JR西日本が発表した”維持困難な17路線30区間”ぜんぶ乗ってきたので狂ったように紹介する_PR【駅メモ!】

本記事は『駅メモ! – ステーションメモリーズ!-』の提供でお送りいたします。

みなさん、おはようございます。

まだ夜も明けきらない薄明り、早朝の宇部新川駅からお送りいたします。

宇部新川駅は山口県の宇部市にある駅で、新山口駅と宇部駅を繋ぐ宇部線の途中にあります。本来、新山口駅と宇部駅の間には山陽本線が通っており、宇部線は遠回りして宇部市内を通る路線になります。山口県を通過する場合はそのまま山陽本線や新幹線を用いますので、宇部線はそこを目指してこないとなかなか通ることのない路線と言えます。

画像の場所は、JR宇部新川駅から徒歩で2分くらいのところに踏切です。奥にはこれから走るであろう始発電車がライトを灯した状態で待機しています。

この宇部線の沿線には宇部興産などの工場が数多くあり、それらへの石炭輸送や石灰石輸送などで発展した路線のようです。朝の薄明りの中でも遠くに工場の灯りが見える、宇部市はそんな街です。

さて、そんな宇部市、そのなかの宇部新川駅ですが、やはりゆかりのない僕にとっては目指してこないとなかなか来ない場所です。では、なぜこんなにも早朝にこの場所に降り立っているのか。まずはそこから説明せねばなりません。

あれは編集部からのメッセージで始まりました。

「patoさん、patoさん」

アンニュイな月曜の昼下がり、それを打ち破るかのように突然のメッセージがやってきました。編集部からのメッセージは本当にロクなことがないので無視するかブロックするか、あるいは通報するかといった適切な処置が必要なのですが、さすがにそういうわけにはいきませんので返事をします。

「どうしましたか?」

「大変なニュースが出てしまいましたね……」

編集部のテンションが低い。こいうときは突拍子のないことを言いだす傾向にあるので注意が必要だ。

「こちらをご覧ください。JR西日本さんが発表した「単独では維持困難」とされるJR西日本管轄の路線です」

2022年4月、JR西日本が人口減少などにより採算が悪化し、“経営努力で維持していくことは困難”との認識を示したローカル線の一部について、維持困難路線として17路線30区間の収支を公表した。

「JR西日本さんによると、これらの路線はただちに廃線に繋がるというものではなく、“地域の皆様と各線区の実態や課題を共有することで、より具体的な議論をさせていただくために、線区の経営状況に関する情報開示を行うこととしました”とのことです。経営の移譲やバス転換、LRT化などを含めて地域と議論することになる“とのことです。ちなみに発表された数値はコロナ禍による影響を排除するため2017年から2019年までの平均値であり、コロナ以降はさらに悪化していることが予想されます。いずれにせよかなり苦しい状況ということです」

「なるほど。これを見ると確かに衝撃の発表ですね。いわゆるローカル線だけではなく、山陰本線などの幹線も対象になっているわけですし、かなり厳しいですね」

「そこで……!」

ほうら、おいでなすった。どうせこの維持困難路線に乗ってこいっていうんだろ。特に厳しそうな中国山地の路線とかそういうところ乗ってこいっていうんだろ。

「今回は是非ともpatoさんに、この維持困難路線に乗車し、レポートして欲しいと思うんです」

ほらきた。なんか事前に何を言いだすのか予想できていると精神的ダメージもまあまあ少ない。でもまあ、一路線で済むならまあまあ御の字だ。行くことが大変だけどなんとかなる。ただこの編集部は狂っているので3区間くらい行ってこいと言いだすかもしれない。下手したら人の心をどこかに置き忘れているので5区間くらい乗ってこいと言い出すかもしれない。そうなるとかなりハードだ。ここはひとつ、5区間を避けるために3区間くらいの妥協案をこちらから提案したほうがいい。これが正解だろう。

「そうですね。記事の内容的にも3区間くらい乗るといいかもですね。芸備線とか山陰線とか、あのへんがいいかなあ」

「さすがpatoさん、話が速い。行っていただけるということでありがとうございます。ということで、維持困難な路線、17路線30区間、ぜんぶお願いできますか!

「ちょっと待てコラ!」

思わず乱暴な言葉が出てしまった。ぜんぶ? 17路線、30区間? ぜんぶ? これもう頭おかしいとかじゃないだろ。新種の生物とかそういう思考回路だろ。

ここはなんとしても回避するため、いかにこの維持困難路線の制覇が困難なのか理論建ててお話するしかありません。今日は僕も言わせてもらいますよ。編集部のやつらは実際に旅するでもなく会議室で「これpatoにいかせようぜ」ってなってんですから。ぜんぜん現場のことをわかっていない。旅は会議室で起こってんじゃない! 現場で起こっているんだ!

 

■維持困難路線の制覇が困難である理由1

「営業エリアの広さ」

JR西日本は日本でも屈指の広い営業エリアを持つ鉄道会社だ。その範囲は中国地方全土のみならず、近畿圏、北陸地方、信越地方の一部に福岡県の一部まで含まれる。めちゃくちゃ広い。新潟県のほうまでJR西日本だし、和歌山の先端までJR西日本。そして、発表された維持困難路線も、このめちゃくちゃ遠い場所にしっかりと2つある。

どちらも維持困難路線である紀勢本線の白浜駅と大糸線の糸魚川駅。どちらもJR西日本エリアだ。そしてその直線距離はおおよそ500 kmこんなのどうやってとんの。どちらも行くだけで1日仕事だよ。

■維持困難路線の制覇が困難である理由2

「三叉路の多さ」

維持困難な路線をすべて取るとなると一番厄介なのが三叉路だ。これは現場の人間にしか分からない苦悩だ。

今回の場合、長門市駅、益田駅、備後落合、塩町と4か所が絶対に取らなければならない路線が3つに別れる三叉路になっている。三叉路のすべてを取る場合は効率的に取る手段がなく、必ずどこかで重複した部分を移動する必要が出る。こういった過酷な移動は、いくら過酷であっても、少しずつであっても、「先に進んでいる」という事実が心の支えになったりする。つまり重複した移動は「先に進んでいる」という希望を奪うものだ。かなり心理的な負担が大きく、心が折れそうになることがある。

■維持困難路線の制覇が困難である理由3

「そもそも本数が少なく、乗り継ぎが過酷」

全ての路線において、そもそも維持が困難であるほどの赤字路線なので、極限まで本数を減らしたダイヤが組まれているはずだ。調べてみたら1日に3本みたい途方もない区間もあった。これらを上手に組み合わせない限り、乗り継ぎで無限に時間を消費してしまう。

「といった具合でして、他にも挙げるときりがないですけどこれだけ困難なんですよ! やめましょうよ。記事の重量的にもただでさえ長くて読めないって言われるんですから、3区間くらいが適切ですよ。えええい、わかりました、5区間! うーん、わかりました! 6区間! どうでしょう!」

「おちついてください。我々編集部はなにもpatoさんを苦しめようと提案しているわけではありません。ちゃんと理由があるんです!」

「これらの路線において「維持困難」と言われても多くの人にとってピンとこないと思うんです。その地方に住む人や鉄道好きな人たち以外にとってそれは「維持困難」という文字だけの情報に過ぎないのです。では、そこで何が起こっているのか、どういう状況なのか、どんな場所なのか、それを伝えられるのはpatoさんしかいないと思うのです」

「そしてまだ廃線になると決まったわけではありません。まだ議論を必要とする段階です。もし記事をきっかけにちょっと行ってみようかと沿線の観光客が増えたり、利用者が増えたりしたら、残してみようとなるかもしれません。そうなるように魅力を伝えるのが、もはやpatoさんの使命だと思いませんか?!」

「そして、すぐにではなくともいつかなくなってしまったとしても、駅の思い出を集めるのもやはりpatoさんの使命だと思いませんか。ここにこんな駅があった。こんな列車が走っていた。こんなひとたちがこんな生活をしていた。それを残すことだって大切じゃないですか…!」

「それをやろうと思ったら……」

「ピックアップして数路線とかダメですよね。ぜんぶ行った方がいいのでは!」

「そ、そうですね。そうかあ省略しちゃあダメですよね」

「そうですよね!!」

ということで、うまく言いくるめられたような気がしなくもないですが、2022年4月にJR西日本が発表した“単独では維持困難”とした17路線30区間、すべてに乗車して紹介する旅、することになりそうです。

ただ単に駅を巡るだけでなく、僕の旅ではすっかりおなじみとなった位置情報スマホゲーム「駅メモ! – ステーションメモリーズ! -」を旅の記録に用います。

「おでかけをもっとたのしく。」をコンセプトにした位置ゲームでスマホなどのGPS機能を利用し、その場所近くにある駅を集めることを目的にしている。対象は全国9000以上の駅であり、駅の争奪ゲームとしても楽しめる一方、旅行などの移動の記録を行ったり、路線や地域の制覇を目指して駅を集めるコレクション要素も盛りだくさん!としても楽しめる。

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実際のプレイ画面がこちら。

この状態から右下の[check in]ボタンを押すと、スマホのGPSがその時点でいる場所を判定し、最も近い最寄り駅にアクセスしてくれる。

現在いる「宇部新川駅」へのアクセスが成功する。この駅は自分がアクセス済みの駅としてゲーム内に記録される。

アクセスした際には自分の所有する”でんこ”の強さやスキルに応じて、すでにその駅にリンクしている他のユーザーの”でんこ”とリンクを賭けてバトルとなる。

この画面では、すでに「宇部新川駅」をリンクしていた他のユーザーに僕の”でんこ”が122のダメージを与えたもののHPを0にすることはできず、こちらはリンクできず、他ユーザーの”でんこ”によるリンクが継続されている状態だ。ちなみにこのユーザーはこの時点で他のユーザーの攻撃を蹴散らし、7時間以上にわたってリンクし続けている猛者。圧倒的な猛者。

新しい駅にアクセスすれば経験値が入り”でんこ”のレベルがあがって強くなる。長い時間、駅にリンクしているほどその時間に応じて経験値が入る。たくさんの駅をリンクするもよし、ひとつの駅を徹底的にリンクするもよしといったところだ。

「ちなみにこの駅へのアクセスは1日12回までという制限があります。それだと今回のpatoさんは何年たってもミッションを達成できませんので、月額500円で1か月の間、駅が取り放題になる定期券を用意しておきました!」

「気持ち悪いくらいに用意がいいな」

「こちらの定期券を使えば1ヶ月間、駅にチェックインし放題になるばかりか、様々な特典があるんです! これで駅、取り放題ですね!」

「はあ……」

「実は駅メモ!にはこんなストーリーがあるんですよ!」

「みんなで駅に思い出を作りに行って、駅の消滅を防ぐ。まさに今回の旅の趣旨にぴったりですね! patoさんの思い出をたくさん作ってきてくださいね!」

ちなみにそんな駅メモ!ですが、今年で8周年を迎えるそうで、さまざまなキャンペーンを実施しております。

駅メモ!誕生8周年! | 駅メモ! – ステーションメモリーズ!- 公式サイト
https://ekimemo.com/campaign/birthday_2022

そんな僕と駅メモ!の関係も長く、最初に駅メモ!を使って旅をしたのが青春18切符で日本縦断です。これがもう5年前!

それ以降、縄文から令和まで時代の名前がついた駅名を全部回らせられたり、大晦日から正月にかけて年越し最長大回りに行かされたりしました。それが今や8周年です。
10周年とかなったら宇宙とかに行かされるのかもしれません。ともかく今後とも末永く続いてほしい限りです。

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【1日目】宇部新川駅からスタート

ということで、スタート地点である宇部新川駅にやってまいりました。前述した通り、今回はかなり本数が少ない区間を乗っていくことになります。普段はあまりやらないのですが、どの経路を使えば効率よく乗り継ぎができるか入念にシミュレーションしてまいりました。それによると、宇部新川駅スタートが最適、となったのです。

宇部新川駅-山口県宇部市:宇部線

スタートから次の区間までは「みろく」をお供でんこに設定して進んでいきます。

ここ宇部新川駅は、シンエヴァンゲリオン劇場版:||に登場したということもあって、現在では聖地巡礼の駅と知られファンが詰めかけているそうです。

しかし、いまはそのエヴァファンの姿もまったく見当たりません。そりゃそうだ。朝5時だもん、カメラが濡れるくらいめちゃくちゃ大雨だもん。いたら逆に怖い。

待合室みたいな場所はエヴァ一色、狂ったようにポスターが貼ってありました。どうやらこの周辺の商店などとも協力して様々なイベントを実施しているみたい。

ちなみに、宇部新川駅で入場券を購入すると駅員さんが特別なスタンプを押してくれます。

初号機シルエットの入場スタンプを押してくれる。たぶんこれはテレビ版の新世紀エヴァンゲリオン 第弐話「見知らぬ、天井」で初号機が暴走したときのシルエット。駅員さんは厄介オタクに慣れているみたいで、めちゃくちゃ丁寧にスタンプを押してくれた。ズレているとか文句つけられないようにだと思う。

「せっかくなのに雨で残念ですね」

おまけに満面の笑みで話しかけてくれる。どうやら狂ったエヴァファンが大雨の中、クソ早朝から聖地巡礼に来やがったと思っているみたいだ。違う、違うんだ、確かにエヴァファンではあるけど、今日は聖地巡礼じゃなくてこれから維持困難な路線を乗り潰していくんだ、と思いつつもそんな説明をしたって「なんでそんなことを?」って顔をされるだけなので、ここは聖地巡礼に来たファンっぽくこたえなければならないと気負ってしまいましてね。

「グフフ、雨で残念でござるよ」

と訳の分からない口調になっていた。どういった種類のオタクだ。

この入場券には記念台紙というものがあって、その台紙にはスタンプを押せるようになっている。ただし、そのスタンプは9時から19時30分までしか設置されていないので、早朝すぎる現在は押すことができない。残念でござるよ。

お目当ての列車がやってくるホームまできたけど、まだまだ発車までは時間がありそう。乗るべき始発は6時7分発なのに30分も前には駅に着いてしまった。これは寝坊リスクや突発的アクシデントに対応するためなのだけど、いつも時間を持て余してしまう。

いちばん奥のベンチにシンジくんが座っていそう、などと考えたりして時間を潰す。

あの柱の横あたりにレイとカヲルが立っていそうとか考えて時間を潰す。

ダダダダダダダダダ!!

ダダダダダダダダダ!!

ダダダダダダダダダ!!

ダダダダダダダダダ!!

NHK「プロフェッショナル 庵野秀明スペシャル」より、宇部新川駅で当然なにかを思いついて突発的に階段を駆け上がり始める庵野秀明監督のモノマネ、などをして時間を潰した。

 

駅メモ!に連携した「おでかけカメラ」というアプリがある。

これを用いると、所有する“でんこ”と写真を撮ることができる。みろくを使って「さあ、いこう!」みたいな写真を撮ることができ、もちろんSNSにもシェアできる。

おでかけカメラをダウンロード

■iOS
https://apps.apple.com/jp/app/%E9%A7%85%E3%83%A1%E3%83%A2-%E3%81%8A%E3%81%A7%E3%81%8B%E3%81%91%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9/id1216561298

■Android
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.mfapps.cam.odekakecamera

こうやって時間を潰しているとなんとか1本目の列車の時間がやってきた。そう、これは聖地巡礼の旅ではないのだ。維持困難路線を乗り潰す旅なのだ。

 

1本目 6:07 宇部新川発 小野田経由 小野田行き 

1両編成

乗客0名

ここ宇部新川駅が属する宇部線は維持困難路線には挙げられていない。あくまでも隣の居能駅から分岐する小野田線が維持困難路線だ。ただし、小野田線を通過する全ての電車はこの宇部新川駅から発車する。

 

車両は1両編成で、車内はロングシートだ。山手線などの座席もロングシートなのだけど、都会の電車はドアが多いので座席が途切れ途切れだ。この車両は前と後ろにしかドアがないので、ロングシートが途切れることなく本当にロングシートだ。なかなか迫力がある。

発車時刻になっても乗客は僕だけだった。完全なる貸し切りだ。やはり宇部新川から小野田方面に抜ける場合は、宇部線で宇部まで出てから山陽本線を使う方が始発も早く、本数も多いので便利が良い。こちらの小野田線を使おうという人はあまりいないようだ。と思ったら、発車間際に1人が駆け込んできた。これで乗客2人だ。

列車は2人だけを乗せてゆっくりと走り出した。薄明りの宇部の街を駆け抜け、すぐに次の駅に到着した。

居能駅 山口県宇部市(無人駅):宇部線、小野田線

居能駅は、宇部線と小野田線が分岐する駅だ。小野田線の起点駅だが、すべての小野田線の列車は隣の宇部新川駅まで乗り入れ、そこが始点終点となっている。

この駅にはちょっとしたミステリーが存在する。乗り場として3番乗り場と4番乗り場があり、跨線橋で繋がっているが、1番乗り場は存在しない。姿かたちがない。2番乗り場は存在するけど全く使われていない状態で残っているそうだ。おそらくホームが廃止になって減らされた影響なのだろうけど、燦然と3番と4番乗り場だけが稼働しているそうだ。この駅には1番線がないってギミックでいい物語が作れそうだな。

さて、ここからいよいよ「維持困難路線」とされた小野田線へと入っていく。

小野田線(小野田~居能(支線含む))
営業係数1071(2017-2019年) 輸送密度344(2020年)

山口県宇部市の居能駅から山口県山陽小野田市の小野田駅までを結ぶ路線。途中の雀田駅から分岐して長門本山駅に至る支線も存在する。かつては石灰石や石炭輸送で賑わった路線である。居能駅で宇部線との接続があるが、宇部市側からの路線は宇部線および山陽本線と並行しているため、主に小野田市中心部の乗客が小野田駅に向かうために用いられることが多い。長門本山駅に至る支線は現在では1日に3往復しか運行されておらず、鉄道のみでの到達難易度が高い路線とされている。

小野田線に入って数分、最初の停車駅である「妻崎」に停車した。誰も降りず、誰も乗ってこず、相変わらず乗客は2人のままだ。

妻崎駅 山口県宇部市(無人駅):小野田線

緑と花の景色が広がるのどかな風景の中に存在する無人駅。木造の駅舎はレトロな佇まいで昭和の面影を残している。単線の小野田線にあって上下線の列車がすれ違えるように1面2線のホームが設定されている。けれども、もともと本数が少ないし、すぐ隣がすれ違い可能な居能駅であることもあり、すれ違い需要がほとんどない。時刻表を調べてみたところ18時5分の列車だけがすれ違うようになっていた。

さて、この旅も出発時から大雨で幕を開けたわけだけれども、この大雨、じつはけっこうまずい。この旅は「維持困難な路線」を乗っていくわけで、できるだけその路線内の駅を紹介していきたいと考えている。

けれども、あまりに対象区間が多すぎるので全ての駅で下車して紹介というわけにはいかない。結果として、車内から見えた駅や沿線の風景をもとに紹介していく形になると思う。そうなると大雨であることは大問題だ。

なんにも見えん。

窓を打ち付ける大粒の雨でほとんど沿線の風景が見えない。とりあえず、この雨がなんとかならない限り、画像なしでの紹介が続きそうだ。ちなみにこれは居能駅を出てすぐの場所にある厚東川、美祢市から流れてくる川で、もう河口近くなのでかなりの大きさになっていた。

長門長沢駅 山口県宇部市(無人駅):小野田線

1面のホームと小さな駅舎がある典型的な無人駅だ。住宅街の真ん中にあり、雨で全く写真が撮れないけれども近くに「宇部興産専用道路」を望むことができる。というか、駅を出てすぐに列車は宇部興産専用道路の下を通過する。この道路は名前のとおりUBE(旧宇部興産)の専用道路で美祢市のセメント工場と宇部市のセメント工場を結ぶ役割を果たしている。高速道路と見紛うスケールの大きな道路で大きな橋まである。全線において私有地扱いのため一般の道路交通法は適用されないが、運転には社内で設定された厳格なルールを守り許可を得る必要がある。いつかは通行してみたい道路だ。

さて、この駅から数人の乗客が乗ってきた。ほとんどの人が大きなキャリーケースを抱えている。どこかに旅行に行くのだろう、この沿線の住人は日常では車での移動がメインだろうけど、新幹線に乗るときに小野田線を利用するようだ。小野田線で小野田駅まで出て、そこから新幹線停車駅である厚狭駅を目指すのだろう。

コロナ禍になってから、列車の中は静かになった。新幹線などでは座席を向かい合わせにするなとか、無駄な会話をするなとかアナウンスされる。同じように地方のローカル線においてもほとんどの人が車内では会話をしない。ただ、長門長沢駅からの乗り込んできた2人組はこれから始まる旅行にテンションが上がっているのか、けっこうな勢いで会話しながら乗り込んできた。

「つまりさ、仮眠ってのは快適であってはダメなんだよ」

「どうして?」

なかなか興味深い会話だ。

「快適だったら本当の睡眠になっちゃうじゃん。どっぷり寝ちゃうじゃん。あくまでも仮眠なんだからすぐ起きられるように不快な環境でやるべきだよ」

なかなか興味深い理論的な話だ。確かに仮眠が快適すぎると仮眠で済まなくなってしまう。本当に理論的だ。

「だから俺たち人類も快適に過ごすべきではない。少しぐらい不便な方がいい。なぜなら人類もまた仮の姿なのだから。人類は魂の仮の姿。だから快適であってはならない」

なんか急に怪しい感じになってきた。

そんな会話に耳を傾けていると、次の雀田駅に到着した。

雀田駅-山口県小野田市(無人駅):小野田線、小野田線(本山支線)

日に3本しか運行されず、到達難易度が高い本山支線の分岐となる駅だ。分岐する路線に対応するかのようにホームはY字型になっている。雨の影響で撮影できなかったけれども、その2つの路線に挟まれるようにしてオレンジ色の駅舎が建っている。これは2018年にリニューアルされた小野田青年会議所と山陽小野田市立山口東京理科大学の学生有志が手掛けたらしい。全然関係ないけど山陽小野田市立山口東京理科大学って名前だけみると、どこにある大学なのか全くわからんな。

ここはかなり利用客が多く、もしかしたら支線からの乗り換え客なのか、けっこうな人数が乗車してきた。とにかく長いいロングシートに一人ずつの間隔をあけて座る程度の乗客数になってきた。

本来なら、ここで本山支線に乗車して「浜河内駅」「長門本山駅」を取るべきなのだけど、なにしろ日に3本しかない路線だ。ここで取っていたら何年かかってもミッションが終わらない。仕方がないので駅メモ!の機能である「レーダー」を使用して取ることにした。

 駅メモ!には自分がいる駅から離れた駅にアクセスできるレーダーという便利アイテムがある。これを効果的に使うと、ちょっとした支線の駅や、寝過ごして取り逃した駅などをとることができる。大変ありがたいアイテムだ。何かのイベントで貰えたり、課金して購入したりする。

レーダーで取れる射程距離は、スキルやレーダーブースターと呼ばれるアイテムを使用することで広げられる。さらに、電友と呼ばれるフレンドがアクティブであれば広がる。僕は以前の記事の時に各県のヌシみたいな猛者の人たちが「しょうがねえ協力してやるか」と電友になってくれていたので安心だ。猛者どもは朝っぱらからアクティブ状態だ。レーダーの射程距離も広い。結果、しっかりと支線の終点である長門本山まで取得できた。

このように現在いる場所周辺の駅に手広くアクセスできる。ただし、レーダー自体はけっこう貴重なアイテムなので乱発するわけにはいかな。使いどころを考える必要がある。

 

浜河内駅、長門本山駅 山口県山陽小野田市(無人駅):小野田線(本山支線)


始発の宇部新川駅では2人しかおらず、ほぼ貸し切りみたいな状態だったのに、ここにきて車内が賑わってきた。今日は休日なので旅行カバンを持った人が多いけれども、平日は通学通勤の需要もそこそこにあるのだろう。

列車は住宅地を抜け、工業地帯の気配が漂う景色へと変わっていった。雨は激しく、より一層、その勢いを増していた。

小野田港駅-山口県山陽小野田市(無人駅):小野田線

小野田港駅は開業時、セメント町駅という名称だったようだ。国有化される際に現在の名称に改称されたらしい。セメント町駅のままのほうが個性があって好みだけど、さすがにそれは好ましくないということだろうか。小野田港に広がる工場地帯の入口に駅がある。

このあたりの景色は本当に工業地帯といった感じだ。

一時期に流行した「工場萌え」みたいな風景をいくらでも眺めることができる。

工場地帯を眺めているとすぐに次の「南小野田駅」に到着する。駅名から分かるとおり、小野田の南だ。いよいよ終点の小野田駅が近づいてきたようだ。

南小野田駅-山口県山陽小野田市(無人駅):小野田線

じつは、先ほどの小野田港駅の前身のセメント駅は移転したもので、移転前はこの南小野田駅の場所にセメント駅があった。ちなみにこのセメント町という地名は現在でも南小野田駅からすぐ近くの場所に残っており、山口県山陽小野田市セメント町という住所表示になっている。小野田周辺は工業で栄えた街であり、その製造品にちなんで町名が今でも残っている。「硫酸町」「火薬町」といった物騒な感じの地名も存在する。

南中川駅-山口県山陽小野田市(無人駅):小野田線

Jリーグの「レノファ山口」の練習場である「山陽小野田市立サッカー交流公園」の最寄り駅である。そのため周辺の駅名標の帯カラーがレノファ山口のチームカラーであるオレンジに変更されている。雨でぜんぜん撮影できないけど。

小野田線は始点と終点の駅以外、すべてが無人駅だ。列車はワンマン運転で運行されているため、乗車時は車両の後ろのドアから乗車して整理券を取り、降車時は前のドアから降車してその際に運転手さんのところにある料金箱に料金を入れる。つまり、駅に停車するたびにこの整理券発券機が稼働することになるのだけど、そのアナウンスがどうにもおかしい。

「スゥェェェェェり券をお取りください」

最初の部分がめちゃくちゃ間延びしている。最初は気にならなかったのだけど、いったん気になりだすと本当に気になる。これが停車のたびに3回ほど繰り返されるので気になって気になって仕方がなかった。

目出駅-山口県山陽小野田市:小野田線

終点である小野田駅の1つ前の駅だ。港沿いの工業地帯を走っていた小野田線がいったん港沿いを離れてちょっとした山間を走るようになる。その山を抜けた先の川沿いにこの駅がある。この駅は「めで」という名称が特徴的で、「めでたい」という語呂合わせで入場券が爆発的に売れたことがあった。入場スタンプを「タイ」の絵柄にしてさらに「めでたい」が強化された。ただし無人駅化されてからは販売されていない。平成22年には周辺の厚狭駅からの乗車券で「あさからめでたい」、居能駅との乗車券で「めでたいのう」という、まあまあ苦しい語呂合わせの台紙付き記念乗車券が販売されたこともあった。

さきほど、この列車はワンマン運行で、降車の際には運賃箱に料金を入れると書いたけど、ついにその光景を見ることはなかった。つまり、始点駅から一貫して客が乗ってくるだけで、途中駅では誰も降車しなかった。全員が次の小野田駅を目指していたことになる。なかなかすごいな。

そんなこんなで、ついに小野田線の終点、小野田駅に到着した。

6:36 小野田駅-山口県山陽小野田市:山陽本線、小野田線

宇部新川からはおおよそ29分ほどの乗車時間で、思ったより短かった。これで小野田線クリアだ。いやはや、この調子であと16路線、29区間か。けっこういけるんじゃないのこれ。

さて、ここからは次の維持困難路線を目指すべく山陽本線で移動していく。さすが山陽本線は山陽地方の大動脈といわれるだけあって、列車の本数も多く、ホームで待っている人も多い。

さきほど乗ってきた列車はそのまま小野田線を折り返して宇部新川行きになるようだった。作業している駅員さんにトラディショナルな感じのファンっぽい人が「すいません、この電車、エヴァまで行きますか?」って質問していたのが印象的だった。

2本目 小野田7:31発 山陽本線 下関行き

車両 いっぱい
乗客 多数

車両数も多く、乗客も多い。これだけ利用されているのならば山陽本線は安泰だろう。ここから山陽本線で下関方面に向かい、山陰本線との分岐点である幡生駅を目指す。

途中の厚狭駅で長い停車があったのでちょっとだけ下車して屈伸運動などをした。どうせ1日中ずっと列車に乗っていることになるので、伸ばせるときに伸ばしておかないと体がギチギチになってしまうからだ。過去の経験からいって最初に体にガタがきて、次に精神がやられる。精神がやれたときはもう手遅れだ。異世界転生とか妄想を語りだしたら危険信号だと思っていい。

厚狭駅は新幹線が停車する駅だ。たしか、新幹線の開業からかなりあとになって新たに設置された駅だったように思う。厚狭駅の周辺自体はそこまで大きな町ではないので、この新幹線駅って本当に必要なんだろうかと思ったのだけど、こうしてみると必要だと分かる。

宇部や小野田方面から乗ってきて大きな旅行カバンをもっている人たちがいそいそと乗り換えていく。また、山口県の北部からの路線との繋がる駅でもあるのでそこからの新幹線需要もある。ちなみにその北部からの路線も維持困難路線に指定されているので乗車する予定だ。つまり、この厚狭駅にはもういちど帰ってくることになる。

停車していた列車がいよいよ動き出すようなので、乗り込んで幡生駅を目指した。

田園風景を眺めながら移動していくのだけど、どんどんシャレにならないレベルで雨足が強まってきた。大丈夫なのか、これ。

幡生駅-山口県下関市:山陽本線、山陰本線

運賃(宇部新川-幡生:860円)

維持困難路線が終わるごとにおともとなる「でんこ」を変えていこうと思う。2人目は「メロ」だ。今回は僕の所有している「でんこ」を総動員していこうと思う。

幡生駅は「下関駅」と新幹線停車駅の「新下関駅」に挟まれた駅だ。山口県の端っこ、もうすぐそこが九州という場所にある。駅の横にはJR西日本の幡生工場や下関総合車両所があり、鉄道の集積地みたいな印象がある。下関市の商業地からはやや外れるけれども、周辺には高校や大学などの文教施設が多い。

この幡生駅に関しては一言だけ言わせて欲しい。これだけは言っておかないと気が済まない。

これが乗ってきた列車が幡生駅に到着したときの様子なのだけど、めちゃくちゃ激しい雨が降っている。ドグシャーって感じでかなり激しい雨が降っている。ただ、ホームには屋根がなくて傘が必須で、傘を持っていない僕は濡れてしまった。まあ、そういうことって往々にしてあるじゃないですか。ホームに屋根がない駅なんだから仕方がない、そう納得しましたよ。

でもね、隣のホームから見たらわかりやすいんだけど、屋根はあるんですよ。手前と、それに奥にもしっかりと屋根がある。

赤丸で示した、屋根がない場所にピンポイントで停車しているんですよ。もうちょっと前に停車してくれたら屋根があるのに、そこだけ屋根がない、みたいな場所に停車しているんですよ。これ、なんとかならないのかな。

まあ、濡れてしまったものは仕方がない。気を取り直して次に乗る山陰本線の時刻を確認する。入念に旅程を組んでいるので次の時間は分かるのだけど、最終確認みたいな感じで時刻表をチェックする。

こちらが幡生駅の時刻表。やはり山陽本線はかなり本数が多いので時刻表じたいが賑やかだ。問題は、この表のいちばん右側の山陰線の部分だ。ここに維持困難路線が含まれている。ただ、一見するとけっこう本数があるようで、1時間に1本くらいはありそうな感じだ。

ただし、注意しなくてはならないのが、このほとんどが途中の「小串駅」までの列車であるという点だ。維持困難路線に指定されているのは小串駅から先の区間なわけで、そこを超えて長門市駅までいたる列車はかなり少ない。

日に5本だけだ。かなり難易度が高いと言える。

現在は7時20分なので7時31分の長門市行きに乗ることができる。日に5本しかない列車への乗り継ぎで乗り換え時間11分はかなり上出来だ。まあ、今回はこのように本数が少ない路線への乗り継ぎが多発するので、効率的に進めるようにかなり緻密に旅程を組んである。それこそ3日くらい徹夜して旅程を組んだ。この乗り換え時間11分は、その3日間の徹夜の賜物だ。

この駅で乗り換えする高校生が多いようで、制服を着た子たちが山陰線のホームで待っていた。

「おれ、中間試験たのしみだわ!」

そのうちの一人が、来るべき中間試験に向けて実力をいかんなく発揮するのが楽しみだみたいなニュアンスの発言をしていた。仲間たちからは「まじかよ」みたいな反応をされていたけど、僕もその横で「マジかよ、定期テストが楽しみなやついるのかよ」みたいな反応をしていた。

3本目 7:31幡生発 山陽本線 長門市行き

2両編成 乗客は20名ほど

時間帯にもよるのだろうけど、通学時間にジャストヒットするこの列車は高校生がかなり多かった。幡生駅から乗り換えの高校生もいれば、途中の駅からもドコドコと高校生が乗ってくる。休日でこれなのだから平日はもっとすごそうだ。車内に高校生が充満しすぎて、もしかして自分も高校生なのかもしれない、という錯覚に陥るのだけど車窓に反射する姿はおっさんそのものだった。

途中の「安岡」という駅で大半の高校生が降りていき、車内が一気に閑散としてしまった。

福江駅を過ぎたあたりからだろうか、車窓の景色が一変した。たぶん海があってめちゃくちゃ綺麗な景色なんだろうけど、いかんせん、雨が強すぎてなにがなにやら分からない。

たぶん海が見える。

たぶん、海とそこに浮かぶ島々が見える。

たぶん海じゃない。

たぶんまた海。

もうなにがなにやら分からない。

前述したように、この山陰線においては小串駅までの区間は本数も多く、下関市の都市圏に含まれる。下関市への通勤や通学、買い物などに利用されている感じもする。あくまでも小串駅より先が維持困難路線なのだ。

そう考えていると、その小串駅が近づくにつれて狙いすましたかのようにストロングゼロをもったおっさんとかが乗車してきてヒリついた感じになってきた。

小串駅-山口県下関市(無人駅):山陰本線

小串駅は下関本面から伸びる路線(小串線)の終着駅だった。もしかしたらその名残でいまでも小串行きの列車が多いのかもしれない。その後、小串線の延伸により途中駅となり、その後、山陰線に編入された。2021年まではきっぷ売り場があったが、廃止され無人駅となった。駅周辺は住宅地になっていてけっこう栄えている。

さて、ここ小串駅からは2つ目の維持困難路線へと入っていく。ストロングゼロのおっさんもストロングゼロを持ったまま小串駅で降りていき、車内には5人しかいなかった。しかも、僕以外の4人はぜんぶ女子高生だった。女子高生率80%だ。そういうハーレムもののラノベみたいと思いつつ、ここまで車内の女子高生率が高いと自分も女子高生みたいな錯覚に陥るのだけど、車窓に映る僕の姿は見紛うことなきおっさんだった。

山陰本線(小串~長門市 仙崎支線含む) 
営業係数1208(2017-2019) 輸送密度351

山陰本線は京都駅から日本海側を走り、山口県下関市の幡生駅まで至る路線だ。兵庫県、鳥取県、島根県、山口県と通過し、支線を除いた総延長は673.8 kmで、新幹線を除いた在来線では最も長い区間となっている。下関から小串までは下関の都市圏としての輸送を担っており、列車の本数も多く1時間に1,2本が運行されているが、小串から長門市までの該当区間は一気に本数が減り、1時間半に1本程度の運行となる。また、長門市からは仙崎までの1駅だけの仙崎支線を有している。

ついに山陰本線の維持困難区間へと入っていった。入ると同時に一気に乗客が減るのだから、なるほどなあと納得するものがあった。

湯玉駅-山口県下関市(無人駅):山陰本線

けっこう遠い場所まで北上してきたつもりだけれども、それでもまだ下関市らしい。こんな場所まで下関市なのかと驚く。おそらく合併を繰り返して巨大化していったのだろう。事前の調べによると、なぜそんなことになったのかは分からないのだけど、この駅は駅舎に薬局が入った珍しい駅らしい。もちろん、雨がすごすぎてなにがなにやら分からなかった。

宇賀本郷駅-山口県下関市(無人駅):山陰本線

田園風景の中に佇む駅なのだけど、車内から見た限り簡易的な待合室があるのみで、しかも近くの道路からも離れていて見つけにくそうな駅だった。例えば、廃線が決まってしまってどこかのライターが歩いて全駅を訪問するといなった場合、そんなやついないと思うけど、もしいたとして、徒歩でアクセスした場合はけっこう見つけにくそうな駅に感じた。

雨が激しすぎて笑っていられない感じになってきた。急に不安になってきた。もしかしたら列車の運行がストップするんじゃないだろうか。それくらい激しい雨だ。

長門二見駅-山口県下関市(無人駅):山陰本線

駅から少し移動した海岸線には「二見夫婦岩」がある。この日本国内では海から突き出る岩が2個あればだいたい「夫婦岩」と名付けられるものだ。列車から見えないかなと思ったけど見えなかった。ちなみに、ずっと海岸線を走っていた列車がこの駅の手前で不自然に90度カーブをして内陸に入る。なんらかの力が働いて捻じ曲げられたかと思うほどに不自然なカーブだった。

滝部駅-山口県下関市:山陰本線

こちらの駅も、小串線の時代は終着駅である時代があった。その後、途中駅となり、山陰線に編入された。ついにこの駅で最後の砦であった女子高生たちも下車してしまい、2両編成の列車は僕の貸し切りとなった。列車の行き違い待ちかなにかで10分ほどの停車時間があるようなので、ちょっと降りてみた。

どうやらここから角島行きの路線バスが出ているようだ。ずっと海岸線を走っていた線路が突如として内陸に入ったため、この駅はかなり海から離れた場所にあるので角島までは遠い。もう1駅か2駅ほど進んだところから目指すのが妥当だ。ちなみにこの駅は、国鉄時代の話になるのだけど朝の3時台に出発する下関行きの始発列車があったそうだ。これが夜行列車を除いた日本一早い始発列車の記録として残っている。

この駅は無人駅ではなく、駅員さんがいて窓口業務を行っている。ただし、これはJR西日本の窓口というわけではなく、NPO法人「環境みらい下関」が駅業務を受託して行っているらしい。画像の「ようこそ豊北へ!」の看板の下にもそのNPO法人名がある。その窓口の人が、「いやはやすごい雨だな」と呟くくらいすごい雨になってきた。駅舎内にはスポーティーな自転車で移動していた人がいて、あまりの雨にこりゃたまらんと避難してきた感じだった。

さて、完全に貸し切り状態になった列車に乗り込む。出発時間になればだれか乗り込んでくるかもと期待したけど、誰も乗り込んでこず、引き続き貸し切り状態だった。

僕だけを乗せた列車が山の中を走っていく。それはなんだか変な感覚だった。列車は個人用の移動手段ではない。

特牛駅-山口県下関市:山陰線

特に牛と書いて「こっとい」と読むらしい。メディアなどでしばし難読な駅名として登場する駅だ。駅メモ!のアクセス画面は駅名標をモチーフにしているためしっかりと読み方まで表示されるのでありがたい。駅の正面からは角島行きのバスが出ているので、角島観光の際はここからアクセスすると良い。

角島は青い海にかかる長い橋が有名な山口県の観光スポットだ。ここから角島に行って観光レポートしてやろうかと思ったけど、緻密な旅程を組んでいるし、この雨だしでやめておいた。その代わり、以前に僕が訪れたときの角島の写真を貼っておく。

雨が降ってなければこんな景色が楽しめる場所だ。

阿川駅-山口県下関市(無人駅):山陰本線

どこの旅行情報を見ても人気観光地である角島への最寄り駅は隣の特牛駅だと書いてあるのだけど、僕は距離的にはこの阿川駅の方が近いと思っている。実はそれを以前に調べた形跡がある。駅メモ!ユーザーならもう「あ、こいつ調べたな」と既に気づいていると思う。

ここまで何度もでてきた駅メモ!のチェックイン画面だけれども、駅メモ!には「新駅」という概念がある。駅名表示の右上にリボンのようにかかっているやつだ。この「新駅」が赤で表示されているものが「赤新駅」と呼ばれるもので、初めて取る駅にそう表示される。

それとは別に「新駅」が黄色で表示される駅もある。これが「月新駅」「月間新駅」「黄色新駅」と呼ばれるもので、毎月リセットされ、その月に初めてアクセスした駅に適用される。つまり、黄色で表示される場合は以前にも取ったけど今月は初めて取るよ、というものだ。

例えばさきほど取った幡生駅は、黄色新駅だ。今回の移動だけでなく、青春18きっぷで最南端から最北端に行くという狂気の記事の時に山陽本線を通過し、そこで取っているから黄色新駅になっている。

つまり、山陰線を通るのは初めてでここまで赤新駅を連発していたのに、特牛と阿川だけ黄色新駅なのは、ここだけ以前に取っているからだ。

以前に角島観光をした際に、なんだか違和感を覚えて、本当に特牛が最寄りなかよと駅メモ!でアクセスしてみたら阿川駅が取れたのだ。だからこの2駅が黄色新駅になっている。

駅メモ!はチェックインした地点からもっとも近い駅にアクセスするので最寄り駅を調べるのにも向いている。友人たちと高速道路を走っていて、このへん大きいショッピングセンターあるし住みやすそうやん、何線の沿線なんだろうみたいなときもすぐに調べることが可能だ。

相変わらず車内には僕しかおらず貸し切り状態だ。ドアを開けてどんなに待っても誰も乗ってこない。

大型連休の休日、人気観光地近くでこれなのだ。僕が乗っていなかったら乗客0人だ。乗客は少ないだろうなあとは予想していたけど、まさか貸し切りとは思わなかった。

ここで維持困難路線の紹介のところで書かれている「営業係数」について説明しておきたいと思う。営業係数とは経営効率を表す指標だ。100円の営業収入を得るのにどれだけの費用が使われているのかという指数で、100未満の場合は黒字、100以上だと赤字となる。

ここまでの路線での営業係数は小野田線で1071、この山陰線(小串~長門市)で1208と途方もないことになっている。100円稼ぐのに1071円、1208円を使っていることとなり、大赤字もいいところだ。

さて、不自然に内陸を走っていた線路もいつのまにか海沿いを走るようになったみたいで海岸の景色が戻っていた。心なしか雨足も弱まったように感じる。これなら運行停止とか、大幅な遅れとかはなさそうだ。なにしろかなり緻密で効率的な旅程を組んでいるので、ちょっとでも遅れが発生したら旅程が大崩壊してしまう。まあ、あの雨を潜り抜けて遅れがないのだからたぶん大丈夫だろう。

長門粟野駅-山口県下関市(無人駅):山陰本線

位置的には完全に山口県の北部なのでさすがにもう下関市じゃないだろうと思っていた。見える海も山口県の上辺の海だ。さすがに下関市じゃないだろうと思っていたら、この駅までが下関市らしい。どれだけ勢力圏を拡大しているんだ。広すぎるだろ、下関市。

ここにきてちらほらとおばさんなどが乗車してきて貸し切り状態が解消された。

伊上駅-山口県長門市(無人駅):山陰本線

ながいながい下関市が終わり、ついに長門市へと入った。山陰線における長門市最初の駅である伊上駅の沿線からはビーチやキャンプ場などの表記が見える。ただ、それらは海岸線にあり、駅自体はちょっと内陸にあるので駅からのアクセスは悪そうだ。

窓には新たな水滴がつかなくなった。ほぼ雨が上がった状態かもしれない。

人丸駅-山口県長門市(無人駅):山陰本線

この人丸駅という駅名はこのあたりの地名とも無関係そうだった。なんで人丸なんて駅名なのだろうか、疑問が生じる。柿本人麻呂を祀る神社に人丸が使われるけど、そんな神社にちなんでいるのかと地図を調べてみたらしっかりと駅から少し離れた場所に柿本人麻呂を祀る八幡人丸神社があった。あまりに狙い通りに人丸神社があったので「柿野本人麻呂―!」と車内で叫んでしまったのだけど、もう貸し切り状態ではなく、車内には他の乗客がいた。いきなり何の脈略もなく万葉集に登場する偉大な歌人の名前を叫びだす危ない人みたいになってしまった。

長門古市駅-山口県長門市(無人駅):山陰本線

長門市の中心部が近づいてきたようで、この長門古市駅周辺にも住宅や商店が増えてきた。遠くにセブンイレブンも見えてきた。もう車を運転しないご老人などが中心部へと移動するために利用しているようで何名かの老人が乗車してきた。ちなみにこの駅は風光明媚な場所として知られる千畳敷の最寄り駅だ。

黄波戸駅-山口県長門市(無人駅):山陰線

近くに黄波戸温泉がある。黄波戸とはかなり珍しい地名で特牛ほどではないにしろなかなかの難読駅名だと思う。このあたり周辺は地形的にみて東側に海を臨むようになっている。つまり朝日が昇る海を眺めなることになる。その朝日がいつもより光り輝いていて、その光を受けて波も黄色に輝いていた。何事だろうと漁に出てみると大漁のイワシと観音様がとれた。きっとあの光は神様が降りてきたのだろう、そこから神様がやってきた黄色い波の戸ということで黄波戸となった説があるそうだ。

そうか、この海が黄色に輝いて、と感慨に耽りたかったのだけど、それどころじゃない。また雨が激しくなってきた。

あまりに激しい雨に一抹の不安を覚えながらも、列車は終点である長門市駅へと吸い込まれていった。

長門市駅-山口県長門市:山陰線、山陰線(仙崎支線)、美祢線

運賃(幡生-長門市):1340円

長門市を代表する駅だ。山陰線と美祢線が乗り入れている。またこの駅より1駅だけの仙崎支線も分岐しており、それらの路線が交差する中心的な駅としての役割を担っている。

降りたってすぐに、ホームを1つ潰して大量に鳥居が並べられている光景に出くわす。けっこうサイコな感じだ。ただ、これは別にサイコではなく、長門市の観光地である元乃隅神社(もとのすみじんじゃ)にちなんだものだ。

そうそう、これ。このポスターにあるやつ。やはりこの周辺の二大観光地は角島と元乃隅神社だ。元乃隅神社は10年間かけて奉納された123の鳥居が並ぶ圧巻の神社だ。最寄り駅はさっき通過してきた長門古市駅。あの周辺は神社が多い。

長門市は、日本の童謡詩人である金子みすゞの生誕地でもある。「こだまでしょうか(原題 こだまでせうか)」がACジャパンのCMにとりあげられたことで近年でも注目を集めた詩人だ。長門市には金子みすゞ記念館もある。ただし、その記念館はここから1駅だけの支線の先にある仙崎駅が最寄り駅だ。

そう、この1駅だけの支線をどうするか。別に取りにいってもいいし、レーダーで取ってもいいのだけど、そこまで急いで決断する必要もない。冒頭でも述べたように、ここは維持困難路線の三叉路の駅なので、もう一度戻ってくることになる。その時に考えることにする。

ここからは同じく維持困難路線とされる美祢線を用いて山口県内の内陸を南下していく。その列車の時刻が9:53だ。到着したのが9:36なので乗り換え時間は17分。完璧な乗り換え時間だ。駅前の店でちょっと小腹を満たして乗り換えるにこれしかないという時間設定だ。あまりに完璧に組まれた旅程に身震いする。

そうと決まれば17分で食べられる軽食だ。駅周辺になにかあるだろうか。観光案内所とかで聞くのが早いだろうか、それとも駅前にコンビニがあればそれでもいい。

残念ながら、駅舎内にある観光案内所はまだ早朝すぎてオープンしていなかった。その事実よりも気になったのが、なんの説明もなくペタリと貼られている浦沢直樹先生の20世紀少年の1話目のカットだ。なぜこれが貼られているのかちょっと分からなかったし、調べてみてもそれでもやっぱり分からなかった。

駅前にコンビニはなかったけど、おみやげセンターとかかれた商店があった。「お弁当」と書かれた旗が燦然とはためいているので軽食にも期待できそうだ。

やきとり弁当350円。めちゃくちゃ最高じゃない、これ。350円とリーズナブルで手ごろなサイズ。朝ごはんがわりに小腹を満たすのに向いている。ちなみに、ここ長門市は人口当たりの焼き鳥屋の店舗数が全国トップレベル。かなり焼き鳥好きな町だ。そんな場所の焼き鳥弁当なので期待が持てる。

さっそく購入しようと弁当を片手にレジに向かうと、レジ前ではなんだかカップルが揉めていた。詳細は分からないだけど、この店で出されるソフトクリームをマンゴー味にするかどうかで延々と揉めている。そのせいでこちらもずっと待たされている状態だ。17分しかないんだ。食べるまでで17分だ。早くして欲しいなあ、と思いつつもカップルのいざこざを眺めることしかできなかった。

なんとかマンゴー味のソフトクリームにしたみたいで丸く収まり、こちらも焼き鳥弁当を購入することができた。ただし、もう時間がかなり差し迫っているので爆速でかっこんだため、味は良く分からなかった。

とにかく、緻密に組まれた旅程を守ることが先決だ。そう思えば焼き鳥弁当をかっこむことなど軽いものだ。弁当のついでに購入した、ゆでたまごを食べる時間がなくなってしまったけど、それはあとでなんとかなる。列車に乗る前にゴミ箱を見つけて殻を捨ててひょいと食べればいい。とにかく乗り遅れたら大変なので駅へ向かおう。

急いで駅へと戻る。また雨が激しくなったようで、すっかりと濡れてしまった。

駅に戻ると、なにやら慌ただしかった。おおよそ15分くらい前の駅の様子からは雰囲気が一変していた。

うわー!

運行情報が出ている。どうやらこれから乗る美祢線、大雨のために徐行運転をするみたいだ。これは大変なことになったと思う反面、運休じゃなかったという安心感もあった。徐行と言えども土砂崩れとか危険そうな箇所だけなのかもしれない。それならそう大きく遅れないだろうし、他の区間で取り返すことだってできるはず。そんなに大事ではないのでは? そんな楽観的な気持ちがあった。確かにあった。

さっそく、美祢線の列車が発着する美祢線のホームに向かい、待機していた運転手さんきいてみた。

「すいません、これからの美祢線、徐行ってどれくらいの徐行なんですか?(頼む、旅程が崩壊する! ちょっとの徐行であってくれ!)」

「もう、全部ですね。始発から終点の厚狭駅までぜんぶ徐行」

旅 程 大 崩 壊

「たぶん1時間くらいは遅れる。下手したら2時間は遅れると思う」

旅程大崩壊だー!

危険そうな箇所だけとかではなく、最初から最後までずっと徐行運転でいくみたい。この時点で緻密に練り上げたこの後の全ての乗り換えが崩壊した。

4本目 9:53 新長門発 美祢線 厚狭行き

1両編成

乗客 4人

緻密に組んだ旅程がきれいさっぱり吹き飛んだと言えども乗らないわけにはいかない。瞬時に他のルートも検討したけど、どれもより時間がかかる感じだった。1時間以上の遅れを覚悟して乗り込むしかない。緻密に組んだ旅程は大崩壊。ここからは出たとこ勝負の乗り換えになる。

さて、長門市駅から厚狭駅までの通る美祢線は、こちらも最初から最後まで全区間で維持困難路線として指定されている。

美祢線 厚狭~長門市
営業係数630 輸送密度 478人/日

山口県長門市の長門市駅から、山陽小野田市の厚狭駅までを繋ぐ路線。山口県の内陸を南北に縦貫する路線であり、かつては貨物輸送が多かったため「幹線」に指定されているため厳密には「ローカル線」ではない。沿線には日本最大級のカルスト台地である秋吉台を擁する美祢市がある。

走り出して驚いたのだけど、まあ、当たり前なのだけど本当にずっと徐行運転だった。一切の妥協はない。

車内の乗客は僕を含めて4名だ。終点の厚狭駅で乗り換えて新幹線でどこかに旅行に行きそうな若者が1名。これは僕の見立てだけど、残りの2人はこのローカル線に乗ることが目的っぽい感じの剛の者たちだ。若者は確実的に列車が1時間以上は遅れることに動揺や焦りが見られるのだけど、剛の者たちは違う。実に堂々としたものだ。ゆっくり景色を見られて最高やんけと言わんばかりだ。くぐってきた修羅場の数が違う。

板持駅-山口県長門市(無人駅):美祢線

長門市駅からそう遠くなく、田園風景とまばらな住宅が並ぶ場所に駅がある。板持駅だ。本来なら長門市駅から4分で到着するはずだが、8分ほどかかった。倍の時間かかると計算すると美祢線は1時間ほどでいけるのでやはり1時間ほど遅れるのだろうか。まあ、旅程が崩壊した今となっては何時間かかろうが一向に構わない。もうあの旅程は消え去ったんだ。

ちなみにここからは“でんこ”をチェンジし、ルナが担当する。最初に登場した“みろく”と山陰線で登場した“メロ”、そしてこの“ルナ”、もしいまゲームを始めた場合はこの3体から1体が貰える。慎重に好みの“でんこ”を選ぶ必要があるので注意して欲しい。

景色は、田園風景から少しずつ山間のそれに変わっていく。山を貫くトンネルも現れてきた。

しばらくして長門湯本駅に到着する。

長門湯本駅-山口県長門市(無人駅):美祢線

湯本と駅名につく場所に温泉がないはずがない、もちろんこの駅も山口県の代表的な温泉地である長門湯本温泉を擁する駅だ。ただし、温泉地自体は駅から少し離れているので駅周辺はあまり温泉地という感じはしない。ただの駅だ。

さて、ここでちょっと困ったことになってしまった。徐行運転? 遅れる? 旅程崩壊やん? というパニックでとんでもないことを忘れていた。

ずっと、ゆでたまごを手に持っていた。

大雨の中、徐行で移動する鉄道に乗客は4人。そのうちの一人は手にゆでたまご。めちゃくちゃシュールな絵だ。一周ほど回って超大物の剛の者みたいな風格すらある。ただ、いきなり車内でバリバリ食べだしても他の乗客からしたら怖いものがあるし、殻を捨てる場所がないので食べられない。いきなりポケットにしまっても変なので、ずっと持ったままでいるしかなかった。

渋木駅-山口県長門市(無人駅):美祢線

長門湯本駅を超えると本格的に山間の風景に変わる。大雨でなくとも徐行が必要そうな森の中を抜けていき、ぱっと景色が開くその場所に小さな集落があり、その中心に渋木駅が存在する。だから渋木駅という名前ではないんだろうけど、駅には渋い感じの木でできた駅舎がある。もちろん、雨が激しくてはっきり見えないし、ゆでたまごを持っているので思うように写真が撮れなかった。ただ、晴れていれば周辺の集落も含めて雰囲気のいい山間の風景、みたいな感じがする。

於福駅-山口県美祢市(無人駅):美祢線

長門市が終わり、ここ於福駅からは美祢市となる。長門市は下関市ほど長くはなかった。前の渋木駅からかなり距離があったように思うし、徐行運転なのでそうとう時間がかかった。あまりに長く走っているから、もしかしたらこのまま異世界みたいな場所に行くんじゃないかと心配したほどだ。駅のちかくには於福温泉と呼ばれる温泉施設とけっこう大きい感じの道の駅が見えた。雨で冷えちゃったし、温泉、入りたいよね。

大雨の影響もあるのだけど、ここまでの区間はほとんど乗客に動きがなかった。乗り降りがなく、長門市駅からずっと4人のままだ。ゆでたまごも握ったままだ。時間帯が時間帯なので通学需要の有無は分からないけど、とりあえず想像した以上に利用者は少なそうだ。

重安駅-山口県美祢市(無人駅):美祢線

重安駅の周辺くらいから大きく削り取られた山が見えるようになる。おそらくこの周辺で石灰石を取り、この駅までに運び込んできて鉄道で早朝にいた宇部のほうのセメント工場に運んでいたのだろう。こうした貨物需要が美祢線を支えていたが、いまではほとんど廃止されている。

美祢駅-山口県美祢市(無人駅):美祢線

美祢線という名称からもわかるように美祢駅は美祢線における中心駅だ。みどりの窓口があるほどの大きな駅だったが、2021年をもって廃止、現在は無人駅になりたての状態だ。こちらの駅も、かつては石炭輸送や石灰石輸送の貨物需要で賑わったが、石炭輸送は炭鉱の閉山によって廃止され、石灰石輸送は宇部興産専用道路の開通によってトラック輸送へと切り替わっていった。朝に通ったあの宇部興産専用道だ。

この美祢駅からもわかるとおり、JR西日本はかなり急速に駅の無人化を進めている印象だ。2021年以降、かなりペースが上がっているように感じる。地方駅のみどりの窓口をどんどん閉鎖し、無人駅となっている。効率化のためには仕方がないことかもしれないが、なんとも寂しいものだ。

南大嶺駅-山口県美祢市(無人駅):美祢線

まばらに一軒家が存在する集落と、駅前の小さな商店風の建物、それ以外はなにもないような場所にある駅なのに、複数のホームがあり、そのホームをまたぐ立派な跨線橋も存在する。貨物輸送が盛んな頃の行き違い用途もあったのだろうけど、それにしても設備が充実している。調べてみると、かつては、といはいってもかなり昔だけどこの駅から分岐する大嶺支線と呼ばれる支線があったようだ。その名残でホームも複数あるのではないか。

四郎ケ原駅-山口県美祢市(無人駅):美祢線

こちらの駅も、小さな集落の中心にあるような駅だ。四郎ヶ原という駅名は別にこの周辺の地名ではないらしい。何か深い由来があるのかなと調べてみたら、この辺に広い野原があり、そこに四郎というものが住んでいた、というけっこう身も蓋もない由来だった。まさかその時の四郎さんも自分の名前が駅名になって延々と語り継がれるとは思うまい。

四郎さんが住んでいた四郎ヶ原を過ぎたあたりから雨足が弱まってきた感じがする。もう危険がなさそうな雰囲気だけど、あいかわらず全線で徐行運転だ。僕のいる場所から運転席が良く見えるのだけど、運転席には運転を指示するナビみたいなものがついていて、ちょっとでも速度を上げて徐行速度を超えようとすると「速度注意! 速度注意!」と甲高い声で注意されるシステムになっていた。運転手さんはけっこうギリギリの速度を攻めているみたいでこの「速度注意! 速度注意!」がずっと鳴り響いていた。

乗客4人、山間の集落を徐行運転で行く。鎮まりかえる車内には甲高い速度注意の声が鳴り響き、ヌシみたいな風格の男がゆでたまごを握りしめている。とんでもなくシュールな絵図ができあがっていた。

厚保駅-山口県美祢市(無人駅):美祢線

やっと駅舎の撮影ができた。厚保駅の駅舎は2013年に改装され、駅には地域交流ステーションが入っている。この七夕っぽい飾りや鯉のぼりはこの地域交流ステーションの人が施したのではないだろうか。

さて、この厚保駅や先の四郎ヶ原駅など、美祢線にはかなり古い木造建築の駅舎が多いらしい。それも開業時から建て替えられていないとか、そういったレベルで古い建物のようだ。このあたりの駅が明治38年の駅なので、そこからいくらか改修や改装はされているとはいえ、100年以上経過している駅舎がゴロゴロしている。そういった古い建築好きの人にとっては宝の山みたいな路線らしい。

大雨はすっかり収まり、もう小雨状態になっている。それでもその影響で川は増水し、濁流みたいになっている。

この美祢線は2010年の豪雨災害によって1年2か月の間、全線で不通となっていたことがある。いちど大雨の影響で普通になっている。厚狭川の氾濫で鉄橋が流されるなど甚大な被害だった。たしかに山間部は多いし、川と並行している部分も多い。大雨に対してナーバスにならざるを得ない路線だ。

湯ノ峠駅-山口県山陽小野田市:美祢線

ここで美祢市が終わり、山陽小野田市へとやってきた。いや、やってきたは正確ではない。早朝にも通ったので帰ってきた、といった方が正確だ。この湯ノ峠駅は湯の峠とまで書いておいて温泉がなかったら許さないぞと思っていたら、温泉サイトによるとしっかりと駅の近くに湯ノ峠温泉があるらしかった。

ただ、情報によると線路から見えるはずなのにそれらしいものはなかった。どうやら、湯ノ峠温泉の唯一の入浴施設だった岡田旅館が閉業してしまったらしく、いまは温泉が存在しないみたい。つまり、湯の峠とまで謳っておきながらいまは温泉がない状態のようだ。

湯ノ峠駅を過ぎたあたりですっかり雨も上がり、安全も確認されたみたいで、徐行運転が解除された。「ここからは本気で行きます」みたいなニュアンスの勇ましい車内放送が流れる。といっても終点はまでは1駅なのでもうそんなに挽回できない。

12:04 厚狭駅-山口県山陽小野田市:山陽本線、美祢線、山陽新幹線

厚狭駅に帰ってきた。早朝にも言ったけど、むかしは、新幹線に乗りながら厚狭駅って誰が使うんだよと思っていたけど、こうしてみるとその重要性が分かる。長門や美祢方面からの新幹線需要も満たす重要な接続駅だ。

本来なら10時58分に到着すべき列車が12時4分到着となった。見立てどおり1時間ちょっと遅れての到着だ。それにより緻密に組んだ旅程は大崩壊である。もうこうなったらいけるところにいくしかない。出たとこ勝負の乗り換えだ。

どうやら4分後の12時8分に山陽本線の新山口駅に向かう列車が来るようなのでそれを狙う。そこからまた北上して維持困難路線である山口線を取っていく作戦だ。ちなみにこのわずかな待ち時間でゆでたまごを丸呑みした。ピッコロ大魔王の逆再生みたいになりながら丸呑みした。

新山口駅へ向かうとなったら4分しか待ち時間がない。この時間帯の山陽本線がやってくるホームまで急いで移動した。ただ、そこのホームはなんというかこれから列車が来るぞという雰囲気が全く感じられないホームだった。待っている人がいないし、駅員さんの気配とかもない。次に来る列車をお知らせする電光掲示板がないので、本当にここに来るのだろうかと不安になる。もしかしてホームを間違っているんじゃないかと何度も確認した。

ホームに置かれた時刻表を何度も確認したけど、12時8分にくる新山口方面の列車はこのホームで間違いがない。じゃあなんだ、この気配のなさはなんなんだ。不安になっていると、長い棒状のものを持った女性が階段を降りてきた。たぶん薙刀だと思う。どこかで薙刀の試合か練習か合宿みたいなものがあってそれに向かう感じだった。

「よかった。他に乗客がいた」

やはりこのホームで間違いがないのだ。堂々と待っていればいいのだ。

いよいよ12時8分になった。列車の到来をいまかいまかと待ち受けていたのだけど、まったく持って来る気配がない。それどころか遅れるとかそういったアナウンスも存在しない。どうなっているんだ。いや、ちょっと遅れているだけかもと12時13分くらいまで待ってみるのだけど、やはり来る気配すらない。

ここで恐ろしいのはこの場を離れられないという点だ。来るべきはずの電車が来ないのはおかしいのにアナウンスもなにもない。それどころかホームに駅員さんもいない。こりゃおかしいんじゃない、と駅員さんがいる向こうのホームまで行った瞬間にちょっとだけ遅れていた列車が来たらどうだろうか。そう、この場を離れた瞬間に乗るべき列車がやってきて逃してしまうことが怖いのだ。

それでも、12時25分を超えて来ないのはおかしいと確信する。絶対に何かが起こっている。薙刀の女の子みたいに平然と待っていることのほうがおかしい。俺はたとえ逃すことになってもこのホームから離れるぞ。

意を決してホームを離れ、新幹線乗り換え口みたいなところにいた駅員さんにたずねる。

「あの、12時8分発の山陽本線が来ないんですけど……」

その質問に駅員さんが食い気味に答える。

「あー! あのね、なんか下関のほうで貨物列車が1時間くらい立ち往生していてね、それで山陽線、いっさい動いていません! どれだけ遅れるかもわかりません! もうなにがなんだか!」

もうなにがなんだかと言いたいのはこっちだよ。

遅れるならせめてアナウンスをして欲しかった。たぶん改札とかには遅れるって掲示されているんだろうけど、乗り換えできた客は改札を通らない。アナウンスしてくれないと来ないしホームから離れられないしという状況になってしまう。

とにかく、止まっているのは在来線の山陽線だけのようなので、新幹線は正常に動いている。新幹線に乗って新山口駅まで行ってしまえばいい。ここ厚狭駅が新幹線接続駅であることが幸いした。やはり厚狭駅は新幹線駅として重要だよ。

僕はこのミッションの際に編集部から示されたルール説明の中に「特急や新幹線を使わず普通列車のみ」と書かれていないことに気が付いていた。そこで「使っていいですか?」と質問するとたぶん禁止されるので、そのまま黙っていました。つまり、ルールに含まれていないので新幹線も使い放題だ。もう一度いう、新幹線も使い放題だ!

5本目 厚狭12:49発 山陽新幹線こだま(500系)岡山行き(5分遅れて12:54発)

山陽新幹線でしかお目にかかれない500系がやってきた。あいかわらずこの新幹線はめちゃくちゃかっこいいな。

それにしても新幹線、めちゃくちゃ速いな。さっきまで徐行の美祢線だったのでその速度の違いに目がついていかない。景色が全て残像みたいに見える。とにかく速いよ、新幹線ってめちゃくちゃやばいんだな。

13:03 新山口-山口県山口市:山陽新幹線、山陽本線、山口線、宇部線

運賃:1550円(自由席新幹線特急券870円含む)

この駅は、かつては小郡駅という名称の駅だった。僕も小郡駅時代に何度か利用したことがあるので記憶にある。もともと小郡村、小郡町の玄関口の駅だったが、新幹線開業時に新幹線停車駅となったため、山口市への新幹線駅という側面が強くなっていた。なんどか「小郡駅」という名称を「新山口駅」に変えようという打診があったものの小郡町側が山口市の一部とみられることを嫌って難色を示していた。結局、その後の平成の大合併で小郡町は山口市と合併したため、その後の紆余曲折を経て、2003年に新山口駅と改称された。

さて、その新山口駅からは在来線に乗り継いで山口線へと入っていくことにする。新山口駅と島根県の益田駅を繋ぐ路線だ。そのうちの、宮野~津和野間と、津和野~益田間が維持困難路線とされている。まあ、宮野駅以降の山口線全部が維持困難ということだ。

新山口駅は2012年あたりに新しく建て直しているのでかなり近代的で綺麗な駅舎になっている。駅周辺の再開発も活発な印象だ。新幹線のホームから在来線のところまでけっこう距離があるので、乗り換えがタイトな時は走る必要がある。そして、いまがその時だった。新幹線が5分ほど遅れたのでけっこうタイトな乗り換えになってしまった。切符を買うことを考えるとギリギリだ。とにかく走った。

SLをモチーフにした壁があった。そうそう、山口線はSLやまぐちが走る区間だった。是非とも見てみたい。途中で出会えるといいんだけどたぶん難しいと思う。

6本目 13:12 新山口発 山口線普通 益田行き

2両編成

乗客多数

ギリギリ間に合った。綱渡りの乗り換えだ。

2両編成の車内はかなり混みあっていて、座席はすべて埋まっており、立っている人がたくさんいた。満員というほどではないにしろ、かなり乗客は多かった。

さらに気になったのが、薙刀を持った集団だ。20人くらいの薙刀集団が乗り込んできて一気に車内が混雑してきた。この薙刀集団、誰かを待っているような感じだったけど、諦めてこの列車に乗車してきた感じだったので、おそらく、厚狭駅にいたあの女の子はこの集団の一員で新山口を目指していたんだと思う。結局、合流できず、他のメンバーも諦めて乗り込んできた感じだった。

この薙刀軍団はどこか運動公園みたいなものがありそうな駅で降りていったので、やはり薙刀の試合か合宿があったんだと思う。

山口駅-山口県山口市:山口線

山口線においては新山口駅と山口駅の間は本数も多く、利用者もけっこういる。新幹線接続駅である新山口駅と、県庁や市役所といった重要拠点がある山口駅を結ぶこの区間は重要だ。山口駅は山口県と山口市のJR代表駅とされているが、都道府県庁所在地のJR代表駅としては乗降人員数が最も少ない。またJRの分類である地方交通線上に存在する唯一の県代表駅である(他はすべて“幹線”上にある)。つまり、県と市の代表駅だけど、実質的には新山口駅が代表だよねという駅である。

満員に近かった車内の乗客もここ山口駅でワッと降り、一気にガラガラになってしまった。

「山口駅で25分停車します」

列車の行き違い待ちで数分、場合によっては10分くらい駅に停車することがあるのだけど、ここ山口駅では25分も停車するらしい。いくらなんでも長すぎる。それならいったんここで打ち切って25分後に新たに山口駅始発で出した方がいい。

まあ、本来なら途中下車できない切符なのだけど、さすがに25分の停車なら出て売店まで行っていいよと言われたので、改札を出た先のおみやげ屋とコンビニが合体したみたいな売店で食料を買い込んだ。

駅のベンチでボソボソと弁当を食べていたらあっという間に25分が経過したので、列車に乗り込んだ。

車内は完全にスカスカだ。2両編成ではあるけどこちらの車両に数人の乗客、隣の車両はもうちょっと多くて十数人といったところだろうか。

宮野駅-山口県山口市:山口線

宮野駅より先が山口線における維持困難路線に挙げられている。つまりはここまでの区間はそこまで維持困難ではないということだ。それを象徴するかのように、この駅でワッと人が降りていった。僕の乗っていた車両は僕だけになってしまい、隣の車両に数人の乗客を残すのみになってしまった。

宮野駅もレトロな佇まいを残す歴史ある木造の駅舎だ。開業100周年と大々的に掲げられているように、もしかしたら100年前の建物なのかもしれない。また、山口県立大学という表記からも分かるように、山口県立大学の最寄り駅だ。降りていった人々も大学生風の人たちが多かったので、そこへの通学需要があるのだろう。

さて、ここから山口線の維持困難路線へと入っていく。

山口線 (宮野~津和野)
営業係数566 輸送密度678人/日

山口県山口市の新山口駅から島根県益田市の益田駅を結ぶ路線。全線にわたって国道9号線と並行しており、途中には湯田温泉や山陰の小京都とよばれる津和野などの観光地が存在する。鉄道においては蒸気機関車を復活させた「SLやまぐち」が有名で、この成功を受けて全国各地で蒸気機関車を復活させる動きが加速した。該当区間である宮野から益田までは2013年の豪雨災害により、完全復旧まで1年あまりを要した。

車内は完全に貸し切り状態だ。隣の車両には何組か乗客がいるけど、なぜかこちらには乗ってこない。

仁保駅-山口県山口市(無人駅):山口線

宮野駅を抜けるとあれよあれよという間に民家が見えなくなり、一気に山間部の景色へと変わっていった。仁保駅はその山間部の風景に変わった直後に停まる駅だ。周囲にあまり人家も見えないし、駅舎もない駅だ。ただただ深い森の中に駅がある。

この時の僕は、この山深さを読者にアピールしなければならない。問答無用で山深くなったと分かってもらえる渾身の写真を撮らねばならない。妙な使命感に駆られていた。そこで撮影した写真が以下のものだ。

草じゃん。

これでなにを表現したかったのか、いまとなっては理解できない。もっと駅のホームとか撮れよ。

篠目駅-山口県山口市(無人駅):山口線

ということで、隣の篠目駅では草ではない写真を撮った。この駅は、旅情をかきたてる良い写真が多いことで有名な「青春18きっぷ」のポスターの撮影地として採用されたことがある。2009年バージョンだ。その時のコピーが「大人にはいい休暇をとる、という宿題があります」というものだ。「僕には維持困難路線を全部とる、という宿題があります」みたいなコピーが浮かんだ。誰かポスターにしてくれないかな。

山間のわずかな隙間に広がる水田、夏の田舎を想像したときに浮かぶ風景をそのまま持ってきたような場所だ。

長門峡駅-山口県山口市(無人駅):山口線

名前の通り、国指定名称である長門峡の最寄り駅となる場所だ。長門峡は奇岩や滝などが美しく連なる渓谷で、季節ごとに異なった彩りを見せる場所だ。とくに紅葉は綺麗だという。

駅の近くには「道の駅 長門峡」がある。そこのホームページを見てみると、2022年2月に「ゆめの宝船」登場!と大々的に書かれていた。どうやら木造の宝船が飾られているらしい。ちょっと興味があるのだけど、こういうのは時間制限のある鉄道旅である以上、なかなかお目にかかれない。下車して道の駅まで歩いて行ってとやらなければ難しい。ほぼ不可能。いや、残念だ。

と思ったら見えた。思ったより大きいし、野ざらしで置いてあるんだな。最近に設置されただけあって木が真新しいのでとても目立っていた。これから年季が入った感じになっていくのだろうか。

相変わらず僕の車両は貸し切り状態なのだけど、長門峡駅を過ぎたあたりで隣の車両から1組のカップルが移動してきてボックス席に向かい合うようにして座った。

「じゃあ練習しましょう」

女性の方がそう声をかける。男性の方は緊張している面持ちだ。どうやら雰囲気的に、これからこの先にある彼女の実家に結婚の挨拶に行く感じだった。娘さんをくださいってやつだ。それの練習をしたいから、僕しか乗客がいないこちらの車両に移動してきたんだと思う。

「えー、本日はこのような辺鄙な場所にお招きいただき……」

「辺鄙な場所はまずいでしょ。失礼でしょ」

「え、普通に言わない?」

僕も“辺鄙な場所”は失礼だと思う。

「えー、本日はこのような過疎地にお招きいただき……過疎地も失礼かな?」

「失礼でしょ」

「もうどう表現したらいいかわからないよ」

もう挨拶で田舎度に言及するのやめなよ。それ言わなくてもいいだろ。そんなやり取りをする二人を乗せたまま、山口線の赤い車両は辺鄙な場所を走っていった。

渡川駅-山口県山口市(無人駅):山口線

渡川駅は田畑が広がる田園風景の中に数件の民家があるような場所に存在する。駅の周りに何もないという表現をしたとしてもたいていは何かしらあるのだけど、ここは本当に潔くなにもない場所だった。ただし、駅から見える標高300mほどの小高い山に渡川城跡があるようだ。いまはここに何もないけど、かつてはここに城があったのだなあと思うとなかなか感慨深い。そういう目で見ると、この駅周辺は何もないけど、小高い山は天然の要塞だし、その山を取り囲むように迂回して流れる川は天然の濠のごとしだ。守りに向いている、と見えてくるから不思議だ。

三谷駅-山口県山口市(無人駅):山口線

ちょっと停車位置の関係で写真が撮れなかったが、駅舎が小さいながらも綺麗なものだった。100年超えているぜ、みたいな木造駅舎を連発してくる山口県内の駅舎としては異様なほどに新しく、光り輝いて見えた。

調べてみると、この駅舎にはいろいろとあったらしい。もともとあった駅舎は2001年に漏電が原因とも思われる火災で焼失、その際にJR西日本が不採算を理由に新しく駅舎を建てることを拒否。そして地元の負担でプレハブが建てられていたが、2010年、新しい駅舎が建てられることとなったらしい。不採算を理由にJR西日本が拒否したあたりは、他の100年越えの駅舎群を見ていたらなんとなく理解できる。建てたくないのだ。建て替えたくないのだ。

名草駅-山口県山口市(無人駅):山口線

もういい加減、かなり北上してきたのだけどぜんぜん山口市が終わらない。こんな山深い場所まで県庁所在地である山口市というのだから、その広さがすさまじい。下関市もかなり長かったけれどもそれ以上かもしれない。名草駅周辺も相変わらず何もなく田園風景が広がっているだけなのだけど、線路と並行する道路でじいさんが立ちしょんしていた。

地福駅-山口県山口市(無人駅):山口線

縁起の良さそうな駅名だ。この駅名にひっかけて入場券とか販売すればそこそこは売れるかもしれない。みんななんだかんだいって「福」とか「幸」とか入った駅名好きですから。相変わらず田畑の中にある駅なのだけど、さきほどの名草駅よりは民家も多く、駅を中心に街を形成している。いつのまにかこちらの車両に乗っていたカップルもいなくなり、おそるおそる隣の車両を覗きに行ったらそこにも乗客がおらず、またもや貸し切り状態になっていた。

鍋倉駅-山口県山口市(無人駅):山口線

前の地福駅の沿線あたりから薄々は感づいていたけど、この一帯はリンゴ園が多い気がする。でかでかとリンゴ園と掲げる看板がなくとも、あれもリンゴ、あれもリンゴの木だとけっこうな数のリンゴ園が密集していることに気が付いた。調べてみるとこのあたり一帯は阿東と呼ばれる地区で、もともとは阿東町という町だった。それが合併により山口市の一部となっているが、もともと阿東町は西日本有数のりんごの産地のようだ。山間における寒さがリンゴ栽培に向いているらしい。

徳佐駅-山口県山口市:山口線

徳佐駅周辺はなかなか賑わっていた。車窓からは大きな建物やコンビニの看板まで見えるので、この地域の中心駅であることは間違いないだろう。おそらく、合併される前の阿東町の中心がここで、町役場などがあったのではないか。ここで何人かの乗客が乗ってきて貸し切り状態は解消された。

船平山駅-山口県山口市(無人駅):山口線

山口県最北の駅らしい。山口県最北の市すら山口市であるということは、たしか山口市は海にも面していたので、海から北の県境までまるまる山口市である山口市ベルトみたいになっているということだ。つまり、山口市を通過せずに山口県を横断することは不可能なのである! いや、別にだからどうってことはないのだけど。普通に通過すればいいんだけど。

駅の周りは小さな集落で他には何もない。駅名からわかる通り、近くに船平山という山があり、かつてはそこにスキー場があった。

津和野駅-島根県津和野町(無人駅):山口線

ついに島根県入りとなった。これまで山口県の小野田線、山陰線、美祢線と移動してきたが、維持困難路線の中にある駅はすべて市に属していた。ここにきて初めて町に属する駅となった。平成の大合併において市がどんどん巨大化してことのあらわれだろう。

津和野は山陰の小京都と呼ばれる代表的な観光地だ。僕も何度か行ったことがあるけど、古く落ち着いた静かな街並みが何とも気持ち良い場所だ。SLやまぐち号の終着駅でもある。SLを見ることはできなかったけど、このSLでここ津和野まできて旅館に泊まる、さながらタイムスリップした感覚に陥るかもしれない。

落ち着いた小京都の街並みも、SLによるレトロな雰囲気も津和野のおすすめだし、温泉だって捨てがたい。様々な魅力がある津和野だけど、あえてお勧めしたいのは赤い屋根の家々だ。

津和野周辺からあきらかに赤い屋根の家が増えてくる。これはおそらく石州瓦だと思う。石州瓦とは日本三大瓦のひとつで、おもに島根県の石見地方で生産され、凍害に強く、日本海側の豪雪地帯や北海道などの寒冷地方でのシェアが高い。独特の赤褐色が特徴だ。

どの家の屋根も赤い。

さて、津和野を超えると山口線の後半戦だ。山口線は営業係数が550~650程度と、確かに高く大赤字であるものの、1000を超えるほどではない。同じようなローカル線でありながら営業係数が比較的に小さくなる要因は特急列車の設定であろうと思う。特急の設定が多ければ少しは利益になるということではないだろうか。

山口線 (津和野~益田)
営業係数681 輸送密度 535人/日

山口線においては新山口から益田を抜け、鳥取県の米子駅や鳥取駅に至る特急列車が日に3本設定されている。それらを除いた普通列車に限ると新山口駅から山口駅までが最も本数が多く、日に28本ほど設定されているが、宮野以降は日に8本、津和野以降は日に6本と益田が近づくにつれて大きく本数が減る。新山口から益田まで山口線を一気にいく列車は2本だけの設定だ。かなり難易度が高い路線といえる。

津和野を超え、車内の乗客は数人程度だ。この区間を通しで移動する人は特急を使うので、普通列車はこのような状況になってしまうのだろう。あまり通学需要がなさそうなところも苦しい。

青野山駅-島根県津和野町(無人駅):山口線

津和野から1つ山を越えた先にある駅だ。駅舎がなく、簡易的な待合室があるのみ小さな駅だ。周囲にポツリポツリと集落があるだけの駅だがその風景は素晴らしい。

こんな感じ。しっとりと落ち着いた雰囲気がある。

手元の記録によると、この駅の1日の平均乗降者数は3人らしい。なかなか過酷な利用状況だ。3人だけ乗り降りする駅かーと思っていたら津和野駅から乗ってきたおじさんが颯爽と降りたので、3人のうちの1人を見ることができた、とちょっと感動してしまった。

津和野からの山間部に点在する民家はめちゃくちゃに豪邸だ。普通に民家だねーと思って眺めていたけど、冷静に見るととんでもなくでかい。画像の家は家自体も大きいし、その横にある蔵みたいな建物のまで含めて一軒の民家だ。下手したら5世帯くらいは住めそうな圧倒的な豪邸が当たり前のようにポコポコ存在する。

日原駅-山口県津和野町:山口線

この日原という駅名はどこかで僕の記憶に刻まれている。鳥取県出身である僕は、お隣の島根県の地名もある程度は知っているのだけど、さすがにこの津和野周辺は鳥取県からもっとも遠い位置にある島根なのであまり理解はない。それでもこの日原はなんとなく記憶にある。なんだろうと考えていたら駅から見える看板に周辺の観光地みたいなものが記載されていて「汗かき地蔵」と紹介されているのが見えた。その瞬間、記憶が弾けた。

地図アプリで探してみても駅からほど近い場所に「汗かき地蔵」があるようだ。やはり間違いない。僕はこの地蔵を探してここ日原まで来たことがある。

汗かき地蔵は、村に何か変わったことがあるとき、首から上の部分に玉のような汗をかいてその危機を警告してくれるという地蔵で、ここ日原にある地蔵堂に納められている。確か車の免許を取りたての頃だったと思う。僕が好きだった子が島根県出身で、とつぜん津和野のほうにある汗かき地蔵をみたいと言い出したのだ。何かの異変が近づいているのできっと地蔵が汗をかいているはずだと言い出した。いま考えると、急にそんなこと言い出す女の子、けっこう怖いのだけど、その時の僕は「ミステリアスでかわいい」と思ってしまったし、「一緒にみにいこう」みたいに提案した。

鳥取県から津和野までは遠かった。まだ道路もあまり整備されていなくてめちゃくちゃ時間がかかった。おまけにインターネットや地図アプリが充実していたわけではなかったので、僕らはその汗かき地蔵を見つけることができなかった。それがこんな場所にあったのだ。

「そうか、こんなとこに」

日原の街並みを眺めながら呟く。あの日は暑い日で、最後は歩いていきめ細かく探そうってなって車を降りて探したんだ。めちゃくちゃ汗をかいてしまって、もう見つからないし諦めて帰ろうってなった帰りの車中で「汗かき地蔵は見つからなかったけど俺はめちゃくちゃ汗かいたよ、汗かきおれ」って言ったら彼女に無視されたんだった。嫌なこと思いだしちゃったな。

青原駅-島根県津和野市(無人駅);山口線

いつのまにか線路に並行して流れる川が津和野川から高津川に変わっていた。駅周辺はその高津川のほとりに小さな集落があるだけで、何もなさそうな雰囲気だ。ただ、青原という駅名が良い。駅名で「幸」とか「福」が入っていると重宝がられて記念入場券が発売されたり、訪れる人がいたりするのだ、ここは青原という駅名にひっかけてなんとか青春恋愛漫画である「アオハライド」とコラボするべきじゃないだろうか。そもそも「アオハライド」は青春を示す「アオハル」に「ライド(乗る)」するという意味らしい。「アオハライドして山口線にもライドしよう」みたいにすべきだ。思いもかけず名コピーが生まれてしまった。駅もちょっと青春っぽく飾りつけをすべきだ。これは冗談で言っているのではなく、こうした維持困難路線の生き残る道はコラボおよび聖地巡礼だと思っている。

東青原駅-島根県津和野町(無人駅):山口線

高津川が大きく蛇行し、添谷川と合流する地点に集落がある。その集落と金毘羅神社の間に東青原駅がある。この駅は謎に包まれた駅で、「東青原駅」と名付けられているのに、さきほどの「青原駅」よりちょっと西にある。どうしてこんなことになったのか調べてみたけどちょっと分からなかった。品川駅より南にあるのに北品川と名付けられた駅みたいだ。この駅もその謎に引っ掛けて「青春にかかれば西だって東になっちゃう、山口線にライドしよう!」みたいな意味不明なコピーでコラボすべきだ。

石見横田駅-島根県益田市(無人駅):山口線

津和野町が終わり、ついに住所表示が益田市になった。いよいよ終点の益田市が近い雰囲気がするけど、これまでの例でいくと市は広く長くなる傾向になるので油断できない。

石見横田駅はかなり古いが立派な駅舎がある。津和野以降、ほとんどの駅で駅舎がなかったことを考えると、かつては中心駅的な役割があったのだろうと思う。

その駅舎はかなり古い木造建築だ。この駅は大正時代に開業した駅のようで、何度かの改修や改装を経て、そのまま残っているのだと思う。まさに大正ロマンだ。

津和野以降の島根県内の無人駅を眺めていると、ああ、これは島根県の無人駅だという独特のオーラを感じる。山口県内の無人駅では感じなかった独特の何かだ。僕はもう廃線になってしまった三江線の駅を求めて延々と歩いたことがある(2回も!)。そのときに数多くの島根県の無人駅を見た。その時に感じたものと同じ何かを感じる。うまく説明できないけど何かがあるのだ。この石見横田駅も完全に島根県の無人駅だねという典型的なオーラを纏っている。

本俣賀駅-島根県益田市(無人駅):山口線

高津川沿いに走っていた線路は石見横田駅を超えると山奥へと伸びていく。高津川沿いのほうが国道も通っており、多くの家々が立ち並んで商店も点在して発展している場所なのに、あえてそちらを通さず、山の中を行って、小さな集落の場所に駅を設置している。それが本俣賀駅だ。あえて川沿いを嫌ったのには何か理由があるのかしれない。そのせいなのか1日あたりの乗降客も近年はずっと1人か2人で低迷している。

本俣賀駅を出ると、また高津川沿いへと戻ってくる。川はかなり大きくなっていて、大雨の影響でかなり増水している。川の感じからみて、河口が近そうなのでおそらく終点の益田駅が近いのだろう。

川を見るとついつい橋を探してしまう。なんかめちゃくちゃオシャレな感じの橋が突然でてきて驚いた。白と赤のコントラストが素晴らしい。

これは益田市にある「飯田の吊り橋」と呼ばれる吊り橋らしい。160メートルの長い橋のどこかにハートマークが1つ隠されており、それをカップルで探して吊り橋効果で縁を結ぶ、みたいなクソみたいなコンセプトがある吊り橋だ。恋人たちが南京錠をかけたりしているらしい。もうやりたい放題だ。

そしてついに、列車は終点である益田駅へと到着した。さあ、どんな乗り換えがあるか。もう旅程が大崩壊しているので出たとこ勝負で乗り換えるしかない。ゆでたまご丸呑みから何も食べていないので空腹だ。ある程度の乗り換え時間があって駅前で食事などできれば上出来だ。

15:58 益田駅-島根県益田市:山陰本線、山口線

運賃:1880円

山陰地方の日本海側を通る山陰線と、いましがた通ってきた山口線とか接続する駅だ。益田市の中心駅でもある。開業当初はここまで山陰線がきていなかったこともあり、山口線所属の終着駅だったが、山陰線の延伸に伴い、山陰線所属駅となった。

この益田駅は、維持困難路線の三叉路になるのでかならずどこかで戻ってくる必要がある。そうなると、同じ、三叉路である長門市駅と一緒に重複路線を片付けてしまうのが得策だろう。

これからこの区間の山陰線に乗り継いで長門市駅へと舞い戻る。時間的にみて本日の移動はそこまでだろう。次の日の始発でまた益田に舞い戻ってくる作戦だ。

ここから長門市へと向かう列車はかなり本数が少ない。特急の設定もない。4時間半待ちとか平気で出てくるし、最終列車も19時台だ。難易度が高い。いまから長門市へと向かう列車は17時47分発、ざっと2時間ほど待ち時間がある。厳しい待ち時間だがここではそれしか選択肢がない。ここで食事をとるしかなさそうだ。

益田駅の駅前はかなり近代的で都市的な風景になっている。ホテルもあるし、複合型の商業施設やマンションも見える。汗かき地蔵を探したときに訪れた記憶の中の益田駅と大きく違うので、近年になって駅前の再開発があったのだと思う。その反面、益田駅自体の駅舎はけっこう古い感じなのでなんともアンバランスな感じになっている。

どこか食事ができる店はないものかと、駅からすぐ近くの幹線道路を眺めてみるものの、ちょっとそういうものはなさそうだった。と思ったら真横にあった。

石見の伝統芸能である石見神楽を見られる居酒屋ってどんな形態なのだろう。飲んでいたら獅子舞みたいに神楽の大蛇が各席をまわってきたりするのだろうか。とても興味があるのだけど、営業時間外なのか、それとも休業中なのか、営業していない感じだった。

幹線道路には食事できそうな店が見当たらないけど、ちょっと奥に入ればあるかもと、ちょっと奥に入ったら、明らかに店がなさそうなゾーンに誘われそうになった。駅から徒歩5分でこれだ。ただし、その脇から入っていく駅前エリアに歓楽街的な飲み屋街があった。

この飲み屋街がレトロな感じがしてすごく雰囲気が良い。まだほとんどの店が営業前なのだけど、その静けさすら趣があってよい。

こういう雰囲気、好きな人は本当に好きでしょ。僕もけっこう好き。

好き。

レトロな建物だけでなく、新しい息吹もあって、めちゃくちゃ真新しいライブハウスもあった。

とても良い雰囲気の飲み屋街で是非とも夜の時間に訪れたいのだけど、そうもいかない。また、この時間に営業している店はなく、食事にありつけなさそうだったので、空腹でフラフラになりながらも益田駅へと舞い戻った。

唯一、駅前の商業施設に入っていた「目利きの銀次」が営業していそうな雰囲気だったので入ってみると、「うち5時から営業なんですわ」と断られてしまった。時間はまだ4時半だ。30分もある。ただ、店の人があまりに落胆する僕を不憫に思ったのか、30分切り上げて開店してくれた。

うめー!

うめー!

ありがとう、目利きの銀次益田駅前店。腹を満たしつつ、スマホも充電でき、休息を取ることができた。ここまであまり触れてこなかったけど、常に駅メモ!でチェックインするのでスマホの充電は重要な生命線だ。旅をしながら駅メモ!で駅を取る場合はできることなら複数のモバイルバッテリーを持っていきたいものだ。

7本目 17:47益田発 山陰本線 長門市行き

2両編成

乗客は10名程度

ここ益田駅から長門市駅までの山陰線ももちろん維持困難路線なのだけど、この路線の紹介は明日に持ちこすことにする。なぜなら明日も通るし、今日はこれから陽が落ちてきて闇の中を走るので、沿線の風景が何も見えなくなるからだ。

益田駅を出てすぐに荒ぶる日本海の風景が広がり始める。まさに日本海だなといわんばかりの光景だ。

荒ぶる日本海に浮かぶ小さな島。ここから通過する海岸線は島が多い。島根県と山口県は意外にも島の数が多い。外周0.1 km以上の島の数は島根県が369と全国で4位、山口県が249で全国11位だ。山口県は瀬戸内海側も含んでの数だが、島根県は日本海側だけでこの数だ。この海岸線にはこういった小さな島々をたくさん見ることができる。

予想通り、あっというまに陽が落ち、車窓からの景色はただの闇になってしまった。車内も僕のいる後ろの車両は完全に貸し切り状態で、前の車両も途中の萩駅から乗ってきた何名かの高校生を残すのみになってしまった。

それにしても車両の中がめちゃくちゃに寒い。もうさすがに暖かいだろうと思って荷物の軽量化をはかるために薄着できたのだけど完全に寒い。冬みたいだ。たぶん、陽が落ちて急速に冷え込むのと同時に日本海からの冷たい風が吹きつけているからだ。とにかく寒い。

仙崎駅-山口県長門市:山陰線仙崎支線

いよいよ終点である長門市駅に到着するぞというところで、仙崎駅が取れた。長門市駅から伸びる1駅間だけの支線だ。レーダーで取ろうかと考えていたけれども、位置的に考えて益田方面から移動してくれば取れるだろうと予想していたのでドンピシャで取れてうれしかった。ちなみにこの区間はシャルロッテが担当。

いよいよ終点の長門市駅が近づいてきたので、前の車両に移ってみたら、前の車両だけガンガンに暖房が入っていて暖かかった。だからみんな後ろの車両に来なかったんだ。後ろにも入れてよ。

19:54 長門市(2回目)
運賃:1720円

朝にも通過して旅程大崩壊をかました長門市駅へと帰ってきたのは夜8時、すっかり夜の闇に覆われた頃だった。本日の移動はここまで、どこか泊るところとご飯を食べるところを駅近くで探そうと、そういや、駅舎内に観光案内所があったし、そこで聞こうと思ったら今度は時間が遅すぎて閉まっていた。つくづく長門市駅の観光案内所に縁がない。

といったところで1日目の移動はこれまで。まとめはこちら。

制覇した維持困難路線(6/30)

小野田線、山陰線(小串-長門市)、美祢線、山口線(宮原-津和野)、山口線(津和野-益田)、山陰線(益田-長門市)

アクセス駅数 95駅

総移動距離 370 km

死ぬほど緻密に練り上げた旅程を序盤の序盤で大崩壊させ、今後がすべて行き当たりばったりの乗り継ぎになってしまった。それでも山口県西部の維持困難路線をクリアできたことは大きい。明日は、早朝より益田に向かい、そこから山陰線を制覇していくプランが良さそうだ。

長門市駅では意味深な感じで車両のライトアップが行われていた。なにか特別な車両なのだろうか。

なんとかホテルをとったものの、駅周辺、ホテル周辺にはスーパーやコンビニが存在しなかった。いくつかのレストランやファミレスは駅から少し離れた場所にあったけど、今日はもうかなり疲労しているので総菜をホテルで食べたいと切望していたのだ。駅の裏側のどでかいショッピングセンターがあったので、そこなら何らかの食料が買えるだろうという淡い期待を抱いて向かってみた。

閉鎖していた。

時間が遅いから閉店したというわけではなく、なんか営業しているオーラみたいなものが皆無なので、閉業してしまったんだと思う。それもけっこう長いことこの状態が続いていそうな感じだ。

なんとか総菜を買いたいと、さまようこと30分。

ついに現役で営業しているスーパーを見つけた。けっこう大きい店舗だ。主に中国地方で猛威を振るうFujiチェーンのスーパーだ。さ迷い歩いた僕にはこの光がマハラジャのようにみえる。

うおー、ここなら総菜が買えるぞーと小走りに店に突入したところ、略奪にあったの? というくらい綺麗さっぱりに総菜が売り切れていた。唯一、漬物の詰め合わせみたいなパックが1つだけ残っていたけど、それすらも疲れ切った感じのOL風の女性に買われるところだった。

結局、失意のままホテルに戻り、カップラーメンを食べて寝た。明日も始発なので早い。

とうことで2日目につづく!

【次のページ】2日目

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