【全猫好き必見】猫を愛しすぎた画家が描いたアート展「猫たち」に急げ!

猪熊弦一郎の作品を集めたアート展「猫たち」が、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中。「猫画家」と呼ばれるほど猫を愛した猪熊弦一郎の本気度が伺えるおすすめのアート展です。リアルなスケッチ、ゆるっと脱力系イラスト、ピカソみたく抽象的な作風の猫など、個性的な作品がズラリ!会期は3月20日(火)~4月18日(水)まで。ぜひ週末のお出かけの参考にしてください。

SPOT読者のみなさん、初めまして。ライターの小林有希です。

突然ですが、みなさん

ねこ
好きですか?

nuko-6_TP_V愛くるしいどんぐり目に、まんまるの顔にちょんと乗った三角耳。
どこまでも伸びる胴体についた、筋肉隆々の後ろ足。
そして表情よりも豊かに感情表現するしっぽ。

なぜこんなにもカワイイのか。
この小さな獣に、我々人間の心はガッチリつかまれてしまっています。

平成の猫好きなら誰でも知っている動物写真家・岩合光昭のように、昭和の猫界には「猫画家」として知られる一人の日本人がいました。

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西洋画家・猪熊弦一郎によるアート展「猫たち」が3月20日から4月18日まで、東京・渋谷Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催されています。今回はそのアート展から猫画家が描く「猫たち」をご紹介したいと思います。

■深すぎる愛から描き留められた猫たち

展示会場に入ると、見渡す限りの猫、ねこ、ネコ! ひとつずつ作品を見てみると、猫は様々な筆と作風で描かれていることがわかります。

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猫そのままの愛らしさをスケッチし、気ままな性格をコミカルにインクで描き、人間に対して「我関せず」といった独特の空気感を油彩画で表しました。二次元ながらもリアルで、猫の魅力を存分に感じられ、猫好きの胸はきゅーっと締め付けられます。

cap_3ポーズをとる妻の横で、自由気ままに毛づくろい(しかもお股!)をする猫。
妻の影響で猫を飼い始めた猪熊弦一郎ですが、多いときでは1ダースもの数が家にいたようです。

cap_11もちろん生活は猫優先。和室のふすまの下半分に「猫君の水」(おしっこのこと)がかけられていたものの、彼は立派な水彩画だと言って面白がっていたほど。
しかしなぜこれほど多彩な表現で猫を描いたのでしょうか。猪熊の心情がわかる言葉が残っています。

今まで色々と沢山描かれている猫は、どうも自分には気に入らない。そこで猫の形と色を今までの人のやらないやり方で描いてみたいと思った。」(“美術の秋「赤い服と猫」”「報知新聞」1949年10月4日)

DSC02258(左から)猪熊弦一郎 題名不明 制作年不明 インク・紙 / 猪熊弦一郎 題名不明 1950年 コンテ・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

とはいえ描き続けていく中で、芸術家としての苦悩を抱えることになります。

私の心はまだ猫を愛する心で一杯である。この愛する心をどこか他の処に置き忘れて来れば、もっと猫に対して苛烈な、無慈悲な気持ちで思い切って描いて行けるのではないかと思われる」(「美術手帖」1949年11月号/作品「赤い服と猫」の作者解題)

愛するからこそ描きたい。でも愛しているからこそ、芸術として描くことが難しい。
そんなジレンマに陥るほど、強い愛情を猫に抱いていました。

フランス人画家アンリ・マティスに師事し、帰国後も独自の作風を模索していた猪熊は、20世紀に生まれた抽象主義的表現に挑戦し始めます。そこから少しずつ猫は芸術の一部となり、猫の姿かたちを崩していきました。

■頭の中も猫だらけ。ねこに囚われた画家

なんとかスケッチから芸術作品へと昇華できましたが、相変わらず猫にどっぷり浸かっていたことは、作品から容易に想像できます。なぜならアートの発想が、猫好きならぬ「猫狂い」的なのです。

DSC02208(左から)猪熊弦一郎 《頭上猫》 1952年 油彩・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《猫と顔》 1950年代 油彩・カンヴァス / 猪熊弦一郎 題名不明 1954年 版画、水彩・紙 すべて丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation
1950年代前半、人間のまるい頭の上に猫が立つ絵を数点描かれていますが、その姿はまるで人間が猫に支配されて操られているよう

これまで私が見てきた猫画は、猫単体、もしくは肖像画のお飾りとして描かれていることが多かったのですが、猪熊の作品は猫と人間のダブルキャスト。

DSC02204(左から)猪熊弦一郎 《猫によせる歌》 1952年 油彩・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《猫と住む人》 1952年 油彩・カンヴァス 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation
猪熊はどうやら猫への考察を深めた結果、人間と猫の顔、社会構造が似ていると感じ取ったよう。「人間の世界に猫」ではなく、「猫の世界に人間が混じった」とみられる作品をつくりました。

猫好きも度が過ぎると飼い猫を「お猫様」と崇める傾向がありますが、頭の中を猫に乗っ取られるなんて、さすがは猫の画家です。

DSC02217(左から) 猪熊弦一郎 《City Planning Yellow No.1》 1968年 アクリル・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《Landscape Green A》1976年 アクリル・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《驚く可き風景(A)》1969年 アクリル・カンヴァス /猪熊弦一郎 《Landscape 》 1971年 アクリル・カンヴァス すべて丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

猪熊は1955年にニューヨークに拠点を構えて以降、20年間、抽象画を描いていたため、一旦猫の姿は消えます。しかし、彼の中からその存在が消えたわけではありません。

1985年頃のスケッチブックやメモ帳には、ゆるいタッチの猫が登場します。これらは新作の構図を決めるためにペンを走らせたラフ図のようですが、ちょっとしたアイディアの書きとめにも猫を用いるほど、思考と指先は猫と一体化していたのでした。

cap_4展覧会の始まりには「ネコカワイイ!」を連発していた私も、最後猫とシンクロしていく猪熊弦一郎の姿にうっすら狂気すら感じてしまったアート展「猫たち」。

しかし最後のミュージアムショップで再度、脳内お花畑状態になってしまいました。
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ゆるいタッチの猫たちがシール、トートバッグ、iphoneケース、ついにはロンパースにまで!プリントされており、Bunkamuraさんの本気度を見た気がします。
これはうっかり散財の危機。

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もちろん、私の財は散りました。美術館Tシャツとは思えない可愛さなので売り切れていたらごめんなさい!

猫好きレベルがラスボス級の猪熊弦一郎による猫画で、あなたの身も心も頭の中も猫まみれになってみませんか。猫好きにジョブチェンジする道は一方通行です。戻れないことを覚悟の上、参加してくださいね。

■「猪熊弦一郎展 猫たち」
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_inokuma/