【ロシア9,288 km】シベリア鉄道に乗って東京の一戸建てをアピールしてきた【6泊7日電車】PR

「ロシアのシベリア鉄道にのってみたい」と言ったライターpatoさん。ウラジオストクからモスクワまでの全行程、移動も宿泊も全部電車の果てしない旅に出ました。 ※記事読了時間目安 : 45分

3日目 7:19 エロフェイ・パヴロヴィチ駅とアマザル駅の中間くらい モスクワまで7021 km (乗車時間37時間9分)

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目が覚めると対面ブースにいたグリズリーはいなくなっていて、代わりにインテリっぽいメガネの人が座っていた。どうやら夜中のうちに停車した駅で入れ替わったようだ。

運行表によると、今日は長く停車する駅が多いらしい。つまり、東京の家をPRする大チャンスである。
できることならミッション2枚抜き、さらには3枚抜きを狙っていきたいところだ。

インテリは荷物の感じからするにけっこう長い間乗車しそうだ。2泊か3泊はするんじゃないだろうか。打ち解けておきたいところだが、すげえムスッとしていて怖いのので打ち解けられない。

「ヘイ、ヘイ、ヘイ」

すると、通路側の金髪のおばちゃんがけっこうな勢いで話しかけてきた。

「わたしの席の窓を見てごらんなさい。向こうの遠くの山、雪が積もっている。すごいでしょ、写真に撮りなさい」

と伝えてきた。

僕は取材で来ているのでけっこうパシャパシャと良く分からないポイントで車窓の風景を写真に収めたりしている。なので、電車からの風景を撮影したがりの日本人、と思っているらしく、雪は珍しいでしょ、はやく撮りなさい、と促してきた。金髪おばちゃん、ムスッとしていると思ったのにけっこう優しい。

ただ、急に言われたものだからカメラの準備ができずマゴマゴしてしまい、モタモタしているうちに雪の積もった山が見えなくなってしまった。

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まったく雪が見えなくなったけど、おばちゃんの手前撮らないのも悪いので撮影したものが上の画像だ。雪のかけらもない。全然ダメなのに、良いものが撮れたわって顔しなきゃいけないのがきつかった。

インテリは打ち解けないし、雪の積もった山は見えないしで、することもなくなったのでオープンハウスの一軒家のことを考えていた。

ミッション3

よくよく考えたら、この中の「オープンハウスで東京の家を身近にできる理由!」のミッションなんて、ロシアでPRすることはほぼ不可能だろう。編集部のやつ狂ってるんじゃないか。

オープンハウスが東京の一戸建てを身近にできる理由はいくつかあるが、その中でも最も大きな要因は土地だ。逆になぜ東京では一軒家が身近でないかと考えると、これはもう完全に土地の高さがネックなのである。

土地

例えば家を建てるのに十分な土地が6000万円くらいだった場合、ここに一軒家を建てるとすでに土地代だけで6000万円必要となる。地面だけでこれだけの出費だ。そこに建物を建てるからさらに費用が嵩む。建物部分をいくら工夫してコストを抑えたとしても、土地代だけはどうにもならない。土地から見直して、駅から遠い場所や不便な場所など、なるべく安い場所へと移動していくこととなる。

オープンハウスはこういった土地を半分に分ける。

土地2

こうすれば土地代は3000万円で済む。そこからスタートなので最終的には手の届く価格になってくるということだ。もちろん土地は狭くなってしまうが、そこに建てる家のノウハウをオープンハウスは持っている。だから東京の一軒家、というものが現実的になってくるのだ。

なるほど、というカラクリだが、問題はこれをロシアの何と絡めてPRするかということだ。普通に考えて無理だろ。

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車窓から家々が見えるけど、土地が駄々あまりしているもん。あまりに東京と事情が違いすぎる。1つの土地を2つにわける、なんてこの風景の中では概念すらなさそう。どうしたものか。

などと考えていると駅に停車した。

 

8:42 アマザル駅 モスクワまで6974 km (乗車時間38時間32分)

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ここまでは比較的大きな駅に長く停車する傾向があったけど、ここはかなり小さな駅だった。

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色々と駅の中を徘徊してみるが、何もない。

 

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なんか荷物を運ぶのに農業用トラクターみたいなもの使っていた。

 

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怪しげな液体を売りに来るおばちゃん。最近ではかなり減ったらしいが、各駅ではこうしてシベリア鉄道の停車に合わせて物を売りに来るおばちゃんがいるらしい。普通はパンやピロシキなどの食料品が多いらしいが、この液体だけは何なのか分からない。ちょっとした怖さすら感じるくらいだ。

さらに徘徊を続ける。

けっこうホームとかひび割れしていて荒れた感じになってるなーと見ていたのだけど、そこでとんでもないものを発見してしまった。

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「ああ! これだー!」

めちゃくちゃ興奮して大声出してしまった。え、わからないって? これが分からないってどうかしている。

しょうがない。わかりやすくします。こうすればいいかな。

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こういうことじゃないですか。さらに分かりやすくするとこうなる。

 

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完全にオープンハウスが東京の一戸建てを身近にできるワケ、ですよ。やったな! 完全にロシアに絡めることができた。

こうすることで土地代が安くなり、一軒家がグッと身近になるのです。つまりオープンハウスさんのコンセプトとしては、土地代を安く済ませるといっても極度に地価が安い場所に建てるわけではない、ということです。こういった土地分割までして都心に近く駅から近い場所に家を作る。不便な場所、遠い場所から通勤して時間も気力も体力も削るくらいなら、こういう場所に家を建てて家族との時間を大切にして欲しい。そんな思いがあるのです。そんな思いやりのあるオープンハウスさんが「シベリアで7日間電車に乗ってPRしてこい」というのですから、こりゃもう中の人が狂ったとしか思えません。

ミッション4

ミッションを達成してルンルン気分でいると、サラミがやってきて、何か言ってきた。

「意味不明に地面を撮影するくらいなら俺を撮影しろ」

と言っているっぽい。

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撮影した。なんで真顔やねん。

 

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電車が走り出す。幸先よくミッションをクリアできたので意気揚々としたものだ。この調子なら今日はあと2ついける。つまりミッション3枚抜きだ。

 

ミッション4

どうせなら「オープンハウスは三階建てに強い!」これをクリアしておきたいところだが、当然の如くこんな風景が続く。

 

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この風景が延々と続く中で3階建ての一軒家が登場してくるとは思えない。これはかなり難しそうなのでとりあえず保留しておこう。そのうちドンと3階建て一軒家が登場してくるかもしれないし。

さて、僕の対面にはインテリメガネが座っているわけだが、とりわけ不愛想なロシア人の中でもさらに不愛想な人間のようだ。すげえ難しそうな顔して難しい本を読んでいる。めちゃくちゃお堅い仕事とかしてそう。どうせならサラミと性格を中和して欲しい、と考えていた。サラミは上の段で何かゴソゴソやっていた。いいから早くサラミを食べきって欲しい。

難しそうな本を読みながらさらに横になるインテリ。ある違和感に気が付いた。

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あーーーー!

 

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穴があいてるーーー!

インテリもなかなかおちゃめな奴だな、不愛想だけど。

そんな靴下に穴の開いたインテリを乗せてシベリア鉄道は走り続けていく。

何もすることがなくなってボーっと過ごしていて、そういえば最近こんな時間を過ごしていなかった、日本にいたらこんな時間はなかった、脳がとろけそうだけどこういいうのもいいものだ、などと考えていたら、めちゃくちゃ頭が痒くなってきた。頭の皮膚を取り外したくなるレベルの痒さだ。もう風呂なし3日目だからな。

あー、風呂に入りたいなーと考えながらトイレに行くと、こんな張り紙がしてあることに気付いた。なんで3日目まで気付かなかったのだろうという大々的な張り紙だ。

 

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たぶんだけど、200円か300円くらい払えばシャワー使えるよ、ってことが書いてあるようだ。7日間風呂なしを覚悟していたけど、どうやら金を払えば使えるらしい。お、浴びようかなって思ったけど、べつに料金払ってまでは入らなくてもいいかなという気持ちと、どうせ入る時に車掌に申し出なきゃいけないシステムだろうから、そこで怒られらたら嫌だな、という気持ちが湧いてきて、結局使わなかった。7日風呂なしでも大丈夫だろ。

 

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やはり3階建ての一軒家は現れてこない。どうしたものかと途方に暮れる。目を凝らすようにして景色を眺めるが、絶対に3階建てがないであろうことだけは理解できる。そんな景色だ。というか、正直に言うと景色に飽きてきた。

 

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そもそも家がない。たぶんこの先もきっと3階建て一軒家は登場してこない。どうしたものかと天井を見上げる。

 

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そもそもこの列車の寝台も2階建てなんだよな。3階建てなんてどこにも、ない、そう、どこにも……。

 

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あーーーーーー!(НДИ)

 

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3階建てだーー!

どうやら大きい荷物などを収納するスペースになっているようで、きっちりと2階の上に3階が作られている。頑張れば人だって眠れそうな余裕のスペースだ。これ、完全に3階建てでしょ。きたでしょ。ということで。

オープンハウスが東京の家を身近にできる理由、のところでも解説したが東京においては大きな土地を購入すると土地だけで途方もないことになってしまう。そこでその土地を分割し、土地代を抑える、というのがオープンハウスが提案する方法だ。こうすることで確かに手が届く値段にはなるが、当然のことながら土地は狭くなってしまう。そこで登場するのがオープンハウスの3階建てだ。

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オープンハウスはこういった分割された土地だけでなく、入り組んだ土地、狭小地、変形地などにも積極的に建設を行っている。当然、多くのノウハウが蓄積されている。そのノウハウを活かして企画力・設計力を磨いていき、住みやすい家を提案している。特に限られた土地で広い延べ床面積を確保できる3階建てはかなり得意で、ムダをそぎ落とし、シンプルな設計ながら暮らしを守る安全性や耐久性、狭いなあと感じさせない理想の家づくりを心掛けている。オープンハウスは三階建てに強いのだ。こんな素敵なノウハウを持ってる会社が「シベリアで7日間電車に乗ってPRしてこい」というのだから、こりゃもう中の人が狂ったとしか思えない。

ミッション5

これでミッション2枚抜きだな、やったぜ、と喜んでいたら駅に到着した。

 

10:33 モゴチャ駅 モスクワまで6876 km (乗車時間40時間23分)

rosia075思いっきり改装していて工事中の駅だった。

 

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シベリア鉄道の鉄道駅の多くは、そこまで大きな駅でなくとも線路がたくさん分岐し、色々な車両が停まっていたりする。この画像にも4種類の車両が映っている。ただ、これらは頻繁に行き来しているというわけでなく、ほとんどがその場に置きっぱなしという風体だ。

おそらくだけど、ロシアには車両基地だとか車庫だとかそういったものが少ないんじゃないだろうか。というか9,000キロ以上あるのだ。それを網羅する車両基地は絶対に不可能だ。だから、駅を車両基地がわりにしており、使わない車両もけっこう駅に置いてあるのではないか。そのために線路の本数が多い可能性がある。

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ウラジオストクから乗っている人はそろそろ乗車時間が40時間を超えるわけで、だんだん妙なテンションになってくるみたいで訳の分からない記念撮影を始めたり、見守ったり、歌ったりし始める。ちょっと得体のしれない異様な雰囲気を感じて怖かったな。

 

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異様なテンションの乗客たちを乗せて、シベリア鉄道は走る。

 

ミッション5

本当はもう1個くらいミッションをクリアしておきたい。それも「東京だけじゃない! 特に神奈川にも力を入れている!」をクリアしたいと思うのだけど、普通に「神奈川」とか言われても困る。ここはロシアだっつーの。こうなったらどこかで無理やりにでも神奈川っぽい場所を探して繋げるしかない。

 

サラミが席を移動した。

インテリが乗車してきたことでまた上の段に追いやられたサラミは、どうしても下の段で過ごしたいらしく、隣のユニットの通路側が空いているのでそちらに移動した。そうしてくれると僕も助かる。このままあそこで寝てくれれば夜中にサラミが落ちてこない。

 

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同じような景色が続く。なんかWindowsXPみたいな景色だ。

これまでの傾向からいって、だいたい2時間から3時間に1回は駅に停車する感じだった。停車時間が長かったり短かったりするが、だいたいそれくらいの頻度で停車していた。しかし、ここで実に6時間くらい停車しないという大暴挙にでた。

6時間停車しないということは、6時間ずっと停車レベルの駅がない、ということでもあり、車窓の風景が6時間ずっと変わらなかった。ここは本当にきつくて、まるで牢獄に閉じこめられたような気分になった。

6時間後、やっと駅に停車した。もう夕方だ。ほとんどの乗客も疲れ果てた表情だった。

 

16:27 チェルニシェフスク・ザバイカリスク駅 モスクワまで6555 km (乗車時間46時間17分)

rosia080map13_チェルニシェフスク・ザバイカリスク駅長い名前の駅だ。駅舎が綺麗でなんとなくバックトゥザフューチャーの時計台を彷彿とさせる。この駅には30分も停車するようなので、出発時間が早まっていないか警戒しつつ駅周辺を探索してみることにした。

 

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駅舎周辺は綺麗に整備されているが、少しホームの端に移動すると寂しい感じになってくる。ただ、その寂しい辺りに売店があったりするので、まずは飲み干してしまったコーラを購入することにした。すでにサラミに「コーラをくれ」というロシア語を教えてもらっていたので、買い物は難なく終わった。勝手に飲料が入っている棚を開けて怒られることなく購入できた。ちなみに二枚目画像の中で今まさに窓口で買い物しているのがインテリメガネである。タバコ買っていた。

この小さな町にシベリア鉄道が停車しに来ることは、1日の中でもなかなか大切なイベントらしく、停車時間に合わせて様々な人が集まってくるようだ。物売りの人、見物の人、迎えの人、様々だ。

 

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なぜか野良犬もめちゃくちゃ集まってくる。みんな同じように悲げげな瞳をしていた。

 

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猫も集まってくる。

 

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駅の中心からはずれ、もう駅の敷地なのか外なのか分からない曖昧な場所にお婆さんたちが机を広げていた。どうやら食料を売っているらしい。昔はこういった売り子のお婆さんがひしめき合うようにいたらしいが、最近ではめっきり減ったらしい。

 

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パンとかピロシキとか謎の総菜とかを販売している感じだった。

 

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パンを2つ購入した。「いちばん美味いのくれ」と言ったらこれを出してくれたので、たぶん美味いのだろう。2つで100RUB(150円くらい)だった。このパンの中にはそちょっと大きめのソーセージが入っていた。ロシアでは定番らしく、どの駅でも売っていて、手軽で美味い。結果として、この先のあらゆる駅で購入してしまい、旅を支える主食になったほどだった。

さて、コーラも食料も買った。そろそろ30分の停車時間も終わりそうだし電車に乗り込みますかね、と自分の車両に向かうと、何人かが入口で車掌のチェックを受けていた。どうやらここから乗り込んでくる乗客みたいで、チケットを念入りに確認されていた。

その横を通り過ぎようとすると、一人の男に呼び止められた。

「ちょっと待て!」

そう言って車両に乗り込もうとしていた僕を呼び止める。あまりの迫力にぶん殴られるかと思った。僕がロシアの文化を知らないだけで、何か現地の人にとってはとてつもない失礼なことをしでかしたのかもしれない。電車の乗車手続きをしている人の横を通り抜けて乗車してはいけない、殺されても文句言えないレベルのマナー違反、みたいな文化があったのかもしれない、そう思った。

ビクビクしながら男の横に行くと、男は肩を組んできた。逃がさないぞ、という意思表示に思えた。このまま物陰に連れていかれて殴られる。そう覚悟したとき、男が言った。

「お前のそのカメラで俺を撮ってくれや」

なんでやねん。

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ポーズも意味わからんし。なんでやねん。

「お前のカメラ、いいカメラだな」

画像を確認しながら男がそんなことを言って抱きついてきたけど、めちゃくちゃ酒臭かった。酔っ払いだ。たぶん、電車内禁酒で酒を飲めないので、ならば乗車前に飲んでおこうとしこたま飲んで突撃してきたパターンだ。なんにせよ、呼び止められたときは死んだと思った。本当に遠きロシアで殺されると思った。

 

電車が出発する。

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牛がいた。

 

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どんどんと日が暮れてきて、いよいよ3日目が終わる感じがしてきた。

そろそろ夕食の準備をしようかとテーブルの上を片付けていたら、ドンとコーラのペットボトルを倒してしまい、ほんのちょっとだけど机の上にコーラがこぼれてしまった。ほんのちょっとだ。寿司の時の醤油くらいだ。

それを見たインテリが激怒した。何もそんなに怒らなくてもいいじゃないかというくらいに激怒した。死んだと思った。本当に遠きロシアで殺されると思った。それくらいの怒りっぷりだった。インテリ怖い。靴下に穴あいてるくせに。

すっかり日が落ち、闇夜の中を電車が走る。しばらく始めると減速をはじめ、少しだけ車内も慌ただしくなった。停車するらしい。そういえば、ここまで消灯後の停車で下車してこなかった。どんなものなのか下車してみることにした。周りは寝ている人も多いので静かに降りる。

 

21:48 カルィムスカヤ駅 モスクワまで6555 km (乗車時間51時間38分)

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蒸気がたちこめていてむちゃくちゃ雰囲気あるな。暗闇に蒸気と機械音、ファイナルファンタジー7みたいだ。なんか無性にこの雰囲気が気に入ったらしく、バシャバシャと写真撮っていた。

 

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この長旅の中で、夜中になってから外に出たことがなかったので気が付かなかったけれども、昼間はそうでもないのに夜はけっこう寒い。なんか7℃とか表示されていた。それなのに季節感のない小学生みたいに半そで半ズボンで走り回っていた。

 

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本当に雰囲気が気に入ったんだろうなあ。たくさん写真を撮っている。

シベリア鉄道内は、日によって消灯時間が曖昧で明らかに車掌の気分で消灯されているんだけど、比較的早い時間に真っ暗になることが多かった。だから、必然的に早寝を心掛けていた。けれども、夜の停車駅の雰囲気がいたく気に入ったので今日はちょっと頑張って起きていようと思った。夜中の0時くらいにも大きな駅に停まって長い停車があるようなので、そこまで起きていたい。

電車が走り出すと、隣のユニットにいたサラミがすごすごと戻ってきた。空席となっていた下の段の座席で寝ていたが、さきほどのカルィムスカヤ駅で乗客がやってきたらしい。悲しそうな顔をして本来いるべき上の段へとのぼっていった。っていうかそこまでして下の段にいたいのかよ。

僕は少しだけ日本の味が恋しくなってきた。ここまでロシアで買ったカップラーメンを中心に食べていたが、全部辛いのである。もう入れる粉末の段階で赤い。完全に味覚がバカになる。ここらで日本の味を思い出しておきたいと思ったのだ。

そこで日本から持ってきていた秘蔵のスルメを取り出した。これはけっこう大量に入っている大袋で、とにかく大量にスルメが入っている。大きな袋なので値段もけっこう高く、1000円くらいした。

ひとつつまんで食べてみる。味わい深い。一口目でこれだけ濃厚な旨味が口の中に広がると、この噛めば噛むほど味が出るスルメではどうなってしまうのか。考えるとゾッとしたほどだ。完全に口の中が日本になった。遠き日本。今、僕はシベリア鉄道にいる。逆に強くそう思った。

これは大切に食べよう、そう思った。繊細な日本の味わいだ。大量にあるからとバクバク食べていたらすぐになくなってしまう。ちょっとづつ、慈しむように大切に味わっていこう。

 

そう決意していると、僕が何かを食べている物音がすると察したのか、上にのぼったばかりのサラミが出動する消防士のように軽快に降りてきた。

「なに食ってんの?」

前述したが、サラミは食べ物に関する共有意識がかなり高い。クッソ甘いお菓子とかガンガン差し出してくるし、僕が食っているものもとりあえず食べようとする。コーラなど勝手にラッパ飲みしているくらいだ。当然、それも食わせろと要求してきた。

「これはイカだよ。イカを乾燥させたもの。スルメっていう」

大切に食べるつもりだったけど、まあ1つくらいはいいか。大量にあるし。そう思ってひとつ差し出す。

こういった食べ物はロシアにないのか、サラミはおそるおそる手に取るとゆっくりと口に運んだ。そして目を見開く。

「これめっちゃうまくね!」

大興奮である。初手でこの反応ということは噛み続ければもっと大変なことになる。

「もう1個くれ、もう1個」

そこまで喜んでくれると悪い気はしない。大量にあるし、まあいっかと、もう一切れ渡す。

「めっちゃうまいわー!」

大興奮である。興奮のあまりサラミは僕の手からスルメの袋をひったくり、さきほどまで自分がいた隣のユニットの連中に振舞いだした。何度も言うがサラミは食べ物の共有意識が高い。

「うまいなー」

隣のユニットでも好評のようで、サラミはさらに別のユニットへ。最終的にはあの鬼のような形相の車掌にまで振舞っていた。何度も言うがサラミは食べ物の共有意識が高い。僕が慈しむはずだった大量のスルメは、一瞬でその全てがなくなった。日本が少し遠くなったような気がした。

 

23:53 チタII駅 モスクワまで6166 km (乗車時間53時間43分)

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0時近くになって到着したチタ駅は大きな駅で真夜中だというのに活気のある駅だった。停車時間も40分と長い。真夜中とは思えないほど人が乗り降りし、ホームを歩く人も多い。ホームや電車もかなりいる。

調べてみると、どうやらロシア鉄道におけるこの地方の拠点駅らしく、ここから各方面への路線が出ているそうだ。おまけに、この辺りから枝分かれしてモンゴルや北京へと続いていくシベリア鉄道もここで乗り換えられるようだ。

 

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真夜中と思えないほど人通りが多く、活気がある駅。

 

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売店も営業している。

 

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たくさん電車がいる。なんだかすごく異国感のある景色だった。

夜の駅が見たくて頑張って起きていたけど、さすがに眠いので、電車が走り出すと共に眠りに落ちてしまった。例のあれは今日も落ちてきた。


【次のページ】4日目に突入

 

ちょっと興味がでてきたら
オープンハウスで家探し