突然ですがこちらのおじさんを見た事がありますでしょうか。
Twitterをやっている人なら「あ、なんか見た事ある」という方も多いのではないかと思います。
こちらは7席の枠に対して予約の申し込みが数百件(しかも毎日)来る寿司屋、30歳未満ならひとり税込1万円で食べ放題・飲み放題という狂った価格設定でお馴染み「有楽町かきだ」の大将です。
そんな「かきだ」が新しく「焼肉かきだ」をオープンするにあたってクラウドファンディングで支援者を募集したところ、飲食店における国内最高額5,274万円を一瞬で集めてフィニッシュ。絶大な人気を誇ります。「日本一予約の取りづらい寿司屋」と言っても決して過言ではありません。
握りの例
しかしながら実はこの大将、本職の寿司職人ではない上、寿司を握り始めてまだ半年ほどしか経っていません。
以前、ホリエモンこと堀江貴文さんが「寿司職人が10年修行するのは時間の無駄」「寿司はYotube見て半年練習すれば握れるようになる」と言って賛否両論を呼びましたが、まさにそれを体現するような人物です。
そこで本日は「かきだ」にお邪魔し、大将にお話をお伺いする事にしました。
「夢はアメリカ制覇」と語る大将の生存戦略について、色々学べればと思います。
今日はよろしくお願いします。本当にめちゃくちゃ人気ですよね。僕の周りにも「かきだに行きたい」って言ってる人がめっちゃ居ますよ。
ありがとうございます。昨日は合コンに行かせていただいたのですが、着席するなり「あ、かきだの大将だ」って言われました。女性4人の内3人が僕の事を「かきだの大将」として認識してましたね。「今度招待してください」みたいな事を言われて、「ヤリモクならぬスシモクじゃん」って思いました。
それはおめでとうございます。合コンは上手く行きました?
僕の事を「大将」って呼ぶ人との合コンが上手く行くと思います?
山のように積まれたウニ。これくらい在庫を揃えておかないと「切れたらどうしよう」と不安になるそうです。
元々は転職支援の会社の創業者であり社長だったんですよね?なんで会社辞めてまで寿司屋になったんですか?
辞めてないです!寿司屋はあくまで副業です!良く間違われるんですけど……。
転職会社の社長が何故寿司屋をはじめたのか
コロナ禍になった時に、会社の仕事が一気に無くなったんですよ。先行き不透明なタイミングで転職しようと思う人は少ないし、採用を増やそうとする会社も少ない。それで、仕事も無いのに会社に行って僕が「どうしようどうしよう」って右往左往してる姿を社員が見たら不安になるんじゃないかと思って、全然会社に行かずに釣りにばっかり行ってたんですよ。
今日もサクッと大物サワラを釣りました。大きすぎて写真から切れてます。時期的にサワラ釣るのも厳しくなっていて釣れたのは船中僕の1匹だったので、サワラ竿頭です。竿頭としてのメンツをなんとか保ちました😊#大物を釣る pic.twitter.com/9T6xWALsYW
— 鮨大将かきだ(美味しい鮨/出張まかない海鮮丼の店) (@KazuhiroKakida) December 2, 2020
毎日のように釣りに出かけていた大将。
それで、釣った魚を捌いて「まかない」として社員に提供しはじめたんですが、だんだん海鮮丼を作るのが楽しくなってきて、今度は釣った魚だけじゃなくて豊洲市場に仕入れに行って本マグロをブロックで買い込んだり。
【店名】自宅
【メニュー】生本マグロの漬け納豆と高級めかぶ、ウニを添えて
【ポイント】味噌汁と漬物でも添えれば、料亭の名物朝定になるレベルの朝定を発明しました😊朝定まかないで提供しましたが、社員もビビってました。#朝定エージェント#連続987日 pic.twitter.com/AZupW9xSDg— 鮨大将かきだ(美味しい鮨/出張まかない海鮮丼の店) (@KazuhiroKakida) February 26, 2022
「まかない」を作るためにわざわざ仕入れるのか。段々狂ってきてますね。
そうして、作った海鮮丼をTwitterに載せてたら取引先とか友達が「食べたい」って言ってくるようになって、「じゃあ食べに来てください」って言ってふるまうと「美味い!」「最高!」「店やりなよ!」とか言われてどんどん調子に乗るじゃないですか。
そんな時に有楽町の一等地に、激安価格で賃貸が出てるのを見つけまして。とりあえず友達が来た時とか、イベント的に海鮮丼作るだけでも楽しそうだな、と思って借りたんですよ。それで借りた以上は一度お客さんにも出してみようと思って、一般のお客さん向けに営業したらビルの管理会社から怒られるくらいの行列が出来ましてね。
本マグロの断面を自慢してくる大将。
でも、「あ、行列の出来る海鮮丼屋さん、出来ちゃった」って一週間で飽きたんですよ。それで今度は寿司を握り始めて……。
ちょっと待ってください。展開が早すぎるんですよ。仕入れとかはどうしたんですか?魚の目利きがもともと出来たとか?
一切出来ないです。なんなら今でもよくわかってません。
魚の目利きが出来ないのにどうやって仕入れるんですか?
豊洲市場には僕らよりよっぽど魚に詳しいプロの方々が働いているじゃないですか。その方々を全面的に信用して、おすすめされる通りに買います。
ぼったくられたりしません……?
しません!結局、信用なんですよ。あちらもプロとして変なものを売ったら看板に傷がつきますしね。それに僕は「良いお客さんで居よう」と思って、買う時も一切、値引き交渉をしないんですよ。全部言い値で買います。
それはなんのために……?良いものを安く仕入れるのが職人の腕の見せ所なのでは……?
違いますね。だって、毎回値切る客に良い商品を売ろうと思います?僕らは観光客じゃないから、卸の業者さんとは長い付き合いをしなきゃいけないわけじゃないですか。「あいつは嫌な客だな」と思われたらもう終わりですよ。そうやって客として信用して貰うことで良いものが入った時とか、仕入れ自体が少ない時に優先的に声をかけていただけるんですよ。
店先に並んでるお魚を見たら、「あ、今日はこの魚が獲れすぎちゃったんだな」とかわかるんですけど、そういう時も黙ってそのたくさん並んでるお魚を買うようにしたりとか。なるべく「良い客」としてふるまおうと思っています。
おおおおなるほど……。そういう考え方か……!
だから僕なんて豊洲市場では新参者ですけど、すごくたくさんの業者の方に良くしていただいてますよ。おばちゃんにすごくモテます。合コンではモテません。でも、そういうのが積み重なって、時にはオマケしていただけたり。
魚を捌くのは?独学ですよね?
そう。Youtubeを見て。寿司の握り方もそうですけど、今はなんでも動画で勉強出来るんですよ。あとはお寿司屋さんに行った時に手つき捌き方とか見て勉強したりもします。「かきだの大将ですよね?」ってバレたりしますけど。
おおお、まさに堀江さんが「Youtubeで勉強すれば出来るようになる」って言ってたのと同じだ……!
とはいえ、僕、寿司を握るのは全然上手じゃないですよ。ベテランの職人さんに比べたらまだ全然ダメです。ただ、握りが多少下手でも90点の寿司は握れちゃうんですよね。客単価3万円以上するお寿司屋さんなんかは98点とか99点とかの戦いをしてるのでそこにはもちろん勝てないんですが、1万円食べ放題で90点のお寿司が食べられたらコスパ的には圧倒的ですよ。
その、客単価5万円の寿司って、なんであんなに高くなるんですか?土地代?
そうですね、例えば……、
大トロのここの部分に、血が入ってるじゃないですか。99点のお寿司屋さんだとこういう大トロは使いません。これが入ってる入ってないで仕入れの値段が倍くらい変わったりするんですよ。でも、値段が倍になるからって味が倍になるわけではないじゃないですか。
なるほどー。仕入れの魚が違うのかー。
そうです。本物の一級品って、本当に、めちゃくちゃ高いんですよ。もちろん職人さんの腕とか仕込みに手間暇かけてるとか、一等地なら土地代もありますけど、値段の差で大きいのはネタの仕入れ価格ですね。
でも、「かきだ」って最高級品とまでは言わなくとも、かなり良いネタを使ってるんですよね?それで利益が出る……?
普通の寿司屋じゃ出ないと思います。ただ、ウチはおかげ様で予約困難店で、お寿司の提供時間も決められているんですよね。常に満席で、いつ、どれくらいのお客さんが来るかは全部計算できるんです。キャンセルが出てもTwitterで募集すれば一瞬で埋まるし。
それに食べ放題とはいえ、ひととおりのコースを出してから「じゃあ、おかわりでお好きなものを」っていうスタイルなので、どのネタをどれくらい使うかもだいたい計算できるんですよ。つまり、食品ロスが圧倒的に少ないんです。
良いネタは本当に高いので、食品ロスが出たら大損するわけですが、普通のお寿司屋さんだとある程度ロスを折り込んだ商売をせざるを得ないんですよ。だから、特に予約が無くともフラッと立ち寄れて、かつお客さんのオーダー通りに提供するようなお寿司屋さんはかなりロスが出ているはずです。
それにお客さんが居なくてもお店を開けているならその間の人件費・光熱費がかかりますし、かなりの無駄があるんですよね。そういったロスを極限まで削るとこういう戦い方が出来るっていう事なのかなと思っています。
めちゃくちゃ勉強になる……。
ライター特権でお寿司を握っていただきましたがたしかに美味い。これは通いたくなるな~~。
大将はどこに向かっているのか
「デザートのハーゲンダッツとピノも食べ放題です!」とはしゃぐ大将。
ちなみに本業はどうなってるんですか?
会社には全然行ってないです。寿司ばっかりで。
それで業績落ちたりしないんですか?
これ、嬉しいのか悲しいのか良くわからないんですけど、僕が会社に行かなくなってからの方が業績が良いんですよ。それに離職率がめちゃくちゃ下がりました。
笑う。社員から嫌われてたのかな……。
僕自身がかなりハードワーカーと言いますか、気合いで乗り切っちゃうタイプなので社員にもついつい求めちゃってたのかもしれません。社員にはとにかく転職する人に献身的なサポートをすることを厳命していたので……。そのおかげで、ちょっとこれ見ていただきたいんですが、Googleで「ユニポテンシャル」って検索してみてください。Googleの口コミ評価4.9ですよ。
うおおお本当だ!
ネタの仕入れと一緒で、転職も人と人との信頼関係なのでとにかくそこにコミットするように、と。ただ寿司屋をやってて良かったのは、転職エージェントって競合がたくさんいるので、最後どっちのエージェントを使うか悩んだ時に「かきだ」の事を知ってる人は「ああ、あの大将のところか」って我々の会社を選んでくれるケースが増えました。なので会社が伸び悩んだらみんな寿司屋をやるべきです。
それは違うと思う。
初任給が132万円になりました。この結果に慢心することなく、明日のオークスに挑みたいと思います。 pic.twitter.com/5pwpREQcoN
— たいら/有楽町かきだ(シャリ担当) (@unipotaira) May 21, 2022
ちなみに、初任給全額を競馬にブチ込んで見事に仕留めたこの方も「かきだ」を運営するユニポテンシャルの新卒社員です。
僕自身、この「かきだ」を始めるまでは本当に迷走してたんですよ。受験も第一志望に受からなかったし、新卒で入った会社も第一志望じゃなかったですし。会社の社長とはいえ大手の転職エージェントとは規模がぜんぜん違うし。会社の事業で「メディア事業をやろう!」ってブチあげて作ったのは良いけど3,000万円全部綺麗に溶かして即座に撤退した事もあります。
なんか変な事もいっぱいやってますよね。「朝定エージェント」とか。あれなんなんですか?
【店名】松屋
【メニュー】ソーセージエッグW定食+豚汁+納豆
【ポイント】今日33歳になりました。社会人1年目東京に出てきて、ちょっと贅沢する日に食べていた、僕の朝定の原点。今では豚汁と納豆までつけられるようになりました。ソーセージエッグスマイル、強い。#朝定エージェント#連続1318日 pic.twitter.com/95X9d7y02F— 鮨大将かきだ(美味しい鮨/出張まかない海鮮丼の店) (@KazuhiroKakida) January 23, 2023
大将の「朝定エージェント」活動。連続1300日以上、色んな朝定食を食べ続けている。
これ、なんなんでしょうね?
「かきだ」でバズったおかげでフォロワーさんが増えて、今でこそ何百件っていう「いいね」を頂いてますが、長い間「3いいね」とかでしたからね。「無」の時間がずっと続いてました。
これ、地味に大変ですよね。雨の日も風の日もずーっと朝ごはん食べ続けるんでしょ。しかも反響ほぼゼロなのに。
そう、「前日飲みすぎてしんどい」とか「ぜんぜん寝てない」とかそういう日でも続けてました。これも迷走の一環だと思います。「朝定エージェント」以外にも、「転職彼氏」「タイムスリップ説教」とか良くわからない事をたくさんしましたね。
彼女が無事転職できたのに、なんだか素直に喜べない彼氏。#転職彼氏 pic.twitter.com/todZycvpEq
— 鮨大将かきだ(美味しい鮨/出張まかない海鮮丼の店) (@KazuhiroKakida) June 18, 2019
大将がかつてTwitterに投稿していたよくわからないコンテンツ「転職彼氏」。
タイムスリップ説教①#履歴書の書き方 #書類選考で採用担当をビビらせる方法 #就活 #タイムスリップ説教 pic.twitter.com/HqOYlgq5ry
— 鮨大将かきだ(美味しい鮨/出張まかない海鮮丼の店) (@KazuhiroKakida) July 29, 2019
そしてこちらが「タイムスリップ説教」。
確かに迷走してますね。
ただ、こういった活動のおかげでニッチなファンが居たので、そういう人たちがまず最初に海鮮丼を食べに来てくれたことに繋がっているのかなと思っています。僕、地道な事をずーっと続けるとかそういうの得意なんですよ。
一日のタイムスケジュールってどんな感じなんですか?
6時半に起きて豊洲市場に行って仕入れをするじゃないですか。そのあと10時、11時くらいから本業のほうの対応をしつつ、合間に筋トレと英会話をして、夕方から仕込みをしてお店を開けます。お客さんに寿司を握って23時に閉店、閉店作業して家に帰ったらもうお風呂に入って寝るだけですね。ちなみに土日とか一切関係なく、ずっとこれです。本当にずーっと働いてます。
そんなに働いて、どこを目指してるんですか……。
まずは寿司職人としてのレベルアップですね。結局、お客さんの前に出るのが一番勉強になるんですよ。営業も一緒じゃないですか。ロールプレイなんていくらやっても無駄です。現場に出るのが一番勉強になる。そしてその後はアメリカ進出です。英会話を習ってるのもその一環で。
まずはロサンゼルスから行こうと思っています。この「かきだ」を日本でずっと続けても日本で1番になるのは無理だなって思ってるんですよね。それこそ客単価5万円の、日本で1番2番っていうようなお寿司屋さんに、寿司を握り始めて半年の僕が勝てるわけないじゃないですか。
でも、そういうお店の、超一流の寿司職人さんって割とみんな良い年ですし、日本で成功しているし、これから英語覚えてアメリカに行こうなんて思わないでしょう。そういう人達が居ない場所なら1番になれるかもしれないと思って。LAを足掛かりにアメリカを制覇しに行きます。
社長として社員にまかない海鮮丼を作っていたら、いつの間にか鮨屋と焼肉屋を始めることになり、クラファンしたら飲食店歴代最高額5274万円以上の支援を頂き、予約受付している6ヶ月先まで即満席になり、本マグロを毎月1本買うようになりました。本当に何が起こるかわからないのが人生。楽しい。強い。 pic.twitter.com/H0s9QRTPZE
— 鮨大将かきだ(美味しい鮨/出張まかない海鮮丼の店) (@KazuhiroKakida) January 22, 2023
【有楽町かきだからのお知らせ】
『有楽町かきだ』は移転済、新たに『焼肉かきだ』もオープンしておりますが、両店とも予約を受け付けている6ヶ月先まで満席です。基本的に新規のお客様からのご予約は受け付けておりません。大変申し訳ありません。たまにTwitterでキャンセル募集をしておりますので「行きたい!」という方はぜひ僕のTwitterをフォローしてください。そして僕の人生のパートナーは随時募集中です。ただし、スシモク及びニクモクの方はご遠慮ください。