鹿児島中央駅から新函館北斗駅まで新幹線の全駅に下車してきたので全力で紹介する_PR【駅メモ!】

4日目(最終日)

最終日 6:00 新青森駅


最終日の朝はあいにくの雨だった。

冷たい冬の雨が突き刺すように降り注いでいた。ちょっとシャレにならない寒さで、早めに防寒着を購入する必要があるが、よくよく考えるとちょっと難しそうだ。

ここ新青森駅に服を買う店があるのかは分からないが、あったとしても早朝すぎて開いていないと思う。これ以降の駅も、ちょっと難しそうなラインナップだ。このまま北海道入りするしかなさそうだ。

No.069 奥津軽いまべつ駅(青森県今別町)

6:32発 北海道新幹線 はやて 91号 新函館北斗行き(特急料金1,330円)

朝一番の新幹線は「はやて」だった。かつては東北新幹線を走る新幹線は「はやて」が主流だったが、「はやぶさ」の登場により、その出番を奪われていった。現在では新青森駅では2本しか設定されていないレアな新幹線だ。

このまま青函トンネルを抜けて北海道入り、と行きたいところだが、その手前に1つ新幹線駅がある。

6:47 奥津軽いまべつ駅

一日当たりの乗車人員が28人という驚異の少なさで、国内の新幹線駅でもっとも人が乗り降りしない新幹線駅だ。そんな駅でも僕とは別にもう一人降りた。これで今日の乗降者数は2名である。

この駅は、新幹線が一日に7本という高難度駅だ。10時7分の新幹線を逃そうものならその次は4時間後だ。だから確実に朝一番に来ておく必要があった。朝一番なら1時間半の待ちで済む。

奥津軽いまべつ駅
北海道新幹線、新青森-新函館北斗間開業と同時に開業した駅。青函トンネル入り口から6キロの地点にあり、避難や保守の役割も担う駅となっている。本州最北端の新幹線駅である。在来線である津軽線、津軽二股駅の乗換駅でもある。一日当たりの乗車人員は28人(2018年)で、国内の新幹線駅で最も少ない。

この駅には初めて来たわけではないのである程度は分かっていたけど、それでもやはり1時間半の待ちを潰すのには厳しいものがあった。

長い通路を抜けて、さらに長い階段を降りて外に出る。

これもんだ。なにもないにもほどがある。

周囲の地図を確認するも、やはり何もない感じだった。中庭みたいな場所にベンチが3つある。もしかしたらあのベンチには今まで誰も座ったことがないんじゃないだろうか。急にそんな考えが浮かんできた。

まず、この中庭に入ろうとする人がそういないと思う。おまけにこの駅は1日に28人くらいしか訪れない駅だ。来る人の大部分が車で来るだろうから、ここを通らず、駐車場の方からやてくる。誰も通らない。

通ったとしてもこのベンチで休憩、となる展開が予想できない。寒いからだ。そうなると、もしかしたら僕が初めての人間になるのかもしれないと、順番に座っておいた。雨でじっとり濡れていた。

駅を離れて少しだけ歩いてみる。なにせ時間があり余っているから。

めちゃくちゃ難易度が高い東屋があった。あそこで休憩するのは至難の業だ。ぬかるみまくってる。

何の脈略もなく突如として橋が登場してくる。今度はぬかるみが正しい形で力を発揮している。

その先には総合体育館があった。なかなか立派な体育館だが、人の姿はなく、ひっそりとしていた。これ以上先に進むのはなんだか危険そうで取り返しのつかないことになりそうなので、駅へと舞い戻った。

駅のこの高い部分、階段で登るとなかなか大変なものがある。

なんでもこの階段は115段あるらしい。数えてみた。115段だった。まだまだ時間があまっている。

眼下にJRの津軽二股駅が見える。列車を待っている人がいる。さっき一緒に降りた人だ。これからさらに奥へと進んでいくみたいだ。

眼下に見える待避線みたいな線路に注目して欲しい。普通の線路と違い、三本の線路になっていると思う。これは三線軌条という。

新幹線と一般的な在来線とでは、レールの幅が異なる。本来は新幹線のレール幅で運用されるが、青函トンネルを含むこの区間は、在来線のレール幅をもつ貨物列車も通るため、この三線軌条がしかれている。これにより、どちらの車両幅の列車も運行できるようになっている。下に見える線路は保守車両が通るため、同様に三線軌条になっている。お、詳しいな、いきなり知識を発揮しやがった、と思ったかもしれない。

全部書いてある。

眼下に奥津軽保守基地が見える。駅に併設する形で設けられたこの基地は主に青函トンネルの保守を担う。右側の赤と白のカラーリングが眩い車両は、軌道モーターカーと呼ばれるものだ。後ろに貨車がついており、これを用いて線路などの重量物を運んでいく。冬季には除雪用の装置を装着し、除雪車に早変わりする。三線軌条に対応するためこの保守基地には新幹線軌道と在来線軌道の二つのタイプの軌道モーターカーが配置されている。お、詳しいな、いきなり知識を発揮しやがった、と思ったかもしれない。

全部書いてある。

左側の黄色とライムっぽいカラーリングの車両は、マルチメンテナンスワゴン(MMW)と呼ばれて、主に電力の供給に関しての点検を行う車両だ。車両の黄色い部分がはしご車のように架線まで延び、点検できるようになっている。ただし、新幹線は25000ボルト(家の電気の250倍)と強い電気が必要なため点検も命懸けだ!

もちろん全部書いてある。

この駅の床はところどころこのようなカラフルなタイルが貼られている。これは適当に綺麗な色を配置したわけではなく理由がある。これは今別町に伝わる伝統芸能「荒馬(あらま)まつり」に使われる衣装の色を表している。黄色と赤が「大川平荒馬」ピンクと緑が「今別荒馬」。

これも書いてある。

このように、駅や駅から見えるあらゆる情報がパネルになって展示されていた。おそらくこの駅を訪れて僕みたいに長い待ち時間を過ごす人が稀にいるんだと思う。そういう人が退屈しないような配慮だと思う。

ただまあ、これらを熟読し、暗記しそうなレベルで読み込んだけど、それでも時間が余ってしまった。

そんなことをしていたら、下の在来線の駅に列車がやってきた。さらに奥へと進む列車だ。

ポツンと一人待つ朝の無人駅に列車が静かに入っていく。待ちわびた旅人はどんな表情をしているだろうか。こういうのなんか風情があっていいね。いつかこの列車に乗ってもっと奥まで進んでみた、いや進んでみたくありません。

あまりに時間があまりすぎて、構内のタイルの数を数えていたらこんなものを発見した。なんだこれ?

どうやらこれだ。駅の構内に隠されたキーワードを探すらしい。なんとクリアするとオリジナルグッズまでもらえるとか。

でもこういうの下手だからな、見つからなかったらイライラするし、ちょっと参加を躊躇しちゃうなと考えていたら、駅員さんがシュババババババと駆け寄ってきた。

「はいどうぞ、鉛筆です!」

すごい勢いで鉛筆を渡されてしまった。こうなったら参加しないわけにはいかない。詳しくはネタバレになってしまうので、どんな場所にどんなキーワードがあったか書かないが、まなかなかの難易度だった。全部見つけた時にはもう新幹線の時間が迫っていて、良い時間潰しになった。

もらった景品がこちら。予想以上にもりだくさん。シールやキーホルダー、認定証などが入っている。

箱に入っていたのがポーチだ。それも結構しっかりしたやつだ。けっこう景品が豪華だ。このポーチに入れてれば僕もモバイルバッテリーなくさなかったかな。いいや、たぶんポーチごとなくしてるわ。

さあ、やっと新幹線の時間だ。


<ミッション写真 No.69>時間を持て余していたわりには“でんこ撮影”をすっかり忘れており、やべ、とホームで撮ったわけではなく、このホームの狭さこそが奥津軽いまべつ駅だ、という主張とメロ

No.070  木古内駅(北海道木古内町)

8:12発 北海道新幹線 はやて 91号 新函館北斗行き(特急料金1,520円)

いよいよ青函トンネルを抜けて北海道入りとなる。長さ53.9kmのトンネルを通ることから、この駅間が最も長く、30分の乗車となる。ちなみにこの駅間距離が日本で最も長い駅間距離である。

ここにきてはじめてしっかりと落ち着いて新幹線に乗った気がする。

海の底を通るんだからスマホは繋がらないんだろうなって思っていたら意外にもずっと繋がっていた。昔はそうでもなかったような気がするのでまさしく海底から検索して調べてみたら2019年から使えるようになったらしい。

8:42 木古内駅

ついに北海道上陸となった。そしてゴールである新函館北斗駅前の最後の駅である。この駅さえクリアすればあとはゴールするだけある。長かった。本当に長かった。

この木古内駅も訪れるのは初めてではない。3年前(青春18きっぷで日本縦断)と2年前(北海道全駅制覇)だ。いずれも駅メモ!だ。クソっ!

さて、最後の難関である。初めての駅でもない3度目の訪問で、この駅で2時間待ちだ。初めてじゃないから分かっている。ここで2時間はけっこうきつい。

木古内駅
北海道内最南端の駅であり、新幹線と道南いさりび鉄道が乗り入れる。かつては在来線として江差線も乗り入れていたが、2014年に当駅から江差までが廃線となった。一日当たりの平均乗車人員は64人(2018年)で、これは新幹線の駅としては奥津軽いまべつ駅に次いで2番目に少ない。

駅の前には道の駅がある。ここで土産物を見たり、様々なパンフレットを見て過ごしたが、15分もすれば終わってしまった。

木古内の街を歩いてみる。

すぐ海に出た。というかここまで来て思い出した。3年前もこの海を見にきた。人間って同じ状況になると同じ行動をとるんだな。

仕方ないのできた道を戻る。

北海道の代名詞、セイコーマートがあった。僕の記憶が正しければ3年前に訪れた時にここにセイコーマートができる、という状態だった気がする。その後しっかりと開店し、木古内の人々に愛されているようで安心した。

ふと思い立って検索を行った。これだけ時間があって、冷たい雨で体も冷えている。サウナか銭湯か温泉があれば最高だと思ったからだ。

バスバスバスッと完全に今いる場所を避けてピンが刺さった。一番近いのでも70キロくらいありそう。


<ミッション写真 No.70>ウェルカム木古内とみやび

とりあえず、でんこ撮影を行う。ちなみに、この駅の「みやび」と前の駅の「メロ」は七戸十和田駅で暗闇と孤独に怯えながらガチャを引いた時に新たに手に入れた“でんこ”だ。

仕方がないので、道の駅の片隅にあったコワーキングスペースで原稿でも書くかと向かったけど、「電源を使う場合は店員に申し出てください」という注意書きがあり、なんだか店員さんに申し出るのが気恥ずかしくなってしまい、スゴスゴと引き返した。

仕方がないので、時間にはずいぶんと早いけど改札内に入り、「きこないクイズ」に挑戦することにした。どうやらこの駅でも時間を持て余す人がいるようで、奥津軽いまべつ駅と同じような企画が展開されていた。ただ若干ではあるがこちらの駅の方が駅員さんの手作り感が強い。

けっこう悪戦苦闘しながらクリアすると、新幹線のペーパークラフトみたいなものがもらえた。あと、なんかシールも貰った。

あとは改札内で無我の境地みたいな時間を過ごした。もう色々と限界でできれば動きたくなかったのだ。本当に何もせず新幹線の時間を迎えた。2時間はかなりきつかったな。

No.071 新函館北斗駅(北海道北斗市)

10:38発 北海道新幹線 はやぶさ 1号 新函館北斗行き(特急料金1,330円)

いよいよ最後の新幹線だ。鹿児島中央駅から始まった全駅下車、ついに最後の最後だ。

10:50 新函館北斗駅

やったーーーーー! ゴーーール!!!!!

ついに、ついに、ゴールーーー!

新函館北斗駅
北海道新幹線の開業により、渡島大野駅から現在の駅名に改称された。函館方面のアクセス駅である。現在では日本最北端の新幹線駅となるが、札幌まで延伸した場合は新小樽駅が最北端となる。駅自体は北斗市に属するが、周囲は七飯町に囲まれている。駅名に関しては、函館市と北斗市との間で様々な紆余曲折があり、現在のものとなった。一日当たりの乗降客数は637人(2018年)

新函館北斗駅は正確には函館ではない。函館に行きたい場合は、ここからさらに函館駅まで在来線で移動する必要がある。


<ミッション写真 No.71>ケンシロウとみろく

新函館北斗駅には北斗つながりだからだろうか、北斗の拳のケンシロウの像が飾られている。ケンシロウがゴールを祝ってくれているかのようだ。お前はもう死んでいるといっているようだ。

鹿児島から旅してきた乗車券は、最終的にはこのようにズタボロの状態になった。最後に「もう無効やで」というスタンプを押してもらえば記念に持って帰ることができる。

そして、各駅で特急券を買った際に、ぜんぶ領収書も出してもらったのでそれを並べると、このような状態になる。

ほんと、めちゃくちゃだな、これ。

ということで、旅の記録はこちら。

下車した新幹線駅 71駅
乗車した新幹線の本数 58本
制覇した路線
北海道新幹線・東北新幹線・東海道新幹線・山陽新幹線・九州新幹線

駅メモチェックインした駅 459駅
総移動距離  2,328 km
キップ代金 乗車券 24,090円+特急券57,650円 合計 81,740円

 

まとめ

新幹線とは光と影だ。

地方の多くの自治体は新幹線が整備されること、駅が設置されることを望む。新幹線が開通すれば地元は涌き、駅のない自治体は駅を作って欲しいと望むだろう。駅のある自治体も、もっと速いタイプの新幹線を停めて欲しい、もっと本数を増やして欲しいと望むだろう。新幹線があるほど地元が活気づき、潤うと考える。それは新幹線の光の部分を見ているからだ。

けれども、新幹線の開業に伴って分離される在来線、これはもうさして珍しい話ではなくなってしまった。旅行に訪れる人の便利さのため、在来線が分離され、消え去り、地元の人々が不便な想いをする。その影の部分にも目を向けなくてはならない。

新幹線を光とするその価値観は2020年、大きく変わった。今回の旅で死ぬほどの本数の新幹線に乗ったが、1つも満員の新幹線はなかった。それどころかそのほとんどがスカスカで中には貸し切りみたいなものもあった。移動を正義とする価値観が大きく揺らいだからだ。この価値観が大きく変わった時代の「光」について僕たちはもう一度よく考えなくてはならない。

これまでの僕らの生活は効率的でダイナミックで、目的地に一気にいく新幹線のような利便性があった。

けれども、一駅一駅、ゆっくり移動してみて初めて見えてくる景色があることを知った。その駅のこと、地方のこと、風習、文化、名物、ひとびとの生活とその思い。ダイナミックに飛ばされる一つ一つの駅にも物語があって、そこを訪れる人それぞれにその数だけの物語がある。

熊本駅のあの子はどんな経緯で牛丼の大盛りに挑戦し、それを配信していたのだろうか。

合コンに来て広島から新下関まで帰ったあの子はいまごろどこに住んでいるのだろうか。

名古屋の新幹線内で先輩にクドクド説教されていたあの人は、今頃、お酒でも飲んで発散しているだろうか。

今日も三島の人は、北口と南口をあんな不便な感じで移動しているのだろうか。

小山のあの男女はその後、会うことがあったのだろうか。あの帰りっぷりから察するに、会うことはないのかもしれない。

北上のあの高校生は今日もソバを食べているだろうか。

八戸駅のカップルはあのあと、ホームまでいっただろうか。もしかしてホームでなにか大切な告白をしたかもしれない。

僕のモバイルバッテリーはいまどこにあるのだろうか。

もう僕らは以前のようにダイナミックに生活できないのかもしれない。うまくいかなくてイライラすることもあるかもしれない。我慢しなくてはならないのかもしれない。きっとそれは効率が悪い世界だ。

けれども、一気に進めなくとも、ダイレクトに目的地に着かなくとも、ゆっくり進むなりに見えてくる世界はきっとある。

うまくいかなくてもいい。はやくなくてもいい。一歩一歩、ゆっくり。ゆっくり。きっと僕らは各駅停車でも構わない。そうすることで見えることもある。

今日もこの国を新幹線が走っている。その横にはきっと僕らの生活がある。そこをゆっくり一歩一歩、生きていけばいい。

おわり

 

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