「猫の島」とも呼ばれた、瀬戸内海に浮かぶ真鍋島(まなべしま)をご存じでしょうか?
一時は「住民の数よりも猫の数のほうが多い」ともいわれるほどの猫の楽園でした。
昭和初期の漁村の風景が残る真鍋島は、全国の真鍋姓発祥の地といわれていたり、映画のロケ地になったりと、話題に事欠かない離島。
しかし近年はめっきり猫の数が減ってしまったという噂もあり……真相を確かめるため、実際に真鍋島に行ってみることにしました。
真鍋島ってどんな場所?
瀬戸内海に浮かぶ真鍋島は、岡山県笠岡市の笠岡諸島に属する島。周囲 7.5kmほどの島に、180人ほどの人々が暮らしています。
平安時代、この島に藤原氏の一族が水軍の拠点を置いて真鍋氏を名乗り、周囲の島々を支配下に収めていたという説もあり、笠岡諸島のなかでも特に歴史やいわれのある島です。
戦前からの古い漁村のたたずまいを残していることから、岡山県が「ふるさと村」に指定。「瀬戸内少年野球団」など、映画のロケ地にもなったレトロな風景の数々に出会えます。
また、一時期は300匹以上の猫が住む「猫の島」でもありました。しかし2015年ごろに猫が急激に減ったこともあり、近年真鍋島を訪れた旅行者からの「猫がいない」という口コミもありました。
果たして、真鍋島は現在も「猫の島」なのか……真相を確かめるべく、真鍋島に行ってきました。
真鍋島へのアクセス
真鍋島への起点となるのが、JR山陽本線笠岡駅。笠岡駅から徒歩5分ほどの笠岡港から、三洋汽船が運航する旅客船(笠岡~佐柳本浦航路)で真鍋島に行くことができます。
真鍋島に行く旅客船には高速船と普通船の2種類があり、高速船で所要約45分、普通船なら70分ほどかかります。
笠岡港と真鍋島を結ぶ船は1日8本程度なので、次の船まで2時間以上の間隔が空くことも。
真鍋島に行くときは、どの船に乗ってどの船で帰ってくるのか、あらかじめ計画を立てておきましょう。
真鍋島に行ってみた
筆者は倉敷観光の後、福山に行く途中に真鍋島に立ち寄ることに。日程に余裕があれば、岡山県内の周辺の観光スポットとセットで訪れるのがおすすめです。
笠岡駅に到着したら、駅のコインロッカーで荷物を預け、地下道や歩道橋を通って笠岡港を目指します。港にもコインロッカーはありますが、途中階段を上り下りする箇所があるので、荷物はできれば駅で預けてしまったほうがいいでしょう。
笠岡港の建物はとても新しくきれいで、お手洗い、自動販売機、待合室などがあり、快適に船を待つことができました。
渋い字体で「ぷりんす」と書かれた小さな旅客船で、真鍋島に向けて出航です!
笠岡駅から笠岡港までの道のりでも感じたことですが、船内もローカルなムード満点。平日だったこともあってか、船の乗客には観光客とおぼしき人はほとんどおらず、船に乗った時点で地元の人の生活空間に迷い込んだかのような感じがします。
行きは普通船だったので、70分かけて真鍋島の本浦港に到着。実は筆者も離島の住人なのですが、普段は70分も船に乗ることはないので、なかなか遠く感じました。その反面、10分、15分で気軽に行ける場所ではないからこそ、到着したときの「はるばるやってきたなぁ~」という感慨はひとしおです。
第一島猫発見も、猫がいない!?
到着した真鍋島は、「ひなびた漁村」という表現がぴったりの雰囲気。港も旅客船用の小さな桟橋があるだけで、大型フェリーが行き交う島とは大違い。「わぁ、本物の離島にやってきた!」という感じです。
そうそう、今回は猫との出会いがお目当てでした。
「猫はどこ?」と桟橋の前の島のメインストリートらしき道を歩いていると、さっそく第一島猫発見。
飼い猫とはまったく違った野性味あふれるたたずまいです。
しかし、その後周辺の路地に分け入ってみても、猫がいない……!?「あれ、猫の島じゃなかったの?」と若干意気消沈しながら歩いていると、目の前を走り去る白い影。と思ったら、すばしっこく側溝の下に隠れてしまいました。
ところどころで猫を見かけるものの、少しでも近付くと逃げてしまう子が多いので、近付いて写真を撮るのは至難の業です。「真鍋島の猫は臆病な子が多いのかなぁ~」とがっかりしつつも、気を取り直して島の散策を楽しむことに。
海沿いの道を歩いていると、突然「ガサッ」という物音がして驚いて振り返ると、物音の主は猫。漁師さんの網などが置いてある場所を休憩場所にしているのか、いきなり数匹の猫たちに遭遇しました。
わが道を行く、真鍋島の猫たち
面白いもので、一度物怖じしない猫に出会うと、その後も行く先々で猫との出会いが。島に着いた直後に遭遇した猫たちと違って、近づいても逃げません。堤防をバックに歩く猫の姿、なんとも絵になりますね。
真鍋島には、無条件にすり寄ってくるような甘えん坊の子はあまりいませんが、若干の警戒心を見せつつも人間に興味がある、そんな感じの猫たちが多いように思いました。飼いならされていない、「わが道を行く」タイプの野良猫が好きな人にはたまらないのではないでしょうか。
この表情、「簡単には丸め込まれないぞ」という気迫を感じませんか?
島内を散策して本浦港周辺に戻ってくると、小さな祠周辺でくつろぐ猫たちの姿が。
この座り方、くつろぎ度100%ですよね。家で野球観戦でもしながらビールを飲んでいるお父さんのよう。
ご覧の通り、近づいて写真を撮っても、一切警戒心を見せません。野性味を残す猫が多い真鍋島でも、港周辺の人目にふれやすい場所にいる子たちは、人間が近づいてもどっしりと構えているよう。人間といっしょで、同じ場所に住んでいても色んな性格の子がいるんですね。
1時間半で15匹の猫と遭遇
本浦港の前のメインストリートから伸びる路地に再び入ってみると、なぜか猫たちが大集合。同時に5~6匹の猫たちとふれあうことができました。
この通りで定期的にエサをやっている人がいるのか、ここにいる猫たちは人が来ると「ご飯をくれる」と期待しているようでした。ちなみに、真鍋島では観光客によるエサやりは禁止されています。
結局、真鍋島では正味1時間半ほど歩いて15匹ほどの猫に会うことができました。1時間半の散歩で15匹の猫に会える場所はなかなかないので、真鍋島は今も「猫の島」だといえるでしょう。
「猫の島」というと、港の堤防に、海をバックにして猫たちが座っているようなイメージはありませんか?残念ながらそんな都合のいいシーンに出くわすことはありませんでしたが、固定化されたイメージとは違った島猫たちの姿を写真に収めることができました。
実際に真鍋島を歩いてみてわかったことは、真鍋島の猫は比較的警戒心が強い子が多いけれど、そうでない子もいるということ。また、「この場所に行けばたくさんの猫に会える」というお手軽なスポットがあるわけではなく、集落の散策を楽しんでいると自然と猫に遭遇できるということです。
さっきは全然猫がいなかった場所に戻ってみると、急に猫が集まっているということもあるので、猫たちとの出会いはまさに「一期一会」ですね。
映画のロケ地から瀬戸内海の絶景まで
真鍋島を訪れたら、猫たちとのふれあいだけでなく、島の風景や歴史もあわせて楽しみたいもの。時間が止まっているかのようなノスタルジックな町並みから、真鍋島は何度か映画のロケ地にもなっています。
1984年公開の映画「瀬戸内少年野球団」のロケ地として知られるのが、真鍋中学校。1949年に建造された、現役の木造校舎なんです。全国に戦前・戦後の木造校舎が残されていますが、現役の校舎として使われているのは非常に珍しく、貴重な存在。
瀬戸内の島にやってきたからには、瀬戸内海の絶景も拝んでおきたいですよね。真鍋島には笠岡諸島が一望できる城山展望台があるんです。
真鍋島の最高峰だけに、行くにはちょっぴり覚悟がいりますが、本浦港から歩いて行ける距離。ほとんど誰とも出会わない坂道をひたすら歩くのですが、舗装されていない箇所も多いので、歩きやすい靴が必須です。
息を切らしながら歩き、ようやく展望台に到着!
展望台からは、手つかずの緑が残る、笠岡諸島の絶景が広がっています。ここまで歩くのはちょっとしんどかったですが、この景色を目にすれば、来た甲斐があったというもの。周囲には誰もおらず、心安らぐ瀬戸内の風景をひとり占めすることができました。
おわりに
一般的には「猫の島」として知られる真鍋島ですが、ここには野性味ある猫たちとの出会いだけでなく、豊かな自然やなつかしい風景など、知られざる魅力があります。
木造の古い家並みといい、ほとんど人の往来がない路地といい、時間が止まってしまったかのような不思議な感覚を味わえた島旅でした。