【徒歩111km】多摩川に架かる橋は何本あるのか徒歩で確かめてきた

1日目 AM9:00 東京都 奥多摩町 小河内ダム(奥多摩湖) 

みなさんこんにちは!

今日はこちら、東京都は奥多摩町の小河内(おごうち)ダムからお送りいたします。

 

いやはや、遠かったです。正直、同じ東京都だろと街中と同じ感覚で舐めていたのですが、めちゃくちゃでした。まず、都心から電車を乗り継いで最奥の奥多摩駅まで行きました。途中から電車のシステムが唐突に変更されて、ボタンを押さないとドアが開閉しないシステムになりました。そこまででもかなりの旅路だったのですが、その奥多摩駅からさらにバスに乗り、ここまでやってきました。

予想していた以上に寒く、山肌がうっすらと白くなっています。こういったタイプの雪化粧は初めて見た。

本当に山が白く、僕と同じバスに乗ってきた人、全員がフル装備の冬山登山スタイルだった。普段着で来てしまった僕が完全なる場違いだった。

さて、電車やバスを乗り継いでこんな山奥のダムにやってきて、いったいなにをするつもりなのか、こんなに寒い思いをしてなにをするつもりなのか、まずはそこから説明しなくてはなりません。いつものことですが、あれは編集部からの唐突なメッセージから始まりました。

 

「patoさん、patoさん」

 

SPOT編集部からの問いかけはいつもロクなことがないので無視するに限るのだけど、さすがにそういうわけにもいかないので大人として対応する。

「はい、なんでしょうか」

「令和4年3月12日、ついこのあいだですが羽田空港の脇に多摩川スカイブリッジという新たな橋が開通しました」

「あ、知っています。ニュースでやっていました」

「この橋は多摩川に架かる橋でもっとも下流にあり、もっとも長い橋になるそうです。開通により川崎の臨海部と羽田空港とのアクセスが劇的に向上しました」

「あのあたりの工業地帯から羽田空港に行きやすくなったわけですね」

「それを踏まえて、今日はちょっとpatoさんにクイズをしてもらいます! ジャジャーン!」

 

めちゃくちゃテンション高いな。こういう時の編集部ってめちゃくちゃ不穏なんだよな。

「流域長さ138 kmの多摩川、これは水源からの長さを含めたもので、実際に多摩川と呼ばれる部分の長さはだいたい93kmくらいになります。では、その多摩川と呼ばれる部分には橋が何本かかっているでしょうか」

「そんなもん知っているはずがないでしょう」

 

だんだん一休さんと将軍様の問答みたいになってきましたが、これはまあ、知識を問う質問というよりは理論的思考力を問う問題なのでしょう。面接などでたまに使われるフェルミ推定と呼ばれるものだと思います。

 

地球上にアリは何匹いるのか。東京都内にあるマンホールの総数はいくらか。とにかく荒唐無稽な数を問う問題です。こういった質問において実際の数を知識として知っていることはそう重要ではありません。知っておく必要もありません。重要なのはどう理論的にアプローチしてその数を推測するのかというところです。この種の質問はそういった能力を問われているわけです。

 

多摩川に架かる橋の数もそうです。この数を知識として知っている人はそういません。橋マニアか多摩川マニアくらいでしょう。理論的にアプローチしてその数を予想できるか、この質問ではそれが問われているのです。ということで、理論的に多摩川の橋の数を推測してみましょう。

 

まず、橋が造られる場所のことを考えましょう。橋はどういった場所に造られるか。これはもう圧倒的に「必要な場所」に造られます。いくつかの例外はありますが橋は必ず必要な場所に造られます。けっこう大掛かりな工事になりますからね。

 

では、どのような場所に橋が必要と感じるか。これはもう、遠回りするのが面倒な場所に造られるわけです。川を隔てて向こう側に行きたいときにあっちの橋まで遠回りしたくない。そういった場所に要望が集まり、じゃあ造るかと橋が造られるわけです。

 

そう考えると、無限に橋を造るわけにはいきませんので、「遠回りしたくないな」の限界に合わせた間隔で橋が造られるはずです。ではその「遠回りしたくないな」とは、どれくらいの距離でしょうか。

「急がば回れ」ということわざがあります。無理に近道をするより、たとえ遠回りでも安全な道を選んだ方が、かえって早く着くよというものです。これは滋賀県の琵琶湖、その南端にあたる草津市あたりを舞台とした言葉だと言われています。

琵琶湖を渡って向こう側に行きたい場合に、直進する渡し舟が確かに近道で速いのだけど、山から吹く突風で転覆する危険性があったわけです。それならば多少は遠回りでも安全な橋を渡っていったほうが結果的には良い、という教訓です。

当時の位置関係がこちら。水路を行った場合と、遠回りして陸路を行った場合、その間隔が4 kmくらいです。当時の人は4 km位離れた場所まで移動することを遠回りと認識していました。そして「ここに橋があればいいのになあ」と思ったはずです。

遠回りが4 km、これはその時代の人々の感覚です。ほとんど徒歩で移動していた時代の感覚です。現代の人々はもっと怠惰ですので、さらに短い距離を遠回りと考えるはずです。

問題の場所には、ここに橋があったらいいのになあに応じて現代では「近江大橋」という橋が架かっています。その南方にも橋が架かっています。この近江大橋と隣の橋その間隔こそが現代にアップデートされた「急がば回れ」と言えます。その間隔は2.1 km、おおよそ2 kmです。2kmの遠回りはちょっといやだ、橋を架けて欲しい。それがこの起源の場所から伺えます。

そう考えると、橋とは2 km間隔くらいで造られるのが妥当じゃないかと予想できます。多摩川と呼ばれる部分の全長が約93 km、2で割ると、46.5本の橋があると計算できます。さらには、住民の遠回りを防ぐ以外の用途の橋、これは鉄道だったり高速道路だったりするのですが、都内の交通事情から考えてそういった橋が10本くらいはあるんじゃないかと推計します。

「そういった理論的思考から56.5本つまり57本だと思います」

「なるほど。素晴らしい。では実際に確かめてきてください

「は?」

「ですから、patoさんのその推計が合っているのか、実際に多摩川の上流から河口まで橋の数を確かめてきてくださいよ。徒歩で

 

またとんでもないこと言い出した。

 

「そんなの徒歩である必要ないでしょう。そもそも確認するのだって地図とかウィキペディアとか見ればわかるでしょ。せめて車とか使いましょうよ。バイクとか。せめて自転車!」

「まあ、徒歩で」

 

だんだん振りかたが雑になってきたな。前はもっとこう、理解はできないけどもっともらしい理由をつけて徒歩に誘導していたのに、ついにそれすらなくなってしまった。乱暴すぎる。こじつけでもいいから納得させてくれよ。

ということで、上流から河口まで、多摩川を歩くみたいです。橋を数えに。この青いラインが多摩川ですから、まあ長いですよ。

編集部から示されたルールは以下の通り。

・多摩川にかかる橋の数を数える。

・徒歩

・徒歩で渡ることができる橋はなるべく渡る。

・スマホの地図を確認してはいけない(確認しないほうがスリリングなので)。

・陽が落ちたらその日の移動はやめる(暗いと何が何やら分からない画像が上がってくるので)

・徒歩

ということで、多摩川の起点である小河内ダムまでやってきました。何度も言いますが、同じ東京都なのにめちゃくちゃ遠かった。

 

ダムの管理事務所っぽい人がしきりに「いまはめちゃくちゃ水位が低いです!水位が低いです!」と普段はこんなもんじゃないんだぜって感じで連呼していました。

 

本来、河川法によりますと、多摩川はここよりさらに上流の笠取山を水源とし、一之瀬川や丹波川と呼ばれる部分まで含めて多摩川と規定されており、全長が138 kmとなります。ただし、その水源から歩くと地獄みたいなことになることは明らかなので、今回は川の名称が「多摩川」となっている部分のみでカウントします。そして、その起点がここ小河内ダムです。

ダムの下をのぞき込みます。赤で示したあたりが多摩川の始まりまでしょうか。中央に見えるプールみたいなものは水じょく池と呼ばれる施設で、落差の大きい流れの勢いを拡散させる働きがあります。その隣の建物はたぶん水力発電所です。

 

よし、ここから橋を数えていくぞと思うのですが、しばらくは橋がない雰囲気でした。この時点で多摩川は山間を流れる細い川でしかなく、なかなか先を見通せないのですが、橋はなさそうな雰囲気です。

 

そもそも橋が必要となる個所というのは、冒頭でも述べたように、人が渡りたいと思う場所なはずです。現時点では川の両側どちらも山深い森ですので、そもそも渡る必要がない。よって橋がない。というわけなのです。

ダムから回り込むようにして伸びる国道を歩いていきます。この部分は道路からまったく川が見えない状態なので、橋の有無を確認できない状態ですが、まあ川沿いに道路がないということは橋もないだろうと突き進んでいきます。

けっこう坂道を下ったところで、エキサイトバイクのジャンプ台みたいな施設が登場してきました。ダムの脇から伸びる水路と繋がっているようなので、余水吐きと呼ばれるものだと思います。ダムに溜まった余剰な水を排出するルートです。もちろん、現在は管理員の人が「いつもはこんな水位じゃない」と何度も言うほど水位が低いので、全く使われずカラカラです。

歩いていると、突如としてトンネルが立ちはだかってきました。地元のヤンキーの間で心霊話とか語り継がれていそうなトンネルです。そういった恐怖のトンネルだけど、徒歩旅をする僕にとっては別の意味で恐怖のトンネルです。

 

この道路は国道なのでけっこう交通量が多く車もけっこう飛ばしているんです。それなのにこのように暗く、歩道のないトンネル、歩いているだけで死の予感がはしるというものです。めちゃくちゃ怖い。もともとこのあたりを歩く人が少ないんだろうから仕方ないんだろうけど、もうちょっと歩道設備なんとかならないものか。

恐怖のトンネルを抜けると分岐点にやってきた。左側がそのまま国道を突っ切るルート、右側がその佇まいから予想するに、国道ができる前に使われていた旧道みたいなルートだと思う。

やはり旧道のようで「奥多摩むかし道」という名称がついている。なんでも、出発地点である小河内ダムができるまでは青梅街道として使われていたルートで、ダムの完成によって同時に国道が整備され、それによって廃道となったルートらしい。その後、「奥多摩むかし道」として整備して復活させたみたいだ。

 

おそらく、橋を探すならこの旧道ルートを通るしかない。

旧道はけっこう過酷な感じなのだけど、ほとんど車が通らないので安全性は抜群だ。川の姿が見えないものの音は聞こえてくるのでおそらく近いのだと思う。こういった自然と水と親しむ遊歩道的な感じでこの道を整備したんだろうと思う。

しばらく進んでいると、公衆トイレがあった。けっこう綺麗なトイレでしっかりと清掃されている感じがする。旧道を巡って旅をする場合はトイレ問題がけっこう深刻になることがあるけど、ここまでしっかり整備されているなら安心だ。

どうやら奥多摩町は本気で観光用公衆トイレの整備に力を入れているようで「日本一観光用公衆トイレがきれいな町」としてOPT(おくたまピカピカトイレット)プロジェクトを推進しているらしい。だから清掃が行き届いていたんだ。

はるか下の谷底にやっとこさ川が見えてきた。多摩川だ。まだまだそんなに大きな川じゃないけど、川の流れは速い。急流だ。ここに色々な支流が合流していってだんだん大きな川になっていくのだろう。

脇から流れてくるこういった小さな川がどんどん多摩川に合流していく。このあたりのせせらぎの音はなんとも心地よく、癒し効果すら感じる。

 

予想した以上にアップダウンのある道を進むこと40分、ついに1本目の橋に到達した。

 

No.001 道所橋

  

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 44m(公称データが見つからなかったので自分で測定しました)

海まで95 km

 

多摩川において最も上流に位置する吊り橋だ。なかなか雰囲気がある。金田一少年の事件簿とかで犯人によって最初に落とされる橋みたいだ。

「この橋を渡る際は、安全上2人までとしてください」

 

めちゃくちゃ怖いわ。本当に渡って大丈夫なんだろうか。2人まで大丈夫って書いてあるけどどういう2人を想定しているのか分からない。僕、昼休みにめちゃくちゃ小さいお弁当食べてるOLの3人分くらい体重あると思うよ。僕が渡ったら無残にも橋が崩れ去るんじゃないだろうか。

実際に渡ってみると、こんなに揺れることあるかってレベルでめちゃくちゃ揺れる。橋自体はそこまで大きくはないのだけど、けっこう高い位置にあるので落ちたら確実に死ぬ。踏みしめるたびに揺れてギシギシいうので本当に怖い。

あからさまに板で補強された場所がある。補強されているから安心だとはならず、補強が必要であるという事実がより一層の恐怖を引き出してくれる。

橋を渡りきった先は、林の奥へと伸びる獣道みたいなものが続いているだけだ。おそらくこの橋はこの奥の林を管理するのに必要なのだろう。こっち側は先には進めないので、またギシギシ揺れる橋を渡ってもとの道に戻った。

もとの「奥多摩むかし道」に戻る。それにしてもこの道、左右から伸びる木々や崖によって適度に日光が遮られ、水のせせらぎが聞こえ、鳥の声が聞こえる絶好のハイキングコースだな。自然の音を楽しむのに適している。

 

色々な音を楽しみながら次の橋を目指す。このルートにはいくつかの見どころみたいなものがある。

「むし歯地蔵」だ。この村の人が虫歯で苦しんでいたところ、煎った大豆をお地蔵さまに供えたところ、痛みが治まったという伝説がある。画像ではわかりにくいけど、お地蔵さまのところに豆みたいなものがつい最近に供えられた形跡があったので、だれかが虫歯に困り果ててここを訪れたのかもしれない。でも、ここに来るより歯医者に行ったほうがいい。

ここは馬の水のみ場。昔の人はこの街道を馬で旅していたわけで、ここでその馬を休ませていた。それに合わせて人間も休めるよう、ここには三軒の茶屋があった。

「縁結び地蔵尊」

恋しい人と結ばれたい…いとしい方と添い遂げたい…。などとこの地蔵尊の看板だけ奥多摩町教育委員会の説明文がちょっと感情的になっている。なんかあったのか。これまでは淡々と説明していたのに。ちなみに、愛しい人と結ばれるには人知れずこっそりとこの地蔵に二股大根を供える必要があるらしい。二股大根を用意する必要があるので微妙にハードルが高い。ってか恋愛祈願で「二股」ってまあまあ縁起悪いんじゃないの。

 

そんな見どころを眺めながら歩いていたら、多摩川2本目の橋に到達した。

 

No.002 しだくら橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 64m (公称データが見つからなかったので自分で測定しました)

海まで94 km

 

この橋があるあたりから惣岳渓谷というエリアに入るらしい。川の流れの中に巨石が見えるようになるそうだ。

この、しだくら橋も先ほどの道所橋と同じく吊り橋なのだけど、ちょっと構造がしっかりしているような印象を受けた。

けれどもやっぱり同時に2人までしか渡れないらしい。僕、OL3人ぶんくらいあると思うけど大丈夫だろうか。

 

渡ってみる。やっぱりめちゃくちゃ揺れる。橋の構造はしっかりしているけど、先ほどの橋より長さがあるぶん、その揺れが大きい。めちゃくちゃ怖い。

橋の上から眺める景色は絶景だ。巨岩がゴロゴロしている渓谷を眺めることができる。ちなみにこの岩々は、洪水の時に山から運ばれてきたらしい。

ちなみにこの橋を渡った先も林の奥へと消えていく獣道しか存在しない。たぶん林の管理に必要な橋なのだろう。つまり、また揺れる橋を渡って元のルートに戻る必要がある。

 

元の道にもどってふたたび先に進む。次の橋を見つけるためだ。歩きだしてすぐに綺麗な建物が目の前に現れた。

あまりに立派な建物なので、なんらかの資料館かと思って近づいてみたら、これも公衆トイレだった。めちゃくちゃ立派だし綺麗だ。奥多摩町はガチでトイレに力を入れている。

このあたりは道路がかなり高い位置にあり、川はずいぶんと下の方に存在する。もう水の音も聞こえないくらいの高低差がある。とうぶん、橋はなさそうな雰囲気だ。

この先に橋があるのかないのか、そういったものは川の先のほうを見通せばある程度は分かりそうだけど、現状で多摩川は山の合間の谷を縫うように蛇行している小さな流れなので、その先の状態が見通せない。一時も気を抜かずに橋の有無を監視するしかない。なかなか大変だぞ、これ。

 

しばらく歩いていると、歩いている「むかし道」と国道とかクロスする場所に躍り出た。ここから先、変わらず旧道である「むかし道」を歩くか、それとも整備された国道に復帰するか選択が必要な場面だ。もし選択を失敗すると橋を見落としてしまうばかりか、舞い戻ってくる必要も出てくるかもしれない。そうなると大きなロスに繋がる。

 

ちょうど国道と「むかし道」の合流のところで、手前にいくつかあった民家の住人と思われるおばちゃんと、道路工事の警備員さんが雑談をしていた。その横を通り抜けようとしているとおばちゃんに話しかけられた。

 

「あんた、いい写真、撮れたかね?」

 

取材時の僕は首から大きなカメラをぶら下げているので、こう話しかけられることが多い。

 

「ええ、まあ」

 

曖昧に答える僕に、住民と思われるおばちゃんはグイグイと攻めてくる。

 

「なんの写真を撮ってるの? 植物? 川?」

 

「実は写真が目的ではないんですよ。多摩川に何本の橋が架かっているのか数えていまして」

 

「なんでそんなことを」

 

「(それは僕にもわからない……)」

 

こんな心温まるやり取りがあった。住民と思われるおばちゃんはとても親切で、どのルートをいけば効率よく橋が取れるか教えてくれた。ここからは川に架かる橋が国道のそれになるので「むかし道」より国道を行った方が良い。「むかし道」だと取り逃す橋が出てくる。国道を行きなさい。それから、消防署あたりから脇道にそれるルートで効率よく橋が取れるだろう、とのことだった。思いもがけずかなり有力な情報が手に入ったな。

国道に復帰してすぐに長いトンネルが登場する。相変わらず歩道ないわ車は爆速だわで怖い。

 

No.003 境橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 97m (patoによる測定)

海まで90 km

 

か細い渓流の中に林を整備するために小さな吊り橋を架けるのが「川と橋のあり方の第一形態」とするのならば、ここからそれは第二形態と移行する。川が大きく蛇行するゾーンにおいて道路を真っすぐ通すために橋が架けられるパターンだ。向こう岸に渡りたいというよりは道路を真っすぐ通したいという願望が強い。3番目の境橋はその典型だろう。

こんな感じの橋が続いていく。

このあたりは川の蛇行に合わせて、ある程度は短い間隔で橋がくると予想される。

川の流れははるか下にある。この橋は川を渡すというよりは谷を渡すイメージに近い。

多摩川という河川名の表記と共に、海からの距離が86.1 kmと表示されている。この距離は川としての距離なので、実際はもっと大回りが必要なので長くなると思われる。その手前の柱には次の橋と前の橋の案内が書かれている。めちゃくちゃありがたい情報だ。

予想した通り、次の橋までは下流へ0.9 kmと近いようだ。ただし、上流の橋をみると11.4kmとかなり遠い。たぶんダムより上流の橋のことを指している。これまで見てきた2つの橋がごそっと省略されているので、吊り橋レベルの小さな橋はここに記載されないのかもしれない。ということは、ある程度は橋の気配に注意しながら進まなくてはならない。

境橋を渡るとすぐにトンネルが牙をむいてくる。またもや暗く、狭く、車がゼロヨンでもやってんじゃないのかってレベルで爆速だ。心なしか、人が歩くことができる領域がトンネルが登場するたびにどんどん狭くなっている気がする。とにかく怖い。トンネルが殺しにきている。

 

No.004 檜村橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 98m

海まで89 km

 

トンネルを抜けるとすぐに4本目の橋が登場してきた。やはりこのあたりでは蛇行する川に対してトンネルと橋を駆使してなるべくまっすぐに道路を敷いている。しばらくはこのタイプの橋が連続するんじゃないだろうか。

 

 

この4本目の橋である檜村橋を通過すると一気に民家が増えてくる。川のカーブ部分にできた集落といった感じで、昔ながらの家が多い。

 

天気が良いからか、それらの民家の軒先には椅子を置いて座っているお婆さんが多い。何をするでもなく、ただ日光を浴びて家の前を通る道路の車を眺めている。ただ、歩行者はあまり通らなくて珍しいのか、なぜか僕が通過しようとするとこのお婆さんたちが必ず立ち上がる。

 

「いい天気だねえ」

 

「ですねえ」

 

「花が咲いたのよ」

 

「いいですねえ」

 

みたいな、なんてことない会話を交わすだけなんだけど、そのお婆さんの動きが、近づくと急にアクティブになって立ち上がるエルデンリングのフィールド敵みたいで趣が深かった。

 

No.005 琴浦橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 100m (patoによる実測)

海まで89 km

 

 

こういった国道を真っすぐ通すための橋は、道路と一体化しているので、どこから橋が始まり、どこで橋が終わるのかが分かりにくい。橋の長さは公称データが見つからないことも多く、その場合は歩数で長さを測っている。この橋は境目が分かりづらく、カーブと一体化しているため測定が難しかった。

この繋ぎ目みたいな場所から橋が始まっているんだろうと測定しているけど、その手前から橋桁が始まっていたりすることもあるので判断が難しい。そもそも橋の長さをそこまで執念かけて測定する必要もないような気がしてきた。誰もあんまり気にしてないだろ。

多摩川の水面ははるか下の谷底にあって、容赦なく蛇行している。こりゃかなりのペースで橋が登場してきそうだ。最初に予想した2 km間隔で橋があるはずという予想をはるかに上回るペースで登場してきているので、本数はかなり多くなるかもしれない。やっぱ机上の理論と現実ってぜんぜん違うんだなと思い知らされる。

川沿いを歩くんだろ、上流から河口まで、つまりはずっと下りってことじゃん、水は高いところから低いところに流れるからね。下り。楽勝。と考えていたのだけど実はそんなこと全然なくて川沿いの道路は予想以上にアップダウンが激しい。おまけにこのアップダウンなんか目じゃない魔物がこの先に待ち構えていることになるとは、この時は考えもしなかった。

 

しばらく歩くと、すぐに5本目の橋が現れた。やはり予想した以上に橋の間隔が短い。蛇行する川に絡むようにして町が形成されているので、かなりの頻度で橋が造られている。しかも近づいてみて分かったのだけど、この一帯、橋が3連発で存在していた。

完全に橋の銀座通り。蛇行する川を無視するようにまっすぐ伸びる道路、それとここで国道が分岐する。分岐した道路は雰囲気的に市街地をパスするバイパスみたいなルートだろう。その道路の橋もあることで橋三連発という異常状態になっている。

 

No.005 笹平橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 71.3m

海まで88 km

 

橋3連発地点におけるもっとも上流側の橋。長さはそこまでではないけれども、もうその奥には次の橋と道路の分岐が見えている。

 

No.006 愛宕大橋(あたごおおはし)

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 99m(patoによる実測)

海まで88 km

 

こちらが分岐したほうの道路に架かる橋。橋を渡ると長い長いトンネルがあり、奥多摩の街をショートカットして一気に青梅市方面に向かうことができる道路っぽい。たぶんこっちが後からできた新しい橋なんじゃないかな。

 

No.007 弁天橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 71m(patoによる実測)

海まで88 km

 

一気に3本の橋が登場したことに動揺が隠せない。僕はこの記事の冒頭において「全部で57本の橋が架かっているんじゃないか」と予想したけど、まだまだ序盤でもう7本だ。これは予想よりもずっと多い可能性がある。このペースだと100本くらいになるんじゃないか。

この部分は本当に橋が密集しているので、弁天橋を渡りながら隣の愛宕大橋の雄姿を横に見ることができる。谷に架かるくっきりとした赤が美しい。

 

橋が密集するこの地帯を超えても、やはり次々と橋が襲い掛かってくる。

スマホで地図を見ることが禁じられている今、こうして橋ごとに設置されているキロポストみたいな距離標が重要な情報源になっている。上流と下流の橋までの距離を示してくれるからだ。これによると0.6 km下流に次の橋があるらしい。かなり近い。ただし、これまでの経験でこの距離標は小さな橋を無視する傾向にあるので、小さな橋の気配を見落とさないように川を監視しながら進んでいく必要がある。

はるか下を流れる川を監視しながら歩くけど、まあ、小さな橋はなさそうな気配だ。

 

No.008 南氷川橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 99.8 m

海まで87 km

 

民家や商店が増えてきたので、そろそろ雰囲気的に奥多摩町の中心地が近くなってきたようだ。中心地には奥多摩駅もあり、コンビニなどもあるはずだ。朝から飲まず食わずで歩いてきたのでそろそろ空腹が限界だ。コンビニへの期待が高まる。ただし、川を見張って歩いている限り町の中心から微妙に外れた場所を歩くわけで、コンビニなどをスルーする可能性がある。それだけが心配だ。とにかく腹が減った。

ここ南氷川橋は少し特徴的な橋で、歩道と車道を区切っていた柵が途中でガコッと消失する。なんでこんなことになったのか分からないのだけど、もしかしたら将来的にこの橋の上にバス停が設置されるかも、それだったら柵は邪魔だよね、みたいな考えがあったのかもしれない。

 

さて、この南氷川橋の手前にはとても立派な消防署があった。奥多摩消防署だ。かなり手前で親切に橋ルートを教えてくれたおばちゃんによると、ここで脇道に入っていけば効率よく橋をとれるらしい。橋を渡ったあとに舞い戻り、その脇道はどこだろうかと探す。

どうやらここを左に入っていくらしい。その先が「奥多摩ふれあい森林浴コース」という遊歩道になっており、おばちゃんの話によるとそこに橋があるみたいだ。

ただし、その入口が、本当にこれであっているのか不安になるレベルの道だ。これ本当に正解なのか。民家の庭とかに繋がっている道じゃないの。

しばらく歩くとやっと遊歩道らしい感じになってくる。そして、川面が間近に感じられるほど下っていた森の奥深くに、橋があった。

こんなの上の国道を歩いていたら絶対に見落とす。おばちゃんがいたからこそ見つけられた橋だ。ここで理解する。どうやら、川の上流には2種類の橋が存在するのだと。上の方の国道に造られる大きな橋と、こういった川面の近くに存在する小さな橋、これらが交互にくると上の国道に上って川の近くまで降りて行ってとアップダウンを繰り返すことになる。これが地味にきつい。地獄かこれ。

 

No.009 登計橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 20 m

海まで87 km

 

けっこう揺れる橋だけれども、高さがなく、すぐそこが川面なのでそこまで怖くはない。

渡っている途中で次の橋が見えた。めちゃくちゃ高い位置にある橋で、どう考えても国道の橋だ。つまり、あそこまで登っていかなくてはならない。ずっと下り! ローラースケートでいっちゃいたい! みたいにはしゃいでいた出発前の僕を殴ってやりたい。めちゃくちゃアップダウンあるじゃねえか。

こういった案内看板はスマホ地図を封じられている僕にとって貴重な情報源だ。

この地図によると、ここは多摩川と日原川が合流する地点らしい。さきほどの見えていた赤い橋は昭和橋だろう。

登計橋を渡ってすぐの場所に、なにやら年代物っぽい看板が立っていた。ちょっと煤けていて読みにくいのだけど、この崖を登った上に「三河屋」という店があって、そこでは宿泊も食事も温泉もあるよ、とのことだった。

三河屋までのルートはかなり切り立った崖で登るのが大変そう。それでも簡易的な階段がつけられていたし、なにより次の橋は高い位置にある橋だ。ここで登っておくのも悪くないと登り始めた。なにより「食事」と書いてあったので腹を満たすこともできそうだ。

 

けっこう過酷な登りで、ヒーヒー言いながら登る。息も絶え絶えになりながらもなんとか登り切ったその時、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

「私有地につき立入りはご遠慮ください」

 

どうやら入れないらしい。この柵はまだかわいいほうで、これよりちょっと登ったところはもっと強固な柵があって、有刺鉄線みたいなものもあった。絶対に何者も侵入させないという強い意志を感じた。どうやら上がれないらしい。

 

じゃああの看板はなんだったんだ。上に行けば宿泊あるよ、食事あるよ、温泉もあるよ、楽しいよというあの看板だ。それに誘われて死ぬ思いで登るとブロックされる。とんでもねえブービートラップだ。

仕方がないのでスゴスゴとさっきの場所まで降りていき、川沿いを歩き始めた。高い位置にある次の橋を渡るにはどっかで登っていく必要があるのだけどその登れる場所が登場してこない。

このポイントで多摩川と日原川が合流するようだ。川の流れも微妙に渦のようになっている。

この橋を渡った先に上へと登っていくルートが見えたのでこれで国道に復帰できそうだ。ちなみにこの橋は「氷川小橋」という橋なのだけど、この橋はカウントしない。

氷川小橋はその位置から考えて合流前の日原川に架かる橋だ。僕はあくまでも「多摩川に架かる橋」をカウントしているのでこれは対象外だ。

橋を渡ってすぐの場所に観光トイレがあった。新しくて綺麗だ。その綺麗さ、頻度、すべてにおいて奥多摩町の観光トイレはレベルが高い。

坂を登りきった先には奥氷川神社という歴史の古い神社があり、その境内には氷川の三本杉という根元の部分が完全に癒着した三本の杉があった。これが「くっついて離れない」みたいな感じで縁起がいいのか、数組のカップルがやってきて縁結び祈願みたいなことをしていた。

僕も縁結びならいいやつ知っていますよ。二股大根が必要なんですけど。あっ! ここで気がついた、なんで二股大根なんだろうと思っていたけどあれも「くっついて離れない」なんだな。やっと理解できた。二股を「分かれている」とるか、「くっついている」ととるかで感じ方がぜんぜん違うんだ。思いがけない気付きを得てしまったな。

 

No.010 昭和橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 98 m

海まで87 km

 

やっとこさ奥多摩駅の周辺にやってきた。駅の方に向かえば飲食店やコンビニなんかもありそうな雰囲気なんだけど、多摩川はそれとは逆方向に伸びている。まったく飲食店がなさそうな地帯を突き抜ける硬派さみたいなものがある。本当に腹が減った。

 

ここ昭和橋は、なぜか大きな荷物を持った人々が駅からドコドコと歩いていた。キャンプ道具一式だとか、バーベキューセットみたいなものをキャリーで引いている人が多いのでこの先にキャンプ場みたいなものがあるのだろう。

 

橋の下に広がる河原みたいな場所にいくつかのテントが見えたので、この河原もキャンプ場の一部になっているんだと思う。

氷川キャンプ場
住所:東京都西多摩郡奥多摩町氷川702
https://www.okutamas.co.jp/hikawa/

 

予想通り、昭和橋を渡ってすぐの場所にキャンプ場があった。駐車場まで完備されていてけっこうしっかりした設備のようだ。奥多摩駅からも徒歩で来ることができる場所なので便利がよさそうだ。

 

昭和橋を渡ったままそのまま真っすぐと進む。このあたりは多摩川の右岸を歩くのだけど、民家があったり林があったり、そもそも道路が少し川から離れているため川の様子が伺えない。

 

この看板を見て確信した。この先に人が渡るレベルの小さな橋がある。間違いない。

 

もえぎの湯は奥多摩町にある入浴施設だ。実はけっこう手前の方からこういう入浴施設があるよと看板があった。その看板によると国道沿いにあるような表記だった。いま僕は多摩川の右岸を歩いていて、国道や入浴施設は左岸にある。つまりここで曲がると左岸に行く橋があるということだ。歩道という表記から、人間が渡るだけの小さな橋だろう。

 

No.011 もえぎ橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 70 m(patoによる実測)

海まで86 km

 

完全に予想通り。ちょっとした住宅街を抜けるとそこにポツンと小さな橋があった。やはり向こう側に渡るらしい。

 

こういった小さい橋は川面の近くに造る必要がある。川面から離れれば離れるほど橋の規模が大きくなる。つまりさっき歩いてきた道路からかなり下ってきて、橋を渡ったあとにかなり登って道路に復帰する必要がある。むちゃくちゃアップダウンがきつい。

それにしてもめちゃくちゃ雰囲気のある橋だな。

橋の上からだと河原でキャンプしている様子がよくわかる。

 

橋を渡り切り、またヒーヒーいいながら階段をのぼって道路に復帰、そのまま進んでいくとすぐに「もえぎの湯」に到着した。

奥多摩もえぎの湯
東京都西多摩郡奥多摩町氷川119-1

https://www.okutamas.co.jp/moegi/

入浴料

大人850円(入湯税50円を含む)(3時間)
小学生450円(3時間)
心身障害者:大人460円/小人200円(3時間) 幼児・未就学児無料

営業時間

4月~11月 10:00~20:00(19:00受付終了)
12月~3月 10:00~19:00(18:00受付終了)

定休日/月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)
食堂の営業時間 11:00~19:30(ラストオーダー19:00) となります。

※天候及び混雑状況により営業時間が変更になる場合があります。

 

けっこう汗をかいてしまったし、予想外のアップダウンの連続で足腰にも疲れがきているので是非とも入浴していきたいところなのだけど、時間がない。この旅は日没までしか移動できないルールなので、夜間にめちゃくちゃ歩いて巻き返すことができない。日が出てるうちになるべく先に進まなくてはならないのだ。

足湯まであって本当に最高なのだけど、入っている時間がない。先に進まなくてはならない。泣く泣く先に進むことにした。

この「もえぎの湯」は道路の終端みたいな場所にあって、そこで道路が終わってしまっているので、国道に復帰できる分岐点まで引き返す必要があるのかと心配していたけど、施設の裏口みたいな場所からそのまま青梅街道に合流することができた。ここからは多摩川を右手に臨みながら左岸であるこの青梅街道を突き進んでいく。

 

そして、ここで「川と橋のありかた」が第三形態に移行した。ここまでは蛇行する川に対して真っすぐ道路を通すために橋が架けられていた。ここからは川の蛇行が収まる。そして、川のどちらか側に幹線道路なり大きな集落があり、その反対側にポツンと集落が現れる。それを結ぶために橋が架けられる。まさに生活を結ぶ橋がここから登場してくるのだ。

 

ここまでかなりの密度で橋が登場してきたけど、形態が変わったことによってあまり登場してこなくなった。青梅街道に入ってからけっこう歩いたけど、なかなか橋が登場してこない。

 

けっこうな距離を歩いてやっとこさ橋が登場してきた。

めちゃくちゃ横幅が広い橋だな、これじゃあ橋2本分の横幅じゃんと思って近づいてみると、なんてことはない、本当に橋が二本だった。二つの橋が密着するように存在している。たぶん、手前の橋が古くて、それから横に新しい橋ができたんだと思う。

 

No.012 海沢橋(うなざわはし)

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 50 m(patoによる実測)

海まで85 km

 

手前側のほうが古い橋で今は歩行者専用みたいな扱いになっている。さらに古い時代は簡易的な吊り橋だったようで、その時の名残の土台みたいなものが橋の下にあった。橋の先が森の中に消えていて行き止まりみたいに錯覚するけど、渡ってみると左に折れ曲がって隣の橋の下を通過するようにして道が続いている。その先には旧道や公園などがあるみたいだ。

 

No.013 海沢大橋(うなざわおおはし)

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 96 m(patoによる実測)

海まで85 km

 

隣の海沢大橋は、川の向こうの集落と幹線道路を結ぶための橋だ。立派な道路なので交通量もなかなか多い。ぜんぜん関係ないけどアスファルトに赤や緑の色がついているとなんかすごく立派な道路にみえてしまう。

 

向こう岸は道路が川から離れていきそうな感じなので、橋を渡ったあとに引き返して相変わらず川の左岸を歩き続けることにした。おそらく左岸の青梅街道と右岸の集落を結ぶ橋が増えると思うので、左岸を歩くのが正解なのだと思う。

次の橋を目指して歩きはじめる。川沿いの道路が急な下り坂になって、かなり川面に近い場所までやってきた。もうすぐそこが川、みたいな場所もある。かと思ったら急激な上り坂がやってきて、遠く離れた谷底に川があるみたいな状態にもなる。川沿いの道路はとにかくアップダウンが激しいのだ。

そこからさらに歩くと、今度は急に水の音が聞こえなくなった。これまではザアザアと水が流れる音が聞こえていたのに、その音は全く聞こえなくなって、鴨かなにかがパシャパシャと水遊びをする音だけが聞こえていた。水面を見てみると、完全に川の流れが停滞していた。

 

「こりゃ、この先にダムがあるな」

 

ここまで水の流れが止まるのはダムがあるとしか考えられない。

 

「ダムがあったら俺の勝ちってことで」

 

誰と勝負しているのか全く意味不明だけど、そう呟いた。一人で黙々と歩いて旅をしていると精神をやられてしまうことがあるので、なるべく言葉を発するようにしている。

 

それにしても空腹が限界だ。何も食べずにかなりの距離を歩いてきてしまった。ここらでコンビニでもあるとベストなのだけど、雰囲気的にそれは望めそうもない。なんでもいいレストランとかでもいい、なにか食べたい。食べないと一歩も進めない。かなり切迫した状態になっていた。

そこに狙いすましたかのように登場したのが「奥多摩ハンバーグ」の看板だ。こんなの絶対に美味いに決まっている。「やわらか~じゅわ~」とまで煽情的に書かれている。こんなの絶対に美味いに決まっている。どうやらすぐ近くの場所に「アースガーデン」というレストランがあるようだ。そこで奥多摩ハンバーグを食べる。これ最高でしょ。

 

うおー! 奥多摩ハンバーグ食べるぞ! 待ってろアースガーデン!

 

本 日 休 業

 

なんか悪気はないんだろうけど、こうやって一文字ずつ離して書かれていると若干だけど煽られている感じがするな。

 

森の中のお肉レストラン アースガーデン

住所:東京都奥多摩郡奥多摩町白丸361-1
営業時間:11:00 – 16:00
定休日:なし
HP:https://www.facebook.com/morinoearthgarden/

 

完全なる休業状態に落胆するのだけど、どうやらこのアースガーデン、川の向こう岸にあるみたい。つまり、そこには橋があるというわけだ。

 

No.014 数馬峡橋(かずまきょうばし)

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 63 m(patoによる実測)

海まで84 km

 

この橋を渡った先は雰囲気的にアースガーデンしかなさそう。つまりアースガーデン専用の橋と言っても過言ではない。

 

休業なものは仕方がないので、空腹を抱えつつも先に進む。いつの間にか道路の左側上方をJR青梅線が走っている。JR東日本はこの青梅線にアドベンチャーラインという愛称をつけてキャンペーンを行っている。この沿線に住んでいる人たちは、自分の居住地域に「アドベンチャー」ってつけられてどんな気分なんだろうと考えつつ、アップダウンが激しいこの川沿いの道路は本当にアドベンチャーだと納得しながら歩く。

 

途中、歩いて旅をする二人組の外国人とすれ違った。二人はなにがそんなに面白いんだろうというレベルでゲラゲラ笑いながら歩いていた。もしかしたらこんな会話をしていたのかもしれない。

 

「俺たち、日本に来てまで歩いていてクレイジーだな」

 

「だな」

 

「それよりも歩いて多摩川の橋の数を数えている奴がいたとしたら」

 

「そいつはクレイジーだ!」

 

「GAHAHAHAHAHAHAHA」

 

こんな会話をしているのかもしれない。いや、絶対にしている(被害妄想)。

 

しばらく歩くと、目の前に「白丸ダム」という看板が現れた。ほらー、やっぱりダムがあった。

 

「ダムがあったんで俺の勝ちってことで」

 

脇道に入ればすぐにダムを見学できるようなので、意味不明な独り言を残してダムへと向かった。ダムが見たいというより、ダムの前後に橋がないか見張らなければならないからだ。

 

ダムの横には情報量満載の看板があった。多摩川の起点からここまでの全ての橋が記載されているし、これから先の橋も記されている。こんなの宝の山だろ。天狗の絵がむしょうにイライラするけど。

 

どうやらこのつきだした展望台みたいな場所からダムがよく見えるみたいだ。なんか、絶対に大丈夫なのは分かっているんだけど、落とし穴が仕掛けられている雰囲気がする台だ。パかッと床が抜けて奈落に落とされそうで怖い。

 

ドドドドドドとものすごい音を立てて放水する大迫力のダム。たしかにそれはすごいのだけど、僕にとってはそれ以上に気になることがある。

赤で囲った部分。ダムの堤体の上部の天端の部分、明らかに人が通ることができる構造になっている。これ、こういう構造をしているならば見方によってはダムも多摩川に架かる橋と考えられるのではないか。

 

なぜこんなことを言い出すのかというとですね、どうやらダムも橋であると考えている派閥があるっぽいんですよ。

これは橋があるごとに設置されている距離標なんですけど、ここ白丸ダムにもこれが存在します。つまり、この時点でここが橋であると考えられている可能性がある。

この距離標には前後の橋の名称と距離も記載されているのだけど、しっかりと橋のイラストの上に「白丸ダム」と書かれている。つまり、ダムも橋と考えている節がある。

 

「うーん、でもダムと橋は違うよなー」

 

苦悩すること15分。

 

「ダムは橋ではない」

 

やっぱりダムはダムだよ。これを橋とカウントしたらダムマニアの人に怒られるかもしれない。ダムと橋の違いについてロゼッタストーンみたいになった狂ったコメントを書かれるかもしれない。それは避けたい。ここは橋とカウントしないのが正解だろう。

 

多摩川の起点から白丸ダムまで、様々な支流が合流してきてけっこう大きな流れになっていたのだけど、ダムを経由したことでまたか細い流れになってしまった。

 

先に進んでいると、何軒かの民家が密集しているエリアに到達した。その一軒の民家の軒先には椅子に座って通りを眺めているじいさんがいて、僕が近づくとまたエルデンリングの敵みたいにアクティブになって立ち上がった。

 

「いい写真は撮れたかい?」

 

「ええ、ずっと橋を撮影しているんですけど、あ、そうだ、このあたりに橋ありますか?」

 

「あるよ」

 

完全に有力な情報だ。といっても先ほどのダムで橋の情報を仕入れているので、だいたいこの辺に橋があることは分かっていた。

 

「ここからずっと川まで降りていくと遊歩道がある。そこに橋がある。その遊歩道に行くにはトイレを左に曲がる」

 

RPGで有力な情報をくれるキャラみたいなヒントの出し方だな。近づくとアクティブになるエルデンリングの敵とかいってごめんなさい。

 

どうやらこの下に鳩ノ巣渓谷と呼ばれる地帯があり、そこに遊歩道が整備されているみたいだ。そこに橋があるというわけだ。

じいさんの有力情報に従って遊歩道へと降りていく。かなり高い位置にいたようで、かなりの距離を降りていく。降りたということはかならずどこかで登らなければならない。相変わらず激しいアップダウンに足腰が破壊されそうだ。

 

ちなみに、遊歩道へと降りていく階段の途中に看板があり、橋の近くに「絶景カフェ ぽっぽ」という軽食も食べられる雰囲気のカフェがあるらしい。完全に空腹を癒す大チャンスなのだけど、ここまでの流れを考えてどうせ定休日なんでしょ、はいはい、定休日と自嘲気味に構えていたら、

本当に定休日だった。

 

絶景カフェ ぽっぽ

住所:東京都西多摩郡奥多摩町棚沢662
営業時間: 11:00~16:30 12~2月 未定
定休日 水曜日

http://www.gallerypoppo.com/

 

この絶景カフェのすぐ近くに次なる橋が存在していた。たぶんこの橋や川の様子をダイナミックに眺めることができるから絶景カフェなんだと思う。

 

No.015 鳩ノ巣小橋(はとのすこばし)

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 35 m

海まで83 km

 

この周辺は鳩ノ巣渓谷という名称がつけられている。川の周辺には岩々が連なっており、その上を深い森が覆う。とても綺麗に色づきそうな木々が多いので秋の季節などは紅葉が綺麗そうだ。そんな遊歩道の中心にある吊り橋、それが鳩ノ巣小橋だ。小橋ということはどこかに鳩ノ巣大橋があるのかもしれない。

鳩ノ巣渓谷はこのように巨岩が連なる渓谷だ。というか巨岩の隙間を川が流れていると表現するべきだ。それだけ岩がゴロゴロしている。

なんか河原で寝そべっている人いるなと思っていたら、そのうちの一人が突如として巨岩を登り始めた(画像中央)のでびっくりした。けっこうな普段着の人がとつぜんロッククライミングを始めたので本当に驚いた。たぶん、ここらの巨岩を利用してクライミングの練習しようと思い立ったのだろう。

渓谷の遊歩道が終わり、突如として大量の廃墟が目の前に登場してくる。ここから上の道路まで岩々が織りなす壮大な崖みたいになっているのだけど、その断崖に張り付くようにいくつかのホテルが建てられている。それらのほとんどが廃墟と化していて、かつては絶景の宿泊地と賑わったであろう熱量みたいなものを感じて妙に寂しい。それよりなにより、この廃墟の中の登り坂が強烈で完全に足腰が壊れるか思った。

 

ゼーゼーと息を切らしながら廃墟の街を登りきると、本当に登りきったすぐ横に次の橋があった。

 

No.016 雲仙橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ  50m(patoによる実測)

海まで83 km

 

けっこうしっかりした造りの橋だけど、総重量2トン以上の車両は通行してはいけないらしい。というか、この幅で車両が通行できるんだ。

これまで川の左岸を歩いてきたけど、川の形状的をみると、この先で大きく右にカーブしているようだ。つまり川の右岸を通ったほうが距離が短くなりそうなので、この橋を渡ったまままっすぐ進み、川の右岸を進むことにする。

 

橋を渡りながら、はるか下にある川の様子を眺める。さっきまで河原の巨岩の中を歩いたことを考えるとこの高さを登ってきたわけだ。あまりの高低差に驚くと同時に、もう一つの事実に驚かされる。

 

なんか橋がある。

 

あれ、明らかに橋だよな。誰かが勝手に取りつけたみたいな橋だけど、確かに橋だ。これまでのどの案内看板の地図にも載っていなかったし、たぶん地図にも載っていないんだろうけど、あれは確かに橋だ。

 

No.017 なぞの橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 不明

海まで 不明

 

あれ、渡れるのか……?

 

ルールでは渡ることができる橋はすべて渡らなくてはならないのだけど、ここから見てもわかるレベルで脆弱そう。かなり簡易的な橋なんじゃないだろうか。渡るとしたらめちゃくちゃ怖い。

 

どうやら、あの橋のある場所は「鳩ノ巣バンガロー」という宿泊やBBQができる施設みたいで、あの橋もその施設の一部みたいな雰囲気がある。バンガロー利用者が向こう側に渡るための橋じゃないだろうか。

 

そうなると、僕は利用者ではないのであの橋を渡ることはできない。そう、渡ることができない橋だ。きっとそうだ。

雲仙橋を渡り切った場所に簡易的な地図が掲示してあった。こういう地図はものすごく助かる。見るとこのまま進んで集落を突き切れば鳩ノ巣大橋までいけるようだ。やはりあったな。大橋。

 

あと、あの謎の橋があったあたりまでのルートは「行き止まり」と表記されていることから、こちらの集落と繋がるための橋ではなさそうだ。やはりあのバンガローの利用者が対岸の広場などに行くための橋なのだろう。たぶんあれは渡れない。

 

 

なんだか懐かしい気持ちを思い起こさせてくれるような街並みの集落を抜けていく。どこか近くに登山口でもあるのかフル装備に近い登山客とすれ違った。

 

No.018鳩ノ巣大橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 135m(patoによる実測)

海まで 82 km

 

集落を抜け、小高い山みたいな場所をヒーヒー言いながら超えた先に橋が存在した。あきらかに先ほど抜けてきた集落と国道側の集落を結ぶための橋だ。

 

さらにはこの鳩ノ巣大橋の真横に並行してもう一つ、立派な橋があった。

 

No.019 将門大橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 100m(patoによる実測)

海まで 82 km

 

鳩ノ巣大橋が集落と集落を結ぶ橋ならば、こちらは幹線道路の橋といったところか。何本か前の海沢大橋のあたりからトンネルでダイレクトにここまで繋がっているみたいで、トンネルを出るとすぐこの橋になる。おそらく青梅方面に抜けるときの近道になるのだろう。けっこう交通量があった。

 

用途の違う2つの橋が隣り合うように存在していた。このままいくと川の右岸には道がなさそうなので、橋を渡ってそのまま左岸を進むことにする。そろそろ橋の規模が大きくなってきて渡りきるのがきつくなってきた。

橋を抜け、そのまま青梅街道との合流地点を目指す。当然のごとく容赦ない上り坂が登場してくる。国道に合流するたびにちょっとした登山気分を味わっている。それくらい登りが連発してくる。こいうのが徒歩旅には地味にくるのだ。

 

そういえばおおよそ2年以上ぶりの徒歩取材だ。前に徒歩取材をしたのが、客船の患者がどうこうと騒いでいたコロナ禍の初期なので、ずいぶんと久しぶりの徒歩というわけだ。だからこんなに足腰が弱っているんだ。足が痛いなあと考えながら青梅街道をトボトボと歩いていると、はるか下の方に橋が見えた。

低すぎる。これを下っていくのだ。下りだけならまだしも、橋のあとはたいてい登りがセットになる。誰だよ、ずっと下りだぞ、ローラースケートで行った方が良いんじゃない、みたいにはしゃいでいたやつは。

 

No.020寸庭橋(すにわきょうばし)

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 不明

海まで 81 km

 

 

橋を渡った先は大きなカーブになっていてそのままちょっと高台風の集落へと繋がっているようだった。やはりこの一帯は集落を結ぶ橋がメインになってくる。橋を渡り切ってその集落の中を進んでも良かったのだけど、微妙に遠回りになりそうだったので、折り返して来た道を戻り、青梅街道に復帰することにした。つまり、また激しい登りだ。

激しい登りだ。苦しい。

 

ただ、やはり神様は見ているもので、ここまでして苦労して復帰した青梅街道。その復帰した先にご褒美が待っていた。

コンビニがあったあああああ。さすが青梅街道だ。橋を20本目までカウントしたところでついにコンビニに遭遇できた。ここで食料や飲料を購入してしばし休憩する。コンビニの横には定食屋さんみたいなものもあったけど、こちらは時間の関係でスルーすることにした。

 

No.021万世橋(まんせいばし)

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 122m

海まで 80 km

 

コンビニの真横の道路からそのまますぐに橋に繋がっていた。

 

橋の上から川の形状をみると、またここで川が大きく右に曲がっていた。つまり、この橋を渡った先から川の右岸を進めばやや効率的になる可能性がある。けれども、今の僕はコンビニがあったことにより青梅街道への信頼が爆上がりしているので、橋を渡ったところから引き返し、そのまま左岸の青梅街道を歩くことにした。

大きな一軒家が増えてきた。川の周辺は背の高い木々が立っていて、川の様子を伺い知ることができない。小さな隠し橋みたいなものがあったら大変なのだけど、まあ、そういう隠し橋も雰囲気で分かるようになってきたので川が見えなくとも問題はない。

これだから青梅街道は侮れない。民家しかないなあと歩いていたら突如として祭りみたいにド派手なたこ焼き屋が登場してきた。どうやら民家の軒先を改造してたこ焼き屋にしているみたいだ。店舗名などの詳細はいくらネットで検索しても出てこないので、知る人ぞ知るたこ焼き屋みたいになっている(情報あったら教えてください)。

 

しばらく進むと、目の前に大きな建造物がみえてきた。

塔およびそこから伸びるケーブルが見えるので斜張橋と呼ばれる構造の橋だろう。大規模な橋に用いられる構造だ。ここにきて初めてこのタイプの橋が登場してきたということは、それだけ大規模な橋が必要な川の大きさになったということだろう。

 

No.022奥多摩大橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 108m

海まで 78 km

 

とても立派な橋だ。なにより左右に立派な歩道がついていることがうれしい。これまでの大きな橋はほとんど車メインの橋だったので、そこまで歩道に気を配られてはいなかった。

 

川を渡る部分の橋はそう長くはないけど、その先の道路とも一体になって橋を構成しているのでこんなに立派に見えるんだ。

 

いやあ、こんな大きな橋が出てきたということはずいぶんと下流に来たということですかなとしみじみと渡っていると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。

 

なんか橋があるな。

 

またもや、距離標にも、どこの案内看板にも、おそらく地図にも載っていない謎の橋が登場してきた。次の橋を示している距離標によると3キロ下流が次の橋なので、あれは明らかに記載されていない橋だ。

 

どうやら渡り切った先の橋の下あたりがキャンプ村になっており、そのキャンプ村から対岸へと渡るための橋のようだ。

 

ということで、キャンプ場の事務所まで行ってみる。事務所には受付みたいな場所があって、そこで佇んでいたお兄さんに聞いてみた。

 

「すいません、いまぼく上流からずっと橋の写真を撮っているんですけど」

 

「なんでそんなことを」

 

「(それは僕にもわからない)」

 

「奥多摩大橋から見ていたらこのキャンプ場に橋があるのが見えましてね。あの橋は僕も渡ることができますか? それとも利用者専用ですか?」

 

「あー、あの橋ね」

 

お兄さんは、たまにこういうやつ来るんだよなーみたいな表情をしながら教えてくれました。あの橋、老朽化が酷くて危険だからいまは封鎖されていて渡れないそうです。橋の名前は梅沢橋だそうです。本来はキャンプ場とその対岸の駐車場を結ぶ橋みたい。

 

No.023 梅沢橋

東京都西多摩郡奥多摩町

橋の長さ 不明

海まで 78 km

現在は老朽化のため封鎖中

 

キャンプ場まで降りてきたので、そのまま川の右岸を進むことにする。途中、ほとんどが道路から川が見えない区間になるけど、下に降りていく道もないので橋もないだろうと先に進んでいく。

 

そのまま青梅市に入った。長かった奥多摩町が終わり、やっとこさ青梅市だ。

 

森を切り取った場所に道路を通した、みたいな山道が続く。それが終わると急に開けた場所に出た。民家がたくさん建っている集落だ。集落の中に入っていく道路が川の方向に見えたのでそちらに移動して川の様子を見る。

 

あれ、絶対に橋だろ。

 

しかもかなり低い位置にある。あそこまで降りていく必要があるわけか。むちゃくちゃ遠いぞ。

 

車は絶対に通れない、みたいな道を通って降りていく。降りた先はかなり大きな規模のフィッシングセンターだった。

奥多摩フィッシングセンター

住所:〒198-0174東京都青梅市御岳2丁目333
お問い合わせ : 0428-78-8393
営業時間:7:00~16:00(3月~11月) 7:30~16:00(12月~2月) 8:00~16:00(釣り堀のみ)

http://www.okutama-fc.co.jp/okutama_fc_esa.html

車で行くには青梅街道側からしか入れないので注意。

釣り堀エリアあり、川釣りエリアあり、初心者エリアありBBQエリアありと、川釣りのワンダーランドみたいな施設だった。一応、利用者以外は立ち行ってはいけないという雰囲気があったので、作業していたスタッフの方に「橋の写真を撮っているんですけど、上から見たら橋があったんで、ちょっと入ってもいいでしょうか?」と聞いたら、なんでそんなことをみたいな顔をされつつ、いいよって言われました。

釣りをする場合とバーベキューをする場合の値段をチェックする。夏になったら来ようと思ったからだ。絶対に楽しいに決まっている。

 

入ってみて分かったんだけど、ここ、めちゃくちゃ橋がある。橋の宝庫だ。橋の銀座通りだ。

 

No.024 奥多摩フィッシングセンターの入口の橋

東京都青梅市

橋の長さ 40m(patoによる実測)

海まで 77 km

 

これは青梅街道から入ってきた車両が通行できるように設置された橋だ。完全にフィッシングセンター専用の橋だろう。ただし、それだけではない。場内を見回すとそれ以外にも「多摩川に架かる橋」の存在に気が付く。

川釣りエリアに風雲たけし城で使われそうな橋が二本。上流側と下流側に存在する。釣り客がポイントを取りやすくするための橋だろう。これもどう考えても「多摩川に架かる橋」だ。しっかりとカウントしなくてはならない。ただし、どう考えても釣り客しか渡れない橋のため、僕は渡ることができない。

 

No.025 釣り用の橋(上流)

東京都青梅市

橋の長さ 不明

海まで 77 km

 

No.026 釣り用の橋(下流)

東京都青梅市

橋の長さ 不明

海まで 77 km

 

おまけにこれだけではない。初心者エリアには思わず声をあげてしまうレベルで大量の橋が存在する。

ギャー! これぜんぶ橋だ。初心者が行き来しやすいように、何区画かに区切られた場所に大量の橋が存在する。ここから見ただけでもざっと6本の橋がある。これらを一気にカウントすると大漁だぜとなるが、ここで注意深く画像を見て欲しい。

上流から転々と区切られた区画が連なってくるけれども、もっとも手前の場所でそれが終わっている。そのまま川の本流に合流するということもない。つまりこれらは池だ。おそらく多摩川から分岐させて水を入れた後に石を積んで流れを止めているんだと思う。そこに魚を放流して初心者でも釣りやすくしているんじゃないか。

 

つまり、これは流れではない。多摩川ではなく、多摩川の水を使った池と表現するべきだ。この旅では「多摩川に架かる橋」をカウントしているので、この流れでない部分の橋をカウントするのは適切ではない。それでもこのフィッシングセンターで一気に3本の橋、大量ゲットだぜ。

 

大量の橋をゲットしたフィッシングセンターをあとにし、次の橋を目指して歩き出す。次の橋はフィッシングセンターから見えていたのでかなり近いはずだ。ただし、ダイレクトにはいけない感じなので、いったん上の道路まで歩いていき、さらにはまた降りていく必要がある。もうこの激しいアップダウンにも慣れてしまったところがある。

予想通り、すぐに次の橋が見えてきた。このように間近に見えたとしてもシャーっと斜面を滑り降りていくわけにもいかないので大きく遠回りして橋まで降りていくことになる。実際の距離以上に歩く距離が長くなる理由だ。

 

 

No.027 神路橋

東京都青梅市

橋の長さ 62 m(patoによる実測)

海まで 76 km

 

吊り橋ではあるけどしっかりした造りなのでそこまで揺れない。この橋を渡りきると森林へと道が繋がっており、そのまま右岸の道路に出られるようになっている。ただし、けっこうな大回りになりそうだし、川からも離れてしまいそうだったので、引き返して左岸を行くことにした。

左岸には、橋から降りていく形で川沿いに伸びる小路があった。これは川を見張るのに最適すぎる。

かなり間近に川を感じる状態で進んでいく。これだけ間近に川を感じながら歩くのも久々の感覚だ。このあたりで先ほどのフィッシングセンターの管理区域が終わるようで、釣りが解禁になるようだ。そんな表記が黄色い旗に架かれていた。その解禁ラインギリギリのところで釣りをする親子がいた。

 

No.028 杣の小橋(そまのこばし)

東京都青梅市

橋の長さ 59 m(patoによる実測)

海まで 75 km

 

先ほどの神路橋あたりから、川沿いの遊歩道が充実してくる印象だ。歩き出してすぐに左岸の遊歩道と右岸の遊歩道を繋ぐ橋が登場してくる。幹線道路でもなく、集落と集落を繋ぐでもなく、釣り用の橋でもなく、遊歩道と遊歩道を繋ぐ新たなタイプの橋だ。

 

横幅は人が通れるギリギリの幅で、向こうから人が来ようものなら譲り合って通行する必要がある。

この橋は少し変わった構造をしていて、歩道橋のように階段をのぼって渡る必要がある。階段よりも外側に鉄骨がはみ出していて、そこが橋を支えるアンカーになっている。鉄骨の下にはおそらく揺れを吸収する機構が入っている。

 

橋を渡り切った右岸にも同じように味のある遊歩道が整備されているので、そこを歩いて次の橋を目指す。

 

進んでいくと、次の橋が見えてきた。ああ、どっからどう見ても高い位置にある橋だ。つまりはあそこまで登っていかなければならない。久々の徒歩旅で僕の体力が落ちていることもあるだろうけど、このアップダウンの連続は本当につらい。

 

このあたりは急流なポイントが多いため、カヤックの練習に絶好の場所らしい。熱心に練習している団体がいた。「いっちゃえいっちゃえ」「ナイス」みたいな声掛けが行われていた。

このように、川沿いの崖にへばりつくようにして建てられる建物群に心惹かれてしまう。なんか裏側から見る真実みたいな良さがある。このあたりの光景は妙に迫力があった。

 

No.029 御岳橋(みたけばし)

東京都青梅市

橋の長さ 80m

海まで 75 km

 

ヒーヒーいいながら登ってきた。橋を渡り切った先はJR御岳駅になっており少しだけ賑わっている。

橋の上から眺めた多摩川の様子だ。岩々が連なり、かなり激しい急流になっている。どうやらこのあたりには御岳渓谷と名付けられているらしい。そして、左岸にはその渓谷を眺めるための遊歩道があるようなので、橋を渡り切った先からその遊歩道へと降りる道を探していく。

どうやらここから渓谷へと降りていけるようだ。降りてすぐに次なる橋が現れた。

御岳小橋と書いてある。どうやらこちら側の遊歩道と向こう岸の遊歩道を結ぶタイプの橋のようだけど、なにやら様子がおかしい。

橋がない。

 

途中までは橋桁があるのだけど、多摩川に差し掛かる部分になるとすっぽりとなくなっている。よくよく見ると存在する橋桁の部分も人が入り込めないようにバリケードで封鎖されている。

 

調べてみると、ここには御岳小橋という橋があったのだけど、2019年の台風ときに流されてしまったらしい。それで今はこの状態になっているそうだ。かつては橋があったのだろうけど、この状態では「多摩川に架かる橋」とはいえない。よってこの橋はカウントしない。

 

よくよく見ると橋の下にある案内看板みたいなものをストラックアウトで二枚抜きされたみたいになっている。これも看板部分が流されてしまったのかもしれない。

 

渓谷の脇の遊歩道を歩くと川の音がダイレクトに聞こえてきて心地よい。そろそろ日が傾いてきた。ここからは日没まであっという間だろう。この旅は、橋をカウントする移動は日没までと定められている。そうしないと僕は夜通し歩いて次々と暗闇の画像をアップするからだ。下手したら真っ暗な海苔みたいな画像を並べてここに橋があると主張しかねない。だから編集部によって日没後のカウントを禁じられてしまった。さすが、僕のことを分かっている。禁止されなかったら絶対にやっていた。

  

川の中に佇む岩の数が減ってきたなと感じる頃、前方に次の橋が見えてきた。その規模や高さなどから考えるに遊歩道タイプの橋だろう。先ほどの「杣の小橋」にとても良く似た構造に見える。

 

No.030 鵜の瀬橋(うのせはし)

東京都青梅市

橋の長さ 65m(patoによる実測)

海まで 75 km

 

こちらもやはりその構造は歩道橋に近い。階段で登っていくタイプの橋だ。吊り橋でもない、それでいて途中の支柱もない状態でこれだけ長い橋を造れるのだからたいしたものだ。

橋を渡り切った右岸ににも同様に川沿いの遊歩道があったので、そちらを歩いていくことにする。

 

ここからしばらくは、なかなか雰囲気のある遊歩道が続く。川のせせらぎに吹き抜ける風、木々の葉が揺れて擦れあう音まで聞こえる。癒し効果が強すぎて自分は休日に散歩をしているという錯覚すら覚える。「死ぬほど歩いてアップダウンを繰り返して橋をカウントしている」という地獄の存在を一瞬だけ忘れることができる。

 

次の橋が見えた。遊歩道を飛び越えて橋が伸びているので、けっこう高い位置にある橋だ。つまり登っていく必要がある。

死ぬほどの登り階段が行く手を遮るかのように登場してきた。この世に現出した地獄というやつである。もう完全に足腰がぶっ壊れる。

 

なんとか気力を振り絞り、死にそうになりながら登ると、その登りが妙に長く感じた。やはりかなり限界に近いのだろう。実際には登りすぎでもなんでもないのに登りすぎに感じるほどに体力が削られているのだ。

 

と、思ったら本当に登りすぎだった。橋が下に見えとる。橋があるところまで登る道かと思ったら、橋よりも高い位置に登る道だった。圧倒的に登りすぎている。

 

なぜこんなに登らされたかというと、どうやらこの小高い山には寒山寺という寺があるようで、そこに登るためのルートだったようだ。そのまま山を降りて行って橋を通るルートに合流できた。

 

No.031 楓橋

東京都青梅市

橋の長さ 61m(patoによる実測)

海まで 74 km

 

近づいてみると思ったより小さな橋だった。この高さにある橋は幹線道路に架かるものがほとんどでかなり大きい傾向にあるのだけど、橋自体は遊歩道タイプのように人が通るためだけのものだ。たぶん、ここ、車両は通れないだろう。

橋を渡り切った先は綺麗な庭園になっていた。椅子や机が並べられ、売店のようなものまで見える。

 

どうやらこの一帯には「澤乃井」という日本酒で有名な小澤酒造があるらしく、その小澤酒造が展開する澤乃井園という施設のようだ。周辺には酒造見学施設や利き酒処などもあり、庭園では川の風景を楽しみながら軽食やお酒を楽しむことができる。

 

楓橋を渡った先にある美術館も同じ小澤酒造が経営しているようなので、楓橋自体がこの庭園の一部だったということだろう。だから人が通るだけの大きさなのだ。

 

清流ガーデン澤乃井園
住所:東京都青梅市沢井2-770
TEL:0428-78-8210
営業時間:10時〜17時 (軽食11時〜16時)
定休日: 月曜日(祝日の場合は火曜日)

 

澤乃井園からそのまま青梅街道に復帰して歩き出す。

すぐに酒蔵みたいな建物が見えてきた。おそらくここで「澤乃井」を造っているのだろう。このあたり一帯は青梅市の一大観光地らしく澤乃井フィーバーみたいになっていた。

 

川の周辺の景色が開けてきて見通しがよくなってきた。こうなると橋を見張る必要がなくて助かる。また、川の流れも大きくなってきたので、見落としがちな小さな橋、みたいな危険性が減ってきたのでやりやすくなってきた。

歩いていると、工場のような資材置き場のような場所に到達した。僕はこういう場所が大好きだ。あそこに置かれている資材はなにに使うのかな、あれは道路工事に使うのかな、木材があるあれは建築資材かな、などと想像するのが好きなのだ。そんな気持ちでワクワクしながら工場内を眺める。

なにに使うのかな。

 

そんなことを考えながら歩いていると、次の橋が見えてきた。

橋の一部が木材で覆われていて、その木材が真新しいものだからゲームのグラフィックがバグった風景みたいになっている。

 

No.032軍畑大橋(いくさばたおおばし)

東京都青梅市

橋の長さ 129 m

海まで 72 km

 

軍畑大橋は工事が行われていた。たぶん、塗り替え工事だと思う。ここにもたくさんの資材が置かれていてちょっとワクワクした。この軍畑大橋は平成3年(1991年)に完成したものなので、ちょうど30年くらいになる。それくらいの頻度で補修が必要なのだろう。橋というものは造るのも大変ならばその後のメンテナンスも大変なのだ。

 

といったところで陽が落ちてきたので1日目の移動はここまで。JR二俣尾駅をチェックポイントとして、2日目はここから始めます。1日目のまとめはこちら。

 

1日目 東京都青梅市 二俣尾駅

橋の本数 32本

移動距離 27.49 km

海まで 72 km

早朝にスタート地点行くこと自体が大変でスタート時間が遅くなった。予想以上にアップダウンがきつく、足腰がぶっ壊れた。橋を見落とさないように川を監視しながら歩く難しさ。これらの要因が絡んで思ったほど進めなかった。2日目以降は川が大きく、周辺の地形もフラットになってくるのでもうちょっと進めるんじゃないかと思う。

 

※突然に入ってきた別の仕事の関係で数日の間隔をあけて2日目の徒歩を実行します。

 

2日目 AM9:00 二俣尾駅

さて、1日目終了から数日の間隔があいてしまいましたが、なんとかやってまいりました。2日目も張り切って橋をカウントしていきましょう。

 

1日目が終了した時点では満身創痍でこの駅に辿り着いたので気が付かなかったけど、駅には非常に有用な周辺地図があった。これでここから数本は見落とすことなく橋を見つけていけそうだ。

次の橋に向かって歩き出す。なぜか二俣尾駅で降りたすべての人が塊になって同じ方向に歩き出すから怖かった。この先でなにかイベントでもあるのだろうか。

 

その塊の人々は途中の路地とかで散り散りになっていったので、たまたま同じ方向に歩いていただけなんだなとホッとしていたら、その先の道路で全員が合流してきたので本当に怖かった。今日はここでなにがあるんだ。けっきょく分からないまま、集団は消えていた。

 

No.033奥多摩橋

東京都青梅市

橋の長さ 177 m

海まで 101 km

 

奥多摩橋は、駅がある青梅街道側の二俣尾とその先の集落である柚木町を繋ぐ橋のようだ。古い歴史の橋なので重要な橋であるにも関わらずやや横幅が狭い。歩道も片側のみだし、車道も車同士のすれ違いにややヒヤリとするような大きさだ。

橋の上から眺めた多摩川だ。小さな蛇行を繰り返していているけれども、急激に傾斜がなくなってきたので川の流れはそこまで速くはない。ゆったりと流れている。

 

橋を渡り切って柚木町の集落の中を歩いていく。

 

橋や坂道など、道路が高くなっている場所の脇に立つ建物が、こうやってその高さの場所に入口を造ることがある。建物の2階や3階、屋上にこうした高い位置の入口がある光景が好きだ。なんだかよくわからないけど無性に興奮してしまう。僕も橋や坂の隣に家を建てるときは絶対にこういう入口を造るぞと決意しているほどだ。

 

猫が歩いていたので、まだ出発したばかりで僕の元気が良かったこともあって「やあ、次の橋はどこにあるかな」と冗談まじりに話しかけたところ、その光景を近所のおばさんが目撃しており、めちゃくちゃ不審な人物が集落内を歩いている、みたいな驚きの眼で見られてしまった。猫は「ニャー」とだけ答えていた。

 

集落を抜けて少しだけ森深い一帯を抜けると左手に大きな校舎が見えてきた。青梅市立西中学校だ。おそらく春休み期間中だろうけど、部活に精を出しているであろうジャージ姿の中学生がこぞって登校していた。

 

駅で確認した案内看板によると、この中学の裏に橋があるそうなので、ジャージ姿の中学生に混じって中学へと向かった。

 

中学校の脇の路地では、すでに練習が始まっている部活のウォーミングアップが行われいて、ランニングをする中学生の姿が多くあった。

中学校の裏手から見える景色がめちゃくちゃ絶景でダイナミックだ。たぶん校舎からも見える。昼下がりの授業中にボンヤリと窓の外を見たらこの光景が見えるのだ。僕もこういった美しい風景が見える中学に通いたかった。

 

中学校の裏手はちょっとした林になっていて、その木々の隙間から橋が見えた。なんか明らかに中学校専用の橋みたいな趣だ。きっとこの橋の上で様々な青春があったに違いない。そんな位置取りの橋だ。

 

No.034 好文橋(すきぶんばし)

東京都青梅市

橋の長さ 100 m(patoによる実測)

海まで 70 km

 

「すきぶんばし」という名称がいい。好きという字が入っている。絶対にこの橋の上で告白すると……みたいな、ときメモの伝説の樹の下での告白みたいな言い伝えが中学にあるはずだ。おじさんはそう思う。

伝説の樹になってもおかしくないほど立派な桜を眺めながら青梅街道を歩く。川沿いの道はまだアップダウンがあり、上り坂と下り坂が交互にやってくる。これがもうちょっと進めばフラットになってくると思うけど、まだまだきつそうだ。

 

歩く旅をしているときに何を考えて歩いていますか?と読者の方から質問されることがある。基本的には「SPOT編集部死ね」と考えて歩いているけど、それ以外だと例えば消防署の横に新しい一軒家が建てられている光景を見たときに、絶対にここの家主の人は「消防署の横だから火事になっても安心」って言ったことあるだろうし、言わなくても誰かに言われたことあるだろうなあ、という、どうでもいいことを考えながら歩いている。

 

No.035 神代橋(かみしろばし)

東京都青梅市

橋の長さ 133 m(patoによる実測)

海まで 69 km

 

全ての橋はこうありたいものだ。しっかりとした広い歩道がありがたい。この橋の左岸には青梅街道とJR日向和田駅があり、橋を渡った右岸には比較的に大きな集落が存在している。交通の要所と集落を結ぶ橋で、交通量も多い。おそらく、通学や通勤に利用するために集落から徒歩や自転車で駅まで行く人が多いので歩道が充実しているのだと思う。

神代橋の上から見た川の風景がこちら。橋を渡る場合は前後の景色をしっかりとチェックし、案内板などに載っていない橋がないか確認する必要がある。よし、なさそうだ。

こういった案内看板は宝の山だ。どんな橋があるのか一目瞭然になる。ただし、この看板にはさきほど渡ってきた神代橋しか記載されていないため、新しい情報は得られなかった。ただし、渡り切った右岸側の街が予想以上に大きく、店もたくさんあることがわかった。右岸側の街を通り抜けて次の橋を目指す。

 

No.036 和田橋(わだばし)

東京都青梅市

橋の長さ 80 m(patoによる実測)

海まで 68 km

 

今度は歩道が存在しない橋が登場してきた。おそらくこの和田橋は、渡った先すぐに駅があるわけでもなく、やや距離があるのであまり歩行者や自転車が通ることはないという判断だろうか。ただ、車の交通量はけっこうあるのでこういうところを徒歩でいくのはまあまあ怖い。

川の流れがかなり雄大になってきた。こうなると、案内看板にも載らない小さな橋などを造るのは難しくなる。川の左右に遊歩道があるわけでもないので遊歩道用の小さな橋も存在しないだろう。つまり、案内看板にある大きな橋だけをチェックしていけば良さそうだ。

 

橋を渡り切り、しばらく青梅街道を歩いてJR宮ノ平駅に到達する。そこには宝の山というしかない案内看板が存在した。

こういう情報が欲しかったんだよ。しっかりと次の「万年橋」さらにはその先の「調布橋」の位置が記載されている。おまけに青梅の市街地にもずいぶんと近づいてきたみたいだ。先ほどの川の感じから見て、この地図に記載されているもの以外の橋はなさそうだ。つまりそこまで気合を入れて川を監視する必要はないわけだ。

 

まずは青梅の市街地を目指し、そこから南下して万年橋を目指す。それからまた市街地を抜けて調布橋を目指すルートが良さそうだ。

住宅街を抜ける。画像の左側の大きなフェンスがあるところは地域のグラウンドみたいになっており、ご老人のグループがグラウンドゴルフを楽しんでいた。そのグラウンドゴルフがめちゃくちゃエキサイティングに盛り上がっていてびっくりした。

 

これは僕の偏見かもしれないけど、グラウンドゴルフとはご老人たちが静かに、厳かに、ひっそりとやっているイメージだった。それがどうだ。このご老人たちの盛り上がりはどうだ。さらにはフィールドを縦横無尽に走り回るばあさんとかもいて歓声があがる。もしかしたらフィジカル的なコンタクトもあるんじゃないかという激しさだ。こんなに盛り上がっているグラウンドゴルフを見たことがない。

そろそろ南下していって万世橋を目指さなくてはならない。車が通るのがやっとといった細い路地の住宅街を抜けていく。川に向かってどんどん土地が低くなっているようでけっこうな下り坂だった。

左折ムズ! である。

ここは道が狭いから左折が難しい、塀とかに当たらないように、という注意喚起の看板なのだけどダイレクトに心に訴えかけてくるなにかがある。左折ムズ!これから先の人生において僕がどれだけ言葉や文章を綴ったとしてもこれより伝わるコピーは書けないかもしれない。

 

No.037万年橋

東京都青梅市

橋の長さ 93-96 m

海まで 66 km

 

万年橋は江戸時代から明治初期にかけて、多摩川に架かる橋の中でもっとも下流にある橋だった時代があるそうだ。これ以降、東京湾まで橋がなく、渡し舟などを使っていた時代がある。これは多摩川を江戸の防衛ラインと考えていたことに由来する。

 

この橋の構造は少し変わっていて、上り車線と下り車線の境界にしっかりとした構造の中央分離帯みたいなものがある。

この表示板を見るとわかりやすいのだけど、この中央分離帯を境に河川を管理する事務所が異なる。下流側が国土交通省の管轄であり、上流側が東京都の管轄のようだ。さらには中央分離帯を境に構造が違うようで「アーチ橋部」と「トラス橋部」に分かれている。最初にアーチ橋が造られていて、そこに並行して付け足すようにトラス橋がつけられた経緯があるようだ。だからこんな構造になっている。

 

こうしてみると、橋の左右で明らかに構造が違う。この場所からは見えないけど、下から見るとたぶん片方がアーチ状の円弧を描いていて、もう片方がトラス状の直線を描いている。

 

橋を渡り切って右岸をそのまま歩いて行っても良かったのだけど、少しだけ気になることがあった。

 

これは宮ノ平駅で見つけた案内看板で、これによると万年橋と調布橋の間には橋がないという判断ができる。しかし、別の案内看板や観光パンフレットを見ると、青で示したあたり、ちょうど川が蛇行していてそこに突き出した突端みたいになっている場所に「釜の淵公園」という大きな公園があるようなのだ。その「釜の淵公園」の写真を見ると、明らかに橋が写っているのだ。この公園に絶対に橋があるのだ。これはあきらかに矛盾する情報だ。

 

もしかして、この案内図に載っていない橋があるかも?

 

そんな疑惑が払えなかったので、次の調布橋をダイレクトに目指すのではなく、とりあえず左岸側から「釜の淵公園」に行ってみることにした。

住宅街を歩いていると不自然なくらいに細い路地があり、そこに「釜の淵公園」という案内表示があった。左岸の住宅街にこの表示があるということ自体が右岸側に渡る橋があるというなによりの証拠だ。絶対に橋がある!と細すぎる路地を少年の日のように駆け抜けた。

あった。

 

予想した通り、公園に渡るためだけの橋がそこにあった。とにかくあった。良かった、あの看板に騙されて見落とさなくて。

 

公園周辺は桜が満開で、それを観に来た人でけっこう混みあっていた。

川と河原の風景、そして桜ってめちゃくちゃ合うんですよ。誇るべき日本の風景じゃないかなと思います。

 

No.038 柳淵橋

東京都青梅市

橋の長さ 103 m

海まで 65 km

 

こちら側に公園用の駐車場があり、そこと公園を結ぶための橋のようだ。橋の周辺は桜の写真を撮る人や記念撮影をする人でごったがえしていた。そのまま橋を渡って公園へと入っていく。

公園内にも桜の木があって、老夫婦や若いカップルなどが思い思いの楽しみ方をしていた。新型コロナの影響で敷物や飲食物を伴った花見は自粛になっているようなのだけど、そうでない場合は青梅市の一大花見スポットなのかもしれない。

 

あと、幼稚園児の団体が散歩に来ていて、その中で「桜が嫌い」と号泣している園児がいた。保育士さんが「どうして嫌いなの、こんなに綺麗なのに」みたいなことを聞くと、さらに号泣して「散るから」って答えていた。めちゃくちゃ哲学的だな。この世に永遠に美しいものなんてないからな。

公園内には案内板があった。なるほど、こういう構造をしているんだ。この地図によると、下流側にももうひとつ橋があるようだ。危なかった。本当にこの公園の存在に気付いてよかった。ダイレクトに調布橋に向かっていたら2本の橋を見落とすところだった。

 

No.039 鮎美橋

東京都青梅市

橋の長さ 121 m

海まで 64 km

 

公園と向こう岸を繋ぐ下流側の橋だ。さきほどの柳淵橋もそうだけれども、公園専用の橋なので簡易的な橋なのかもと思っていたら、けっこう立派な橋なので驚いた。

桜を眺めながら橋を渡り、つぎの調布橋を目指す。

これから青梅市の市街地に入っていくから、フラットな街並みの中を歩くんだろうなと漠然と考えていたらけっこう険しい感じのフラットじゃない道路が登場してくる。これだから青梅市は侮れない。

青梅市のこの周辺は「川と並行に走る道路」という概念がないので、川から大きく離れる遠回りをして市街地に出ることも必要となる。道路標識によるとこの先350mで右折すると秋川街道を経て五日市に行けるようだ。おそらく五日市に抜けるには川を渡る必要があるのでそこで調布橋が登場してくるだろう。

 

No.040 調布橋

東京都青梅市

橋の長さ 113 m

海まで 63 km

 

アーチ部分の深い赤が印象的な橋だ。交通量がかなり多い。青梅の中心部と川の南部を繋ぐ重要な橋であると同時に、五日市方面へ抜ける秋川街道としても重要性が高い。車両だけでなく、歩行者などの通行も多いので立派な歩道がついていた。

 

橋を渡り切ったあとに、そのまま対岸を歩き続けるか、それとも引き返してもとも岸を歩き続けるか判断が難しいところだ。地図がない場合、道路が川を離れていってそのまま訳の分からない場所まで行く危険もあるのだ。その危険性を回避するため、基本的に左岸側を通っておいた方がいい。

 

この区域の多摩川左岸は、青梅線などの鉄道が通り、駅が存在している。青梅街道も通っている。街の中心が左岸であることが多いのだ。いざとなれば青梅街道を移動すればそこまでおかしなことにはならないので、よほどのことがない限り左岸を通ることにする。つまり、渡った橋を引き返す展開が多くなる。

 

左岸の街中を歩き、次の橋へと到達した。

 

No.041 下奥多摩橋

東京都青梅市

橋の長さ 90 m

海まで 63 km

 

とんでもないことになった。どうにもこうにも疲労がマックスになってきたらしく、さらには空腹も限界に達してきた。それでも次の橋を目指して住宅街を歩いていると頭がボーっとしてきた。方向を間違え、8分くらい来た道を引き返していたくらいなのでかなり朦朧としていたと思う。もちろん、そろそろ足腰も破壊されそうでその痛みもあった。

 

それでもやっとの思いで下奥多摩橋に辿り着いたのだけど、あとになってそこで撮影した画像を見てビビった。上記の「しもおくたまばし」と書かれた柱の写真しかなかった。これじゃあどんな構造をした橋なのかわからない。よほど朦朧としていたんだろう。本当にこの写真しかなかった。

 

なんとか気持ちを奮い立たせて先に進むのだけど、やはりどこかで食事休憩を入れたほうが良さそうだ。それにはある程度の飲食店がありそうな青梅街道まで戻る必要がある。

 

ここが青梅マラソンのスタート地点らしい。いつの間にか、川と並行して走る大きな道路が青梅街道から奥多摩街道に変わっていた。ずっと苦楽を共にしてきた青梅街道は新宿方面に向かうために多摩川から離れていく。ここからは奥多摩街道がメインの道路になりそうだ。

 

はるか先に巨大なイオンが見える。おそらくJR河辺駅周辺のイオンだろう。来るときに電車で通ったけど、なぜか異様に駅周辺が発展していた。あそこに行けば確実に食事にありつけるだろうけど、あそこまで行く気力がない。できればこの奥多摩街道沿いで済ませたい。

 

いいものがあるやないけ。

 

ここでしっかりとラーメンを食べて休憩することに成功した。あまりにも空腹だったので大盛りよりさらに上のサイズがないか、超大盛とかメガとかないのかと思ったんだけど、なさそうなので大盛りで我慢した。

 

しっかりとラーメンを食べ、食べ終わった後も画像整理をしつつちょっと休憩をした。空腹と同時に喉が渇いていたのかセルフだったお冷を7杯も飲んでしまった。これで完全に回復した。もう柱だけ撮影するとかそんなへまはしない。

 

道路が二股に分かれる場所に到達した。左に行けば新奥多摩街道となり、立川市や羽村市にいける。右に行けば奥多摩街道が続き福生市へと行けるらしい。もちろん、右側に多摩川があるのでそちらに向かうしかない。

 

歩いているとはるか先にとんでもない規模の橋が登場してきた。あまりにでかすぎる。よくよく見ると橋の上部と中断に道路が通る二層構造の橋だ。こんなもん、人類にどうこうできるレベルのものじゃない。神が遺したレベルの建造物じゃないか。それくらいの規模だった。

 

もし、これが人間が通ることができる橋だとすると、ルール上、あそこまで行って渡らなければならない。この規模の橋はおそらく入口も遠いし、高い。たぶんそこまで行くだけで足腰がぶっ壊れる。ただ、遠くてよくわからないけど、注意深く観察すると歩道がなさそうだし、通る車がなかなかの速度で走っている。あれ、高速道路じゃないだろうか。そうだったら嬉しいな。高速道路なら徒歩では渡れないのであそこまで行く必要がなくなる。

 

とにかく、ここからじゃよくわからないのでもう少し近づいてみるしかない。

 

あの人智を超えた橋に近づく道中、青梅市が終わり羽村市へと入った。奥多摩町、青梅市につづく多摩川流域3つ目の自治体だ。

 

あの橋に近づくにはこの階段を降りていくしかないようだ。階段の下は新しめの住宅が立ち並ぶ住宅街になっていた。僕は、こういった街中に突如として現れる階段が好きだ。この自動車もバイクも自転車も無視して、徒歩の人だけだよという階段が好きでたまらない。

 

No.042 圏央道多摩川橋(高速道路)

東京都青梅市

橋の長さ352.2 m

海まで 60 km

 

あまりに橋が巨大すぎて近づけるスポットがなかった。そこに繋がる道路もなかった。地上の世界との乖離がすさまじく、本当に神が造ったものじゃないかと思うほどに地上の街並みから浮いていた。ただ、近づいてみてわかった。これやっぱり高速道路だ。圏央道だな。

 

なぜ分かったかというと、風景に見覚えがあったからだ。たしか圏央道のこの区間をサバイバルゲームに行くときにレンタカーで爆走したと思う。とにかく高速道路だ。徒歩では渡れない。よかった。あそこまで行って渡る必要がなくなった。

 

階段を降りた住宅街は静かな感じで、公園もたくさんあった。このあたり一帯はとても住みやすいんじゃないかと思うほどに閑静だ。その中の公園に数人のキッズが集まっていた。たぶん、春休み中で暇なんだと思う。

 

「なんかみたことないおっさんが歩いてるぜ!」

 

その中のワンパクそうなキッズが僕を指してそう言った。おそらくこの住宅街は地形的に考えてあまりよそ者が迷い込んでこないのだと思う。ましてや、徒歩のやつなんてそうそう迷い込んでこないんだろう。よそ者を警戒する意味もあったかもしれない。

 

「なんでこんな場所を歩いているんだろう」

 

キッズがおもしろがってそんな言葉を口にする。

 

「(それは僕にも分からない)」

 

そう心の言葉で返す。

 

そのうちキッズたちが盛り上がってしまって、次の交差点を僕がどの方向に進むか当てようぜ、みたいな状態になってしまった。

 

「絶対にまっすぐ行くよ!」

 

と、グループの中でもっとも権力がありそうなキッズが僕に聞こえるように連呼しており、はずしたらめちゃくちゃ機嫌が悪くなりそうな気配があった。すごく他の方向に行きづらい感じになってしまった。本当は川の方角的にここで左折したかったのだけど、ガキ大将のことを考えると左折できそうにない。

 

左折ムズ!

 

そう呟いてまっすぐ行ったのでちょっと遠回りになってしまった。

 

No.043 友田水管橋

東京都青梅市、羽村市

橋の長さ126.8 m

海まで 60 km

 

住宅街を抜けるとやっとこさ人智を超えたレベルではない普通の橋が登場してきた。これは友田水管橋というらしい。どうやら橋を使って水道管を渡す際に、ついでだから人も通れるようにしておくか、となった橋のようだ。標識によると歩行者と自転車が通れるようだけど、思いっきり階段があるので自転車で通るには難易度が高い。ヘリの部分を使えば通れないこともないだろうけど、そこまでして自転車で通る必要がないので実質的に歩行者専用橋になっている。

なぜ自転車が無理に階段を登ってまで通過する必要がないかというと、すぐ真横にも立派な橋があるからだ。隣の橋は本当にすぐ近くで、車も自転車も歩行者も十分に通過する余地がある。自転車で階段を上り下りする手間を考えるとやはりあっちを通ると思う。

 

No.044 多摩川橋

東京都青梅市、羽村市・

橋の長さ114 m

海まで 60 km

 

そんな隣の橋がこちら。やはり立派な歩道がついている。交通量はかなり多くかなりの勢いで車が行き交っている。こうした騒がしく賑やかな感じがあまり好きではない歩行者が隣の静かな友田水管橋を渡ったりするんじゃないだろうか。

橋の上から監視すると、次の橋が見えた。かなり近い。どうやらこのあたりは橋が密集している地帯のようだ。ただし、その構造が橋とはちょっと違うように見える。あれはもしかしたら「堰」ではないだろうか。たぶんきっとそうだ。

 

堰とは単純にいってしまうと川の流量管理のために水を堰き止めるための施設だ。柱の間に堰き止める板があって、それの上下で流したり止めたりして流量を調整する。問題は、あの堰が橋なのかどうなのかという点だろう。単純にただの堰なら橋としてはカウントされない。ただ、堰と橋は一体構造になっていることがあるので、橋がある場合はカウントされる。これはもう近づいてみるしかない。

 

No.045 小作堰管理橋

東京都青梅市、羽村市

橋の長さ138 m(patoによる実測)

海まで 60 km

 

橋だった。

 

しっかりと堰と橋が一体化している。小作取水堰管理橋という名前もついている。

ダムほどの高さではないものの、しっかりと1メートルくらいの高さの板で堰き止められ、溢れたものが流れている。では、ここで川を少しだけ堰き止めて何をしているかという点に注目したい。

堰で川を堰き止めることにより、堰の手前に、ある程度の水を滞留させる。そこから十分な水量の水を抜き取り、脇にある池で砂などを沈殿させたあと、地下を通して山口貯水池(狭山湖)に送られる。水を取るために軽く堰き止めていたのだ。そこから各家庭へと配られる上水ができるのだろう。堰はけっこう重要な施設なのだ。

こういった堰があると川の魚が移動できなくなるため、魚道という魚の通り道の水路が用意されている。僕はこれも大好きで堰やダムがあるとついつい探してしまう。

管理橋を渡り、またも左岸を歩いていく。そろそろ喉が渇いたので次の橋を目指しつつ、コンビニを探すことにした。

完全なる住宅街を歩いてしばらくするとコンビニがあった。飲料をちょっと多めに買っておこう、非常時用の食料も買っておこうと店舗に近づいたのだけど、そこでただならぬ異変に気が付いた。

警察の車両、多くない?

 

自転車が2台にバイクが2台。いったいこのコンビニでなにが起きているんだ。めちゃくちゃ物騒だ。

 

もしかしたら籠城する犯人がいて警察官がたくさん押し寄せ、粘り強く交渉しているのかもしれない。下手に店内に入ったら籠城する犯人に「新しい人質がきたぜ」みたいな状態になって拘束されるかもしれない。「うひひひ、服を脱げ」などと辱められるかもしれない。そんな感じでヒヤヒヤしながら入店したら、籠城する犯人どころか、警察官の姿もなかった。普通に飲料も食料も買えた。

 

じゃあこの大量の警察車両はなにか。おそらくだけども、このコンビニの斜め向かいに駐在所があり、そこが関係しているのだと思う。そこの駐輪場がかなり手狭で自転車を1台停めるのがやっとの広さだ。こうして何台もの車両が集まるときは特別に事情を話してコンビニに一時的に置かせてもらっているのではないか。コンビニとしても防犯になるので置いて欲しい、持ちつ持たれつの関係なのかもしれない。

 

さらに歩いていると、目の前にバス停があった。

 

「バスか……」

 

基本的には徒歩の旅なのでバスは使えない。でも、もしも良い時間帯に良い路線の、それこそ次の橋の近くまで行くバスみたいなものがあったら、それはもう神からの贈り物でしょう。編集部には黙っておけば分かりませんよ。どれどれ、いい時間のバスがあればインチキしちゃいましょうかね、いやいや、そこはやっぱりだめでしょ、でもまあ、時間を見るくらいなら、みたいにバス停をのぞき込みました。

この時刻表、強烈すぎるだろ。

 

まず平日の運行はなしと大変に潔い。そして土曜休日は11時58分のみ。すげえ。行ったきり帰ってこられない感じだ。もうインチキ云々ではない。このバスに乗ることの方が難易度が高い。

 

とにかくまあ、歩き続けるしかない。

 

歩き続けると、なにやら慌ただしい場所にでた。水路が並び、水門みたいなものと操作用のハンドルが並ぶ場所だ。さらにはそこに付随して公園があるのだけど、そこに咲く満開の桜を見物するために多くの人がいて賑やかだった。

 

どうやらここは「羽村取水堰」という場所らしい。小作取水堰から取水堰が2連発だ。取水堰は水を取るために川を堰き止めるわけだからこの一帯で壮絶な水の争奪戦が行われている感じだろう。

 

手前側に、お、橋じゃん、みたいな構造物があるけど、これは橋ではない。途中で終わっているし、人が渡ることを目的としていないのだから、多摩川に架かる橋とはとてもじゃないけど呼べない。じゃあこれは何なのかというと、どうやら堰のようだ。ここで水を堰き止めているわけだ。こんな中途半端な感じに堰き止めてなにをしているのだろうか。

この堰を裏側から見るとちょっと衝撃的なのだけど、ほぼ完全に多摩川の流れが堰き止められている。先ほどの小作取水堰はちょっと堰き止めて流れを滞留させる程度のものだったけど、ここでは完膚なきまでに堰き止められている。そう、多摩川は一度、その流れが途切れるということだ。おそらく川の水が少ないときはこうやって完璧に堰き止め、増えてきたら脇から流れていくようにするため堰が途中で終わっているのだと思う。

 

おまけに、その堰き止めている部材が可動式の板とかではなく、ただの木材だ。その堰き止め方も乱雑なように見える。脇に流してもどうしようもないレベルの洪水時は板を稼働させたり取り外したりするのではなく、そのまま破壊されて流れていくようにしている。これは投渡堰といって江戸時代から続く世界でもここだけの構造のようだ。

 

では、この堰で完璧に堰き止めて何をしているのか。そこに注目しなくてはならない。

完全に堰き止められて行き場がなくなった多摩川の水はいったん、水門を経て脇の水路みたいな場所に流れていく。

そこから必要な水量だけ2つ目の水門を通過し、新たな川の流れが始まる。

これが玉川上水となる。ここから四谷まで東京の街を流れる川の始まりだ。

この分岐点には水門用のものと思われる橋と、一般の人が通る橋があったのだけど、これらは多摩川に架かる橋ではなく、玉川上水にかかる橋なのでカウントしていない。

玉川上水にならなかった水が、やっぱいらんわ、といった感じで多摩川に返されて、また多摩川の流れが復活する。こんなことが起こっているのだ。まさか多摩川の流れがいったん完全に途絶えるとは思わなかった。

 

玉川上水は江戸に水を供給するために人力で造られた川なので、自然にできる分岐ではなく、こういった強引な分岐になったのだと思う。そしてこのやり方だと玉川上水の流量が増えることもそうそうない。その前に多摩川の堰が壊れるようになっているからだ。玉川上水は終点が海ではないので、流量が増えると困るだろうし、洪水に備えた堤防があまり存在しないイメージだ。だからこのような構造になったのだろう。そんなことをついつい考えてしまう面白い機構だった。

分岐した玉川上水と多摩川とで形成される三角州みたいな場所は公園になっていて、桜が咲き乱れていた。それを見物に来ている人もかなり多かった。

公園内を歩くとすぐに次の橋が現れてきた。けっこうでかい橋だ。

 

No.046 羽村堰下橋

東京都羽村市

橋の長さ267 m

海まで 57 km

 

羽村堰下橋は人道橋(人が通るだけの橋)だ。人道橋としてはこれまでで最長だ。この規模の橋で歩行者専用とはなかなか豪気な話だ。渡り切った向こう側にも公園があったので、おそらくこの橋は住民の移動用というよりは公園の一部で、川を眺めながらの散策、公園間の移動といった目的の橋なのだろう。

 

さて、渡り切った右岸をそのまま進んでも良さそうだったのだけど、見た感じ、左岸のほうが川沿いの道が整備されていて移動しやすそうだったので、渡った橋を引き返し、左岸側を移動することにした。これまでの経験からいっても多摩川は左岸側の移動が安定する感じがする。あと、ここから次の橋が丸見えだったのだけど、どう考えても右岸からアクセスしにくそうだったことも主な理由だ。

ここにきてついに「堤防」があらわれた。川沿いに小高く土が盛られ、その上を道路が通る。ここまでくると見通しが良くなるし、川に沿って移動しやすくなる。川もほぼ真っすぐになるので橋を見落とすことはほぼなくなる。

 

ただ、その堤防の奥に見える次の橋がめちゃくちゃ気になる。明らかにでかい。明らかに高い位置を取っている。あそこまで登っていくことを考えると卒倒しそうだ。なあに、あれだけ高いんだ。きっとあれは高速道路だよ。歩行者は通れないさ。そうであってくれ。高速道路であってくれ。

近づいてみてわかった。あの橋のとこにある看板、画像中央の看板。あのフォルムは「きぬた歯科(西八王子駅前の歯医者さん。その看板は多摩地区を中心に猛威を振るっており、どこにいっても見かける。この看板は口腔内画像バージョンと思われるけど、院長の顔写真バージョンのほうがたぶん数が多い)」の看板だ。高速道路に「きぬた歯科」の看板はない。つまりあの橋は一般道だ。歩行者も通行できる。うそだろ。でかすぎるだろ。なんだよあの橋。

こういったどでかい橋は、川のかなり手前から橋が始まるので、そこまで移動するのが大変だ。めちゃくちゃな大回りになる。

と思ったら途中にショートカットできる階段があった。このように橋の途中に階段がある光景、たもとに住む住人への優しさみたいな感じがして好きだ。

 

No.047 羽村大橋

東京都羽村市、あきる野市

橋の長さ547 m

海まで 57 km

 

500メートル越えのかなり大きな橋だ。登ってくるのめちゃくちゃ大変だった。なぜこんなに長いのかというと、先ほどの取水堰で分岐したばかりの玉川上水と多摩川をひとまとめにして超える橋だからだ。さすがにこの橋をぜんぶ渡り切るにはせっかく階段ショートカットしたのに玉川上水のほうまで行かねばならず、そこまでの気力はないので多摩川に架かる部分だけを渡った。

 

多摩川部分を渡り切ったところで観察したのだけど、渡り切った先の道路は大きくカーブして川から離れていくし、右岸側には堤防の道路も見当たらなかったので、引き返して左岸側を行くことにした。やはり多摩川は左岸が安定する。

 

膨らみが曖昧だった堤防が、進むたびにしっかりとその姿を現してきた。川沿いにはところどころ桜が植えられていて、それを眺める人がのんびりと過ごしていた。

 

ここでちょっと怒りみたいなものが沸き上がってきた。こんなにも桜が綺麗なのだ。みんなスマホを構えて桜と一緒に写真を撮ったり、連れているペットの写真を撮ったりしている。この季節の川沿いにはそんな笑顔があるのだ。それなのに、なぜ僕は一人だけ苦悶の表情で橋を数えているのか。こんなの絶対におかしい。

 

もっとこう、桜にちなんだものにした方が良かったんじゃないか。例えば、多摩川の上流から桜の木が何本あるのか歩いてカウントするとか……。いや、違う! なしなし、いまのなし。今の発言はなし。絶対になし。絶対に橋のほうが良かった。橋が正解!

 

そんなことを考えていたら、いつの間にか羽村市が終わり福生市に入っていた。

 

福生市に入った瞬間に川沿いの整備状況が突如として良くなった気がした。

 

めちゃくちゃ設備の良さそうなテニスコートとサッカーフィールドがある。緑のフィールドが眩しいくらいだ。

 

S&Dフィールド福生(市営競技場)
住所:福生市福生3232
休場日:年末年始
HP:https://www.city.fussa.tokyo.jp/map/sports/1001679.html

 

突如として公園が登場してきたりもする。とてもお金をかけて川沿いを整備してきた印象がある。

 

ちなみにこの画像はよく整備された公園、その園内の桜と誰かが諦めた凧。

 

No.048 永田橋

東京都福生市、あきる野市

橋の長さ244 m

海まで 55 km

 

永田橋はJR福生駅から伸びる道路が多摩川とクロスする場所にある。あきる野市と福生市を繋ぐ交通の要所にある橋と言えるだろう。車の往来はもちろん、自転車や歩行者の通行も多いので立派な歩道がついている。

 

ここらでいっちょ右岸でも移動しようかとおもったのだけど、橋を渡り切った先に右岸の堤防道路が見当たらず、画像奥の一軒家が立ち並ぶ高台の上を歩くことになりそうだったので引き返した。やはり左岸しか信頼できない。

 

信頼の左岸はこのように桜の並木道が続いている。そこに山岳ガイドみたいな恰好をした人とそれについていく数人のご婦人という団体に出くわした。そういう集団が3つくらいあった。どうも多摩川散策ツアーみたいな集団のようだ。詳しいガイドさんがご婦人を案内しつつ川沿いを歩いているのだろう。

 

多摩川に詳しいと思われるガイドさんが少し声をあげて質問した。

 

「さあて、いま渡ってきたのが永田橋です。ではここで問題です!多摩川に架かる橋は何本あるでしょう?」

 

とんでもないネタバレだ!

 

こっちは必死になって歩いて数えているのにとんでもないネタバレをしてやがる。犯人はヤスとカセットにマジックで書くくらいの重罪だろこれ。何色の血をしているのかと問いたいくらいだ。とにかくネタバレを食らわないように足早にこの場を去るしかなかった。

 

くわばらくわばら。

福生市の多摩川沿いはとにかく桜が満開で本数も多い。もし上流から桜の数を徒歩で数えたらここらでかなりの本数を稼ぐことができるだろう。

空から轟音が聞こえた。見ると、大きな飛行機が着陸するところだった。画像ではわかりにくいけど「アトラス航空」と書いてある。貨物を扱うアメリカの航空会社だ。おそらく横田基地に着陸するのだろう。

 

ここ福生市は、市域面積の1/3をアメリカ空軍横田基地が占める。そういった街だ。こうして大きな飛行機の姿をみることもさして珍しくはない。

 

No.049 多摩橋

東京都福生市、あきる野市

橋の長さ202m

海まで 55 km

 

こちらも福生市とあきる野市を結ぶ橋だ。この橋に関してはとても気になる部分がある。

橋の手前には歩行者が転落しないように柵が設けられているのだけど、これ絶対に失敗だろうという柵なのだ。

柵のせいで「たまばし」という表記が見えない。完全に外に追いやられている。かなり身を乗り出してやっと見える状態だ。ぜったいに設置した後に、ありゃりゃ見えなくなっちゃった、まあいいか、みたいなやり取りがあったはず。

何度も言うけど、福生市の川沿いはとても整備されている。多摩橋からの左岸は河川敷が多摩川中央公園となっており、めちゃくちゃ整備されている。豊かさの象徴みたいになっている。小川が造られ、水と戯れることが可能だ。この小川に架かる橋が無数に存在し、これが多摩川だったらぜんぶカウントしなきゃならん、と卒倒しそうになった。

ただ、この小川の水は別の場所から導かれていたので、おそらく支流が多摩川に合流する手前なのだと思う。よって、これはまだ多摩川ではない。無数の橋もカウントしない。

豊かさの象徴みたいな公園が延々と続く。めちゃくちゃ広い。子供たちの喜ぶ声が常に響いている、そんな豊かな公園だ。

 

さすが福生だ。落ちている帽子が迷彩柄だ。

 

整備された公園を延々と歩く。すると前方に橋が現れた。たぶんあれ、鉄道橋だ。ここにきて初の鉄道橋が登場してきた。

 

No.050 JR五日市線 多摩川橋梁

東京都あきる野市

橋の長さ459 m

海まで 54 km

 

やはり鉄道橋だった。オレンジのラインがはいった車両なのでJR五日市線だろう。中央線が立川から分岐し、奥多摩駅までの青梅線になる。その途中の拝島駅からさらに分岐してあきる野市の武蔵五日市駅に至るのが五日市線だ。

五日市線の橋を超えると、多摩川中央公園が終わり、突如として壮大な桜並木が続く場所に出る。見えなくなるまで延々と、それこそ次の橋まで桜が続いている。見物客も多く、敷物を広げて花見をしている人もいる。あとモデルさんみたいな人がバズーカみたいなカメラを持ったカメラマンを引き連れ、キルビルみたいな着物で撮影していた。

 

本当に次の橋まで延々と桜が続いているので、次の橋まで桜の画像をお楽しみください。

 

No.051 睦橋(むつみばし)

東京都あきる野市、福生市

橋の長さ415 m

海まで 53km

 

かなり規模が大きな橋だ。この橋は昭和57年に完成した橋のようで、他の橋に比べれば後になって建設されたようだ。拝島とあきる野市を結ぶ橋で、1つ前の多摩橋だけでは不十分なのでと建設された経緯がある。その多摩橋との間隔がだいたい1.9 kmm、ほぼ2 kmだ。

 

もうみんな忘れてしまったかな、最初のほうで僕が推計した「2 kmくらいで遠回りと感じるからその間隔で橋が造られる」と完全に一致する。こりゃなかなか的確な推理だったな。

ちなみにこの睦橋も塗り替え工事中らしく、橋の途中が資材で覆われている。あと、橋の向こうにでかいパチンコ屋がみえる。かなり前の話になるけど、僕はここで2万円負けたことがある。

 

そろそろ橋の規模が大きくなりすぎて渡るのが億劫になってきた。それでも左岸が大安定なので渡った後に左岸に戻って進んでいく。

睦橋が終わると、またよく整備された河川敷の公園が姿を現す。多摩川緑地福生南公園というらしい。サイクリングロードなどが整備された公園だ。ほんと、福生はどうなっているんだ。川沿いの公園が整備されすぎだろ。

 

公園内にはビオトープがあり、水の生き物を観察できるようになっている。文化的だ。

 

本当に整備されすぎというほどに整備されている。家族連れやカップル、老夫婦などがたくさん来ていて、思い思いの休日を過ごしている感じだ。

 

バリバリバリと妙なエンジン音が聞こえると思ったらパラグライダーが飛んでいた。背中にプロペラがついていたのでモーターパラグライダーというやつだと思う。本当に福生の川沿いは色々と整備されていて、みんな思い思いの川沿いの休日を楽しんでいる。すごすぎだろ。

 

整備された公園が終わるのと同時に、福生市も終わるらしい。フェンスの向こうはもう昭島市のようだ。福生市の川沿いは本当にすごかったな。ほとんどが整備された公園か運動施設そして桜並木だった。さて、昭島市はいったいどんな川沿いが展開されているのか。

 

昭島市に入った瞬間に、マムシに注意するように強く言われた。

 

昭島市においても綺麗な桜並木があり、そこで花見をしている人がいた。福生市のように完璧に整備された川沿いの風景というよりは自然のままに任せたような、ゆったりとした雰囲気があった。

 

マムシに注意しながら歩くと、すぐに桜の木がなくなり、人の姿もめっきり見えなくなり、急に寂しい感じになってしまった。川もこのあたりまで下流になると、橋がある場所は交通の要所となるので賑やかに発展していることがほとんどだ。つまりこれだけ寂しい状態ならばしばらくは橋がないと予想できる。すると、予想だにしない形で突如として次の橋が現れた。

 

No.052 多摩川横断水道橋(拝島水道橋)

東京都昭島市、八王子市

橋の長さ670 m

海まで 51km

 

なかなか独特な色遣いの橋だ。人も車も通行することはできず、ただ水道管が通るだけの水道橋だ。どうやらこの対岸にある八王子市に水を送るための橋のようだ。油断してたらヌッと出てきたので本当にビックリした。

またマムシに注意である。とにかく注意しなくてはならない。

昭島市に入り、その川沿いの景色というか、状態に大きな変化が訪れた。昭島の川沿い、茂みからヤンキーが出てくるのだ。画像は堤防道路の左が桜並木、右が川に向かって茂みになっている。この茂みからヤンキーが出てくる。

 

茂みからガサガサと音がしたと思ったらニュッと伝説のヤンキーみたいなやつが出てきて、街の方へと消えていく。明らかに何かをしている。これが1回だけなら偶然で済むのだけど、間隔をあけて2回あったので、あきらかに昭島市は茂みからヤンキーが出てくる街だ。

 

2回目などは、スマホを構えたヤンキーがどこかの女とビデオ通話をしながら茂みからでてきた。どうやら女の方が友達とカラオケに来ているらしく「翔太もきなよー」みたいに呼びかけている声が聞こえてきた。茂みから飛び出してきた翔太は「ばっか、いかねえよ」とか通話しながら僕の横を通り抜けた。その際に僕の姿がフレームインしてしまったようだった。

 

「ちょっと、いま、むっちゃキモいおっさん写ってなかった?」

 

通話相手のそんな声が聞こえる。

 

「ばか、普通のおじさんだろ、そういうの失礼だろ」

 

なんだよ翔太、おまえめちゃくちゃいいやつじゃん。

 

とにかく、昭島市は茂みからヤンキーが出てくる街なのである。この旅で茂みからヤンキーが出てきた回数は通算で2回。その2回がどちらも昭島市なので昭島率100%である。

 

No.053 拝島橋

東京都昭島市、八王子市

橋の長さ527 m

海まで 50km

 

拝島橋だ。この橋を渡って進んでいけば八王子市へと至る橋だ。八王子在住の僕はよくここを通るのだけど、かなりの要所なのでいつも渋滞している。やっぱり渋滞しているのかなと近づいてみたら、やっぱり渋滞していた。

 

拝島橋を渡り切ったまま八王子へと向かい、そのまま家に帰りたい気持ちをグッとこらえ、左岸の川沿いを立川に向けて歩き出す。

 

茂みの中からEDMが聞こえてくる。ご機嫌なナンバーだ。昭島市の茂みでは絶対に何かが起こっている。

 

No.054 JR八高線 多摩川橋梁

東京都昭島市、八王子市

橋の長さ571 m

海まで 48 km

 

次に現れた橋は鉄道橋だった。JR八高線だ。八王子と高崎を結ぶ路線なのだけど、僕の記憶が確かならダイレクトに高崎と八王子を結ぶ列車はなかったように思う。八王子を出た電車の多くが途中の高麗川駅で川越線に乗り入れ川越駅に向かってしまう。そんな路線だ。

 

ちなみに、鉄道橋は高くするのが大変なのか、川面からそう高くない場所に建設されることがある。最低限の高さで造っているところがある。それでも川沿いの堤防の部分は高くなっているので、その部分に歪が現れることが多い。

頭上注意どころの話じゃない。低すぎる。

 

さきほどの八高線の鉄橋付近の河川敷からクジラの完全骨格が出土したらしい。アキシマクジラと名付けられたようだ。200万年ほど前は東京のほとんどが海で、昭島あたりは浅瀬の海だったらしい。そこにアキシマクジラがいたということだろう。土の中からクジラが出てくる街、昭島。茂みからヤンキーが出てくる街、昭島。

 

たまリバー50キロという狂気の沙汰みたいな案内看板が出てきた。どうやら玉川上水のあったあの羽村取水堰から秘密裏に企画が始まっていたらしく、そこから50キロウォーキングしたりランニングしたりしようぜ、というものらしい。完全なる狂気なのだけどこの案内図は宝だ。これからの橋がぜんぶ記載されている。

 

次の橋が遠くに見えてきた。木の向こうに高いアーチが見える。ここまでくると橋の規模が大きいのでかなり遠くからでもその姿を確認できる。そろそろ陽が落ちてきたので、次かその次あたりで2日目の移動が終わりになりそうだ。

 

No.055 多摩大橋

東京都昭島市、八王子市

橋の長さ452 m

海まで 47 km

 

中央部の曲線アーチが特徴的な橋だ。橋の長さが460mほどあるので往復するだけで1 kmに近い移動となる。とにかく長い。狂ってる。

橋の上からみた川の様子がこんな感じだ。水が流れている部分に対して河川敷が両側にとにかく広い。これが橋を巨大なものにしている。

 

多摩大橋にを渡り、引き返して左岸に帰ってきたところで完全に雨が降ってきた。ここまでずっと雲行きが怪しく、拝島橋を超えたあたりから何度か頬を叩く水滴の存在に気付いていたのだけど、いよいよ誤魔化しがきかないレベルで容赦なく降り始めてきた。

ちょっとした公園が堤防の上にあり、そこに小さな東屋があったので雨宿りをすることにした。東屋の横にある遊具ではけっこうな激しさで雨が降っているのに意地で遊んでいる小学生が2人いた。何がそこまで彼らを駆り立てるのか。とにかく、雨の中で遊んでいた。

 

いよいよ本格的な降雨になってしまい、小学生2人もこりゃたまらんと同じ東屋で雨宿りを始めた。四角形に配置されている椅子に僕と小学生が背中を向けあっている状態で雨が上がるのを待っていた。なんだかすぐにあがりそうな気がするんだ。

 

「ねえ、小食、治った?」

 

「まだ小食かな。ぜんぜん食べられない」

 

小学生の会話が聞こえてくる。どうやら片方の子が小食であることに悩んでいるようだ。

 

「俺はさ、無理して食べるようにしたら治ったよ」

 

「へえ」

 

「ほら、近所にトンキン亭っていうラーメン屋あるじゃん。あそこでメガラーメン食べたりした」

 

「すげえすげえ、メガラーメンすげえ!」

 

「タケちゃんもメガラーメン食べたらしいよ」

 

「すげえ、タケちゃんもすげえ」

 

どうやら小学生の間ではトンキン亭のメガラーメンを食べることが一種のステータスのようだった。なるほど、この近くにトンキン亭というラーメン屋があり、そこにはメガラーメンがあるんだな。お昼にバーミヤンでメガラーメン食べられなかったからな。今日の移動が終わったら行ってみようかな。

 

そんなことを考えていたら雨が小降りになったのでまた次の橋に向かって歩き出した。

地形的な要因なのか、狭い範囲においてゴツゴツした岩が剝き出しになっている地帯があった。どうやら奇岩帯として有名らしい。鬼の洗濯板みたいだった。けっこう興味があるのだけど、またいつ雨が本降りになるのか分からない。日没も近そうだ。急いで先に進まなくてはならない。

 

No.056 JR中央本線 多摩川橋梁

東京都立川市、日野市

橋の長さ423 m

海まで 45 km

 

また鉄道橋だ。立川から日野へと向かう中央線だ。日野から八王子へと向かい高尾に至る路線だ。どおりで見慣れた景色のはずだ。いつも乗っている電車じゃないか。

 

あの中央線に乗って家に帰えりてえよ、という思いを必死に抑え、中央線の下をくぐって先へと進む。おそらく次の橋で今日の移動は終わるだろう。そんな感じの陽の沈み具合だ。

 

「なんだあれ」

 

そう呟くしかない物体が目の前に飛び込んできた。

2本の橋が見える。手前にある赤いやつは普通の橋だろう。それは全然かまわない。問題はその奥にある白い橋だ。なんだよあれ、めちゃくちゃでけえじゃねえか。赤い橋の倍以上の高さがある。

 

「あれは人が造りしものなのか……」

 

あそこまで登って行けとか言われたら足がぶっ壊れるぞ。もう恐怖しかなかった。あと、どうやらここで他の川との合流があるようで、堤防上の道がいったん終わっていた。ぐるっと回っていかなければならないらしい。

ぐるっと回るヘアピンカーブ。本来は舗装された奥の道を通る必要があるのに、みんながショートカットするものだから内側の芝が剝がれて新たな道になっている。こういうところに人間という存在の業の深さを感じる。

川の淵ギリギリに植えられた桜はこのように水面に向かって下にその枝を伸ばす。その下を歩道が通っているので桜のトンネルみたいになっている。これは、陽の光に向かって枝を伸ばすという桜の特性によるものだ。空からの陽の光に加えて、川に反射した光にも枝を伸ばすのでこのようになるのだ。

 

No.057 立日橋(たっぴばし)

東京都立川市、日野市

橋の長さ417 m

海まで 44 km

 

立川市と日野市を結ぶから立日橋だ。片側2車線のとても大きな橋だ。そしてなにより橋の上部にもう一つ橋があり、そこを多摩モノレールが通っている。多摩地区を南北に移動する貴重な路線だ。遠くからみて奥に白い巨大な橋があると恐れていたのはこれだった。でかすぎて遠近感が狂って奥にあるように見えていたのだ。

そして、驚いたことに、この立日橋とモノレールの橋は別々のものではなく、鉄道道路併用橋ということで2つをひっくるめて立日橋らしい。とにかく白い巨大な橋に登る必要がなくて本当に良かった。本当に良かった。

 

というところで、陽が落ちたので2日目の移動はここまで。2日目のまとめはこちら。

 

2日目まとめ

橋の本数 25本(累計57本)

移動距離 38.10km(累計65.59 km)

海まで44 km

どうしても左岸が安定する。これはこの先も変わらないだろうけど、渡った橋を引き返すのは効率が悪いので適宜、右岸の移動も混ぜて進んでいく必要がある。ゴールの多摩スカイブリッジまでまだ距離があるけど、もう橋を見落とす可能性がないし、地形もほぼフラットになるので一気に進めると思う。これまで出発地点に行くまでが大変だったので出発時間が遅かったのだけど、立川なら大丈夫だ。明日は万全を期して早朝からスタートするつもりだ。

 

冒頭の推計で多摩川に架かる橋は理論的に考えると57本、とちょっとかっこつけた感じで断言したのだけど、立川までの時点でその57本に到達してしてまった。まさかこの先、立川から羽田空港まで橋が1本もないわけがあるまい。つまり、推計は大幅に間違いだったということだ。とんでもないことになった。

東京亭(トンキンテイ)昭島店

住所:東京都昭島市中神町2-20-8
営業時間:24時間営業 年中無休
HP:https://www.nankintei.com/

 

2日目の移動を終えてズタボロになった体に鞭を打ちながらやってきた。あのキッズたちが話していたメガラーメンをどうしても食べたいからだ。

メガラーメン、メガラーメンってどこにもないんだけど!

 

あのクソガキども騙しやがったな。

 

どうしよう。隠しメニューみたいな感じであるのかな。店員さんに聞いた方がいいのかな。でも店員さんにメガラーメンってありますかって聞いて、なかったらめちゃくちゃ食いしん坊な人に思われたりしない?

結局、普通のラーメンを食べました。美味かった。

 

ということで3日目につづく!

 

3日目 東京都立川市 立日橋

早朝の立日橋からスタート。今日は最後の橋まで行くつもりなので明るいうちに余裕をもって到達できるように計算したらこんな早朝になってしまった。とにかく、しっかりと最終日にしたい。

 

それにしても風雨が強い。雨がザアザア降っているのはもちろんのこと、とにかく風が強い。来る途中でコンビニで買った「風に強い」という謳い文句のビニール傘が開いて2秒でぶっ壊れた。それくらい強い風。こんな中を歩いていかなければならない。はやくも先行きは暗そうだ。

暗雲がすごい。川沿いの風景とは、なにかと寂しいことが多いので、こうやって暗雲と重なると世紀末っぽさがでてくる。

 

役立たずの代物と化した傘でなんとか雨をしのぎ、強風に煽られながらなんとか次の橋の周辺まで辿り着いた。

次の日野橋周辺はなんだか騒がしかった。かなり大規模な工事が行われているようで河川敷には工事事務所みたいなものが立ち並び、重機たちが並んでいた。もちろん早朝なので人の姿はないけど、昼間はかなり活発に工事をしている雰囲気だった。

どうやら日野駅では仮設橋設置工事を行っているらしい。

 

古くなった日野橋を新しくするための工事を行うらしいのだけど、工事の間、交通の要所である日野橋を通行できなるのはかなり手痛い。じゃあ、まずは隣に仮設の橋を立てておいて、それが完成してから日野橋を新しくしよう。ということらしい。なかなかスケールが大きな話だ。

 

No.058 日野橋

東京都立川市、日野市

橋の長さ367 m

海まで 44 km

 

立川市と日野市を繋ぐ橋で、交通の要所となっている。かつてはここに「日野の渡し」があった。時代の流れと共に自動車が走るようになり、橋が必要となったために造られた橋だだ。

 

さて、ここで問題となるのは、隣で造られている仮設の橋の存在だ。果たして、仮設の橋は多摩川を渡っているのか。渡っているならば橋としてカウントしなくてはならない。

 

おしい。

 

なんとか川の部分まで白い橋が伸びてきているけど、川を渡るまではいっていない。これは多摩川に架かる橋としてカウントできない。もう少し工事が進めばカウントできるけど、現状ではノーカウントだ。

 

先の風景を見てみる。うっすらと次の橋のようなものが見える。さらには川の右岸側にも堤防と道路がありそうなので、久しぶりに右岸を歩くことを決意する。

安定の左岸を捨てて右岸へ。少しだけドキドキだ。鬼が出るか蛇が出るか。

 

そしたらすぐにこれだ。分かりにくいかもしれないけど、歩道いっぱいの水たまりが延々と続いている。歩道じゃない。もはや水路だ。歩き出してすぐにこれ。どうやって通行するんだ。やはり右岸は安定しない。

 

次の橋が見えた。なかなか大きい橋だし、防音壁が見えるのでおそらく高速道路だと思う。

 

No.059 中央自動車道 多摩川橋

東京都立川市、日野市

橋の長さ428 m

海まで 43 km

 

やはり高速道路だった。しっかりと中央道リニューアルプロジェクトと書かれているので中央児自動車道なのだろう。高井戸から愛知県のほうまで続く道路だ。週末などにけっこう渋滞するあたりだ。

 

ここまで川沿いを歩いていて、一つ気になったことがある。これは個人的な感覚でしかないのだけど、川沿いの道路、政治関係のポスターが貼られている頻度が高い。一般的な住宅街や、繁華街などに比べて明らかに多い気がする。

 

ここをみてそれが確信に変わった。明らかに貼りすぎ。この地域に貼られるやつコンプリートしているんじゃないかといったレベルだ。川沿いは選挙のポスターが多い。断言できる。

 

次の橋が見えてきた。ここまで橋を巡る旅をしていると遠目で見ただけでだいたいわかる。やべえ橋だ。明らかにでかい。

 

おそらくではあるけど、ここにきて上流からずっと追ってきた「川と橋のありかた」が最終段階に到達したと思う。ここまで下流になると「人が通るための橋」は本数が減り、間隔が長くなる。その反面、橋の規模は大きくなる。

 

この前段階では、川のどちらかに町の中心や駅があり、その対岸の集落とを繋ぐ橋が多かった。川のどちらかが対岸に依存してために橋が必要だった。しかし、このあたりからその関係が変わる。つまり、川の両側が街として発展しており、それぞれの岸で街が成立しているので、対岸に依存する必要がなく、細かく橋を造る必要がないのだ。あるのは重要な幹線道路などの橋になってくる。

 

だから、ここからはどんどん一般道としての橋の間隔は長くなり、その規模も大きくなっていくと思う。

 

さて目の前に現れた橋。かなり高い位置にあるのもさることながら、橋へとのぼっていくルートが存在しないことも気になる。

登っていくための階段が途中にあるタイプでもないので、どこまで大回りして橋の入口に行く必要があるのか見当もつかない。規模の大きな橋はこれが怖いのだ。

 

橋のたもと部分は大きな公園になっていた。ここを抜ければ橋の入口に行けそうだけど、かなり縦長な公園で、かなりの距離を歩かされる。死にそうだ。

 

公園内には、このようにズラリと並んだマンホールがあった。なんでこんなに大量に並んでいるのだろうか。重要なマンホールで、スパイなどに中に入り込まれては困るからたくさんのダミーを設置しているのだろうか、とか考えたけれどもそうではないらしい。

災害時にはこのマンホールの蓋がカパッと変形してカブトムシみたいになって仮設のトイレになるらしい。なるほど、その時に衝立を置けば仮設のトイレになる。これはなかなかのアイデアだ。

 

No.060 石田大橋

東京都国立市、日野市

橋の長さ385 m

海まで 42 km

 

国道20号線だ。やはり重要な幹線道路に架かる橋だった。新宿から八王子へと向かう国道で、めちゃくちゃ長い橋だ。登り傾斜もなかなかの角度だ。おまけに橋の入口に回り込むためにかなり大回りしたことがボディーブローのように効いている。

橋の左岸にはショートカット用の階段があった。左岸を行っていれば入口まで大回りする必要がなかったというわけだ。変な浮気心を出して右岸を行くからあんな目にあうんだ。やはりもう左岸しか信用できない。

安定の左岸。故郷に帰ってきたような安心感がある。実家みたいだ。

ここからは「府中多摩川かぜのみち」になるらしい。どうやらいつの間にか国立市に入っていたみたいで、その国立市が終わり、ここからは府中市になるよという境の場所のようだ。さすが左岸と唸るしかない親切さで次の橋までの距離も書いてある。関戸橋まで3.1キロだ。これはけっこうな遠さだ。バンバンと1 km未満の間隔で橋があったことを考えると明らかに傾向が変わってきている。

府中多摩川かぜのみちを歩く。そういう時間帯なのか、それとも府中がそういう場所なのか分からないけど、府中に入ってからこの道をランニングする人が増えた。いつの間にか雨が上がっていたことも関係しているのかもしれない。

Amazonの倉庫っぽいものがあった。いや、物流センターだろうか。とにかくAmazonのなにかだ。

 

以前は近所のドラックストアでストロングゼロをケースで購入していたのだけど、その店がケースでの販売をやめてしまった。それで仕方なく、Amazonで頼むようにしているのだけど、もしかしたら僕が頼むストロングゼロはここからきているのかもしれない。

 

「ありがと」

 

Amazonに向かって小さく呟いた。

この周辺はAmazonだけでなく、様々な会社の工場やら倉庫、物流基地が立ち並んでいる。ただ、駅からかなり離れているので働く人が通勤しにくいのか、従業員の人たちがバスでピストン輸送されてくる。画像はAmazonの従業員さんを送迎するバスだ。こんなのがひっきりなしにやってくる。

巨大な橋が見えてきた。塔とワイヤーが圧巻の存在感を放つ斜張橋だ。先ほどの看板からいくと関戸橋だろう。看板には3.1kmとかいてあったのにやけに近かった。絶対に3.1 kmも歩いていない。いつの間にか時空が歪んだかと思うくらいにあっけなく移動できてしまった。

 

No.061 府中四谷橋

東京都府中市、日野市

橋の長さ446 m

海まで 40 km

 

完全なるペテンにかけられていた。これは関戸橋ではなく府中四谷橋だ。そう書いてあった。交通量も多く、歩道が広く立派な橋だ。なにより、ワイヤーを吊るための塔がめちゃくちゃ目立つ橋だ。けれども関戸橋ではない。

ではこの看板はなんだったのか。僕の見間違いだったのだろうか。そんなことはない。拡大してやろうか。

完全に次は関戸橋というテンションじゃないか。明らかにペテンにかけにきている。次は関戸橋だよ甘い言葉で囁き、おお、もう橋が見えてきたもう3 kmも歩いたのか! と興奮する僕を見てほくそ笑んでいたのだろうか。楽しかったかい。看板よ。

ブツブツと文句を言いながら先に進むと、やけに発展している地域が見えてきた。川の右岸側の一部だけが局所的に発展して背の高いビルが立ち並んでいる。たぶん位置的に考えてあの周辺は「聖蹟桜ヶ丘」だろう。別世界の様にそこだけ発展しているのはあそこくらいのものだ。

そうなると、この聖蹟桜ヶ丘と思われる場所に向かう橋は鉄道橋だろう。聖蹟桜ヶ丘、鉄道と言えばこれはもう京王線だろう。

 

No.062 京王線 多摩川橋梁

東京都府中市、多摩市

橋の長さ473 m

海まで 39 km

 

やはり京王線だった。濃いピンクラインの車両が見えた。橋を渡ってすぐの場所が聖蹟桜ヶ丘駅なのでかなりスピードを落とした電車を橋の上に見ることができる。そんな場所だ。

 

さて、ここで大変な事件が巻き起こった。色々なことをすっとばして端的に結論から言うとすげえウンコしたくなったのだ。

 

やばい危険だ。上流のほうではいくらか川沿いに公衆トイレがあったけど、地形がフラットになったあたりから川沿いに公衆トイレがあった記憶がない。しかもこの周辺は堤防の下はバリバリの住宅地だ。トイレがありそうな店舗が存在しない。

 

京王線の線路わきには公園があった。そこそこの規模の公園だ。これなら公衆トイレがあるかもしれない。ここはトイレがあることに賭けて公園に行くしかない。

 

堤防を降りて公園い駆け込む。イエス、なんか小さな建物が公園内にあった。公園にある建物なんてトイレしかありえない。やった、神は俺に味方した。

 

トイレかと思ったら倉庫みたいな建物だった。

 

神さまはいない。だって祈ったもん。祈ったもん。本格的に大ピンチだ。

 

ここで選択を迫られる。この先、変わらず川沿いを移動し、堤防に公衆トイレがあることに賭ける。これは移動距離や体力にロスが少ないがリスクが高い。というかおそらく公衆便所はないので確定的に漏らす。リスクどころの話じゃない。

 

もう一つが、せっかく京王線沿いにいるのだ。このまま線路沿いを駆けていくという手段だ。線路沿いを移動していけばおそらく駅がある。駅にはトイレがある。または駅の周辺には必ず店舗がある。トイレが可能な店舗だってあるはずだ。この選択のネックは、どこまで移動すれば駅があるのか不明なところと、川から離れていくので大きなロスになるという点だ。さらには、途中で漏らす可能性もまあまあ高い。堤防で漏らした場合はあまり目立たないが、駅に向かう途中で漏らしたら住宅地なのでまあまあ目立つ。

 

どちらにすべきなのか……!

 

結局、疑わしきは漏らさずの原則に則り、少しでも漏らす確率が低い方を選択した。”駅を目指す”だ。大きく右に曲がる線路に沿って走り、700メートルほどいったところで中河原の駅が見えた。助かった。

 

駅前の西友が営業していたのでそこに駆け込んでウンコしたのだけど、これまでの人生でいちばん狭い大便ブースだった。こんなのってあるのって驚くほどの狭さだった。ウンコしながら膝がドアについていた。ともかく、助かったのだ。なんとか命を繋ぐことができた。お礼とばかりに西友で飲料水を購入し、また川に向かって歩き出す。

 

なんとか多摩川まで復帰したが、大変な大回りになってしまった。

なんとか関戸橋まで到達した。どうやらこちらも日野橋のように仮の橋による架け替え工事が行われているようだ。もともと上流側の橋と下流側の橋と2つ一組の橋だったけど、下流の橋を廃止、上流側に仮の橋を造って、それを使っているところらしい。

下流側では古い橋の撤去が行われている。一連の架け替え工事は事業開始から16年計画で行われる大プロジェクトのようだ。橋ってのは本当に大変なものだ。

 

No.063 関戸橋

東京都府中市、多摩市

橋の長さ375 m

海まで 38 km

 

仮の橋とは思えないほど立派な橋だ。歩道もかなり立派だし、交通量も多い。かなり重要な橋なので16年かけて架け替える必要があるというわけだ。

またもや左岸を行く。

 

もう完全に雨があがったので、虹でもかかっていないかと川の先を探すのだけど見つからなかった。なぜ虹を探すのかというと、この旅が終わって最後の橋まで行った時にね、SPOT編集部のやつらに言ってやるわけですよ。

 

「実はもう1本、多摩川に橋がありました」

 

そう言ってバシーンと虹の画像を出すわけです。

 

「橋も虹も誰かの希望って点で同じじゃないですかね。僕はそう思うな」

 

とか適当なこと言っとけば編集部のやつら単純だから感動してワンワン泣きますよ。鉄板で泣きますよ。

 

そう思って探したけど、やはりそう都合良く虹は出てこなかった。こうなったらCGで付け足すしかない。

多摩川が立川を超えたあたりから河川敷が広くなり、堤防を歩いていてもそう川を近くに感じられなかったのだけど、ここにきてかなり川が近くなってきた。本当にすぐそこに川の流れがある。この位置関係は上流のあたりを思い出して懐かしい。

なにか檄を飛ばす声が聞こえてくるなと思ったら、ボートの練習をしていた。川が近いからこそその掛け声も聞こえてきて臨場感がある。

先に進むと、異様な光景の場所に躍り出た。明らかに看板が立ちすぎだ。奥の方まで延々と看板が立ち並んでいる。やだ、怖い。サイコ的ななにかじゃないのこれ。取り上げちゃまずいやつじゃないの。

 

と思ったら、どうやらここはバーベキュー広場のようで、だいたいひとつの団体が使いそうな間隔で新型コロナ感染対策の注意喚起の看板が置かれているだけだった。

中流あたりでは満開だった桜が下流に行くにしたがって散り始めている。このあたりでは朝からの強風でかなり散ったようで、堤防が桜の絨毯みたいになっていた。

サイコな看板群を横目に進むと、また河川敷が広くなっていき、そこに綺麗に整備されたサッカーグラウンドや野球場が見え始めてきた。その奥に、次の橋が見える。ここまでくると完全に橋マスターになっているのでわかる。あれは鉄道が通る橋だ。

 

近づいてみて分かった。確かにこれは鉄道橋なのだけど、その奥にももう1本、橋がある。こちらも鉄道橋だ。ダブル鉄道橋というわけだ。

 

No.064 JR武蔵野線 多摩川橋梁

東京都府中市、稲城市

橋の長さ403 m

海まで 36 km

 

まずは手前側の橋がJR武蔵野線の橋だ。神奈川県の鶴見からぐるっと環状に周って千葉県の西船橋に至る路線だ。ただし、鶴見から府中本町までのいわゆる武蔵野南線は、特別な場合を除いて貨物列車だけが運行する区間だ。この区間の武蔵野線を列車に乗って通行するのは結構な難易度がある。

 

No.065 JR南武線 多摩川橋梁

東京都府中市、稲城市

橋の長さ502 m

海まで 36 km

 

奥側にあるのがJR南武線。川崎駅から立川駅までを結ぶ路線だ。もちろん府中本町駅も通過するので、鶴見方面に行きたい場合は、武蔵野南線ではなくこちらを利用することになる。

もはや鉄道橋の恒例になってしまったやつだ。裏から見たら「頭上注意」って書いてあるけど、こんなもん逆に頭上は注意しないだろ。もっといろいろ注意するところある。

ちなみにその横には「ファールボールにご注意」とかいてある。さきほど通ってきた球場エリアのための看板だ。まさか川沿いの道を通行していてファールボールに注意するよう言われるとは思わなかった。

 

ダブルの鉄道橋を越えてしばらくすると次の橋が見えてきた。

 

No.066 是政橋

東京都府中市

橋の長さ401 m

海まで 35 km

 

かなり規模の大きな斜張橋だ。中央にあるワイヤーを吊るための塔の部分がギロチンみたいになっていて、見るたびにギロチン橋と言っている橋だ。僕は1年に24回くらいはこの橋をギロチン橋だと揶揄している。なぜ僕がこの橋を24回も揶揄するほど眺めているのか、それには大きな理由がある。

是政橋から北側を眺めると大きな建造物が見える。あれはJRA東京競馬場の巨大スタンドの一部だ。そう、もう新型コロナの影響で3年くらい行けていないけど、かつては僕のホームグラウンドであった東京競馬所が近くに存在するわけだ。東京競馬場からも位置によってはこのギロチンが見える。

 

そして、競馬で大敗するたびに、是政橋のギロチンを眺め、いっそあのギロチンで殺してくれと喚くのだった。

この是政橋が2021年に実施された東京オリンピックの自転車競技(ロード)のスタート地点らしい。本来は10キロ離れた武蔵野の森公園からスタートするらしいのだけど、そこからここ是政駅までは競技ではないパレード走行で、ここから競技になるらしい。10キロもパレードすんの?

 

ゴールは静岡県の富士スピードウェイ。え、そんなとこまで自転車で行くの。これママチャリでいったらおもしろいんじゃないかな。パレード走行も含めて。って、うそうそ、いまのなし。ほんとうそ。うそうそ。なし。絶対なし。

もう僕の中で右岸への信頼は皆無になっているので、橋を渡り切ったあとに引き返した。二度ギロチンの下を通過することになっても頑なに左岸を移動する。

 

しばらくすると河川敷が公園のように整備されはじめ、多摩川親水公園なる散歩道と小川が整備されたエリアが見えてきた。

あーあ、橋がいっぱいあるなー。

 

水に親しむ公園というコンセプト通り、小さな川にたくさん橋が架けられている。これが多摩川から分岐した流れで、それがまた多摩川に戻っているならば、小川といえどもれっきとした多摩川である。そこにかかる橋もすべてカウントしなくてはならない。

よくよく見ると、小川が行き着いた先は池みたいになって止まっている。そこから多摩川に入っている様子はない。つまりここは小川も含めて池みたいなものなのだろう。つまり多摩川ではない。よって橋のカウントもしない。

次の橋が見えてきた。見ただけで分かる。めちゃくちゃにでかい橋だ。長さもさることながら、その高さもかなりのものだ。これを渡るとなると、登るのも、渡るのもかなり体力を消費する。

 

でも大丈夫。これはきっと高速道路だ。これだけ規模の大きな橋はだいたい高速道路だ。今までだってそうだったじゃないか。いや、そうでもないか。とにかく、橋の左側のほうに高速道路っぽい緑色の標識が見えるので多分これは高速道路。もしくは高速のインターチェンジを降りた後の道路、それは実質的に高速なので歩行者は通行できない。大丈夫。

橋の下を通る。大丈夫、登っていく場所もない。小さな橋が見えるだけだ。どうやらここは大きな橋があるだけではなく川が合流する場所のようで、水路やら橋やら水門が複雑な通路で繋がっている。けっこう複雑で迷路みたいになっている。ちなみに、この小さな橋は合流する川の橋なのでカウントしない。

 

登る場所がないのはこの大きな橋が高速道路だからだ。そう確信しながら進む。

 

川の合流による大きな水門がある。いやはや規模がでかいですなあ、と大きな水門、そして大きな高速道路と思われる橋を撮影する。そこでめちゃくちゃな異変に気付いた。

おばちゃんが自転車で通行しとる……!

 

うそだろ、あの橋、高速道路じゃないのかよ。歩行者や自転車が通行できるのかよ。いやいや、あのおばちゃんが錯乱して自転車で高速道路に突っ込んだ可能性だって捨てきれない。いったいどっちなんだ。

 

それにしてもあれが歩行者や自転車が通行可能な橋だとしても、入口がないだろ、と迷宮みたいになっている通路をくまなく捜索する。

あった。

 

橋へと登っていく階段だ。

 

おそらく一般道からは分かりやすくアクセスしやすい場所にあるのだろうけど、川の堤防からだとまあまあ分かりにくい。そしてまあまあ遠回りだ。

こういった立派な歩行者用の通路を通り、ついに橋へと到達した。本当に歩行者や自転車が通れる橋だった。おばちゃんが錯乱したわけではなかった。

 

No.067 稲城大橋

東京都府中市

橋の長さ351 m

海まで 33 km

 

府中市と稲城市を結ぶ大きな橋だ。やはり僕が予想した通り、左岸側には稲城インターチェンジの出口があった。もともとはこの橋自体も一般有料道路であったが、その当時から歩道は整備されていて歩行者や自転車は無料で通行できたようだ。2010年に車道部分も無料開放されたようだ。左岸側は高速インターチェンジと一般道が絡むため橋への道が複雑な構造をしている反面、右岸側はそうでもない。

 

ここからは本当に橋の長さがシャレにならなくなってくるので、ずっと左岸と一緒っ!などとのたまって渡った橋を引き返していられなくなる。よってここでは信頼できない右岸側を進んでいく。

信頼できない右岸。

 

右岸を歩いているのに、特に大きな困りごともなく、あっけなく次の橋へと到達した。けっこう身構えていたのにちょっと拍子抜けだ。

ここでも2本の橋が重なるようにして存在しているみたいだ。まず手前側が管のみが通った水道橋だろう。その奥に通行用の橋がある。

 

No.068 多摩川原水道橋

東京都調布市

橋の長さ453m

海まで 32 km

 

この橋は左岸側が調布市となるのだけど、それよりさらに北上すると武蔵境に到達する。武蔵境の外れには浄水場があり、そこからの水を多摩ニュータウンに運ぶために造られた橋のようだ。

 

武蔵境の浄水場に入る水は、これまでに通過してきた小作取水堰や羽村取水堰から分かれた水を原水とするので、いったん多摩川から分かれた水が浄水場を経て、多摩川の上を水道管で通過していくことになっている。多摩川の上を流れる水はかつての仲間たちだ。旧友とのダイナミックな交差がここにある。

 

No.069 多摩川原橋(たまかわらばし)

東京都調布市

橋の長さ401m

海まで 32 km

 

調布市と稲城市を結ぶ橋だ。1935年に造られた橋のようだけど、比較的に新しいし歩道が広いのでおそらくどこかで架け替えられていると思う。この橋から次の橋が見えるくらい近いのだけど、渡り切った左岸側はちょっと微妙に遠回りしそうな気配がした。ここまで久々に右岸側を通過して信頼度があがっているので、しばらく右岸側を通行してみることにした。たぶんどこかで見た案内地図によると、ここから先は川全体が右へと曲がっていくので右岸を移動したほうが総移動距離が短くなる。

 

No.070 京王相模原線 多摩川橋梁

東京都調布市、神奈川県川崎市

橋の長さ344m

海まで 31 km

 

京王線の調布駅で枝分かれし、橋本駅へと向かう京王相模原線。その相模原線が多摩川を渡る場所にある橋だ。僕がカメラで撮影をしているとその横にバズーカみたいなカメラを携えた剛の者っぽい人がいつのまにか陣取っていた。

 

「ほんとはねえ、ここは夕陽とかのときのほうがいいよ。ほら、橋の柱が強いでしょ。普通に撮影したら柱がどうしてもね。邪魔だよね。だから夕陽のときにシルエット的に撮影してフレームを強調してうんたらかんたらでうんたらかんたらを使って(忘れた)その俺の作品がこれ」

 

めちゃくちゃフレンドリーな剛の者だった。あと、めちゃくちゃ技術指導していただき、鉄道を撮りたいならもっといいカメラとレンズを買えと言われてしまった。

 

No.071 多摩水道橋

東京都狛江市、神奈川県川崎市

橋の長さ358m

海まで 27 km

 

鉄道橋を除き、一般通行用の橋として考えるとかなり前後の橋の間隔が長くなってきた。前の多摩川原橋から5 kmくらいはあったと思う。ここまでくると橋の両側でそれぞれ街が完結しているので、生活の上で行き来する目的での橋はほとんど必要がない。もっと大きな移動の用途としての橋が存在意義を増してくる。

 

この多摩水道橋も名前の通り、水道橋を併設した橋になっている。道路の下に導水管がとおり、川崎市の浄水場から相模川の水を都内に送っているらしい。東京とはいかにしてあちこちから水を引っ張ってくる必要がある都市だったのか、この水道橋の連続からも伺える。

登戸の渡しという石碑があった。比較的に新しい。この石碑は橋から少し離れた場所にあるのだけど、橋があった場所に渡し舟があり、これが多摩川においては最後まで残った渡し舟らしい。大きな橋があった場所はほとんど渡し舟の痕跡がある。やはり必要だからそこに渡し舟があり、そこに橋が造られるのだ。

もう次の橋が見えている。ここではもうそこまで至近距離に一般通行用の橋あるわけないので、おそらくあれは鉄道橋だろう。下流に行くにしたがってどんどん鉄道橋が増えていく。メインとなる交通手段が車から鉄道へと変わりゆく多摩川ならではの傾向なのかもしれない。

 

No.072 小田急小田原線 多摩川橋梁

東京都狛江市、神奈川県川崎市

橋の長さ429m

海まで 27 km

 

新宿から小田原へと向かう小田急線の多摩川橋梁だ。小田急線のこの区間は複々線となっており、上下の線路が2組、つまり4つの線路がこの橋の上に乗っている。だから横幅かかなり大きい。おそらくあとになって新たに造り替えられた橋なので、他の鉄道橋に比べて若干の高さがある。

恒例のこれも、まあまあ苦しくない高さがある。

小田急線の橋梁を超えてすぐに前方に橋っぽい建造物が見えた。ただ、ここからでも分かる。その建造物は川の途中までしか伸びていない。おそらくあそこには堰があって、それを監視する塔みたいなものが川の途中まであるのだろう。橋としてはカウントできない。

ここから急速に天気が良くなった。朝方に襲われた激しい雨、2秒で傘を破壊した風がなんだったんだろうというレベルで快晴だ。これ、虹が出るんじゃないだろうか。あれが多摩川にかかかるもう1本の橋ですOver the Rainbowってやれるんじゃないだろうか。

桜が綺麗な一角にでた。散った桜が道路を覆っていて、満開の桜を水面に映したかのようだ。。右岸にだってこんなきれいな場所があるのだ。信頼できないだの安定しないだの、君たちがあれだけ辛辣に罵った右岸がこれだけ綺麗な桜を咲かせている。反省して欲しい。

突如として歩道がめちゃくちゃ広くなった。そこに大々的に「ゆっくり走ろう」と表示されている。これだけ広かったら自転車なども速度をあげたくなるのだろう。そこをグッと堪えて自制して欲しいという表示だ。ただ、このめちゃくちゃ歩道が広くなるのはほんの短い区間だけで、すぐに狭い道路に戻ってしまった。ただ、全体をこのレベルで整備していく計画なら、これまでさんざんみんなに信頼できないと言われた右岸が化けることもある。

 

No.073 東名高速多摩川橋

東京都世田谷区、神奈川県川崎市

橋の長さ495m

海まで 24 km

 

遠くから大きな橋が見えていたのだけど、あれを渡るのか、という動揺はなかった。防音壁が見えていたので高速道路であることは分かっていた。位置的にも東名高速であることも分かっていた。現在、この橋は大規模リニューアル工事を行っており、車線規制をして工事を行っている。その重機なども橋の上に見える。この工事は2024年まで続くようだ。

先に進むにつれて川沿いの緑が深くなっていき、周辺の景色も都会的になっていった。都市度が上がってきたのでいよいよゴールが近いのかもしれない。先に見えた橋は規模も大きく、その先に高層ビル群が見える。東京側である左岸がめちゃくちゃ発展している雰囲気だ。

 

もう何度も出てきているけど、こういった規模の大きな橋は渡るために大回りをしなくてはならない。

なんとか大回りして橋の入口っぽい場所を見つけたのだけど、そこに歩道はなかった。まさか、この橋は歩道がないタイプ、自動車だけが渡るものなのか、だったら仕方ないなー、そうかー渡れないかーとちょっと心が躍った。

と思ったら、橋の途中にしっかりと登る階段があった。しかも螺旋状の階段だ。橋の入口からは歩行者がアクセスできず、途中からしかアクセスできない珍しいタイプの橋だ。

 

No.074 新二子橋(しんふたごばし)

東京都世田谷区、神奈川県川崎市

橋の長さ577m

海まで 22 km

 

こちらは「新」と名前がついているだけあって、すぐ下流にある「二子橋」のバイパスとして新たに作られた橋のようだ。どちらも国道246号線であり、東京と横浜を結ぶ主要道路である。まさに双子というわけだ。ここ最近は高い位置にあったとしても橋自体はフラットな構造をしているものが多かった。けれども、新二子橋は橋自体にもなかなかの傾斜が付いていた。

新二子橋から望む景色。次の橋が見えている。あれが「二子橋」だろう。そしてその奥に鉄道橋も見える。久々にこれだけ橋が密集しているエリアが出てきた。画面中央よりやや左にあるのが楽天グループの本社ビルだ。この間、二枚目の楽天カードを作ったらポイントをくれた。ポイントありがとな、そう呟いておいた。

ついに左岸側が東京都世田谷区になった。もう世田谷まで来たのだ。多摩川の流域自治体は、世田谷区が終わると残すは大田区だけである。いよいよゴールが近い。

 

渡り切った先は、めちゃくちゃオシャレに発展した町だった。ちょっと上流から橋の数を数えていて雨にも打たれ、ボロボロになっている男は場違いじゃないかというレベルでみんな「ニコタマですけど?」「楽天ですけど?」みたいな澄ました顔をして街を歩いてやがる。しばらく来ないうちに左岸側もすっかり変わってしまった。

 

No.075 二子橋(ふたごばし)

東京都世田谷区、神奈川県川崎市

橋の長さ440 m

海まで 21 km

 

場違いな男はオシャレな街並みをあとにし、一刻も早く右岸側に戻る必要があった。ここにはかつて「二子の渡し」という渡し舟があり、対岸との行き来を担っていた。江戸幕府は多摩川を江戸の防衛線と考えていたため、この周辺に橋を架けることを禁止していた。

それによって長らく渡しが活躍することとなり、当時は暴れ川として知られていた多摩川が荒れると、何日も渡し場に足止めされる人が増えた。その人々に向けた宿や店が発達し、街が発展した経緯がある。そしていまはオシャレな感じになっている。そして楽天があり、二枚目のカードを作るとポイントをくれる。

 

No.076 東急田園都市線 二子橋梁

東京都世田谷区、神奈川県川崎市

橋の長さ404 m

海まで 21 km

 

二子橋の隣にあった鉄道橋は東急鉄道、田園都市線が走る橋だったようだ。もともとは二子橋が鉄道併用橋だったが、その後、専用の鉄道橋として分離して新たに建設された。画像奥の部分を見てもわかる通り、橋の途中までが駅(二子玉川駅)のホームで、その半分くらいが橋の上に乗っている変わった構造の橋だ。

安定の右岸を進む。二子橋を通過してから妙に河川敷が賑やかになったように感じる。具体的にいうと、画像にも写っているようにオレンジ色の網みたいなものが延々と張り巡らされているのだ。それらが目立つようにルートを作っている。なんだろうと眺めていると、工事車両が出入りしていたので、おそらく工事車両を誘導する目的なのだろう。ただ、こうやって工事車両を誘導しているのに、その工事現場がいっこうに見えてこない。誘導の網ばかりが延々と続くのだ。ちょっとこれは不気味だった。

 

No.077 第三京浜道路 多摩川橋

東京都世田谷区、神奈川県川崎市

橋の長さ382 m

海まで 20 km

 

東京の玉川インターチェンジから神奈川の保土ヶ谷インターまで続く第三京浜道路、自動車専用一般有料道路だ。その終点である玉川インターからすぐの場所にある橋で、玉川料金所とインターチェンジの間に存在する。ぜんぜん関係ないけど、この周辺は「玉川」表記と「多摩川」表記が混在するのでかなり混乱する。

第三京浜を過ぎても延々と工事車両の誘導が続く。いったいどこまで続いているんだ。こりゃ、かなり大掛かりな工事があるんじゃないか。そうでなきゃここまで大規模な誘導はないだろう。

また目の前にAmazonが現れた。多摩川沿いには2つのAmazonがある。もしかしたら僕が頼んだストロングゼロのケースはここから運ばれているのかもしれない。

大規模な工事現場に躍り出た。河川敷でかなり大掛かりに工事をしている。そして全ての謎が解けた。

 

どうやらここに新たな橋を架ける工事らしい。これのためにかなり手前から工事車両の誘導路が設けられていたのだ。

新たにできる橋は等々力大橋という名称で、東京側から伸びる目黒通りがそのまま川を越えて神奈川入りする橋になるらしい。

 

実は多摩川を取り巻くこの周辺の地名は少し面白いことになっている。新たにできる橋の名称は等々力大橋、もちろん等々力にかかる橋だ。しかも、ここでは不思議なことに東京側の左岸の地名も「等々力」であり、神奈川県川崎市側も「等々力」なのだ。都県をまたいで同じ等々力が存在する。地下鉄の等々力駅は東京側の等々力にあるけど、有名な等々力陸上競技場は川崎側の等々力に存在する。

 

川を取り巻く地名の歴史、その怪異の大半は川の変化によるものだ。かつてここは同じ一つの等々力だった。蛇行する多摩川に突き出るようにして等々力があった。何度かの多摩川氾濫を受けて蛇行する川を直線に直し、等々力が分断されることとなった。そして、都県境の見直しが川の境界と一致するように改められ、東京の等々力と川崎の等々力ができたわけだ。

 

かつては同じ土地であり川によって隔てられていた2つの等々力が、再度、橋によってつながる。川の歴史にはロマンがある。ちなみにこの近くにある「上野毛」「下野毛」という地名も同様に川の変化によって隔てられ、東京側の上野毛と川崎側の下野毛に分断されている。

川が織りなす歴史のロマンに思いを馳せつつ、先へと進んでいく。川の周辺に閑静な住宅街が増えてきたからか、あるいは天気が良くなったからか、優雅にウォーキングを楽しむ人が増えてきた。このへんの周辺住人の変化はなかなか興味深い。

 

上流では、軒先に座って川を眺めるご老人か、アウトドアの人しか存在しない。中流になるとランニングとサイクリングが中心だ。そして下流になるとウォーキングか犬の散歩が多くなる。下流になるほどストイックさがなくなってくる。同じ川であっても場所によって周辺住民の関わり方が変わってくる。

前方に高層ビル群が見えてきた。明らかに異常な密度であそこにだけ高いビルが建っている。位置と方向から考えておそらく武蔵小杉だろう。タワマンが密集するエリアだ。こうして遠くから見ると神の領域を目指したバベルの塔みたいな趣がある。

この辺まで下流に来ると桜もほとんど散ってしまっている。花びらすら落ちていないので数日前には散ってしまったのではないだろうか。なんとも寂しものだ。はるか先に青い橋が見える。やはりここまで下流に来ると橋の間隔はかなり広い。

 

No.078 東急東横線 多摩川橋梁

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ381 m

海まで 17 km

 

青い橋を目指していたらその手前に鉄道橋があった。東急東横線多摩川橋梁という名称だが、東横線だけでなく目黒線も通る。鉄道橋は周囲が住宅地などの特別な事情がない限りギリギリの低い位置に作られることが多い。それによって堤防の部分がギリギリの高さになって頭上注意どころの騒ぎでなくなるパターンがほとんどだ。これまでに何度も取り上げてきた。けれども、この橋はけっこう高い位置に架けられていた。

鉄道橋の下から次の橋が見える。遠くから見えていた青い橋はあれのようだ。けっこう近い。けれども橋が高い。長い。あそこまで登って渡るのはかなりしんどい。

 

No.079 丸子橋(まるこばし)

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ405 m

海まで 16 km

 

近づいてみるとそこまで極悪な高さというわけでもなかった。橋の脇にある階段をちょんちょんと登っているうちに登りきってしまった。この辺はたしかアザラシのタマちゃんが現れた場所だと思う。あのフィーバー、2002年のことなのでじつに20年前のことらしい。7年くらい前の感覚だったのに驚きだ。

 

この丸子橋は、渡り切った先が田園調布、こちら側がバベルの塔、武蔵小杉とどちらも高級感あふれる住宅地、それらを繋ぐ高級な橋だ。

そういった、少しハイソな住民が多いからなのか、このあたりでは河川敷をゴルフ練習場にしているようだ。なかなか大規模な練習場で利用者も多い。駐車場にも高級車が並んでいる。

 

ゴルフ練習場があってもその横には河川敷の歩道がある。散歩している人もたくさんいる。間違っても歩行者にゴルフボールが当たることがないよう、狂ったようにネットが張り巡らされている。歩道の上をネットが取り囲み、ルミナリエみたいになっている光景を見ることができる。絶対に当てないという気概のようなものを感じる。

 

No.080 東海道新幹線 多摩川橋梁

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ408 m

海まで 16 km

 

そんなネットの先に立派な防音壁を持った鉄道橋が見えてきた。かなり手前から、あれだけの防音壁は新幹線しかありえないと睨んでいたら、まさしく東海道新幹線の橋だった。

 

手前に写っているのは、それこそ「絶対に新幹線にゴルフボールを当てない」という気概のネットだ。高速走行中の新幹線にゴルフボールが当たればえらいことになる。ただし、新幹線に当てるにはかなりの飛距離が必要だ。ネットの端まで250ヤードという表記があるので300ヤードくらい飛ばす人が来ると新幹線に当たる危険性が出てくる。なにかのお戯れでタイガーウッズがフラリとこの練習場にきたらまあまあ危険かもしれない。

 

No.081 品鶴線 多摩川橋梁

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ382 m

海まで 16 km

 

新幹線だけかと思ったらその裏側に在来線の橋もあった。JRの横須賀線および湘南新宿ライン、相鉄JR直通線が走る路線だ。もともとは貨物線として作られた経緯があり、その後、旅客化が行われて現在の形態となっている。

新幹線や湘南新宿ラインを超えたとなるといよいよ海は近く、ゴールは近いということだ。ここまで下流に来ると橋の間隔がかなり大きくなるので、前方にそれらしい姿は見えない。ただ、高層ビルが密集するエリアが左岸側に見えるので、あそこまでの密集エリアは対岸からもアクセスしたいはずで、きっとそこに橋があるはず、と予想を立てて進んでいく。

 

No.082 ガス橋

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ387 m

海まで 14 km

 

めちゃくちゃ錆びついている橋、という印象だ。いや、ちょっと本当に錆びつきすぎだろ。画像にも見えるように、橋の下にはガス管が供えられている。これは東京ガスの鶴見製造所で造られたガスを東京に供給するためのものだ。そこからガス橋という名称になっている。

 

当初はガス管のみの橋だったけれども、その後に一般人も通行できるようになった。けれども、交通量に対して点検用通路を改造して作った歩道は1メートルほどしか幅がなく、自転車がリアカーが通るとしょっちゅう喧嘩になるため「けんか橋」の異名があったそうだ。それにしても錆びすぎだろ。現在のガス橋は1960年に完成したとのことでもう60年くらい経過している。そりゃ錆もつく。

 

あまりに川に架からない部分の橋が長くなってきた感じがするので、川に架かる部分のみを渡って引き返すことにした。本当に橋が長くなった。

 

 

次の橋が見えてきた。あの見え方からするとまあまあ近いのかもしれない。

河川敷には自転車に乗って狂ったように走っている中学生の団体がいて、ちょっとした公園部分で休憩していた。なんでも春休みでめちゃくちゃ暇らしく、じゃあ行けるところまで行ってみようぜと、かなり上流のほうから移動してきたらしい。あまりに無謀だ。でも、中学生くらいの男の子って急にそうなるとこあるよな。

 

その中の一人が、途中でパンクしてしまったらしく、もう進めないと強く主張していて、仲間たちがパンクくらいなら進めると無茶を言い、いやパンクしたまま走るとホイールを痛める。お父さんに怒られる。じゃあ修理したら。金を持ってきてない。最後の金でジュース飲んだ。ジュース飲むな。と大激論を交わしていた。パンク修理代くらい僕が出してあげても良かったんだけど、知らないおっさんが急に話しかけてきて金を渡しても事案にしかならないのでやめておいた。

 

結局、パンクした中学生は自転車を押して先に進むことにしたようだ。帰りとかどうするつもりなんだろうか。

 

No.083 多摩川大橋

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ435 m

海まで 12 km

 

そんなこんなで次の多摩川大橋まで到達した。かなり大きな橋だ。どうやらこれは国道1号線が通る橋のようで、異常に交通量が多く、車線も多い。かなり主要な道路だ。もはや横断できないレベルの道路が走っている。川に沿って橋を横断する場合は橋の下に回り込む必要がある。

 

もちろんめちゃくちゃ長いので川に架かる部分だけを渡り、引き返して下に潜り込んで向こう側に渡った。

 

No.084 多摩川送電橋

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ521 m

海まで 12 km

 

橋を渡ってみてはじめて分かったのだけど、でかい橋だなあと思っていたら隣にもう1つ橋があった。ただ、この橋の存在がとても謎めいていた。渡り切ったあとにすぐ途絶えてしまい、道路が繋がっているわけでもない。人が通れるわけでもない。つまり車両や歩行者が渡る橋ではない。水道管も見えないので水道橋でもなさそうだ。もちろん鉄道が通るわけでもない。なんだろう、この橋。ただの飾りとかそんなものだろうか。

橋の下に回り込んでみてやっとわかった。電気通信設備専用の橋のようだ。NTTが所有しているみたい。たぶんインターネットのデータとか通っているんだろう。いま、みなさんが読んでいるこの記事のデータだって、ここを通ってきたものかもしれない。

 

しばらく歩くと、異様な光景が河川敷に広がり始めた。

競馬場……?

 

この造りはどう見ても競馬場だ。どっからどうみてもダートコースが広がっている。ラチの形状もまさしく競馬場のそれだ。河川敷に広がる競馬場。そんな競馬場に心当たりがない。そもそも競馬場っぽいのに観客席が存在しない。なんなんだ、これは。

絶対に競馬場だよこれ。ゲートとか見えるもん。

 

どう見ても競馬場にしか見えなかったので、河川敷への進入路みたいな場所に立っていたおじさんに話を聞いてみた。

 

「すいません、これって競馬場ですか?」

 

しばし考え込むおじさん。

 

「あー、わたしね、ギャンブルやらないからよく分からないんだけど、なんか朝方とかに馬がきて練習してますよ」

 

「ああー、レースする場所じゃなくて練習する場所なんですか」

 

「なんかわたしはギャンブルやらないからよくわからないですけど、馬を運ぶ車とかやってきてますよ」

 

おじさんは親切な人みたいでめちゃくちゃ丁寧に教えてくれるのだけど「ギャンブルやらないアピール」がすごい。こちらとしても、おじさんのギャンブル遍歴にはあまり興味がない、なのにしきりにアピールしてくる。

 

「川のこっち側は川崎市ですから川崎競馬場の練習場ですかね」

 

「ですね。私はギャンブルやらないんでよくわからないんですけど、川崎競馬のホームページにも公開調教はやってないけど堤防の上から調教を見ることができるよってかいてあります」

 

めちゃくちゃ詳しいじゃねえか。絶対にギャンブルやってる。川崎競馬に狂ってるだろ。

 

 

川崎競馬(練習馬場)
住所:神奈川県川崎市川崎区富士見1丁目5番1号
営業時間等は開催によって異なる
HP:https://www.kawasaki-keiba.jp/info/qa/

 

川崎競馬場自体はもう少し離れた場所にあって、ここは練習場とトレーニングセンターそして厩舎があるみたいだ。微妙に馬の匂いとかもしてくる。

ここからは川沿いの堤防が消失し、川から少し離れた住宅街みたいな場所を歩くことになる。おそらく川崎駅が近いのだろうか、どんどん街並みが賑やかになっていく。明らかに駅が近くなったところで鉄道路線の陸橋が見えたので、絶対に多摩川を超える鉄道橋があるはずと無理やりに多摩川が見える場所に移動した。大きな通りから少し川のほうに近づいた広場みたいな場所だ。

 

No.085 六郷川橋梁(JR京浜東北線)

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ519 m

海まで 9 km

 

ここ、たぶん鉄道橋が3本ある。川岸の地形から考えてこれ以上は橋に近づくことができないのだけど、手前の橋の影にもう1本。そしてちょっと離れたところにもう1本ある。一番手前が青い電車のJR京浜東北線が通る橋だ。埼玉県の大宮から東京駅を経由して横浜まで至る路線だ。

 

No.086 六郷川橋梁(JR東海道本線)

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ550 m

海まで 9 km

 

真ん中の橋は撮影難度が高すぎるので、いったん大通りに戻り、橋の反対側に回り込んで撮影した。上野東京ラインの電車や東海道本線、湘南新宿ラインなどが通る。ちなみに、多摩川に架かる橋なのに六郷川橋梁と三連発で六郷川とついているのは、さきほどあった多摩川大橋より下流を特別に東京側の人々が六郷川と呼んでいたことに由来する。

 

No.087 六郷川橋梁(京急本線)

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ550 m

海まで 9 km

 

ここからは重なってしかみえないけど、JRの2本の橋梁から少し離れた場所に3本目の六郷川橋梁がある。これが京急本線の橋梁だ。川崎駅はJRの駅と京急の駅が微妙に離れている。この橋梁の離れ具合がそのまま駅の離れ具合に反映されているイメージだ。

 

No.088 新六郷橋

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ443 m

海まで 9 km

 

鉄道橋3連発が終わるとすぐに大きな橋がやってくる。新六郷橋だ。参照する資料によってはそのまま「六郷橋」と記述されているものもある。第一京浜道路が通る橋で車線もかなり多い。箱根駅伝でも通過する橋で、この橋に至る前の上り坂と、渡った後の下り坂が勝負ポイントになることもある。ちなみに、ここまで南東の方角に流れていた多摩川がここで北東方向に蛇行する。つまり、この橋が多摩川においてもっとも南に架けられた橋となる。

 

ここまで川が作る円弧の内側を意識的に歩いてきたけど、川の方向が変わるということで橋を渡り切った左岸を行くことにした。左岸、久しぶりだ。

ここも激しい雨が降っていたようで、ベンチが置かれた区域が丸ごと水たまりになってウユニ塩湖みたいになっていた。もちろんベンチまで到達できないので誰も座っていない。

左岸側の堤防はやけに散歩している人が多かったように思う。河川敷に公園のように歩道が整備されているけど、そこにはまり人がおらず、とにかく堤防の上を散歩していた。堤防上の道路もなかなか広い。この道路自体がちょっとした公園みたいになっている。

 

そして、大きな橋が見えてきた。

これは登るのが大変なやつだ。橋の規模がかなり大きいので、遠回りしてアクセスする必要があるやつだ。ここにきてかなり体力を削りにきているなと思ったけど、親切にも途中にショートカット階段があった。やったね。

 

No.089 大師橋

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ555 m

海まで 5 km

 

ついに橋の長さが500メートル越えだ。ショートカット階段を使ったとはいえ、これを渡り切るのにもかなりの体力を使う。でかすぎる。長すぎる。ちなみに、この橋の名称である「大師」は橋の川崎側すぐにある川崎大師にちなんでいる。

橋の上からのぞむ多摩川。ダムを出てすぐのあの小さい流れが、時に堰き止められ、時に分岐し、合流し、文字通り紆余曲折を経ながらここまでの大きな流れになった。なんか異様に感慨深い。

 

No.090 高速大師橋

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ526 m

海まで 5 km

 

大師橋を渡り切ると、そこから斜めに伸びる首都高横羽線の橋が姿を現す。大師橋より一段上にかぶせるようにして存在する。ちなみにこの場所は大師橋と高速道路が立体的に重なっているのでちょっと歩行者の動きが分かりにくい交差点になっている。少し迷ってしまった。

 

僕はこの部分の高速道路を運転したことがあって、めちゃくちゃウンコしたくなって焦った記憶がある。たしかパーキングエリアがあったけど逆車線しか利用できなかったとかで本当に漏らしかけた。レンタカーで漏らしたらけっこうお金取られると思う。首都高はトイレに駆け込めるエリアが少ないのでタイミングを間違うと漏らすという教訓を得た場所だ。

さあて、次の橋は、と先を眺めるとその先にうっすらと空港みたいな建物が見えた。管制塔みたいな塔とか見える。

 

「あれはまさか……! 羽田空港……!」

 

この旅は、多摩川の開始から終わりまで何本の橋があるか数えるというもの。そのゴールはもっとも下流にある橋である「多摩川スカイブリッジ」。その橋は羽田空港のすぐそばにある。つまり、あそこ羽田空港がゴールだ。ついにゴールが見えた!

羽田空港までまっすぐ。遮るものはなにもない。と進んでいたら遮るものがあって、堤防の道路が途中でなくなってしまった。そのまま川から少し離れるルートを取るしかなかった。

 

この周辺は、多摩川スカイブリッジの開通に合わせて新たに開発されたのか、真新しいリゾート風のホテルや真新しい研究所などが立ち並んでいた。道路も新しく綺麗で広い。そして、いよいよ、多摩川に架かる最後の橋が目の前に現れた。

めちゃくちゃでかい。

 

No.091 多摩川スカイブリッジ

東京都大田区、神奈川県川崎市

橋の長さ674m

海まで 3 km

 

その長さ、674mと圧倒的。さらに高さもあるので傾斜がかなりきつい。まだ開通から間もないのであまり浸透していないのか、予想したより車の通行は少なかった。ただ、自転車や徒歩で見物に来ている人は多かった。

この橋は変わった構造になっていて3つのレーンが存在する。いちばん外側が歩道で歩行者が通る。その内側に自転車専用レーンが存在する。前述した通り、かなり傾斜がある橋なので、下りで死ぬほど加速した自転車がビュンビュン通る。ターザンのように叫びながら自転車で下ってくる爺さんとかいた。そして一番内側が車道だ。

多摩川はここまで大きくなっていて、ほとんど海みたいだ。実際の多摩川の終点はここから3キロほど先のところだけど、もう橋はないので絶対に行かない。

羽田空港の真横なので飛行機がたくさん見える。

 

ということでついにゴール!!!!!!!!!!!

 

旅のまとめはこちら

 

3日目

橋の本数 34本(累計91本)

移動距離 46.32 km(累計111.91 km)

橋とは、物語において古くから特殊な舞台装置として用いられてきたものだ。橋の向こうの知らない世界、橋を渡ってやってくる異物、橋の上で出会う変わった人、それらは物語に刺激を添えてきた。単にこちらとあちらを繋ぐ構造物としての橋ではなく、なにか特別な意味を橋に担わせた作品は多い。

 

これらは橋の持つ境界性に起因するのだと思う。橋が存在するということは、こちら側とあちら側の世界が存在し、その境界が必ず橋の上に存在する。こちらとあちらを繋ぐ意図でありながら、存在することで境界を意識してこちらとあちらを離す。橋が持つ不思議な意味合いはその両面性にあるのかもしれない。

 

橋の向こうは知らない世界であることが多い。常に向こうからは、人なり、車なり、電車なり水なり、新しい何かがやってくる。それは知らない世界を知りたいという好奇心と、既知の世界であるこちら側を意識することの相反する二つの意識が存在し、そこにも別の意味での境界が存在することになる。

 

そう、橋とは新しい何かを知り、そして自分を知ることなのである。

 

今回、旅に出る前に多摩川に架かる橋の数を理論的に推計し、57本と予想した。けれども、実際に数えてみると91本の橋が架かっていた。予想の1.6倍もの橋が架かっていたのだ。どうしてここまで予想が外れてしまったのだろうか。それは理論的に考えたと言いつつ、あまりの僕がものを知らなかったからだ。

 

実際に多摩川を歩いてみて多くのことを知った。上流では集落と集落を結ぶ目的の橋ではなく、蛇行する川に関係なく真っすぐ道路を通すために橋が多用される。古い橋と新しい橋が隣り合って存在することもある。勝手に架けたっぽい謎の橋も上流に存在する。釣りセンターにたくさん橋がある。昭島では茂みからヤンキーが出てくる。水道や通信設備などインフラに関する橋もけっこうある。下流では予想した以上に橋の間隔は長い。実際に歩いてみないと分からないことばかりだった。それらが僕の推計と実際の数が大きくずれた原因だった。

 

新しい知識を得て、自分の無力さを知る。もしかしたらこうやって歩いて数えたこそが、新しい何かとこちらを繋ぐもう1本の橋なのかもしれない。

 

「ありましたよ、多摩川に架かるもう1本の橋が」

 

虹はかからなかったけど、きっと、それは心の中の橋なのだと思う。

 

多摩川に架かる橋の数:92本

 

 

 

おわり