地元の想いで運転再開が3か月前倒しに!「奇跡の復活」を果たした箱根登山電車の今

こんにちは! 歴史・旅ライターの齊藤颯人(@tojin_0115)です。

新型コロナウイルスの感染拡大による影響で打撃を受けた観光産業。私は3月ごろ、まだ緊急事態宣言が出る前の箱根を取材したのですが、そのときは若者が多く街を歩いており、それほど活気を失ったようには見えませんでした。

今の箱根は若者だらけ?三度の災害を受けた観光地の意外な姿

しかし、ご存知の通り緊急事態宣言の発令により外出の自粛が要請され、とくに箱根のような観光地には甚大な影響が出ました。

昨今は外出自粛の要請も解かれ、Go To トラベルキャンペーンなどで観光地も活気を取り戻すかに思われましたが、コロナ第2波の兆しによりなかなか旅行も難しくなっています。

それでも、箱根には明るいニュースがあります。2019年に発生した台風19号の影響によって箱根湯本駅~強羅駅間で運休していた箱根登山電車が、2020年7月23日(木)に当初の予定より3か月前倒しでの運転再開を実現したのです。

そこで、今回は実際に動き始めた電車に乗ってみたのち、運転再開までの道のりを箱根登山鉄道総務部の古谷さんに聞いてみました!

※取材に際しては事前の検温を徹底し、現地でもマスク着用のうえ「3つの密」を避けつつアルコール消毒などによる感染拡大防止策を講じました。

運転再開した箱根登山電車に乗ってみた!

自宅から箱根登山電車の始発である小田原駅へ向かい、さっそく電車に乗ってみました。

箱根湯本駅が運休中と全然違った

電車は小田原から箱根湯本を経由して、終点の強羅へと向かいます。

小田原~箱根湯本の間は運休しておらず以前から動いていたのですが、今年の3月に箱根を訪れた際と比べても客数が減っているという印象は否めませんでした。

ただ、箱根湯本駅に着くと、駅の雰囲気が当時よりもいい方向に変わっていることに気が付きます。

駅がリニューアルされたというわけではなく、「運休のお知らせ」がなくなったことで雰囲気が軽くなっていたのです。

3月に来たときはこのような表示が多くありましたが、

今は代わりに、駅のいたるところに「全線運転再開」を知らせるポスターがあり、思わず感動してしまいました。

記念乗車券は電車マニア必見?

箱根湯本駅では、「運転再開記念乗車券」を購入してみました。

乗車券の外装には試運転時の写真が使われており、運転再開までの道のりがわかる仕様。

裏面には懸命な復旧作業や多くの人たちによる支援によって運転再開を迎えたという旨のメッセージが書かれており、地元で愛されている様子がよくわかります。

乗車券なので本券を使って電車も乗れますが、券は厚紙なので自動改札機を通ることはできません。

なので、コレクションアイテムとして保管しておくのがベストです。

多くの車両が走っている

箱根登山電車で走っている車両は全部で6種類あります。

今回は1950年代からこの地を走り続けている「モハ2形」と、

2014年に数多くの快適装備を要してデビューした「3000形 アレグラ号」に乗車しました。

さすがに製造年が半世紀以上違うので、違いが分かりやすいのではないでしょうか。

モハ2形のほうはクラシカルで味のある内装・外観をしており、鉄道好きな方や思い入れの深いご年配の方にファンが多そうな印象を受けました。

反対にアレグラ号は箱根の大自然を満喫できるように大きな窓が取り付けられているほか、バリアフリーにも対応した最新型車両。

ほかにも4種の車両が代わる代わる走っているので、何度も乗ってみてお気に入りの車両を見つけるのも面白いかもしれません!

台風の爪痕も感じられた

箱根湯本から強羅に向かう道のりは、本格的な山登り開始といった感じ。急斜面をぐんぐんと登っている様子が身体に伝わり、ジェットコースターの上昇中に似た感覚を覚えました。

電車はどうしても「移動の足」という認識になりがちですが、箱根登山電車では、山登りをしている様子も楽しめ、アトラクションに挑戦しているような気持ちになれます。

あまりの急坂のため進行方向を変えながら進む「スイッチバック」も健在です。

車内では箱根登山電車のデータや道中の見どころなどがアナウンスされるので、全く鉄道に詳しくなくても様々な知識を得られます。

こうして「登山」をエンジョイしていたのですが、道中では台風による被害の跡も垣間見えました。

車窓を注意深く眺めていると、大平台~宮ノ下駅の間にある大沢橋梁(おおさわきょうりょう)の様子が目に入りました。

ガレキがむき出しになっている部分もあるほか、工事車両も稼働している様子。電車の運行に支障がないところまで復旧が進められたのだと思いますが、まだ完全な形には戻っていないようです。

宮ノ下~小涌谷駅の間にある蛇骨陸橋(じゃこつりっきょう)も同様で、こちらは運行中も工事が進められていました。

当日は天候が悪く、標高が高くなると霧が濃く出ていました。この状況下でも工事を敢行する現場の方々には頭が下がります。

いたるところで感じられた「地元の想い」

箱根湯本から強羅までの道中で最も印象に残ったのは、いたるところに地元の人たちからの「想い」が感じられたこと。

箱根湯本駅の売店には「おかえり箱根登山鉄道」というメッセージが掲げられ、運転再開を喜んでいる様子が伝わってきました。

また、道中の小涌谷駅近くには、地元の箱根白百合学園小学校の児童たちによる寄せ書きも。

「がんばれ登山鉄道」「大好き登山電車」と書かれた寄せ書きには、地元の想いを感じました。

また、この寄せ書きにもあるように、「保線区」「検車区」「電務区」といった鉄道を支える人たちや、昼夜問わず工事にあたった工事関係者の力があってこそ3か月の前倒しによる運転再開にこぎつけたのだと思います。

ついつい、鉄道は「当たり前に動いている」と思ってしまいますが、多くの人たちの力で「動かせるようになっている」のだと実感させられました。

運転再開までの道のりを聞いてみた!

実際に乗車するなかで、箱根地域の苦労や愛され続けてきた箱根登山鉄道の存在を深く実感した私。今回インタビューにご協力いただいた箱根登山鉄道の古谷さんのお話からも、そうした一面が垣間見えました。

台風で約20か所のダメージを受けた

――まず、箱根地域を襲った災害といえば、2019年5月に大涌谷の噴火警戒レベルが引き上げられた件を思い浮かべます。箱根登山鉄道にも影響はありましたか?

古谷さん:噴火警戒レベルは引き上げられ、お客さまも減少いたしましたが、鉄道の運休はありませんでした。

ただ、大涌谷を通過する箱根ロープウェイが運休に追い込まれるなど、ダメージは大きかったと思います。

――そして、10月には台風19号の影響で被災し、電車が一部運休に追い込まれることになりました。

古谷さん:台風のダメージは甚大でした。箱根登山電車としては小さいものも合わせると約20か所の被害が出ましたね。

その中でもとくに被害が大きかったのは大沢橋梁蛇骨陸橋で、ここの被害が大きかったことにより、長期運休を余儀なくされました。しばらくは代行バスを運行させて対応しておりました。

地元の後押しによって復旧が早まった

――2020年の3月20日から箱根登山ケーブルカーがリニューアルされました。

古谷さん:主に車両を新しくしまして。台車は従来のものを使用する一方、車体を大きく改装しました。例えば、よりお客様に快適に乗車していただけるように、従来あったボックス席をベンチシートに置き換える工夫などをしました。

――ただ、リニューアル直後にコロナショックが来てしまいました。

古谷さん:そうですね……当然「外出を自粛してください」と言われてしまえば移動する人が極端に減ります。運行を続けていた鉄道や代行バスの利用者も明らかに減りました。あの台風の後よりもお客さまは減少しましたね。

結果として「台風とコロナのダブルパンチ」を食らったわけですが、これは箱根のどの会社も同じだと思います。

――そんな中、「2020年秋ごろ」としていた箱根登山電車の運転再開が2020年7月23日に早まると発表しました。どうして時期を3か月も早めることができたのですか?

古谷さん:まず1つ目の要因が、天候に恵まれたこと。去年から今年にかけての冬は雪が少なかったので、工事の手を止めることなく復旧作業にあたることができました。

もう1つ、復旧工事に際して地元の方たちの理解と協力が得られたというのもあります。通常、作業は日中に行うのですが、夜間作業ができたのは大きかったです。

コロナが落ち着いたら元気に走る鉄道の姿を見てほしい

――運転再開を記念したグッズなどは展開されていますか?

古谷さん:ありがたいことにいろいろな事業者さんたちが売店でグッズなどを展開してくれていますが、公式なものとしては「運転再開記念乗車券」を発売しています。

また、Youtube上にて、運転再開を記念したプロモーション動画「ワクワクが、帰ってきた」も公開中です。

――ありがとうございました。最後に、これから箱根を訪れたいと思う方に伝えたいメッセージなどがあれば教えてください。

古谷さん:弊社としても車内の換気やアルコール消毒、各駅へのアルコール消毒液設置などで新型コロナウイルス感染防止策は講じていますが、情勢を考えると外出を自粛せざる得ない状況です。

ただ、状況が落ち着いてもし箱根に訪れることがあれば「元気に走る箱根登山電車を見てほしい」と思っています。

 

今後も箱根地域はどんどん発展していく

地元の人たちに愛され続けてきた箱根登山電車。今回はその復旧をベースに話をしてきましたが、もちろん完全復活を果たすには箱根地域全体が盛り上がらなければなりません。

コロナショックで大きな損害が出ているのは間違いないでしょう。が、箱根登山鉄道株式会社を含む「小田急箱根グループ」は、2020年の箱根ゴールデンコース(箱根湯本駅から強羅、大涌谷を経由し、芦ノ湖を目指す箱根の人気スポットをスムーズに満喫できるコース)開通60周年を機に、大型投資を実施しています。

箱根登山電車の運転再開はもちろん、7月9日には箱根ケーブルカーの終点・早雲山駅が全面リニューアルされました。駅舎内には展望テラスやおしゃれな商業施設、足湯が完成したほか、ホーム柵の設置や大涌谷の火山活動活発時には一時避難施設として機能するなど、安全・利便性が大幅に向上。

「今回の早雲山駅リニューアル以降も、箱根ゴールデンコースにはますます磨きがかかっていく」とのことなので、今後の箱根にはかなり期待できそうです!