JR西日本が発表した”維持困難な17路線30区間”ぜんぶ乗ってきたので狂ったように紹介する_PR【駅メモ!】

【5日目】 5:00 京都府舞鶴市 東舞鶴駅

5日目の朝だ。

僕はビジネスホテルの朝食が好きなのだけど、この種の旅をしているときに食べたことがない。なぜなら確実に始発移動で朝の5時やら4時やらにチェックアウトするからだ。今日もホテルの朝食にありつくことなく5時にチェックアウトだ。始発で小浜線を取りに行くためだ。ホテルの人すら「え?この時間にチェックアウト?」という顔をしていた。

昨日は暗くなってからの到着で気が付かなかったけど、東舞鶴駅前にはケーズデンキがあった。僕は郊外にあるイメージなのだけど、ここでは思いっきり駅前にあるので少し驚いた。

東舞鶴は海軍が作った市街地なので碁盤の目のような造りになっている。通りには富士通り、八島通り、敷島通り、朝日通り、初瀬通り、三笠通りと海軍一等艦船の名称がついている。非常に見所の多い街なのだけど、残念ながらゆっくり観光している時間はない。僕は維持困難路線を取りにいかねばならないのだ。

駅に入り、時刻表を眺める。舞鶴方面への列車は設定が多いけど、小浜線へと入っていく方面はだいたい1時間に1本くらいだろうか。けっこう厳しいけど、これは維持困難路線としては多い部類に入る。

東舞鶴駅のホームには出発を待つ列車がいくつか待機していた。まだ照明もついていないままの車両もあったので、夜にやってきて朝までここに待機しているのかもしれない。

ちなみに、ここからは“いちほ”が担当する。

 

敦賀行きの列車は待機しているものの、まだまだ時間はあるのでホームで待機し、朝日を浴びながら今日の戦略を練っていたところ、ふいに話しかけられた。

「すいません、そこに財布が落ちていたんですけど、違いますか?」

見るとめちゃくちゃ好青年っぽい男が財布を片手に立っていた。焦ってポケットの財布を探す。あった。僕が落としたわけじゃなさそうだ。

青年が持っていた財布を見る。ゴリゴリのギャルが持ちそうな財布だ。どう考えても僕が持つ種類の財布ではない。どうして僕が落としたと思ったのだろうか、疑問に思ったけど、なんてことはない、ホームには、いや現時点でこの駅の中には僕と彼しかいなかったからだ。たぶん、昨日の夜から落ちていたんじゃないかな。

「ちょっと届けてきますわ」

好青年はそのままホーム下の改札まで駆けて行った。好青年すぎるだろ。

37本目 5:34 東舞鶴発 小浜線普通 敦賀行き

2両編成

乗客3人

いよいよ敦賀行きの列車が動き出す。先ほどの好青年も明らかにこの敦賀行きに乗りたそうな気配だったのに、財布を届けたっきり帰ってこなかったことが心配だ。もしかしたら様々な手続きをして乗り遅れてしまったのかもしれない。だとしたら明らかに好青年すぎる。

小浜線(東舞鶴~敦賀)営業係数678 輸送密度 782/

福井県の敦賀駅から京都府の東舞鶴駅を結ぶ路線。若狭湾に沿って敦賀、小浜、舞鶴の都市を結ぶ。全線に渡って国道27号線及び舞鶴若狭自動車道と並行しており、近年ではマイカー利用へと移行しているため利用客が低迷し、通学需要がその大半を占めている。

山間の集落の中を縫うようにして走っていく。3人しか乗客がおらず、前の車両に2人が乗ったので後ろの車両は貸し切り状態だ。

予想した以上に山深い場所を通るので面食らってしまった。

松尾寺駅-京都府舞鶴市(無人駅):小浜線

東舞鶴駅からの駅間が長く、6.1 kmで小浜線内最長である。駅名は西国三十三所第29番札所の松尾寺にちなんでいるが、松尾寺は駅から遠く、徒歩で1時間くらいかかる。

松尾寺駅を出発してすぐに県境があるようで、京都府から福井県へと住所表示が変わった。

青郷駅-福井県高浜町:小浜線

福井県最西端の駅かつ中部地方最西端の駅でもある。駅舎がかなり立派である。

ほんとうに立派だな。ロッジ風のすごい駅舎だ。

三松駅-福井県高浜町(無人駅):小浜線

海岸線が近く駅から徒歩圏内に海水浴場がある。小さな無人駅であるにもかかわらず駅舎が近代的で立派。

1つまえの青郷駅を出て三松駅に至る間に周囲の景色が一変する。山深い景色から急に周囲が開けてくる。おそらく海岸線に出るのだろう。この駅からはまだ海が見えないけどおそらく時間の問題だ。

海が見えた!

予想通り、三松駅をでてすぐに海が見えてきた。どうしても海が見えるとテンションがあがってしまう。もうここまでうんざりするほど見たし、おそらくここからもうんざりするほど見るというのに。

この小浜線は東西に細長い福井県を東西に走る。そのほとんどが海岸線なので、本当にうんざりするほど海を見るのだろう。

若狭高浜駅-福井県高浜町:小浜線

高浜町の中心駅。周囲には町役場などがあり、住宅も多く商店もひととおり揃っている。少し歩けば海岸線があり、そこにも海水浴場がある。この駅も立派な駅舎であり、高浜町内の駅は総じて駅の規模以上に駅舎が立派で綺麗。

この駅より、何人かの高校生が乗り込んできて乗客3人状態が解消された。後ろの車両に移動してくる高校生もいてその数は多い。休日でこれなので平日はもっと多いのだろう。この駅から通学需要が生まれてくるようだ。

この周辺から小浜駅あたりまで通学する高校生が多いのだろうけど、そう考えると舞鶴からの通学需要がないことが不思議だ。距離的にはそうでもないのでおそらく小浜に通うことだってできる。逆だってあり得るだろう。ただ、府県をまたいでの越境通学は高校生ではなかなか難しいのかもしれない。

若狭和田駅-福井県高浜町:小浜線

駅舎が立派で綺麗である。この駅も若狭和田ビーチや白浜海水浴場が近く、海水浴シーズンともなると多くの人が訪れるそうだ。

若狭和田駅を越えたあたりから急に海が穏やかになる。このあたりは日本海に突き出した大きな2つの半島によって囲まれた海なのでこのように穏やかになる。めちゃくちゃ海水浴向きだ。そういえば僕の知り合いの名古屋の人も夏は絶対に福井で海水浴をすると言っていた。愛知方面、関西方面からの海水浴客が多いのかもしれない。

若狭本郷駅-福井県おおい町:小浜線

おおい町内唯一の駅。「国際花と緑の博覧会」の会場で使われていた「風車の駅」を移設された駅舎であり、駅前には花博で走行した「ドリーム・エキスプレス義経号」のレプリカが展示されている。

加斗駅-福井県小浜市:小浜線

駅舎内に理髪店がある店としてメディアにも何度か取り上げられている。もともと駅前にあった理髪店が駅舎内に移転し、駅業務を委託されて行っていた。こりゃ髪でも切ってやろうかと思ったけど、現在は予約制とのこと。

さて、理髪店が入る駅舎が有名とのことだけど、その駅舎がおそらくこれだと思う。

どうやら駅舎の表側にはあの理髪店にあるポールサインがあったりするらしいのだけど、裏から見ると普通の民家にしか見えない。スカパーのアンテナとかもあるし、沿線の普通の民家かと思った。

このあたりでは少し高い位置を走っているようで海が良く見える。同じ海でしかも同じ日本海側といってもこれまで見てきた山口県、島根県、鳥取県、兵庫県、それぞれで海の様子が違っていて面白い。

勢浜駅-福井県小浜市(無人駅):小浜線

周囲には田畑が広がり、その中に住宅が点在している。海岸線まで出れば海水浴場がある。小浜線内の駅でも極めて利用者が少なく、長い間、一日の定期外の平均利用者数は1人である。定期の需要はある程度あるのでほとんどが通学需要と考えられる。

勢浜駅を出ると車内の高校生たちが慌ただしくなってきた。おそらく小浜駅が近いのだろう。全く気付かなかったけどいつの間にか乗客も増えている。そのほとんどが高校生だ。

水を張った水田に空が映る。その先の海はまるで空と空に挟まれているみたいだ。

小浜駅-福井県小浜市:小浜線

小浜市の代表駅。起点と終点を除いた小浜線内の駅ではもっとも利用者が多い。海と山に挟まれた位置にあり、周囲には市街地が広がる。北陸新幹線の敦賀・大阪間におけるルートは平成28年に小浜・京都ルートに決定したため、小浜駅周辺でも期待が高まっている。

どうやらここ小浜駅でしばしの停車があるらしい。改札はあるけど無人で、さらには好きに出てもらって構わんと言わんばかりの雰囲気でみんな外に出ていたのでこちらも出てみることにした。

これが小浜駅前の様子だ。けっこう寂しい感じで、本当にここに新幹線が来るのだろかと心配になってくる。

またここでも駅前のケーズデンキにでくわした。何度も言うけど、郊外にあるイメージなんだけど、ここ福井ではそのケーズデンキを駅前に持ってくるムーブメントがあるのかもしれない。そういえば九州新幹線の新玉名駅前にもあった。思ったより駅前にあるのかもしれない。郊外というイメージを持っているのは僕だけという可能性もある。

そろそろ列車が発車する時間のようなので再び乗り込んだ。

東小浜駅-福井県小浜市:小浜線

小浜市内への通学需要のためある程度の利用者があり、比較的に利用者が多い駅とされている。小浜・京都ルートに決定した北陸新幹線の小浜の駅は、この駅付近に新たに駅を設置する案で調整されている(2022年現在)。

駅ごとにつけている駅メモ!画面がこうして簡易的な時は画面キャプチャをし忘れたということである。この画面はその時にキャプチャしないとあとで再現できない。仕方なくゲーム内に残る履歴を使うのでこの画面になってしまう。完全に僕の怠慢である。二度とこのようなことがないようにしなければならない。

ずっと海沿いを走るから絶対に海に飽きると思われたが、意外にも小浜市内中心部へと入っていったあたりから内陸部を走るようになり、まったく海が見えなくなってしまった。海どころか山々すらみえてくる。それにしても田園が綺麗だな

新平野駅-福井県小浜市(無人駅):小浜線

大きく広がる田園風景のなかにポツンと駅が存在する。周囲の住宅も少ない。駅名に「新」がついているが、この周辺に古い平野駅があるわけではない。平野駅は関西本線にある大阪の駅であり、それとの重複を避けるために本来は「若狭平野駅」とすべきところだったが、なぜか「新平野駅」となっている。そこで何があったのかは調べたけれども分からなかった。

上中駅-福井県若狭町:小浜線

福井県最南端の駅。小浜線で福井県内に入ってから南下はしておらず、そこまで南にある印象はない。南北の路線があまり存在しない福井県内においては、この駅が最南端となるようだ。ここから小浜線は海岸線に沿って北上する。旧上中町の中心駅であり、駅の周辺には市街地が形成されている。

ここ上中駅は少し変わった構造の駅だ。

線路の両側に全く同じような建物があって全く同じような出口がある。なんでこんなにコピーしたかのように同じ感じにしたのだろうか。そもそも、こういった地方ローカル線の駅が、線路の両側に出口を備えていること自体が珍しい。おまけにどちらも駅舎めいた建物がある。至れり尽くせりな駅、といった印象だ。

まわりに球場でもあるのか、前の車両に乗っていた少年野球チームの一団が降りていた。

若狭有田駅-福井県若狭町(無人駅):小浜線

開業は昭和39年であり、小浜線内ではもっとも新しい駅である。ある程度まとまった集落がある以外は、周辺は田畑ばかりである。

大鳥羽駅-福井県若狭町(無人駅):小浜線

同地区は小学校はあるが、中学校がない。中学生は旧上中町の中心まで通学する必要があり、この駅を利用して中学生がわずかながらいる。

駅に停車している間ずっと防災無線が鳴り響いていた。途切れ途切れであり、山にこだましていてよく聞き取れなかったけど「いなくなった」という単語だけ聞き取れたのでめちゃくちゃ不穏に感じていた。誰か失踪したのだろうか。

そんな不穏な気持ちで見ていると駅の自転車置き場に描かれたイラストすら不気味に感じる。

ただ。よくよく聞いてみるとリサイクルの話をしていたので「いなくなった」ではなく「いらなくなった」だったようだ。

十村駅-福井県若狭町(無人駅):小浜線

小浜線内で最古の木造駅舎がある。この駅舎はJRから撤去の申し入れを受けたが、なんとか貴重な駅舎を残したいと住民が運動をおこし、存続が決まった。クラウドファンディングで募った122万円などを元手に改修工事を行い、2022年3月にリニューアルオープンした。

こちらがその駅舎だ。

あまり古さを感じないので、綺麗に改装されているのだと思う。光り輝いておる。

山に向かってまっすぐに線路が伸びる。海の気配が全くない。誰だ、海ばかりで飽きるとか言っていたのは。逆に海が恋しくなってきた。

藤井駅-福井県若狭町(無人駅):小浜線

隣の十村駅とは2kmしか離れておらず、駅間距離が小浜線でもっとも短い。駅舎は存在せず、直接ホームに入る形の駅。

三方駅-福井県若狭町(無人駅):小浜線

五つの湖が並ぶ三方五湖を望む駅である。この駅でレンタサイクルを借りることもでき、三方五胡サイクリングの起点となる。駅周辺には道路沿いの商店もあり、入浴施設もある。

水田の先に海みたいなものが見える。ついに海が来たかと少し興奮したけどどうやら違うらしい。これはさきほどの三方駅の看板にもあった三方五湖のうちのひとつだろう。つまり、海ではなく湖。海が恋しくなってきた。

気山駅-福井県若狭町(無人駅):小浜線

駅舎のない駅で直接ホームに入る形をとる。駅の周辺には区画整理された住宅地や大きな病院がある。

美浜駅-福井県美浜町:小浜線

ホームから海が見える。駅の周辺には特にこれといった施設はないが、2022年7月に道の駅「はまびより」がオープンする予定。当初は春の予定だったが延期となっていた。

東美浜駅-福井県美浜町:小浜線

テレビアニメ「中二病でも恋がしたい!」小鳥遊六花の実家の最寄り駅のモデルとなっており、駅には作品にちなんだ駅ノートが置かれており、聖地巡礼するファンもいる。相変わらず聖地巡礼ファンの行動力には頭が下がる。

ちなみに、僕は本気でこうしたローカル線の生き残る道は聖地巡礼だと考えている。だから、この旅の1日目も聖地巡礼から始まっているのだ。

粟野駅-福井県敦賀市(無人駅):小浜線

東美浜駅より峠を超えた先にある駅。高台にあり敦賀市内を望む。ここより小浜線は敦賀市内を迂回するように山裾を大回りする。かつては鉱山への支線があった。

遠くに街並みが見えてきた。けっこう大きい街のようなのでおそらくあれが敦賀だろう。

敦賀駅が近いとあって、いつの間にか車内の乗客は増えていたのだけど、車内の様子はまさに静かだった。基本的に誰も会話しないので静かそのもので、列車のゴトンゴトンという音だけが響き渡っていた。

そこに前方の方に座っていたおっさんが突如としてけっこう大きめの声を出した。

「阪神」

それだけなのである。なにが阪神なのか、どうして阪神なのか、なぜ阪神なのか、阪神がどうしたのか、どうして阪神だけなのか、続きはないのか。おそらく車内にいた乗客全員がそう考えていたと思う。車内の様子は阪神を境に一変してしまった。阪神以前は心地よい静けさだったのに、阪神以後はなにかひりついた静けさみたいなものになってしまった。

西敦賀駅-福井県敦賀市(無人駅):小浜線

駅が開業した昭和37年に開校した敦賀工業高校が駅の付近にあり、駅利用者の大半はこの高校への通学である。駅裏の山中を北陸本線のループ線が通っている。

長かった小浜線も終わり、ついに敦賀駅に到着した。思ったより海沿い通らなかったな。

7:34 敦賀駅-福井県敦賀市:小浜線、北陸本線

運賃:1690円

小浜線と北陸本線が乗り入れる駅。2024年春に金沢より延伸してきた北陸新幹線が開業し終着駅となる予定。乗車人員は福井県内2位。敦賀より北上する北陸本線は新幹線開業により経営分離され第三セクター方式になる予定である。駅の南北に北陸本線の難所を抱える。

さすがに敦賀駅はこのあたりの中心駅だけあって人が多かった。ホームも通路も人で溢れていた。

敦賀駅は2024年春に金沢駅から延伸してきた北陸新幹線の終着駅になる予定だ。もう新幹線の高架はほとんどできていて、新幹線駅を造っているところだった。

今ある駅の上のほうに新幹線がくるのだろう。

駅自体も新幹線に向けて準備が始まっているのか、雑多な古い感じと新しい感じが入り混じった雰囲気になっている。

ということで小浜線(東舞鶴-敦賀)クリア。

ここで残った路線をおさらいしたい。ついに残り路線は5つとなった。越美北線、大糸線、紀勢本線、関西本線、岩徳線である。ここからは北陸本線に乗って福井方面に移動し、越美北線を目指していく。

38本目 7:41 敦賀発 北陸本線普通 福井行き

3両編成

乗客30人くらい

敦賀駅を出てすぐ、長いトンネルに入った。あまりに暗闇が続くので、ちょっとこのトンネル長くない? と思い始めたところからさらに長かった。このまま異世界に行くんじゃないかと思うほどの長さで、明らかに異常なのに周りの乗客は平然としている。それがなんだか怖かった。

調べてみたところ、この敦賀駅を出てすぐのトンネルは北陸トンネルといい、全長は13.87 kmで在来線のトンネルとしては日本最長とのこと。

途中、鯖江駅に停車した。メガネの街で有名な場所だ。例えばこの鯖江の駅前がどの程度の発展度かを知るにはこれである。

α-1指標だ。駅前にポツンといった感じで目立つので、鯖江の街自体はα-1があるくらいなのでそこそこの発展だけど、駅前はそうでもないと予想できる。

列車はそこそこの街である鯖江を通り抜け、福井へと向かう。そろそろ福井駅へと到着しそうな気配が漂う中、その手前の駅で降りた。

8:34 越前花堂-福井県福井市(無人駅):北陸本線、越美北線

越美北線の起点駅である。開業時は越美北線の駅としてのみ開業し、その後、北陸本線のホームが設置された。そのため2つのホームが離れている。福井駅から近く、市街地にあるため周囲は住宅や商店が多く立ち並んでいる。並行して福井鉄道が走っている区間でもある。

北陸本線と越美北線が分岐する駅だ。別にここから乗り換えなくとも福井駅から乗り換えても良かったのだけど、そろそろ使った旅費が莫大になりつつあったので、少しでも旅費を浮かせるために最短ルートの乗り換えを選択した。

待ち時間は40分ほど。駅の周囲に飲食店があれば朝食を取ってもいい待ち時間だ。なにせホテルの朝食を取れなかったので完全に空腹が限界だ。ただ、この40分はあくまで駅の近くに飲食店がある場合に最適であって、駅から少し離れる場合は苦しい。できれば駅前に何かあって欲しい。どれどれ、この越前花堂はどんなもんですかね、と駅舎を潜り抜けた。

これはやってしまいましたなあ。

何もないわけではなく、住宅もあるし会社もある。でも飲食店はなさそうだ。コンビニもなさそうだ。これなら福井駅までいく方が正解だったのかもしれない。

ここからけっこう歩いたところにベルという、福井市民の憩いの場みたいな商業地があり、そこまでいけばスタバがあることは分かっているので、他にも飲食店があるのだろうけど、さすがに40分でそこまでは苦しい。

ただただ空腹に耐えて待つしかなさそうだ。

ここでは福井駅方面から高架が伸びてきて延々と続いている。おそらく北陸新幹線だろう。もう線路はできていて準備万端といった感じだ。そのうち試運転とか始まるんじゃないかな。

何もない、誰もいない、そんな越前花堂駅でボーっと待っていたらある異変に気が付いた。降り立ったホームで普通に越美北線を待っていたのだけど、なにやら様子がおかしい。

向かい側のホームに何かある感じだ。越美北線についてなにか書かれているっぽい看板だ。

拡大して見てみると、越美北線の乗り場はこっちだよと矢印がある。それは跨線橋の階段を指示していると考えた。この跨線橋は2つのホームを繋いでいるので、越美北線は反対だからこっち側のホームに行ってねという指示だと思った。

そうなると、こちら側の階段の表記がおかしい。こちら側の階段はあっちのホームに行けと言っている。

なにがなにやら分からないまま向こう側のホームに行ってみる。

謎はすべて解けた。

どうやら向こう側のホームの向こうに降りていく階段があるようだ。越美北線の人はそこを進んで行けとのことだった。

階段を降りた先は長い通路だった。できたてホヤホヤの新幹線高架の下を通るルートだ。なんだこりゃ。本当にこの先に越美北線があるのか。

長い通路の果てに登り階段がある。

あった。なんだよこれ。からくり屋敷かよ。

どうやらここが越美北線の越前花堂駅らしい。同じ駅だけど北陸本線のホームからはけっこう離れている。もうこの駅の手前で越美北線への分岐が始まっていて、北陸本線から離れているからこうなったのだと思う。

おそろしいことだ。こんな構造と知らずにずっと向こうのホームで待っていたら、時間になっても越美北線の車両が来ず、完全にパニックになっていたと思う。そして本数が少なく貴重な列車を逃していたと思う。

ここに越美北線がくる。ヨシ!

何度も指さし確認をした。

こちらが時刻表。けっこう本数があるように見えるけど、終点の九頭竜湖まで行ってくれる列車は日に4本。かなり貴重だ。逃していたら大変なことになるところだった。これからくる9時13分の列車を逃したら次は3時間30分後だ。本当に危ないところだった。

39本目 9:13 越前花堂発 越美北線(九頭竜線)普通 九頭竜湖行き

1両編成

列車やってきた、ヨシ!

颯爽と乗り込んでみて驚いた。なんと、超満員だった。これまでで一番の混雑だ。シートがすべて埋まっているのはもちろんのこと、立っている人も満員でギュウギュウだ。どうやら休日を利用して九頭竜湖でレジャーみたいな層と貴重な越美北線を乗り潰しという剛の者が混ざり、こんな満員電車を作り出してしまったようだ。

越美北線 営業係数1366  輸送密度260/

越美北線は、北線とあるが、なにが北なのだろうか疑問だった。もともとは福井と岐阜を結ぶために計画された路線で、福井側を越美北線、岐阜側を越美南線と命名していた。福井側は九頭竜湖まで作ったところで計画が止まり、南側の路線は第三セクター長良川鉄道になっている。

 

本当に身動き取れないレベルの満員だ。僕の横はおそらく九頭竜湖でレジャーデートとじゃれこむ感じのカップルだった。男性の方が彼女を守るように抱きかかえているのが印象的だった。

しっかりと彼女を守ってくれる。いい彼氏じゃないのと思ったのだけど、この満員電車内でなにから守っているかというと、間違いなく隣にいる僕から守っていた。そこまで必死に守らなくとも別に害をなす存在ではない。単に小汚いだけだ。

六条駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

駅舎がなく、ホームに直接入る形の駅。田園風景のなかにある。数字に条を使った駅は四条駅などを使っている京都の駅名と重複しそうだが、六条は京都にはなく、ここ福井だけに存在する。

延々と田園風景が続く。

足羽駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

六条駅同様に、田畑の中にポツンとホームがある駅。ホーム上に待合所があるだけの簡素な造りの駅。六条駅、足羽駅どちらも福井駅からそう遠くないにもかかわらず、1日の平均乗車人員は一桁。

駅から見える風景がなかなかすごいことになっている。ここまで田んぼが間近な駅もそうなかった。田園風景もここまできたか。

越前東郷駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

現在は無人駅であるが、有人時代の駅舎がそのまま使われている。周囲に住宅が多く、商店や金融機関の支店等も存在し、街を形成している。よって利用者も越美北線の中では多い方である。越前東郷は街の中心を流れる水路が有名。

相変わらず満員でけっこう苦しくなってきた。せめて途中駅で少しでも降りて欲しいと思ったけど、ここまでの駅で降りる人はおらず、逆にハイキングスタイルで乗り込んできた人がいてどんどん混雑度が増してきた。

一乗谷駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

駅周辺には福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館がある。周囲には朝倉氏ゆかりの史跡が多く、観光客の利用もある。一乗谷・朝倉氏遺跡 復原町並までは徒歩で30分ほど。資料館から出ている周回バスが便利とのこと。ここより越美北線は山深い場所へと入っていく。

この駅でやっと数組の観光客スタイルの人が降りていった。おそらくこの駅周辺にある朝倉氏ゆかりの史跡を周るのだろう。やっと降りる人がいたといっても数組で、しょせんは焼け石に水、相変わらず車内は混雑していたし、彼氏はナイトのように彼女を守っていた。

気持ちいいほどの田園地帯を抜け、列車は山深い場所へと立ち入っていく。

川が見えてきた。ここまでの5日間に渡る維持困難路線移動で分かったけど、基本的に維持困難路線は川と共にある。並行して大きな川が流れているパターンが多い。例外は海沿いを走る路線くらいだ。

維持困難路線のほとんどが山間の区間となり、そうなると列車を通す場所は必然的に川が流れている場所になる。川に沿ってルートができているからだ。

こうして目の前に川が出てきたということは、やはり山深い場所へと入っていくのだろう。

越前高田駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

山間に少し開けた集落があり、その手前にある駅。この区間は2004年の豪雨により越美北線が全線不通となった際に最後まで不通だった区間である(一乗谷-美山)。不通期間は約3年と長かった。

完全なる満員状態なので身動きできない。この状態では駅舎の撮影が難しい。基本的には周りの人に迷惑をかけない撮影スタイルをとっているため、撮れないものは撮れない、という諦めが肝心だ。

苦労して撮った越前高田駅の駅舎がこれだ。越美北線ではこのスタイルの駅がかなり多い。簡易的なホームに柵がついていて、簡易的な待合所がある。これまでの駅でも何個かはこのスタイルだった。

市波駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

駅の北側に田畑が広がり、南側に集落がある。駅自体は小さく、待合所がある程度。

小和清水駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

山すそに沿って足羽川が大きく蛇行する場所に駅がある。駅は集落から少し外れており、前を通る国道も以前は交通量があったが現在はこの集落をショートカットするように南側にトンネルが通っており、交通量はかなり少ない。

美山駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

周辺には市役所の支所や文化ホールなど公的な施設がある。2004年の豪雨災害により越美北線が全線休止となり、その後も当駅と一乗谷駅との間は3年にわたって不通であった。その際にはこの駅より代替バスが運行されていた。

美しい山と書いて美山。本当に山が美しい。

越前薬師駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

駅名の通り、付近には薬師神社がある。

越前大宮駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

簡素的な造りの駅。

2駅間ほどの駅の解説に困るほど何もない区間が続いたけど、なんか思いがけず良い写真が撮れた。

計石駅-福井県福井市(無人駅):越美北線

越美北線における福井市最後の駅。駅舎はなく簡易的な待合所があるのみ小さな駅。計石という地名は、穀物や作物の重さを計るのに適した石があり、地元の農民に重宝されていたことからきている。

計石駅を出てしばらくすると山間の景色が終わり、開けた田園風景が広がる場所に出た。山を越えて田園地帯、もうここまであらゆる区間で何度も繰り返されてきた光景だ。ただ、ここ越美北線のこの区間だけは違った。

田畑のふちが芝桜で彩られている。めちゃくちゃ綺麗だなこれ。

しかも、この1つの田んぼだけというわけではなく、延々と見える範囲の田畑で芝桜による縁取りがされている。ちょうど芝桜のシーズンということで綺麗な姿をみることができた。

この芝桜と列車の姿を写真に収めようと線路沿いには多くの人がいて、みんなバズーカカメラを構えていた。おそらく良いポイントがあるのだろう。

牛ケ原駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

大野市最初の駅。山を越えて開けた平野が広がる場所にある。ここより大野市の市街が始まっていく。周辺の田んぼを縁取るように芝桜が植えられており、ゴールデンウィークともなると多くの人が訪れる。

駅にもしっかりと芝桜がある。

北大野駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

北大野駅から越前大野にかけて沿線に大野市の中心地が広がる。徐々に住宅が増え、利用者も他の駅に比べればそこそこ多い。

越前大野駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

大野市の中心地にある駅。大野市役所等があり、住宅や商店も多い。日本三大天空の城といわれる越前大野城や城下町の街並みなど見所が多い。湧き水の町でもあり、駅前には湧水スポットもある。

越前大野駅に到着する直前、なんとなくだけれども期待感が高まっていた。なぜならここで混雑が解消される可能性があるからだ。ここで越前花堂駅で見た時刻表を思い出して欲しい。

分かりにくくて申し訳ないが九頭竜湖方面に行く列車は日に8本設定されている。しかしながら終点の九頭竜湖駅までいくのはそのうちの4本。残りの4本はすべて越前大野駅で打ち止めである。

こうして打ち止めになる駅は、そこまでの利用者が見込めるパターンが多い。その先はガクッと利用者が減るから設定されないパターンだ。そうなると越前大野駅の利用者は多いということではないだろうか。

そして、大野市の中心駅であり、観光名所も多い。そうなるとここでゴソッと観光客が降りる可能性がある。つまり満員電車が解消されるかもしれないのだ。さすがにかなり息苦しくなってきたので解消されて欲しい。祈るようにして越前大野駅に期待を寄せた。

うん、まあ、確かに期待通りに観光客風の人が降りたけれども、期待したほどではなかった。満員状態も解消されず、僕と隣のカップルの間隔がちょっと広くなった程度だった。やはりほとんどの人が終点の九頭竜湖駅目当てなのだろうか。そこまでこの状態なのだろうか。

越前田野駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

大野市の外れに位置する駅。手前の越前大野駅で引き返す設定の列車もあるので、これ以降は列車の本数が減る。周囲にはほとんど何もないが、開けているので駅からの景色は素晴らしい。

田野という駅名がしっくりくるほど田と野が広がっている。その向こうではけっこう大掛かりな感じで道路を建設していて大きなクレーンが見えた。何もない駅で困り果ててクレーンを見に行った思い出が蘇る。

たぶんこれは福井から長野県の松本市までを結ぶ中部縦貫自動車道だろう。現在は福井北ICからこの近くの大野ICまで完成していて、そこから伸びるルートだ。

越前富田駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

駅の真横に中学校がある。その周辺にはいくつかの住宅があり、近くには工場もある。

下唯野駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

九頭竜湖に向けて山の中へと入っていく、その手前にある駅。隣の柿ケ島とは駅間が近く、駅のホームから見ることができる。周囲には道の駅「越前おおの 荒島の郷」がある。

このあたりから北の方を眺めると、まだ雪が残る大きな山が見える。なんという名前の山だろうか。方角から考えて白山じゃないだろうか。

柿ヶ島駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

第一九頭竜川橋梁を渡ったすぐ先にある駅。この駅より山間部へと入り、九頭竜湖から伸びる九頭竜川が蛇行を繰り消す区間を走行する。

柿ケ島駅を出ると、やはり景色は一気に山深いものとなった。新緑の木々の隙間からかっこいい建造物がみえてきた。九頭竜川を堰き止めている。なんだろうダムだろうか。それとも水力発電用の堰だろうか。

さらに山深い場所へと進んでいき、長いトンネルを抜けていく。トンネルの暗闇の中で、突如として車内放送が入った。

「本日はご乗車ありがとうございます」

運転手さんの挨拶だ。

「この列車は終点、九頭竜湖駅まで運行いたします」

毎回やっている形式的な挨拶かな。こういう放送があるとテンションが上がるから不思議だ。

「わたくし、このトンネルを抜けた先、左手に見えます景色が大好きです」

突如として自分の好みを語り始めた!

普通、街を歩いていて向こうから歩いてくるおっさんが「わたくしこの先の景色が大好きです」などとすれ違いざまに言ってきたら「なんだこいつ」「お前の好みは聞いていない」となると思うんですけど、こういうシチュエーションで聞くと運転手さんの人間味みたいなものを感じてほっこりするし、その景色に期待が高まりテンションが上がる。

これが運転手さんが大好きな景色だ。確かに美しいね。

トンネルを抜けるとすぐに橋があって、そこを渡りながら渓谷を見下ろす形になる。この橋がなかなか高い。

すごいところを通行する列車だ。

勝原駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

春に咲く線路脇の花桃が有名で、春ごろに咲き誇る姿は桃源郷とも表現される。駅に隣接する勝原花桃の里として150本以上の花桃が植えられている。

桃源郷とまで評される花桃の景色を期待してたけど、残念ながらいまはシーズンではないもよう。

おそらくこれが花桃じゃないかと思う。シーズンを外れたとはいえ、なんとなく桃源郷の残り香みたいなものを感じる。何人か見物の人もいた。

越前下山駅-福井県大野市(無人駅):越美北線

勝原駅より越美北線において最長となる長いトンネルを抜けた先にある駅。周囲には九頭竜温泉がある。

ここ越前下山駅には、駅名標を模した「九頭竜温泉」とう看板があった。こういう看板を建てられると「え、九頭竜温泉駅」なんてあるの? 駅メモ!でアクセスしてないんだけど! もしかして取りこぼした? と焦ってしまう。駅名標を模した看板は心臓に悪い。

終着駅を前にして満員状態は解消されていた。ほとんどの乗客が終点の九頭竜湖駅まで行くこと考えられたが、この越前下山駅と1つ前の勝原駅でけっこうな数の乗客が降りた。みんな観光客というよりは登山やトレッキングといった装いだったので、この2駅からそういった登山ルートがあるのかしれない。

越前下山駅を出た列車は、またトンネルを抜け、そののちにゆっくりとスピードダウンし始めた。

駅が見える。終点の九頭竜湖駅だ。

10:42九頭竜湖駅-福井県大野市:越美北線

運賃:1980円

福井県最東端の駅。越美北線の終着駅。駅舎には道の駅「九頭竜」が隣接しており、コンビニも存在する。本来はここからさらに山を越えて岐阜県の北濃駅まで繋がる予定だったが、計画が中止となったために終着駅となった。簡易委託駅で切符の販売も行っているが、時期未定で委託は解除され無人化される予定。

1時間40分ほどの乗車だった。こういった終着駅で他の乗り継ぎがない盲腸線の怖いところなのだけど、1時間40分かけてきたということは同じ時間をかけて戻らなくてはならないのだ。つまりこの駅をとるには3時間20分の時間を必要とするわけだ。ちょっと難易度が高すぎる。

九頭竜湖駅は活気に満ちていた。駅に隣接している道の駅は多くの人で溢れている。特にバイクできた人が多いようで、たくさんのバイクが停まっていた。

ロッジ風の駅舎にはコインロッカーなどもある。周囲にはコンビニもあり、道の駅は人で溢れている。完全に観光地で、家族連れも多い。

僕もいっちょ道の駅を堪能し、ここから少し離れている九頭竜湖まで散策して景色を楽しみますかね、と思うところのなのだけど、残念ながらそんな時間がない。14分後に発車する福井行きの列車に乗る必要があるからだ。乗り換え時間14分。なにもできない。

これを逃すと次の列車は4時間後だ。これは痛い。朝一番の列車で九頭竜湖に到着し、そこでデートなりレジャーを楽しんだカップルには4時間後の列車がベスト。けれども僕にとってはベストではない。4時間あったら何駅とれると思っているんだ。

40本目 10:56 九頭竜湖発 越美北線(九頭竜湖線)福井行き

1両編成

乗客 10人ほど

当然、乗ってきた車両だった。やはり朝一番で九頭竜湖を離れようなんて人はそう多くないらしく、車内はスカスカだった。

行きと同じ景色を逆再生しながら福井へと向かっていく。その車内で久々のあれを感じた。

「おる」

同じ列車に乗って同じ駅に駅メモ!アクセスしまくる同業者だ。絶対に同業者が乗っている。

実は、行きの列車の中でも同業者の存在に気が付いていた。ただし満員状態で余裕がなかったので、まあ、いるな、程度に考えていた。どうせデートとかファミリー、観光で九頭竜湖に行くついでに、あまり乗ることない路線だし駅メモ!で取っておこうと思ったのだろう、そう思っていた。

けれども、帰りの列車にも同じ同業者がいる。この人も1時間40分かけて九頭竜湖にきて、14分の滞在時間でまた1時間40分かけて帰る。いっさい観光をしていない。何のためか。おそらく駅メモで駅をとるためだけなのだろう。それだけのために乗っている。とんでもない駅メモサイボーグだ。まあ驚いて見せているけどこういう人はけっこう多い。僕もそうだしね。

越美北線の福井に向かう方角は沿線住民の利用が多いようで、行きはあれだけ動きがなかった途中駅でドコドコと人が乗ってきて、福井に着くころには満員になっていた。

 

さて、福井駅に到着するまでの間におさらいしておきたい。永遠に終わらないとまで思われ、途中、何度も精神が崩壊した維持困難路線ぜんぶ取る、だけど、いよいよ4路線を残すのみとなった。

大糸線(糸魚川-南小谷)、関西本線(亀山-加茂)、紀勢本線(白浜-新宮)、岩徳線(尾岩国-櫛ヶ浜)だ。地図に表すとこうなる。

なんでこんな残し方したんだ。

関西本線(亀山-加茂)はまあいいとして、大糸線、紀勢本線、岩徳線がひどい。考えうる限り最大の三角形を形成している。1辺が500 kmはあるよこれ。夏の大三角形じゃないか。どうやってとるのこれ。

絶望しそうになるけど、とにかく目の前のものから片付けていかねばならないので、ここからまあまあ近いアルタイル、じゃないや、大糸線を取りに行くことにする。まあまあ近いといっても他が極悪に遠いだけで大糸線だってここから福井県と石川県と富山県を超えた新潟県にある。普通に遠い。

そして、ちょっと車内で調べたところ、効率的に大糸線を取るには福井駅でタイトな乗り換えがあるようだ。これを逃すとちょっと厳しい

この列車は12:23に福井駅に到着する予定だ。そこから12:35のサンダーバードに乗って金沢へ。そこから北陸新幹線で糸魚川駅というプランを立てた。そのためには福井駅での乗り換え時間が12分。ただし、この後どういう展開になるか判明していなかったので福井から先の切符を購入していない。それを購入することを考えるとギリギリの乗り換えだ。

少しでも到着が遅れようものならまた旅程が崩壊してしまう。

少しだけはやる気持ちがあったけれども、まあ、列車は順調に動いているし、遅れそうな要因もない。このままいけば大丈夫だろうと安心しきっていた。そこに落とし穴があった。

福井駅の1つ前、朝方に僕が乗り込んできた越前花堂駅でことが起こった。

おそらくこの駅で降りて敦賀方面の列車に乗り換えようとした5人くらいの団体が、降りるときに揉めていた。この列車はワンマン運転なので、途中の無人駅では基本的に前のドアから降りて運転手に運賃を払う。運賃箱も簡素なもので、整理券の番号を見て運賃を投げ込むだけのものだ。

なぜか、5人組は運賃をICカードで払おうとした。もちろん、そんな設備は搭載されていない。「え、IC使えないの?」「現金になっております」「現金ないよ」「5人分まとめて払おう」「1万円札しかねえ」みたいに揉めていた。これがワンマン運転の怖いところで、料金のことでゴタゴタすると列車が遅れる。普通の駅なら改札で揉めるだろうけど、ワンマンの場合は運転手が対応するので列車が停まる。遅れる。

うおー、やべー。旅程が崩壊するー!

気が気じゃなかった。

12:27 福井-福井県福井市:北陸本線

福井駅に到着した。結局、5分遅れの到着となった。乗り換え時間は7分。もう切符を買いに行っている時間はない。

41本目 12:35 福井発 サンダーバード17号 和倉温泉行き

車両多数

乗客多数

もう仕方ないのでそのままサンダーバードに乗り込み、車内で車掌さんから乗車券と特急券を購入した。

途中、新幹線の加賀温泉駅が見えた。もう完成している。北陸新幹線が伸びてくる準備が整っている。

ちょっと分かりくいけど、青い山の向こうに、もう一段高い白い山々が見える。方角的に考えて立山連峰だろうか。

ちなみにサンダーバードはけっこう高い確率で窓ガラスが汚いので、車内から撮影すると画像が濁る。

13:23 金沢-石川県金沢市:北陸新幹線、北陸本線、IRいしかわ鉄道線

運賃:3510円(自由席特急券1200円含む)

金沢駅はものすごい混雑だった。信じられないレベルで混みあっている。ずっとローカル線にのっていて、閑散とした場所ばかり見ていたものだからすっかり感覚がバグっており、この人混みをみて「人類、繁栄しすぎでは?」と訳の分からない感覚に襲われていた。

ちょっと乗り換え時間があるのでここらで食事でも、大きな駅だからたくさん飲食店あるしね、と思ったけど、あらゆる飲食店が長蛇の列になっていたので諦めた。つくづく食事に縁がない。

42本目 13:20 金沢発 北陸新幹線はくたか 東京行き

車両多数

乗客多数

車内は乗客で満たされていた。金沢観光を終え、東京へと帰る人が多い印象を受けた。みんな山盛りのお土産物をもっている。そういや僕はこういう移動でお土産物を買ったことがない。移動に次ぐ移動でお土産なんて買おうものなら荷物になるからだ。かろうじて最終目的地で買うことができるけど、たいていは信じられない時間に到着するので購入できない。食事にも縁がなく、お土産も購入しない、ただただ駅を取るのみ、ほんと駅メモサイボーグみたいな存在だな。

新幹線の車窓から大きな川が見えた。お、糸魚川かなと思ったのだけど、よくよく考えたら糸魚川市には糸魚川が流れていそうだけど、そもそも糸魚川という川は存在していない。これは姫川という川だ。実は、これから乗る大糸線は、ローカル線は川に沿っての定説通り、この姫川沿いに走っている。つまり、またここに戻ってくるということだ。

14:47 糸魚川駅-新潟県糸魚川市:北陸新幹線、日本海ひすいライン、大糸線

運賃:5280円(新幹線指定席特急券2970円含む)

糸魚川市の中心駅・代表駅で、えちごトキめき鉄道とJR大糸線、北陸新幹線が乗り入れる。JR西日本では新潟県内で唯一の有人駅であり、JR西日本の有人駅で最東端になる。

糸魚川駅に到着した。ついにここまで来てしまった。

はるか向こうに険しい山々が見える。こちらの出口には「アルプス口」と名付けられているので日本アルプスだろう。

ここ糸魚川駅の駅舎はさまざまな施設があるようでかなり時間を潰せる。

キッズたちが遊ぶゾーンがある。

ジオラマ鉄道模型ステーションなるものもある。いずれも入場無料のようだ。

プラレールのすごいやつがあったりする。

鉄道模型の規模も大きい。運転台がついていて模型を動かせるみたいだ。

列車が展示されているゾーンはオープンカフェみたいになっていて、地元の高校生が試験勉強をしていた。展示している車両はこれから乗る大糸線の古い車両みたいで、中に入ることもできる。

このように見所の多い糸魚川駅だけれども、僕にとって最大の見所はやはり大糸線だろう。それは維持困難路線だからというわけではなく、この大糸線の「糸魚川-南小谷」が在来線におけるJR西日本の飛び地だからだ。

 

このように、大糸線以外の在来線ホームは見慣れない駅名標が掲げられている。これは第三セクター鉄道である「えちごトキめき鉄道」のものだ。ここを通っていた北陸本線は、北陸新幹線が延伸した時に「えちごトキめき鉄道」へと移管された。金沢駅以降の北陸本線はすべて第三セクター鉄道となったため、ここにJR西日本の路線はない。

この駅から伸びる大糸線だけがJR西日本の在来線であり、それも南小谷からはJR東日本となるので、本当にここだけ孤立していてJR西日本の在来線飛び地になっている。この飛び地を見たかったんだ。

さて、見所たくさんの糸魚川駅を後にし、孤立した在来線である大糸線へと乗り込んでいく。

案内の看板があった。立体的に描かれた大糸線の路線地図だ。山々を表す影の描写が濃い。彫りが深い。かなり濃厚な場所を走る路線のようだ。

43本目 15:13 糸魚川駅発 大糸線 普通 南小谷行き

1両編成

乗客40人ほど

南小谷まで行く列車は1日に7本ほどの設定だ。予想していたより多い。車内は完全に満員で、全ての座席が埋まっていた。その乗客も、買い物袋を持ったお婆さん以外は全員が狂ったように車両の写真を撮っていたので、ほとんどが観光客と剛の者なのだと思う。日常的に使っている乗客は1人しかいなさそうだ。

車両が動き出すと車内はヒートアップした。ほとんどが剛の者なので撮影に余念がない。そんなもの撮ってどうするんだという沿線のコンビニの看板まで撮っていたのでそれは熱狂に近かったと思う。

大糸線(糸魚川~南小谷)営業係数2693

長野県松本市の松本駅から新潟県糸魚川市の糸魚川駅に至る路線。路線の途中で鉄道会社が変わり、南小谷駅 – 糸魚川駅間がJR西日本、南小谷駅-松本駅がJR東日本となる。鉄道会社の境界で運行も切り離されており、南小谷駅を越えて運行される定期列車は現在のところ存在しない。

糸魚川市の市街地を抜けると列車が大きくカーブして山へと向かい始める。そこに次の駅があった。

姫川駅-新潟県糸魚川市(無人駅):大糸線

糸魚川市が全額負担して建設された請願駅である。経営難によって閉院した大型総合病院である姫川病院の開業に合わせて作られたともいわれている。近くにはひすいの湯という入浴施設がある。

姫川駅周辺はまだ糸魚川市の市街地のようで、住宅なども多い。ぜんぜん関係ないけど僕の前に座った人が目に痛いくらい赤いジャンパーを着ていて、思いっきり窓ガラスに反射するので困ってしまった。まさか脱げともいえないし、移動しようにも良いポジションはだいたい歴戦の猛者どもに取られてしまった。しかたないのでここにいるしかない。これ以降、赤が入らないような角度を試行錯誤しての撮影が続く。

上手くやればこうやって反射を抑えて撮影できる。それにしても遠くに見える山々の迫力がすごい。

頸城大野駅-新潟県糸魚川市(無人駅):大糸線

頸城(くびき)とは新潟県西部の地方名で、上越地方にほぼ相当する。

車窓から見える山の迫力がいままでに経験したことがないレベルだ。山! って感じの山が間近に迫ってくる。

根知駅-新潟県糸魚川市(無人駅):大糸線

大糸線のJR西日本側では唯一列車交換が可能な駅。周囲にはフォッサマグナパークがある。これは、この地を通る断層(糸魚川静岡構造線)を人工的に露出させて断層の状態を見学可能にしたもの。このパークは冬の間は閉鎖される。

根知駅を超えると、どんどんと山深い場所へと入っていった。この付近は姫川を近くにみることができる。

僕は今までにこんなにも白くなった川を見たことがない。川全体が波しぶきみたいになっている。水の勢いがあって浅くて広いからこんな流れ方をするのだろうか。

やはりこういった感じの川は初めて見る。すごく迫力がある。あとやはりすごく反射する。もう別に反射してもかまへんわ。諦めた。好きなだけ反射してくれ。

小滝駅-新潟県糸魚川市(無人駅):大糸線

近くに住宅などはない。姫川渓谷に存在する駅で、周囲には発電所などがある。駅から離れた場所には小さな集落があるが、そこに向けた駅というよりはおそらく発電所に向けた駅だ。

それでもやはり赤い服が反射しすぎだと思う。

本当に川が白い。波しぶきみたいになっていて白い。めちゃくちゃかっこいい川だな、姫川。

平岩駅-新潟県糸魚川市(無人駅):大糸線

県境に位置しており、駅そばの姫川を渡ると長野県となる。この区間においては姫川と県境が一致しており、蛇行する姫川を渡るたびに県境を越えることとなる。駅周辺には姫川温泉があり、姫川の長野県側、新潟県側どちらにも温泉施設がある。

この川沿いにある温泉が良い感じだった。デカデカと「日帰り」と書かれた看板があったので日帰り入浴も可能なのだろう。時間に余裕さえあれば是非とも立ち寄りたいところだ。

北小谷駅-長野県小谷村(無人駅):大糸線

長野県最北の駅。駅から川を渡ったところに国道が通っており、そこに「道の駅 小谷」がある。

北小谷がきたということは、この列車の終着駅である南小谷駅が近いということだろう。

中土駅-長野県小谷村(無人駅):大糸線

JR西日本最東端の駅。駅名は駅周辺の集落名である「中谷」と「土谷」の頭文字を合わせた地区名に由来する。

南小谷駅が近づいてきた。本当に最初から最後まで白い波しぶきで一貫してかっこよかったな、姫川。

南小谷駅-長野県小谷村(無人駅):大糸線

在来線では唯一のJR東日本とJR西日本との境界駅。これより先の大糸線は電化されており、JR東日本の管轄となる。周囲には村役場もあり、川沿いに飲食店なども立ち並んでいる。

さて、これにて大糸線クリアである。

維持困難な路線の指定がここ南小谷駅で終わっているのは、この路線のこれより先の区間で利用客が多く維持できそうというわけではない。おそらく維持は難しいだろう。ただ、ここより先はJR東日本の管轄になるからJR西日本の発表に含まれていないだけだろう。

南小谷に到着するとすでに松本駅に行く電車が待ち構えていた。ここからはJR東日本の区間であり、おまけに電化されている。車両編成も多い。

南小谷に降り立った剛の者たちはほとんどこの松本行きの車両に乗り込んだ。大糸線を乗りとおすつもりなのだろう。僕も本来はここから大糸線を乗り継いで松本まで行き、そこから名古屋へ突き抜けるつもりだった。ただ、残念ながらここでタイムアップで、東京での仕事のために戻らなくてはならなくなった。

東京に戻るには、大糸線を引き返して糸魚川から新幹線に乗ったほうが速そうなので、そちらで帰還することとする。

6日目は、ここから名古屋に移動したと想定し、数日の間をあけて名古屋から再開する。

 

乗ってきた列車にそのまま乗り込む。列車はあれよあれよという間に満員になった。南小谷駅で引き返す剛の者はいなかったけど、松本方面から乗ってきた剛の者が乗り込んできたのだ。いよいよ発車が近いとなったその時、事件が起こった。

さきほどまで南小谷までの列車に一緒に乗っていた剛の者がものすごい勢いで駆け込んできた。

「すいません! ここにSDカード落ちていなかったですか!!!?」

どうやら各地で撮影した列車の画像や動画が入ったSDカードを落としてしまったようなのだ。松本行きのほうの車両に乗り込んでいたけど、すんでのところでSDカードがないことに気付いたようだ。めちゃくちゃ焦って駆け込んできた。もうスパイダーマンみたいになって床とかを探している。

僕自身も、今まで撮影してきた取材画像が入ったSDカードをなくしたと考えると気絶しそうになる。それは彼も同じだろう。そして、車内の剛の者も同じ気持ちだった。みんなスパイダーマンみたいになって探す。

それでも、南小谷から松本へと向かう列車の発車時刻が近づいてきた。こちらの列車も発車しそう。彼は松本へと向かう方の列車に乗りたい。はやくこの列車を降りて向こうに飛び乗らなくてはならない。いよいよもうダメだか、誰もがそう思いかけた時だった。

「お兄さん、ひょっとしてこれかい?」

剛の者の手にはプラケースに入ったSDカードが。

「ありがとうございます! 助かりました!」

剛の者が受け取る。

「きにしないで。気持ちは同じさ」

剛の者と剛の者はハイタッチ。すげーかっこよかった。ティーダとジェクトのハイタッチみたいだった。

 

ということで5日目のまとめはこちら!

制覇した維持困難路線(累計27/30)

小浜線(東舞鶴-敦賀)、越美北線(越前花堂駅-九頭竜湖)、大糸線(糸魚川-南小谷)

アクセス駅数 127駅(累計570駅)

総移動距離 466km(累計2195 km)

5日目にとった3路線は長かったり盲腸線だったり飛び地だったりでいずれも難易度が高いものだった。それでも残り3路線!

6日目につづく

【次のページ】6日目

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