ひそかなブームを起こしている「マンホールカード」って知ってる?元おもちゃ屋の発想が下水道のイメージを変える

全国各地のご当地マンホールは、カードになって市役所や下水道関連施設で無料配布されていることを知っているでしょうか?マンホールファンとしては、どんな思惑があってはじまった取り組みなのか気になるところ。いてもたってもいられずマンホールカードのリーダーにお話を伺ってきました。

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こんにちは、観光会社「別視点」のデザイナー&カメラマン斎藤ようへいです。
普段は全国各地の面白い珍スポットを巡っています。

仕事柄、全国各地を巡って写真を撮りまくっているんですが、ふと気づいたことがあります。

ご当地マンホールってめちゃくちゃイケてるんです!

 

ご当地マンホールってどういうの?

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例えばここ、鳥取県米子市淀江町。
山麓から湧き出た美しい清流が街中を流れています。

 

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マンホールはこれ。
淀江町のシンボル、「水車小屋」がデザインされています。

知らない町に訪れたとき、マンホールを見ればどういう「文化」を持っているかが一目瞭然です。

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お次は青森県つがる市の木造駅。

17メートル超えの土偶が張りついてます。
この土偶は亀ヶ岡遺跡から発掘されたもので、サングラスをかけたような姿から「遮光器土偶」と呼ばれ、街のシンボルです。

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なので、マンホールにもバッチリと「土偶」がデザインされています。
まわりに葉っぱが舞い上がっていて、いかにも念力を使えそうです。最高にシビれますね。

このように、マンホールには全国各地それぞれの町の特徴がデザインされています。
魚拓ならぬマンホール拓を取る熱烈なマンホールファンまでいるんですよ!

 

 マンホールカード、ゲットだぜ!

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東京都小金井市役所にやってきました。
SPOTではライターの皆さんがフォトジェニックな観光地を巡っていますが、この記事で最初に訪ねるスポットはまさかの市役所です。

住民票を取りに来たわけではありません。

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4階の下水道課です。下水道課なんてはじめて来ました。
あ!お目当のものがありましたよ!

そうそう、マンホールカード、マンホールカード!俺にも配布してくれ~~~。

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はい!

小金井市のマンホールカードゲットしました!
東京随一の桜の名所である玉川上水の桜がデザインされたかっこいい1枚です。

実は全国各地のご当地マンホールは、カードになって市役所や下水道関連施設で無料配布されているんです。

いちマンホールファンとしては、どんな思惑があってはじまった取り組みなのか気になるところ。
いてもたってもいられずマンホールカードのリーダーにお話を伺ってまいりました!

 

 いま、マンホールカードが熱い!

●「臭い・汚い・不衛生」というイメージを救うアベンジャーズ

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GKP(下水道広報プラットホーム)企画運営委員で、マンホールカードプロジェクトリーダーの山田 秀人(やまだ ひでと)さんにお話を伺いました。
立て板に水のマシンガントークで、マンホールに対する熱意が半端じゃない!

――マンホールカードを発行している団体について教えてください

マンホールカードは、GKPという団体で発行・運営しています。
GKPは「下水道広報プラットホーム」の頭文字。まさかの日本語ね。

下水道って超大事なんですけどイメージがすごく悪い。
もう「汚い、くさい、不衛生」と最悪のイメージですね。

そこで国土交通省の下水道管轄の人たちが、どうにかイメージアップをはかって、国民に下水道の大事さを伝えるようと立ちあがりました。
国・自治体・下水道関連企業が集まって官民連携で広報してこうぜっていうことでGKPは2012年に組織されました。

まあ、悪いものをよくすることで下水道版アベンジャーズみたいな組織です!

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ーーたしかに下水道って臭いイメージですね。

はじめにやったことは自己分析。
分析してわかったのが「汚い・くさい・不衛生」というイメージです。

まず、その最悪な結果を受け入れる。
つらいことですけど「下水道マニアもいるんだよ!」とか「おじさんには人気あるぜ」なんて間違った認識をしてしまうと、いつまでたってもイメージの逆転はできませんから。

下水道はまったく関心を持たれてない最下層の存在。そこを自覚しないと逆転ホームランは打てません。

 

ーーどう思われていても現実を受け入れる……と。

次は自分たちの武器を考えたのですが……

最初は困りました。
下水道管……下水処理場……はい、つまんない。これじゃ挽回できないぜって!

そんな中で光が見えたのはマンホールのデザイン。
なんかデザインがいろいろあっておもしろいぞ、と。

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ーー私もマンホールのデザイン、大好きです!

日本のマンホールは素晴らしいんですよ。

小さな島国なのにおよそ1700の都市があって、それぞれの町で違うデザインのマンホールがある。
ちょっと歩いて隣町に行くと、そこには違うデザインのマンホールがありまして。。
大阪市なら大阪城、富士市なら富士山。マンホールにはその土地の魅力が凝縮されています。

それが直径60cmという同じ寸法で統一されている。
色がついてるのはすべて手塗りなんですよ。

 

――え!手塗り!めちゃくちゃ手間がかかってる。

これらの事実を知るうちに、日本のマンホールデザインは世界に誇れる文化物だと気づいたんです。
でもそんな風にマンホールをとらえている人は、当時、一般目線で見ればほとんどいなかったはず。

要するに、「知られてないなら逆にチャンス!マンホールで押していこうぜ!」となりました。

 

ーー下水道全体ではなくマンホールに対象を絞ったんですね

イメージアップのきっかけとしてのマンホールですね。
好きなアイドルがいれば「今日なにを食べたんだろう?」ってSNSで調べますよね。マンホールもそれと同じ。

マンホールが気になれば「その下はどうなっているんだろう?」と興味の対象が自然と広がっていくと思ったんです。
そういった自発的な探求心から知識を身につけていくと、愛着もより深まるんですよ。

 

 日本全国1500万個の全マンホールをカードに出来る!

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▲マンホールカード。無料で配布されているとは思えない厚手のしっかりとした紙に印刷されている。

――そういう経緯でマンホールをカードにしようと

私、マンホールメーカーに入社する前はおもちゃ屋の販売員をしてたんです。その経験も発想の原点になっているのかなと。

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▲香川県流域下水道のマンホールカード。一見、同じカードに思えるのだが……

ーーあれ??同じマンホールのカードが2種類ありますよ?

よく見てください。

カードに記載されている位置座標が違います。
デザインは同じでも違うマンホールのカードなんですよ。

――え、場所が違うだけ?

これは隠れたメッセージなんです。
同じデザインでも場所が変われば、違うマンホールカードとして発行できるようにしている。

つまり理論上は日本中の全マンホールをカードに出来るのです
これは最大で、1500万種類を作れるようにしているんです!

ーー全マンホールをカードに……ひえぇぇえ~~~~~っ!!! 壮大過ぎるプラン~~~~!!

いまのところカードの222種類191自治体から出していて、発行枚数は約100万枚です。
発行してから1年半ですから、想定よりも爆発的な勢いですね。

マンホールカードをもらいに来る人は、6割が県外からというデータがありまして。カードがきっかけで観光も促進されてます。

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▲取材時に出していただいたコースターもマンホールだった

ーーああ、カード欲しさにわざわざ遠出するわけですね

意図的にマンホールが実際ある所と配布場所を離してるんです。
そうすると、もらったカードと実物を一緒に撮りたい方が多いので、町を巡回することになります。

観光客に行って欲しい繁華街や観光地のマンホールをカードにすると、そこに誘導できる。
想定外でしたが下水道管のイメージアップだけでなく、地域活性化にも一役買ってるわけです。

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▲岡山県倉敷市ではマンホールガイドを独自で制作し、観光に役立てている

 

マンホール製造現場の方々への恩返しと好きなものを伝えたい力が原動力

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▲マンホールカードへの熱い思いを語る山田さん

ーー山田さんのすごい情熱はどこから来てるんですか?

好きなものを売りたいんですよ。
居酒屋でバイトするにしても、普通のメニューじゃなくてわらじみたいなコロッケを出すような店で働きたいんです。「でっけ、なにこれ!」って驚かせたくて。

もともと昔からおもちゃが好きで、おもちゃを売るのは誰にも負けない自信があったんですけど……。
おもちゃ屋さんを辞めて、マンホール会社に転職したとき、マンホールの製造工場を最初に希望したんです。

なぜかというと、実はマンホールが好きじゃなかったから。
製造現場でマンホールがどうやって作られているか知れば好きになれるかなと思ったんですよね。

 

――まず好きになる…と。

でもね、現場のオッチャン達は鬼ですよ、鬼。
「てやんでえ、バカ野郎!」みたいなノリ。「おいトド!なにやってんだ!」って何度も怒鳴られました。

 

ーートド。

僕の仕事は生産管理でした。
営業所から難しい納期調整を受けるのですが、それを現場の鬼に伝えなきゃいけない。
そのたびに「トド!お前の調整はなってないんだよ!」って説教される。

腹をくくってとことん現場のオッチャンたちと付き合いましたよ。
一緒に汗を流して働いて、一緒にお風呂に入って、休みの日には釣りにも行くし飲みにも行く。

ーー懐に入っていくと。

そういう付き合いを続けてると、難しい発注も「まあトドが言うんだったらしょうがないな、やろう!」ってなるんです。
現場の人は情に熱いんですよ。

これは完全に個人的な副産物ですが、マンホールカードが広がりマンホールに注目を集まる事で、製造現場で働くオッチャンたちに恩返しできたらいいなぁ。との思いもひそかにありますね。

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▲マンホールサミットにて、「拡げよう!マンホーラー!」と唱和する山田さん

ーーマンホールカードはこれからもっと勢いを増していきそうですね。

マンホールカードを始めることって、実はリスクが高かったんです。
普段はマンホール屋なので、役所が一番大事なお客さんなのですが、そんな大切なお客さんに海のモノとも山のモノともわからないマンホールカードを作りませんか?ってお願いしにいくわけですから。

もしヒットしてなかったら地獄です。
そんなリスクを超えて、今の状況がある。

ブレイクしてくると、いろんな方から、運営や品質について御意見を頂きます。本当に圧がすごいです(笑)。
大事な事は、集めている方を大切にし、今の「運用」と「品質」を守り、自分のペースで安心して集めることができるようなカードにしていく事だと思っています。

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▲マンホールカードの制作スタッフと固い握手をかわす。マンホールカードを広めていこうとするチームの結束を感じました。

 

まとめ

取材部屋に綺麗に並べられたマンホールカードを見て、マンホールってこんなに鮮やかで可愛らしく、種類があるもんなんだな、と素直に感動しました。

自分も旅行などに出かけた際は、マンホールカードをもらいにいってみようかと思います。
気長に集めていったら、自分のやしゃごの代までには1万種類くらい集められるかも。

ぜひ皆さんも、マンホールカードを集めてみてはいかがでしょうか?

 

◎取材協力・写真提供:GKP(下水道広報プラットホーム)
◎編集:松澤茂信(別視点代表)
◎文章:斎藤ようへい(別視点デザイナー・カメラマン)