ノスタルジーを感じる風景に出会う旅。「福岡・筑後地域」の文化や伝統、炭鉱跡地を巡る。
福岡の観光地といえば博多や天神、大宰府等を思い浮かべる方が多いと思いますが、今回の記事ではそんな場所から少し離れた「筑後地域」のオススメスポットを紹介いたします。地元の方の暖かさを感じられるノスタルジーな旅行に是非でかけてみませんか。
長かった夏も過ぎて、秋も終わろうとしています。
そんな切ない季節にぴったりな、ノスタルジーを感じる風景に出会う旅のご案内をしたいと思います。
こんにちは。ライターのちえ(@kirishimaonsen)です。
皆さんは“福岡”と聞くと何を思い浮かべますか?
食べ物なら「もつ鍋」「博多ラーメン」。観光だと「中州」 「大宰府」あたりが有名でしょうか。福岡と聞いて、博多周辺を連想する方も多いかと思います。
そんな福岡県は商業の中心である「福岡エリア」、日本有数の工業地帯である「北九州エリア」、かつて石炭産業が盛んだった「筑豊エリア」、そして豊かな自然と文化に囲まれた「筑後エリア」の4つのエリアに分かれています。そう、福岡は「イコール博多周辺」を指すわけではありません。
そこで今回私がご案内したいのは福岡南部の筑後エリア。その中でも特に南のエリアです。
豊かな自然に恵まれた、地場産業、伝統工芸の息づく場所です。
筑後には、
貴重な国産線香花火の工房や
玉露の生産日本一の八女(やめ)や
世界文化遺産に指定された炭鉱跡地のノスタルジックな風景。
など魅力あふれる場所がたくさんあります。
福岡の観光ガイドを買うと、博多周辺のタウンガイドばかりで、筑後エリアの情報が少ない!
筑後には、そういうガイドには載ってないスポットで、魅力的な場所がたくさんあります。
というわけで、筑後地域をご案内したいと思います! 行ってみましょう。
目次
福岡・筑後地域へのアクセスについて
福岡・筑後エリアへのアクセスは福岡空港ではなく、佐賀空港からの方が近くて便利です。
また、筑後エリアを効率よく巡るには車が必須になります。佐賀空港周辺でレンタカーを借りましょう。
【みやま市エリア】
1.筒井時正(つついときまさ)玩具花火製造所
ここは筒井時正(つついときまさ)玩具花火製造所のギャラリー。今や貴重になった国産の線香花火なども含めた玩具花火の展示、販売のほか、不定期で線香花火作りを体験できるワークショップなどを開催しています。
筒井時正玩具花火製造所の歴史は昭和4年に始まり、現在は3代目の筒井良太さんが花火作りをされています。
ギャラリーには、うっとり見とれてしまう美しい花火の数々が並べられています。
奥には暗室のような場所があるのですが何だと思いますか?
花火を楽しむための暗室です。昼間でも花火をきれいに見られるように作られました。水盤には水が張ってあるので、安全に花火を楽しむことができます。
ここで突然ですが質問です!
皆さんは線香花火と言えば、この右左2つのどちらを思い浮かべますか?
「え!? 線香花火って2種類あるの?」と思った人もいるのではないでしょうか。そうです。線香花火は流通エリアによって2種類あります。
関西地域を中心に流通している西の線香花火「スボ手牡丹」は300年変わらない花火の原型です。国内でこの線香花火を製造しているのは、ここみやま市にある筒井時正玩具花火製造所1軒だけ。持ち手の部分は藁スボでできています。藁スボとは藁の芯の部分で、米作りが盛んな関西地方には藁が豊富にあったため、花火の原料になりました。
米作りが少ないため、藁が手に入りづらかった関東では、藁の代用品として紙で火薬を包みました。「長手牡丹」は関東地域を中心に親しまれ、その後全国に広がりました。こちらの「長手牡丹」のタイプの線香花火を作っているのは、日本ではここを入れて3軒だけです。(他に二軒は群馬、愛知)
昭和50年以降、安価な外国産の線香花火が輸入されるようになり、日本の線香花火製造業者は次々と廃業に追い込まれました。今国内で流通している線香花火は、ほとんどが中国から輸入されたものです。
八女にあった「隈本火工」という線香花火の製造所も同じ運命をたどろうとしていました。
そこで、筒井良太さんが線香花火の伝統を残すため、「隅本火工」で修業した後に、家業の花火製造所である筒井時正玩具花火製造所を継ぎます。写真は筒井良太さん。右にある部屋が火薬室で、火薬調合の合間に撮影。
国産花火の製造所が減ったということは、必然的に花火の原材料の需要も減るので原材料を作っている業者も少なくなります。国産にこだわった花火作りをするために、良太さんも奥さんの今日子さんも原料探しに奔走します。
線香花火の材料となる火薬。膠(にかわ)や硝石、硝煙、硫黄などが独自の割合で調合されている。
西の線香花火の原材料である藁スボ。元々ほうき作りに使われていた部分の残りを使っていたのですが、ほうきの生産も減り、材料が手に入らなくなってきました。
花火作りに適した藁も品種が限られるため、いい藁を確実に確保するために、なんと2017年の今年、田んぼを買い、新規就農して、米作りまでスタートしました。
今後は、田植えして米を育て、借り入れて、藁から芯を抜いて、線香花火を作るところまでの一年間を通したイベントを企画中だそうです。
そうやって、1からお米を作る所からスタートしている藁スボタイプの線香花火ですが、和紙で包んで作る「長手牡丹」は、地域の“撚り手さん”の内職によってつくられています。
和紙の先に火薬を包んで手で撚る作業。多い人だと一日に400本-500本作るそう。
撚り方が強すぎると紙が破けてしまい、弱すぎるとほどけてしまいます。繊細さを必要とする手仕事です。
上手に撚られた線香花火は、火が長く持ちます。撚り手さん同士で技術を教え合い、いい線香花火が作れるよう試行錯誤しています。
「線香花火は人が肩を寄せ合って、輪になって風をしのいで、一緒に息をひそめて火花を見守る。普通の花火は危ないから離れるけれど、線香花火は人と人の距離を近づけてくれる」と今日子さん。
線香花火は夏の風物詩ではあるけれど、冬に楽しむ線香花火も美しいです。空気が澄んでいるので、花火がよりきれいに見えます。
線香花火を作る季節も冬です。製造に膠(にかわ)を使っているため、乾燥した時期でないと固まりません。筒井時正玩具花火製造所を冬に訪れると、「冬の、できたて花火」が販売されています。
作りたての花火は特に火花が荒々しい感じですが、置くほどに火薬が馴染み、作られてから何年も経った線香花火は、より華やかで繊細な美しさを見せてくれるとのこと。線香花火は年月が経つほど熟成するそうです。
身近なようでいて意外と知らない線香花火の世界。改めてよく目を向けてみると、奥深い世界が広がっていました。
筒井時正玩具花火製造所(株)
- 住所:福岡県みやま市高田町竹飯1950-1
- 電話番号:0944-67-0764
- 営業時間:【夏季(7-8月)】11:00-18:00 【夏季以外】13:00-17:00
- 定休日:【夏季(7-8月)】水 【夏季以外】水・土・日・祝祭 ※シーズンにより営業時間が異なります。
- http://tsutsuitokimasa.jp/
【八女市エリア】
1.うなぎの寝床
筑後地方を中心に、ものづくりの魅力を発信するアンテナショップ「うなぎの寝床」。
“うなぎの寝床”とは、間口が狭く奥行の深い家を意味します。細長いうなぎが寝られるような、奥に続く構造からこう呼ばれています。そんな“うなぎの寝床”のような古民家を改築してある店舗です。
細長い構造ですので、中庭が各部屋の明り取りの役割を果たしています。買い物の合間に、ほっと一息緑を眺められるのが落ち着きます。
いい艶のある深い黒色の建具。
取扱商品の7割は福岡エリアのもの。残りの3割は、近隣の九州エリアのものを扱っています。
木工、陶芸、竹細工、和紙、など筑後地方のものづくりの多彩さに圧倒されます。
こちらは八女にある「城後佛壇店」の制作するスピーカー。八女福島の仏壇は国指定伝統工芸に指定されています。その製作技術を生かして生まれたのがこのスピーカー。臨場感あふれる素晴らしい音色が響きわたります。
「うなぎの寝床」オリジナル商品である久留米絣のもんぺ。
現代風にアレンジされたもんぺは、その可愛らしさと着心地のよさから全国に愛用者がいる人気商品です。通気性・保温性に優れており、夏は涼しく、冬は暖かく感じます。使えば使う程味わいがでて馴染むので、愛好家からは“ジャパニーズ・ジーンズ”と呼ばれており、いいものを大切に長く使いたい人に好まれているようです。
筑後地方のものづくりに興味がある人、伝統工芸が好きな人、まずここに行くことをおすすめします!
うなぎの寝床
- 住所:福岡県八女市本町267
- 電話番号:0943-22-3699
- 営業時間:11:30-18:00
- 定休日:火、水(祝日の場合は営業)※臨時休業あり。HPのカレンダーを確認ください。
- http://unagino-nedoko.net/
2.許斐(このみ)本家
九州最古の茶商・許斐(このみ)本家。幕末のころ、長崎を拠点に海外に向けた日本茶輸出貿易が活発になります。その時代背景をうけて、創業者が1865年八女で茶商の仕事を始めます。
店内には、八女茶の歴史がわかる資料が展示されています。海外輸出の際に使われていたお茶のパッケージがかわいい!
これは明治30年代のもの。キリル文字で「日本の第一級紅茶」と書かれています。時が経ち色あせていますが、華やかな色使いの素敵なパッケージだったことが伺えます。(※許可を得て撮影しました。ここの撮影は原則不可です。)
八女指定文化財の建物は、見どころがいっぱい。ここは2階の応接室。遠方から商談に来た人の対応をしていた場所です。一見シンプルですが、よく見るといかに手間をかけて作られているか分かります。
欄間の細工がみごとな美しさ。
絵の刻まれたガラス窓。
2階からの眺め。風情ある中庭と屋根の佇まいです。
有田焼のタイルが使われた壁。細部にまで技巧が凝らされており、ひとつひとつに職人さんの魂を感じました。
この外に突き出した外観部分は、光を取り入れるための装置。「拝見場(はいけんば)」 と呼ばれています。茶問屋の象徴的な部分です。
この採光装置によって、室内では晴天や曇りの日でも同じようにお茶の色を見ることができます。電気がない時代、この光を頼りにお茶の品質を見極め、お茶を売りに来た生産者に助言をしていました。
お茶をごちそうになり、ここでほっと一息。建物を見てまわると、そこかしこにお茶の歴史や精神が宿っているようで、充実した時間でした。贅を凝らした建物も素晴らしかった!
福岡南部は、朝晩の寒暖差も大きくお茶栽培に理想的な気候風土です。コク、甘味の強い八女茶は、多めの茶葉にぬるめのお湯(70度程度)で淹れると美味しいそう。玉露の場合はもう少しぬるめで50度~60度程度。
八女はお茶の生産量自体は全国6位ですが、玉露の生産量は日本一。八女に来たらぜひ玉露を味わってほしいところです。
許斐(このみ)本家
- 住所:福岡県八女市本町126
- 電話番号:0943-24-2020
- 営業時間:9:00-18:00
- 定休日:元旦、その他臨時休業有り
- http://www.konomien.jp/
3.そば季里 史蔵(ふみのくら)
茶そばの史蔵は八女に来たらぜひ食べに来て欲しいところ! 地元民にも観光客にも大人気で常に混み合っているので、開店直後の11:30に行くのがベストです。(14:00くらいにずらしてもいいですが、そばが売り切れ次第終了なので……。)
長野軽井沢で6年修業した店主が開いたお店。九州産のそば粉を使い、そばを手打ちしています。
ジャズが流れる心地よい店内。
私は「天もりそば」1200円を頼みました。しっかりコシのあるそばで、つるっとしたのど越し。そば自体の甘味がしっかりと味わえます。天ぷらは旬の野菜をサクッと揚げています。
〆はそば湯で。
他にもいろいろメニューがあり、「十割そば」900円、「もりそば」690円などは、そば好きにいいかもしれませんね。
収穫したそばの実は黒い殻をかぶっているのですが、これを“玄そば”と呼び、ここから更に黒い殻を剥いたものを“丸抜き”と言います。“玄そば”“丸抜き”どちらのお蕎麦がいいかは好みの分かれるところですね。
「もりそば」は、 “丸抜き”のそばの実から挽いたそば です。そばの香りが程よく、上品な甘みが感じられます。
そば季里 史蔵
- 住所:福岡県八女市本町154
- 電話番号:0943-24-2227
- 営業時間:11:30-15:00 17:30-20:00
- 定休日:火、年末年始
- 参考サイト:ぐるなび
4.朝日屋酒店(旧八女郡役所内)
明治20年代~大正2年まで八女の行政の中心だった建物・旧八女郡役所。
役所として使われた後は、木蝋(もくろう)工場となり、戦時中は銃弾製造工場に、その後飼料店になり、時代の移り変わりと共に役割を変えてきました。
建物中に入っている店舗のひとつが「朝日屋酒店」。繁桝(しげます)という福岡の日本酒のほか、ワインなども扱っている酒屋さんです。
繁桝(しげます)の蔵元「高橋商店」は創業1717年。300年もの歴史があります。福岡産の米を使い、矢部川の伏流水で日本酒を仕込んでいます。大吟醸酒・箱入娘がJAL国際線の機内酒に採用されたことが有名。
特別純米酒ひやおろし「繁桝」と「酒是日本魂(さけこれにっぽんのたましい)」の2つを試飲してみました。「酒是日本魂」はきりっとした辛口でした。「繁桝」は柔らかい口当たりでフルーティーな香り。普段お酒を飲まない人でも飲みやすいかも。
他にも冬の時期のみ取り扱っている大吟醸酒「生々(なまなま)」というお酒がフレッシュな味わいと爽やかな香りで美味しいとか。
ひっきりなしにお客さんが入り、店主と言葉を交わしてお酒を買い求めていました。
常連さんに話を聞いてみると、「お使い物に日本酒を選ぶとすごく喜ばれるわよ。腐らないし、飲めない人は贅沢に料理に使ってもいいし、人に譲ってもいいし。年配の方だとお菓子を食べきれずに悪くしちゃう人もいるから。何より繁桝のお酒は美味しいし」と話してくださいました。
「朝日屋酒店」の奥は大きなホールになっています。イベントや展示などに使われており、使い方によって雰囲気が変化するそう。
曲がった梁が味わい深い空間です。
朝日屋酒店(旧八女郡役所内)
- 住所:福岡県八女市本町2-105
- 電話番号:0943-23-0924
- 営業時間:9:00-19:00
- 定休日:不定休
- http://gunyakusyo.com/
5.八女福島の街歩き
さて、「うなぎの寝床」「許斐本家」「そば季里・史蔵(ふみのくら)」「旧八女郡役所」と紹介してきましたが、これらのお店がある八女福島エリア。江戸末期から昭和初期に建てられた白壁の町屋が連なっており、国の重要伝統的建物群保存地区に選定されています。
趣ある街並みです。カメラ片手にゆっくり散歩したい。
街中のたばこ屋さんがいい雰囲気。
擦りガラスに入った店の屋号がかっこいい!
6.八女中央大茶園
今までご紹介してきた八女の市街地から車で10分ほど移動すると、一面の壮大な茶畑の風景が望める「八女中央大茶園」があります。丘の上の展望所からは、奥に八女の市街地や有明海が見えます。
美しく刈り込まれた茶葉が整然と並んでいて、吹き抜ける風が爽快!
取材したのは9月末。涼しい空気の中、秋の気配が感じられました。
八女中央大茶園
- 住所:福岡県八女市大字本375-2
- 電話番号:0943-22-6644(八女市茶のくに観光案内)
7.八女福島の燈籠人形
秋分の日頃の3日間、福島八幡宮境内で「八女福島の燈籠人形」が上演されます。限られた期間ですが、旅行のタイミングが合えばぜひ見てもらいたい美しい世界。
大規模なお祭りじゃないのも見に行きやすいポイントです。ローカルなお祭りで、ほどよく人気がありますが、混みすぎておらずアットホームな雰囲気。屋台でイカ焼きやラムネを買って、神社の境内に腰を下ろして、のんびり楽しみたいところ。
八女福島の燈籠人形は江戸時代から続く“からくり”の世界。灯籠人形が上映される屋台は、釘や鎹は一本も使用せず組み立てられます。
3層2階建ての構造になっており、一階は下遣いと衣装方の控えです。下遣いとは下から人形の操作をする人で6人います。さらに人形が踊る舞台で左右の楽屋に横遣い(横から人形の操作をする人)が控えています。こちらも各6人ずつ。18人の人形遣いたちが舞台の人形に命を吹き込んでいるのです。
左右の手や首が動き、まるで命を吹き込まれたような繊細な動作をします。
舞台袖の様子。皆で息を合わせて人形を操作しています。
お祭りは3日間だけですが、灯籠人形は八女民俗資料館に展示されています。
複雑な人形の仕組みがわかります。これに服を着せて、命を吹き込むように動かします。
八女福島の燈籠人形
- 開催場所:福島八幡宮境内
- 開催時期:秋分の日の3日間
- 問い合わせ先:
- 参考URL:http://yame.travel/trip/toro_doll.html
【大牟田市・荒尾市エリア】
続いて明治から昭和にかけての炭鉱跡地の残る地域を紹介します。
福岡県の筑後特集ではありますが、隣接した熊本県荒尾市も入ります。
※地図は大牟田市世界遺産文化室のWEBサイトで、より詳しく確認できます。地図で距離感を見ながら一日の行動計画を立ててください。
1.大牟田市石炭産業科学館
“日本の近代化をエネルギー面から支えてきた大牟田の石炭”をテーマに、人やエネルギー、地球環境を考える科学館。パンフレットや周辺の地図も揃っているので、周辺の情報収集をするにはまずここへ。
入館料は大人410円。子ども200円です。
大牟田市石炭産業科学館
- 住所:福岡県大牟田市岬町6番地23
- 電話番号:0944-53-2377
- 営業時間:9:30-17:00(最終受付16:30)
- 定休日:月の最終月曜日(祝日の場合は翌日)
- http://www.sekitan-omuta.jp/topic/index.html
2.三池炭鉱・万田坑(熊本県荒尾市)
このあたりの地域は、元々有明海に面した小さくのどかな農漁村でしたが、石炭ブームとともに日本最大規模の坑口施設へと一気に姿を変えました。
予備知識がなくても、施設を見ているだけで興味深いです。入坑券は大人410円。
コスモスがきれいに咲いていました。秋の万田坑はどこか切ない雰囲気です。
煉瓦の風合いや、錆びた鉄のレールが時の流れを感じさせてくれる施設内部。どこを切り取ってもノスタルジーを感じる風景です。
山の神様を祀った祭祀施設。このような場所は炭坑周辺には必ずあります。いつ事故が起こるとも知れない真っ暗闇の炭坑での仕事。炭鉱夫たちは入坑前に必ずここで拝礼し、無事を祈っていました。
この建物内は「職場」と呼ばれる場所。
その「職場」は万田坑で使用する機械や工具類を修理するための施設でした。幾人もの炭鉱夫の手が触れた道具たち。今はひっそりと静かにこの場所に置かれています。
印象的だったのが壁に貼られたこの看板。「ご苦労さん」いい言葉です。
施設内には、銭湯もあります。煤だらけで真っ黒になった炭鉱夫は、ここで体を洗いました。
この黒いのは、銭湯内で使われていたおけです。黒いおけって珍しいですよね!! 何の素材でできているかわかりますか?
答えはゴム。けんかっ早い炭鉱夫たち「銭湯の中でケンカになり、おけを投げつける!」なんてことも日常茶飯事だったらしく……。ケガして働けなくなると困るので、いっそのこと、おけをゴム製にして対応したのだとか。
ケンカを止めるのではなく、ケンカ前提の対処をしていたとは……! 炭鉱で働くためにいろんな土地から人が集まっていました。多くの衝突やドラマがあったことでしょう。五木寛之の『青春の門・筑豊編』の世界が垣間見られた気分です。
炭鉱夫たちが炭坑内に降りて行った坑口。ここから昇降機で暗闇の中に降りていきました。
頼りになるのは、ヘルメットに付けたライトの明かりだけ。これを切ってしまうと全く何も見えません。
炭坑内で作業した後は顔が煤で真っ黒になり、誰が誰だかさっぱり見分けがつかなくなるので、ヘッドライトのキャップに色をつけて役割を判断していました。
緊急時は地下坑内と信号を送り合って意思疎通を。赤でしっかりと明瞭に書かれた信号。命がけの作業に関わる緊張感が伝わってきます。
石炭のサンプルが置いてあり、触れてみることができます。
これは巻き上げ用のウインチ。この機械で人や資材がのる昇降させるゲージを巻き上げていました。
施設の中心部から少し外れたところに煙突跡があったのですが、
中から見上げる空が青かったです。
今残っているのはコンクリートの基礎部分だけ。この上に煉瓦造りの煙突部分がありました。
最盛期にはこのあたりの人口が30万人にもなり多くの人で賑わいましたが、石炭から石油エネルギーへの変換と共に役割を終え、今はひっそりと当時の面影を残すのみです。
煉瓦のわずかな間から力強く植物が根を張り、まるで人の手から自然を取り戻すかのようでした。
三池炭鉱・万田坑
- 熊本県荒尾市原万田200番地2(万田坑ステーション)
- 電話番号:0968-57-9155(万田ステーション)
- 営業時間:9:30-17:00
- 定休日:月(祝日の場合は翌日)※年末年始(12/29-1/3)
- http://www.city.arao.lg.jp/q/list/385.html
3.炭坑の町が生んだB級グルメ・高専ダゴ(熊本県荒尾市)
地元で愛されているお好み焼き屋さんです。昭和40年に創業。
このちょっと変わった店名「高専ダゴ」の由来は、近くにある高専の学生がよく通っていたから。いつでもお腹を空かせている若い学生たちがたっぷり食べられるよう、サイズ大きめ、お値段安めの巨大なお好み焼きを焼いていました。
本当は「みつや」という店名で、食堂を始めたおばあちゃんの初恋の人、みつやすさんから名前をもらって付けた店名でした。すっかり愛称の「高専ダゴ」が浸透してしまい、「みつや」と言ってもこの店だと通じなくなってしまったそう。
それでもおばあちゃんは「高専ダゴじゃなか! みつやだ」と初恋の人の名前を守るべく頑なに抵抗していたそうです。
代替わりと共に「高専ダゴ」が店名になりましたが、暖簾や看板にはしっかり「新みつや」と書かれており、みつやすさんの名は今も残っています。
私が熱心に写真を撮っていると「大した店じゃないけど大丈夫ですか? ちゃんと、廃墟好きにおすすめって書いてくださいね」と謙虚な2代目オーナーさん。この下町っぽさがいいんです!
私は特製お好み焼き2人前1280円を注文しましたが、一番の名物は「スペシャル」1530円。30cm×50cmのお好み焼きを鉄板一面に焼いてくれます。(注文するなら最低でも3人はいた方が良さそう)
目の前でお店の人が手際よく焼いてくれます。
30cm×50cmのスペシャルはひっくり返すとき失敗することもあるそうですが、そこはご愛敬でお願いします!
炭坑の街のお好み焼きなので、味は濃い目。ビールと一緒に大勢でワイワイつつきたい感じです。“秘伝のソース”と言われるソースは20種類以上の調味料を半日かけて炊き込む先代のおばあちゃん直伝の味。
先代のおばあちゃんの時代には、ツケでお好み焼きを食べていた高専生が何年か後に社会人になり、しっかりツケを返しに来てくれた、なんて心温まるエピソードも。
炭坑があった頃のこの街は、いろんな場所から人が集まり、ケンカしたり、飲んで騒いだり、成長していく時代のエネルギーに溢れていたそうです。
最後にアメをもらいました。
ちなみに!
お笑いタレント・ヒロシさんは熊本県荒尾市の出身です。ヒロシさんのお父さんも炭鉱マンでした。
高専ダゴ(新みつや)・荒尾本店
- 住所:熊本県荒尾市下井手助丸495
- 電話番号:0968-66-1911
- 営業時間:11:00-21:00
- 定休日:木(祭日の場合は営業)
- http://www.kousendago.com/index.html
4.三池炭鉱・宮原坑(みやのはらこう)
三池炭鉱・宮原坑。明治31年~昭和6年に活躍した三池炭鉱の主力坑。万田坑と並んで世界文化遺産に登録されています。
隣には鉄道跡があります。正式名称は三池炭鉱専用鉄道敷跡。最盛期には総延長150kmにも及んだそうです。ここから石炭や炭坑資材、坑口で働く人を運んでいました。
施設にはガイドさんが数名常駐しています。その中の一人が実際三池炭鉱で働いていた人でした。炭鉱の中は地下水が多く、掘っているとたくさん水が出たそう。場所によっては温泉のように熱く、サウナ状態だったそうです。本当に真っ暗で、ヘッドライトを消してしまうと何も見えなかったのだとか。
宮原坑には当時の社宅が残っており、暮らしの様子が再現されています。
昭和レトロな雰囲気でかわいいキッチン!
タイルがおしゃれだし、炊飯器の花柄がなつかしい。
扇風機の青い羽根が昭和っぽい。
この社宅は社員さんの家だったので、比較的裕福な暮らしをしており、テレビがあります。
食べ物にかぶせる虫よけ。おばあちゃん家で見たことある人も多いのでは!?
2階のサッシが変わったデザインです。
三池炭鉱・宮原坑(みやのはらこう)
- 住所:福岡県大牟田市宮原町1丁目86-3
- 電話番号:0944-41-2515(大牟田市世界遺産・文化財室)
- 営業時間:9:30-17:00(最終受付16:30)
- 定休日:月の最終月曜日 ※H29.10月現在の情報です。HPよりカレンダーを確認ください。
- https://www.miike-coalmines.jp/index.php#my
5.その他まち巡りいろいろ
この塀、県登録有形文化財なのですが、何だと思いますか?
答えは監獄の塀です。正式名称は、旧三池集治監外塀。
国が管理していた監獄で、三池炭鉱での安定的な労働力を確保するためにここに監獄を作り、収監された囚人は三池炭鉱で働いていました。
これは社宅跡地に残るプール。万田坑の近くにあります。
当時の社宅にはプールがありました。炭坑の社宅の子どもしか遊べなかったらしく、近所に住む子どもの憧れの場所だったそうです。
宮浦石炭記念公園。この煙突は「炭坑節」に歌われたモデルとも言われています。煙突が残っているのはここだけです。
大牟田の街には“炭坑の街”を感じさせる風景がそこかしこに残っているので、街巡りしてみたら面白いです。全部歩くとかなり距離があるので、大牟田駅で電動アシスト自転車を借りてまわるといいでしょう。
【筑後市エリア】
1.MEIJIKAN
筑後市にあるMEIJIKANという宿に泊まりました。一泊1名朝食付き4,320円とお手ごろでwifiも完備されているので、筑後エリアを巡るときの拠点におすすめです。
100年続く「明治館」という古い宿泊施設をリノベーションして、2017年に生まれ変わった新しい場所です。
1Fは本屋とカフェ。本屋では九州にまつわる本を販売しています。大牟田の炭鉱について書かれた本や、九州の名字について調べた本など、九州の伝統・文化や歴史を知る手助けをしてくれそうな本がたくさん並んでいます。
カフェでは久留米の「COFFEE COUNTY」のコーヒーを出しています。一杯400円から。
カフェの写真を撮っていたら外から視線が……。
きれいなねこがいました!! 美しい……。
2Fはギャラリー。3、4Fは宿泊施設です。
1名用の客室(一泊4320円)はこの通り。おしゃれです。机、テレビ、ミニ冷蔵庫、洗面台、トイレ付き。
シャワーは共同のシャワールームを使います。余力がある人は、近くに船小屋温泉という温泉があるのでそちらへどうぞ。源泉かけ流しの炭酸泉です! MEIJIKANから車で15分程度です。
4Fには4つの客室があり、九州で活躍するアーティストが空間づくりをされました。値段はその時々で少し違うので、泊まってみたい方は問い合わせてください。
上の部屋は、久留米絣の絣の経糸と、白糸で編み込まれた天井部分。灯りを付けると糸が影を落として幻想的な雰囲気に。
この部屋は近くを流れる矢部川の楠をモチーフにしています。かわいらしい色使いの優しい空間です。
私のおすすめの過ごし方は、1Fの本屋で本を買って、コーヒーを飲みながらゆっくり読むことです。カフェは20:00まで営業しているので、日中観光して帰って来てからものんびり過ごせます。コーヒーをテイクアウトして部屋で飲んでもいいですね。
朝食は簡素なビュッフェ形式で、数種類のパン、数種類のフルーツ、ゆで卵などを自分で取るスタイルです。コーヒーも置いてあります。リクエストすれば和食の提供もしています。
MEIJIKAN
- 住所:福岡県筑後市山ノ井138-23
- 電話番号:0942-52-5353
- チェックイン:15:00~ チェックアウト10:00
- http://meijikan.jp/
さいごに
筑後エリアいかがだったでしょうか。
「福岡」のイメージが変わったのではないでしょうか。
国産線香花火の奥深い伝統の世界や、八女福島の街並み。
いろんな地域から人が集まり、かつては多くの人で賑わった大牟田の炭鉱エリア。
どこも人を惹き付ける“ノスタルジー”を感じる、情緒ある場所でした。
皆さんもぜひ出かけてみて下さい。
ライター:ちえ(@kirishimaonsen)