「週刊少年ジャンプ展VOL.2」で鑑賞できる生原稿たちが良すぎたので解説する
今回は「週刊少年ジャンプ展」第二段をレポート!展覧会では「ドラゴンボール」や「幽☆遊☆白書」、「ジョジョの奇妙な冒険」「SLAM DUNK」といった1990年代に連載されていた漫画の生原稿が展示されています。生原稿をどう観たら面白く感じられるのか、見所を実際に訪れたライターが解説します。
みなさん、友情を大切にしていますか? 努力していますか? 勝利していますか?!
最近引きこもりすぎて友人との遊びも減り、努力せずに勝利なんてどこいずこの32歳、86年生まれ。
そんな筆者ですが、東京・六本木にある森アーツセンターギャラリーにて2018年6月17日まで開催中の『創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展 VOL.2 1990年代、発行部数653万部の衝撃』に遅ればせながら行ってきました。
初めて買った週刊誌はジャンプ、初恋の人は『幽遊白書』の飛影という私の少年心ならぬ少女心は、入場前からテンション上がりまくり。
いや、しかし、
めちゃくちゃ良い。
入口から入って目に飛び込んでくるのは、一面に貼られたピンク、黄色、緑の誌面。そして、鼻腔をくすぐるはジャンプのニオイ!!そういえば、雨の日はこのニオイが部屋に充満していましたね。
会場は作品ごとにブースで分かれており、掲載当時の生原稿を展示。アニメ化した作品は主題歌をオープニング映像と一緒に流し、外のカフェでは作品にちなんだメニューも揃い、五感すべてを使って週刊少年ジャンプを堪能する企画展となっていました。
でもふと思う。
これってジャンプファンにしか楽しめないのかしらと。
いいえ、きっと違います。デジタル技術による作画があまりない90年代の生原稿だからこそ、漫画本編を知らなくても、売れ売れ漫画家の生き生きとした筆のタッチや作画の個性を楽しめるのではないでしょうか。
ということで、今回は「作品はなんとなく知っているし、ジャンプ展に興味あるけど、どう見ていいのかわからない」という人に向けて!
他のアート展と同じように、生原稿のどこが凄いのか、どこを見たら面白く感じられるのかを勝手ながら解説したいと思います。 ただ、残念なことに会場は撮影NGだったため、私の思い出の品やフォトブースを中心の写真となることをお許しください!
目次
◆スゲー格好良い『ドラゴンボール』の美しい画面設計
悟空のかめはめ波、ベジータのビッグバンアタックに、ピッコロの魔貫光殺砲。
地球の平和を守るために、宇宙や神様が住む天界を舞台に強敵たちと闘うバトル漫画の金字塔といえばこの漫画。
90年代ジャンプの看板作品『ドラゴンボール』で注目したいのは、コミックの表紙や誌面の巻頭カラーを飾るカラー原稿です。今回のジャンプ展で最もアートに近い原稿は、『ドラゴンボール』と言っていいほどの完成美がそこにあります。
作者・鳥山明先生が描くキャラクターは目や髪型がデフォルメされて線が少なくスッキリしていますが、背景となるメカ・モンスター・植物は緻密に描かれています。色付けは相対色をバランス良く取り入れていて、カラーの調和が美しすぎるのです。陰影も面で塗られているので、アニメーションのセル画のような見やすさが特徴的。
この単純化された絵と複雑な絵、カラーの絶妙なバランス感は、モノの構造、光と色の関係性、そして視覚効果を理解していないと再現できません。さらに言えば扉絵一枚、作中のコマでさえも、キャラクターを魅せる構図がいちいちキマっていて、格好良いのです。注目すればするほど、鳥山明先生の作画技術に唸ってしまいます。
子どもの頃は迫力のあるバトルシーンに自然と抱いていた「スゲー格好良い!!」という感覚は、このような丁寧で美しい絵が積み上げていたんだなと考えると感慨深いものです。ぜひぜひその緻密な画面設計に目を凝らしてみてください!
◆不安感の煽りはジャンプ随一。『幽遊白書』の影の魅せ方
霊界探偵の主人公が妖怪と壮絶なバトルを繰り広げる漫画『幽遊白書』は、物語が後半に進むほど人物の表情に影が差し、画面に空白が多くなります。その理由は諸説ありますが、連載初期からも表情にトーンで影を入れて感情の機微を表現していたので、単に作者の富樫義博先生は陰影が好きだったのかもしれません。
では陰影でなにが生まれるかというと、表面的な明るさと裏にある不安感です。忖度ではありませんが、絵全体から流れる空気感を読み取らせるためか、カラーはすすけたような浅い色を使い、線もすっと流れるように描いています。しかし『ドラゴンボール』の愛嬌あるモンスターとは違って、モブの妖怪たちはグロいし、気持ち悪さが際立ちます。
展示されていた同じ作者による『レベルE』の扉絵は、絵画でいえばシュルレアリスム(※フランス発の、シュールの語源になった思想活動。夢を覗いているかのような非現実感があり、見る者に混乱、不可思議さをもたらす)。『幽遊白書』、『レベルE』どちらのストーリーも、読者の想定の少し斜めをいくシニカルなナンセンスさが根底にあり、大人になって読み返すと、センスしか感じられない台詞と相まって存分に楽しめます。
◆リアルで奇抜。カメラレンズを通して見るようなJOJOの世界
真似したくなるキメキメのポージングに、ハイ・ファッションセンス。
ようこそ、荒木飛呂彦ワールドへ。
『ジョジョの奇妙な冒険』は主人公がライバルと闘い、助け合いながら悪敵を倒す、少年ジャンプらしいザ・王道バトル漫画ですが、カラー原稿はファッション誌さながらのオシャレさ。
ファッション誌のモデルよろしくヘルシーな筋肉美をさらけ出す登場人物は、2013年にラグジュアリーブランドGUCCIのショーウィンドウに飾られても引けを取らないほど。そんな彼らの個性をビンビンに感じるオートクチュールのようなファッション&カラーは、時間と空間を飛び越え、今なお世界に新鮮な驚きを与えてくれます。
そんな奇抜な見た目ながらも、背景は現実世界とリンクするような地下鉄や街の風景で、なんだかリアル。そのためカラー原稿を見ると、スーパーモデルを撮影するカメラのレンズを覗いているような錯覚さえ起こしてしまうのです。これでもかと「格好良い」を前面に押し出す絵に、思わず気圧されてしまうかもしれません。
お土産たち。既に売り切れになっているものもあるので急ぎましょう
◆ドラマティックな試合展開を後押しする『SLAM DUNK』の絵画表現
不良高校生の主人公・桜木花道がバスケットボール選手へと成長していく青春スポーツ漫画『SLAM DUNK』のカラー原稿は、これまでの3つと違う様子です。
キャラクターがモデルのようにキメ顔をする表紙や扉絵とは違い、『SLAM DUNK』のカラーに登場する人物たちはスナップ写真のように自然体です。試合ならではのライブ感ある動きと表情が細やかに描かれているのも、ひとつの特徴ですが、それをさらにドラマティックに演出しているのは絵画表現によるものと考えられます。
絵画表現とは、文字に頼らず、絵だけで鑑賞者に人物の想いや次の行動を読み取らせるための表現です。赤木キャプテンの勝利を掴みたいという熱い想いをパステル(だと思う)で厚く塗り(25巻表紙)、仙道や牧のしなやかなプレイと余裕さを表すには輪郭線がない水彩画で描く(16巻表紙)など、画材を使い分けています。本編があるのに最大限に装飾して、扉絵や表紙でわざわざ人物の内面やシーンを伝えようとするのは珍しいと思いました。
余談ですが、絵から読み取らせようとする思惑は本編のインターハイ本選 対山王戦のラストも同じです。このシーンでは台詞は出てこず、ルールの注釈もありません。読者はそれまでのストーリーを通じて、桜木と共にバスケを学んでいるため、このラスト47.5秒を一観客として臨めるのです。この山王戦は、スペシャルムービー『47.5秒の奇跡』として会場で流しているので是非見てみてください。
◆アートのように見れて、アートよりもっと身近な漫画
たった4人の作家しかご紹介していませんが、これだけ違う作風に出会うことができました。もちろん描き溜めもあると思いますが、賞味一週間で仕上げていたと考えると、尊敬以外の念が浮かびません。
漫画も絵画も、総合芸術だと考えています。ストーリー、キャラクター(の表情、演技)、構図、色、ロケーション、社会背景などなど。それらが複合的に組み合わさることで、やっと表現できるものなのです。
しかし漫画は起承転結のストーリーが付随し、もっとその世界観に浸かることができます。しかもその作品を手元に置き、気が向いたときに眺められる気軽さは、ファンとしては嬉しい限り。ジャンプに初めて触れた人もこの機会にコミックを手に取ってみてはいかがでしょうか。
今回は90年代をメーンとしたVOL.2でしたが、7月17日からは2000年代掲載漫画をピックアップしたVOL.3が開催されます。2000年代は原作者と作画者が分かれることも多くなり、絵に特化した生原稿を楽しむチャンスが増えるかも!
創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展 VOL.2 -1990年代、発行部数653万部の衝撃-
開催期間:2018年3月19日(月)~6月17日(日) ※会期中無休
開催場所:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
開催時間:10:00~20:00
※2018年4月28日(土)から2018年5月6日(日)の間のみ9:00~21:00
※最終入館は30分前
※5月26日(土)は「六本木アートナイト2018」のため、開館時間を22:00まで延長
チケット:当日券…一般/学生 2,000円 高校生/中学生 1,500円 4歳~小学生 800円
※その他の券種についての詳しい情報はこちら
公式サイト:https://shonenjump-ten.com/