【ロシア9,288 km】シベリア鉄道に乗って東京の一戸建てをアピールしてきた【6泊7日電車】PR

「ロシアのシベリア鉄道にのってみたい」と言ったライターpatoさん。ウラジオストクからモスクワまでの全行程、移動も宿泊も全部電車の果てしない旅に出ました。 ※記事読了時間目安 : 45分

6日目 5:00 イシム駅を少し過ぎたところ モスクワまで2433 km(乗車時間109時間50分)

map23_イシム駅

目が覚めると、朝の5時だった。すげー早起きしてしまったと思ったが実はそうではなく、寝ている間にタイムゾーンを2つ抜けていた。つまり、寝ている間に2時間巻き戻っているので、本来ならいつも通り7時くらいに起きた計算になる。小さな島国出身の僕はつくづくこの国内で時間が巻きどもるという現象に慣れない。

どうやらロシアの中でもかなりカザフスタンに近いところを走行しているようだ。地図で見ると分かると思うが、かなりモスクワに近づいている。この旅も佳境ということだ。

寝ている間に大変なことが怒っていた。ムロツヨシはどうなったか分からないが結局戻ってこなかった。そしてその下段にいたインテリが巨乳な女に変わっていた。めちゃくちゃ巨乳で、布団に包まっているのに乳だけが隙間から投げ出されている格好だった。完全に暴れ乳である。

顔が見えなかったので、一瞬、インテリが巨乳化したのかと狼狽したが、すぐに理解した。インテリは夜中に停車した駅で降りて行ったのだろう。何かゴソゴソしていたもの。何も声をかけずに降りていくなんてドライなやつだ。

そして、その代わりに巨乳の女が乗ってきたというわけだ。しばらくすると、巨乳がアンニュイな感じで目覚めた。けっこう若い。大学生くらいだろうか。かなり荷物が少なく、ハンドバックくらいしかもっていなかったので、たぶんすぐ降りるのだろう。

これまでのパターンとしてはニューカマーがやってくるととりあえずサラミが持ち前の人懐っこさを発揮して話しかけ、あのどれだけ在庫があるのか想像したくもない甘いクッキーを出したりしていた。

けれども、今回のサラミは若い女に緊張しているのか、それとも巨乳に釘付けなのかニコニコしているばかりで一向に話しかけようとしない。巨乳はソバージュをかきあげ、シベリア鉄道らしからぬ気だるそうな色気を発揮している。

「おい、はやく話しかけろよ、仲良くなろうぜ」

みたいなことを僕がジェスチャーで伝え、早くいくように伝える。けれどもサラミは行こうとはしない。“胸焼けがするから”みたいにして断るあのジェスチャーを久しぶりに見せた。どうやら若い女が苦手らしい。

じゃあ僕がいっちょ行くか! と身を乗り出したが巨乳は気だるげにシーツを片付け始めた。シーツを片付ける人は次の駅で降りる人だ。なんだかちょっと残念な気持ちがしてくる。僕とサラミは二人して胸焼けがするわ、というジェスチャーを見せた。なんなんだ、こいつら。

 

8:39 チュメニ駅 モスクワまで2144 km (乗車時間113時間29分)

rosia180map24_チュメニ駅

なかなか近代的で立派な駅だった。特に線路の本数が多く、それを繋ぐ跨線橋も立派だ。駅舎も強固なビルで、その向こうには発展した街並みも伺える。気温は10℃とまあまあ寒い。そろそろ半袖半ズボンでは厳しい。

 

rosia181

画像の中央に小さな売店があり、その横にテントを置いてアイスを売っていた。気温10℃でアイスが売れるのかという思いがあるが、驚くことにけっこう売れていた。もしかしたらロシア人にとっては10℃は、あちーなアイスでも食うか、という気候なのかしれない。それにしても、このテント、なんだかアメリカっぽい。

だめだ。全然アメリカっぽくない。アメリカさのかけらもない。だいたいモロにロシア国旗のカラーリングじゃないか。さすがに無理がある。でも、僕には無理でもアメリカ感を見出さなければならない理由があるのだ。

 

ミッション7

「アメリカに、家を持とう。」

一番きつい。何度も言うけどここはロシアだっつーの。冷戦とかしてた間柄だぞ。本気でここにはアメリカが存在しない。どうするんだ。

 

rosia182

これまでの経験において、シベリア鉄道で電光掲示板がある駅はかなり大きな駅、という教訓を得ていた。つまりこの駅はやはり大きな駅なのだろう。ちなみに、手前に写る子供が、このあとちょっと駄々をこねて、売店に売っているスパイダーマンの人形を買ってもらっていた。こんなところにアメリカがありやがった。普通にありやがった。

ただ写真を撮る間もなく買われて行ってしまったし、よくよく考えるとスパイダーマンがアメリカとは少々強引だと思う。もうすでに「神奈川と厚木」のこじつけの時点でこの記事は各方面から怒られることが確定しているので、これ以上のこじつけは避けたい。まだどこかにアメリがあるはずだ。

rosia183

キングザ100トンみたいなものが吊るしてあった。何に使うのだろうか。

 

rosia184

それにしてもかなり大きな駅だ。どれくらい電車がいるのだろうかと気になったので、ちょっと時間的にギリギリだけども跨線橋を駆け上がってみることにした。

 

rosia185
rosia186
rosia187

やはりたくさんいる。

そろそろ電車が発車しそうな雰囲気がしてきた。乗り遅れたら大変だと階段を駆け下りる。すると、タバコを吸っていたサラミが話しかけてきた。

「俺を撮影しろ」

rosia188

なんなんだよ。どんどんとサラミの画像がたまっていくじゃないか。

 

rosia189

電車が走り出してすぐに暗雲がたちこめてきて雲行きが怪しくなってきた。今日はひと雨きそう、そんな雰囲気だ。

6日目となりウラジオストクから乗っている人はかなり少なくなってきた。それでも最長の人は110時間以上の乗車時間になるのだから、だんだんと頭がおかしくなってくる。僕もここまで長い間乗車した経験はない。完全に未知の領域に手をかけている。

サラミは突如として上の段に手をかけて懸垂をはじめた。それどころか、紅茶に12個くらい角砂糖を入れるという暴挙を始めた。それでいてあの“胸焼けがする”ジェスチャーを見せるのだ。狂っている。

他のユニットでも突如歌いだす人や、意味もなく車両内を徘徊する人など、みんな限界が近づきつつあった。ただもっともヤバかったのが、クシャミに対する反応だ。

僕は2日ほど前から寒さのせいでクシャミが出るようになっていた。ロシアの人はクシャミをすると必ず「お大事に」と声をかけてくれる。これは知らない人が相手だろうがなんだろうが、絶対らしい。そういった文化のようだ。

最初はクシャミするたびになんか言ってくんな、と思っていて「うるさい」「死ね」「国に帰れ」って言われていたらどうしよう、って思っていたが、気遣いの言葉をかけてくれていたらしい。ちなみに、それに対して「スパシーバ」と返すのが一般的なようだ。面白いね、外国の文化って。

僕はそれを知らなかったので、ずっと「スパシーバ」と返すことなく、非常に失礼な状態だったので、次にクシャミしたときは必ず返すぞ、と決意していた。そして、ここでついにクシャミした。

「……」

誰もお大事にと言ってくれない。どんな時でも言ってくれる文化とは何だったのか。みんなクシャミに構っていられないくらい疲弊していた。そんな状態だ。

 

 

13:36 エカテリンブルク駅 モスクワまで1818 km (乗車時間118時間26分)

rosia190map25_エカテリンブルク駅

エカテリンブルグはかなり大きな町だ。人口は140万人ほどでロシアで4番目に多い都市であるそうだ。ちなみに2018年のロシアワールドカップにおいて日本対セネガル戦をやったエカテリンブルグアリーナもこの街にある。

 

rosia191

やはり大きな町なので電光掲示板がある。やはりというかなんというか、ロシアという国は人口1000万を超えるモスクワにあらゆるものが集中していて、そこに近づくにつれて大きな都市も増えてくる印象だ。

 

rosia192

ここまでもずっと、タバコを吸う人はポイポイと吸い殻を線路上に捨てていたので、大きな駅となるとこの有様である。まるで神奈川の厚g……。

 

rosia193

ロシア鉄道が使用する車両のカラーリングは赤とグレーのものが多く、あまり変わり映えがしないのだけど、たまにこういう変わったものがいたりする。

 

rosia194

この車両などはかなり年季が入っていて、本当に走るのかなと心配になってくる。

 

rosia195

これは僕が乗っている車両なのだけど、水がぶしゃぶしゃ出てきている。大丈夫かいな。

 

rosia196

ホーム間の行き来は地下通路となる。これはかなりデカい駅である証拠だ。

さて、雨が降ってきそうなので早めに車両に乗り込む。案の定、乗ってすぐに雨となった。車内は少し遅めの昼食と言った雰囲気が漂い始めた。

rosia197

僕は先ほどのエカテリンブルグの売店でこのラーメンを買っていた。あの地獄のように辛いやつである。だってこれしか売ってないんだもん。

サラミは何を食べるのかな、っていうかいい加減にサラミ食べろよ、と思っていたら上の段に置かれた荷物からズルンとあのSOTECのノートパソコンくらいありそうな巨大で硬いパンが出てきた。

「もう一枚もってやがったかー!」

と唸るしかなかった。そして、もう一個、謎のタッパーが出てきた。開けると、重厚な何かの肉を煮たものが入っていた。もしかしたらロシアの家庭料理なのかもしれない。とても美味しそうなのだけど、問題はそれをいつ調理したのかという部分に及ぶ。

サラミも初日の夜に途中の街から乗ってきた乗客だ。ここまでの6日間を電車の中で過ごしている。そうなると、どう好意的に解釈してもその肉は6日以上前に煮られたものだ。果たして大丈夫なのだろうか。

別にサラミがなにを食べていようが関係ないじゃないと思うかもしれないが、忘れてはいけない。サラミは異常に食べ物の共有意識が強い。きっとあのセリフがくる。

「くえ、パンに肉をつけてくえ」

ほうらおいでなすった。こういう展開になるから心配していたんだ。

断るのも悪いので、あの巨大なパンをちぎり取り、そっととった肉の塊を乗せる。肉はかなり柔らかく煮込まれている。でも、何の肉なのかは分からない。

食べてみると、美味かった。同時に、これは確実にお腹を壊すんだろうなという予感も走った。ただ、ほっとくと延々と僕が食べる展開になる。それは避けなければならない。

「ちゃんと食べなよ」

僕がそう言うと、サラミは“胸焼けがするから”というジェスチャーを見せた。なんなんだよ。

 

rosia198

大きくて綺麗な一軒家が散見されるようになってきた。ここまでの街で見てきた一軒家はそこまで大きくなかったり、古かったり、落ち着いたデザインだったりしたが、このへんからその傾向が変わる。最近になって建設されるようになったのだろうか。まるでアメリカの家みたいに大きくてポップなデザインだ。

アメリカ……。

いや、これは美しくない。ここではやめておこう。まだアメリカの時ではない。

さて、実は先ほどのエカテリンブルグ駅では多くの乗客が降り、多くの乗客が乗ってきた。かなり入れ替わった状態だ。相変わらず我がユニットは通路側の金髪おばちゃんとサラミ、そして僕という布陣だ。ムロツヨシはいつの間にか荷物もなくなっていた。そこにニューカマーが来ていた。

けっこうご年配の方のようで、お爺さんと言えるくらいの年齢っぽかった。荷物がかなり少ないし、シーツを受け取っていないので、夜になる前に下車するだろうことは理解していた。その人は大きなガネをかけていて、桃屋の人っぽかった。

rosia199

桃屋の人、かなりオシャレな帽子かぶっている。

桃屋の人がめちゃくちゃ暇そうにしていたので、普通なら別に放置するんだけど、僕らは明らかに頭が狂ってきているので、桃屋の人を退屈にさせてはいけない! と強い使命感を抱いてしまった。

サラミが自分のスマホからイヤホンで音楽を聴かせたりしておもてなしをしていた。最初は喜んで聞いていた桃屋の人も、すぐに飽きてしまい、座席に横になってボーっとし始めた。

rosia200

そこで僕は気づいたのである。桃屋の人―!

 

rosia201

靴下に糸くずついとるーー! めちゃくちゃ気になるーー!

 

rosia202

また退屈な時間が続いた。ただ、僕はその退屈を楽しむ境地に達していた。例えば、上の画像程度の家々がある場所では携帯電話の電話は3Gがやや弱めに入る程度である。

旅の序盤こそはこの電波の強さに一喜一憂し、繋がっている時にツイッターを見たり、ネット記事を見た入り、LINEをしたりネット依存症のごとく夢中だった(ロシアはLINEが遮断されているため基本的にできないが、僕はソフトバンクのローミングを使っていたのでなぜか使えた)。圏外になると心底がっかりもし、寂しい気持ちにもなった。

けれども、ここまでくるともはやネット接続はどうでもいいという境地に達する。電波の強さに一喜一憂し、こんな遠くロシアに来てまで普段と変わらないネットサービスに夢中になるなど愚の骨頂である。ゆったりと流れる何もすることがない時間があって、横になってボーっとしているうちに昼寝をしてしまう。これが忘れていた気持ちなのである。これが一番贅沢だ。

昼寝から目覚めると、桃屋の人が「音楽を聴かせてくれ」とサラミに頼んでいるところだった。やはり暇になったらしい。サラミは、「ちょっと、いまネットを見ているからこいつに聴かせてもらえ」と言っているようだった。コイツとは、僕のことである。

仕方がないので僕の音楽を聴かせる。前にも述べたが、僕が作っているプレイリストならネット環境がなくても聴けるのだ。そのプレイリストを最初からずっと聴いてもらった。桃屋の人はけっこう日本の音楽を気に入ったようで、ノリノリで聴いている。

ある曲で、とりわけ桃屋の人の反応が良かったのを見逃さなかった。完全に気に入っている。体が左右に揺れている。いったい何の曲がそこまで桃屋の人の魂を揺さぶったのか、すぐにスマホの画面を確認した。

DU PAMPの「U.S.A.」だった。

オープンハウスでは「アメリカに、家を持とう。」を合言葉にアメリカの不動産販売も始めている。もちろん、アメリカに住むための物件を買うというわけではなく、投資としての側面が強い。

アメリカは、数ある先進国の中でも比較的高水準の経済成長率を実現しており、人口も安定して増加傾向にある。人口が増加すれば、住宅の需要が高まる。そして価格も上昇していく、実際にアメリカの住宅価格はこれまで40年以上にわたり年平均4%の上昇を続けてきている。そういった状況からアメリカ不動産に投資する動きがあるようだ。

また、アメリカは日本の不動産事情と異なり、中古物件マーケットが異様に大きく、市場の8割が中古物件ともいわれている。中古マーケットが大きいということは物件の流動性が高いということである。

そういった成長性や流動性、さらには取引の透明性が魅力で、アメリカの不動産に投資するというケースもあるようだ。オープンハウスもそこに着目し、取り扱いを始めている。また無料のセミナーも実施しているようなので詳しくはこちら(https://wm.openhouse-group.com/)を参照されたい。

ミッション8

完全に綺麗に決まった。

さて、疲れの見える車内は恐ろしいほど静かだ。そんな中、サラミがいる上の段でパンッとデカい音がした。何事かと上の段を覗くと、サラミのスポーツバッグが破裂していた。どうやら荷物をパンパンに詰め込みすぎたらしい。カバンってあんな破裂音がするんだ、って思った。

破裂して散らかっている荷物の中に、あのSOTECパンがあったのを見逃さず、何枚持ってきてんだよと思ったが、もしかしたら、また僕が食べる羽目になるのかな、と不安にもなった。

サラミは破裂したカバンを下の段に持ってきて、何かを始めた。なんだろうと見ていたら、別のカバンからけっこう本格的な裁縫セットを出してきて、カバンを縫い始めたのだ。

「修理して使う気なのか。てか裁縫道具もってんのかよ」

という気持ちで見ていたら「手伝え」と言われて、僕と桃屋の人でカバンを押さえて固定し、ジッと縫い付けるのを見ていた。本格的な裁縫道具なのでかなりの手練れかと思ったら、めちゃくちゃ下手で、1時間くらいずっと縫っていた。

rosia203

外の景色が都会的になってくるのと同時に、本格的な雨が窓を叩きははじめた。さらに冷えることになりそうだ。運行表を見ると分かるが、あれだけ多かった停車駅もモスクワが近づくにつれてかなり少なくなっていた。

2日目に17駅に停まったのに対して、6日目は6駅だ。最終日である明日はもっと少ない。いよいよモスクワが近づいてきたのを実感する。

 

rosia204

サラミは少しだけ寂しそうな顔をしていた。

 

19:30 ペルミII駅 モスクワまで1397 km(乗車時間124時間20分)

rosia205map26_ペルミII駅

そろそろ日が落ちるかという時、ペルミ駅に到着した。ペルミはペルミ国立オペラ・バレエ劇場が有名な場所だ。人口も100万人程度と大きな街である。ここでは桃屋の人が降りていった。

雨が激しくかなり寒い。吐く息は白く、日本で言うところの冬レベルの寒さだった。

rosia206

停まっていた貨物車が尋常じゃない長さだった。全部は入らないのでこれで半分くらいだ。途方もない。向こう側が霞んで見えないレベル。この国は色々とレベルが違う。

 

rosia207

二交代勤務とはいえ、車掌さんもずっと働きっぱなしだ。かなり疲れが見える。何度となく怒られた車掌さんだったが、ここにきて笑顔を見せてくれるようになった。ロシアの人は不愛想だけど、慣れてくると根底にある優しさが表出してくる。

 

rosia208

いよいよシベリア鉄道最後の夜である。電車は雨の中、走り始めた。

サラミが相変わらず元気がなかった。桃屋の人が降りて空きとなった対面の下段に目ざとく降りてきていたが、元気がなかった。どうしたのか訊ねる。するとサラミは地図を見せながらこう言った。

「俺はモスクワまで行かない。ニジニ・ノヴゴロドという場所で降りる。そこに俺の家があるんだ」

map27_ニジニ・ノヴゴロド

ここまでずっと一緒だったから、モスクワまで一緒だと思ったが、モスクワより手前500 kmくらいの街で降りるようだった。

そして彼の持つスマホのアルバムから何枚かの写真を見せてくれた。そこにはそれぞれ3人の青年が写っていた。何かの発表みたいな場面だった。難しいことが書いてありそうなポスターの前でかしこまって立っている青年の姿でスーツを着ている。たぶん、大学か学会で発表しているところじゃないだろうか。

「俺の子供たちだ。ウラジオストクにいる」

大学生くらいの年齢の子供が3人もいることに驚いたし、なにより、遠く離れたウラジオストクにいるという、なかなかすごい話だ。サラミはモスクワ手前500 kmの街に住み、子供たちはウラジオストクに住んでいる。9,000キロは離れているだろうか。同じ国内なのに遠く離れているのレベルがすごいのだ。

「子供たちに会いに行ってたんだわ」

サラミはそう言った。この旅はその復路であるというのだ。会いに行ったと簡単に言うが、往復ともにシベリア鉄道と考えると、行きに6泊、帰りに6泊である。そりゃカバンも破裂する。

「子供たちと過ごした時間は楽しかったが、帰るのが辛かった」

寂しそうでもあり、そして慈しむようでもある不思議な表情で、子供たちの写真を眺めていた。僕もいつかこういう表情をするようになるのだろうか。そういう大人になるのだろうか。

「どうして一緒に住まないの?」

野暮なことをきいてしまった。

サラミは笑顔で答える。

「それが子供たちの決断でもあるし、自分の決断でもあるから」

スマホの翻訳機能を介した会話なので正確なところは分からないが、そんなことを言っていた。

「決断か……」

なんだかその言葉が妙に心に残った。

「帰りの旅路は寂しいと思っていたけど、お前がいて楽しかったよ、でも明日でお別れだ」

そういってサラミは布団に包まった。

 

シベリア鉄道最後の夜は、雨が窓を打ち付けていた。いよいよ明日、この旅が終わる。この夜、サラミは落ちてこなかった。

 


【いよいよ最後】最終日

 

ちょっと興味がでてきたら
オープンハウスで家探し