140円のきっぷで2日かけて1,035km移動してみたら普通に地獄だった【年越し最長大回り】

JRの運賃特例を利用した「大回り乗車」にライター・patoが挑戦。大晦日から元旦にかけての2日間しか開かれないという幻のルート「年越し最長大回り」に挑みます。改札内滞在時間は約35時間。140円のきっぷ一枚で1,035.4kmを移動する地獄のような行程を、旅の記録にアプリ「駅メモ!」を使用しながらレポートします。(読了目安時間:30分)

※本記事は『駅メモ! – ステーションメモリーズ!-』の提供でお送りいたします。

この記事は2017年の年末から新年にかけて取材されました。もっと早く公開したかったのですが、編集部の手によって過酷な旅に駆り出されていましたので、桜の季節も過ぎたというのに公開が本日になってしまいました。どうか1月4日くらいに読んでいる気持ちになってお楽しみください。

2017年12月31日 大晦日

4:37  JR北小金駅(千葉県)

まだ真っ暗の早朝ですが、みなさんおはようございます。本日は12月31日大晦日、いうまでもなく2017年最後の日です。場所は千葉県松戸市小金にあるJR北小金駅というところです。常磐線の途中にある小さな駅で、駅前にいくつかお店がありますが、基本的には住宅の立ち並ぶ静かな場所です。まだ朝早いので人の姿もまばらといったところでしょうか。

さて、こんな大晦日という掛け値なしの年の瀬、それもこんな早朝、おまけに千葉県の北小金駅という場所、なんでこんなところに佇んでいるのか僕自身も理解不能なシチュエーションで、あらゆる面が不可解なのですが、なにがどうなってこんなことになってしまったのか、順を追って説明したいと思います。

まず、皆様は「大回り乗車」というものをご存知でしょうか。今回はこれが重要なカギとなってきますので、ちょっと大変ですが説明を聞いてください。

【大回り乗車】
正確にはJRにおける「大都市近郊区間内相互発着の普通乗車券及び回数乗車券における特例」を使用した大回り乗車、というものになります。すごく長い名前なので、以後は単に「大回り乗車」と呼ばせていただきます。かいつまんで説明すると以下のようになります。

一般的に、鉄道の運賃は乗った距離に応じて支払う必要があります。A駅からB駅に移動した場合、A駅とB駅間の距離に応じて料金が算出されます。これが一本道の路線なら良いのですが、例えばA駅からB駅に行くにはCという駅を経由して行かなければならない場合、A駅からC駅までの距離に応じた運賃とC駅からB駅までの距離に応じた運賃が必要になります。

では、A駅からB駅に行くのに、真っすぐそのまま行く路線と、C駅を経由する路線、どちらも選べるとしたらどうでしょうか。そう、これは実際に乗車した路線の運賃が必要になります。C駅経由が遠回りになるとしたら、おそらく経由した方が高い料金になりますが、実際に乗車したのですから距離に応じた運賃を支払う必要があります。短い経路があるからといって安くなるわけではありません。

さて、このように鉄道においては実際に乗車した距離に応じて運賃を支払う必要がありますが、これが複雑な路線で構成される大都会の鉄道だったらどうでしょうか。

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これは東京近郊のJR路線図です。また同時に上記の特例が適用される東京近郊路線でもあります。かなり網の目のように鉄道が伸びていることが分かると思います。この図を作っていて発狂するかと思いましたからかなりのものです。では、この図において新宿駅から東京駅に行く場合を考えましょう。

これは普通に考えて中央線で行く方法が最も距離が短く手軽になりますが、山手線を経由する方法もあります。それどころか、ちょっと普通に考えてやらないような異常な遠回りまで使えば、かなりのパターンがあることがわかります。無数とは言いませんが、それでもかなりの数があると言えます。

本来なら、このように多数存在する経路において実際に乗車した区間の料金を支払うべきですが、残念ながらどのルートで来たのかを証明する手立てがありません。これらの証明には全ての乗換駅で改札を通らせるか、全ての列車内で切符をチェックする必要があります。設備も必要になりますし、駅員の仕事も煩雑になり、とてもじゃないが現実的であるとは言えません。

じゃあ、もう経路が複雑になる大都会に限り、乗った駅と降りた駅で運賃を決めよう。その間の経路は自由に選択できることにしよう、運賃は一番安い経路で取ろう、というのがこの特例なのです。そういった経緯を経て乗った駅と降りた駅だけで料金が決まるようになったのです。設備も必要ないし、煩雑な作業も必要ありません。同様の特例は大阪近郊、福岡近郊、新潟近郊、仙台近郊にあります。いずれも、複数の経路が選択可能な路線を有する地区にこの特例があります。

ただし、この特例にも大きな縛りが3つあります。順を追って説明しましょう。

初めに、当たり前ですが定められた特例区間だけにしか適用されないという点です。特例区間を飛び出して乗車した場合、この特例は適用されません。

次に、途中下車できないというルールがあります。途中の駅で改札を抜けた場合、当然ながらそこまでの運賃が必要となります。再度乗車しようと改札を抜けると、そこからの運賃が発生します。特例を利用するならば改札を抜けてはいけないという当たり前の縛りがあります。

そして最後の一つですが、「経路が重複してはならない」というルールがあります。これが一番大切。単純に言ってしまえば、乗る駅と降りる駅で料金を決めているのだから、好き放題に乗った後に目的の駅で降りればいいや、と端の方まで行って戻ってきたりだとか、同じところを何度も往復したりだとか、そういったことができないようになっています。基本的に、一度通った駅は二度と通れません。逆を言えば、重複しないならどんなルートを通ってもいい、ということです。

以上が特例適用のルールになります。このルールを踏まえて「大回り乗車」という考え方が編み出されるようになりました。

【最長大回り】
こういった事情を踏まえて、鉄道ファンも色々と考えるもので、同じ駅を2回通らない一筆書きの路線で、どれが大回り最長の路線かという議論になってきます。まず、他に逃げ道のない袋小路な行き止まり路線は、戻る時に必ず同じ駅を通ることになりますので対象から除外されます。そうなると下図の路線が使えるようになります。

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これらがループ形状になっている路線ですのでこれらの中であらゆる組み合わせを検証し、最長となる組み合わせを発見した方がいたようなのです。それが「最長大回り」という経路です。

そのスタート地点として有名なのがここ「北小金駅」だったということのようなのです。そして、目指すゴールは2駅隣の「馬橋駅」です。たった2駅で140円の区間ですが、それを狂ったように大回りし、1,035kmを移動した上で到達する、まさに狂気というわけです。

【年越し最長大回り】
これで、大回り乗車という特例と、最長大回りという概念を理解していただけたかと思います。しかしながら、上記の北小金から馬橋までの2駅なのに1,035kmルート、残念なことに机上の空論であるという側面があります。

あまりに長い経路ですので、始発から終電までぶっ続けで乗車しても乗りきれないという問題を含んでいるのです。通常の切符は有効期限が1日ですので、なにをどう頑張っても馬橋駅に到達できないのです。乗りきれなかった場合はそこまでの運賃を支払う必要があるので、とてもじゃないが140円で1,035 kmなんて達成できません。

しかしながら、1年の間で唯一、切符の有効期限が2日間に及ぶ日があります。それが大晦日から元日にかけての期間、そう、今この時なのです。この日は、特定の区間において初詣の参拝客や初日の出鑑賞の人に向けて終電後にも列車が動く終夜運転が実施されています。普段みたいに終電がない区間がありますから、通常なら終電までとされる切符の有効期間がややこしくなります。ならばもう、大晦日と元日は切符の有効期限を2日間にしちゃえ、ということなのです。つまり、大晦日の切符は元日の終電まで有効、ということなのです。

乗りきれない140円最長大回りルートですが、この大晦日から元日にかけてのみ、切符が2日間有効ですから乗車が可能となるのです。すごい、特定の日だけ現れる伝説のルート、太陽の傾きである1日だけ秘密のルートが指し示されるマヤ文明のピラミッドみたいだ。

ということで、なぜ大晦日の朝に、なぜ北小金駅にいるのか理解していただけたかと思います。そう、これから2駅隣の馬橋駅まで1,035kmを旅してくるのです。大晦日と元旦にしかできないルートですから、こんなクソ年の瀬に来るはめになったのです。完全に狂気の沙汰というほかない。

ただ、話はそこで終わりません。なぜこんな旅をするに至ったのか、そこの部分に触れなければなりません。僕は別に年越し大回りなんてそんなにやりたくない、なのになぜこんな場所にいるのか。

あれは12月に入ったばかりの頃だったでしょうか。師走になり、慌ただしく踊る街を誰もが好きになった頃のことでした。SPOT編集部からこんなことを言われたのです。

編集部
「patoさん、大回り乗車って知ってますか?」

pato
「ああ、知ってますよ。(といいつつ知らなかったので検索をかける)。そうそう、色々なパターンがあるんですね、どれも大変そう」

編集部
「その中でも大晦日と元日しか行けない”年越し最長大回り”ってあるじゃないですか」

pato
「まってください! 僕それ、行きませんよ。今日こそはハッキリ言わせてもらいますけど行きませんよ。なにせ大晦日は絶対に紅白歌合戦を見るって決めているんですから」

僕はどうしても紅白歌合戦を見たかったし、大晦日の雰囲気を満喫したかった。続いて年が明けた後のお正月感満載みたいな空気を楽しみにしていたんです。だから、絶対に年越し最長大回りなんてしたくなかった。いつまでも言われた通り従順に旅に出ると思ったら大間違いだ。思いっきり反抗してやったぞ。ざまあみろ、編集部。

編集部
「あー、でもですね、Twitterみていたら、ちょっと年越し最長大回りで盛り上がっている鉄道ファンの方たちがいまして」

pato
「いや、絶対に行きませんから」

編集部
「その鉄道ファンたちが「年越し最長大回りは気になるけど大晦日はなあ、そうだ、patoさんに行ってもらってSPOTでレポート書いてもらいましょうw」って書いていましたよ。そこまで書かれたんですから行かないとまずくないですか?」

しらねえよ。

編集部
「まあ、そういうことなんで、行ってきてください。おねがいします。じゃ、良いお年を~」

編集部もそうだけどTwitterに書くやつもどうかしてる。なんなんだ一体。

ということで、そんな経緯があってこうして早朝の北小金駅にやってきたのです。本当に今日は暖かい部屋で紅白を見てストロングゼロ(ダブルレモン味)を飲みながら年越しをしたかったのに、なんでこんなことになってしまったんだろうか。

嘆いていても始まらないので、まずは切符を買います。窓口は開いていないので、券売機で140円の切符を買います。

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ここから馬橋駅は140円なわけですから、理論上はこれでいけるわけです。ただし、同じ駅を2回通らないようにしつつ、むちゃくちゃ大回りして1,035km移動します。すごい、1kmあたり0.13円で移動できる計算だ。

当然のことながら、まだ日の出ていない早朝なので死ぬほど寒い。おまけに何をトチ狂ったのか結構な薄着で来てしまったので突き刺さるような寒さ。自身の装備の脆弱さに早くも不安を覚えた。

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自動改札に切符を入れる。なんてことない動作だが、これが年越し最長大回りのスタートだと考えるとかなり重い行為だ。なにせ大回りは途中下車を認めていないので、こうやって一旦改札に入ってしまうと、1,035km移動してきて馬橋に到着するまで改札を出ることができない。ずっと改札の中だ。まるで自ら進んで牢獄に入る囚人の気分だ。

 

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早朝4時台という狂気の時間なのでホームに人の姿はない。この漆黒の闇をみていると、なんで大晦日の早朝からこんな場所にいるんだ、という気持ちが強まってくる。紅白観たかった。全てはTwitterに書いたやつの責任だ。迂闊なツイートが一人の人間から年の瀬の温もりを奪い取り、地獄に叩き落す。しっかり反省して欲しい。

さて、ついに旅が始まるわけだが、今回もきちんと移動してきた証拠に駅メモを使用しろと仰せつかった。僕の場合、本当に紅白を見たい気持ちが爆発し、大回りしたことにしてネットで拾った画像を繋ぎあわせて旅行記を書きかねないので、裏付けとなる資料として駅メモを使用することとなった。

駅メモ!-ステーションメモリーズ
https://ekimemo.com/
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「おでかけをもっとたのしく。」をコンセプトにした位置ゲーム。スマホなどのGPS機能を利用し、その場所の近くにある駅を集めることを目的にしている。対象は全国9000以上の駅であり、駅の争奪ゲームとしても楽しめるが、旅行などの移動記録としても楽しめるアプリである。このたび3周年を迎えてますますパワーアップした。

この駅メモ!に搭載された「チェックイン」という機能を使用すると、その時点で最も近くにある駅にチェックインすることができる。

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画面右下のチェックインボタンを押して、現在いる「北小金」の駅を取っている。要はこれを大回り中に繰り返せば良い。これらのチェックインはあくまで「現在地から最も近い駅」を取るため、別に停車駅でなくても取れる。走っている最中にチェックインして通過駅を取ってもいいし、隣の路線の駅を取ってもいい。地下鉄や私鉄の駅ももちろん可能だ。つまり、大回り乗車だけでなく、乗車中も気を抜くことなく、常にチェックインを連打していろ、ということなのである。ほんと、SPOT編集部に彗星とか堕ちたりしねえかな。

画面下にいる女の子は「でんこ」という存在だ。この「でんこ」によって駅の取り合いをしたり、スキルを発動したりする。もちろん、駅を取るほど「でんこ」のレベルが上がるので駅を保持しやすくなる。「でんこ」のチョイスはかなり重要だと言える。今回は以下の「でんこ」を旅のお供としてチョイスした。

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シーナ。日本製スイス育ちの「でんこ」。ということらしい。なぜ彼女をチョイスしたかというと、衣裳が赤と白だからだ。紅白を観たい、という僕の心の叫びを表現するにピッタリの「でんこ」だ。一緒に頑張っていこう。

 

4:54発 常磐線 我孫子行き

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まず、馬橋駅とは逆方向に進んで友部という駅を目指すべきなので、我孫子行きの列車に乗った。

車内には大晦日の早朝という時間であったのに結構な乗客の人がいた。そのほとんどが大晦日も正月も変わることなく働く人たちのようだった。僕も同じだよ。

 

5:00 柏駅(千葉県柏市)

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チェックインした駅
北小金、南柏、柏
(3駅/累計3駅)

とりあえず、乗っていた電車は我孫子までしか行かないっぽいので、柏駅で降りて乗り換えることにした。5:38の勝田行きまで30分以上の待ち時間だ。ホームには同じ考えなのか何人かまばらに人が立っていた。

かなり気温が低く、おまけに人もまばら、それでいて次の電車まで30分くらい待ち時間がある、何もすることがなくてけっこう暇、と初っ端からなかなかの試練を与えられている。あまりにもすることがないので、ホームに立つ他の面々を観察してみた。

寒くて何もすることのないホームに30分も立っていようという面々なので、それなりに間抜け面に見える。中でも二つ隣のサラリーマン風の人が、誰にも見られていないと思っていたのか突如としてロボットダンスを始めたのでビックリした。

しかもけっこうなクオリティで、完全にいますぐサラリーマン辞めてロボットダンス一本で食っていくことが可能なレベルのロボットだった。最新鋭のロボットが早朝の柏駅に紛れ込んだのかと思った。

ただそのロボット、僕に凝視されていることに気が付いたのか、恥ずかしそうな顔をしてスーッとロボットの動きから人間の動きに戻っていた。なんか、人の心を持たないアンドロイドが人間の感情を理解しようとして、それでも理解できなくて、苦しんで、それでも理解できなくて、「ナミダトハナンデスカ」とか言っていたんだけど、生みの親であるハカセが死んだとき、涙がこぼれてきて「コレガ……ナミダ……カナシイ…キモ…チ…オモイヤル…キモチ」ってなった瞬間を見たような気がした。

最後はハカセの墓の前でバッテリーが切れるんだ。供えられた花が朽ちていって、でもロボットだけは朽ちることなく墓の横にあって、泣ける、とか考えていたら、あっという間に30分過ぎたらしく、ホームに人が増えてきて活気が出てきた。いよいよ電車が来るようだ。

 

5:38 常磐線 普通 勝田行き

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電車に乗り込むと乗客はまあまあ少なかった。閑散としていると表現しても良いレベルだった。人が少ないと寒く感じるもので車内はかなり冷える。この車両だけ暖房がぶっ壊れているんじゃないかというレベルで寒い。あまりの寒さに僕の向かいに座っていたB’zのギターっぽい人が「寒すぎだろ」と思わず呟いていたので、その寒さレベルが窺い知れる。B’zすらも我慢できないツンドラ列車だ。

ここからはかなりのロング乗車となりそうなので少しでも仮眠をとりたいと思うのだけど、寒いわ、駅メモのチェックインをしなきゃならないわ、で全く休むことができなかった。相変わらず地獄のようなルールだ。

 

6:44 友部駅(茨城県笠間市)

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チェックインした駅
北柏、我孫子、天王台、東我孫子、取手、藤代、佐貫、牛久、ひたち野うしく、荒川沖、土浦、神立、高浜(茨城)、石岡、羽鳥、岩間、友部、宍戸
(18駅/累計21駅)

茨城県まで来てしまった。さて、ここから先に常磐線をつき進んでいくと特例適用路線的には袋小路になり、行き止まりになってしまうのでここで水戸線に乗り換えて小山を目指さなければならない。ホームには既に水戸線の列車が待ち構えていた。

 

6:48発 水戸線普通 小山行き

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乗客はかなり少なかった。やはり大晦日の朝っぱらから友部から小山を目指す人はそうそういないようだ。最初はちょっとした街の中を走っていたが、すぐにカントリーな景色に変わっていった。僕の向かいに座っていたちょっと頑張って不良っぽい私服を着てみましたって感じのメガネ男子中学生が友部を出発してからずっと鼻をかんでいた。

なぜかボックスティッシュを小脇に抱えていて、鼻をかむぞ! という本気の気概みたいなものを見せつけていた。こりゃ相当な勢いでかむ気ですなと予想し、友部駅からずっと回数を数えていたら、終点の小山まで244回かんでいた。いくらなんでもかみすぎ。もう出るものなくなって脳髄とかでてるんじゃないかと思った。

 

7:51 小山駅 (栃木県小山市)

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チェックインした駅
笠間、稲田、福原、羽黒(茨城)、岩瀬、大和(茨城)、新治、下館、玉戸、川島、東結城、結城、小田林、小山
(14駅/累計35駅)

東北新幹線の停車駅でもある小山駅はかなり大きな駅だ。千葉から始まり茨城を経て早くも3県目である栃木県入りだ。できることならここから新幹線に乗ってサクッと東京に戻り紅白を観たいところだが、そうはいかないっぽいので次の乗り換え列車に向かう。

そういえばまだ朝食を食べていないのでなんとかしなければならない。大きな駅なので改札の外に出れば朝食を提供している店は沢山あるのだろうけど、この大回り乗車では一歩たりとも改札の外に出てはならないのだ。まるで鳥籠に囚われた小鳥のようだ。

 

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大きな駅なので改札の中にもちゃんと店がある。ここで朝食をとることにした。

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ここは電源も完備している席があった。スマホの充電がかなり心許ない僕にとってかなりありがたい存在でしっかりと充電させてもらった。別に先を急ぐ旅でもないので、ここでゆっくりと過ごし、がっつりと充電させてもらった。

 

8:45発 両毛線 普通 高崎行き

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カフェで1時間くらい過ごしてしまった。ここからは西へと伸びる両毛線で群馬県高崎市を目指す。早くも4県目である群馬県、とんでもない大冒険だ。

 

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かなりカントリーな風景の中を走っていく。途中、岩舟という駅に停まった。どこかで聞いたことある駅だなーと思いながら記憶を辿ってみると、パッと思い出した。この駅は新海誠監督作品「秒速5センチメートル」に出てくる駅だ。引っ越した女の子に会いに行くために貴樹くんが降り立った駅だ。作品中では駅員がいる描写だったが、残念ながら現在は無人駅となっているらしい。ただ駅舎の雰囲気はそのまま残されているようだった。

貴樹くんのように好きな子に会いに行くために長時間乗車することは素敵だが、Twitterに書かれたからという理由で長時間乗車している僕はあまり素敵ではない。

かなりの田園地帯を通り抜けながら列車は高崎駅へと到着した。

 

10:50 高崎駅(群馬県高崎市)

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チェックインした駅
思川、栃木、大平下、静和、岩舟、堀米、佐野、佐野市、富田(栃木)、県、福居、足利、足利市、山前、小俣(栃木)、桐生、下新田、岩宿、国定新伊勢崎、伊勢崎駒形、前橋大橋、城東、前橋、新前橋、井野(群馬)、高崎問屋町、北高崎、高崎
(30駅/累計65駅)

実に2時間も乗車していた。かなり長い路線だ。あまりに乗りすぎて頭がクラクラしてきた。大晦日になにやってんだ、僕は。

次はここから大宮を目指すのだけど、ちょっと待ち時間があるみたいだ。なんとかして時間を潰さなければならない。

 

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改札の向こうは賑やかそうだ。是非とも行ってみたいけどあいにくそれは許可されていない。まるでトランペットに憧れるスラムの少年みたいにジッと改札の向こうを眺めていた。

 

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改札内にソバ屋があった。そうだよ、ついつい忘れがちになるけど今日は大晦日なんだよ。紅白も観ることができない、ゆっくりと「ゆく年くる年」を観ることもできない、そんな状況だけど大晦日なんだよ。年越しなんだよ。ここは一発、年越しソバを食べるしかない。そうだろ?

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よし。これでやっと年越しらしいことをできた。いつ正月が来ても怖くない。

 

11:14発 高崎線 特別快速 小田原行き

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この電車凄まじいな。大宮から新宿に抜けて横浜と、あちこちの線に乗り入れして小田原まで行くらしい。とんでもない長さだ。これに乗って大宮を目指す。

車内では、ほんわかした親子が会話していた。

「今日の紅白楽しみだねえ」

「アムロちゃんみたいねえ」

「ジョン健ヌッツォはでないのかなあ」

「でないかねえ」

たぶんでないと思う。

安室ちゃんはわかるけど、なんでそこでヌッツォの名前が出てくるのかさっぱり理解できない。ヌッツォが紅白に出たのは2002年と2004年です。娘の方なんて生まれてすらいないだろ。なんだろう、親子でめちゃくちゃファンなのかな。

 

12:26 大宮駅(埼玉県さいたま市)

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チェックインした駅
佐野のわたし、吉井(群馬)、南高崎、倉賀野、北藤岡、新町(群馬)、新保原、本庄、本庄早稲田、岡部、深谷、籠原、上熊谷、熊谷、ソシオ流通センター、行田、吹上(埼玉)、北鴻巣、鴻巣、北本、桶川、北上尾、上尾、宮原、加茂宮、北大宮、大宮(埼玉)
(27駅/累計93駅)

さて、ここ大宮駅も埼玉県の交通の要所となる重要な拠点でかなり大きな駅だ。改札内でもかなり店があり、人でごった返していた。

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ちょっと買い物に大宮に来た、という場合でも下手したら改札から出ることなく欲望が満たされてしまう可能性がある。それくらい多種多様の店舗が改札内にある。

 

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メガネ屋もある。たとえ大回り乗車中に急速に視力を失いつつあっても、改札を出ることなくメガネを作ることが可能である。すごい。

 

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大晦日であっても人が多い。むしろ、大晦日だからこそこれから帰省する人などで人が多いような印象を受けた。みなさんこぞってお土産物などを購入していた。

 

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けっこうな数の店舗があって迷ってしまう。この中でどの店舗を訪れるべきか。さんざん迷った上でこの店に決めた。

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年越しソバを食べるしかない。

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よし。これでいつ正月が来ても怖くない。

次の電車までまあまあ時間がある感じだったので、カフェに入って時間を潰すことにした。

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改札内にあることが多いこの手のカフェは、かなり高い確率で電源がある。スマホの充電が心もとなくなりがちな大回り民にとってはかなりありがたい存在だ。結局、大宮駅の改札内で1時間半くらい過ごしてしまった。ちょっとゆっくりしすぎだ。

 

13:57発 川越線 快速 川越行き

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大宮から西の川越に向かって走る。かなり住宅街的な場所を通る路線で、沿線の景色が生活感に溢れていて面白い。途中の駅での人の乗り降りも激しく、かなり都市部へとやってきたことを実感する。そんな車内で一息ついていると、途中の駅で途方もないアベックが乗り込んできた。

見るからに派手な風貌のアベックで、絶対にタトゥーとか入ってるわ、って感じだったのだけど、男のほうがラジカセ担いでドゥンドゥンと重厚なサウンドを爆音で鳴らしながら乗り込んできた。え、平成の世にこんな無法者がいるの!? 車内に緊張が走った。明らかに全員がとんでもない車両に乗りあわせてしまったと後悔した。

優先席に座ったあともアベックは重低音を奏で続け、股間にバタフライのタトゥーをしてそうな女の方が左右に体を揺らしていた。ここはニューヨークの地下鉄かな? そう思った。でも車窓を眺めると川越なんだよ。

その無法者カップルの近くに正義感の強そうなオッサンが座っていて、カップルを睨みつけていた。これは絶対に血を見るヤツだ。僕の心臓が少しだけ鼓動を速めた。オッサンがあのヒップホップ育ちみたいなやつを注意して、でも無法者は素直に聴くわけなく絶対に殴り合いになる。絶対にどちらかがノックアウトされる……! 僕、結構気が弱いんでこういう展開を見ているだけで卒倒しそうになるんですよ。怖い。できることならバイオレンスなことにならないで欲しい。

と心配してたら、正義感の強そうなオッサンも重低音に身を任せて左右に体を揺さぶっていた。ノリノリやんけ。なにはともあれ、血を見る展開にならなくて良かった。

ニューヨークの地下鉄、じゃないや、川越線を通り抜けて川越駅へと到着した。

 

14:19 川越駅(埼玉県川越市)

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チェックインした駅
栄町(東京)、鉄道博物館、日進(埼玉)、西大宮、指扇、南古谷、新河岸、川越
(8駅/累計101駅)

そんなに待ち時間もないし、おそらく改札内に店がある感じでもなさそうだったのでそのままホームで次の電車を待った。予想通りすぐに電車はやってきた。

 

14:34発 川越線・八高線 普通 八王子行き

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川越線で高麗川という駅まで行き、そのまま八高線に乗り入れて八王子まで向かう電車だ。川越を超えてから急速に景色がカントリーなものに変わっていく。早い話、田舎を走っていく。

 

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途中、横田基地の脇を通った。突如として広大な土地が現れるので結構ビックリする。ちなみに横田基地には鉄道の引き込み線がある。近くの拝島駅から分岐する鉄道によってジェット燃料を運んだりするらしい。注意深く見ているとこの引き込み線を見ることができるはずだが、あまり注意深く見ていなかったので見逃した。

八王子駅が近づいてくると、車内の外国人集団が携帯電話を取り出して大声で会話しだした。すごい勢いでまくしたてているのでまた車内に緊張が走った。何語かすら分からない呪文のような言葉、所々「ハチオウジ」だけ聴きとれる。あまりにもすごい怒号なので「これから八王子につくまでにあの向かいのデブを絞め殺す」とか僕のことを言っていたらどうしよう、と気が気じゃなかった。そう考えていると「ハチオウジ」以外にも「デブ」「チッソクシ」「シュンサツ」って言ってるような気がしてくる。絶対言ってる。こっち見てる。

 

15:42 八王子駅(東京都八王子市)

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チェックインした駅
西川越、霞ヶ関、的場、笠幡、武蔵高萩、高麗川、東飯能、元加治、金子、箱根ヶ崎、東福生、熊川、拝島、昭島、小宮、北八王子、八王子
(17駅/累計118駅)

なんとか窒息死することなく、ついに東京都入りした。千葉から始まり栃木、群馬、埼玉を経由してここまで来た。長かったけどまだまだ序盤戦という事実に震えがくる。そろそろ精神的な限界がきそうだ。

ここからは横浜線を使って南下していくのだけど、まあまあ待ち時間がありそうだ。少し空いた時間を潰すには年越しらしいことをするに限る。そう、ご名答、年越しソバだ。

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これでいつ正月が来ても怖くない。

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比較的短い間隔で3連発年越しソバを決め、さすがに気持ち悪くなってきたのだけど、これらの店、名前は違うのに券売機のフォーマットは一緒だわ、味も一緒な感じがするわ、で、たぶん大元は同じ会社がやってるんじゃないかと思った。しかしまあ、いくらんでもさすがに年越しソバ食べ過ぎた。3年先まで食べる必要がなくなった。

 

15:59 発 横浜線 普通 東神奈川行き

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ここでとんでもない非常事態が大発生した。ソバ三連星が悪かったのかめちゃくちゃお腹が痛くなってきた。これ完全に漏れるヤツだわ。どれだけ我慢しても途中で「ダメ! まだ早い!」とか言ってるのにグシャアと女王蟻の腹を突き破って出てくる王みたいなポテンシャルを持ってる。そんな腹痛だ。

車両にトイレがあるかと思ったけど、山手線スタイルの妙に都会ぶった車両だったので、トイレは望めそうもなかった。仕方がないので、まっこと不本意だけど「片倉駅」で降りることにした。八王子駅から1駅のこの駅で降りたことから、どれだけ急激な腹痛であったか理解してもらえると思う。

 

16:02 片倉駅(東京都八王子市)

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チェックインした駅
片倉
(1駅/累計119駅)

この駅がなかったら完全にやらかしてた。深い悲しみと罪を背負い禍々しいオーラと臭いを身に纏って大回り乗車をする羽目になっていた。とにかく助かった。ありがとう片倉駅。今回の旅のMVP駅だ。

 

16:12発 横浜線 快速 桜木町行き

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仕切り直しの電車に乗る。本当にこの駅があってよかった。

 

16:21 橋本駅(神奈川県相模原市)

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チェックインした駅
八王子みなみ野、相原、橋本(神奈川)
(3駅/累計122駅)

いよいよ日が暮れてきて空が暗くなってきた。こうして夜が来ると紅白歌合戦を強烈に意識する。何時から始まるか知らないけど、もう少しで始まるんじゃないかな。観たかったなあと考える。別に内容をそこまで期待しているわけではないが、暖かい部屋で紅白を見てゆったりとした時間を過ごす年越しをしたかった。ウンコ漏らす危機とかやってる場合ではない。それだけは確実に言える。

ここでも一発、年越しソバをとも思ったのだけど、さすがに懲りたので真面目に先に進むことにする。ここからは相模線で茅ヶ崎を目指す。

 

16:22発 相模線 普通 茅ヶ崎行き

乗り換え時間1分という魔の乗り替えトリックを決めた。橋本駅では横浜線と相模線に分岐するが、どちらかといえば相模線はややマイナーな路線だ。電車の本数が少ない。逃すとけっこう待たされることになるのでなんとか決めたかった。乗り込んでみると、その少ない本数の電車に乗客が集中したのか車内はやや混み合っていた。

ふと、僕の隣に座っていた3人組のことが気になった。3人組はおそらく中学生であろう男子で、なにやら楽しそうにクスクスと会話していた。

「俺は鈴木先生嫌い」

「俺も俺も」

なぜか彼らは学校の先生の話題で盛り上がっていた。

「俺は鈴木先生は好きでも嫌いでもないけど、けっこうムカつく」

それは嫌いということではないか。

「鈴木先生、噂ではすげーかわいいって聞いてたから結構期待していたのに、そうでもなかったよな」

けっこう言いたい放題である。

彼らは電車が出発する頃にはなぜかトランプを出して大富豪で盛り上がっていた。こういった日常で使う電車内でトランプをしてはしゃぐということはあまりない。もしかして彼らは遠出をしてきていてそのテンションでトランプをしているのではないか。よくよく見ると傍らに置かれた彼らのリュックも、まあまあの厚みをしている。もしかしたら彼らなりのジャーニーを経てここに到達しているのかもしれない。そんなことを考えていたら彼らの衝撃的な会話が耳に入ってきた。

「だからさ、北小金駅は有名なの、スタート地点として。それっぽい人たくさんいたじゃん」

「なるほどね。同じことする人もいるわけか」

3人組のリーダー格の少年がそう言った。聞きなれた「北小金駅」という名称。そう、この大回り乗車のスタート駅の名前だ。こ、こいつら、年越し大回り乗車をしてやがる。絶対に同業者だ。

この年越し大回りは、実は途中のある駅で数時間足止めを喰らうことが確定的になっている。つまり、スタートの列車が同じで、同業者たちはみんな足並み揃えて移動、という種類の旅ではない。ある時間までにその足止め駅に到達してしまえばいいので、そこまでの旅程はかなり自由度が高い。結構遅めに出発しても良いし、途中で時間を潰してもいい。年越しそばを3回食べてもいい。だから僕もカフェでゆっくり過ごしたりしていた。

そういった事情もあってここまで全く同業者らしい連中に遭遇しなかったが、ついにここにきてエンカウントしてしまったのだ。しかもそれがこんな若いキッズたちとは思わなかった。

「だからさ、次は大船までいって」

と彼らの作戦会議を盗み聞きする。やはり僕のプランと同じだ。絶対に同業者だ。まさかこんな中学生まで年越し大回りをしているなんて。完全に将来有望な剛の者キッズじゃないか。

 

17:17 茅ヶ崎(神奈川県茅ケ崎市)

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チェックインした駅
南橋本、上溝、番田(神奈川)、原当麻、下溝、相武台下、入谷(神奈川)、海老名、厚木、社家、門沢橋、倉見、宮山、寒川、香川、北茅ヶ崎、茅ケ崎
(17駅/累計139駅)

ここが折り返し地点となる。ここより南にも西にもいかず、都心へと向かうことになる。いつの間にか完全に日が暮れて真っ暗になっていた。

 

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小腹が空いてきたのでコンビニに行きたかったのだけど、改札の向こうなので行けない。行ってはいけない。仕方ないので泣く泣く断念することになった。

ここからは東海道線を利用することになるが、さすが日本の大動脈とも呼べる路線だ。電車の車両も多いし、なにより本数が多い。ホームにも沢山人がいて利用客がかなり多いことが伺える。

ホームには先ほどの剛の者キッズたちもいた。当たり前だけどやはり同じルートでいくんだな、確定的に同業者だ。

 

17:21発 東海道線 快速 高崎行き

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2017年も残すところ6時間半ほどだ。車内はそんな事情一切無視で、普段と変わりない様子であまり年の瀬感はない。ただ、何組かのカップルがこれから年越しイベント的なものに行くのかウキウキしていた。そういった浮ついた空気がほのかに漂っていた。

 

17:32 大船駅(神奈川県鎌倉市)

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チェックインした駅
辻堂、本鵠沼、藤沢、湘南町屋、富士見町(神奈川)、大船
(6駅/累計145駅)

このまま東海道線に乗って横浜方面にいきたいところだが、根岸線に乗り換えた方が距離を稼げるようなので乗り換えを決行する。いつのまにかキッズたちとはぐれてしまって姿が見えなくなっていた。まあ、どうせ同じ電車には乗っているんだろう。

 

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大船駅の改札内もかなり豪華で、かなり店舗がある。おまけにちょっとレトロ風の通路があったりして、改札を出なくともショッピングを楽しめそうな雰囲気がした。ソバでも食ってやろうかなって思ったけど、さすがに3連発がまだ尾を引いていて気持ち悪いのでやめておいた。腹痛も怖いしね。

 

17:38発 根岸線 普通 南浦和行き

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東海道線よりも磯子を経由する根岸線の方が少しだけ距離が長い。この電車を待ってホームに立っている時に寒さが臨界点を超えたらしく、自分でも抑えられないくらい激しい震えがきた。つくづく薄着できたことを後悔した。冬でも半ズボンの季節感のない小学生みたいじゃないか。

車内もけっこう寒かった。これから夜が深まるともっと寒くなるはずだ。生き残れるのだろうかと少し不安になった。

 

18:18 鶴見駅(神奈川県横浜市)

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チェックインした駅
本郷台、港南台、洋光台、杉田(神奈川)、新杉田、磯子、根岸(神奈川)、山手、石川町、関内、桜木町、高島町、横浜、神奈川、東神奈川、仲木戸、子安、新子安、京急子安、生麦、花月園前、京急鶴見、鶴見
(23駅/累計168駅)

横浜駅を通り過ぎて鶴見駅で降りる。

ここからは鶴見線と呼ばれる路線に乗り換えることになる。実はこの鶴見線およびその沿線、一部では都会の秘境とまで呼ばれる路線なのである。その大部分が埋立地に建てられた工業地帯を走ることから、生活感がなく、人の気配もないどこか寂しい景色が延々と続く路線であることが原因だ。朝夕のラッシュ時以外はほとんど乗客がいないことからそう呼ばれている。

さすがに普段からも人の気配がないのに、大晦日のこの時間は完全に無人だろうと思いつつ、都会のローカル線へと向かう。

ここ鶴見駅には一つ、予想だにしていなかった大きなトラップが存在していた。

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なんと、鶴見線ホームに向かう通路には自動改札が威風堂々とそびえ立っていた。我々の行く手を阻むかのように鎮座しておられた。普通に考えて乗り換え用の改札なのでなんてことはないのだけど、大回り乗車中となると話は変わってくる。別にキセル乗車しているわけではないので恐れることはないが、たぶん自動改札は大回り乗車に対応していない。北小金から140円の切符!? ふざけんな、桁がたりんわ、と追い返されるに決まっている。

ビクビクしながら切符を入れてみると、リンゴーン! とすごい音が鳴って門が閉ざされた。やはり対応していない。

こういう場合は、駅員さんのいる改札で大回り乗車中であることを説明して通過するべきなのだけど、なんと、この改札には駅員さんがいない。なんというトラップ。これではこれ以上進めなくなってしまう。

 

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ちょっと慌てふためいてしまったが、自動改札から少し離れた、すごく分かりにくい場所、忍びが使う隠し通路みたいな場所に駅員さんがいる改札があったので、そこで「大回り乗車中です」と宣言して通過した。ここはちょっと分かりづらくてかなりビクビクした。

 

18:22発 鶴見線 普通 海芝浦行き

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本当に都会のローカル線、都会の秘境線の名前は伊達じゃない。2両か3両の電車だったが、乗っているのは僕だけだった。そりゃあこんな大晦日の夜に埋めたて地の工業地帯に行くやつなんていない。

おまけに僕は何の考えもなしにやってきた電車に乗ったけれども、この電車の終点である「海芝浦」まで行ってはだめみたいだ。海芝浦は完全に支線なのでそこで行き止まりとなってしまう。逆方向の電車で戻っても駅を重複して通過することになるので大回り乗車失敗となる。つまり他の大回り同業者は別の電車に乗るプランなのだろう。だから車内に僕一人、なんていう状態になっている。とりあえず、修正の効く駅で降りて別の電車を待つことにする。

 

18:29 浅野駅(神奈川県横浜市)

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チェックインした駅
国道、鶴見小野、浅野
(3駅/累計171駅)

本当に何もない駅だった。人気のない闇の向こうに工場群の明かりだけが見え、謎の機械音が響くという、ファイナルファンタジー7の最初の方みたいな光景が広がっていた。完全なる無人駅で本当に人の気配がしない。この世界に僕一人と錯覚するほどだ。大晦日の夜になんでこんな場所にいるんだという気持ちが強まってくる。

ちょっと喉が渇いたし、寒いのでホットドリンクを購入しようと自動販売機を探す。真っ暗なので自動販売機の明りは鮮烈で、すぐに見つかった。

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この駅は無人駅なので改札が存在しない。ただし、手前に突っ立っている機械は無人駅で見られるSuica読み取り機である。ここにピッとやって出ていくのだ。つまり、この読み取り機で構成されているラインがこの駅における改札ラインとみることができる。そう考えると自動販売機は改札の向こう側だ。ルールはルールなので改札の外には出てはならない。これは絶対だ。ドリンクは諦めよう。

 

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ホームに戻ると、どこから湧いて出たのか人がいた。地縛霊か何かだと少しビビったが、なんか工場の夜景とか、鉄道を撮影しているっぽい人たちだった。

 

18:37発 鶴見線 普通 扇町行き

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今度の電車はけっこう乗客がいた。といっても数人レベルだったけど、それでも人がいるのといないのとでは大違いだ。この電車も終点の扇町まで行くと行き止まりで大回り失敗となるので、手前の駅で降りなければならない。

 

18:43 浜川崎駅(神奈川県川崎市)

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チェックインした駅
安善、武蔵白石、浜川崎
(3駅/累計174駅)

ここ浜川崎駅も完全なる闇に覆われているのだけど、ここは少し変わった構造の駅になっている。先ほど乗ってきた鶴見線と、これから乗る南武線の乗換駅なのだが、乗り換えるには道路を挟んだ向こうのホームに行かなければならないのだ。

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階段の横に見える明りが南武線ホームの入り口である。完全に道路を挟んでいる。つまり、同じ浜川崎駅なのに、一度外に出て乗り換えなくてはならないのだ。

階段を上がるとおなじみのSuicaを読み取る機械が立っていたけど「南武線乗り換えの方は何もせずに通過してください」と書いてあったのでそのまま素通りする。

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大回り中であるにも関わらず、合法的に改札の外に出ることができた。駅の外の世界、懐かしい。空気が澄んでいるような気さえしてくる。改札内はなぜか空気が少し重い。

 

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南武線のホームに向かう。

 

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南武線ホームはこんな感じ。実は、ここには僕を含めて3人の男がいた。

この3人はこぞって鶴見線ホームからここ南武線ホームに移動してきた。大晦日の夜、こんな何もない駅、そしてトリッキーな乗り換え、こんなことをするやつは完全に同業者である。他の二人も同じく年越し大回りをしているのであろう。向こうもそれに気が付いている気配があって、チラチラとこちらを見てきている。

ただ、同業者ということはこの先も長いこと同じ路線を移動していく可能性が高い。ここで下手に話しかけたりなんかしたら、あまり良く知らない人と長い間ずっと呉越同舟、みたいになる危険をはらんでいる。僕らはそこまでコミュニケーションスキルが高くない。うかつに話しかけてはいけない。コミュニケーションをとってはいけない。3人が3人ともそう考えたのか、よく分からない距離間で牽制しあいながらホームに立つ光景が見られた。

そんな状態で20分くらい待っていると、また鶴見線のホームの方からガヤガヤと人がやってきた。たぶん後の電車でやってきた同業者たちだ。これで総勢10人ほどになった。その中には途中で見失った剛の者キッズたちの姿もあった。

 

19:07発 南武線浜川崎支線 普通 尻手行き

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乗客はほとんどおらず、その全てが同業者だった。僕の向かいにはキッズたちが座ったのだけど、なぜかハッスルしたキッズたちが本当にひどかった。最初は鉄道うんちくみたいなものを語りあっていたが、そのうち南武線の沿線の景色が、みたいな会話になり、キッズたちは車窓を開けて身を乗り出してバシャバシャと外の景色を撮影しだした。吹き込んでくる風が冷たく、死ぬかと思った。

キッズたちはすごく危険だったし、うるさかったし、なにより寒かった。本当に勘弁して欲しかった。あとキッズたちの会話で紅白歌合戦の放送が始まったことを知り、観たい気持ちが爆発して死ぬかと思った。

 

19:15 尻手駅(神奈川県川崎市)

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チェックインした駅
小田栄、川崎新町、八丁畷、尻手
(5駅/累計179駅)

尻に手と、ちょっと鉄道駅の名前としてはどうなんだろうかと言いたくなるような駅に到着した。先ほどまでは南武線の支線だったが、ここから本線の南武線を使って川崎駅に行く。

 

19:18発 南武線 川崎行き

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ここは1駅しかないのですぐに到着した。車内は混雑していた。何らかのイベントで年越しを一緒に過ごそうとしているであろうアベックがかなりイチャイチャしていて、そのうち駅弁ファックでも始めるんじゃないかと気が気じゃなかった。

 

19:20 川崎駅(神奈川県川崎市)

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チェックインした駅
川崎
(1駅/累計180駅)

川崎はかなり大きい駅だ。乗り降りする人もかなり多い。普段はかなり活気がある駅構内だと思うが、大晦日のこの時間はやはり活気がない。みんながよってたかって2017年はもう終わり、店じまい! という雰囲気を醸し出してくる。

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みんな帰る場所がある。忙しなく改札を抜けてそれぞれの年越しへと帰っていく。ただ、僕はこの改札を抜けることはできない。帰る場所もない。というか、まだ全然2017年が終わっていない。本番はここからだ。

 

19:27発 上野東京ライン 普通 前橋行き

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さらに都心へと移動していく。車内はもう完全に年越しモードだ。みんな何らかの年越しイベントに行く人ばかり。テンションが上がっているのか車内はかなり賑やかだ。

ちなみに、まだあの3連発ソバが響いていてかなりトイレに行きたくなってしまったので車内のトイレを探すと、都市部を走る電車には珍しくしっかりとトイレが備え付けられていた。

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しかしながら、何やら様子がおかしい。

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故障中。

ここは地獄か。はたまた悪魔の仕業か。わざわざ「座席」を「トイレ」に書き換えて貼るくらい切羽詰まった状況であるのは理解するが、気が遠くなる思いがした。めちゃくちゃ腹が痛い。漏れる。王が産まれる。

そこに隣の車両から外国人がやってきて、トイレの張り紙を見ながら青い顔をしていた。すごく早口の外国語でまくしたててきて何を言っているのか分からないけど、ジェスチャーから見るに「ここのトイレは使えないのか?」と言っているようだった。

僕も腹が痛くてかなり気が動転していて

「Noトイレ Noライフ」

みたいな「No Music, No Life」みたいなテンションで訳の分からないことを言っていた。でも彼には伝わったらしく、それを受けて外国人は僕より青い顔をしてポツリと、

「デビル」

みたいなことを言っていた。腹が痛い思いは万国共通なのだ。

 

19:36 品川駅(東京都港区)

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チェックインした駅
弁天橋、京急川崎、六郷土手、雑色、蒲田、大森町、大森(東京)、立会川、大井町、北品川、品川
(11駅/累計191駅)

地獄の腹痛と共に品川駅に到着した。駅の手前で安全確認か何かで小刻みに停車したので僕も外国人も気を失いそうになっていたが、なんとか漏らすことなく駅へと到達した。これには外国人も安堵の表情。

トイレに行き、駅内を散策する。品川駅もかなり大きい駅なので改札内に多数の店舗が存在する。ただ、これらの店舗もさすがに大晦日は普段より早めに閉店するらしく、店じまい準備を始めていた。いつもの品川駅より少しだけ寂しい、そんな光景が見られた。

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一発、年越しソバでも決めてやろうかとも思ったが、次の電車の時間が迫っていたのでやめておいた。

 

19:43発 横須賀線 普通 横須賀行き

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いよいよ年末感が高まってきた。車内もどこか大晦日の終盤的な雰囲気が漂い、詫び寂びみたいな感じがしてくる。基本的には紅白か笑ってはいけないを見てゆく年くる年を見て、といったスタイルが正義とされる年越しにおいて、この時間に横須賀線に乗っている人間は何らかの事情を抱えているとみるべきだ。大晦日なのに仕事だった、やっと恋人に会えるんだ、勇気を出して疎遠だった実家に帰ってみるんだ、Twitterに書かれたせいで年越し大回りをすることになった、一人一人がそれぞれの事情を抱えて横須賀線に乗っているのだ。そこには人生がある。

 

19:53 武蔵小杉駅(神奈川県川崎市)

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チェックインした駅
新馬場、大崎、下神明、西大井、馬込、西馬込、御嶽山、沼部、新丸子、武蔵小杉
(10駅/累計200駅)

武蔵小杉駅はその立地と交通の便の良さから近年になって高層マンションが数多く建てられるようになった場所だ。駅周辺はまるでバベルの塔のようにタワーマンションが建ち並んでいる。最近では、急激な人口増加に駅の処理能力が追い付いていないらしく、朝のラッシュ時などは駅に入るための行列ができたりするらしい。そんな過密な駅も大晦日は閑散としている。

この駅はもう一つ有名なエッセンスがある。とにかく乗り換えの距離が長い駅として有名なのだ。横須賀線のホームから南武線のホームへと乗り換えるとこんな感じになる。

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ここを歩いていき。

 

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このような通路を歩いて。

 

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さらにこんなところを歩く。

 

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けっこう長いエスカレーターを昇り。

 

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やっと南武線ホームに到達する。むちゃくちゃ長い。下手したら駅間が近いところの1駅分くらい歩いている。これを同じ駅と言うのはちょっと無理がある。

 

20:10発 南武線 普通 立川行き

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20時を超えて車内に酔っ払いが増えてきた。少し早めの時間に飲んで、少し早めに解散、あとは家で年越し、というスケジュールだろうか。それともそのまま別の飲み会なりイベントなりに突入し、そこで年越しをするのだろうか。

駅に着く度に車内の人々が「良いお年を~」と挨拶しあっている。ちなみに「良いお年を」という挨拶は、「これから年末にかけてやることが沢山ありますが、なんとか大晦日を迎えましょうね、お互い頑張りましょう」という挨拶なので大晦日に言うことは間違い。それもあと4時間で新年という瀬戸際で使うのは完全なる間違い。

 

20:54 立川駅(東京都立川市)

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チェックインした駅
武蔵中原、武蔵新城、武蔵溝ノ口、溝の口、津田山、久地、宿河原、登戸、向ケ丘遊園、中野島、稲田堤、矢野口、稲城長沼、南多摩、是政、府中本町、分倍河原、西府、谷保、矢川、立川
(21駅/累計222駅)

そろそろ疲れてきたらしく、駅名看板を撮影し忘れた。これが出てきだすといよいよ精神的にまずい。これまでの旅で培われてきた重要な知見だ。とにかく、あと3時間ほどで新年なので、ここは一発、年越しソバでも決めようと思った。

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閉まっていた。

営業時間は21時までのはずで、現在は20時55分なのでギリギリやっているはずだが、どうやら大晦日は18時くらいに閉めちゃうらしい。完全にあてが外れた。

 

21:04発 中央線快速 東京行き

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車内はこれから初詣に行くであろうアベックで満たされていた。どこか大きい神社に行ってその後は色々と楽しいことをするのだろう。

「ねえねえ、何お願いするの?」

「ひみつ」

「ぶー、ひみつばっかり。教えてよ」

「やだよ。ひみつ」

「じゃあ、私も秘密」

「どうせ食べ物のことだろ。ケーキバイキング行きたいとか」

「ぶぶー、違いますー」

「じゃあなんだよ」

「それ教えたら意味ないじゃん。教えてくれたら教えるよ」

「しょうがねえなあ。その、あれだよ、ずっと佐和子と一緒にいられますようにってお願いするつもりでいた」

「タカシ……」

「さ、佐和子のお願い教えてもらおうか」

「私も……同じだよ……」

「佐和子……」

こんな会話をしているに違いありません。言っておきますけど、タカシの「ずっと佐和子と一緒にいたい」というお願いと佐和子のお願いが同じということは、佐和子自身もずっと佐和子と一緒にいたいと願っていることになりますからね。自分自身と一緒にいたいと願うということは現状では自分の中で人格の解離が起こっていると自覚できている状態です。これは自己の確立をどのようにして保つのかという部分に抵触し、自己愛と密接な関係にあります。コフート心理学によると自己愛とは……、あ、次の駅ついたね。

 

21:10 西国分寺駅(東京都国分寺市)

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チェックインした駅
西国立、国立、西国分寺
(3駅/225駅)

ここから武蔵野線に乗り換える。そろそろ精神的に疲れてきた。限界は近い。

 

21:13発 武蔵野線 普通 東京行き

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さきほどのアベック列車とは打って変わって、車内は静かだった。寝ている人しかいなかった。これからどこかに行く、という雰囲気ではなく帰宅をする人々といった雰囲気だった。みんな疲れているのだ。武蔵野線に乗っている人は基本的に疲弊している。2017年も色々あったのだろう。ゆっくりと休んでほしい。

 

21:39 武蔵浦和駅(埼玉県さいたま市)

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チェックインした駅
新秋津、新小平、秋津、東所沢、長津田、新座、朝霞台、北朝霞、西浦和、中浦和、武蔵浦和
(11駅/236駅)

このまま武蔵野線で千葉方面に行くと思いきや、埼京線に乗り換えて距離を稼ぐらしい。埼京線ホームへと移動する。少し乗り換え時間があったが死ぬほど寒いので柱の影に隠れて震えていた。

 

21:51発 埼京線 快速 新宿行き

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車内にもう一般人はいない。あと2時間ほどで年越しだ。普通の人は何らかの手段で年越しに備えている状態であり、フラフラと電車に乗っていたりはしない。車内にはストロングゼロ(ダブルレモン)を手にクソみたいに酔っぱらったオッサンとラッパー崩れみたいな男しかいなかった。

 

22:01 赤羽駅(東京都北区)

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チェックインした駅
北戸田、戸田(埼玉)、戸田公園、浮間舟戸、北赤羽、赤羽
(6駅/242駅)

そしてここから今度は京浜東北線を使ってまた武蔵野線に引き返す。もうそろそろ紅白でアムロちゃんとか出てきた頃じゃないだろうか。

 

22:07発 京浜東北線 普通 南浦和行き

omawari128画像を見ていただいても分かる通り、ホームに人がいない。もう年越しカウントダウン体勢に入っているので、乗客もまばらで閑散としていた。ぜったいこれ、いまアムロちゃん出ていてみんな観ているパターンだろ。

電車に乗り込んでみても、やはりほとんど乗客はいなかった。

終点の南浦和につく直前に車内放送が入る。

「2017年、京浜東北線をご利用いただきありがとうございました。2018年も引き続きご利用お願いいたします」

みたいなアナウンスだったと思う。車掌さんのアドリブだったんだろうか。まさか京浜東北線車内でこんな挨拶が聞けるとは思わなかった。特別感があって得した気分になった。

 

22:19 南浦和(埼玉県さいたま市)

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チェックインした駅
赤羽岩淵、川口、西川口、蕨、南浦和
(5駅/247駅)

そう言えば、浜川崎あたりで一緒だった同業者たちの姿を全く見かけなくなった。まあ、経路は同じだけど乗る電車は複数選択できるので別の時間線の電車に乗っているのだろう。どうせまたどこかで一緒になる。

ホームで次の電車を待っていると、横にいた若者集団の会話が耳に入ってきた。

「吉岡パネェ、マジパネェ」

大学生っぽい彼らは口々に吉岡なる男のことを称賛していた。どうせこういった若者が称賛するのって、やれビール3杯一気飲みしたとか、やれパチンコで6万勝ったとか、そういうくだらないことなんですよ。どうせたいしたことないんでしょ、はいはい、って感じで耳を傾けていると、だんだんと彼らが称賛する吉岡という男の本質が見えてきたのです。

吉岡は、高校生時代に下着ドロボーを捕まえて、全校集会で表彰された経験があるらしいのですが、その経験を機に、下着ドロというものに興味を持ってしまったようなのです。彼は葛藤し、ついに自分自身の手で犯行を重ねるようになったらしく、先日逮捕されたそうです。彼らは面会に行けるのかとかそんな話をしていました。マジで吉岡パネェ。

 

22:30発 武蔵野線 南船橋行き

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電車を撮影し忘れていたので電車が来る前のホームの様子で代用します。

またもや乗り込んだ武蔵野線の車内は何だか殺伐としていてスラム感が漂っていた。

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飲みかけの缶ビールが平然と床に置かれていたりする。どんな無法者が乗っていたのだろうか。これだから武蔵野線は恐ろしい。

途中、とんでもない駅を通過した。

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新松戸駅だ。この駅が一体全体なんなのかというと、路線図をみると分かりやすい。

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常磐線と武蔵野線がクロスするこの駅は、隣の駅が今朝がたスタートしてきた「北小金」、反対側の隣がゴールである「馬橋」という立地。スタートとゴールにニアミスでかすめて武蔵野線をつき進んでいくダイナミックな状態だ。これができるから北小金スタートの馬橋ゴールなんだろうな。

 

23:14 西船橋駅(千葉県船橋市)

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チェックインした駅
東浦和、東川口、戸塚安行、新越谷、南越谷、越谷レイクタウン、吉川、吉川美南、新三郷、三郷(埼玉)、南流山、幸谷、新八柱、八柱、東松戸、市川大野、船橋法典、京成西船、西船橋
(19駅/累計266駅)

いよいよ2018年まで1時間を切った。果たしてどこで年越しを迎えるのか胸が高鳴ってきた。とにかく先に進んでいこう。

 

23:19 総武線 各駅停車 千葉行き

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この電車に乗ることでついに千葉県入りとなる。この調子で行くと千葉駅で年越しとなりそうだ。

 

23:42 千葉駅(千葉県千葉市)

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チェックインした駅
東海神、船橋、東船橋、津田沼、新津田沼、京成津田沼、京成幕張本郷、幕張本郷、京成幕張、幕張、新検見川、稲毛、西千葉、新千葉、千葉
(15駅/累計281駅)

「千葉駅」の看板の撮影角度的にかなり精神的にまいっていると思われる。正面に周りこむのも放棄して撮影している。酷い有様だ。

ここから成田を目指すのだけど、その成田行きが0:05発らしい。ということはやはりここ千葉駅で年を越すことになりそうだ。

 

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少し早めに成田行きの電車がやってきた。発車まで車内で待っていていいらしい。この車内で年を越すということか。

車内には数人の男たちがいて、同じように発車を待っていた。彼らからは独特の剛の者っぽいオーラを感じた。つまり、年越し大回り乗車を実施している同業者、もしくはこの先の成田駅にやってくる特別列車を撮影することを目的とした剛の者だ。そんな剛の者たちがじっと体を休めて出発を待っている。まるで戦士の休息のようだ。

ついに年越しの瞬間がやってきた。ホームにいた酔っ払いの大学生みたいなチャラチャラした集団の中の尻が軽そうな女が大声を出す。

「ねえ、年越しだよ! カウントダウンしようよー!」

その周りの、その女の体を狙っていそうな男どもが呼応する。

「おっしゃ!」

「いくか!」

なんかワクワクした。これは絶対に車内でもつられてカウントダウンが起こる流れでしょ。もしくは年越しした後にハッピーニューイヤー! とか言い合ってハイタッチするやつでしょ。そういうのなんかいいよね。殺伐とした電車内だけど、人と人の関わり合いが年越しを介して行われる。それってけっこう素敵じゃないですか。これ絶対に来るパターンですよ。

「5」

「4」

「3」

「2」

若者たちのカウントダウンが進む。いよいよ2018年がやってくる。

「1」

「0」

「ハッピーニューイヤー!」

うおおおおおおおおおおお、とホームで大学生たちがむちゃくちゃ盛り上がっている。なのに車内の剛の者たち、微動だにしやがらねえ。一切感情が動いていない。完全に年越し関係なく座席に鎮座しておられる。車内と車外、完全に別世界じゃないか。眉一つ動かさずポケット時刻表読んでやがる。

ということでついに2018年となった。まだまだ年越し大回り乗車は続く。

 


【次のページ】2018年1月1日 元旦

 

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