アクロバティックな根っこの宝庫!等々力渓谷で「根見」散歩
東京都世田谷区・等々力渓谷公園の新しい楽しみ方をご提案。樹の「根っこ」に着目しつつ、自然豊かな園内を歩きます。等々力不動尊や野毛大塚古墳など、周辺の見どころ情報も。
こんにちは、「路上園芸学会」と申します(@botaworks)。「学会」と名乗ってはいますが、会員はひとり。路上で営まれている園芸や、路上でしたたかに生きる植物が妙に気になり、たまにコラムを書いています。
突然ですが、「根っこ」っていいですよね。
根っことはズバリ、樹の根っこ。植物のパーツの中でも、「花」や「葉」に比べて、どちらかといえば地味で注目度の低い存在ですが、ひとたび見始めると、なかなか味わい深いのです。
私は数年前から、根っこを見るとわけもなく興奮してしまう、という病を発症してしまい、花ではなく根っこを見る「根見会」を行ったり、はるばる宮古島まで根っこを見る旅に出たりしました。
根っこを身に付けていたいあまり、給料をつぎ込んで「植木鉢からはみ出す根っこ手ぬぐい」まで作ってしまいました。
「え?」「は?」「根っこ?」「意味わからない」と、残念ながら人間にはあまり相手にされていませんが、猫は人気です。さすが「猫」と「根っこ」。響きが近いだけあって、無意識に惹かれ合うものがあるのでしょうか。
そんなわたしが今回訪れるのは、等々力渓谷。
そこに樹があれば根っこあり。等々力渓谷は23区内唯一の自然渓谷…ということは、たくさん樹が生えてるだろうし、樹がたくさんってことは根っこも……?
アヒャ〜!
居ても立っても居られなくなり、いざ等々力渓谷へ「根見」へ出かけたところ、そりゃあもう、いい根っこの宝庫でありました。いるだけですでに心地よい等々力渓谷を、もう一歩踏み込んで味わってまいりましょう!
※この先、根っこの写真多めです。
駅から徒歩3分の秘境
等々力渓谷は、東京都世田谷区にある、東京都23区唯一の自然渓谷だ。最寄駅は、東急大井町線等々力駅。渋谷から20分程度、横浜から30分程度でアクセスできる。全体の地図は、世田谷区のページも参照いただきたい。
こぢんまりした静かな駅を出ると、駅前にはレトロな雰囲気のお店が軒を連ねている。屋根や壁、ベランダの造作など、店構えが可愛らしい。
駅も、駅前も、のんびりした感じが心地良い。車通りへ出て、等々力渓谷の案内板に従って歩き出したところ、足元からふと気配を感じた。視線を落とすと、ぱっくり割れたプランターから根っこが豪快に流れ出していた。
その向かいでは、朽ちた椅子の上に小さな草原がつくられていた。
都会の中で半野生化する植物にグッときてしまう筆者にとって、たまらない光景だ。これは幸先が良い。視線を上げると、すぐ近くのスーパーの脇に大きな樹が生えていた。
近づいてみると、「保存樹木」「名木百選」のプレートがついていた。ケヤキの樹らしい。
これだけ大きいと、根っこもきっと立派なんだろう。根元が丘のように盛り上がり、舗装を押し上げている。渓谷に着くまでの間も「根見」スポットの連続だ。
ケヤキの大木を目印に右に曲がると、すぐそこが等々力渓谷の入口。
橋の上に立つと、両脇に緑がウワァ〜っと溢れかえっている。
はぁぁー、気持ち良い。駅を出てわずか3分程度の場所に、こんなに緑深い場所が広がっているとは。
赤が際立つゴルフ橋
渓谷沿いの遊歩道へ降りると、視界が一層緑に包まれる。見上げると木漏れ日。車の音はほとんどしなくなり、代わりに水の流れる音と鳥の鳴き声で満ちている。ひんやりと湿気を含んだ空気に、思わず深く息を吸い込む。渓谷沿いの遊歩道は舗装されているので歩きやすい。ベビーカーを押す家族連れも見かけた。
等々力渓谷の全体図はこんな感じだ。
等々力駅近くの入口にある「ゴルフ橋」は、等々力渓谷の見所の一つ。下から見上げると橋脚が赤く、周りの緑の中でとりわけ存在感が際立つ。
案内板によると、昭和の初め頃、ここにゴルフ場があったことから「ゴルフ橋」という名前がついているとのこと。現在は鋼鉄のアーチ橋だが、それ以前は木の橋だったそうだ。
そんなゴルフ橋のたもとでは、樹の根っこが緑地から塀ギリギリまでせり出していた。
根っこが…根っこが迫ってくる!
後ろを向くと、樹がすごいとこから生えていた。
のっけから根っこの歓迎を感じながら、遊歩道をさらに進む。
地層断面…そして根っこ
等々力渓谷は、武蔵野台地の南端を川が侵食してできた、東京都23区唯一の自然渓谷だ。渓谷沿いには、台地を作り上げてきた地層の断面を観察できる箇所がある。
うーむ…正直なところ、素人目には、ひとつひとつの地層の違いはよくわからない。しかし見る人が見たら、きっとすごいのだろう。ましてやここは東京だ。アスファルトに覆われていない、むき出しの大地の断面を堪能できる場所は貴重に違いない。いつか詳しい人と一緒に観察してみたら楽しそうだ。
地層はそこそこに、個人的に目を奪われてしまったのは、やはり根っこ。地層の上にアクロバティックな姿勢でしがみついている姿に、たまらなく胸が熱くなる。
す、すごいぞー、こりゃ。
思わず人目をはばからず写真を撮ってしまう。超かっこいい。
…と、さっきから「根っこ」「根っこ」と言われても、戸惑う方が多いだろう。ここで僭越ながら、根っこの魅力をお伝えしたい。
根っこの見どころをかいつまんでお伝えすると、「造形の妙」「パンチラ感」「力強さ」だと思っている。
壮絶にこんがらがっていたり、暴れ狂っていたり、波打っていたり…一つ一つ異なる独特のかたち。
そして地面からの奔放なはみだしっぷり。平常時は土の中におさまっている根っこが、何かの事情で地上に現れた様子を見ると、秘められた部分をみてしまったような…そう、パンチラを見てしまった時のような、妙な気持ちにならないだろうか。
…え、ならない?
そして力強さ。根っこには、樹木を支える役目があるので、傾斜地など頑張って支えなきゃならない場所の場合は、中国雑技団をも彷彿とさせる、根っこの曲芸を楽しめる。
傾斜地に囲まれた等々力渓谷は、まさにそんなアクロバティックな根っこの宝庫なのである。
…ハ、すみません。自分、根っこのことになると、つい熱くなってしまうんです。気を取り直して、引き続き等々力渓谷の見所を巡りながら、いい根っこも探していきたい。
野毛大塚古墳
等々力渓谷周辺は、実は古墳スポットでもある。渓谷からアクセスしやすい古墳のひとつが「野毛大塚古墳」。遊歩道の途中にある階段を登り、閑静な住宅街を抜けていくと、玉川野毛公園という公園の一部に古墳が保存されている。
古墳をこんな至近距離から眺めるのは人生初。こんもりした丘状の古墳には階段が整備されていて、上に登ることもできる。古墳の上は広場になっている。上から見下ろすと帆立貝の形をした「帆立貝形古墳」だそう。
公園内のベンチに座ると、小さな古墳風オブジェ越しに古墳を眺めながら思いに浸ることもできる。
古墳の上に木が生えている。…ってことは、こんもりした古墳の中には根っこが張り巡らされているということだ。私も死んだら根っこの中で眠りたいものだ。
等々力渓谷横穴墓郡
等々力渓谷で観察できる史跡は、渓谷沿いにも存在する。先ほどの階段を降りて再び渓谷に戻ると、川の向かいにあるのが「等々力渓谷三号横穴(おうけつ)」だ。
渓谷の断面で、古墳時代から奈良時代にかけて構築された横穴墓が六基以上発見されたが、中でも三号横穴は、発見された時の状態が良好だったため、保存処置が講じられたそうだ。
案内板によると、入口の奥に洞窟のようなスペースが広がっているらしい。秘密基地のようで、なかなか居心地が良さそうだ。
遊歩道沿いのパワースポット・根っこの大海原
三号横穴を後にし、ふたたび遊歩道を歩き出す。
訪れた日は秋晴れのカラリとした空気で、気温も穏やかだったためか、遊歩道は子連れの家族やカップル、シニアのグループなど、老若男女多くの人で賑わっていた。整備された遊歩道は、子どもの足やベビーカーでも負担なく歩けそうなので、休日の家族のお散歩にはもってこいだろう。駅からも近いし、たとえば出勤前にちょっとリフレッシュしたい、なんて場合にも気軽に訪れられそうだ。
そんなことをつらつらと考えながら歩いていたところ、少し先にとんでもないものが見えてきた。
根っこだ! で、でかいぞこれは!
遊歩道の傍にズーン…と佇む存在感のある根っこ。今にも動き出しそうな、ダイナミックなビジュアルだ。
独特なかたち、地面からのはみ出しっぷり、そして多少困難な地面でも絡みついたるという頼りがいある曲芸具合。「造形の妙」「パンチラ感」「力強さ」、どの部門をとってもぶっちぎりの高得点だ。
思わず舐め回すように、色々な角度から撮ってしまった。
もちろん心の中では、「いい根~」「いい根~」とハアハアしながら叫んでいる。荒々しく波打つこの根っこの大海原に、ダイブしてうずもれたい。
遊歩道沿いで強烈なインパクトを放つ根っこは、やはり訪れる人の心を鷲掴みにするようだ。ほうぼうから「うわー、この根っこすごいね」という声が聞こえ、ご神体とばかりに根っこに抱きついているご婦人もいた。
こうなったらもう、等々力渓谷の新名所にしても良いのではないだろうか。
不動の滝・等々力不動尊
名残惜しくも根っこの海を後にし、しばらく進むと「不動の滝」が見えてくる。この滝の轟く音が、「等々力」の地名の由来だとも言われているそう。等々力渓谷のメインスポットといっても過言ではない。
じっとりと苔むした土壁に映る木漏れ日と、水の音。轟音というよりは「チョロチョロ」という優しい音だ。目から耳から肌から…全身を心地よさのシャワーが襲う。
しかし油断してはならない。そんな不動の滝の手前には、護岸にこれまたアクロバティックな格好で、いい根っこがドンと構えているのだ。
実際私は、真っ先にこの根っこに目が行ってしまい、そのすぐ後ろが不動の滝だと気づくのに、しばらく時間がかかった。根っこよ、一体どこまで私の心を鷲掴みにする気だ。
不動の滝の脇の階段を登ると、その上は等々力不動尊。しかし階段脇には、存在感のある根っこだの枝だのが暴れ狂っているので要注意だ。まったく、油断も隙もない。
階段を登りきると等々力不動尊だ。静かな境内で、根っこで興奮した心を鎮めよう(私だけか)。
おわりに
生まれて初めて訪れた等々力渓谷は、根っこ好きの心をなかなか鎮めてくれない、絶好の根見スポットだった。
そこに樹があれば根っこがある。「忘れちゃならない根っこの力」と、サブちゃんこと北島三郎氏も唄っている。葉っぱが落ちても、花がなくても、一年中楽しめるのが根っこ。樹は生えた場所から動くことができないので、生えた場所で何とか身体を支えようと、根っこが頑張る。その支えっぷりに、勝手に胸が熱くなるのだ。仕事で泣きたい気持ちの時。パートナーとうまくいかない時。きっと根っこは、いつだって力強く寄り添ってくれる。
ぜひ皆さんも、「根見」しませんか…根?!
等々力渓谷
住所:東京都世田谷区等々力1丁目22番、2丁目37~38番外
営業:通年
交通:東急大井町線「等々力駅」下車徒歩3分、東急バス、都営バス「等々力」下車徒歩5分
参考サイト:http://www.city.setagaya.lg.jp/shisetsu/1217/1271/d00004247.html
取材・撮影:路上園芸学会(@botaworks)