男性保育士に「うちの子を着替えさせないで」。保育園の様々な問題を、現場に行って色々見てきた
男性保育士問題、待機児童問題、保育園不足問題など、何かとメディアで取り上げられることの多い「保育園問題」。実際に保育士はどんな仕事をし、このような問題をどのように感じているのでしょうか。実際に保育園に赴き、保育士の仕事実情を探ってみました。
こんにちは。子どもに絵本を読み聞かせながら失礼します。
ライターの長橋と申します。27歳、独身です。
本日はとある保育園にお邪魔しているのですが、たくさんの子どもたちに囲まれてパニックになりそうです。
「ねえねえねえ!ぼくの家の車、8人乗りなんだよ!」
「聞いて聞いて!こないだ新幹線に乗ったんだけどね〜〜!」
「あのねー!今日は窓から富士山が見えたんだよー!」
「この絵本読んでー!」
「すっごーい!カメラだー!撮って撮って~~~~!」
「おじさん、今日はなにしに来たの?」
などと、5人以上の子どもたちが同時に話しかけてくるので、混乱状態になりかけます。
僕は、聖徳太子ではないし、まだおじさんでも無い。たぶん(27歳)。
というわけで本日は、千葉県の保育園にお邪魔しています。なぜやってきたのかと言いますと……
千葉市は男性保育士活躍推進プランを策定しました。
女性活躍を推進する一方、本来のダイバーシティ(多様性)を考えると男性が少ない保育現場などでは男性活躍を推進する必要があります。更衣室が無い、女児の保護者の「うちの子を着替えさせないで」要望が通ってきた等の課題が背景にあります— 熊谷俊人(千葉市長) (@kumagai_chiba) 2017年1月19日
現役千葉市長のこちらのツイートがきっかけです。
「男性保育士活躍推進プラン」つまり、
ざっくり言えば「もっと男性保育士が活躍できる環境を整えよう」といった目標を千葉市が掲げたのです。
その背景として、千葉市内並びに全国の幼稚園・保育園では、男性保育士が幼児のオムツ交換や着替えの業務を「外される」ケースが目立っていたとのこと。
こうした状況について千葉市の熊谷市長は、「女性なら社会問題になる事案です」と訴えたのです。
Twitter及びインターネット上ではこのツイートに対し
「子育ては力仕事の側面もあるから男性が向いている仕事もあるはず」
「保育士がそもそも足りてないんだから男性も活躍させるべき」
といった賛同の意見や、
「男性保育士に子どもの着替えなどを手伝わせるのは不安」
「性犯罪などが起こったらどうするのか」
といった反対の意見も出るなど、様々な議論を呼びました。
そんなわけで今年初頭、「初詣ベビーカー論争」が巻き起こった際に便乗して書いた記事が拡散されて調子に乗っていた私は、「おっと、これは僕の出番でしょうか…」と、Twitterを開いて論争にガツンと入り込もうとした矢先、ふとこう思ったのです。
「そういえば、オレ、保育士っていう職業について、何も知らないな…」って。
「何も知らない人が、むやみに口出しをしてはいけない」
亡くなったおばあちゃんが私に会うたびに言っていたような(気がする)言葉を思い出し、あと一歩のところで踏みとどまりました。
そこで、本題です。
私に限らず、独身の人間(特に男性)は今ニッポンを賑わせている「保育園問題」について知らないことが多いのではないでしょうか。
今回巻き起こった「男性保育士問題」や、ここ数年世間を賑わしている「待機児童問題」、「保育士の不足問題」、そして「こども園問題」など、何かと騒がしい「保育園」周り。
そんな中、実際に保育園で働く保育士さんは、どのような思いを持って働いているのでしょうか。
実際に、見てきたいと思います!
保育園に行ってみよう
そんなわけで無知な私を快く迎えてくれたのは、千葉市にある「公立保育所」。
ちなみに保育所と保育園の違いですが、実は、どちらも全く同じものを指しているんだそうです。
法律上の正式名称は「保育所」ですが、「幼稚園」に語呂を合わせて「保育園」と呼ばれるのが一般的なんですって。(本記事では「保育園」に統一しています)
幼少期、私は幼稚園に通っていたため、保育園に入るのは人生初となります。
ちょっと緊張しながら中に入ることに。
今回保育園を案内してくれるのは、男性保育士の先生方。
お仕事の合間を縫って、取材にご協力いただきました。
そんなお二人にご協力頂いて、まずは子どもたちがいるお部屋に向かうことに。
元気な子たちがたくさんいるかな?
と思ったのもつかの間、この時間帯、子どもたちはお昼寝中。
「子どもたちが寝ている時は暇で良いですね。休憩室でゲームして遊んだりするんでしょうか?」
「いえ、全然暇じゃないです。基本的には子どもたちのそばにいますよ。急に起きてしまう子や、眠くならない子、体調が悪くなってしまう子など、様々なケースを想定して、気を配るようにしています」
そうやって子どもたちに目を配りながら、日々の作業もきちんとこなしていく必要があるのです。
この日は、次に行われるイベントの飾り付けを作られていました。
なるほど。こういうのも手作りなのか……。これは大変だ……!
これが保育士さんのお仕事なのですね……。
また……
保護者への「連絡表」に、今日おこなった保育内容をひとりずつ丁寧に書かれています。
これを書くという事はつまり、子どもたち全員のことを細かく把握していなければならないってことです。うわぁ結構大変だ……。
「そういえば、『男性保育士活躍推進プラン』の中に入っている、“男性用のトイレや更衣室など環境面の整備を計画的に進める”案についてですが、こちらの保育園の現在の環境はどうなのでしょう?」
「見に行ってみます?」
「ぜひ!」
「この保育園には男性用トイレも、男性保育士用の休憩スペースも設置されているんですよ」
「おお! これなら女性保育士とバッタリ鉢合わせる心配もないですね」
実際、この保育園は築45年が経っているそうなのですが、10年前に給食室を改築したタイミングで、男性保育士用のトイレや休憩室が設置されたとのことです。
お休み中の子どもたちを残して、今度は外に出てみることに。
外では他クラスの子どもたち(5歳児)がおもいっきり体を動かしていました。
子どもたち、ずっと走ってます。マジで元気な5歳児(MG5)です。
子どもって、何かしらのブレーキがぶっ壊れてるのでは?
これは、「田んぼ鬼」っていう遊びの真っ最中。
やたらと走り回るし、こけて泣き出す子どもも居るし、このようにたくさんの体力を使う運動は、女性保育士だけだとちょっとしんどいかもしれませんね。
中に戻ると、さっきまで寝ていた子どもたちが起きはじめていました。
みんな寝起きが良いわけではないので、怒らせないようにゆっくりと起こしていきます。
こういう仕事も、泣いちゃう子とかがいて意外に大変そう。
先ほど外にいた5歳児のクラスに戻ると…
カメラを見て全員一斉に集まって来ます。僕が子どもの頃ってこんなに元気だったっけ……?
本当にみんなひっきりなしに話しかけて来るので、相手をするだけでも大変です。
この撮影中も、子ども同士がオモチャの取り合いでケンカを始めたのですが、先生がすぐに気づいて仲裁をしていました。
僕、それに全然気が付かなかったですからね……!
見ている範囲が段違いに広いってこと……!
さて、実際に保育園の中を覗いてみましたが、現場で働く彼らは、今回の「男性保育士問題」についてどのように感じていたのでしょうか。
お二人に聞いたところ、こちらの保育園では、男性保育士に「うちの子を着替えさせないで」といった意見はなかったと言います。
とはいえ、世間に大きく注目された今回の件。
同じ男性保育士としてどのように感じていたのでしょうか。
「このようなニュースがメディアで取り沙汰されることについて、率直にどのような感想を抱かれていますか?」
「私たちは専門職としてこの仕事をしているので、男性保育士だから、女性保育士だからとかではなく……、均等に同じ目線で見ていただけたらなっていうのは感じますね。実際現場の人間からすると女性も男性も同じプロとして仕事をしているので女性だからとか男性だからとか、そういうのを意識する事はほとんどないですよ」
「男性保育士の件もそうなのですが、世間には、保育士さんって子どもと遊ぶだけでしょ、っていうイメージは少なからずあるかと思うんです。でも保育士って専門教育を受けて国家資格もある専門職なんですよ。今後は仕事内容や保育士への理解が広まっていってほしいなと思っています」
では、「男性保育士問題」の他にもメディアで取り沙汰されている、労働環境の問題はどうなのでしょうか。
「だいたいで良いので、勤務体系を教えていだけますか?」
「通常は朝9時から夕方5時30分までです。ただ、朝の保育の準備や帰りが遅いお母さんもいらっしゃるので、早番と遅番を作ってシフトを組んでいます」
「言いにくいかもしれませんが……。残業とかはいかがでしょう?」
「次の日の準備などで止むを得ず残業をすることはあるのですが……、これは仕方のないことです。他の会社でも同じだと思いますから。それよりもまず、この保育園のみならず全国的に、保育士が足りていません。ここでもう一人保育士がいたらなぁ……って思うことは度々ありますね」
先生方とお話しをしたり、勢いに身を任せて子どもたちと一緒に遊んだりしていると、おやつの時間になりました。
今日のおやつは……
先生が気を利かせてくれて、私も子どもたちと一緒におやつをいただけることになりました。
3時ぴったりにおやつを食べるなんて、果たして何年振りでしょうか。
美味しくおやつを食べていると、何やら背後から、写真を撮る音が聞こえてきました。
保護者の方に向けて、今日のおやつの様子を撮っているとのことです。
ちなみにこれ、毎日やっているとのこと。子どもがどんな風に保育園で過ごしているのか、保護者に伝えるのも大事なお仕事です。
その後は、絵本の読み聞かせをしてあげたり(生まれて初めてやりました)、子どもたちに最近の流行りものについて聞いたりしました。(仮面ライダーが流行っているそうです)
ちなみに今回初めて気づいたのですが、子どもと喋る際は、同じ目線になって話したほうが良いということを身にしみて感じました。
頑張って無理に話そうとすると、そっぽを向いてしまわれるのです。普通に友達と喋っているような感覚で話すと、子ども側も気軽に会話をしてくれるんですよ(あくまで私の自論です)
さて、時刻は夕方、帰りの時間です。
16時に我が子を迎えに来る保護者の方もいれば、仕事で夜18時過ぎになる方もいらっしゃるそう。
皆がバラバラになる前に、これからまとめてホームルーム的なことを行います。
ってか、先生、ギター弾いてる……。
特技がギターの先生は、子どもたちと一緒に歌を歌いながらホームルームをされています。
これには子どもたちも大熱唱。信頼っていうのはこうやって結んでいくんだなと実感いたしました。
この後は先ほど書かれていた「連絡帳」を配って、一旦はさようなら。
お母さんと一緒に帰る子どもと、迎えを待ちながら園内で遊ぶ子どもに分かれます。
「本日はありがとうございました。ちなみに保育士の仕事の中で、一番嬉しいことってなんでしょうか」
「子どもたちの目に見える体の成長ではなくて、心の成長を感じた時です。喧嘩をした後に、ちゃんとごめんなさい、って言って仲直りをしている姿を見ると、ああ、やってよかったなって思いますね。保育の積み重ねでその姿になっていくので、嬉しい気持ちでいっぱいになります」
「今まで、仕事を辞めたいなって思ったことはないのでしょうか」
「保育士って、子どもの命を預かる、物凄く責任の重い仕事なんです。だから大変なこと、うまくいかなかったりすることはやっぱりあって、悔しい思いをすることは多々あるんです。けれども、出勤をして子どもたちが目の前にいると、やっぱり頑張らなきゃなぁって思えるんですよね。それの繰り返しで、今は楽しく仕事をしています!」
「お二人とも、めちゃめちゃ良いお言葉、ありがとうございました」
女性保育士さんにもお話を伺います
一緒に働く女性保育士さんに、女性としての立場から今回の問題を聞いてみることにしました。
「働いている中で、男性保育士がいて良かったことってあったりしますでしょうか?」
「女性保育士ができる遊びと、男性保育士ができる遊びって、違いがあるんですよね。男性保育士は私たちにはできない、子どもたちが望む“パワー的な遊び”にずっと楽しく付き合ってあげれるんです。また、子どもたちに対する心の面も違っていて。子どもたちは男性保育士のことを、家庭でのお父さんのポジションとして捉えるみたいなんです。私たち女性保育士が注意をしたりすると、男性保育士に泣きついたりとかもあって。心の拠り所になっているんですよね」
「男性保育士に“うちの子を着替えさせないで”という論争について、女性保育士としてのご意見をお聞きしても良いでしょうか」
「私は今も昔も、男性保育士・女性保育士の隔たりを持たずに仕事をしていました。しかし、もし実際にそういう意見を反映して、着替えの際は男性を付けない、トイレには女性を呼ぶなどの決まりを作るとすると、スムーズに保育ができなくなるかなっていうのは思いますね」
「ただでさえ人手が足りてないのに、現場が混乱しそうですね」
「そうですね。これまで一緒に働いてきた男性保育士さんたちは、みんなすごい頑張って仕事をしていた方々なので、保護者の方たちもそれに応じて受け入れてくれているのかなとも思います。また、この保育園ではない場所でも男性保育士と働いていた経験があるのですが、保護者からもそのような反対意見は出なかったかと思います」
「また単純に、男性・女性云々ではなく、とにかく人が足りていないっていう現実もあります。そんな中、男性が働きにくいと思ってしまったら、ますます男性保育士を目指す人もいなくなってしまうでしょうし、保育園の運営が立ち行かなくなるのではないでしょうか。」
「そうですね。男性保育士に対して子どもからの反対意見はないでしょうしね」
今回は時間の都合上、丸一日密着したわけではないのですが、私自身は今まで持っていた保育のイメージがガラッと変化いたしました。
自分の子どもの頃と照らし合わせると、「ああ、こうやって僕も育てられていたんだな」という実感も沸き、この仕事はいかに子ども、そして親との信頼関係で成り立っているんだと考えさせられます。
例えば、数分前まで元気だった子どもが、急に熱が出ることがあるそうです。
こんな時の適切な処置も、国家資格を持った保育士さんだからできること。
保育士さんは“子どもの命を預かる職業”である。という意識を改めて植え付けられた気がします。
あの人に会いに行こう
ところで皆さん、お気付きでしょうか。まだ“あの人”からお話を聞いていないことを。
そう、今回の「男性保育士問題」を語るには、絶対にお話を聞かなければならない人がいるのです。
ということで、千葉市役所に向かいました。