修学旅行の下見って何をするの?中学校の先生に教えてもらった

修学旅行の「下見」では何をするのか?ふとした疑問を、中学校で実際に教鞭を執っている先生にぶつけてみました。子どもたちの修学旅行を安全で楽しいものにする陰のお仕事を紐解いていきます。

はじめまして。私は非常勤講師として小学校に勤務していたことがある千鳥あゆむと申します。

小学校で勤務していたある日、職員室での会話から気になるワードが耳に飛び込んできました。
それは「修学旅行の下見でお休みします」というもの。

「修学旅行の下見」

なにそれ?????

修学旅行って下見するんだ……。どんなことするんだろう……。そもそも本当に下見するのかな……。「下見」と称して観光三昧するのかな……。

現地でどのようなことをするのか気になるものの、当時は新人すぎて自分の授業がいっぱいいっぱいで、ついに質問できずに契約満了を迎えてしまいました。
当時は週1勤務の非常勤講師で担任を持つことができず、修学旅行みたいな行事とは無縁だったんですよね。

職員室でふと耳にして以来、ずっと疑問に感じていた「修学旅行の下見」。
今回は長年の疑問を解消するべく、一体どんなことをするのか学校の先生に聞きに行ってみました!

 

学校の先生に教えてもらう

今回の企画にご協力いただく在原徹先生です。

下見1

現在、公立中学校の社会科の先生として勤務されています。様々な学校での勤務を経験している教師暦18年のベテランで、修学旅行には6回行ったことがあるとのこと。

今回は、在原先生が通われている、千葉大学の研究室でお話をお伺いしました。

修学旅行の下見の目的

下見6

「では早速なのですが、修学旅行の下見について教えていただきたいです。やっぱり『下見だから仕方がないですよね、下見だからね…』とか言って観光スポットをじっくり巡ったりするんでしょうか??

「全然違いますよ!!!まず、観光地をめぐることが目的ではありません。自分が修学旅行に行ったときのことを思い出してほしいのですが、みんなで集まって先生の話を聞く場面とか、集合写真を撮る場面とかありませんでしたか?」

「ありました!!駅とか観光施設の近くで、学年全員が集まるやつですね」

「そう、それです!下見の一番の目的は『生徒が集合していても大丈夫な場所を探すため』なんですよ。修学旅行は学年単位で集まる場面が多いので、一般客の邪魔にならない場所を事前に探しておく必要があるんです。京都駅ではここ、東京駅ではここ、といった風に」

 

 

「なるほど~。都会での修学旅行だと、当日にそういう場所を見つけるのって難しそうですもんね」

「そうなんです。クラスごとの集合写真を撮っている間に他のクラスはどこで待機するか、生徒が静かに話を聞くことができる雰囲気か、生徒をどのような隊形で待機させるのか等々、チェックすることが盛りだくさんなんですよ」

「待機場所を探すだけでも大変なんですね…。他には、どのようなことに配慮されているのですか?」

「あとは宿での警備の配置ですね。問題行動を起こす子が多い学年のときなんかだと、監督のしやすさを踏まえて教員を何人配置するのかなどを判断します」

混乱の拡大を避けるためにも、警備の配置を事前に決めておくことは重要。

「ああ、これはたしかに下見をして決めたほうが良さそうですね。当日に決めようとすると、いざトラブルが発生したときに大混乱しそう。

ところで、そこまでして修学旅行を行う意義ってあるんですか?」

「ありますよ! ! 修学旅行は学校外での大切な学習活動でもあります。例えば、事前に班別の自由行動の旅行プランを決めて、その中で学習テーマに沿って現地での取材をし、修学旅行後にまとめる学習活動を行ったりします」

「あ~!私の時もやりました!タクシーで移動しちゃえばラクなのに、とか思っていたけど、バスや電車の時刻表を気にするのも大切な学習ですよね。たしかに、修学旅行のあとに壁新聞とか作って発表したりもしたなあ」

「そうです、そうです。学習活動も含めた上でのせっかくの楽しい時間が事故や怪我で台無しにならないように生徒の安全対策を大切にして下見を行います」

 

旅行プランとか人数はどうなっているの?

先生方への疑問。「本当に下見だけ?」

「中学校だと修学旅行は3泊4日だとか長期にわたることもありますが、下見にも同じくらいの時間をかけるのでしょうか?下見を理由に学校の授業をサボったりはしないんですか」

「そんなずるいことは考えてませんよ!!自分の経験だと1泊2日にぎゅっとスケジュールを詰め込むことが多いですね。宿や集合場所を淡々と巡って、十分なスペースがあるか、安全面に問題がないかを確認します」

「仕事で行くわけだしそりゃそうか。授業数が減ると問題になりますもんね。
ところで、学校の先生ってふだんの業務がものすごく大変だと思うのですが、下見の日程も自分たちで決めるんですか?」

「いえ、自分が経験した中でもそれはなかったかなあ。旅行会社の人が下見もお手伝いしてくれます。大体の場合は、旅行会社の人と学校の先生が2名ほどで下見をする感じですね」

「へーっ、修学旅行の旅行会社の方ってそこまでフォローしてくれるんですね!
ところで、学校の先生が2名で下見するのは理由があるんでしょうか」

「たしかに2名で行くことが多いかもしれませんね。お風呂やトイレの設備を確認する必要があるので、男女各1名で下見に行くケースが自分の周りでは多かったです。

ただ、最近は男女で行くと良い印象を持たれないこともありますし、同性の先生同士で行くことも多いんじゃないかなあ」

「たしかにトイレやお風呂などの下見も必要ですよね。心配事がある生徒さんもいるでしょうし…。複数人の先生で下見に行けば、集合場所や危険そうなポイントを相談しながら確認できて良いですよね」

 

費用は?観光とかできちゃうの?

下見7

「そういえば、この下見の旅行代ってどうなっているんですか? 仕事として動いているわけだし、まさか先生たちが自腹切ってるわけではないですよね……」

「自分の学校の場合は、交通費は出張代として学校から出るようになっていました」

「食費はどうですか?」

「流石に出ませんね」

「そりゃそうですよね。とはいえ旅行に近い形にはなるでしょうし、ついつい普段より高くておいしいものを食べちゃったりして、出費がかさんだりしそう」

「ああ、それはありますね……。 交通費しか出ないのに、別のところで奮発しちゃうとかね。

20代の同性で年配の先生と二人で下見に行った時に、お豆腐の懐石料理を食べたことがあります。3000円くらいで、当時の自分には高価に感じられました……」

「たしかに観光地ならではの”値段が張るお店”ってありますよね。雰囲気がよかったりするけど、若いと良さがよく分からなかったり…。

ところで、下見の仕事の合間とかに、寄り道とかできないんですか? ちょっとお寺を見るとか。せっかくの旅行ですし」

「ほぼできないですね。だって勤務中ですし。公立中学校の教員も公務員ですので、自分の場合は定時の5時くらいまでは勤務となりますね」

「学校の先生としてのお仕事ですもんね。残念…。定時を過ぎればどこかに遊びに行けるんですか?」

「それはもちろんですよ!定時後は自由に行動できますからね。まあ、翌日も下見や新幹線の時間に気を遣わなきゃならないんで、あまりたくさんは動けないですけど」

「なるほど。ちなみに下見後に行って良かった場所とかありますか?」

「ありますね。男性の先生同士で下見に行ったときに夜の祇園を見に行ってみたりしたかなあ

「ふーん。見に行っただけですか?」

「そうです。下見ではありませんよ。本当に見てきただけです」

「なるほど、夜の祇園を見てきたと……。まあ、見学するにせよ遊ぶにせよ、祇園って修学旅行中には行けない場所ですもんね。
私、学生時代に4年間京都に住んでたことがあるのですが、夜の祇園って本当に艶やかできれいですよねえ」

「ただ、勤務外で多少観光ができるとはいえ、中学校の教員として下見を行います。自分の楽しみのために出張に行くことはないですね。どんな体験を生徒にさせたら大切な思い出となるのかを考えることが多いと思います」

「たしかに、修学旅行って一生の思い出になりますよね。責任重大だ」

「あと、修学旅行の費用は、保護者にとっては決して安くない投資です。ですから、修学旅行を終えて帰宅した生徒が『楽しかった』『勉強になった』『参加してよかった』と言ってくれるように気を配ります」

「修学旅行ってけっこうお金がかかりますし、保護者の期待も高まりますもんね」

 

余談 下見でも予測できないこと

「入念に下見を重ねても予測できないことはありますか?」

「ありますねえ。例えば宿での指導です。子どもたちは予想外の行動をしますからね。部屋を抜け出したりとか」

修学旅行の引率における最大の難所。それは宿!

「ああ、たしかに修学旅行で部屋を抜け出して怒られてる奴いたな~。でも、先生くらいベテランになると簡単に対策できたりするんじゃないですか? 夜の間ずっと見張っているのは大変そうですし」

「そうですね。修学旅行では、就寝時刻後は自分の部屋から他の部屋に行かないルールが一般的ですが、それでも抜け出す強者が毎回一人以上は出てしまいます。そういう生徒の対策を楽にする方法はありますよ」

「おっ、気になります」

「最近のホテルだと横に長いドアノブが多いと思うのですが、あそこに空きカンを置くんですよ。そうすると……」

イメージ図。長めのドアレバーの上に空きカンを置く。

「部屋を抜け出ようとすると空き缶が落ちて音が鳴るわけですね。これはシンプルだけど防ぎようがないな~」

「こっそり部屋を抜け出して遊ぶのが修学旅行の醍醐味だ、なんて考えている生徒は多いかもしれないけど、こちら側からするとそうはいかないですからね。
あとは、自分の部屋のベランダから隣の部屋のベランダに移ろうとする生徒ですね」

「学年に一人か二人はいますよね。成否を問わず武勇伝になって語り継がれがちです。これは空きカンでは対策できないですよね。どうするんですか」

「これも実は対策があります。生徒がベランダを移動するとね、『あっ、いま誰それがベランダを移動してるな』って分かるような物音が起こるんですよ」

「シチュエーションがレアすぎて、どういう音が立つのかをまったく想像できないんですが」

「本当にそういう音が鳴るんですよ。実際、そんな場面に出くわしたことがありました。生徒は当然、私が部屋に入ると何事もなかったかのように振る舞っているんですよね。そのときは、わざと全員正座するように指示をしました

「えっ、なんのために? 正座させて説教するためですか?」

「いえ、正座すると足の裏が見えるんですよ。ベランダを歩いたことで汚れてしまった足が……」

正座させられてから気がつく子が多いようです。

「ベランダを移動した証拠が見つかってしまうわけですね。正座しろ!って言われると『まずい、説教される』とか思っちゃうだろうし、これは気がつきにくい方法かもしれませんね~」

「でも、察しがいい子は即座に靴下を脱いだりするんですよねえ」

「賢い子は足の裏を見せないわけですね。先生と生徒の知恵比べも大変ですね……」

 

入念な下見があるからこそ、より安全で思い出に残る旅ができる

これまで「学校の先生だけで修学旅行の下見ってなんだか楽しそうだな」と思っていましたが、決して下見と称して遊んでいるわけないことが分かりました(ごく当然のことでした)。

観光地に出向くといえども、あくまでお仕事。効果的な安全対策や、生徒たちの質の高い学習活動に結びつくよう、ひとつひとつの工程を入念にチェックしているんですね。

常に生徒を見ている先生方でないと思いつかないような項目もある、修学旅行の下見。実は学校の先生にしかできない、専門的で特殊な仕事かもしれません。