四国の全駅制覇とお遍路を同時にやったら大変なことになった【愛媛・香川編】[PR]
「四国全駅制覇をしつつ、お遍路を同時に達成する」という謎の旅の続きに、新年早々でかけてきたpatoさん。今回の旅でも、旅の記録にアプリ「駅メモ!」を使用。前回の徳島・高知編に続き愛媛・香川編を配信させていただきます。(7ページ)
【2日目】1月3日 7:00
2日目も快晴。さあ元気に出発!といきたいところですが、昨晩はホテルで大変なことがありました。風呂に入ってストロングゼロ(ダブルレモン)を飲みながら旅への英気を養っていたところ、突如として足が攣りました。右足がものすごい勢いで攣りました。そのままもげてどっか飛んでいくんじゃないかってレベルで攣って死ぬかと思いました。
それだけならまだいいんですが、その攣り方が異常で、完全に右足のふくらはぎが肉離れしたみたいな状態。なんとか症状が落ち着いた後もずっとその肉離れの場所は激痛だった。寝れば治るだろうと勝手に思っていたのですが、寝ても治らず、意味不明の爆弾を右足に抱えたまま2日目のスタートとなりました。めちゃくちゃ不安です。
とりあえず、前回旅を終えた宿毛駅を目指していきましょう。
前回はここで高知県の駅を全て取得し、旅を終えた。ここは完全に高知県の鉄道の終端であり、この先は何も存在しない。鉄道に頼らず次の札所を目指していかなければならない。調べてみたら予想通りバス路線はある感じだったけど、かなりの待ち時間があるので、やはり自転車で目指すことにした。
運河みたいな場所を颯爽と駆け抜けていく。朝の空気は冷たい。特にハンドルを握る手が冷たくて凍りつきそうだ。途中、思いっきりルートを間違えたみたいで、完膚なきまでの通行止めに遭遇した。
すごい封鎖の仕方だな、悪しき物を封印している感じすらする、と思いつつスゴスゴと引き返す。
右足いてー、絶対に肉離れだわーと唸りながら柑橘類の果実がたくさん実っている場所を通過していく。
1時間ほど自転車を走らせてついに県境へと到達した。ついに高知県を終え、愛媛県入りとなった。ちょっとテンションがあがる。
さて、ここまでは前回ほとんど駅を取ってしまったのであまり触れてこなかったが、ここからは未知の領域となるためお遍路と並行して駅を取っていく必要がある。愛媛県の駅は全部で146駅。図に表すと以下のようになる。
前回、高知県の駅を取る時に勢い余って愛媛県の駅である「真土駅」を取ってしまったので1駅取得された状態になっている。これらを全て駅メモのチェックイン機能で埋めていかなければならない。気が遠くなる。
また、県ごとに旅を共にする「でんこ」を変えていたのだけど、愛媛県はカラーリングがみかんっぽいという至極安直な理由で以下の「でんこ」と共に旅をすることにした。
なつめ。とても純粋でバカ正直、なんでもすぐに信じてしまうでんこ。
「種を飲み込んだらお腹から木が生えちゃうの!?」とすごく不安になってくるセリフを吐いていますが、このでんこと共に愛媛県を攻めていきます。たぶん次の札所までまだ20キロくらいある。
県境を越えたあたりから急激に道が険しくなってきた。最初こそは海岸沿いの穏やかな景色が広がり、平坦な道が続いていたのだけど、突如として登りあり、下りありのジェットコースターみたいな道に変わった。
単純に言うと、5個くらい連続で峠越えをしたような感じだった。肉離れに近い症状を見せる右足を抱えてこれはなかなかきつい。
登りでは結構高い位置まで登るので、海に浮かぶ島々を高い位置から眺めることになる。
海にぽっかり浮かぶ小島というかただの岩に人がいるような気がする。でもあんなところに人がいるはずないだろ。どうやって渡るのかも不明だし、あんな岩ごときじゃあちょっと高い波がきたらさらわれてしまう。あれが人であるはずがない。そう思いつつ近づいてみる。
人でした。釣りをしているみたい。すげえな、どうやってあんな場所まで降りていくんだ。
すごく高い位置まで登ってきた。もう足がプルプルしていて激痛でやばい。それよりなにより、県境を越えてから民家すら存在しない山道の連続なので自動販売機すら存在しない。完全なる失策で、こんなことになるなら飲料水を買っておくべきだったと激しく後悔した。飲めないと気づいてしまうと途端に飲みたくなるもので、水、水、とゾンビみたいにさまよいながら先へと進んだ。
なんか湧き水でてる! すごいちょろちょろでてる!
こんな怪しい出方している水呑んで大丈夫かな、これ本当に大丈夫なのかなと不安になるのだけど、背に腹は代えられない。この先も過酷な峠道が続くかもしれないので水分を補給する必要がある。がっつくように飲んだ。まあまあ飲める味だった。
ちょっと進むと漁港に出た。普通に民家とかもあるし、自動販売機もあった。ちょっと我慢すれば飲料水が買えた。あんな怪しい感じの水を飲む必要なんてなかった。
今日はまだ正月三が日ということで漁港全体がひっそりとしているんだけど、まあまあ栄えている漁港らしくお店や旅館まであった。ちょっと外れた場所にはカラオケ屋まであるようだった。
「オールナイトカラオケ」と書いてある。
絶対嘘だ。オールナイトなわけがない。
漁港からさらに峠越えを1発かまして、やっとこさ市街地みたいな場所に出た。どうやら愛南と呼ばれる地域らしく、ショッピングセンターがあったりしてなかなか発展している。この付近に折り返し地点となる40番目の札所がある。
長かった。宿毛を出発してから3時間ぐらい峠越えしていたと思う。もう足が限界だ。ただ、嬉しいことに沿線のバス停を見てみると、ここ愛南地域から宇和島までいくバスの本数がなかなか多かった。宿毛から宇和島へ行くバスは少なかったがここは1時間に1本くらいある。つまり、宇和島まではバスで行けそう、ということだ。とりあえず40番札所を探す。バスはそれからだ。
見落としてしまいそうなほど街中にある。スタート地点である1番札所霊山寺から最も遠い位置にある札所であり、愛媛県最初の札所でもある。
やはりお正月ということもあってか家族連れが目立つ。お爺ちゃんお婆ちゃんが孫まで引き連れて参拝し駐車場で話しているのをみた。
「タカノリはもう今日帰るんか?」
「うん、今日帰る」
とお婆ちゃんが孫に話しかけて、お婆ちゃんが金髪の孫に1万円札を握らせていた。
「いいからもってけ。都会は金が必要じゃ」
みたいなこと行ってしわくちゃの1万円を握らせていた。金髪の孫はその金で危険ドラッグとか買わず、有意義なことに使って欲しい、心からそう思った。さて、お楽しみのおみくじである。そろそろ大吉が出ても良いタイミングだ。
いくぜ!
「末吉」
ここまで末吉しか出てない気がする。圧倒的に末吉だ。まあ、あまり早い段階で大吉が出てもつまらないですからね。そのうち出るとは思いますけどそんなに気にしないようにしましょう。
さて、次の札所はかなり遠い。北上して宇和島市を越える必要があるようで、ここから50キロぐらいあるようだ。自転車で攻略するとそれだけで1日が終わってしまい、またお遍路カルトクイズを掲載する羽目になってしまうので、ここはしっかりとバスを利用する。少しだけ移動してバス停を探す。
この樹になっている実は接待用なのでお遍路さんが食べてもいい、みたいなことが書いてあった。
自転車を走らせていると比較的交通量の多い幹線道路に出て、大きなスーパーとかある一角にバス停があったのでバスの時間をチェックした。やや時間がある感じだったので近くのファミレスで昼飯を食べることにした。
ジョイフル。関東ではあまり見ないけど主に西日本で猛威を奮っているファミレスだ。安くて美味い。ここはパワーをつけなくてはならないと思い、迷うことなくステーキを注文した。これがすごく美味かった。
完全に旅への活力になる。ステーキをペロリと平らげ、もうちょっとバスまで時間がありそうな感じだったので、ジョイフルの隣にあったファッションセンターしまむらに行くことにした。どうしてもハンドルを握る手が冷たかったので手袋が欲しかった。
さすがファッションセンターの名前は伊達じゃない。沢山の手袋があって、革の手袋とかマジでファッションだし暖かそうだと思ったのだけど、まあまあ高価だった。仕方がないので300円で安売りしていた手袋を買うことにした。
これ完璧でしょ。オシャレすぎるでしょ。
完全に暖かい。
ついにバスがやってきた。これで一気に宇和島駅までいく。車内はけっこう混みあっていた。やはりこのルートはバスしか交通手段がないので利用客は多いようだ。僕は荷物がでかい(折りたたみ自転車)ので一番後ろの席を陣取るようにしている。混んでいるけど最後部は空いていたのでそこに座った。
また子供が凧揚げをしている風景が見られた。のどかで良い。
1時間ほど乗車していると、ついに宇和島駅へと到着した。早速、駅メモでチェックインしてみる。
ここまでは前回取った路線の復習だったり、鉄道路線自体が存在しなかったりで新しい駅にチェックインできなかった。だから、久々の新しい駅ゲットだ。感慨深い。さて、ここから少々戦略的に攻めていかなければならない。バスの中で色々と思案して、最も効果的と思われるルートを取ることにしたので、戦略を説明する。
まず、約30分後に出発する予土線(しまんとグリーンライン)の「近永」行きの列車へと乗る。この路線は高知の「窪川」へと続く路線で、高知県部分は前回取ってしまっているので取る必要ないが、愛媛県部分を取る必要がある。
この路線の愛媛県部分の駅を取らなければならない。前回勢い余って「真土」は取ってしまったが、「吉野生」まではここでしっかりと取らなければならない。ただし、次の列車は「近永」までしか行かないという事情がある。おまけに、あまり奥深く高知県側まで行ってしまうと帰りの列車を待たなければならず、大きな時間のロスになってしまう。次の札所は「宇和島」からたった2駅の「務田」が最寄りなので、できればあまり奥地まで行きたくない。そこで登場するのがレーダーと呼ばれる便利アイテムだ。
このレーダーと呼ばれるアイテムが本気で優れもので、駅メモ!は基本的にチェックインのボタンを押した時の最寄り駅しか取れないのだけど、これを使うと2駅先、3駅先と取れてしまうのだ。前半戦の旅においてもかなり苦しい場面で助けてくれたアイテムだ。
このレーダーには一つ大きな特徴があって、「電友」と呼ばれる駅メモ上のフレンドがオンラインであればあるほど射程が大きくなる。言い換えれば、同じ時間に駅メモをプレイしている友達が多いほど先の方の駅まで取れてしまうのだ。
ただ、前半戦においては、僕の駅メモアカウントはほとんど友達がいなかったので射程も2駅とかでほとんど使いものにならなかった。ただ、その苦しい前半戦の記事を読んだ全国の駅メモ猛者どもが「しょうがない俺が助けてやるか」とこぞって電友になってくれた。あっという間に僕の電友リストが各県のヌシみたいな人たちで埋め尽くされた。
各県のヌシは本当にすごい。この人たち普段はなにやっているんだろうと疑問に思ってしまうほど常にオンラインだ。四六時中駅メモをプレイしてやがる。結果、常にオンラインの電友が沢山いる状態なので、レーダー射程もものすごく潤沢になった。
射程2駅とかでヒーヒー言っていたのに、最低でも10駅は射程がある状態に。これはとても心強い。俺たちが助けてやるから是非とも四国全駅とお遍路を達成しろ、という各県のヌシたちの熱いメッセージを感じる。射程が10駅ということは単純計算すると前後に5ずつ駅取れるので5駅先まで取れることになる。これは戦略としてかなり期待できる。
つまり、「近永」行きの列車に乗り、レーダー射程をマックスに広げたまま先の駅をレーダーで取得していく。そして、最深部である「吉野生」駅が取れた時点で列車を降り、そこから自転車に乗って「務田」に向かい、次の札所に行く、そういう作戦で行きたい。これは僕と各県の猛者による友情の合体攻撃だ。「フレンドリーファイヤー」と名付けたい。本当にありがとう。
ここ宇和島駅にもアンパンマン列車はやってくる。これに乗って都会へと戻る人々と、見送りの人で宇和島駅もかなり混雑していた。
僕が乗る列車がこれ。本来なら前回の記事の最後に出てきた「かっぱうようよ号」みたいなパンチの効いたホビートレインが来るんだと思うのだけど、どうやら点検か何かの日らしく、普通のワンマン列車がやってきた。乗り込んでみると既に4人くらいの乗客がいた。
列車が動き出す。レーダーのページを連打して、いち早く「吉野生」が取れるポイントを探す。列車は山間を進んでいき、開けた田園地帯のど真ん中みたいな場所でいよいよ「吉野生」が取れそうな機運が高まってきた。
僕「みんな頼む」
ヌシ1「まかせとけ」
ヌシ2「一個貸しだぞ」
ヌシ3「やれやれだぜ」
ヌシ4 「いくぜ!友情パワー!」
僕「フレンドリーファイヤーチェックイン!」
ズガシャーン!
よし! 取れた!
(レーダーを使って駅を取ることは正確には「アクセス」と呼び、位置登録による「チェックイン」とは区別されます。)
結局とれたのは「大内駅」の手前だった。ギリギリといったところか。ここなら、まだ現実的に自転車で次の札所を目指すことができる。フレンドリーファイヤー様様だ(※編集部注 フレンドリーファイヤーはもともと同士討ちという意味です)。ここまで射程がでかいと本当に戦略が立てやすい。
ここから今来た道を自転車で戻っていく。次の札所はもう少しだ。
幸いなことにかなりフラットな道だったのであまり苦労することなく札所付近まで移動することができた。
ただ通るルートが悪かったのか、コンビニとかそういった類の商店が全く存在せず、自動販売機もなかった。宇和島駅で購入しておけば良かったと後悔しつつ、なんとか水を求めてゾンビみたいになりつつ進んでいくと、かなり遠くに自販機っぽいものが見えた。やった、飲料水を買える!と最後の力を振り絞って自動販売機に近づく。
絶対に販売してないでしょ、これ。
もうだめだー、乾いて死ぬ、神も仏もいないか、とウダウダ言っていたらなんとか次の札所に到着した。
この札所は少し変わっていて、寺であるのに山門は神社的な鳥居である。さらに仁王像の代わりに狛犬が置かれ、敷地内では狐とお地蔵さんが並んでおかれていたりする。神社と寺が合わさっており、神道と仏教が混ざり合った神仏習合の影響を色濃く残している。一瞬、神社に来てしまったのかと思ったほどだ。ここには神も仏もいるのである。
探したけれども、ここではおみくじはやっていないようだった。末吉の連鎖を断ち切りたいと思ったが、次の札所に期待することとしよう。
さて、次の札所はここからそう遠くないらしい。しっかりと北上しつつ、並行して伸びる予讃線の駅にもチェックインしていく。
平坦な道のりで本当に助かる。みんな忘れているかもしれないが、右足が肉離れみたいな状態になっていて本当に痛い、ここでアップダウンが来ると本当に苦しい。
僕が取材中に撮影する写真には記録としての意味合いのものもある。記事には出さないが、こういうことがあったと後で思い出せるように撮影したりすることもある。大抵は画像を見て、あー、こういうこともあったわと記事に起こすのだけど、上のコイン精米機の画像だけはなんで撮影したのか全く意味がわからなかった。ちょっと頭が狂い始めたのだろうか。そう心配になるほどだった。
ずっとなんでこの画像を撮ったのだろうと悶々と考えていたのだけど、次の画像を見て何となく答えみたいなものが分かった。
これをズームで撮影していることから、おそらく「ヌカハウス」という響きを気に入ったのだと思う。それだけで撮影したのだと思う。なんだろう、疲れてきてんのかな。もうおかしくなっているのかな。
しばらく進むととんでもないものが目の前に飛び込んできた。
これである。なんだよ、ただの電光掲示板じゃん、と思うかもしれないが、過酷な旅をしてきた人間ほどこの屈強な電光掲示板は畏怖の対象となる。なぜならば、この頑丈な電光掲示板、山間でこれが登場してきたら90%くらいの確率でその先に峠が存在するのだ。峠が凍結しているぜ、チェーン巻けよ、みたいなことを告知するためにこの電光掲示板が登場してくる。これらは結構手前に設置される傾向があるので、おそらく次の次、あたりの札所にいくルートは峠越え、それもかなり本格的なやつだ、そう確信した。少しだけ身震いがした。
もう日没も近いためかひっそりとしていて誰もいなかった。ここは家畜堂という家畜たちの安全を祈願するお堂がある。むかしは畑仕事などに使う家畜の霊を供養していたが、最近では、ペットの霊を供養したりもするようだ。ひっそりとおみくじがあったので、そろそろ大吉がでる頃合いであろうと引いてみた。
なんか大吉のオーラが見える。
「小吉」
やっと末吉以外が出たけど、大吉は出なかった。っていうか、ちゃんと大吉はいってんのかな。普通はこれだけ引いたら1回は出るでしょ。なんか仕組まれているんじゃないの、イカサマなんじゃないのこれ。
さあて、次の札所まではおそらく峠越えだ。真っすぐと道路が伸びるが、おそらく正面の山を一つ越える形になると思う。
ほうら、峠道になってきた。むちゃくちゃ登り坂だ。容赦ない登り坂だ。
過酷。とにかく足が痛くて死にそう。
土砂崩れしている場所もある。なんちゅうルートだ。かなり坂道を登って、すごい見晴らしのいい場所まできてしまった。午前中にも何個か峠を越えたけど、この峠は格が違う。すごく険しくて長い。人の心を折るタイプの峠だ。
なんか水墨画みたいな景色だな。とにかく息が切れるわ足が痛いわで死にそうになりながら登っていくと、前方に希望の光が見えた。
トンネルだ!
多くの場合、峠越えの登り坂が突如として下り坂に変わったりしない。ほとんどが、最後にトンネルを経て下りに変わる。おそらくある程度登ってきて頂上に近くなるともう向こう側までそんなに山の厚みがないのでトンネルを掘りやすくなるのだと思う。つまり、峠越えにおけるトンネルは登りの終わりという合図なのだ。トンネルから下りになる可能性がかなり高い。
もうトンネルの手前の段階で下りが始まっている。あとはズバーンと自転車で下っていくだけだ。
位置エネルギーの申し子となり一気に坂を下っていく。ほんと、峠越えは苦しくて辛いけど、文字通り峠を越えた後の下りは最高だな。あまりに最高で「ウヒョー」とか叫んでた。
ここも2つ前の龍光寺と同じく、明治時代までは神仏習合の寺であったらしい。ただ、現在ではその名残を感じることはできない。
おみくじの自動販売機みたいなものがあった。これは完全に大吉が出る流れ。
「中吉」
さて、次の44番札所を目指すわけだけど、残念ながらもう日没の時間だ。おまけに次の札所はかなり遠く、あの悪名高い「へんろころがし」ルートらしい。「へんろころがし」とは前半戦の旅でも猛威を奮い、大の大人を絶望のあまりガチで泣かせたあれのことである。その悪魔の申し子的な過酷なルートを「へんろころがし」と呼んでいる。
完全に地獄を見る展開で、これをまともにいったらたぶん死ぬ。途中で死ぬ。そんなルートだ。ただ、僕の入念な下調べによると、この「へんろころがし」はたぶん回避可能だ。僕がキャッチした情報によると、なんでも、松山市からつぎの札所の近くまでバスが出ているらしい。
つまりここから列車に乗って松山市まで移動し、その際に、しっかりと駅を取得していくわけだ。そして明日の朝一番で松山からバスにのって次の札所近くまで移動する。これは完全に情報戦を制したでしょ。完璧すぎる。絶対に勝てる。そうと決まれば駅まで移動だ。
現在の駅取得状況がこちら。峠越えしつつ並行して伸びる予讃線の駅をしっかりとっていたのが効いている。あとは松山までの駅を一網打尽するだけだ。ただ1つだけ心配な場所があって、それがこちら。
北上していくと伊予大洲で路線が二手に分かれる箇所がある。片方は内陸を通る内子線で、もう片方が海岸線を通る予讃線(愛ある伊予灘線)だ。なんだこの名称。本当に愛があるのか。よくわからないけど、この2つのルート、まともに取ったらとても大変そう。どちらかをフレンドリーファイヤーで取るべきだ。
余談になるのだけど、内陸を通るこの路線は「内子線」と呼ばれるが、全部が内子線ではない。正確には内子駅と伊予大洲の間だけが内子線だ。それ以外の部分は予讃線の支線扱いになっている。本当に余談でびっくりした。
最寄り駅である下宇和駅に移動する。日没と相まってか、すごく寂しい気持ちにさせてくれる駅だ。自転車を折りたたんでカバンにしまい、列車の到来を待つ。
この路線は特急がメインになるので普通列車の本数はあまり多くない。だいたい1時間に1本くらいだ。それでも車内には仕事帰りっぽい人やクラブ帰りっぽい高校生などけっこういた。今日が1月3日であることを考えると普段はもっと乗客が多いのかもしれない。列車はすぐに八幡浜駅に到着した。
18:13 八幡浜
八幡浜駅に到着すると、乗り継ぎの列車がホームで待ち構えていた。どうやら松山行きの列車らしく、おまけに、愛ある伊予灘線という何度も言わせてもらうけどどういう経緯を経てこういった名称になったのか大変興味のある路線を経由するらしい。こりゃしめたぞって思った。
まず、愛ある何とか線とかいうちょっと良く分からない名前の路線と内子線の分岐である伊予大洲でフレンドリーファイヤーを使う。3分岐の地点でレーダーを使うと射程の消費が激しいのだけど、各県の猛者がバックアップしてくれている現状の僕ならおそらく難なく内子駅までは取れると思う。
次にその愛あるとかいうふざけた名称の路線をぐるっと回ってきて、向原駅に到達したところでフレンドリーファイヤーを使う。すると内子以降の駅も取れるだろうという算段だ。レーダーの射程を考えると内子線方面より、愛なんとかというふざけた名前の路線を通る方が理想的なのだ。
まずは伊予大洲駅停車時にフレンドリーファイヤーを使う。僕と各県のヌシたちが力を合わせて駅を取る。
イエス! 友情パワーで内子駅まで取れた。
その後、列車は愛あるなんとかせんという、本当にどういう考えでつかられたか良く分からない路線へと入っていく。
ちなみにこの良く分からない路線の中には「下灘駅」という鉄道好きの間でちょっと有名な駅がある。ホームから一望できる海の景色が美しいとポスターなどによく使われる駅で、その景色を目当てに訪れるファンも多い。
こういう感じでかなり美しいもので、皆さんも一度はどこかで見たことがあると思う。僕もちょっとこの駅のこと楽しみにしてたんですけど、なんてことない、巡りあわせが悪すぎて完全に夜のタイミングで訪れることになってしまった。よーし、ここで一発すげえ綺麗な写真を撮ってやるぞーって意気込んでいたのですが、
闇が深すぎて海があるかどうかすらわからねえ。
なんとかもう一つのフレンドリーファイヤーポイントを経て残りの駅を取りつつ、松山駅へと到着した。
20:22 松山駅
駅メモで取得すべき愛媛県の駅は全部で146駅あり、ここまで順調に49駅を取得してきた。残りは約100駅あるはずだが、路線図を見ていただいても分かる通り、この図の未取得駅が100もあるようにはとても見えない。つまり、ここ松山市にJR以外の路線がある確率が高い。
駅から出ると、思いっきり目の前に路面電車の駅があった。たぶん、これも駅メモ対象駅だ。調べてみると松山市には伊予鉄道という私鉄路線があり、市内線と呼ばれる路面電車路線と、郊外線と呼ばれる3路線を運営している。むしりこちらのほうがJR路線よりも利用されているようだ。ということで、対象駅が一気に増える。
松山市の交通網はJR松山駅とは別で少し離れた場所にある「松山市駅」を中心に整備されているみたいだ。なんともややこしい。現状でも駅の数が総数より少し足りないので多分、廃駅か廃路線がある。どこかにある。ともかく、これらの対象駅は全て取らないとまずいので夜のうちにできるだけ取っておく。
駅から徒歩で15分くらいだっただろうか、松山の中心部である松山市駅にやってきた。ビルの上に観覧車があったりしてすごく発展している。何か晩御飯を食べようと駅周辺をさまよったが、あまり食欲がないどころか吐きそうなのでやめておいた。ちょうど観覧車ビルの前に道後温泉行きの路面電車がやってきたのでそれに乗ることにした。
路面電車はかなり本数が多く、待たなくとも次々とやってくる。これから道後温泉まで行くということは完全に温泉に癒されるパターンである。いやおうなしに期待が高まる。やはりというか、車内は道後温泉へと向かう観光客が多かった。
かの文豪、夏目漱石が愛した坊ちゃんゆかりの地、道後温泉はかなり活気のある温泉地だった。大きな温泉旅館が立ち並び、お土産屋が立ち並ぶアーケード街まであり、人通りも多い。
アーケード両脇の商店を冷かしつつ進んでいく。途中、居酒屋の前で行儀よく主人を待つ猫がいて、その猫と戯れたりしつつ進むと、目の前に「へんろみち」の案内石が登場してきた。こんな場所も遍路道が通っているようだ。
52番札所への案内のようだ。まだ随分と先の札所だ。ここから山奥へ行って札所を取りつつ、山から下りてきてここ松山市へと到達する。その時には札所も52番まで行っているようだ。明日で到達できると嬉しいものだ。
アーケードの終わりと同時に正面に道後温泉本館が登場してくる。
完全に道後温泉の中核をなす存在で、周りの旅館からもこの本館に入浴しに来たりするようだ。ちなみに、夏目漱石はこの本館の温泉を大変気に入り、友人の正岡子規や高浜虚子と連れ立ってしょっちゅう来ていたようだ。それだけでなく、代表作「坊ちゃん」の中では「住田の温泉」としてこの温泉を登場させている。入浴料は大人410円。
もちろん、ここまで来て入らないわけがない。一日中駆けずり回って体は汗だらけ、バキバキに疲れている。おまけに四国は温暖な気候だと言っても1月の気温だ。かなり寒くて体は冷え切っている。こんな条件がそろっていて入らないやつがいるなら顔を見てみたい。
さて、料金を払って「神の湯」の脱衣所へと向かう。さすが重要文化財にも指定されている歴史ある建造物だけあって、全体的に古いが趣のある造りになっている。ただ、どうしても一つだけ苦言を呈したい。ここだけはどうか改善して欲しい。ちょっとややこしい話なのでその部分について是非とも図を用いて説明したい。
男湯はこのように長い通路から枝分かれした通路を経て脱衣所へと到達する。入口は木製の枠にすりガラスをはめたオールドスタイルの引き戸だ。利用客が多いので脱衣所はかなり混雑している。簡易的な木造のロッカーが複数置かれていて、そこで服を脱ぐスタイルになっている。問題はここからだ。
普通の構造を頭の中で想像すると、入り口から入ってきた反対側に風呂があるイメージを持ちがちだが、ここは入り口側に風呂がある。それも東側と西側、二つの風呂が存在する。そして、その風呂へと通じる引き戸も入口の引き戸と同じで、枚数が多いだけなのである。
同じ引き戸が並んでいるので、一瞬、どれが風呂に通じる扉なのか分からなくなる。トリックアートの屋敷みたいになっている。おまけに逆サイドの壁にも、どこに通じているのか全く分からないが同じ配置で同じ引き戸群が設置されている。
こうなってくると完全に引き戸の迷宮で、どれがどこに通じる扉なのか分からなくなる。
ここ道後温泉本館は、おそらく入れ墨とか禁止されていないっぽくて普通に全身にデビルのタトゥーが入ったアウトローな方や、「東と西の浴場は同じものなんですかな?」とあらゆる人に聞きまくっている老人などがいて、それらを観察しながら服を脱ぎ、全裸になった時、完全に方向感覚を見失った。自分がどの扉から入ってきて、どっちが風呂なのか分からない。目の前に並ぶ同じ引き戸たち。完全に方向感覚を失う。
ええい、ままよ! と自分の勘を信じて扉を開けたら、入り口だった。全裸で入口の扉をあけると、女湯へと続く通路が正面にあって、そこにいたおばちゃんに「わ、全裸」って言われた。淡々と事実を指摘されただけなのに死ぬほど恥ずかしい。これはもう坊ちゃんトラップと呼んでもいいだろう。ここはマジで富士の樹海くらい方向感覚を失うので、訪れる方は是非とも注意して欲しい。坊ちゃんトラップはかなりやばい。
さて、大恥をかいてしまったが、いよいよ入浴である。体を洗い、湯船に浸かる。ここ道後温泉本館の温泉の温度は43℃とやや高い。浸かった瞬間、思わず声が出た。体が芯から温まるのを感じたし、今日一日の疲れが完全にほぐれていた。体がバラバラになりそうな勢いでほぐれていくのを感じた。「ああ、トトノウワー」とか言っていた。
で、これは本当に驚いたことなのだけど、風呂から上がり、また坊ちゃんトラップを潜り抜けて外に出た瞬間に気が付いた。
「足が痛くない」
昨晩、足が攣って肉離れみたいな状態になり、今日一日ずっと激痛に悩まされていた右足の痛みが完全に消え失せていた。嘘だろ? と叫んでしまうほど綺麗さっぱり消え失せていた。
そもそも、ここ道後温泉にはシロサギ伝説という言い伝えがある。足を痛めたシロサギが岩の間から流れ出る湯に足を浸していたところ、たちまち傷は癒えて、飛び立って行った。それを見ていた住人が道後温泉を発見し、効能があると確信した。これが道後温泉の起源とされ、このシラサギは現在でも道後温泉のシンボルとなっている。これ、もう僕がシラサギだろ。
僕自身は「湯治」という概念にはやや否定的だったけど、これだけ綺麗さっぱり痛みが消えると信じざるを得ない。それほど劇的に痛みがなくなった。これで明日からの旅も万全だぜ、と松山市内中心部に戻ろうと道後温泉駅に戻る。
もう終電が終わっていた。市内から道後温泉へと行く電車はもうちょっと遅い時間までありそうだったが、道後温泉から市内へと戻る電車は10時くらい終電でなかなか早い。湯上りで気分がいいし、足が治ってハッピーなので、自転車を出さずに徒歩で市内へと戻った。ついでに元気が有り余っているので、路面電車の全ての駅を徒歩で巡って取得し、23時ごろに2日目の行程終了とした。
旅のまとめはこちら。
総評:フレンドリーファイヤーにより駅の取得がかなり楽になった。この射程を利用して効率的に駅メモ攻略を進めていきたい。また、自転車による峠越えが何本かあり、さらに足の痛みに耐えて移動したためか、完全に体力が戻ってきた。お遍路の体が出来上がったし、道後温泉の湯治によって足も治ったので、明日からもっと激しく進んでいきたい。
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