ロックダウン中の中国で流行った「凉皮」と「口罩饼」を作ってみた

緊急事態宣言で日本中がStayHomeをしていた頃。

家でできるものという縛りの中で、自炊が流行ったり、自宅筋トレ動画が見られるようになったり、蘇、アマビエ、手作りマスク、庭キャンプ、オンライン飲み会、zoom演劇などなど、様々な家遊び文化が生まれました。

その3ヶ月前、日本より先に中国各地でロックダウンが始まった時にも、中国人たちが同じように家で出来る遊びを極めていたという話を中国人の友達から聞きました。

■14億人の叡智を集めた暇つぶし

友達曰く、暇つぶしとして「ミックスナッツを種類ごとに数える」「難易度の高い模型に挑戦する」など。

私もやってみました。アーモンドが贔屓されていた

また患者を収容する大きな病院が急遽建設されることになり、その建設現場をライブカメラで中継していたため、暇を持て余していた視聴者たちが一日中ライブを監視しながら良い働きをする推し重機を見つけて擬人化する遊びも流行ったとのこと。

また日本と同じく、デリバリーやテイクアウトが増え、オンラインで飲み会や親戚の集まりをするようになり、自宅で筋トレをし、中国刺繍入りの手作りマスクが淘宝(中国のオンラインショップ)で売られるようになったと。

ちなみに買い占めもあったのか聞いてみたところ、トイレットペーパーではなく”免疫力をアップする漢方”が買い占められたという、お国柄を感じるエピソードがありました。

そして中国でも一番流行っていたのが自炊だそうで、日本と同じく、手軽に始められるクッキーや炊飯器ケーキ。そして中国で人気の料理など。そして日本で蘇を煮詰めるブームが起きたように、中国でも「これを作っていれば少なくとも1日は暇つぶしができる」という理由で「凉皮(リャンピー)」という料理が流行ったとのこと。

凉皮(リャンピー)! 知らない中国料理だ!!

■凉皮を作ってみる〜仕込み編〜

「凉皮」とはモチモチした太麺(皮?)に野菜とピリ辛ソースがかかった料理のこと。

作り方は小麦粉を水で捏ねて2時間寝かし、出来上がった生地を、なんと水でジャブジャブ洗って溶け出したデンプンを蒸して作るらしい。あまりに知らない調理法だったため友達に「本当にあってる!?」と聞いてしまったところ、あってるらしいです。マジか。

中国のレシピサイト「下厨房」をDeepLで翻訳しながら進めていきます。

時々凉皮が「冷たい皮」「なめらかな肌」などと翻訳されてめちゃくちゃになりながらも雰囲気と写真でどうにかしつつ、レシピによっては全ての材料に「適量」と書いてあったりするので、逆にそれぐらいの気持ちで大丈夫なのだと信じることにしました。

まず強力粉300グラムに水150mlを少しずつ混ぜながら、モロモロの生地がまとまるまで捏ねて2時間寝かせます。

2時間経ったら、せっかくまとまった生地を取り出して水に浸けます。本当にこれでいいのか不安になってきましたが、レシピにもそのように書いてあるので……

溶けない?小麦粉の水溶液にならない?と思いながら揉んでみると、白いサラサラのデンプンが溶け出してきました。

デンプン以外の生地はグルテンで繋がっているため崩壊することもなく、デンプンが溶け出すたびにどんどん純粋なモチモチになっていきます。水の中でスライムを揉んでいるような新感覚で大変に楽しいです。

冷たい水のおかげでこの暑い中の調理も快適で、小豆洗いならぬ小麦粉洗いとして新たな妖怪になりました。

そういえば「美味しんぼ」17巻で、貧乏な母が子供のために小麦粉を洗って代用ガムを作ってあげるというエピソードがありましたが、多分これです。確かにガムみたいな質感。

「これ以上白くならないな〜」と思ったところでデンプンが溶けた水をザルで漉して大きな鍋に溜めていきます。

また新しい水で洗って溜めて……を7〜8回ほど繰り返したところで、小麦粉の白くてサラサラなデンプン成分はすっかり水に溶け、元の生地の1/3くらいの大きさになったグルテンだけが手元に残りました。

そしてこの大事な水を、デンプンが沈殿するまで5時間以上放置。(夏場は冷蔵庫で!)

■凉皮を作ってみる〜調理編〜

そして5時間以上寝かせたデンプン水がこちら。デンプンが沈殿して、上に水だけが残っています。

この分離を崩さないようそーっと傾けて、上の水だけをギリギリまで捨てます。そして少しだけ残った水とデンプンを混ぜれば凉皮の生地が完成です。

ようやく生地が終わったところかい!?

どれぐらいの濃度が正解なのか全くわからないし、レシピにも書いてなかったですが、おたまで掬える程度になれば多分大丈夫だと信じます。

ちなみに私は10時間くらい放置したせいか沈殿したデンプンがガチガチに固まってしまい、全く水と混ざり合わず、泡立て器でガシガシ剥がすことになりました。少し水を足しながらほぐして何とか生地状態に。

 

次は凉皮を蒸します。

耐熱容器の内側に油を塗っておきます。大きめの鍋でお湯を沸かし、沸騰したら耐熱容器を入れ、中に薄く凉皮の生地を流し込みます。

蓋をして3〜5分ほど、凉皮が透明になるまで中火で蒸し焼きに。

蒸し上がった皿ごと冷水に漬けると、ツルンッッと気持ちよく凉皮をはがすことができました。

本場では中華鍋と丸いステンレス容器(専用の調理器具があるらしい)を使っている人が多かったのですが、フライパンと深皿でも十分できました。

あまり厚すぎるとモチモチプリプリ感と弾力のバランスが崩れ、火も通りにくくなってしまうため、皿にへばりつくように薄く生地を流し込むといい感じのよう。

出来上がった凉皮はくっつかないよう表面に油を塗り、2cmぐらいの幅に切ります。

凉皮が出来上がったら具とタレを作ります。

本場ではきゅうりの千切り、人参の千切り、もやし、パクチーあたりがメジャーな具らしいです。タレは酢:醤油:ラー油:ごま油を3:3:2:1ぐらいが基本。更に花椒やゴマ、ナッツなどをふりかけたり、バルサミコ酢やニンニクを入れるレシピもありました。

今回は醤油、ごま油、レモン汁、中華だしの素、ニンニク、ごまでソースを作り、キュウリと人参を添えてカシューナッツを散らしてみました。

めちゃくちゃ堂々と作っていますが、実は私も本物の凉皮を食べたことがないので完全に想像の産物です。ファンタジー作品の料理でも作っているような気持ち。

ああ凉皮、中国人が家遊びに作ったという凉皮はどんな味なのか。実はレシピサイトの味付けや写真も結構バラバラで、各家庭に受け継がれてきたそれぞれの味があるようでした。

日本で言えば「野菜炒めを作って下さい」とザックリ言ったら、冷蔵庫の在庫や家庭のセンスにより色々な野菜炒めができる、みたいな感覚っぽい。

こうして前日夜に小麦粉を練り、洗い、寝かせ、蒸し、味付けし、翌日の昼にようやく無事に「凉皮」が完成しました。

確かに1日分の暇つぶしには十分すぎるほど手間がかかるし、子供がいる家庭だったら一緒に小麦粉をこねて洗って楽しめそう。

一人暮らしの私も小麦粉が変化していく様にテンションが上がって、とっても楽しい料理になりました。

■多分本物の味を実食

肝心の味の方は、凉皮がモチモチプリプリくにゃくにゃツルリと不思議な食感で、キュウリと人参のシャキシャキした食感と、コリコリ香ばしいナッツがアクセントになってめちゃくちゃ非常に美味しいです。

ニンニクとごま油と中華だしが中国の風を運んできます。

うどんともビーフンとも冷麺ともライスペーパーとも違う「凉皮」の味わいがとても美味しく、無限にモチモチ楽しみたい一品になりました。

小麦粉300gから軽く3人前くらいの凉皮が取れたため、色々と作ってみます。

えびとキュウリとローズマリーのごま油醤油味

たらこマヨカシューナッツの麺つゆ風味

豚肉と舞茸とたまごのポン酢味

ワカメと鶏肉のゴマの醤油味

強いて日本語で表現するなら「めっちゃモチプリの太いきしめん」という感じなので、うどん系列の味で作ったのが大正解。味噌系も合いそうです。

本場から見ると、日本人から見たカリフォルニアロールのような奇怪料理と化している予感がします。が、美味しいので良いでしょう。中国人の友達に好きな日本食を聞いたら「ラーメン」って言ってましたし、奇怪料理も極めれば芸の一つです。(実は日本形式のラーメンは本場にはなく、日本で独自進化した料理らしい)

逆に無事外出できるようになったら、池袋のディープな中華屋で本物の凉皮を食べたいという目標ができました。

 

ちなみにすっかりデンプンを搾り取られた残りのモチモチは、つまりグルテンの塊なので、もしかして生麩では? 麩まんじゅうが作れるのでは?

と思ってググってみたら逆に小麦粉を洗ったグルテンで麩まんじゅうを作るレシピを発見したため、白玉粉を混ぜて餡子を包んで茹でてみることに。

ちょっと不恰好ですがおいしい麩まんじゅうができました。

なお、中国ではそのまま蒸してモチフワな具として凉皮に入れることが多いようです。

■口罩饼(コウジャオピン)も作ってみる

口罩饼とは、マスク型のクレープのこと。

中国でもマスクが品薄になった結果「どうせマスクが手に入らないから作ってやったぜ!」というヤケクソで、マスク型のクレープ「口罩饼」を焼くブームがSNSを中心に巻き起こったそうです。笑い事ではないけど、なかなかにロックで面白そう。

そもそも「饼(ピン)」とは小麦粉をこねて平たくしたものを焼いたり蒸したり揚げたりしたものの総称。フカフカした食べ物で、北京ダックを包む皮とか、おやきとか、ピタパンに近い……っぽいです。そう、これも食べたことがない想像の産物。

そして口罩饼も作り方は色々で、パリパリマスクの焼き派と、ふっくらマスクの蒸し派。そして着色料を仕込んで黄色や青のマスクを作る人、トッピングのゴマで武漢加油(武漢がんばれ)と書いてみる人、生地を立体にしてN95マスクを作る人など様々なSNS料理芸が生まれたと聞きます。中国でも今はマスクが行き渡っていますように……

今回はその中からシンプルな焼き口罩饼を作ってみることにしました。

■簡単だぞ! 口罩饼!!

まず、薄力粉100gに塩小さじ1/2と、温水50mlを加えます。さっくり混ぜたら卵を1/2個入れて練り、30分寝かせます。

ちなみに日本語では生地を休めるときに「寝かせる」と言いますが、中国語では「目覚めさせる」と表現するらしいです。発酵させるときも同じ言い方なので、意味としては「小麦粉の力を目覚めさせる」って感じなんだろうか……?

そして30分寝かせた生地をよく伸ばし、ごま油を塗り、切れ目を入れます。

左右からパタパタ畳み、小さくなったらもう一回伸ばして同じことを繰り返し。

フカフカを作る層ができたら、いよいよ生地を整形してマスク型に畳んでいきます。

まずは手作りマスクに多いプリーツ折り型。

生地を薄く長方形に伸ばし、プリーツになるように折り目をつけます。フォークで縫い目っぽい模様を作り、紐を追加。少し横長になってしまいました。

そして不織布マスクに多い真ん中が高い型。

端っこから小ひだ、真ん中に大ひだ、さらに小ひだを作ります。同じく周りに縫い目っぽい模様を作り、紐を追加。

プリーツ型も真ん中が高い型も重なる部分が分厚くなってしまうため、生地を薄〜〜く伸ばした方が良さそうです。

 

そして油をひいたフライパンで、うっすら焦げ目がつくまでは中火、そして弱火で中に火を通すように焼きます。

ごま油と小麦粉のおかげか、餃子の皮を焼いている時のような匂いがしてきました。

そして結構早く焼き色がついてしまったため、表面が黒コゲ&折り目部分が生焼けになるのを避けるべく、少し水を入れて蒸し焼きにしました。餃子じゃん!

はい、焼き口罩饼が完成!!

 

餃子の皮のような、塩味のクレープのような。全体的にはシットリ、焦げ目はサクサク、中はフカフカでとっても美味しい!

とはいえこれだけだと白米のみを食べているような感覚のため、とろけるチーズや焼いた肉を添えたら更に優勝できそうです。半分を強力粉にして、もう少しモッチリさせても良かったかも。

■やってみよう、他国の家遊び

中国でも一時期は小麦粉が品薄になったと聞きました。日本でもホットケーキミックスが品切れで騒ぎになったので、人間は家にこもると小麦をこねたくなる性質があるのかもしれません。

しかし同じ小麦でも、例えば日本ではうどんやパンケーキが作られていましたが、中国だとこのように見たことのない料理が。また中国の他にも、イタリアでは手打ちパスタが、スペインではチュロスが、アメリカではピザが流行ったという噂を聞きます。

しばらく海外旅行もできそうにないですが、家のキッチンで世界に出てみるのもなかなかに楽しい引きこもり時間でした。そろそろ家料理のレパートリーも尽きてきた、そんな時にはぜひ、中国の暇つぶし料理で遊んでみて下さい。

 

ちなみに今度はタイのSNSで爆拡散された「コロナ鍋」を作ってみようかと思います。肉団子にえのき茸を刺してコロナウイルスの形状にしたもので、「コロナなんか丸呑みしてやる」という意味だとか。

どの国も美味い料理の中に隠しきれない闘志が漲っていて、世界はなんとも愛おしいばかりです。