秋田県の盛り上がり
2018年8月20日
甲子園準決勝、金足農業が日大三高に勝利し、秋田県代表が103年ぶりに決勝進出。
3回戦の横浜高校との死闘や、準々決勝の近江高校戦での逆転劇は今大会の名勝負に数えられることだろう。
東京で見ていた僕らも盛り上がったが、秋田県での熱狂は各地で話題になるくらいすごかったと聞く。
それもそのはず、金足農業は公立の農業高校で、メンバー全員が地元秋田県出身なのだ。
連日の逆転は金足農業自身にとっても誤算で、応援団の滞在費が足りなくなり寄付金を呼びかけたほどだ。
それに対して金足農業と決勝戦を争う大阪桐蔭は私立校、中学における日本代表レベルの選手を全国から集め春の選抜大会を勝ち抜いた常勝軍団。今大会における優勝候補ダントツNo1だ。
そんな常勝軍団に挑む、公立の雑草軍団。
そして、これが甲子園の記念すべき第100回の決勝戦なのである。
マンガみたいーー
そんな声がSNSでもたくさん挙がっていた。
この夜も止まないほどの熱狂、明日の決勝はどうなるのだろうか。
それはTVや動画で見て伝わるのだろうか。
とても気になって仕方がない。
行くしかない……?
行くしかない!!!
着いた!
熱狂の中心地、エリアなかいちへ
秋田空港からバスで30分、秋田駅に到着した。
改めまして、ライターのマキヤと申します。
駅でこういうのを見たのは初めてかもしれない。
途中立ち寄ったデパートの扉にも新聞が貼られていた。デパートに号外が貼られているのも初めて見た。
秋田県の各地で盛り上がっていることと思うが、中でも一番盛り上がっているともっぱらの噂なのが秋田のイオンと、秋田市の「エリアなかいち」だ。
ここは秋田駅西口から徒歩5分。4つの施設と広場のあるエリアで、広場の巨大ディスプレイで甲子園中継のパブリックビューイングを行っている。
準決勝時の動画を見る限り、何百人もの人がお祭りのように盛り上がっていた。
駅構内の通路に案内図があったので確認すると、
狭いっ……?
思っていたよりも狭い。建物たちのスキマみたいな場所だ。本当にここに何百人もの人が押し寄せているのだろうか。
少し不安になりながら歩を進める。
なぜ不安になったかというと最初、駅の近くで地図を読み違えて全く関係のない東口に行ってしまい
駅前なのにめちゃくちゃ人がいなくて怖かったからだ。
プレイボールの2時間前、若干の余裕を持ってエリアなかいちに到着した。
人がたくさんいて一安心。東口にいる人たちもこちらに来ていたんだね。
まだまばらに席も空いていた。
秋田県民の方々のために用意されたであろう席に私が座るわけにはいかない。
ただ当日の秋田市の気温はかなり高く、気をつけないと熱中症になる危険があるレベル。
これ、万が一席が余ったりしたら座ってもいい……? なんて考えはすぐに杞憂となる。
プレイボールが近づくにつれ、徐々に人々が集まり、
あっという間に満席に! 地面にシートを引いて座る人や立ち見の人ももたくさん。
試合開始時にはすごいことになっていた。
横の建物内からもディスプレイが見え、ガラス窓付近も完全に満席。
間違いなく1000人以上いる。準決勝のあの熱狂を超える人数が、エリアなかいちに集まっていた。
この全員が、金足農業の勝利を願い、応援しに来たのだ。
あと30分で試合開始という頃、近くにいらっしゃったお婆様たちにお話を伺う。
マキヤ
「昨日もこんなにたくさんの人がいらっしゃったんですか?」
おばあ様
「いいや、昨日より多いよ。少し前の試合の時なんかちょっとしかいなかったんだから」
マキヤ
「試合が進んで、どんどん皆が興味を持ち始めているんですね」
おばあ様
「そうね、孫娘も友達来てるんだけど孫は今日初めて来たのよ。ルールも知らないんじゃないかな」
マキヤ
「(笑)でもいいですよね、このみんなで応援する感じがとても」
おばあ様
「私もこんなに大勢で野球を応援したことなんてなかったから嬉しいわ。勝ってほしいねえ」
マキヤ
「そうですね……!」
\ウオオオオオオオオ!/
突如大きな歓声が巻き起こる。
ビックリした。試合が始まったようだ。
プレイボール
試合観戦は大いに盛り上がった。
カキン、とバットが鳴ればオォッと声が上がり、
ストライク1つ取れば歓声が起こり、
アウト1つ取れば拍手も起こる。
打たれてしまうとアァッとため息が漏れ、
点を取られたときは悔しそうな声が会場全体に響き渡る。
選手たちの行動、結果、その1つ1つに一喜一憂する。会場全体で同じ感情を共有しているかのようだった。私も写真を撮るのを忘れるくらいに見入ってしまった。
特に3回の表、3点リードされていた金足農業が1点を返した時はものすごかった。
建物が揺れているのではと感じるほどの大歓声が、この広場を支配した。
周囲でハイタッチが始まり、僕も混ざった。ワールドカップみたいな盛り上がり方だった。
全員が手を振り上げ、画面の向こうの選手に喝采を送った。
気づけば僕も「ウオオオオ!」と声をあげていた。熱かった。実に幸せな時間だった。
ディスプレイの下にはくす玉があった。どうか割れてほしいと願った。
試合終了
最終、九回の表。13-2で大阪桐蔭が圧倒的にリードを広げていた。
アウトのカウントが進んでいく。それは試合終了、金足農業の敗退を意味する。
11点という大きな点差。本当に正直に言うが、もし、僕が家のTVで見ていたら、きっと応援することを諦めていたと思う。
この会場は全く違った。金足農業のバッターが打席に立つたびに、本気の応援を続けていた。
祈るようなポーズをとる人、声援を送る人、応援歌を歌う人たちもいた。
試合終了のその時まで、会場は応援の手を緩めることは無かった。
最後のフライが打ちあがり、大阪桐蔭の外野が捕球。
試合が終わったその瞬間、誰もが悲しそうな顔をした。
そして……
ゲームセットの瞬間。
「ありがとー!」
「おつかれー!」
「こんなに人が集まったよー!」
「楽しかったよー!」
皆が口々に、選手たちに感謝の言葉を叫んでいた。
表情もさまざまで、ただものすごく良い雰囲気で、部外者の僕が何故か感動してめちゃくちゃ泣いてしまった。
言葉が出なかった。
そして、先ほどのくす球が開いた。
「金足農業高校 感動をありがとう」
言語化できなかった感情をすべてくす玉が言ってくれていた。
閉会式が終わるまで、ほとんどの人がその場に残って選手たちを称えていた。
秋田県民も驚いていた
試合終了後、一緒に応援していた、秋田県で生まれ育ったOLの方たちに近くの喫茶店でお話を伺った。
マキヤ
「僕、泣いてしまいました」
OLさん
「そうなんですか?(笑) でもたしかに、どんどん私も含めて周りも夢中になっていって、パブリックビューイングでみんなで応援なんて初めて」
マキヤ
「あんなにたくさんの人が集まること、あまり無いですよね」
OLさん
「無いです。秋田ってあんなに人いたんだと思いました」
マキヤ
「(笑)」
OLさん
「学生時代の友達とかにもたまたま遭遇したりして、『久しぶりー!』『見に来ちゃった(笑)』みたいなこともあって、お祭りみたい」
マキヤ
「すごい、全員で一喜一憂したりすごく楽しかった」
OLさん
「たしかに! 優勝できなかったのは残念ですけど、一体感あって楽しかった!」
マキヤ
「職場とかでも盛り上がったりしました?」
OLさん
「試合が進むにつれて話題にはなりますよね、それで段々知っていくみたいな」
マキヤ
「どこでも盛り上がってたのかな……エリアなかいちだけじゃなく」
OLさん
「そうですね……たぶん、追分(おいわけ)駅とかは盛り上がったんじゃないですかね?」
マキヤ
「そこは……?」
OLさん
「金足農業高校がある駅です!」
マキヤ
「!!!」
それは、
行くしかない!
試合終了後の追分駅
秋田駅から電車で15分。追分駅にたどり着いた。
完全に余談だが電車の降りるところに妙な段差があり、僕は行き帰りの2回とも思いっきりつまづいた。
駅には垂れ幕もあり、応援ムードの漂う場所だった。
お店が珍しい理由で休みになっていたり、
居酒屋さんでは準優勝記念セールもやっていた。
学習塾なども、色んなお店が金足農業を称えていた。いい町。
そして駅から7分ほど歩くと、
金足農業高等学校に辿り着く。校門の隣には、
「栄光燦然」と刻まれた石碑があった。以前甲子園に出場した際に建てられた様子。
栄光が鮮やかに輝いているという意味だろうか、なんとなく、今年の金足農業の選手たちの笑顔を思い出した。
おわりに
秋田駅に戻ると張り紙が変わっていた。対応の早さに驚く。
改札前のホワイトボードも、選手たちへの賞賛で埋め尽くされていた。
金足農業の試合が終わるごとに書き直されているらしく、毎回全部埋まるらしい。
僕が写真を撮った直後にも現地の女子高生が書き込んでいた。
ちょっとスペースもあったので書きそうになったが、外部から来た私が書くべきではないなと思いとどまり、「ありがとう!」と念じてその場を後にした。
ちなみに居酒屋さんがトチ狂って全額無料キャンペーンをやったそうだ。全額無料はやりすぎ。
そんな風に秋田県の熱気に包まれた、印象的な1日だった。
あの熱気、感動、あの場にいたから味わえたのかもしれない。
またいつか、秋田を応援したいなと思う気持ちも芽生えた。
秋田県民でない、部外者の私が言うのも大変おこがましい。おこがましいのだけど最後にこれだけ言わせていただいて、記事を終わりにしたい。
金足農業高校 準優勝おめでとうございます!
感動をありがとうございました!
(文・写真 :マキヤ)
Twitter:@TwisterMakiya
Blog:http://makiya-twister.com/