【徒歩で100km】廃線になる三江線の全駅を死にそうになりながら記録してきた

三江線をご存知でしょうか?島根県江津市の江津駅から広島県三次市の三次駅まで35の駅を繋ぐ路線です。その三江線は利用者が少なく、惜しまれながらも2018年3月末までの営業をもって廃線することになりました。そして全長100km以上もある廃線前の三江線を、あるライターがその大半を徒歩にて全駅を訪れ必死でレポートいたしました。

三江線全駅巡り 駅No.27 香淀駅 10:45

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1日平均乗客数-人(データなし)

photo254photo255photo256もともとは簡易的な待合ベンチしか備えていない駅だったようだが、あとから木造のモダンな駅舎をつけたしているようだった。

 

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「楽しもう!三江線」の文字が勇ましい。お、おう。楽しんでるで。

さてここから三江線は川に沿ってぐるっと山を周りこむようにUターンする。それに沿っていくとかなり歩くことになりそうだが、国道を使うとトンネルでかなりショートカットできてしまう。

 

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トンネルには嫌な思い出しかないが、ショートカットのためには仕方がない。地図を確認しながら歩く。

トンネルを抜けると見通しの良い開けた場所に出た。見通しが良すぎて、けっこう距離があるはずの次の駅が見えた。

 

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画像の中心辺りが駅である。駅を見つけるイーグルアイはかなり鍛えられた。

 

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川を渡り安芸高田市へと突入する。

 

 

三江線全駅巡り 駅No.28 式敷駅 11:22

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1日平均乗客数-人(データなし)

photo262photo263photo264photo265見通しの良い平原にまっすぐ伸びる線路。それがまるで青い空に吸い込まれていきそうで印象的だった。

この駅もモダンな木造の駅舎を兼ね備えていて、駅舎の中では三江線を盛り立てる各団体のメッセージなどを掲載するボードもあった。

さて、いよいよこの旅も終盤戦である。ゴールの三次駅が見えてきた。ここまでの行程をまとめておきたい。

 

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終わりが見えてきた。さらに、事前情報によるとここから先の駅は比較的駅間の距離が短いっぽい。これまでのようなハードなルートはないような楽観的予想をたててもいいだろうか。たぶんいい。

なんかゴールできそうな気がしてきた。モダンな駅舎で少し休んで体力を回復させてから出発した。

駅間の距離が短そうなので楽勝だろうと楽観的に予想していたが、いきなり目の前にはアップダウンのきつい、登山? と質問したくなるようなルートが出現した。現実とはいつもこうである。自分に都合の良い予想は往々にして裏切られるのである。

 

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登ったり下りたりしながらヒーヒー言っていると、これまでに経験したことがない状態に陥った。足が言うことを聞かないのである。前に足を出せと脳から命令を出しているのに、うんともすんとも言わない。無理もない。ほぼ無用の長物の重たい荷物を担いで手元の歩数計基準で85キロくらい歩いているのだ。いい加減足にガタがきている。

ちょっと歩いては立ち止まり、また歩いては立ち止まり、と大幅なペースダウンを余儀なくされながら、それでも次の駅に到達した。

 

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次の駅がはるか下の方にみえる。あそこまで下っていくのもきつそうだし、またのぼってくるのも大変そうだ。くっそ遠い。いけるんだろうか。

 

 

三江線全駅巡り 駅No.29 信木駅 12:01

山の斜面に民家が点在する集落があり、その合間に棚田のようなものが広がっている。その間を縫うように斜面中段に道路が存在する。そこを歩いてきた。その斜面の下が川になっており、川の淵に沿うように線路が伸びている。結果、駅はかなり低い位置に存在するのだろう。

 

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1日平均乗客数-人(データなし)

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昔はもっとホームが長かったようだが、不必要という判断からか、途中でホームをぶった切られていた。金網の向こうは決して使われることのないホームがただあるだけだ。なんとも寂しいものだ。

さて、次の所木駅もそこそこに近いらしい。全く動かなくなった足に喝を入れ、なんとか進んでいく。

 

 

三江線全駅巡り 駅No.30 所木駅 12:32

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所木駅は一見すると非常に分かりにくい場所にある。会社と民家が一緒になったみたいな家があるのだが、そこに完全に溶け込んでいて、まるで物置の一部みたいにして駅が存在している。

 

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1日平均乗客数-人(データなし)

近づいてみると物置ではなく駅なんだと理解できる。

 

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ここまであまり触れてこなかったが、三江線の偉いところは、このような無人駅、物凄い僻地の駅であっても、大抵はトイレを備えているところだ。この駅にもしっかりとトイレがある。画像手前の小さな小屋がトイレだ。ここまで8割くらい確率で駅にトイレが備えられていたように思う。どんな形であれトイレがあることが大切である。

 

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この駅にも、来訪者が思いを綴るノートが置かれている。ただ、それ以上に気になったのは、時刻表の横に貼られていたこの張り紙だ。

 

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熊注意! と何のためらいもなく書かれている。

急いで来訪者ノートを見てみると、同じ筆跡で「駅の上の坂をのぼりきったところで熊のような唸り声を聞きました。注意してください」と怖いことが書いてあった。

今の状態で熊に遭遇したら死ぬぞ。逃げたって足が言うこと聞かないから死ぬぞ。これはもう奇をてらってテントを建てたりして熊を驚かすしかないんじゃないか、様々な思いが頭の中を駆け巡る。熊は怖い、でも、それでも前に進むしかない。歩き出すしかなかった。

 

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謎の男の書き込みによると、ここで熊が出没したらしい。気が動転して、またスマホでライオンキングを流しながら歩く。幸運にも熊は出なかった。

 

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スタートからずっと一緒に旅してきた江の川も上流っぽい気配が漂ってくる。あんなにゆったりした川だったのに、流れも急で、岩もゴツゴツしている。理科で習った通りだ。川の上流はこうであるべきだ。

 

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線路は相変わらず愚直にまっすぐ伸びている。あまりに真っ直ぐで眺めているとクラクラしてくる。

やはりここも駅間の距離は近いらしく、何度か立ち止まりながらも歩いていたらすぐに船佐駅に到着した。

 

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これが駅へと続くルートっぽいのだが、騙されてはいけない。これまでの旅で学んだことは、三江線において最初に現れる駅へのルートは全てトラップで初見殺しである。しばらく進むとちゃんとした正規のルートがあるということだ。

その予想通り、しばらく進むと正規のルートで駅へと到達した。

 

 

三江線全駅巡り 駅No.31 船佐駅 13:12

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1日平均乗客数-人(データなし)

photo283この駅の待合所は、なんかホームとは無関係の離れた場所にポツンとあった。

 

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駅の周りというか、もう敷地内みたいな場所に数件の民家があり、他に民家は見当たらなかったのでその民家の人達の専用駅みたいな雰囲気が漂っていた。

さて、次の「長谷駅」を目指して歩き出す。

実はこの「長谷駅」は秘境駅として知る人ぞ知る駅らしい。これまでに何度か出てきた時刻表を思い返してみて欲しい。例えば、作木口駅で出てきたこの時刻表なのだけど、

 

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ズームアップしてみると

 

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名指しで「長谷駅」が避けられている状態。完全に「悪いな長谷駅、この列車は長谷駅には停車できないんだ」状態。結果、ただでさえ本数が少ない三江線の中でも、朝方の2本しか停車しない。

ほとんどの列車がここを無視して突き進んでいくものだから、結果として列車で到達するのがかなり難しい秘境駅になった、ということらしい。

歩いて行ってしまえば停車する本数が少ないとか関係ない。簡単に行けますわ、と歩いてみたものの、さすがは秘境駅。徒歩でアプローチしても結構険しい道の連続だった。

 

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歩いていると三次市に突入した。通算二度目の三次市突入だが、今度のはいよいよゴールが近い突入だ。相変わらず足が動かないけど、前に進むしかない。

 

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下は川、上が鉄道、という道路をひた歩く。ドンっと「中間点」とだけ書かれた看板が突如現れた。ものすごい謎かけである。何の中間点なのだろうか、駅間の中間点にしてはおかしいし全然意味が分からない。誰かがここをマラソンのコースに使い、撤去し忘れたのだろうか、などと悶々と考えていたら前方に駅のような建物が見えてきた。

 

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ついに見えた! あれが秘境駅「長谷駅」だ。

 

 

三江線全駅巡り 駅No.32 長谷駅 13:51

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1日平均乗客数-人(データなし)

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秘境駅の名に恥じぬ秘境っぽいオーラのあるホームだった。

 

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ホームより少し低い位置に待合所の小屋がある。

 

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中はこんな感じ。

 

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ここにも来訪者ノートが置かれていて、みんな秘境駅に対する思いを綴っていた。

「やっとこの駅にくることができました」

「秘境駅、景色がよくてサイコー!」

「はるばる来たかいがありました」

「気を付けてください。所木駅周辺で熊が出没しました。わたしは唸り声を聞きました」

またお前か。こんな離れた場所で再会するとは。

もしかして僕が見落としてるだけでこの人は三江線の全駅で熊に対する注意喚起をしているのかもしれません。なんて親切な人だ。

 

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長谷駅から見える景色は確かに絶景だ。

さて、残すところ「粟屋駅」「尾関山駅」そして「三次駅」だ。いよいよゴールが近い。たぶん足の裏の皮がめくれてえらいことになってるけど、泣き言は言ってられない。もう少しだ。頑張って歩くしかない。

途中、反対方向へ行く列車とすれ違った。やはり三江線の車両は絵になる。かっこいいし、頼もしさを感じる。最初はなんとも思わなかったけど、こんなに頼もしい存在もない。一緒に旅できてよかったよ。

 

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かなりペースが落ちてしまったが、何度か立ち止まりながらゆっくり進むと、ついに目の前に看板が。

 

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粟屋駅だ! ついに来た!

残り3駅!

 

 

三江線全駅巡り 駅No.33 粟屋駅 14:50

 

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周囲に民家も多く、利用者もそれなりにいるように感じた。爺さんが駅の周りを掃除していたのだけど、掃除しながら咥えタバコで、タバコの吸い殻を捨てて汚していたので、ちょっと何がしたいのかよくわからなかった。

いよいよゴールは近い。歩き出す。

 

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日が傾いて影が伸びる。道路は真っ直ぐと続いていた。

 

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遠くに三次の街並みが見える。もう手が届くところまできている。動かない足を無理矢理動かして進んでいく。

 

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旅の最初から最後までずっと江の川が横を流れていた。その江の川の堤防の上の道路を歩いて行く。とにかく歩いて歩いて、そして、ついに次の駅に到達した。あと2駅!

 

 

三江線全駅巡り 駅No.34 尾関山駅 15:57

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1日平均乗客数-人(データなし)

photo309photo311もう一歩も歩けないのに、駅の裏側に出てしまい、大回りを余儀なくされて死ぬかと思った。

駅は尾関山公園のほど近くにあり、自然豊かでありながら人も沢山住んでいるというロケーションだった。駅舎もそれなりに立派である。

 

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待合室も立派だ。

待合室の椅子に腰かける。残り1駅。あとはゴールの三次駅に向かうだけだか、残念ながら限界をやや超えている。もう一歩も歩けそうにない。ここまできてもう歩けないとは情けない、ゴールを目の前に立ち止まるなんて! 悔し涙が流れる。夕陽に近づいた少しい黄色い太陽光が待合い室に差し込んでいた。僕の旅はここで終わりだ。もう歩けないのだ。限界までやった。無性に悔しく、寂しい、やるせない気持ちが待合所を満たしていた。

遠くから警笛が聞こえた。

なんだ!?

その音はどんどん近づいてくる。急いでホームに出た。

 

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そう、僕には三江線がついている。ここまでずっと一緒に旅してきた、三江線がついている。途中、あまりにペースダウンしたため、いつの間にかずっと先だと思っていたワープ列車の時間になっていた。こいつ、なんでこんなに頼もしいんだ。

すぐさま乗り込む。車内は、ハイキング帰りの団体で満員以上の状態だった。

最後の最後にワープを決め、三江線の車両と一緒にゴールする。まるで一緒に旅した友と共にゴールする充実感のようなものがあった。

三次駅までの数分間の乗車時間、これまでの旅のことが走馬灯のように思い出された。

千尋が銭婆に会いに行った時の駅に驚愕し、鉄壁の城塞のように道のない駅に戸惑った。ズロースを燃やす婆さん、神々のローソン、川本町長、猿の集団に取り囲まれたりもした。情緒不安定タカシに思いを馳せ、潮温泉エルドラド、職質の警察官、初見殺し駅の数々、吹っ飛ぶテント、天空の駅、ライオンキング、デスメタルおばちゃん、カヌー最高、熊注意、全てが楽しい思い出で、歩いてよかったかな、そう思えた。

世の中に無駄なことなんて何一つない。全駅を記録する、それもほぼ歩いてなんて一見すると無駄なことでも、やってよかったんじゃないか、そう思えてきた。

そして、ついに僕と、そして共に旅してきた友は三次駅のホームへと滑り込んだ。

 

 

三江線全駅巡り 駅No.35 三次駅 16:15

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1日平均乗客数585人(2014年)

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これにて三江線全駅制覇終了!

旅のまとめはこちら

 

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「駅」という漢字自体を見ると、その語源は中国にあるとされている。もともとは「驛」という文字であり、その部首から見るに「馬」を「次々と手繰り寄せる場所」という意味があるようだ。鉄道がない時代、馬で移動する際に、疲れのきた馬を次々と乗り換える場所があった。そういった意味で使っていた名称を鉄道ができた際に「駅」として転用したようだ。旅や移動ををする際の中継地点のような意味合いがそこにはあった。

現代において、「駅」とはどのような意味があるのだろうか。もちろん、電車に乗る場所、色々な交通機関が集まる場所、という本来の「移動の中継点」という意味合いであると思う。ただそれと同時に、僕は「その場所とその場所に暮らす人々のアイデンティティ」ではないかと思う。

移動の中継点として考えると、駅の大きさや都会度、利便性は重要であろう。どれだけ人が集まり店があるか、それが駅としての格のようなものにも繋がっている。けれども駅をアイデンティティとして考えると、駅の大きさも都会度もそんなに大きな意味合いを持たない。極端なことを言えば、新宿駅も長谷駅もさして変わらず、そこに駅があることがっそこの住民の心の支えになっているのだ。

そこに駅がある。それはまるでその地区の背骨がそこにあるようなものなのだ。利用客がいなくとも、停まる本数が少なくとも、そこに駅がある、という事実は心強く、確かな何かがあるのだ。

2018年3月末、三江線は廃線となる。多くの駅が廃止となり、それぞれの地区のアイデンティティは失われるかもしれない。それは決して小さなこと、些末なことではない。

とても惜しいとは思うが、廃線になるには廃線になるなりの理由と言い分があるのだろう。正直に言うと、僕だって廃線になると聞かなければここ三江線に来なかったように思う。

そんな部外者が、残して欲しいと希望することは、ある意味では無責任なことなのかもしれない。残せと言うことは簡単だが、残してその後どうするのかというビジョンは、残念ながら僕にはない。

今回、その沿線のほとんどを歩くことになって、ただ列車に乗ってるだけ、車で移動するだけ、では味わえない側面を見ることができた。利用者がいなくとも、それぞれの地区にとってそこに駅があることの大切さが少し理解できたように思う。

三江線沿線の景色は雄大で静かで美しく、そしてそこに住む人々は暖かい。残ってほしい景色は鉄道以外にも山ほどあった。

道中、数えきれないくらい、「乗っていくか?」「食い物は持ってるか」「泊まるところはあるのか」「寒くなるから気を付けろよ」と声をかけていただいた。その温かさが何より美しい景色だった。

消えゆくものは無条件に美しい。だから三江線を取りまく景色は美しいと感じた。

けれども、消えないものだってきっと美しい。三江線沿線の景色と、温かい人たちの生活は、三江線が廃止となってもずっと続いて行くのだ。それは例え消えないものであったとしても、きっと美しいのだ。

三江線が消えたとしても、駅以外の別の場所にアイデンティティを移して人々の生活が続いていく。できればまたその光景を歩いてみてみたい。そう思った。それはきっと今以上に美しく、楽しいものだろうから。三江線がなくなってももっと大切なものはなくならない、そんな気がした。

おわり

 

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文・pato(ブログ:多目的トイレ )  twitter:@pato_numeri