【ロシア9,288 km】シベリア鉄道に乗って東京の一戸建てをアピールしてきた【6泊7日電車】PR

「ロシアのシベリア鉄道にのってみたい」と言ったライターpatoさん。ウラジオストクからモスクワまでの全行程、移動も宿泊も全部電車の果てしない旅に出ました。 ※記事読了時間目安 : 45分

5日目 5:58 ウヤル駅付近 モスクワまで4100 km(乗車時間84時間48分)

夜中、すげえ寒かった。あと、電車の運転が乱暴でめちゃくちゃ揺れた。だからなのかまだ薄暗い時間に目が覚めてしまった。

寝ている間にタイムゾーンがまた変わったらしく、1時間巻き戻っていた。そう考えると、だいたいいつもの時間に起きたということか。

夜中に停車した駅で誰かが乗ってきたらしく、ずっと空いていたインテリ側の上段にも誰かが寝ていた。布団に包まっているのでどんなやつなのかは分からない。

それにしてもとにかく寒い。あまりの寒さに、途中駅から乗ってきた小さな子供などスキーに行くみたいな服装をしているのに、こちらは半袖半ズボンだ。そろそろ暖かい恰好をしなきゃとは思うのだけど、カバンから出すことが面倒くさい。

こうして長いこと乗車し、好きなように過ごしているとあらゆることが面倒になってくる。最初は、めっちゃ読書するぞ、なんなら旅しながら旅の記事をむちゃくちゃ書くぞ、くらい希望に燃えてパソコンまで持ってきていたが、何もする気にならない。ぼーっとしていたいのだ。その極地が、寒いのにカバンから服を出すことが面倒くさい、だ。けっこう来るところまで来たような気がする。人間こうなったらおしまいだ。

ただ、これは何も僕だけではなくて、周りの乗客もそんな感じだ。通路側の金髪おばちゃんは昨日くらいから寝床を片付けて机を設置することを拒否した。布団の上でご飯を食べだした。ロシア人は死んでも机でご飯を食べるというマナーがある、とこの記事の前半にドヤ顔で言い切った僕のうんちくを返して欲しい。

さらにおばちゃんは、とにかく面倒なのかどんなに長い停車時間であっても降りてこなくなってしまった。寝床に腰掛け、即身仏になろうとしているかのように鎮座しておられる。インテリもサラミも同様に疲れていた。もちろん、僕も疲れていた。

 

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しばらく無の境地に浸っていたら空が明るくなってきて、そこそこの街並みが見えるようになってきた。なんて名前の街なのかは分からない。調べるのもまあまあ面倒くさい。

 

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僕が乗車するシベリア鉄道ロシア号はいわば特急列車だ。小さな駅はガンガン飛ばして通過していく。それでも距離が長いので停車駅も相当な数だが、通過駅はその何倍もある。飛ばされる名前も知らない駅のホームを歩く人の姿が見えた。これから仕事に行くような佇まいだ。

こんな遠きロシアの名前も知らない街でも朝がやってきて、その朝に属する誰かは決められた時間に仕事に向かって歩いている。そう考えるとなんだか奇妙な気がした。僕が認識しない世界は僕にとって存在していることになるのか、という問いかけが頭の中に浮かんできたのだ。つまり、こうやって僕の知らない景色があると同時に、僕自身も他の誰かに認識されない景色であるのだ。そう考えると、いま、僕が知らない駅で歩いている人を目撃したことはすごいことだ。

さらに考えが絡み合ってきた。僕は昔からデカいヘッドホンをして街を歩いている女は全員エロいと考えていた。それはそういったデカいヘッドホンをした女がエロかった経験があるわけではなく、単純に好みなのだと思う。つまり、デカいヘッドホンをしたエロい女という存在を一度も認識したことがないにも関わらず、僕はその存在を強く信じてやまないのだ。

つまり、遠い町の誰かも僕が認識していないのに存在するわけだ。そう考えるとデカいヘッドホンをしたエロい女も必ず存在するはずだ。これはすごいことで、認識以外に意識を拡張することであらゆる自分の中の妄想が現実化する。

これと同じ考え方で、円周率にはあらゆる情報が入っていると考えることができる。無限に桁が続くし、その数字も同じものの繰り返しではなくランダムだ。つまり、円周率の中には偶然にも、ある数字の並びが出現し、それを文字に変換すると、「銀河鉄道の夜」が丸々記述された箇所が存在する。無限に続くので必ずどこかはそうなる。つまり円周率はこの世のあらゆる情報を含んでいるのだ。無限に続く中で認識していないだけでとんでもなく面白い物語が記述されていることもあるのだ。きっとものすごい官能小説も記載されている。

とどのつまり、あらゆるものを含む円周率はエロい。パイだしな。ついでに同じ理論でデカいヘッドホンをつけて街を歩く女はエロい、ということなのである。

訳のわからない事柄が浮かんでは消えていく。乗車も5日目となり、いよいよ頭が狂ってきたようだ。

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名前を知らない街はかなり大きい街のようで、マンションと思われる立派な建物が登場してきた。めちゃくちゃ整備された道路まで登場だ。ここまで立派だと無視できない、なんという街なのか調べる。

たぶんクラスノヤルスクという街だ。人口が90万人くらいあってかなり大きい街だ。ここまで訪れた中で最大の都会っぷりだった。当然、これだけ大きな町なので次の駅には停まるようだ。

 

8:03 クラスノヤルスク駅 モスクワまで4065 km(乗車時間86時間53分)

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さすが人口90万人の大都市駅である。

 

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電光掲示板みたいなものが登場してくる。かなり近代的だ。

 

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ホームが工事中らしく、あちこちに土が積まれているし、ホームの端の部分などスノコで代用されている。そこを平気で人が歩いていくのだ。この辺のアバウトさが実にロシアっぽい。

この旅の最初の方で「ロシア鉄道の駅には基本的に改札がない」という話をした。だからホームは基本的に誰でも入れる。ただ、駅舎には荷物検査を経ないと入れないが、大抵の駅は駅舎を経由せずにホームに出られる構造になっている。つまり、ホームよりも駅舎に入るほうが難易度が高いという状態になっているのだ。

ホームには誰でも気軽に入れるので、近道だからという理由で中を歩いている人もいたりする。

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犬の散歩をしているマダムもいる。フリーダムすぎるだろ。

 

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なんかファニーな車両が飾ってあった。

 

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あと、この駅にもめちゃくちゃ綺麗な蒸気機関車が展示されていた。本当にロシアは蒸気機関車が好きなのだ。

近代的な駅でしたなあ、犬の散歩しているおばちゃんいるけど、などと考えながら発車の時間が近づいてきたので電車に乗り込むと、とんでもない事態が巻き起こった。

実は環境の変化に慣れないからなのか、ここ5日目まで全くウンコが出ていなかった。僕の長い人生においてこれだけウンコが出なかったことなどない。次に5日でない日があるとするならば死体となった時だ。それくらい珍しいことだ。

きっといま、腹の中では5日分ぎっしり溜まっているはずだ。それは楽しみのようでもあり、少し恐怖でもあり、という状態だった。この力が放出される時、とんでもないことが巻き起こるんじゃ、と思ったのだ。

そして、電車に乗り込んだ瞬間だった。ついにそのトキが来たのだ。

「すげえのがくる。でっけえ気だ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴという地鳴りが聞こえてくるかのようだった。急いでトイレへと向かう。5日分だ。とんでもないものが産み落とされる。少しだけ楽しみな気持ちが恐怖に勝ってきた。急いでトイレへと向かう。そこで途方もない光景を目にした。

トイレの個室が2つとも満員御礼ソールドアウトなのである。ソールドアウトどころか、何人かトイレの前に並んでいた。

実は、この電車のトイレはトイレとしての用途だけではない役割を担っていた。人々が長い間寝起きしている車両のトイレなので、歯磨きや洗顔などにも使われるのだ。まだ朝と言えるこの時間は。個室に入ってそれらのことをしている人が多い。

さらには、シャワーもない状態だし、個室もないので、特に女性陣はトイレ個室の中で着替えたり体を拭いたり、化粧をしたりする。つまり、朝方はかなりトイレが混みあうという事情があるのだ。しかも駅を出たタイミングなので、相当に混みあっていた。7日間で一番混んでるんじゃないか、という状態だった。とんでもないタイミングで開放の時がきてしまった。

これだけやばい状況だ。隣の車両とかに行ってトイレに行けばいいのではと考えるが、各車両は専属の車掌さんが守護していることは既に述べた。もちろんトイレも責任もって綺麗に掃除しているのが車掌さんだ。別の車両の小汚い人間がやってきて使おうとしようものなら烈火のごとく怒られる。五日分を産み落とすなんてとんでもない! つまり、今は耐え忍ぶ、それしかないのだ。

走り出した電車の振動が大変によろしくない。おまけに、ここトイレの前室で待っていたらそのまま出してしまった時に地獄だ。待っている人を地獄に巻き起こんではならないと、昨日発見した忍者屋敷みたいになっているカラクリゴミ箱に出すことになってしまう。これはもうテロに近い。それならば自分の座席に戻って横になっていたほうがいい。自分の座席ならいよいよとなったらカバンの中にするなどの回避策もとれる。

自分の座席に戻り、毛布にくるまって横になる。サラミが腹が立つくらいの笑顔を伴って降りてきて「食うか?」と小汚いパンを差し出してきたけど、さすがに断った。こっちは生きるか死ぬかの戦いをしているんだ。パンなんか食ってる場合じゃねえ。

少しでも楽になるようにとベルトを緩める。むしろ外す。5日分を漏らしたらどうなってしまうんだろうか。

map20_クラスノヤルスク駅

とりあえず言えることは、人生において最も緯度の高い場所で漏らしたウンコになるってことだ。一番北で漏らすウンコだ。もちろん一番西で漏らすウンコでもある。じゃあ2番目はどこだろうか。北海道で漏らした時か西なら長崎で漏らしたときか、などと考えていたらいよいよ臨界を迎えそうになってきた。さすがに5日分は精神論どうこうで乗り越えられるものではなかった。意識が遠のきかけた。おそらく気を失った瞬間に防御力が0となり、全てが終わる。

これだけ追い込まれたのはいつ以来だっただろうか。ああそうだ。横浜以来だ。横浜駅で道に迷っているときにお腹が痛くなって、トイレにいったら満員御礼ソールドアウト、このまま待つか、それとも別のトイレを探すか、迷った末に別のトイレを探しに地上に出た。そこで「ダメっ! まだ早い!」って腹を突き破って出てくる王みたいな感じになったんだ。あの横浜の惨劇以来か。そう、横浜だ。

 

あーーーーーー!

 

ミッション6

「東京だけじゃない! 特に神奈川にも力を入れている」

 

横浜と言えば神奈川じゃないか。神奈川と言えば横浜じゃないか。

オープンハウスは「東京に、家を持とう。」のコピーが強烈すぎて東京だけの販売会社と誤解されがちだが東京以外も数多く取り扱っている。東京23区内のみならず、都下、埼玉、神奈川でも家を建設して販売している。特に神奈川には力を入れており、川崎市や横浜市などに多数の物件がある。つまり「神奈川に、家を持とう。」でもあるのだ。トップページ(https://oh.openhouse-group.com/)には販売物件リストあるのでそちらで住みたい場所の物件を探しても良い。

2年前には関東圏を飛び出し、名古屋でも販売をはじめ、大きな実績を上げており、「名古屋に、家を持とう。」だし、もうしばらくしたら福岡でも始める予定で「福岡に、家を持とう。」になるようだ。そんなかなりの勢いで勢力を広げているイケイケのオープンハウスだ。そんなイケイケの会社が「東京の一戸建てのPRをシベリアでやれ」なんて言ってるわけで、さすがイケイケですなあと唸るしかない状態だ。

は? さすがに強引すぎる? その繋ぎは無理があるって? 言っておきますけど、最初から無理だらけですよ、この旅は。こっちが文句言いたいくらいだわ。

でも、さすがに腹痛からミッションクリアはまずいんじゃないかって意見もあると思います。でも僕はお腹が痛いんですよ。5日分を堰き止めているんですよ。え? それでもロシアと関係なさすぎる? 当たり前だろ、神奈川だぞ、最初からロシアとは関係ないわ。

わかった、わかった。そんなに言うならもうちょっと濃密にこの旅と神奈川を絡ませますよ。それで満足なんでしょ。

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みてごらんなさい。この画像。これは2日目、ベロゴルスクI駅での停車中の画像なんですけど、画面下部にウンコ座りしてタバコ吸う若者二人、その横に電車に詰めている警察官みたいな人が立っているでしょう。ちょっと使えないなって思ってボツにしていた画像です。余談ですが奥の方に隙あらば日焼けしようとするおっさんも写っています。また脱いで日焼けしようとしているところです。

でね、僕こういう光景を見たことがあるんですよ。見たことあるんです。それも日本においてです。

あれは国道沿いのコンビニでした。夜中にドライブしていて小腹が空いたのでちょっとおにぎりを買おうとコンビニに寄ったんです。すると、コンビニの前に不穏な輩がたむろしていたんです。この画像のようにウンコ座りしてタバコ吸っているんです。

うわー、店に入りづらいな、絡まれたらどうしよう。って思いながら見ているとおもむろにパトカーが入ってきてですね、中から警察官が出てきたんです。きっと誰かが通報したんでしょうね。

危険を冒して今入店するより、警察官がアウトローを排除してから入店しようと様子を見守ることにしたんです。

「店に迷惑だから早く帰りなさい」

と注意するのですが、若者は聞きません。

「迷惑じゃないっすよ~」

とか軽い感じで言っている。迷惑だわ。

「だいたい君たち未成年じゃないのか。タバコなんて吸って」

と、若者たちがあまりに若いことに警察の人も着目しました。

「成人っすよ~」

とか若者も返すんですけど、どう見ても成人には見えない。

「じゃあ、今が平成何年か言ってみろ!」

と警察官の方が言ったんです。僕は「はてな?」ってなりましたね。

たぶん、何年生まれか言ってみろって言いたかったんだと思います。嘘の年齢を言っていたら咄嗟に出てきませんからね。それなのに、間違えて今が何年なのか聞いているんです。

「何年だっけ? 29年?(その時は平成28年でした)」

しかし、今が平成何年かも答えられない若者。

「言えないじゃないか。ほらみたことか未成年だろ!」

自分の言い間違いに気付いていない警察官。

そんなやり取りがあったのです。何から何まですべてすれ違い、みたいな悲しい光景ですよ。で、その不思議な光景が、厚木という街のコンビニで繰り広げられていたのです。そう、厚木といえば神奈川です。

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ということで、この画像は厚木の画像です。神奈川の画像です。今にも「今は平成何年だ」という声が聞こえてきそうではないですか。ということですいませんね。

 

ミッション7

今日も非常にナチュラルにミッションを達成することに成功し、いよいよ残されたミッションも僅かになってきました。このペースでいけば全部達成できるか。いや、アメリカはさすがに難易度が高すぎるか。

まさか腹痛で苦しんでいる時もPRをクリアするとは思わなかった。なんとか腹痛と戦い、悶絶していたらトイレが空いたっぽい感じがしたので布団から飛び出し、トイレに向かった。その刹那、ベルトを緩めていあたたことを忘れていてペロンとズボンがずり落ち、引っかかって転んだ。転んだ衝撃で全部出るかと思った。

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なんとか無事に5日分を放出し、落ち着いて景色を眺められるようになった。重厚な雲が空を覆い始めていた。

 

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上の段からのそっとサラミが降りてきて僕の隣に座る。紅茶のもうぜとか、さっきは尻丸出しで転んでいたな、とか言ってくる。めっちゃウンコ出たわとかそんなどうでもいい情報を交換した。

 

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雰囲気のある工場みたいなものあるなーと撮影していると、手前に何かあるのに気が付いた。

 

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3,847kmポストだ。モスクワまで残り3,847kmということだ。思えばこの旅は9,288ポストから始まっているので、実に5,000km以上を進んだことになる。随分と遠くまで来たものだ。とにかく、精神的にかなり疲弊してきて、ここは神奈川だ! とか、デカいヘッドホンの女! とか訳の分からないことを言い出していたので、気持ちを切り替えたいと思う。いくぞ! ちゃんと旅日記にする。

 

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濃厚な雲、ロシアの特徴はこの雲だと思う。この国の雲は僕の国のものよりどうやら少しだけ厚く、濃いようだ。ずっとそんな光景ばかりをみてきた。ずっと遠くまで広がる平原の上にぽっかり浮かぶそれらの雲は少しだけ優しさを帯びているような気がした。雲を眺めていると少しだけお腹が減ってきた。

また日本の味が恋しくなった。

ここで食べるラーメンは死ぬほど辛い、日本の味として持ってきた大入りのスルメは一瞬で消え去った。でも僕には最終兵器がある。日本からラーメンを持ってきていたのだ。

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バカバカバカ。なんでこんなちょっと辛い寄りのラーメンもってきたんだ。カレー味じゃねえか。もっと他にもいろいろあったろ。こんな辛いラーメンばかりの展開になると思わなかったとは思うけど、もっといろいろあったろ。別にそんなこのカレー味のラーメン好きでもないだろ。なんでこれにしたんだ。

仕方ないので食べる。

朝から食べていい重さではなかった。

 

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川を渡った。

そこまで切り立った場所を通っていないという事情もあるだろう。平地ばかり通っているので車窓から見える川は基本的に穏やかだ。

 

14:06 マリインスク駅 モスクワまで3680 km(乗車時間 92時間56分)

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綺麗な駅だった。停車時間が33分と長そうなので、色々と探索してみることにした。

 

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乗車時間も100時間の大台に届こうとしている。途中から乗った客もかなりの時間になっている人が多いだろう。乗客たちは疲れているのか、ここまでの駅と比べて降りてくる人が少ないように感じた。

 

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向こうのホームに行きたいときはこういう渡り方をする。だいたいの駅には跨線橋があるし、大きな駅になると地下通路でホーム同士が繋がっていたりするが、それでもみんなこういうワイルドな渡り方をする。ホームが低いからだ。

 

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厚木っぽい感じがする。

 

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売店でも冷かしてみるかと近づいて見ると、なにやら人だかりが。

 

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売店のお菓子や飲み物とは別に、拡張した机で食料を売っているらしい。総菜を売る感覚だろうか。パンだとかピロシキだとか、あと謎の肉の塊とか売っていた。けっこう飛ぶように売れている。みんな先を争って買っている感じがする。日本でも、この駅の駅弁は有名、みたいなのあるし、もしかしたらロシアでもここの売店の総菜は極上、みたいに人気なのかもと、買う気もなかったのに購入してしまった。

 

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けっこう大きいピロシキだ。どのタイミングで食べようかとご満悦で歩いているとサラミが話しかけてきた。

 

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「まだ時間あるし、駅の外に行ってみようぜ」

確かにまだまだ停車時間はあるようだ。それに急遽時間を早めて出発すると、となっても放送で知らせてくれるだろう。サラミが一緒なら分かるしいいか、と行ってみることにした。

 

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駅の外に出ると、蒸気機関車が展示されていた。本当にどこの駅にもあるな。

 

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駅前は公園のように整備されていて、めちゃくちゃ綺麗。なんかすごく気分の良くなる公園だ。爽快な感じがしてくる。

 

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蒸気機関車もかっこいいアングルで撮影しておいた。近づいて見て分かったけど、掃除している人がいた。

 

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綺麗な駅舎をこちら側からも撮っておく。中にも入ってみたかったが、どうせ持ち物検査とかあるだろうからやめておいた。もうそこまでの時間はない。

「そろそろ行こうぜ、時間だ」

サラミがそう言って手招きする。急いで移動しようとしたその時だった。

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犬がいた。おお、犬だ。シベリアンハスキーかな? とか思って写真を撮っていたら、何やら犬の様子がおかしい。明らかに僕に反応した動きをしている。僕の右手に犬の熱視線が注がれている。

「もしかして、これか?」

右手を見た。先ほどのピロシキが握られていた。犬は明らかにこれを狙っている。

「奪いに来たー!」

犬が臨戦態勢になって襲い掛かってくる。僕とサラミは逃げた。めちゃくちゃ逃げた。今思うとピロシキを犬に渡してしまえば良かったんだけど、その時は死んでもコイツのこと守らなきゃ、とか思って強く握りしめていた。

なんとか犬を振り切り、サラミと二人で息を切らして顔を見合わせた時に気付いた。

「電車がいってしまうーー!」

また走る羽目になった。

なんとかギリギリ間に合い、置き去りにされることなく乗り込めたのだけど、また車掌さんに死ぬほど怒られた。あとピロシキは炎天下で売られていたのでちょっと痛んでいたらしく、変な味がしたので捨てた。こんなことなら犬にあげればよかった。

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出発してすぐに、家々はまばらになった。まだ呼吸が乱れていて、僕もサラミもハアハアゼエゼエ言っている様子をインテリが不思議そうな顔で見ていた。

 

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すぐに、夕暮れの気配が漂い始めた。ただ、今日は完全に日が暮れるまでにもう一つ駅に停まるようだ。ふと見上げるとインテリの上の段に人の姿があった。そういえば、ずっと空いていた上段にニューカマーが来ていたのだ。でもそれは朝のことだ。日が暮れようとしている今も朝と変わらず布団に包まっている。死んでいるんじゃないだろうか。

 

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今までの都市とはレベルが違う大都会の景色が現れてきた。どうやらノヴォシビルスクという街らしい。人口は160万人でロシア内では3位の規模を誇る都市だ。

 

19:39 ノヴォシビルスク駅 モスクワまで3303 km(乗車時間98時間29分)

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3位の都市の名に恥じぬ立派な駅だった。位置的にも全行程の中間点をやや過ぎたあたりだろうか。

 

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駅舎の向こうにはランドマーク的な時計台が見える。駅全体も綺麗なクリームサイダーみたいな色で統一されている。

 

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気温は13℃であり、まあまあ肌寒い。そろそろ半袖半ズボンは限界だろうかと思い始めた。

 

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この駅でも荷物を運ぶ運搬車に農業用トラクターみたいなものが使われていた。どうやらロシアのスタンダードらしい。そうやって撮影していると、にゅっとサラミが出てきた。

 

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「おい、また駅の外に冒険しに行こうぜ」

と誘ってきたがさすがにご遠慮しておいた。今度こそ、電車に置いていかれる、そんな気がしたからだ。いちおう、夕食用に食料を購入して電車に乗り込んだ。

 

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購入したのは、謎のパンと、もうどうせ辛いだろ、はいはい辛い辛い、と理解して購入したカップラーメンだ。やはり死ぬほど辛かった。夕食を取っていると、上の段から大音量で音楽が流れてきた。ニューカマーだ。

ニューカマーはケバブ屋でかかってそうな音楽を大音量で流しリズムを取っている。やっと顔が見えたが、ロシアのムロツヨシみたいな感じだった。ムロツヨシはこの時間になって起きだしてきたみたいで、のそのそと下の段に降りてくる。めちゃくちゃ酒臭かった。

どうやら上の段で寝ていたと見せかけて、ずっと酒を飲んでいたみたいだ。むちゃくちゃ泥酔していて、降りてくるときにちょっとジャンプとは言えないくらいの自由落下を見せていた。これ絶対に痛いやつだろ。もう足元もおぼつかない。

しかも、悪いことにめちゃくちゃ僕に絡んできた。何を言っているのか良く分からなけど、言葉のトーン的に「お前は日本人か? 俺は日本人が嫌いだ」みたいなことを延々と言っており、今にも殴りかかってきそうな雰囲気だった。めちゃくちゃ怖い。殺されるかと思った。

とんでもなく面倒くさいことになったなあ、こういうことがあって争いが絶えないから電車内は禁酒なんだな、と理解しつつ、このままロシアの大地でロシアのムロツヨシに殴り殺されるのかなあ、と考えていたら、こちら側の上の段からサラミが降りてきた。

サラミは颯爽と降りてきて、ムロツヨシになにやら早口のロシア語でまくしたて、抱えるようにして連れ去っていった。たぶん車掌に引き渡しに行ったんだと思う。とにかく助かった。

しばらくすると、サラミ帰ってきた。サラミは満面の笑みを見せて親指を立て、上の段へと登っていた。

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高層ビルの向こうに夜景が見える。まるで郊外から見る新宿のような景色だった。夜中にサラミが2本落ちてきたけど、今日はまあ、いいか、と思った。

 


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ちょっと興味がでてきたら
オープンハウスで家探し