾向がある。なんてことはない海岸であっても、必ず誰かが佇んでいる。ある意味、絵になる風景がずっと続くのがこの島の特徴だ。
海岸線に出ると、またもやインスタ映え感のある道路へと出た。どうやらこのへんはNAEDO(ネド)とかいう場所らしい。
めちゃくちゃオシャレなカフェもある。
15:38 NAEDO(ネド)周辺
走行距離 8km
残り時間 47時間22分
残り距離 226 km
残り所持金 ₩142,000
まだまだ先は長い。第一チェックポイントにすら到着していないので愚直に先に進むだけである。
この辺りのコースは海辺を走ったり、やや内陸の幹線道路を走ったりと交互に繰り返すコース設定になっている。微妙に遠回りしている感じすらしてくる。
また海辺の通りに出ると、ちょっと不思議な光景に出くわした。
海と道路を仕切る岸壁があるのだけど、その上に洗面器が並べられている。インスタ映えを狙った何かなのかと思ったけど、なんか本格的に水を溜めている気配がある。
ちょっと狂気を感じるレベルで洗面器が並んでいる。なんなんだろうな、これは。まあ考えても解決しないのでとにかく先に進もう。
こういった自転車一周の旅などの場合、トイレの問題がつきまとう。これが日本だった場合は、我々は勝手知ったるなんとやらで、どういう場所に気軽に使えるトイレがあるのか知っているのでそこまで困ることはないが、外国の場合は話が別だ。
僕もその辺の部分が心配だったが、このサイクリングコースにはかなりの頻度で公衆トイレが設置されている。それもかなり綺麗なもので管理も行き届いている。だからトイレの心配とはほとんど無縁だ。
さらには、こういったよく分からないちょっとゴージャスな東屋みたいなものも随所に整備されている。
海岸線を離れて大きな道路へと出る。相変わらず青いラインを頼りに進むのだけど、大きな道路へ出ると車がかなりの勢いで走っているのでちょっと怖い。ただ、自転車や歩行者に対する車からの意識はなかなか高い。
どういう理由か分からないが、チェジュ島は信号のない交差点がかなり多い。これは信号必要なレベルでしょ、といった交差点でも普通に信号なしの場合がある。そのぶん、車は歩行者や自転車に気を配っているので、日本で自転車に乗るよりないがしろにされている感じはない。自転車の横を通る時はそこまでやるかというレベルでスピードダウンしてくれたりする。
この標識がサイクリングロードを示す重要な標識となる。こういった曲がり角以外でも、休憩ポイントまでの距離を示していたりするので青いラインと共にかなりの指針となる。
日が傾きつつあった。そういえば、12時発の飛行機に乗り、到着してからあれよあれよと出発させられたので、昼飯を食べていない。どうりで腹が減るわけだ。もう夕方とも呼べる時間だけど、昼飯を食べるしかない。
なにか次におしゃれなカフェがあったらそこで食べよう。そう決意して自転車を進ませた。
よく分からないUFO型のレストランがあった。どうやらエビを食べさせる店らしい。エビとUFOの繋がりがよく分からない。ちょっとエビな気分じゃないし、なぜか店の前で屈強な軍人みたいな人が腕組みして仁王立ちしていて怖いのでやめておいた。
しばらく進むと、無難そうなおしゃれカフェが出てきた。
これがおいしそう。何の料理か分からないけどタコ焼きみたいな感じじゃないかな。
店に入ると、韓国の葉加瀬太郎みたいな店主がお出迎え。チェジュ島はけっこう日本語が通じる人が多かったりするのだけど、ここは英語も日本語もほとんど通じなかった。身振り手振りでお目当てのメニューを注文するのだけど、
「それは品切れ」
みたいなジェスチャーを連発される。じゃあなにがあるんだよ、と聞きたかったけどジェスチャーで伝えるのは困難なので、もう好きにしてくれというオーダーをした。
それで出てきたのがこれである。
どうやらご飯とチキンを混ぜたものをコショウを中心に味付けしたチャーハンのようなものらしい。これが実に美味かった。これで値段は₩7,000ほど。お安い。
「とろけるような味わい、だけど芯がしっかりしている味」
そう呟いてあっという間に平らげる。さあ元気出して進んでいこう。まだまだ先は長い。
16:26 JEJU PAPA (CAFE)
走行距離 18 km
残り時間 46時間34分
残り距離 216 km
残り所持金 ₩135,000
先の方にLPGのタンクが見えた。どうやらあのあたりが第一チェックポイントである「エウォル地域」のようだ。
第一チェックポイントであるエウォル地域は、エメラルドグリーンの海が広がり、おしゃれなカフェがあったりするチェジュ島で話題の地域らしい。韓国ドラマの舞台になったカフェなどもあり、完全なるトレンディスポット。あそこまで行けばとりあえず第一チェックポイントクリアだ。
16:51第一チェックポイント「エウォル地域周辺」
走行距離 20.6 km
残り時間 46時間9分
残り距離 213.4 km
残り所持金 ₩135,000
別に「おいでませエウォル地域」みたいな看板があるわけではないので定かではないが、いくつかおしゃれなカフェが立ち並んでいるので、おそらくこの辺がそうであるはずだ。もしかしたらそういう看板があるのかもしれないけど、基本的にハングルなので何も分からない。まあ、ここが第一チェックポイントでいいだろ。景色綺麗だし。
さて、次のチェックポイントは「ヒョプチェ海水浴場」という場所らしい。チェジュ島で随一の美しい白浜の景観を誇る場所で、夕日の名所としても有名なようだ。現地エージェントが作成したチェックポイント地図によると、「夕日が綺麗なのでぜひ!」と書いてある。
もう間に合わねえよ。もう日が沈む。到着するころには完全に日没しとるわ。
それでも進むしかないので出発する。
まっこと恥ずかしい話なんですけど、ここまで自転車で20キロくらい走ってきて、なんか違和感あるな、なんか変だな、何かおかしい、いつもと勝手が違うぞ、と思っていた理由に初めてここで気が付いた。
韓国は右側通行だ。
だからなんか違和感があると思ってたんだよな。車が通る場所が逆ということは、自転車に乗りながら注意を払う方向も逆だということです。むしろなんで今まで気が付かなかったんだ。
けっこう足がパンパンになってきたのだけど、走っていると漁港みたいな場所に出た。ここまでずっと青いラインを頼りに走ってきたのだけど、漁港に入るとなぜかその青いラインが2本になっていた。ちょっとパニックになったな、これは。
漁港にはめちゃくちゃド派手なトラックがいた。なんて書いてあるのか分からないけど、たぶんその勢いから見るに、「激安!」とか書いてあるんだろう。
トラックではミカンとかリンゴとか売っていた。ミカンとはかなり優秀な食べ物で、こういった旅においても所持しておけばちょっと出して食べることができるし、喉の渇きと空腹を同時に紛らわすことができる。ちょっと買っておこうかと思ったけど、周囲に店の人がいない感じなのでやめておいた。売る気があるのかないのか全然分からないトラックだ。
漁船に明かりが灯り始めた。イカ釣りかなにかをするのか、煌々と明かりが灯る。いよいよ夜の気配がやってきた。闇の中を自転車で走るのはかなり怖いので、なるべく明るいうちに先へと進みたい。
サイクリングロードを進んでいると、こういった標識があったりする。ハングルは読めないが、自転車を停めてもいいぜ、という標識だと思う。
そこにはこういう設備があって自転車を停められるようになっている。なかなかいい設備だね、と近づいてみる。
無残。できればあまりここには停めたくないな。
さらに先へと進む。
島が見えた。離れ小島だ。
現地エージェントによる前情報によると、第二チェックポイントである「ヒョプチェ海水浴場」は「ビヤンド」と呼ばれる離れ小島が見えるらしい。あの島はその離れ小島だろう。つまり、あそこまでいけば第二チェックポイントとなるわけだ。
あれ、もしかして夕日に間に合う?
絶対に間に合わないと思ったが、夕暮れ感が出てからの時間が思いのほか長かった。もしかしたらこういった島は、周りに何も遮るものがないわけだから、傾いてからの日が異様に長いのかもしれない。これならば間に合うかも。夕日の名所で夕日を見ることができるかもしれない。急げ!
たぶん、「右に曲がればヒョプチェ海水浴場だよ」と書いてあると思う。やばい、間に合う。夕日に間に合ってしまう。
ついたー!
間に合った、のか?
西の空はまだ明るく、時間的には間に合った気がするけど、その夕日がある場所には厚い雲がかかっていてよく分からなかった。
18:08 第二チェックポイント「ヒョプチェ海水浴場」
走行距離 35.0 km
残り時間 44時間52分
残り距離 199.0 km
残り所持金 ₩135,000
ここヒョプチェ海水浴場は白い砂浜が美しい場所だ。残念ながらかなり日が落ちてしまったのでその美しさはよく分からない。たぶん昼間に来たらめちゃくちゃ綺麗なんだろう。
ただ、海岸へと続く道には海の幸などを食べさせる店が軒を連ねていたりする。この辺りの店で食べ歩きを楽しんだりもできるようだ。
さて、今日はせめて第三チェックポイントくらいは行っておきたい。なので、日が落ちた後だけれども先に進むことにする。
第三チェックポイントは「スウォルボン」と呼ばれる場所らしい。火山によって形成された地層が美しく、ユネスコの世界ジオパークにも指定されている地域だ。現地エージェントが作成したメモによると、「夕日が綺麗なのでぜひ!」と書いてある。
もう間に合わねえよ。日が沈んだ。どれだけ夕日を見せたいんだ。第二チェックポイントで夕日見て第三チェックポイントでも見るの、ほぼ不可能だろ。
よその国の海沿いの暗闇、ってむちゃくちゃ怖い。なんか恐ろしい何かをビンビンに感じる。それでも突き進むしかないのだけど、こうやって闇の中を走っているとずいぶんと哲学的な心情になってきて「なんでこんなことをしているんだろう」という根源的な怒りみたいなものが湧いてくる。なぜ、こんな、闇夜の、知らない国の知らない場所を、自転車で、そう波に問いかけるが、答えはない。
ちょっと走っただけで感じたことだが、チェジュ島は自然エネルギーへの意識がかなり高い。ハイブリッドカーや電気自動車が島内を走り、あらゆる場所に充電ステーションもある。さらには年間を通して風が強いという気候的な特性を活かして、島内のいたる場所に風力発電機が設置されている。
これの真下を通ると、ブウオオオオオンと風車が動くものすごい音がしていてけっこう怖い。
闇夜の中を相変わらず青いラインを頼りに走っているのだけど、ここで異常な事態に気が付いた。ちょっと前にドレスの色が「青と黒」に見えるか、「白と金」に見えるかみたいな画像が流行ったと思う。光をどう受け取るかで見える色が違うという錯視の画像なのだけど、このサイクリングロードのラインも同じことが言えると気付いてしまった。
闇夜の中でちょっとした光を受けて見える青いラインは、白いラインに見えるのである。逆に白いラインの方が青いラインに見えてきたりしてかなり難しい。ちょっとでも気を抜くと道を間違えてしまいそうになるので注意が必要だ。
たぶん「おいでませ、ジオパーク」みたいなことが書いてあるんだろう。ついに第三チェックポイントの勢力圏だ。なんとか見えにくい青のラインを頼りに闇の中を突き進んでいく。
大変なことが起こった。相変わらず青いラインが伸びていてそれを頼りに進んでいるのだけど。
道路が封鎖されている。どうしろっていうんだ。これ以上進めないじゃないか。
たぶん解決策がこの看板に書かれていたりすると思うんだけど、当然の如く読めないのでもうどうしようもない。まあ、その横に似た感じの道路があったので、そこを進むことにした。
恐ろしいことに、どうやら第三チェックポイントは山の上らしい。異常な上り坂が続く。殺す気か。ここまで死ぬ気で自転車を漕いできて足がパンパンになっているというのに、その上で上り坂だ。圧倒的な悪意を感じる。
さらに坂の上に白い塊が写っていると思うけど、これが思いっきり野犬で、襲ってきたらやだなーとか思っていたら本当に襲ってきた。全般的に、チェジュ島の犬はかなり好戦的だった。
命からがら、という表現がかなり適切な感じで第三チェックポイントに到着した。この塔みたいなやつはスウォルボン気象台らしく、この地域を象徴する建造物のようだ。
19:49 第三チェックポイント「スウォルボン」
走行距離 53.1 km
残り時間 43時間11分
残り距離 199.0 km
残り所持金 ₩135,000
見晴らしの良さそうな場所に登ってみる。
ここも夕日や離れ小島が見えたりしてむちゃくちゃ綺麗な景色なんだろうけど、広がるのは闇夜ばかりである。
さて、あまり闇の画像ばかり続くと訳の分からない記事になるので、本日はこれくらいにしておいて、あとは泊まる場所を探さなければならない。あいにくホテルの予約など全くやっていないので、先に進みつつ泊まれる場所を探す必要がある。しかも所持金がかなり心許ないのでなるべく安い場所だ。
海沿いをひた走っていると、ちょこちょことホテルっぽいなあというお店が現れてくる。一階が定食屋で2階が民宿、みたいなのがたくさん登場してくるが、全ての看板がハングルで表示されているのでそこが宿泊施設という確信が持てない。せめて英語で「HOTEL」って書いてある場所じゃないと怖くて交渉すらできない。
本当はすぐにでもホテルに入って休みたかったけど、明確に「HOTEL」と書いてある建物がなかったのでかなり先の方まで進んでしまった。
暗闇をひた走っていると、ちょっとした街に出た。ピンクのネオンが輝き、なんとも隠微な雰囲気のする場所だ。
地図で見るとHAMO-RIとか表示されている。これくらいの規模の街なら英語で「HOTEL」と書かれた建物があるのではないか、そんなつもりで街へと入っていくと、それはすぐに見つかった。
完全にHOTELだ。めちゃくちゃ安心。絶対にホテルやん、これ。
すぐに中に入って宿泊交渉をする。英語が通じてよかった。
交渉の結果、泊まれることになった。しかもなんと、₩50,000(約5,000円)で宿泊できるらしい。激安すぎるだろ。
部屋も綺麗。これで5,000円は安い。おまけに床暖房とかまでついている充実の設備。
21:12 サニーホテル
走行距離 66.0 km
残り時間 41時間48分
残り距離 168.0 km
残り所持金 ₩85,000
重い荷物も自転車もホテルに置くことができて身軽になったので、徒歩で夕飯でも食べに行くことにした。この周辺は漁港になっており、それでいて店なども盛んに営業している賑やかな場所だ。雰囲気としては沼津の観光港に近い。
港の目の前に新鮮な海の幸を食べさせる定食屋が軒を連ねる。ただし、観光客相手というよりは、港で働く人々を相手にしたような店が多く、なかなか入りにくい雰囲気がある。
入ってみようかなと思ったが、常連客っぽい人たちで席が埋まっていたのでやめておいた。
寿司屋もあった。こうやって外国で寿司を食べるのはけっこうおもしろいかも。おまけに海産物は新鮮だろうし、結構いい選択なのでは、と思ったが、いざ入ろうとすると営業が終わっている感じだった。
(撮影し忘れたので次の日の朝に撮影した)
仕方がないので、なかなか入りやすい雰囲気のあるこの店に入ることにした。店に入ると、普通の定食屋風の内装で、一組の男女が鍋料理を食べているだけだった。どうオーダーしていいのか、そもそも何があるのかも分からずにマゴマゴしていると、その先客である男女ペアの、佐野史郎に似たおっさんが話しかけてきた。
「ご飯ですか?」
むちゃくちゃ日本語だ。
「ええ、何を食べたらいいのか分からなくて」
すると佐野史郎はちょっと腕まくりをしながら得意気な顔で言った。
「それならわたしに任せてください。わたしがオーダーしてあげます。おすすめの美味しい料理ですよ」
そう言って厨房に向かって大声を出し韓国語でオーダーしている感じだった。その中で何度か「イルボン(日本)」という単語が聞こえたので「日本人向けに作ってやってくれ」と言ってたのだと思う。そうして運ばれてきたのがこれだ。
アオサやノリなどの海藻風のスープの中にうどんというか、きしめんみたいな麺が入っている。分類としてはうどんになるのだろうか。
食べてみるとこれが実にうまい。海鮮系のダシが強烈に効いている。
「おいしいですか?」
佐野史郎が気を使って話しかけてくる。
「おいしいです。とろけるような味わい、だけど芯がしっかりしている味」
と言うと、めちゃくちゃ満面の笑みでうんうんと頷いている。
この謎のうどん、めちゃくちゃ美味しいのだけどなにせ量が多い。メイン自体も想像の倍くらいの量があるし、それに山盛りのキムチとナムルみたいなものまでついてくるので胃を突き破らんばかりの勢いだ。
昼飯も遅かったし、おまけに昼間のハードな運動であまり食欲がない僕にはこの量はかなりきつい。残そうかな、などと考えたけどそれもできそうにない。
「おいしいですか?」
佐野史郎がめちゃくちゃ様子を伺ってくるからだ。勧めてくれた彼の手前、残すことはできない。
そうこうしていると、次々と常連ぽい客が入店してきて、急に店内が賑やかになってきた。なぜかそれらの常連に向けて佐野史郎が「彼はイルボンで俺が勧めた料理を食べてるんだ」と紹介しはじめた。
「へー、俺は日本の沖縄にいったことあるぜ」
「俺は秋葉原いったぜ」
店内はそんな話で盛り上がった。その盛り上がりを尻目に、僕は食べきれない量の料理を死ぬ気で食べていた。すると、異変が起こる。僕の横に座っていた沖縄に行ったことあると言っていたおっさんが、突如として訳の分からないことを言い始めたのである。
「その料理はライスを入れるとさらに美味いんだぜ」
何言ってんだ、この人。
それを受けて佐野史郎も活気づく。
「そうです。これはライスを入れると美味いのです。入れましょう!」
何言ってんだ、この人。
これ以上増えたら死ぬ。吐く。そう思って固辞するのだけどムーブメントは止まらない。
「ライス! ライス!」
店全体の常連客でライスを入れろのシュプレヒコールだ。なんだこれ。
結局、銀の器に入った一人前のライスが投入されてしまった。もう絶対に食いきれない。吐く。
もう、ちょっとの衝撃で吐く、みたいな状態になりながらなんとか食べきった。ちなみに料理の料金は₩8,000(800円くらい)だった。追加したライスの料金とられなかったので、もしかしたら佐野史郎が奢ってくれたのかもしれない。
あと、この店にはちょっと日本語ができる店員の女の子がいて、なんでも中国からきて4年になるらしく、この店に住み込みで働いている感じだった。この子がむちゃくちゃ愛嬌があってかわいかった。
佐野史郎やおっさん、中国の子に別れを告げて歩いてホテルへ帰る。途中、コンビニがあったので酒でも買おうかと立ち寄ったら、日本の「ほろよい」がそのまま売られていた。他にもアサヒスーパードライなどそのまま売られていたので期待したが、大好きなストロングゼロは売られていなかった。
こうして一日目の旅が終了となった。
22:12 サニーホテル
走行距離 66.0 km
残り時間 40時間48分
残り距離 168.0 km
残り所持金 ₩77,000