【徒歩で125 km】廃線になった三江線の全駅を死にそうになりながら記録してきた

廃止となったJR三江線を、ライターのpatoが再び訪問!2018年3月末までの営業をもって惜しまれながらも廃線となったJR三江線の全駅を、patoが歩いて巡ります。島根県江津市・江津駅から広島県三次市・三次駅までの35駅、総歩行距離125km以上の道のりを、旅の記録にアプリ「駅メモ! - ステーションメモリーズ!-」と「駅メモ!おでかけカメラ」を使用しながらレポートします。(読了時間:40分)

駅No.28 式敷駅 18:05 徒歩109.3 km

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暗くて怖い感じだったので、別に駅舎に入れなくてもいいんだけど、と思いつつドアを開けてみたら思いっきり開いた。

 

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なんかめちゃくちゃこえーよ。ブタの人形が夜中に勝手に動き出してそうだよ。誰が何の目的で置いているんだ、この人形。

 

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こうして「でんこ」と撮影すると、暗くて不気味な駅も二人で肝試しにきたみたいでなんとかジョイフルなものになる。彼女の名前は「もみじ」。お調子者で賑やかなムードーメーカー。人懐っこく誰とでも仲良くなるのが得意、とのこと。こういう子が肝試しで弱い部分を見せるからいいんっすよ!

さて、完全に日が落ちてしまい、真っ暗になってしまったがあと7駅訪問しなくてはならない。行ったとしても暗すぎて何も分からないよ、という思いもあるが、行かなければならないのだ。そこに駅が、かつての駅があるのだから行かなければならない。幸いなことに、ここからの7駅は駅間の距離がまあまあ短い。がんばって歩けばそう時間はかからないはずだ。

ここからの道のりは集落と集落を結ぶようなか細い道路が頼りとなる。車がすれ違えないような道が延々と続く。川の向こう側に伸びる国道を通れば歩きやすいが、かなりの遠回りになってしまうので細い道を行く。細く暗い道。街灯もほとんどないので、まずもって写真撮影ができない。

 

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こんなものしか撮影できない。というか下手に撮影して心霊写真とか撮れたらどうするんだ。それも撮影者を呪うタイプのやつ。と思ったけど、幽霊すらもここは人が来ないやろ、もうちょい人通り多いところいこか、となりそうだなって思った。

道路脇の森の中からは聞いたことないような種類の獣の鳴き声が聞こえてくる。むちゃくちゃ怖い。絶対になにかいる。

やっとこさ数件の集落があり、駅がありそうな雰囲気の場所に躍り出ることができた。

 

駅No.29 信木駅 18:25 徒歩111.2 km

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よっしゃー! 信木駅だぞー! と意気揚々とチェックインしたら次の所木駅が取れてまった。駅の真横でチェックインしたのになぜか次の駅が取れるという謎の現象だった。たぶん強烈な魔力により位置情報が狂っていたに違いない。なんとか次の駅で「あれ信木駅が取れてない」と気が付いてレーダーで取れたのでよかった。このまま取り忘れていたらこの駅だけ後日取りに来る羽目になっていた。危なかった。

三江線におけるスタンダードな駅構造ともいえる駅だ。

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トイレはあるけど立入禁止の向こう側なので入れない。まあ、正直に言うとこの闇の中でこのトイレには入ろうとは思わない。

 

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完全に闇だぜ、これ。彼女の名前は「まりか」。お姉さん的なセクシーでんこ。秘密をいっぱいもっているらしい。

そういえば、以前にここに来た時には、もちろん駅もまだ健在で、駅ノートが置かれていたりなんかしたのだけど、その駅ノートにはしきりに「ここで熊の唸り声を聞きました。駅から少し上がった場所です、気を付けて!」と書かれていた。

もし、この闇夜で熊が出てきたら完全にやられるぞとか考えていた。まあ、闇夜じゃなくとも熊が出てきたら完全にやられるのだろうけど、本当に出てきたらどうしようと考えながら歩いていた。

ただ、勘違いしてはいけない。何かの本で読んだのだけど熊だってよほど飢えているだとか、縄張りを侵しただとか、そういったことがない限り人間を襲わないという説があるのだ。熊だって人間が怖い。ただ出合い頭で遭遇してしまった時など、いたしかたなく襲っているというのだ。つまり、熊避けの鈴って効果があって、ここに人間がいるよ、と熊に教えてあげて、出合い頭での遭遇を防ぐのだ。

あいにく、僕は熊避けの鈴をもっていなかったけれども、別に鈴じゃなくとも人間にしか出せない音を出しながら歩けばいいと考え、B’zを熱唱しながら歩いていた。イチブトゼンブとかクソ熱唱しながら歩いていた。なぜかB’zなら熊も逃げ出すと頑なに信じていた。B’zならきっと……。

 

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かなり寂しい場所を歩いていたんだけど、またポツポツと畑だとか民家だとかが見えてきて、見覚えのある大きな家が見えてきた。そうそう、この大きな家の庭なんじゃないの? って言いたくなる場所に次の駅があるんだった。もう駅は近いぞ。ウルトラソウル!

 

駅No.30 所木駅 18:47 徒歩113.2 km

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この駅は、本当に民家の脇にあって、ホームに備えられた簡易的な待合所も、この民家の物置かと勘違いするような位置にあった。脇道を入って行ったらそのままホーム、みたいな構造だったのだけど、このように脇道の段階で立ち入り禁止になっていて、おまけにこの闇夜だ。ホームの様子を窺い知ることはできなかった。

隣の民家からものすごく家庭団欒っぽい音が聞こえてきて、なんだか妙に安心した。ここにも人が住んでいるのだ。そう考えるとホッとする。

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相変わらず何が何やら、である。彼女も四国お遍路編で大活躍した「でんこ」、つむぎである。ミステリアスでマイペースな性格。そう考えると暗闇が背景というのも似合っているのかもしれない。

次の駅に向かって歩き出すのだけど、疲労と痛みと恐怖でだんだん意識が朦朧としてくるのが分かった。そうなってくると、あとで見返した時に「なんだこりゃ」と叫びたくなる画像を撮影していることが多い。

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一体僕はこれに何を見出して撮影したのか。記事を書く手を止めて1時間くらい考えてみたけど、ついに分からなかった。何がしたかったんだ。

 

駅No.31 船佐駅 19:05 徒歩114.7 km

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船佐駅は変わった構造をしている駅で、ホームの前に広がる空き地の隅にポツンと駅舎がある。ホーム自体も柵とか壁がない構造なので、強固に封鎖してホームへの立ち入りを阻止してきたこれまでの駅とは大きく異なっていた。なんか簡単に入れそうだったけど、暗いし怖いし、どうせろくに撮影もできないだろうからホームには上がらなかった。

歩きながらどうせこの駅も完全なる闇だろうと予想していたけど、事情が違った。

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離れた場所にポツンとある駅舎に明かりが灯っていた。なんでだろう。

ここまでかなりの闇の中を歩いてきて目が慣れていたので、この駅舎の明かりが死ぬほど眩しい。ただ、やったー! 明るいぞ! とはならず、廃線になった路線の無人駅、それも周りに2軒くらいしか人家がないような場所の駅に明かりが灯っているなんて、よくよく考えたら不気味だ。なにかあるんじゃないだろうかと考えてしまう。すーっと明かりに吸い寄せられて駅舎に入ったら、そのまま異世界に連れていかれたりするんじゃないだろうか。

 

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おそるおそる入ってみると、別に異世界とには誘われず、普通に待合室があった。駅ノートも健在であった。もしかしたら僕の前にこの駅を訪れた人が消し忘れただけなのかもしれない。

 

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とにかく、明かりがついていること自体は大変ありがたい。久々にまともに「でんこ」と撮影ができた。ここで満を持してお気に入りのマコ投入である。

さて、いよいよ次は三江線随一の秘境駅「長谷駅」である。長谷駅は三江線が運行していた時でも、停車する列車の本数が少なく、到達困難な秘境駅としてファンの間で人気があった。1日2本か3本くらいしか停車しなかった。ただまあ、三江線が廃線となった今、ほぼ全ての駅が列車では到達困難な秘境駅なので、そこまで気負う必要はない。秘境駅、もうここまで30個くらいは経験してきた。

道路がどんどん細くなり、左右の茂みも激しさを増していく。民家の明かりすらない状況で、登山用のヘッドライトだけを頼りに突き進んでいく。この世で自分一人、みたいな錯覚に陥りながらも進んでいく。

月が見えた。遠くの山の上に見える月にうっすらと雲がかかっていた。その月が姿を隠していくかのように頼りであった外灯の明かりが遠いものになっていて、寂しさのあまりひとかどの男子だと思っていた僕も衣の袖が涙でしみ通るほど濡れてしまった。

疲労のために激しく揺れる感情を抱き、ついに秘境駅へと到達した。

 

駅No.32 長谷駅 19:34 徒歩116.9 km

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めちゃくちゃ雰囲気がある。なんというか貫禄がある佇まいだ。けっこう手前で封鎖されているのでホームがどうなっているのか全く分からない。ただ、この駅は階段を上ってホームに出る手前に駅舎というか待合所みたいな小屋がある、そこが駅の本体みたいところがある。

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完全に貫禄がある。ホラーゲームとかに出てきそうな雰囲気がプンプンしてくる。ゲーム内でちょっとした武器が取れる場所っぽい。この小屋の中、以前は秘境駅である長谷駅を愛する人たちのメッセージやらイラストやら駅ノートで溢れていた。もともと電気がないので分かりづらいけど、頑張って撮影してみるとこんな感じ。

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あれだけあったメッセージ系の物品は全てなくなって片づけられていた。なんだかちょっと切ないね。

 

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誰が貼ったのか入口にメッセージが残されていた。

 

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駅名表示板の枠組みだけがホームに立っている光景が闇夜の中に見えた。

 

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暗くて怖い駅なので少し勝気そうな「でんこ」を投入である。彼女の名前は「マリン」超わがまま、ドSなお嬢様、そのプライドは山より高い、とある。大変たのもしい。

秘境駅はさすがの貫禄だったなあ、と唸りながらまた闇に向かって突き進んでいく。ついに残すはあと3駅だ。ゴールは近い。

また茂みから謎の動物の鳴き声が聞こえてきた。僕のB’zにも熱が入る。絶対にないことだろうけど、僕と同じように歩いて三江線を巡っている人がいて、僕の熱唱に遭遇した人がいたら死ぬほど怖いと思う。闇夜から謎に「ウルトラソウッドーン!」とか聞こえてくるのだ。ひょっとしたら熊より怖いかもしれない。

完全なる闇が終わり、ちょっと集落とか出てきて外灯もでてきたところで次の駅に到着となった。

 

駅No.33 粟屋駅 20:08 徒歩119.5 km

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粟屋駅周辺に近づいてくると、突如として道路が綺麗になり道幅も広くなる。それまでこれは地獄に続いているのでは? といった道路を歩いていただけに、まるで現世に帰ってきたような錯覚に陥る。

 

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ここも船佐駅と同じような構造のホームだったが、こちらはロープが張り巡らされていた。

 

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うっすらと駅名見えるね。「メイ」、純真無垢で世間知らずな幼い「でんこ」。たとえ「でんこ」と言えども幼い子がこんな闇にいるのは良くない気がしてきた。

この駅まで来たらもう三次までついたようなものだ。少し頑張って進めば川が見えてくる。それを渡りきれば三次の市街地となる。さすがに市街地ともなれば熊も出ないだろうから、もうB’zを熱唱しながら歩く必要がなくなる。あとわずかとなった森の闇を進んでいく。

そう言えば、全然脈略ないけど、数カ月前に中四国地方で放送されたラジオに電話出演した。そのことを思い出した。廃線となる三江線を惜しむという内容の番組で、三江線にまつわる多くのゲストが電話出演する中、三江線全駅をほぼ徒歩で歩いた頭のおかしい男という位置づけで出演した。

その際に、司会の方から、「これから三江線を歩く方にお勧めするとしたらどこをお勧めしますか?」と質問された。番組の趣旨的に「できればどこも歩かない方がいい、レンタカーで行くべき」などといった本音の発言はまずいと感じ取り、僕はとっさに「式敷駅から粟屋駅の間ですね。歩くなら」と答えた。

その理由を聞かれ、「川と細い道路がずっと並行していて、景色が綺麗なんス、オススメっす!」と答えた。振り返ってみると、そうやってラジオでオススメした区間、ずっと闇夜の中を歩いているじゃねえか。何が景色が綺麗だからオススメっす、だ。見えねえよ。自分で勧めておいてなんたることだ。

そんな良く分からないことをブツブツ言いながら歩いていると、はるか向こうに街の明かりが見えた。

「三次の街だ」

安堵した。いよいよあと2駅でこの地獄のような旅も終わるのだ。

 

駅No.34 尾関山駅 20:59徒歩123.4 km

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この駅は完全に三次市の市街地にある。コンビニもある、自販機もある、そして人が歩いているし、車もビュンビュン走っている。そんなマンハッタンを彷彿とさせる大都会の中心に駅がある。ただ、非常に謎めいた現象が巻き起こっていた。

この駅は駅舎とホームが分離された構造になっていて、もちろん、ホームに立ち入ることはできない。それでも駅舎ぐらいはと思ったのだけど、この駅舎も完全に扉が閉ざされていて入ることができない。

では、なぜ電気が点灯しているのか、という部分に行きあたる。そう、例えば船佐駅のように誰でも入ることができる駅舎に電灯が灯っていたとしてもさして不思議ではない。誰かがつけたんだろ、となる。しかし、誰も入ることができないのになぜ点灯しているのか。

これは一つの仮説なのだけど、もともと尾関山駅は無人駅だった。ただ無人駅と言えども街中にある駅なので、そこが暗闇ではまずい、電灯をつけなくては、そうなったのかもしれない。じゃあ誰が点灯したり消灯したりするのか、無人駅だぜ、となったはずだ。そこで時間がきたら点灯し、夜遅くなったら消灯するようなタイマーが設置されたのではないだろうか。

こうして、三江線が動いている間、尾関山駅では夜になると電灯が灯り、何時かになると消えるようになっていた。たぶんそうなのだろうと思う。

問題は廃線後である。もしかしたらなのだけど、ホームの電灯などは廃線と同時に使えなくしたが、駅舎に関して、その電灯のタイマーを切り忘れたんじゃないだろうか。列車の来なくなった尾関山駅の駅舎だけど、あの日のように夜になると電灯が灯り続けているのではないだろうか。

列車も、人も、何も来なくなった駅でシステムだけが動いている。人類が滅亡した後の地球でもシステムだけが動いているSFみてえだ。なんとも味わい深い。いや、もしかしたらどこかから入ることができて誰かがつけっぱなしにしただけの話なのかもしれないけど。

 

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電気がついてるー! って感じの画像が撮れた。彼女もまたお遍路編で大活躍した「でんこ」だ。名前は「なつめ」という。すごくいいスキルを持っている。

いよいよ最後の三次駅だ。もう足が痛いんだか何が痛んだか全くわからない状態。そんな満身創痍の体を引きずって市街地を歩く。あちこちにコンビニあるのに、入る気すらしない。それだけ疲れ果てている。

都会ってすごいなあと考えながら歩く。そしてついに三次駅に到達した。

 

駅No.35 三次駅 21:25 徒歩125.4 km

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説明するまでもないが、三次駅はバリバリ現役で稼働している駅だ。芸備線が通り、福塩線の起点となる駅だ。駅も大きくて綺麗だ。その駅にやっと到着できた安堵で座り込んでしまう。

ここで、まっこと申し訳なくて謝らなければならないのだけど、あまりにも疲労困憊で意識も朦朧とし、気が抜けたこともあってか、最後におでかけカメラで「でんこ」と三次駅を撮影しようとしたのに、間違って普通のカメラで撮影してしまった。大変なことですよこれは。途中の駅でも1回失敗しましたけど、最後の最後でも大失敗ですよ。前の失敗は撮影し忘れですけど、今回は撮影したと思い込んでて普通のカメラですからね。なんで撮影できたと思いこんでいたなんだろう。レンズ越しに「でんこ」の幻覚を見たとしか思えない。

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でもほら、こうすることでね。あれですよ。最後の三次駅は皆さんの心の中の「でんこ」をここに当てはめてください。ほら、「でんこ」が笑ってる。でもきっとアナタも笑ってますよ。ってできるじゃないですか。これはこれで良しですよ。うんうん、いい感じですよ、これは。

ということで、三江線全駅訪問、おでかけカメラで撮影達成、ということでいかがでしょうか。

ちなみに、三江線の廃線によって、駅メモにおいて三江線の駅35個を取るにはかなり難易度が上がったと言えます。僕のように徒歩で巡るのがベストですが、さすがにそれがきつい、効率良く取りたいという場合は当たり前ですが、車の利用をおススメします。

その場合、江津からは国道261号線を通りながら適宜チェックインすれば駅を訪問しなくとも因原駅までは全て取れます。因原からは県道40号線に入って粕淵駅まで取り、あとは国道375号線から全て取れると思います。ただ、宇都井駅と式敷駅は少し国道から離れていて取りにくいので、その場合は少し駅に近づいてください。こうすれば、駅を訪問しなくとも全ての駅を効率的に取ることができます。まあ、本音を言えば徒歩で行って地獄をみて欲しいですけど。

ということで、三江線全駅踏破、旅のまとめはこちら。

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2018年3月31日、最終列車が通り過ぎた瞬間、三江線は廃線となった。同時に三次と江津を除く全ての駅が廃駅となったのだ。

「廃線」とは特別なことだろうか。

人口が減りゆき、都市への集中が起こるこの国では、もうさして特別なことではないのかもしれない。これから当たり前のように起こることなのかもしれない。僕が巡ってきた廃線後の三江線の景色は、これからこの国で沢山起こる光景の一部分なのかもしれないのだ。では、廃線となったその地域は死んでしまうのだろうか。

そんなことはなかった。

そこでは多くの人が廃線前と変わらず生活しているのだ。僕らはニュースで遠い町の廃線の報を聞く。少しだけ廃線に沸き、廃線特需だってあるかもしれない。僕らの中ではそこで終わってしまう話なのかもしれないが、そこには廃線後も町があり人の生活があるのだ。きっと僕らには分からない不便さがあるのだろうけど、それでも生活は続いていくのだ。

変わらず畑を耕すおばちゃん。ロックに生きる婆さん。イベントを主催する人たち。レールカフェを出店する人たち。洗濯物を干す人。代替バスを運転する人。遊ぶ子供たち。そこには三江線沿線の生活が変わらずあるのだ。レールが錆び、線路に雑草が茂ろうとも、そこには人がいるのだ。

それを踏まえて、昨今よく聞かれる「地域活性化」とはなんだろうかと考える。地方、特に過疎に悩む地域をなんとかしようという試みだ。地域を活性化し過疎を食い止める多くの試みがなされているが、果たしてそれらの活性化は本当に効果があるのだろうか。

都会のコーヒーショップを田舎に持ってくるのが地域活性化だろうか。意識の高い人たちが田舎に集まってオシャレなことをするのが地域活性化だろうか。よくわからない箱物や銅像を作ることが地域活性化だろうか。ネットでバズるPR動画を作ることが地域活性化だろうか。僕にも正解はわからない。ただ、活性化の先に田舎を都会にするという思いがあるなら、それは確実に失敗するのではないだろうか。

三江線のとある駅で読んだ駅ノートに興味深いことが書いてあった。それは、まだ三江線が動いているときに、いまからこの駅からアメリカに旅立っていく、という一人の若者の決意を書いたものだった。この小さな駅にも思い出がたくさんあり、そしてそれがアメリカという私の夢に繋がっている。そう書いてあった。

三江線が開業し、廃線となるまでの約半世紀のあいだ、三江線とその駅には多くのドラマがあったはずだ。

誰かが別れ、誰かが再会した。誰かが夢をもって旅立ち、誰かが夢破れて帰ってきた。誰かが暖かく包まれおかえりなさいと声をかけられれば、誰かが家族と友人に見送られ、誰かが好きな女をこっそり見送りにきた。人の数、駅の数だけそこにドラマと想いがあったのだ。

三江線の廃止により、そのまま過疎化が進行していき、この沿線地域は活性化なしでは生き残れないかもしれない。ただ、そこで田舎に都会の一部をもってくるような活性化をしても意味がない気がするのだ。住んでいる人々の思い出、そこに寄り添う活性化こそが肝要である気がするのだ。住む人の思い出をより良い形で外の人に見せることに活路がある気がする。そしてなにより、そこに住む人が思い出を抱いて安らかに生活できなければ意味がないのだ。

今回、チェックインに用いた駅メモ!は実は明確なゲームコンセプトを持っている。未来の世界では移動手段の個人化が進み大勢で移動するための駅や鉄道が消滅寸前だというのだ。それを阻止するため、未来を変えるために駅に集まる人々の「思い出」を集めるというものだ。奇しくも僕が廃線を巡り、多くの駅の思い出を集めた行動がそのままゲームコンセプトに合致しているように思う。

三江線はもう廃止になってしまった。けれども、この鉄道と駅には多くの思い出が残っているはずだ。それらを生かす形で活性化が進み、いつまでも沿線の人々が平穏に暮らしていける、そうなって欲しいと願うのだ。

三江線の駅も線路も鉄橋もトンネルも、きっと朽ちていくだろう。もしかしたら撤去されるのかもしれない。解体されてなくなるのかもしれない。それでも僕は忘れずにいようと思う。ここにはかつて三江線という鉄道があったのだと。それこそがステーションメモリーズなのだ。

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