青森県には「干支」が含まれている地名が十二支揃っているらしいので行ってみた

1日目 12:00

2022年12月31日 大晦日 青森県 外ヶ浜町 龍飛岬

みなさんこんにちは。
2022年の年の暮れ、大晦日という瀬戸際にあって、いま僕は青森県の龍飛岬にきています。青森から突き出した二つの半島の左側、その先端にいます。

東京から朝一の新幹線に乗って新青森駅まで、そこから60 kmくらい移動してきてやっとこさ到達しました。めちゃくちゃ遠かったです。ちなみに、僕は前日のコミケにサークル参加しておりました。昨日まで東京ビッグサイトにいたのにいきなり龍飛岬にいる事実で脳がバグってしまいそうだ。

雪は降っているし、海から吹き荒れる風がめちゃくちゃ強いし、とんでもない寒さです。そしてなにより凄まじいのが「人がまったくいない」という点です。龍飛岬と言えばなかなかの観光地でもあり、駐車場や土産物屋も整備されているのですが、それらはすべてクローズド。まるで打ち捨てられた街のように人の姿がまったくありません。

さてさて、このような本州最北に近い場所、荒れ狂う海を望む龍飛岬、誰もいない北の果てに大晦日にやってくることになったのか、これから何をさせられるのか、まずはそこから話さなければなりません。

あれは、そろそろ年末の雰囲気が漂いはじめ、今年の年末年始はテレビとか見ながらゆっくり過ごしたいな、などと考え始めた頃でした。SPOT編集部より突然のメッセージが入ってきたのです。


patoさん、patoさん。


嫌です。断ります。

編集部の呼びかけはいつも突然だ。いつもなんだかんだ言いくるめられて訳の分からない旅に駆り出されるので最初から対話を拒否するに限る。しかも年末が押し迫ったこの時期、絶対に年越しに何かの地獄を体験させられるやつだ。年末年始はゆっくり過ごすんだ。ここで相手のペースに乗ってはいけない。今回ばかりは毅然と断るべきだ。


2022年も終わっていきますね。今年もpatoさんには大変お世話になりました。patoさんなしではSPOTというメディアは成り立ってませんよ。


そ、そうですかね。そんなことないんじゃないですかね。

謙遜しつつ、そう言われると悪い気はしない。


今年は寅年でした、新しい2023年は卯年です。兎のジャンプのようにSPOTもpatoさんも大きく飛躍する年にしたいですね。


そうですね。お互いに頑張りましょう。

そこで、せっかく干支の話が出ましたので、こんな話題をひとつ。つい先日、Twitterでバズっていたこのツイートをご存知でしょうか。


なんでも、青森県内の地名には十二支がぜんぶ入っているらしいです。


はあ、確かにすごいですね。でもちょっと羊は苦しくないですか?

「洋」の字の右側を羊とするのはいささか厳しい。


そこで考えたんです!さきほどpatoさんも卯年にちなんで飛躍の年にしたいと言ったじゃないですか。だから、大晦日から元日にかけて、この干支の地名を巡ってはどうかと!


羊は苦しくないですか。


どうでしょう!飛躍の年のためにぜひ!

もうぜんぜん話が通じないな。


わかりましたよ。これなら県内をぐるっと一周するくらいで終わりそうですから、大晦日と元日で終わりそうですし、そう苦しくなさそうです。行きますよ。

実際問題、もっとも大変そうなのが龍飛岬とか半島の先にある場所だけで、他はぐるっと県内を一周すればとれてしまう。まずは西側を一気に取って、そこから東側のルートでいけそう。そこまで大変な作業じゃない。


よかったです! それではよろしくお願いします。あ、もちろん、干支の順番どおりに訪問してくださいね。

 
ああああああああああああああああああああ。

順番どおりはやばい。本当にやばい。とにかくやばい。絶対にやばい。ぐるっと県内一周すれば取れるとかそんなレベルじゃなくなる。行ったり来たりだ。とてもじゃないが2日間で終わるとは思えない。

 
順番どおりはやばいのでそれはなしにしましょうよ。どんな順番でもいいから取れば良しとしませんか。


干支が順番を破ってきますか? 順番どおりに来るから干支なんでしょう!

 

す、すいません。

あ!卯(うさぎ)が最後の方が今年のはじまりっぽいので、辰から始まって卯で終わるのがいいですかね。

ということで、青森県内の干支が入った地名を辰年から順番に取ることになってしまいました。


本来はどれだけ時間がかかっても、すべて公共の交通機関で行ってもらうと思ったのですが、災害等で不通の区間もあることと、交通機関を逃したときに遭難リスクがあることから、レンタカーでの移動というルールにしました。その代わり、レンタカーの返却期限である1月1日の17時までに新青森駅に帰ってきてください。


お心遣い、感謝いたします。

ということで、ルールは以下のとおり・

青森県内干支の旅ルール

  • 青森県県内の干支がはいった地名を辰年から卯年まで順番に巡る
  • そこでは地名に干支の名前が入ったことがわかる看板などを撮影する
  • レンタカーの移動可
  • タイムリミットは1月1日17時まで(残り29時間)

 

ということで、辰年からスタートということで「龍」の字が入った龍飛岬までやってきたわけです。
この記事はPR記事でもないので、皆さんは「青森ってこんなところなんだな」と思いながら僕の旅を眺めていただければと思います。

ちなみに僕は辰年生まれです。

向こう側にうっすらと見える陸地は北海道みたいだ。まさに本州の北の果て。

 

ということで、まずは辰年「龍」の字をゲットです。

【タイムリミットまで : 29時間】

それにしても本当に人の気配がない。ただただ、寒々しい風の音が響き渡っているだけだ。もうちょっと観光地然としていても良さそうなのに死の街みたいになっている。

龍飛岬の駐車場。完全に閑散としている。土産物屋はすべてがクローズしていて車も1台しか停まっていない。もちろん、この1台は僕が運転したきたレンタカーだ。とにかく人がいない。人類は絶滅したかと思うほどにだ。

海から吹き付ける荒い潮風は体を芯から冷やしてくれる。完全にお腹が冷えてしまった。早い話が、ウンコがしたくなったわけだ。いつもの旅ならもうちょっと進んで疲れが溜まってきたクライマックス手前ぐらいで腹痛が襲ってきて手に汗握る展開になるのだけど、いきなりスタート地点から腹痛だ。とんでもないことになってしまった。

ただし、この駐車場にはしっかりとした公衆トイレがある。土産物屋はすべてクローズしていて、人の姿がなくともトイレがある。これだけで百人力だ。さっそく本州最北に近い地でウンコでもしましょうかねとトイレに駆け寄った。

「冬季閉鎖」

ぎゃあああああああああああああ。

本当に何から何までクローズされている。そんな龍飛岬だった。

とにかく、ぜんぜん人がいないのでそのへんでウンコしていいだろ、というわけにもいかないのでどこかにコンビニがないか探しながら次の目的地へと走り出す。

「巳(蛇)」に向かう

ほとんど車が通らないからか、道路は雪が固まったアイスバーン状になっている。滑りやすくてなかなか運転が難しい。雪国出身の僕はまあまあ雪道での運転に慣れているけど、それでもかなり慎重に運転しないと危なそうだ。

走り出してすぐ、1分にも満たない間近にデカデカと「階段国道」と表記された看板が登場してきた。かの有名なやつだ。まさかこんな龍飛岬の間近にあったとは。

この国道339号線は唯一の階段国道で、国道でありながら車もバイクも通ることができない。階段なので歩行者のみという代物で、一部の道路フリークの間で有名なやつだ。なんでも国道として整備することを見越して国道に指定したものの、なかなかの高低差、周囲の密集民家との兼ね合いで道路整備ができなかったとかなんとか。とにかく、そのまま国道としての階段が遺されている状態だ。

情報によると、階段だけだけどその景色はなかなか素晴らしく旅情をそそるらしい。景色もいい、旅情をそそる、唯一の階段国道、経験として通っておくべきと近くの駐車場に車を停めて、ウキウキしながら向かいました。

「凍結の恐れあり閉鎖中」

なるほどね。

たしかに凍結していて危なそう。閉鎖中にもかかわらずけっこう足跡があるけれども、これは通らない方が賢明そうだ。

ちなみにこの下には漁港と集落が広がっていて、そこまで階段国道が続いている。高低差が70mくらいあるらしいので、いったん降りるとまた登ってくるのがなかなかしんどそう。

階段国道のすぐ近くには、かの有名な「津軽海峡冬景色」か歌謡碑があった。石川さゆりさんが歌う曲で「上野発の夜行列車」から始まる名曲だ。この二番の歌詞が「ごらんあれが竜飛岬北の外れ」から始まるということで、まさにその場所に歌謡碑が建てられている。なかなかゴージャスな碑で迫力みたいなものがある。

この歌謡碑を眺めていると、その隣の駐車場に黒い乗用車が颯爽とやってきた。龍飛岬に到達してから初めて僕以外の人間を目撃したような気がする。よかった人類は滅亡していなかったんだ。

黒い乗用車からは二人の若い男性が降りてきた。二人とも手にカメラを持っていたので、青森を旅しながらその風景を撮影しているような感じだった。

「めっちゃいいじゃん」

「いいね」

物静かな感じの二人はそんな会話をしながら歌謡碑の裏側まで歩いてきた。歌謡碑の裏側は津軽海峡を望める絶景になっていて、二人はその絶景をファインダーに収めようとパシャパシャとやりはじめた。同じ趣味の仲良し男性が撮影旅行、なかなかいいじゃないと思っていたのだけど、二人はちっとも楽しそうじゃなかった。むしろ、なにか深刻な雰囲気すらしていた。

「……ごめん」

「……そうだと思ってた」

「おれも……するときにきてるのかな……あてつけとかじゃなくてさ」

風の音が強すぎて二人の会話は聞こえないのだけど、めちゃくちゃ深刻なトーンで深刻な話をしていた。なんか友情だとか恋人だとか、そういったものが幾重にもなった深刻めいた何かを話していた。

「これは大変なことになったぞ」

急にシリアスな雰囲気に包まれた歌謡碑周辺、僕は戸惑っていた。何が深刻なのか知りたい気持ちもあるし、聞いてはいけないような気持もあったからだ。

「ほら、あの夜にお前が電話してきたじゃん。あの時に俺はもう決めていたよ」

何を決めていたんだ。もう干支なんて探している場合じゃねえ。あの夜には何を決めていたんだ。教えてくれ。その瞬間、僕の視界にとんでもないものが飛び込んできた。

なんか早押しボタンみたいなものがある。

なんだこれ?

よく分からないけどボタンがあるなら押してみる。

「ごらんあれが竜飛岬北の外れ」

超大音量で津軽海峡冬景色が流れ始めた。

いまこの記事を読んでいる皆さんが想像する大音量、その3倍くらいの音量だと思ってもらえばいい。風の轟音を突き抜けて響き渡るレベルだからそりゃもう大音量。しかもフルコーラスで歌う勢いでまったく止まらない。これには深刻なトーンの二人も苦笑い。

「すいません、すいません」

爆音津軽海峡冬景色で、めちゃくちゃ深刻なトーンで深刻な話をしている二人のムードぶちこわし。何をやっても止まらん。止めようとボタンを連打してしまったので、延々とループする可能性すらある。

逃げるようにして車に乗り込むしかなかった。車に乗り込んでしばらく走ってもまだ聞こえていたからな、爆音津軽海峡冬景色。

 

さて、予想以上に龍飛岬周辺に見所が多くて忘れかけていたけど、これは干支の入った地名を順番に巡る旅だった。龍を見つけたことによって辰が終わったので、次の干支を目指さなければならない。えっと、僕、干支の順番がちょっとあやふやなんですけど、辰の次は何だっけ、とネットを検索して判明しました。「巳」です。つまり次は「蛇」を目指せばいいわけです。どれどれ、蛇はどこですかな。

あ、蛇浦ってとこなのね。ふうん。

ふっざけんなよ!

隣の半島の先っぽじゃねえか。これが順番通りルールの恐ろしいところですよ。順番通りでなくていいなら、他の干支を取りつつ半島の先まで行けばいいんですけど、それができないわけですからね。これけっこうやばいよ。

完全に向こう岸に見えているんですよ。蛇がいる場所、見えているんですよ。見えているのにそこにダイレクトに向かう手段がない。結果、青森市の方に戻ってぐるっと移動する必要がある。

カーナビに入力してみたら、蛇の場所まで215 km、5時間21分かかるらしい。嘘だろ。これだけで日が暮れちゃって1日目が終わっちゃう。2日間で12か所も取らなきゃいけないのに、1日目で2か所、絶望しかない。

「あー、無理無理、ぜったいに2日間で回り切れるわけねえだろ。編集部のやつらなに考えているんだ。あいつらはぜんぜん現場のことわかってねえんだ」

悪態をつきながらそれでも移動していく。すると目の前に青函トンネル記念館なるものが登場してきた。

ここ龍飛岬周辺は、本州最北ではないけど、もっとも北海道に近くなる場所で、青函トンネルが通る場所として知られている。構想から完成まで42年、過酷な工事となった青函トンネルの全てがわかる展示ルーム、そして海面下140mの世界を体験できる体験坑道、これはおそらく青函トンネル内にあった海底駅「竜飛海底駅(現在は竜飛定点)」にいけるやつじゃないだろうか。

そうか、海底駅は前から行きたかったんだ。どうせ干支を探す旅は達成不可だろうし、ここはガッツリと観光でもしてやろうと近づきました。

「閉館中」

わかったわかった。そのパターンね。

わかりましたよ。これね、行く先々が閉鎖中、閉館中という不運ではなく、青森はあまりに雪や寒さが過酷ですからね。冬季は閉鎖するという考え方が一般的なんですよ。そもそもこんな冬の真っただ中、大晦日に来る方が間違っている。

それでも雪道を進んでいくしかない。ちなみに、車内からの風景の撮影は、路肩停車時か、信号待ち時に行っています。というか、なんでわざわざ路肩に停めてまで上記の写真を撮影したんだろうと、疑問だったけど、入念に画像を吟味して思い出した。

これだ。我々はSPOT編集部の悪の手にくじけてはいけない。先に進むのみだ、という決意をもっていかなければならない。年が明けた2023年はこれをモットーに生きていきたい。

また目の前に何か登場してきた。本当にこのあたりは見所が多い。どうやら、青函トンネルの「ここから海底に入っていくぞ」という入口があって、そこが公園みたいになっているらしい。脇道にそれた先にあるようで、その脇道がかなりの積雪量で恐ろしかったのだけど、除雪もされているようなので行ってみることにした。まあ、先を急ぐ旅でもないしね。

そのトンネル入り口は脇道にそれてすぐの場所にあった。なるほど、ここから青函トンネルへと入っていき、北海道まで続いているわけか。そう考えるとなかなか感慨深い。

その横には公園があって、新幹線車両を模した建物とかあり、広い駐車場もあるようなのだけど、いかんせん雪がすごすぎる。公園内は除雪されていないので入り込んだらそのまま雪にはまって動けなくなりそうな雰囲気がある。怖い。

さらに恐ろしいのは、ここまで細い一本道で、おまけに左右が雪の壁のようになっているのでかなり道幅が狭くなっているという点だ。入ってきたが最後、引き返せなくなってしまう。本来なら公園の駐車場にぶちこんでUターンすればいいのだけど、上記の状態ではなかなか厳しいものがある。

「おれは全部バックでいくつもりだ!」

ちょうど僕が入ってきてすぐに、その後ろにつけるようにして、おっさんがやってきた。これじゃあUターンできないですねえ、などと会話していたら、おっさんが突如として決意しだし、ムリムリと決して短くはない距離をバックしだした。かなり無謀だ。普通の道と違い、左右が雪の壁みたいになっているのでちょっとしたミスが命取りになる。雪の壁は固いのでガリガリと車を傷つけるだろう。

「僕はこの先に行ってみますよ。大きな道路に出られるかもしれないし、Uターンする場所もあるかもしれないし」

おっさんにそう告げると即座に反応がやってきた。

「いいや、この先は行き止まりとみたね」

「いやいや、完全に何かありそうな道路でしょ」

この細い道路は新幹線高架の下を潜ってその先へと続いている。わざわざ高架下を通した道路が行き止まりであるはずがない。

おっさんと別れ、おっさんは慎重にバックで大通りまで、僕はそのまま高架を潜り、大胆に先へと進んだ。

 

「行き止まりだ」

 

高架下を抜けた道路はそのまましばらくまっすぐ伸びて、軽くカーブした後に完全なる行き止まりになっていた。除雪した雪が積み上げられ強固な雪の壁が形成されていた。なんのための道路なんだこれ、完全なるブービートラップじゃないか。結局、おっさんの判断が適切で、僕は倍以上の距離を慎重にバックする羽目になってしまった。慣れないレンタカーでこれはなかなかきつい。めちゃくちゃ時間を食ってしまった。

なんとか大きな通りに復帰し、先へと進んでいく。

龍飛岬を含む外ヶ浜町は、このような変わった形の看板が数多く設置されている。なんでこんな形なんだろうと思ったけど、たぶんこれ、風力発電のブレードだな。常に風が強い土地のようであちこちに巨大な風力発電施設があり、おそらくその部品をリサイクルしているんだと思う。

「腹が減ったな」

次の目的地まで5時間も運転しなければならないのだ。どこかで食事でもとらないととてもじゃないが、もちそうにない。ただ、とにかく何もない地区を走っているので、食事処はおろかコンビニすらありそうにない。

どうしたものかと困っていると、目の前にとても懐かしい施設が登場してきた。

「奥津軽いまべつ駅

北海道新幹線、新青森-新函館北斗間開業と同時に開業した駅だ。本州最北端の新幹線駅で、在来線である津軽線、津軽二股駅の乗換駅でもある。一日当たりの乗車人員は28人(2018年)で、国内の新幹線駅で最も少ない。

僕はこの駅には何度かお世話になっている。青春18きっぷで日本縦断では津軽海峡を超えるためにこの駅で新幹線に乗り換えているし、新幹線全駅下車という狂気の沙汰みたいな記事では、ここで1時間半も何もすることなく過ごしている。まさか車で来ることになるとは思わなかったけど、こんな場所にあったのか。

奥津軽いまべつ駅のすぐ隣には、在来線の津軽二股駅がある。

ただし、この津軽線は2022年8月の大雨により蟹田-三厩駅間で不通であり、復旧の見通しも立っていない。まったく列車がこないので線路は思いっきり雪に埋もれている。ここに線路があるんだよ。

完全に雪に埋もれてしまっている。

その雪に埋もれてしまった駅の横に半島プラザアスクルと書かれた建物があった。前に来たときは早朝すぎて閉まっていたけど、絶賛営業中らしい。どうやら道の駅「いまべつ」という名前がついているようで、お土産物屋や食堂があるらしい。ここで食事をとれそうだ。

ラーメン660円。

かなり素朴な味だった。完全に冷え切っていた体に染み渡るような温かさがあった。

駅以外は何もないような場所にある道の駅だ。ほとんど利用者もおらずに閑散としているかと思ったらそうではなく、食堂利用者はけっこういて、もともとそこまで席数がないこともあるけど、ほぼ満席に近かった。

食堂から望む景色はけっこう絶景で、薄く白に染まった山々を望むことができる。それにしてもとんでもない雪だ。災害レベルじゃないかと思っていたのだけど、隣の席に座っていたおそらく生粋の青森県人っぽい人が「今年は雪が少なくて良かった」「ぜんぜん少ない」「むしろこれなら雪とはいえない」みたいなことを言っていてマジかよってなってしまった。青森人、正気とは思えない。

さて、腹も満たされたし、蛇に向けて走り出す。しばらく走ると、山間の景色から、広大な田園に雪が積もって雪原となった景色に移り変わっていき、そして民家が増えてきた。そこでちょこちょこ気になる看板が出てくるようになった。

「むつ湾フェリー」

この何キロも前から道路標識でちょくちょく「むつ湾フェリー」と案内されていた。ふうん、そんなフェリーがあるのね。北海道に行くやつなのかな。どれどれ、どこにいくフェリーか調べてみましょうかね、とスマホで検索して衝撃の事実を知ることとなった。

「むつ湾フェリーは津軽と下北、青森県の二大半島を60分で結ぶカーフェリーです」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお。すげえフェリーだぞこれ。完全なるショートカット、大回りすることなく蛇浦の下の方に運んでくれる。たぶんこれ使うと150 kmくらいショートカットになるし、3時間くらい時間短縮できる。これ、干支を巡る人の作られたフェリーだろ。それくらい目的にドンピシャの航路だ。

いけるいけるぞ。これを使えばかなり早い時間に蛇に到達できるし、その後もいくつかの干支を取れる。そして2日目に猛攻を仕掛ければ12干支制覇も現実的になってくる。いけるいけるぞ。問題はフェリーのダイヤだ。そこまで本数が多くなくて待ち時間が長いかもしれない。それでも3時間は短縮できるのだから、3時間以内の待ち時間なら行くべきだ。

あれだろ。あそこに待機していいるのが3時間も短縮してくれるフェリーだろ。待機してるってことはそんなに待ち時間がないってことだろ。これ、完全にもらったわ。

ここがフェリーのチケットとか売っている場所らしい。早いとこ乗船券を買おうと近づいていったのだけど、なにやら様子がおかしい。このチケット売り場の様子を怪しく思った。ひっそりとしている。なんだかやけに寂しい感じがする。というか人の気配がない。まさか。

「年末年始お休みのお知らせ」

12月31日から1月3日まで休み。

うそおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

今日は掛け値なしで大晦日なので完全に休みだ。まさかとは思ったけどここまで何も機能しないとは思わなかった。

これは後から知ったことだけど、そもそもこの年末年始休みなのは、フェリーのチケット業務も行っているであろう「風のまち交流プラザ トップマスト」が休業というだけで、そもそもフェリーは11月から春までずっと冬季休業になっている。年末年始関係なく、根本からダメだったということだ。やはり青森は冬場は多くのものが止まってしまうようだ。

超絶ショートカットコースを見つけて完全に勝利を手中に収めたと思ったので、その落胆ぶりが酷い。もう絶対に間に合わない。12干支とるの無理。また車内でブツブツと編集部の悪口を言っていたら、いつの間にか青森市内に入っていた。さすがに都市部は大通りにほとんど雪がなく運転しやすい。それでも目指すべき蛇浦はまだまだ遠い。

青森市の市街地を抜けると左手に海が見えてきた。きっと下北半島に入ったのだろう。もしくはもう少しで半島という場所だろう。フェリーさえ動いていたらこの海を切り裂いてショートカットしていたのにと未だに悔やまれてならない。ただただ運転するのもかなり精神がやられてくる。

奥津軽いまべつ駅でラーメンを食べてから延々と4時間、ただただ運転し続けてやっと下北半島の奥深くの場所までやってきた。さすがに気が狂いそうだし腰が痛いのでコンビニで休憩することにした。まだ夕方の4時だというのにもうすでに日暮れの雰囲気が漂っている。青森の日没は早い。

青森はコンビニの店先で灯油を販売している。このポリタンクごと持って帰るシステムらしい。こんなの初めて見たけど北国では当たり前のことなのだろうか。

コンビニ店内に入店すると、アベックが仲睦まじくお酒とか選んでいた。これからどちらかの家に行って一緒に年越しとかするんだろうか。紅白とか観ながらですね、仲良くお酒飲むんでしょう。うーん、これ飲んじゃうとか言って彼女が「ほろよい」を選んでいて良い感じだったのだけど、彼氏の方がツマミを選んでから様子が一変した。

どうやら彼氏が選んだのが「あたりめ」だったようで、僕もファミマの「あたりめ」はマヨネーズがついているのでめちゃくちゃ好きなのだけど、それを彼女があまり気に入らないようだった。

「大晦日に“あたりめ”は違わない?」

みたいなニュアンスのことを言っていてビックリした。大晦日だろうがクリスマスイブだろうが酒のツマミは「あたりめ」だろ。ファミマの「あたりめ」はマヨネーズついてんだぞ。だいたい、大晦日に合わないって、じゃあ大晦日に合うツマミってなんだよ。カルパスか。柿ピーか。茎わかめか? え? お?

いよいよ「でもマヨネーズついてますよ」ってカットインしてやろうと思ったけど、さすがにそれは通報されかねないので黙っていたところ彼氏の方が「そうだよね、大晦日に“あたりめ”はないよね」って折れていた。軟弱なやつめ。結局、ふたりはポテトチップスなどをツマミとして購入していた。それがお前らの大晦日か。

コンビニで購入したおにぎりを食べながら先に進むとあっという間に陽が落ちて夜の闇が広がり始めた。午後五時でこれである。といったところでレンタカー返却期限の明日午後5時まで残り24時間。取った干支は辰のみで1/12だ。これ絶対に無理だろ。完全に無理だろ。

17:34 青森県 風間浦村 蛇浦漁港

カーナビで指示された通り、龍飛岬から5時間半、ついに目的の蛇浦に到達した。本当に5時間半かかった。蛇浦は漁港の街のようでなかなか立派な漁港がある。マグロで有名な大間も近い。ちなみに蛇浦がある風間浦村は本州最北端の村。

もちろん、漁港には誰もいない。さすがに大晦日のこの時間はみんな家で紅白とか見ている。大晦日、それも今から年を越すぞという年の瀬も年の瀬にもなって、北の果ての誰もいない漁港に立っていると「おれなにやってるんだろ、もっとまともな年越しあったろ」という気持ちが沸き上がってくるけど、来てしまったものは仕方がない。とにかく「蛇」の字を探さなくてはならない。

あった。

漁港の中心に漁協の建物があった。どうやら簡易郵便局も兼ねているみたいだ。思いっきり「蛇」の字があるのでこれでいいだろう。

この文字がやけにメタルっぽくて光の反射が複雑で、なかなか上手に撮影できなかった。四苦八苦しながら撮影していたら、白い軽自動車がやってきた。かなりゆっくりとした速度で僕の後ろを通りすぎようとしている。たぶん、地元の人だ。

振り返ってみてみると、軽自動車、歩くくらいの速度でゆっくりと通過していく。こちらをかなり警戒しているみたいだ。運転手を見てみると、けっこうきつめのパーマをかけた年配の女性で、この世にこれほど人を怪しむ表情があるかと言いたくなるレベルでいぶかし気な表情をしていた。僕のことが怪しいんだと思う。

そりゃそうだ。大晦日、闇夜の誰もいない漁港、見たことない男がパシャパシャと漁協の写真を撮っているのだ。とにかく怪しい。

「くるぞ、くるぞ」

僕みたいにこういった普通の人にはやや理解されにくい取材ばかりしているとですね、だいたいパターンみたいなものが分かってくるんですよ。これは怪しんで話しかけてくるパターンだ。

予想通り、ちょっと通りすぎた場所でキュッと軽自動車が停まり、運転席からおばさんが降りてきました。

「あ、こんばんわー。いやー、寒いですね。実はいま、青森県内の干支の名前が入った地名を順番に巡ってましてね、ここが蛇だってものですから龍飛岬から5時間半かけてやってきたんですよー」

慣れたものですから怪しまれないように一気にまくしたてる。僕の経験からいってこのパターンは先制して包み隠さずに説明することで怪しまれずに回避できる。

「干支……地名……順番……龍飛岬」

おばさんは僕の言葉の意味は分かるけど、その内容が理解できないといった様子だった。

「タイムリミットが迫っているのに辰と巳しかとれてないんです。頑張ってあと10個とらないと」

僕の言葉におばさんがさらに首を傾げる。そして絞り出すように言葉を口にした。

「なんでそんなことを?」

「(それは僕にもわからない)」

とにかく、この大晦日の夜になんでこんなことをしているのか、僕だって知りたいくらいだ。まあ、なんとか怪しまれずに回避することができた。

【タイムリミットまで : 23.5時間】

1日目が終わろうとしているのに、まだ2つだ。残り10干支を24時間以内取らなければならない。さて、次は午だ。馬喰町という場所らしい。ふむふむ、弘前市の中にあるのか。ってめちゃくちゃ遠いじゃねえか。ダメダメ、これだめ、ゲームセット、絶対に無理。たぶん今日は3個目までいけない。

ここから弘前市までは160キロくらいある。たぶん4時間くらいかかる。今から行ったとしても21時とか22時に到着する感じだろう。紅白も佳境といった時間帯に到着する。本日の宿泊のことを考えると弘前市まで行くのは現実的ではなく、手前の青森市で宿泊するほうが賢明だろう。

まさか本当に1日目で2か所しか取れないとは思わなかった。日が落ちてからさらに急速に冷え込みだした。青森市へと続く道路は暗く、凍てついているようで簡単にスリップしそうな気配だ。かなり慎重な運転が必要となる。

カーラジオからは青森のFM放送が流れていて、ラジオ番組の打ち合わせに来たら、急遽、単独で生放送に出るようにいわれたパーソナリティーが独りで喋っていた。大晦日なのに大晦日感を感じない不思議な放送だった。

とにかく「干支を順番通りに取る」というルールが極悪なのである。この順番縛りがあるから無駄に東に行ったり西に舞い戻ったりしなければならないのだ。いまだってまた青森市まで舞い戻ってそこを通りすぎて弘前市まで行く必要が生じている。このルールがある限り、絶対にタイムリミットに間に合わない。

と思ったら、衝撃的な何かが僕の脳裏をかすめた。普通ならば見過ごしてしまいそうなものなのに、何の変哲もない道路の風景が妙に心にひっかかったのだ。

それは、蛇浦から下北半島を南下し、青森市へと舞い戻ろうとするときに起こった。あと30キロほどいけば青森市だという場所で起こった。妙に唸騒ぎがする景色だったので、わざわざ車を停車し、舞い戻って確認したほどだった。

「午(馬)」?

国道と県道の分岐点にそれがっあった。除雪によって生じた雪が分岐点に積み上げられており、それがたまたま交差点を照らす灯りによってライトアップされているようで幻想的な雰囲気を醸し出していた。ただ、気になったのはその除雪の塊ではない。その右上あたりに問題のそれはあった。

馬、あったーーー!

19:34 青森県野辺地町 馬門

弘前市まで行かなくても青森市の手前に馬があった。そうかそうか、龍とか蛇だとあれだけど馬はかなり地名としての汎用性が高い。指示された場所以外でも馬が入る地名があっても全く不思議じゃない。いちおう、指示した場所にいってねえじゃねえかとあとから編集部に文句つけられても嫌なのでルールを再確認する。

青森県内干支の旅ルール

  • 青森県県内の干支がはいった地名を辰年から卯年まで順番に巡る
  • そこでは地名に干支の名前が入ったことがわかる看板などを撮影する
  • レンタカーの移動可

よし。指定した場所を巡れとは書いていない。あくまで干支が入った地名に行けとしか書いてない。ということは、ここで馬クリアとしてもいいはずだ。

【タイムリミットまで21.5時間】

弘前市まで行かなくとも青森市手前で「馬」が取れたのはかなりでかい。大きなロスなく次の「羊」を取りに行けるからだ。

21:39 青森市

といったところで青森市に到着し、ホテル宿泊となった。紅白歌合戦でも見て、ゆく年くる年で優雅に年を越そうと思ったのに、疲れ果ててそのまま泥のように眠ってしまった。あまりの疲れだったのかテレビをつけたまま寝てしまっており、半分くらい夢うつつのまま「元日の青森県内は大荒れ、各地で雪が降るでしょう」という不吉な予報を聞いていた。

タイムリミットまで残り:19.5時間

2日目 2023年1月1日 4:00 青森県青森市

タイムリミットまで残り:13時間

年を越してしまった。元日から朝4時という超絶なる早起きをかましてしまった。今日の17時までに残り9個の干支を取る必要があるからだ。絶対に達成不可能だとは思うけど、それでも最大限の努力だけはしなくてはならない。

とにかく、昨日は夢の中で「元日の青森県内は荒れ模様」という不吉な予報だけを聞いていた。雪が吹き荒れていたりすると非常にまずい。ただでさえ慎重な運転が必要なのにこれ以上の積雪は先に進めなくなってしまう可能性すらある。頼む、夢の中で聞いた予報は本当に夢であってくれ。実際には雪なんて降っていない4月並みの気温であってくれ、そう願って外を見ました。

ぎゃー、めちゃめちゃ降ってる。

さすがに幹線道路は雪がないものの、けっこうな勢いで雪が降っているので時間の問題で道路を覆ってしまいそう。ずっとこの調子ならかなり移動にてこずるはずで、ますます達成が困難になってきた。

おまけに、車を停めていた駐車場が本来は24時間出庫可能なはずなのに、正月の影響なのかなんなのか、今日だけ朝6時からしか出庫できないらしく、無駄に4時起きしただけになってしまった。

仕方がないので6時まで待機することにし、徒歩でコンビニに行き朝食を済ませることにした。めちゃくちゃ雪がすごい。幹線道路は除雪されていてそうでもないけど、裏通りに入ると一面の雪だ。これでも、今年の青森は雪が少ない方らしい。ホテルの人もそう話していた。明らかに青森の人の感覚は狂っている。こんなの災害レベルの大雪だろ。

朝食もとり、朝の6時になったのでいよいよ出発する。目指すは洋光台だ。幹線道路にも薄っすらと雪が積もり始めていた。

洋光台は三沢市と八戸市の間にある「おいらせ町」にある住宅地のようだ。この「洋」の字の右側が「羊」にあたるという、かなり無理がある場所だ。なんど考えてもやはり無理がある。

ここからは70 kmくらいはありそうだけれども、まあ初日の出までには到着できるんじゃないだろうか。

けっこう大回りする必要があるのかと思っていたけど、比較的に新しい道路なのか、カーナビには載っていない有料道路の存在に気が付いてしまい、かなりショートカットできた。途中、かなり降雪が激しい地帯があり、そのまま遭難するんじゃないかと思ったほどだった。

「未(羊)」に向かう

7:19 青森県おいらせ町 洋光台

完全無欠に閑静な住宅街だ。本当に住宅街としか表現しようがない場所だった。まさかこんな場所が「羊」だなんて!

皆さんお気づきだろうか。青森市では災害レベルで雪が積もっていたのに、ここ洋光台ではほとんど雪がない。どうも青森県と言えども一枚岩ではないらしく、雪が激しい地区と、そうでもない地区に明確に分かれるみたいだ。特に、三沢市や八戸市などの太平洋側の都市はそこまで雪が降らないのかもしれない。

さてさて、いくら無理がある地名だといっても「羊」とわかる看板かなにかを探さなければならない。理想は信号機についている地名表示、もしくは電柱に記載されている住所表示だけれども、ちょっとそれらが見つけられなかった。

なにか表示がないかと住宅街を徘徊していると、犬の散歩をしている住民に出くわした。

「あけましておめでとー」

「あ、おめでとうございます」

朗らかな会話を交わすけど、住民は僕のことをかなり怪しんでいる。犬も僕を怪しんでいるみたいで猛り狂ったケルベロスのように吠えてくる。そりゃそうだ。1月1日の早朝から見たことないおっさんがカメラ片手に閑静な住宅街を徘徊しているのだ。僕が住民だったら即通報する。

「あのー、すいません。この辺に「ここは洋光台」ってわかる住所表示みたいなのないですかね」

怪しまれているときはこちらから怪しくないことをアピールしなくてはならない。そう思って質問したけど、余計に怪しい感じになってしまった。

「実は、いま青森県内の干支の名前が入った地名の場所を巡ってまして、ここ洋光台の看板が欲しいんです」

「え、干支?なんで洋光台?」

住民の方の食いつきがなかなか良い。

「洋の字の右側が羊だと言うことで、干支の“未”です」

淡々と説明する。

「え、なんで? これは洋の字であって羊ではないよね」

めちゃくちゃ食いついてくるな。

「僕もそう思うんですけど、ほかに羊の字もないですしね。まあ、右側が羊と言うことで勘弁してください」

なんで僕が謝っているんだ。

「そもそも洋の字の右側は羊ではなくて「大きい」という意味なんだよ、羊とは関係が……」

なんだ漢字学者かなにかか。漢字辞典とか持ってきそうな勢いだったのでスゴスゴと退散した。犬はずっと吠え狂っていた。

とにかく、住宅地の入口に「ここは洋光台」という理想的な看板があったので、これで「羊」クリアだ。誰がなんと言おうとクリアだ。

タイムリミットまで9.5時間

さて、次は“申”だ。これは猿ヶ森という場所のようで、きのう行った下北半島の先にある。順番で行くとなるとこうやって何度も同じ場所に行くことになるから極悪だ。太平洋側を通ってここから80 kmくらい。2時間もあれば到着するんじゃないだろうか。

羊とするのは無理がある洋光台近くの運動公園みたいな場所で、すっぽりと太陽が出てきたので2023年の初日の出となった。あけましておめでとう。今年もよろしくおねがいします。

さて、猿ヶ森を目指して移動していくのだけど、この猿ヶ森に関しては初めて聞く地名ではなく、以前からバリバリに意識していた地名だった。僕は鳥取県の出身で、鳥取の名所といえば言わずと知れた鳥取砂丘だ。当然、鳥取砂丘が日本一の砂丘だと自負しながら育ってきた。

けれども広さの面でいうと鳥取砂丘は日本一ではなく、ひっそりとその3倍の広さを誇る砂丘があると知った時、僕の中のなにかは大きく傷ついた。ずっと日本一だと思っていた郷土の誇りが日本一ではなかったのだ。その鳥取砂丘の3倍の広さを誇る砂丘が、青森県の猿ヶ森砂丘だ。

猿ヶ森砂丘は鳥取砂丘のように観光地化されておらず、おまけに、その全域のほとんどが防衛装備庁の弾丸試験場であり、一般人の立ち入りが許可されていない。だからあまり有名ではないが間違いなく広さは日本一の砂丘だ。この郷土の仇を討ち取らなければならないと決意して猿ヶ森へと向かった。

「申(猿)」に向かう

途中、ぱっと開けるように太平洋が見える場所に出た。太平洋はでかい。ひろい。洋の字の右側は羊ではなく「大きい」という意味だ。だから太平洋は雄大なのである。

初日の出の太陽もすっかり高くなってしまった。この時点で8時30分、のこり8時間半で8干支、やはり厳しい。

海沿いを走っていた道路は次第に山の中へと入っていき、六ケ所村など聞いたことある地名の場所を通り、誰も通らないのかモリモリと雪が積もった道路を抜けて猿ヶ森付近へと到着した。

8:51 青森県 東通村 猿ヶ森

思ったより早く到着したのは良かったのだけど、ドがつくほどの山の中にいきなり船がうち捨てられていて困惑した。何をどうやったらこんな山奥に船を置く事態になるんだ。

カーナビの表記では間違いなくここが猿ヶ森であるはずなんだけど、砂丘もないし、そもそも民家も見当たらない。凍てついた道路が横たわっているだけだ。なにか「猿」の表記があるものを探さなくてはならない。

あった、あった。バス停があった。バス待ちで凍死の危機があるためか、バス停の防御力は高い。しっかりとしたドアが付いた立派なものだった。

どうやらこのバス停が泊方面から来るバスの終点のようで、これより深い位置に行くバスはないようだ。その本数は少なく、もしこの旅を公共の交通機関縛りでやらされていたら、この地でかなり長時間、放置されることになっただろう。えらいことになってたなとゾッとした。

【タイムリミットまで8時間】

これで猿をクリア。地図を見たらわかるように、ここからは比較的に取りやすい。酉、戌、亥、子あたりまでは南下しながらスムーズに取れそう。あれ、もしかしたらこれ達成できるんじゃないの。完全に絶望だと思われていたミッションだったけど希望の目が出てきた。いけるかもしれない。

郷土の仇である猿ヶ森砂丘を見てやろうと思ったけど、どう頑張っても砂丘を望めるような場所がなかった。方角的にはこの森の先にある山の向こうに砂丘が広がっていると思われる。

「酉(鶏)」に向かう

さて、次の干支である“酉”を取るため鶏沢を目指さなくてはならない。鶏沢は下北半島の陸奥湾側にあるので、ここ猿ヶ森からは山越えみたいなものをする必要がある。山越えはかなり過酷で、雪深いし凍結しているしでひどいものだった。

「まじで干支とかどうでもいいな」

あまりに山越えが過酷なので、車内でずっとそんなことをボヤいていた。なんで僕は大晦日から元日にかけて雪に襲われて凍えながら干支の地名を巡っているのだろうか。本来ならもっとこう、正月番組をぐうたら見ながら寝正月、おせちにお雑煮を食べて、そのうちお年玉狙いで親族の子どもが訪ねてきて、みたいな世界線もあったんじゃないだろうか。それがなんでこんな。かわいい女の子と初詣とかいったりなんかしてですね、なにお願いしたの、えへへ秘密、えーずるいおしえて、いてていて、わかったわかった、今年も佐和子とずっと一緒にいられますようにって、おんなじ、わたしも同じずっと一緒にいたいってお願いしちゃった、佐和子、あっ鶏沢に着いたね。

9:41 青森県 横浜町 鶏沢

山を越えると、昨日にも蛇浦の行き来で通った国道へと出た。その国道から左折して少し奥まった場所に鶏沢(にわとりさわ)の集落があった。鶏沢とはかなり珍しい地名だ。もともとそれっぽい読み方の地名に鶏の字をあてただとか、本当に鶏をたくさん飼育していたからだとか、地名の由来には諸説あるらしい。

どうせただの住宅地でひっそりとしているんだろうなと思っていたら、鶏沢周辺、人が集まっていて物々しい雰囲気になっていた。なんだろうと近づいてみてみる。

獅子舞だ!

どうやらこの地区の家々を獅子舞が巡っているみたいだ。お正月に獅子舞、それは長らく見ることがない光景だった。こうやって伝統的な民俗芸能がしっかりと残っていることになんだか嬉しい気持ちになってしまった。ちなみに、獅子舞は疫病を退治するご利益があるので、このご時世にこそ必要なものだ。

干支に獅子が入っていたらこれでクリアにするのにな、と思いつつも、鶏沢表記の公共物を探す。

奥に見える人だかりが家々を巡る獅子舞を見学する人々。その手前の踏切に鶏沢表記があった。

【タイムリミットまで7時間】

踏切の表記の下には「この踏切はレーザ式踏切です。警報が鳴ったらただちに踏切外に退避してください」の注意書きがあり、長時間のチャレンジで完全に脳がぶっ壊れてきているので、警報が鳴ったら映画CUBEのトラップみたいになる踏切を連想してしまった。

「戌(犬)」に向かう

さて、次は“戌”である。犬の入った地名である「犬落瀬」を目指す。三沢市や八戸市に近い六戸町にあるらしい。朝にいた場所に舞い戻る感じだ。犬が落ちる瀬、字面からみてけっこう物騒な地名だが、その由来は本当に川に落ちて溺死した犬を見た長慶天皇が憐れんで名付けたかららしい。

犬落瀬を目指して移動する。このままいくとすんなりと戌、亥、子は取れそう。なかなか順調だと思っていると、大きな落とし穴が登場してくる。

こういった突如の通行止めが登場してくるのだ。スムーズにいけそうでけっこうな遠回りが生じることもある。

青森県内は本当に風力発電の設備が多い。巨大なプロペラがあちこちにある。

ここまでの移動においてはずっと車内で青森のFM放送を聴いているのだけど、お正月のFM放送はまあまあ面白い。全国38局をネットする形のFM放送はお正月特番といったものが存在しないのだ。1月1日であっても淡々と土曜日の番組編成を崩さず、いつも通りの放送を行っている。

11:01 青森県六戸町 犬落瀬

鶏沢から1時間ほどで犬落瀬に到着した。やはりここは雪がほとんど積もっていないゾーンだ。県内での雪格差があまりに大きい。ものすごく積もっている景色だったり、まったく積もっていない景色だったり、クルクルと移り変わるので脳が追い付かない。

犬落瀬は畑と民家のバランスが程よい地帯のようで、大きな道路も何本か通っている。これなら信号機などを探せば「犬落瀬」の住所表記がすぐに見つかるだろうと考えていた。けれども、いくら探してもぜんぜん見つからない。本当にビックリするくらい「犬落瀬」の住所表記がないのだ。集落ぐるみで地名を隠していると思うほどだ。

大通りを諦め少し脇道に入ると町営バスのバス停があった。しめた。大チャンスだぞ。バス停はかなり高い確率でその地区の住所表示がある。下手したら「犬落瀬バス停」である可能性すらある。急いで駆け寄りましたよ。

完全なる「無」。バス停の名前すらない。

その虚無のバス停の後ろには神社があったのだけど、1月1日だというのに初詣客もおらず、ここも完全なる「無」みたいな雰囲気が漂っていた。

そもそもこの神社、いったいなにがあったんだ。大きな巨木が軒並み伐採されている。勇者と魔王が戦ったあとみたいになっとる。めちゃでかい聖剣が周囲の巨木をなぎ倒した、その痕跡みたいになっている。

それにしても「犬落瀬」表記がなさすぎる。集落内をフラフラするのだけどぜんぜん見つからない。これ以上は怪しんだ住民によって通報されそうだ。

もう犬落瀬の「犬」表記、これでいいんじゃないか。

これ。

と思ったら、その横に自動販売機があった。自動販売機は宝の宝庫だ。なぜなら、ほぼすべての自動販売機には管理のために設置場所の住所が記載されているからだ。

ほうら「犬落瀬」。ということで、苦労したけど“戌”クリアです。

【タイムリミットまで6時間】

ここから次の猪である猪ノ鼻まではまあまあ近い。たぶん20分もあれば着くんじゃないだろうか。全ての干支がこうありたいものだ。それにしても、猪を取れば残り4つ、そしてタイムリミットも6時間くらい残りそうだ。そうなるといよいよ干支コンプリートもそう無理な話ではなくなってくる。いけるかもしれん。

「亥(猪)」に向かう

11:21 青森県七戸町 猪ノ鼻

広大な田園風景が広がる猪ノ鼻地区に到着した。この道路から右折して脇道に入っていくと猪ノ鼻中心地に到達するとカーナビが告げている。けれども、それが無理であることは上の画像からも明白に分かる。

除雪によって道路の端に追いやられた雪が寒さで固まり雪の壁を形成している。たぶんジープでももってこないとこの壁は乗り越えられない。本来は、除雪がなくても出入りする車によって雪が追いやられ、轍のようになるはずなのに猪ノ鼻に向かう道にはそのように車が出入りした形跡が一切ない。これはこの道路だけでなく猪ノ鼻に通じるすべての道路でそうだった。猪ノ鼻、人が出入りした形跡が一切ない。だから深い雪に覆われている。

それもそのはずで、地図アプリの航空写真で見てみると、猪ノ鼻と思われる地帯に民家が一軒も存在しない。人が住んでいないのだから「猪ノ鼻」の住所表記の公共物もたぶん存在しない。

猪ノ鼻の風景。どう好意的に解釈しても絶対に住所表記が存在しない。バス停も自動販売機も絶対にない。

無理矢理にでも雪を乗り越えていくとおそらく出られなくなるだろうし、それをやってもきっと住所表記を見つけることはできないと思うので、ここでは猪表記を諦めることとした。まあ、猪ノ鼻には来たので。

【タイムリミットまで5.5時間】

猪ノ鼻周辺にはこのような変わった形の用水路が縦横無尽に張り巡らされている。なかなか面白い形だ。なんとかこの用水路が猪の鼻に似ているとか主張して住所表記の代わりにならないかなと考えたけど、まあ似ていないので無理な相談だ。

「子(鼠)」に向かう

さて、次はネズミである“子”だ。どうやらここから50 kmほど離れた十和田湖の湖畔に“子”があるらしい。そこまで遠くない。かなり順調だ。

順調かと思ったのだけど、十和田湖をカーナビに入力すると「場合によっては積雪により通行止めになっている可能性があります」と不穏な予告が表示されるようになった。「到着できない可能性があります」みたいな表記を見たのは初めてだ。一体全体、十和田湖ではなにが起こっているんだ。

普通の街並みを抜けると、いくつか「冬季閉鎖中」の道路に出くわした。まあ、もう慣れたものだ。迂回路を使って十和田湖へと近づいていく。

十和田湖に近づくにつれ、山間の景色が荒涼としたものに変わっていく。最初は道路に雪がないのだけど、そのうち道路がアイスバーンみたいな状態になっていったのでかなり慎重な運転を要した。

途中、立派な滝があったので車を停めて見学をした。多くの人がこの滝に魅せられているようで、みんなここで立ち止まって見ていた。どうやらこれは「雲井の滝」というらしい。深い雪の中を切り裂くように存在する滝と水の流れは美しい。

「すいません、写真を撮ってもらえますか」

ラーメン屋の店主みたいな感じで腕組みをして滝を眺めていたところ、カップルに話しかけられた。どうやら写真を撮って欲しいらしい。

「いいですよ。じゃあどうしよう、滝が入るようにしたいからこの岩のところに二人で並んでもらえますか」

だいたいこういう時は快諾するようにしているし、カップルたちが「もしかしてプロのカメラマンに頼んじゃったかも」と勘違いするように、太陽とか見上げて「うーん、この日光だとこっちかな」みたいにハッタリで光の加減を計算する素振りを見せたりする。今回もはったりで光の加減などを計算し、岩の上に二人で並んでもらうよう促した。

しかしながら、二人が動こうとしない。

「そこに立たないと入らないですよ」

僕がそう告げても動こうとしない。

「いいんです。僕らは入らないんで滝だけを撮ってください」

なんで?

あんたら入らないなら自分で撮ればいいじゃんって思うんですけど、本当に入らないらしい。ただ、人のスマホでパシャパシャと滝を撮影する僕の姿があった。めちゃくちゃシュールだったな。

「僕ら二人とも写真を撮るの下手で、いつも人に撮ってもらってるんですよ」

「まあ、今日は日光の感じがいまいちだったけど渾身の作品が撮れたと思うよ」

僕も最後までプロっぽいハッタリをかますことを忘れなかった。

 

気を取り直して先に進む。

途中、かなりの雪深い地帯を抜けてなんとか十和田湖に到着した。

12:38 青森県十和田市 十和田湖

これほんとに湖なの? 荒れ狂う日本海じゃないの。

かなり強風で水面が激しく波立っていて日本海みたいになっていた。この十和田湖の湖畔、本来なら遊覧船や土産物屋など、一大観光地を形成しているっぽいのだけど、おそらく冬季はほとんど機能していない。全てがクローズしていて人の気配もない。

もうこれ天候が悪い日の日本海だろ。

こういった食堂ももちろん閉鎖している。11月から4月まで休業のようだ。よくみると自動販売機も閉鎖している。補充に来るのも大変なんだろう。

食堂の横には、こちらもやはり冬季休業しているっぽいJRバスの駅があったので、ここで“子”をクリアとした。モタモタしていたら、さっきの滝のところのカップルが車で追いついてきたので、またこの寒い中、写真を撮らされちゃかなわんとすごすごと退散することにした。

【タイムリミットまで4時間】

ついにここまできた。残り3つ。残すは牛と虎と兎だ。ここが完全に勝負所だ。ここでの判断が勝敗を左右すると言っても過言ではない。少々、戦略的な話になるが、落ち着いて聞いて欲しい。

地図によると、次の「牛」は「牛潟町」と呼ばれる場所だ。つがる市にあるらしい。はっきり言わせてもらうと、ここ十和田湖からは悪い冗談かと思うほどに遠い。たぶん80 kmくらいあると思う。問題はその遠さだけでなく、その「牛」の次の「虎」がこちら側、八戸市周辺になるという点だ。つまり、牛を取りに行って虎のためにこちらに舞い戻る必要があり、往復で200 kmくらいになると思う。残り4時間というタイムリミットでこれは致命的だ。絶対に間に合わない。

しかしながら、昨日の出来事を思い出して欲しい。馬を取った時のことだ。けっこう遠くまでいかなきゃダメだと思っていたら、その手前に馬の地名があったのだ。馬の地名としての汎用性は高い。それ以上に「牛」の地名としての汎用性も高い。つがる市まで行かなくとも「牛」は取れる。絶対だ。具体的に言うと八戸市で取れる。

ここからは時間との勝負だ。まず、来た道を引き返し、そこから八戸市へと向かう。かなりの空腹状態だけど、食事をしている時間はない。それよりなにより、営業している店がほとんどない。青森県は国道沿いにある定食屋やラーメン屋がかなり高い確率で廃業して廃墟になっている。廃業していなくとも元日から営業している店はほとんどない。

「丑年(牛)」に向かう

14:02 青森県八戸市

十和田湖から1時間かけて八戸市にやってきた。また住宅と畑が混在する地区だ。ここにはそこそこ有名な神社があるのか、初詣に来る車でちょっとした渋滞が作り出されていた。僕のリサーチが確かならここに「牛」があるはず。

あった。3つも牛がある。これで“丑”クリア。いよいよコンプリートが見えてきた。ここ八戸市坂牛で取れたのが大きい。次の“寅”も“卯”もここからかなり近いからだ。マジで見えてきたぞ。

【タイムリミットまで2時間58分】

次の“寅”は「虎渡」という場所だ。八戸市の隣町の南部町にあるらしく、かなり近い。全ての干支がこうありたいものだ。やはり「牛」を八戸で取ったのがかなり効いている。今回のミッションにおける最大のファインプレーだ。

「寅(虎)」に向かう

途中、馬淵川という川を渡った。馬はここでクリアにしても良かったな。やはり馬と牛は地名としての汎用性が高い。

カーナビに指示されるままに進んでいくと、どんどんヤバめの山奥へと入っていった。本当にこの先に人が住んでいるんだろうかと不安になる山道だ。

14:25 青森県南部町 虎渡

カーナビが「目的地周辺です」と案内を終了した虎渡主要部がここだ。見事に何もない。絶対に人が住んでいないし、住所表示とかあるはずもない。絶対にカーナビに騙されたと思う。ここが主要部であるはずがない。もっとこう、麓のあたりに行けば民家も住所表示もあるはずなのに、なんでここなんだ。

麓の集落まで降りてきた。道路沿いに民家が沢山あって、いくつかの商店もある。どう考えてもこの辺が虎渡の主要部だろうよ。なんでカーナビはあんな死体を捨てに行く場所みたいなところを主要部として案内したんだ。絶対に騙す意図があったろ。

さすが主要部だ。しっかりと郵便ポストがあった。郵便ポストにも住所は書いてあるからね。

しっかりと虎をゲットだ。のこりは兎のみ!

【タイムリミットまで2時間25分】

最後に取るべき兎もそう遠くない地点にあり、残りが2時間25分、楽勝かと思われるかもしれないけど、じつはギリギリだ。タイムリミットはあくまでも新青森駅でレンタカーを返すまでの時間だ。兎を取った後に新青森駅まで行き、ガソリンを満タンにして返却することを考えると時間的にギリギリだ。よくもまあここまでギリギリを演出できたなと思うほどにギリギリだ。

最後の干支、“卯”は五戸町の「兎内」という地域だ。ここから12 kmほどとかなり近い。全ての干支がこうありたいものだ。

「卯(兎)」に向かう

いやあ、それにしても最初の龍飛岬から蛇浦まで5時間半かかるって知った時には、絶対に間に合わない、達成不可だと悪態をついたりしたけど、諦めずに前進すればなんとかなるものだ。2023年の卯年は是非ともそういう年にしたいものだ。

15:00 青森県五戸町 兎内

カーナビが示す兎内の主要部にやってきた。比較的に大きい交差点だけど特に住所表示は見当たらない。どこかにないものかと住宅が密集していそうなエリアへと入っていく。

あった。兎だ!

【タイムリミットまで2時間】

あとはレンタカーを返しに行くだけだ。

今回、こうして十二支の名称がついた地名を巡ってみて、そこはただの地名なので特に干支にちなんだ何かがあるわけではなかったけれども、なんとなく、本当になんとなくだけどけっこうご利益がありそうな気がしてきたのだ。年を動物に当てはめる行為自体には、そこに様々な願いが存在する。”子”であるネズミは子だくさんな動物だから、子孫繁栄だとか、”卯”に込めた飛躍の願いだとか、そういったものだ。実は地名もそれに近い由来であったりすることがある。それらに思いを馳せたとき、なんだかご利益がありそうな気がするのだ。たぶん、正月からこういうことをすること自体が、けっこう縁起がいい。たぶんきっと、卯年はいい年になる。

ちなみに最後の「兎」表記の看板があったのは「五戸町消防団第七分団」の建物だった。ここも正月に向けてしめ縄飾りをシャッターのところにかざっていたみたいだった。

しめ縄飾りが地面に落ちていた。僕の今年は大丈夫か。

17:00 新青森駅

途中、とんでもない吹雪などに襲われながら、なんとかギリギリに新青森駅に到着。本当にタイムリミット寸前にレンタカーを返却することができた。何度も諦めかけた、というか1日目は諦めすぎて悪態を披露していたけど、信じて前進すればなんとかなる。それだけを信じて2023年は頑張っていきたい。

あけましておめでとうございます。