【ロシア9,288 km】シベリア鉄道に乗って東京の一戸建てをアピールしてきた【6泊7日電車】PR
「ロシアのシベリア鉄道にのってみたい」と言ったライターpatoさん。ウラジオストクからモスクワまでの全行程、移動も宿泊も全部電車の果てしない旅に出ました。 ※記事読了時間目安 : 45分
目次
4日目 6:58 ペトロフスキー・ザヴォート駅手前 モスクワまで5768 km(乗車時間60時間48分)
目が覚めると朝日が強烈だった。
ここまで乗車時間が60時間を超え、精神的な疲労がかなりのものになっている。そこへの強烈な朝日は目に届いているというより、直接脳を焼いているかのように感じてしまう。他の乗客もそうで、ウラジオストクからの乗客は一様に疲れている。
サラミも疲れているようで、まだ上の段で眠りこけている。夜のうちに落ちてきたサラミをそっと彼の枕元に戻す。返さなければ落ちてくるのは1回だけと学習したのだ。
インテリメガネは既に起きていて、僕の対面の座席に座って外の景色を眺めていた。ただ、少しだけ様子が変わっていて、何か一人でずっと喋っていた。ブツブツとなにかを喋っている。こええよ。
ここまで全く心を開かず、誰とも会話してこなかったインテリメガネが、ずっと何か独り言を発しているのだ。ついにお狂いになられたか。長い乗車だから仕方がない、とも思ったがインテリは昨日乗ってきたニューカマーだ。狂うにはまだ早い。
独り言こえーな、何言ってるのか半分も分からないけど、これからこの世界を粛正する、我は神、とか言ってたらどうしよう、とか思いながらその光景を眺めていたら、インテリが話しかけてきた。初めて話しかけてきた。なんなんだ、いったい。
インテリは遠くの山を指さして言った。
「あの山、めちゃくちゃ三角形じゃない? めっちゃ三角形で笑えるわ、ははははは」
ジョークが高度すぎて意味わからないよ。
いや、単に僕とロシア語での意思疎通ができていないだけと信じたい。ほぼ言葉の雰囲気とジェスチャーと表情で読み取っているだけなので、あまり伝わっていない可能性があるのだ。きっとバリバリに翻訳させたら深い意味があってドッカンドッカン受けるジョークなのだ。そういう意味では僕が悪い。
しかしインテリのこの吹っ切れようはなんなんだろう。昨日とは別人だ。もしかしたら夜中のうちにインテリは降りていって似た人が乗ってきただけなのかもしれない。見分けがつかないだけで別人なのかもしれない、そう思ったが、しっかり靴下に穴が開いていたので同一人物だ。しかも着替えていない。
特に昨日はそうだったのだけど、丸一日の間ずっと外の景色は平原ばかりで、道路や民家があまり見当たらなかった。シベリア鉄道沿線の中でもとりわけ何もない場所を通ったような印象だった。ただ、今日は朝からけっこう家とか見える。
けっこう遠くの方まで家がぎっしり並んでいる。これまであまり現れてこなかった光景だ。きっと大きな街が近いのだろう。
7:41 ペトロフスキー・ザヴォト駅 モスクワまで5752 km(乗車時間61時間31分)
かなり綺麗で雰囲気の良い駅だったが、停車時間が2分しかないため降りられなかった。降りて写真くらいは撮れそうだったが、どうせ鬼の車掌に怒られるのが関の山だ。やめておいた。
電車はすぐに走り出した。今日は本当にずっと街並みが続いていく。ここまであまり触れてこなかったが、シベリア鉄道における携帯電話の電波は基本的にそこそこの街並みの場所で3Gが繋がる。めちゃくちゃ大都会で4Gが繋がる。なので車窓から家々が見えるとみんなどこかに電話したり、スマホの画面とにらめっこしたりする。ただ、昨日はほとんど圏外だった。今日はずっと3Gが使える状態である。
まあ、せっかく繋がるんだしと、僕もTwitterに興じたりして、遠き日本の雰囲気を楽しんでいた。
車内では、インテリと通路側の金髪おばちゃんが会話していた。
「どこまでいくの?」
みたいな問いに心を開いたインテリが答える。
「XXXXX(聞き取れなかった)だよ」
「へえ、なんで飛行機で帰らなかったの?」
金髪おばちゃんがさらに問いかけ、インテリが笑顔で答える。
「パラシュートがないからさ、はははははは!」
ちょっとインテリのジョークが高度すぎて意味が分からない。いや、僕があまり言語を理解していないだけだ。言葉の感じとジェスチャーで推測しているだけだからな。ちゃんと翻訳されればたぶん笑えるジョークなんだ。
やっと街並みが途絶え、携帯電話の電波もなくなった。みんなスマホから目を離し、また好きなことを始めた。
運行表によると、つぎの大きな駅までは1時間くらいで到着するらしい。そこで朝飯兼昼飯でも買おうと思った。たぶん1時間くらいなら我慢できるだろうと思った。けれども、それは大きな間違いだった。
移動の間にタイムゾーンが変更されるらしく、途中で1時間巻き戻るのだ。運行表では1時間でも実際には2時間かかるというわけだ。そう考えるとちょっと空腹がきつくなってきたな。
昨日のスルメさえあれば小腹を満たせたのに、などと恨めしく感じながら2時間座っていると、また景色が賑やかになってきた。
めちゃくちゃデカい町だ。大都会だ。スマホの電波は4Gだ。なにより高層マンションとか見える。
ロシアでは、都会になればなるほどマンションなどの集合住宅ばかりになるらしい。首都モスクワではほとんどが集合住宅だ。これには理由があるそうだ。
社会主義国であった当時、国民の家は政府が準備して住まわせるものだった。政府は集合住宅を国営住宅として建設し、無料で住まわせていたのだ。ソ連からロシアへと変わる時、この国営住宅は民間へと払い下げられた。また、かなり寒い気候であるという事情も集合住宅化に一役買っている。一戸建てで個別に暖房を入れるより、集合住宅に一気に暖房を入れた方がいいのだ。そういった事情もあり、都市部ほど集合住宅ばかりになっているようだ。
つまり、集合住宅が見えるこの光景は都市部の象徴でもあるし、ただその周りには一軒家もちらほらあるので、まあ、そこまで完全無欠の都市ではなくやや田舎感を残している、と言えるのだ。
ちなみに、集合住宅であるマンション、といえばオープンハウスでも取り扱っている。「東京に、家を持とう。」のコピーがおなじみのオープンハウスで、一軒家を連想しがちだが、実はマンションも扱っている。そこは普通の都市的で大規模なマンションではなく、実にオープンハウスらしいマンションを取り扱っている。(https://ms.ohd.openhouse-group.com/search/)
利便性が良い東京23区内にマンションを建設することを考えた場合、戸数がまとまった大規模なマンションを建設するにはまとまった土地が必要となる。そういった土地は開発がしやすいためあらゆる企業、あらゆる業種が競合するため、必然的に土地が高騰することとなる。オープンハウスはそういった大規模開発が可能な土地に建てない。
入り組んだ土地や、そこまで大規模でない都市など、一見すると開発が難しそうな場所にマンションを建設する。そういった土地は効率化を求める企業はほとんど競合しないので土地の値段もそこまで高騰しない。そこに小規模であり、かつ企画力を駆使したマンションを建て、東京の家を身近にするのがオープンハウスだ。
これ、今までで一番きれいにミッション決めたでしょ。ナチュラルすぎて惚れ惚れする。
さて、さらに駅が近づいてくると本当に都会らしく、集合住宅ばかりの街並みになった。どうやらウラン・ウデという町のようだ。インテリ曰く、ウラン・ウデには遊園地とかあるらしい。それくらいの大都会だ。
8:45 ウラン・ウデ駅 モスクワまで5609 km(乗車時間62時間35分)
この駅もまた活気がある駅だ。どうやらこの駅から本格的にモンゴル、ウランバートルや北京、いわゆる南に行く支線ルートに分岐するらしい。すげえな、ここからモンゴル突き抜けて北京まで行くのか。日本では考えられないスケールだ。
ちなみにシベリア鉄道支線で北京へと行く場合、そもそも途中で線路の幅が変わるので、途中で釣り上げて車輪を付け替えるらしい。そのためにかなり長い時間停車する駅があるとインターネットに書いてあった。なるほど、北京にいくのも大変なんだな。
ミッションのためにホームを徘徊していて、何か神奈川っぽいものないかなーと思案していたら、どこからともなく日本語が聞こえてきた。
この駅に来て初めて気づいたのだけど、どうやら同じ電車に日本人夫妻が乗っていたようだ。たぶん三等ではなく高い等級の寝台にいるんだろう。そんな高貴な身なりだった。
「なんか疲れてきたね」
「もうちょっとだから」
そんな会話が聞こえてきて、久々の日本語にひどく感動し、夫妻に話しかけようかとも思った。話しかけてみてもしかしたら夫妻が神奈川から来ていたりなんかしたら、それだけで畳みかけるようにミッションクリアとなる。
ただまあ、神奈川から来ていると保証はどこにもないし、さすがに見ず知らずの人が神奈川から来ているからってそれをPRに繋げるのはあまりに乱暴だ。それに夫妻もこんな遠いウラン・ウデまで来て日本人に話しかけられたくないだろう、そう思って話しかけないでおいた。
ホームを徘徊していると、またもサラミが「俺を撮ってくれ!」である。
なんなんだよ、いったい。
ちなみに、昼間なのに吐く息が白いくらい寒かった。まだ9月だぜ。
なぜかロシアでは都会でしか売っていないコーラゼロと謎のパン、そして炭酸水ではない普通の水を購入することに成功した。
列車が走り出した。
ここで一つ、この4日目まで引きずってきた大きな謎を解明しようと思いたった。
ゴミが限界なのである。
これまでのペットボトルの容器だとか、カップラーメンの容器だとか、はたまた袋だけになった悲しみのスルメなど生じるゴミは全てビニール袋に入れ、座席の下に収納していた。ただその量が臨界を迎えつつあった。
みんなどうしているんだろうかと周囲を観察すると、どうやらゴミを溜め込んではいないようだ。みんなゴミが生じるとそれをトイレに持って行っている。そして手には何も持たずに帰ってくる。普通に考えてトイレ方面のどこかにゴミを捨てる場所があるはずだ。
ただ、何度かトイレに向かい、昨日なんかはなぜか謎の頻尿になってしまい15回はトイレに行ったはずなのに、そういったゴミ箱の存在を目にしなかった。絶対にどこかにあるはず、と意識して探したりもしたけど、見つからなかった。
そろそろ見つけないとゴミが飽和してしまい、本格的にごみ屋敷の住人みたいになってしまう。もうここで決着をつけようとトイレに向かった。
車両のトイレは二つ備えられており、そのドアの手前に前室のような空間がある。そこも乗客がいる場所とはドアで区切られている。どう考えてもこの前室が怪しいが、いくら探してもゴミ箱が出てこない。
もしかしてこれ……。
急に予感が走った。前室にはトイレのドアとは逆の壁側に台みたいなものがあった。誰かが荷物を置いたりする場所だろうと理解していたが、普通に考えてトイレの前室で何か荷物を置くことなんてそうそうない。もしやここに仕掛けがあるのでは。
パカッ!
ゴミ箱だー! 忍者屋敷かよ。こんなカラクリわかるか。
なんとかゴミ問題も解決した。とりあえず一安心である。あとさらに大きな発見があった。僕はスマホでGoogle Playを使って音楽を聴いているのだけど、これはネットに繋がっていないと聴けないものだと思い、途切れ途切れの電波状況を鑑みて諦めていた。けれども、どうやらプレイリストにぶち込んだものはスマホに保存されているらしく、圏外でも聴けるのだ。これはご機嫌である。音楽が聴ける。
次の駅を目指してイヤホンでご機嫌なナンバーを聴いていると、インテリが話しかけてきた。
「どんな音楽を聴いているの?」
心を閉ざしていたインテリが今朝から豹変しすぎていて怖い。何があったのだろうか。神の啓示とかあったのだろうか。
どんな音楽とか説明できないので、イヤホンを渡して聴いてもらった。その時は“まねきケチャ”の『鏡の中から』という曲を聴いていた。
どうやらこのまねきケチャをインテリが物凄く気に入ったらしく、もう1回聴かせてくれ、もう1度だ、とヘビーローテーションである。あまりにしつこいのでここで聴けるよとURLを教えておいた。
川が見えた。
その光景にインテリが大きな声をあげる。豹変しすぎて怖い。安い薬でもやってんじゃないだろうか。
「あれはバイカル湖か!?」
どうやらウラン・ウデからしばらく進むと、かの有名なバイカル湖があるらしい。これはバイカル湖じゃないか、インテリはちょっと興奮しながらそう言っているのだ。大変申し上げにくいが、どっからどう見ても川である。
バイカル湖とは、南北680km、東西幅約50kmにおよぶ大きな湖で、面積はじつに琵琶湖の46倍にもなる巨大湖である。たぶん地上から見ても大きすぎて海にしか見えないレベルのものだ。広さは世界一ではないが、最大水深は世界一らしい。さて、琵琶湖の46倍の湖である。それを踏まえてもう一度先ほどの画像を見て欲しい。
これがバイカル湖のはずがないだろ。ふざけるな。
それから1時間くらい走った頃だっただろうか、にわかに車内が騒がしくなってきた。どうやら、車窓から本物のバイカル湖が見えてきたようだ。ロシアの人もバイカル湖には大興奮なようで、みんな狂ったように写真を撮っていた。
これもう完全に海だろ。とにかくでかい。
海だろ。
海だろ。
ここまで巨大で雄大だと乾いた笑いしか出てこない。もう海にしか見えないのに湖だというのだから、とにかく圧巻である。さすが琵琶湖の46倍である。
それを踏まえてもう一度、あの画像を見て欲しい。
これがバイカル湖のはずがないだろ。ふざけるな。
バイカル湖はあまりに巨大なのでしばらくの間はずっと景色がバイカル湖だった。最初はみんな興奮していたけど、15分くらいしたら飽きていた。
街が近づいてきて、工場群が遠くに見えたので撮影したら、窓に反射するインテリとめちゃくちゃ目が合ってしまった。なんかこの世への強い未練がこうして現れた、強い恨みの念を感じます、みたいな写真になってしまった。
バイカル湖が見えなくなってしばらく走ると、また建物が増えてきた。電波も4Gだ。きっと大都会が近い。
15:51 イルクーツク駅 モスクワまで5185 km (乗車時間69時間41分)
イルクーツクはかなりの都会だ。そのため駅もかなり大きく、駅舎も立派。駅舎もディズニーランドとかにありそうなもので綺麗なものだ。さらにはちょうどシベリア鉄道の中間点ということもあってか、旅をここまでとする旅行者も多い。
つまり、6泊7日すべてシベリア鉄道は大変だから、3泊4日くらいでどうだろうか、と考え、ここイルクーツクで切り上げる人も多い。バイカル湖も見たし、ここには空港がある、あとは飛行機でモスクワに、というコースだ。そのため、降りる人はかなり多かった。
さて、とにかく立派で壮大なイルクーツク駅の駅舎だが、ちゃんと撮影できたのは最初に出した1枚だけだった。けっこう感動したのでいいアングルで何枚か写真を撮ろうとしたのだが、まずサラミが邪魔してきた。
必ずフレームインしてきやがる。てか、めちゃくちゃご機嫌だな。
売店に美味そうなサラミ売ってたぜ、とサラミに嘘をついてなんとかこの場を離れさせ、駅の撮影をしたが、大変なことが起こっていた。
撮れた、いい写真、と思い満足していたが、後から見ると画面中央に、ちょっとした隙間の時間も逃さずに日焼けしようとする裸のオッサンが写っていた。気になりすぎる。もはや台無しである。
意識していなかったけど、この写真にもいるし、
ここにもいる。
ここにもフレームインしている。なんなんだ。
電車を撮ってもフレームインしている。
再び電車に乗り込んで写真を見返した時にはすでに遅かった。全部に写ってやがる。もう撮りなおせない。なんなんだよ。大失敗だ。
僕の失意を抱いて電車が走り出した。
電車は都会的な街並みのなかを走っていった。その街並みが途切れ、いつものように見飽きた平原に変わった時、急に雲行きが怪しくなってきた。
今にも雨が降り出しそうだ。さっきまであんなに晴れていたのに。わずかな隙間時間で日焼けを画策する人が出るくらい晴れていたのに。つくづくロシアの天気は変わりやすい。
めちゃくちゃ長い貨物列車とすれ違った。ちゃんと数えてなかったけど、たぶん30両以上はあったように思う。
かなり厚い雲が出てきた。まだそんなに遅い時間でもないのに空が少し暗くなってくるほどだった。
インテリがそれを見ながら何か言っていた。ちょっと早口だしジェスチャーもなかったので何言っているのか全然理解できなかったけど、たぶん高度なジョークを言っていたんだろう。
19:57 ジマ駅 モスクワまで4902 km (乗車時間73時間47分)
いつの間にかすっかり日が落ちていて暗闇の中で停車した。ジマという駅らしい。昨日からちょっと夜の駅にハマっているので、すかさず下車してみる。
反対側のホームにはジマから近郊の街に行く感じの電車が停まっていた。僕が乗っているシベリア鉄道ロシア号が特急列車とするならば、いわば在来線だ。寝台以外の普通の車両はどうなっているのだろうかと気になった。
ちょっと乗り込んで撮影してみたかったが、乗った瞬間にプシューとかドアが閉まって走り出したら本当に嫌なので、入口しか撮影できなかった。寒い国ならではなのか、在来線でもドアの中にドアがある構造っぽい。
しかしながら、相変わらず夜の駅は雰囲気が良い。いつまでも浸っていたいが、かなり寒いため出発時間よりちょっと早めに電車に乗り込んだ。
やはり消灯時間は曖昧らしく、今日は走り出してすぐに車内の電気が消された。上を見上げると、上の段の隙間に詰められたサラミが2つに増えていた。
「なんで最初の一個も食べきってないのに新しいサラミを買ってるんだ!」
と憤ったが、よく考えたら僕がイルクーツク駅で騙して買わせたんだった。とんでもないことしてしまったと後悔しながら、4日目が終わった。両方落ちてきた。
ちょっと興味がでてきたら
オープンハウスで家探し