JR西日本が発表した”維持困難な17路線30区間”ぜんぶ乗ってきたので狂ったように紹介する_PR【駅メモ!】

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【7日目】 5:00 和歌山県和歌山市 和歌山城前

ということで威風堂々とそそりたつ和歌山城から最終日が始まります。残す区間は「白浜-新宮」のみ。下手したら一生終わらずライフワークになるんじゃないかと絶望した旅もラストだ。

ここ和歌山城は和歌山駅から大きく離れている。ほとんど駅の周辺しか登場しないこの種の旅では珍しいほど駅から離れた存在だ。なぜこんなところにいるかというと、前泊のホテル選びに失敗したからだ。

和歌山市に前入りし、適当にホテルを取ったら駅から死ぬほど離れた場所で、和歌山城のそばにあるものだった。和歌山駅から30分は歩いたと思う。30分歩いてホテルに到着したということは、あくる朝も30分歩いて駅まで行かねばならないということでこんな早起きになってしまった。

和歌山駅-和歌山県和歌山市:紀勢本線、阪和線、和歌山線、和歌山電鐵貴志川線

ということで和歌山駅にやってきた。和歌山市はこれ以外にも和歌山市駅という間違いやすい存在があるので注意が必要だ。ホテルの件といい駅の件といい、和歌山は町全体がトラップみたいなもんだな。

昨日の夜遅くにこの和歌山駅に着いた時には、ヤンキーみたいな連中がスマブラみたいに大乱闘しておりなんて治安が悪いんだと驚愕したけど、早朝ともなれば静かなものだ。人の姿もほとんどなく、鎮まりかえっている。

56本目 6:04 和歌山駅発 紀勢本線普通 紀伊田辺行き

(54、55本目は和歌山までの移動)

2両編成

乗客多数

紀伊田辺までいく列車に乗って維持困難区間が始まる白浜駅を目指す。乗客は多い。ほとんどが通学需要かと予想していたら、高校生の姿はそう多くはなかった。代わりに通勤と思われる人々が多く、座席はほとんど埋まっていた。

多くの人々を乗せた列車は朝の和歌山を海沿いに南下していく。街並みを抜けるとすぐに、山と海に挟まれた景観へと変わっていった。

途中の初島駅あたりの工業地帯の風景はなかなか見ごたえがあるものだった。

印南という駅ではめちゃくちゃ沢山の高校生が乗り込んできた。和歌山市からの通学需要はそうないけど、田辺市付近になってくると通学需要が生まれるようだ。

7:48 紀伊田辺駅-和歌山県田辺市:紀勢本線

1時間40分ほどの乗車で紀伊田辺駅に到着した。白浜を目指すにはここからさらに乗り換えが必要だ。かなり遠いといった印象だ。

57本目 7:50 紀伊田辺発 紀勢本線普通 新宮行き

2両編成

乗客多数

ここ紀伊田辺駅から白浜駅を飛び越えて一気に新宮まで行く列車だ。つまり、この旅において最後の列車となる。

乗り換え時間は2分とかなりタイトなスケジュールだけど、到着した列車の前から出るのでそう苦しくはない。ただ、駅名標を撮影する暇がないほどの忙しない乗り換えだった。

車内は高校生だらけだった。というか、高校生しかいなかった。9割は高校生といったところだろうか。時間帯の問題もあるだろうけどここまで通学需要が高いとは思わなかった。これだけ高校生比率が高いと自分も高校生になったような錯覚を覚える。

高校生たちは2駅程度しか乗っておらず、途中の朝来(あっそ)という駅でぜんぶ降りた。この紀勢本線は紀伊田辺駅から単線のワンマン運転といういつものやつに変わるので、降りるときに運転手に定期を見せなくてはならない。車内にいた大量の高校生が一列になって定期を見せていく。その列は隣の車両まで伸びていた。かなりスピーディーにやっても全員降りるまで5分はかかったと思う。

白浜駅-和歌山県白浜町:紀勢本線

南紀白浜アドベンチャーワールドの最寄り駅であり、日本三古湯のひとつである白浜温泉の玄関口でもある。白浜の中心市街地からは7 kmほど離れている。

白浜駅に到着した。いよいよここから維持困難路線へと入っていく。それにしても、いつもおなじみの駅名標がフェンスに貼られているという珍しい状態になっている。普通はこういうところには貼らない。なかなか見ることのない駅名標の裏側を撮影できてしまった。これは月と同じでなかなか裏側を見せることのない看板なので貴重だ。

白浜駅じたいは内陸にあり、しばらくは山の中の風景だと思っていたら突如として目の前に海が広がったりする。そんなダイナミックな場所を走っていく。いよいよ最後の区間の幕開けだ。

紀勢本線(白浜~新宮)営業系係数525 輸送係数608/

三重県の亀山駅から和歌山県の新宮駅を経て和歌山市駅まで至る路線。新宮までをJR東海が管轄し、それ以降をJR西日本が管轄する。新宮駅と和歌山駅の間には「きのくに線」という愛称がついている。紀伊半島を海沿いに走る路線で、とくに該当区間のほとんどが海岸線と山に挟まれた場所である。

紀伊富田駅-和歌山県白浜町(無人駅):紀勢本線

駅舎は比較的新しい。世界遺産「熊野古道」における6つある道のひとつ大辺路の富田坂が付近にある。駅前には商店街もある。

もうずいぶんと前、それこそ大量の高校生が降りた朝来駅から車内は閑散としていた。どれだけ閑散としているかというと、僕の乗る前の車両は3人ほどの乗客がいるが、後ろ車両は1組の親子連れがいるだけだ。子供2人がつり革でオラウータンみたいになって遊んでいた。それくらい閑散としている。

そもそも白浜から新宮までは恐ろしいほど遠い。間に24個も駅があり、乗車時間も2時間30分にのぼる。あまりに遠すぎるのでこの区間は特急列車がメインとなる。普通列車に乗り込む人はそういないのだ。

ちなみに紀伊富田駅はこのようにオシャレな飾りが施されたメルヘンチックな駅舎だ。

そして駅から見える風景がこんな感じで、一面の田園風景がひろがっている。

椿駅-和歌山県白浜町(無人駅):紀勢本線

椿温泉の玄関口。ただし、その温泉街の中心部とはかなり距離が離れている。周囲を山に囲まれた何もない場所に佇むため、しばし秘境駅とも呼ばれる。

椿駅に到着した。「つばき」という駅名はなかなか粋で良い。

椿駅の構内にはこのような車両が停まっていた。おそらく線路に敷く石(バラスト)を運ぶ車両なんじゃないかと思う。基本的には単線なのだけど、この部分には保線用の線路が敷かれている。

紀伊日置駅-和歌山県白浜町(無人駅):紀勢本線

白浜町日置川地区唯一の駅だが、その中心部からは離れている。古い木造の駅舎があるが、その古さの割には天上が高くオシャレ。

ここ紀伊日置駅にも保線用の設備があって、線路の石が山のように積み上げられていた。

周参見駅-和歌山県すさみ町(無人駅):紀勢本線

すさみ町の中心駅で特急列車が停まる。2001年に建て替えられた駅舎には「すさみ町民コミュニティープラザ」が入る。周参見集落の中心にあり、周辺に住宅が多い。

周参見駅の駅舎はちょっと独特で、綺麗でポップなペイントがなされている。なかなかの大作だぞ、これ。

周参見駅を過ぎると車窓の景色は一気に海めいてくる。海、そして山、そこに集落があって駅がある。これまでに繰り返されてきた沿線の風景が始まりそうだ。

見老津駅-和歌山県すさみ町(無人駅):紀勢本線

1つ前の周参見駅からの駅間距離が10 kmもある。駅舎にはすさみ町観光協会カフェが入っている。かつては駅舎内にミニ水族館があったが現在は別の場所に移っている。

この見老津駅の駅名標を撮影していて気づいたのだけど、背景に写る景色、海の色と空の色が同じでその境界線が分からない。たまたまそうなのだろうけど、どこからが海でどこからが空か分からない風景はちょっと幻想的だ。

江住駅-和歌山県すさみ町(無人駅):紀勢本線

前後数駅の周辺は紀伊半島の先端が近く、海外線ギリギリまで山が迫る地形である。山と海の隙間にわずかにできた平野に集落が形成され、そこに駅ができる傾向がある。江住駅もその典型のようなロケーションに位置する。駅前には商店がいくつかあり、少し行けばコンビニや道の駅もあるため他の駅に比べて利便性が良い。

和深駅-和歌山県串本町(無人駅):紀勢本線

駅の眼下に海が広がる。すぐ近くに南紀熊野ジオパーク 串本町 和深海岸という砂浜が広がっており、少し高い位置にある駅のため砂浜を含む海の景色が良く見える。

この周辺ではこのような小さな漁港をたくさん見ることができる。漁港マニアの僕としてはなかなかたまらない光景だ。

田子駅-和歌山県串本町(無人駅):紀勢本線

周囲にはいくつかの集落がある。駅の前の海は岩礁が発達しており、釣り客で賑わうこともある。海岸線から比較的近い位置に小さな島が点在しており眺めが良い。

田子駅周辺の海岸線は岩がゴツゴツし始める。

車内の乗客は6人ほどだった。相変わらず後ろの車両では子どもがオラウータンみたいになって遊んでいる。僕などは、この周辺で見せる岩礁の景色がダイナミックなので、興味津々に海をのぞき込んでいるのだけど、他の乗客は微動だにしない。きっと見慣れているのだろう、だから僕以外の乗客は地元の人で、日常的にこの路線を使っているんじゃないだろうか。

田並駅-和歌山県串本町(無人駅):紀勢本線

海沿いの小さな集落にある駅。駅近くには「田並劇場」と呼ばれる施設があり、映画上映会、音楽ライブ、イベント、展覧会などが行われ文化の発信と交流の基地となっている。

紀伊有田駅-和歌山県串本町(無人駅):紀勢本線

小さな集落にある駅。周囲には海中水族館がある。駅舎の内と外がアートに彩られている。天井に描かれた絵は一見の価値ありとのこと。

僕の位置からはアートが施された駅舎がなかなか見えなかったのだけど、駅名標の裏に垣間見える姿だけでもかなりアートなことがわかる。列車が動いて通り抜ける瞬間を狙って撮影したのだけど、この駅で降りたおっさんの頭しか写らなかった。

串本駅-和歌山県串本町:紀勢本線

本州でもっとも南にある駅。JR西日本が管轄する駅でももっとも南になる。周辺は串本の中心街となっている。本州最南端の地となる潮岬や紀伊大島などの観光地の最寄り駅ではあるが、駅からは大きく離れているので別の交通機関の利用が必要。

この串本駅で11分の待ち時間があるとのことだった。どうやら新宮の方から特急列車がやってくるので、それを待つようだ。車内にいた乗客はこの駅ですべて降りた。どうやら周辺の中心的役割を果たす駅のようで、ここで買い物などをするのだろう。

それらの乗客が姿を消すと、そこは静寂に包まれる。駅とは人が集まり、騒がしい場所、という印象があればあるほど、ここでの静寂は印象に残る。小さな無人駅でもなく、複数のホームを持つ大きな駅だ。そこに僕しかおらず孤独で、音すらも僕を孤独に誘ってくれるのだ。

大きな音をたてて反対側から特急列車がやってきた。新大阪駅までいく列車のようだ。6両くらい車両があって、すれ違いざまに乗客を数えてみたのだけど3人しか乗っていなかった。きっと白浜や紀伊田辺、和歌山あたりでゴソッと乗ってくることを見越した車両数なのだろうけど、さすがに6両の特急に3人はきつい。

紀伊姫駅-和歌山県串本町(無人駅):紀勢本線

小さな駅舎があるだけの無人駅。駅名は近くにある姫集落からとっている。駅から海が見える。

「姫」というかわいらしい駅名にかわいらしい小さな駅舎だ。

串本駅ですべての乗客が降りてついに貸し切り状態がはじまるかと思ったけど、列車の発車時間に合わせて数組の乗客が乗り込んできていた。年配の夫婦に、比較的わかめのカップルだ。

「姫だって、かわいいね」

「よしみのほうがかわいいよ」

みたいな会話をしているに違いないベタベタしたカップルだった。

同じ色をした空と海。境界の分からないそこに小さな島々があってその境界の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。しばらくはそんな景色が続いた。

古座駅-和歌山県串本町(無人駅):紀勢本線


古座川の河口付近にある駅。近隣の無人駅に比べて駅舎が大きく、構内も広い。2021年に無人化された。特急の停車駅でもある。周囲の集落は大きいので近隣の無人駅に比べると利用者が多い。

古座駅の駅舎は比較的大きかった。そしてホームから少し離れた場所にあるようで、その間の構内踏切を渡っていくようになっていた。

そしてこの駅にもバラスト満載の保線設備がある。ちょっと多すぎないか。さっきから数駅にひとつの間隔でこういった設備がある。いままでこんな高頻度で存在したことはなかったような気がするのだけど、なにか理由があるのだろうか。

古座駅を出発すると、また海岸線を走り、岩礁が自己主張するエリアが見えてきた。その時、車内の異変に気付いた。

どうやら古座駅で新しい乗客が乗ってきたのだけど、その乗客が剥き身の自転車を引き連れ、カラカラと押して乗車してきたのだ。僕は四国に行った際に、折り畳み自転車を列車に持ち込んでいたのでその苦労を知っている。鉄道に自転車を持ち込む際は、自転車が剥き身になってしまわないように解体し、梱包する必要がある。これがかなり苦労するのだ。それなのにこの人は剥き身でカラカラいわして車内を闊歩してきやがる。とんでもない無法者が現れやがった。

とおもったらそうではなく、これは「きのくに線サイクルトレイン」というサービスらしい。自転車を解体せず電車にそのまま乗せられて、追加料金不要、乗車券のみで持ち込みOK、しかも事前予約不要というめちゃくちゃ便利なものだ。これなら解体や梱包といった手間がないのでかなり気軽に自転車を持ち込むことができるじゃないか。自転車乗りのみなさんは是非ともこのサービスを利用して欲しい。

紀伊田原駅-和歌山県串本町(無人駅):紀勢本線


この区間は海岸ギリギリまで山が迫る地形が続く。川が海へと流れ出る場所だけ、平地ができ、そこに集落が形成される。紀伊田原駅はその典型のようなロケーションにある。

紀伊浦神駅-和歌山県那智勝浦町(無人駅):紀勢本線

大きな入り江である玉之浦のいちばん奥に開けた集落に駅が存在する。波のない静かな入り江の景色を楽しむことができる。

紀伊浦上駅、まず駅舎の雰囲気がいい。何かの映画に仕えそうな佇まいだ。

そしてこののどかな風景が良い。このあたりは大きな入り江になっていてほとんど波のない穏やかな海が広がっている。そこに寄り添うように家々が建てられていて集落を形成している。その落ち着いた景色が最高なのだ。

「あー、ここで1週間くらい釣りだけをしてあとは何もせずに過ごしたい」

そう思うだけの風景があった。本当にここで降りてそれやってやろうかと思ったくらいだ。

釣りだけをして過ごすといっても、3日くらいすると急に暇になってくる。そろそろ残りの駅を取らないとSPOT編集部のヤツらも泣くだろうなと重い腰を上げたとき、一人の女性と出会う。サナだ。

「ねえ、静かでいいところでしょ、すきなんだ、この町」

サナは屈託のない笑顔でそう言った。

「3日前くらい前からずっといるけど釣れてないよね?」

無遠慮に僕のバケツを覗き込む。

「釣れる釣れないじゃないよ、ゆっくりした時間を過ごすことが大切なの」

僕の言葉にサナは寂しそうな表情を見せた。

「この街に来る人はみんなそう言うね。そして、しばらくしたらいなくなっちゃうんだ」

「残りの駅を取らないとSPOT編集部の奴らが泣くからね。別にそれでもいいけどまあ、引き受けた以上はね。だから俺もしばらくしたら旅立つよ」

「そっかあ、いいなあ」

「サナだって旅立てばいい。大阪だって名古屋だって特急に乗ればいける。東京にだっていけるよ」

「わたしは、いけないよ……」

サナは波のない海を眺めていた。

その夜、異変が起こった。何か妙な胸騒ぎがして目が覚めると海が赤く燃えていた。その中心にサナの姿があった。

「サナ!」

よくよく見ると、入り江の周りに立つ家々の形が見たこともないものに変わっていた。

「ここはもといた世界と違う?」

「そう、ここは異世界。水の神サナルバストリ様が治める世界。水の都」

「異世界だか何だか知らないけどなんでそんなことになっているんだ!」

サナは僕を見てニッコリと笑った。

「わたしはこの世界で忌み嫌われる存在なの。太陽の日に生まれた忌々しき子ども、サナって名前はこの世界ではそんな意味があるの」

「忌々しき太陽の子どもが持つ能力は、別の世界に行って誰かをこの世界に引っ張ってくるだけ。それも静かな海がある場所にしか行けない。そこでサナルバストリ様への生贄を見つけてくるの」

「じゃじゃあ、俺を生贄に異世界に召喚したってことか……?」

サナは首を横に振る。

「できなかった……どうしてもできなかった。だから私がこうしてサナルバストリ様に……」

「やめろサナ!」

サナはにっこりとほほ笑む。

「残りの駅、取れるといいね」

「やめろーーー!」

その瞬間、僕の体が光り輝いた。溢れ出す眩いばかりの光が優しくサナの体を包み込む。

「もしや、あなたは古の勇者!?」

「わからん。俺はただ全国の維持困難路線を巡って駅を取るだけの男だ。でも、サナだけは守りたい」

「ああ、この光はまさに勇者様」

「一緒に戦うぞ! サナ!」

(この世界では勇者と一緒に戦う女性をヤハウェと呼び、とても栄誉なこと。長い歴史のいて忌々しき太陽の子がヤハウェに選ばれたことはない)

「ふはははははは! 愚かな人間どもよ!」

「でたなサナルバストリ!」

「いくぞサナ!」

「はい!」

気が付くと、僕は現実世界に戻っていた。こんなにも晴れているのに全身はずぶ濡れだ。

「勝った……のか……?」

周囲を見渡す。

「サナ……」

小さく呟いたが、そこ呼びかけに答えはなかった。

ということを想像してしまうくらいこの入り江の風景を気に入ってしまった。本当に1週間くらい休みを取って行きたい。サナに会えるかもしれないし。

下里駅-和歌山県那智勝浦町(無人駅):紀勢本線

海岸線から内陸に向かって比較的大きな集落が形成されている。海岸線からやや内陸に入った場所に駅が存在する。周囲には古墳もある。

太地駅-和歌山県太地町(無人駅):紀勢本線


特急停車駅。太地町の駅でありながら太地町の中心からは大きく離れている。2021年に新しい駅舎となっている。大きなクジラの絵などが描かれたホームは、他の駅にはない雰囲気を演出している。

この太地駅のホームは圧巻で、海の中の絵が思いっきり描かれていて、おまけにこの絵の部分には日が入ってこなくて暗いので、本当に海の底にいる気分になってくる。本当にこの絵の部分だけ雰囲気が違っていて圧倒される。こりゃすげえよ。

湯川駅-和歌山県那智勝浦町(無人駅):紀勢本線


目の前が海水浴場であり、ホームから海が望める絶景駅としても知られる。

本当に目の前が海水浴場なので駅名標の向こうに砂浜が見える。

全国には様々な場所に「海から最も近い駅」をアピールしている場所があるけど、この駅も本当に近い。ただ、そこまで海から近いことをアピールしていない気がする。

紀伊勝浦駅-和歌山県那智勝浦町:紀勢本線


大阪と名古屋からほぼ等距離にある駅。千葉の勝浦駅と区別するために「紀伊」がつけられている。那智勝浦町の中心部にあり公共機関も近くに存在する。周辺の観光地への玄関口としての側面も持っており、太地町中心地へのアクセスが良いとは言えない太地駅を利用せず、この駅からアクセスする人もいる。

紀伊天満駅-和歌山県那智勝浦町(無人駅):紀勢本線


前後どちらの駅とも駅間距離が近い。この路線においては古い小さな駅舎であっても木造ではなくコンクリート造であることが多い。この駅の駅舎もそれに該当するコンクリート造り。

天満って駅名だからたぶん駅の近くに天満宮があるよって思っていたら、本当に駅の真裏にあった。

たぶんフェンスの向こうに見えるのが天満宮。

那智駅-和歌山県那智勝浦町(無人駅):紀勢本線

那智観光の拠点であり、熊野那智大社や那智滝に最も近い。駅舎も熊野那智大社を模したデザインになっている。駅に隣接して「道の駅なち」がある。ただし特急は停まらない。

駅に隣接して「那智駅交流センター 丹敷の湯」がある。時間さえあれば入っていきたいくらいだ。

宇久井駅-和歌山県那智勝浦町(無人駅):紀勢本線

もともとは島でありながら砂州の形成によって陸と繋がった陸繋島である宇久井半島がある。その付け根部分に駅が存在する。半島の岬部分は吉野熊野国立公園に指定されている。

ここにも保線的ななにかがある。絶対に多いと思う。

紀伊佐野駅-和歌山県新宮市(無人駅):紀勢本線

新宮市に入り、沿線に多くの住宅をみることができる。周辺には大型商業施設もある。利用者は周辺の無人駅と比べると多い。

三輪崎駅-和歌山県新宮市(無人駅):紀勢本線

三輪崎港を中心に栄えた漁港の町に駅がある。

三輪崎周辺は完全に街を形成していた。そして駅名標の次の駅表示についに「しんぐう」が現れた。ついについに長かったこの旅もラスト1駅だ。このまま市街地の風景が続き、いつの間にかそれが新宮周辺の街並みに変わっていて到着と思っていたらそうではなかった。

フェイントでなかなか激しい海と山の壮大な自然の景色を挟んで、ついに新宮の街に到着することとなった。

和歌山駅を出てから4時間30分。同じ和歌山県内でこの遠さはなかなかすごい。新宮、ほんとうに到達難度がかなり高い。死ぬかと思った。

10:31 新宮駅-和歌山県新宮市:紀勢本線

運賃:3740円

新宮市の代表駅であり、JR西日本とJR東海の境界駅でもある。駅周辺は新宮の中心地で市街地が広がっている。

ついについにゴール。維持困難区間完全制覇!

 

やったー!ほんとうに一生終わらないと思った。ついにやったー!

 

旅のまとめはこちら。

制覇した維持困難路線(累計30/30)

紀勢本線(白浜-新宮)

アクセス駅数 56駅 (累計1092駅)

総移動距離 179km ※東京-名古屋も含む(累計3818 km)

乗った列車本数 56本

支払った運賃:73,550円(ただし2度の東京往復を入れると133,600円)

 

 

あらゆる思い出は「手遅れ」なのかもしれない。

言い換えれば、手遅れだからこそ、それは僕らの中で思い出になっていく。

僕らはいつも手遅れとなった思い出に振り回されているのだ。

僕が子どもの頃、小さな田舎町の中心に「やよい」というショッピングセンターがあった。今のイオンとかにように巨大なものではなく、ただのスーパーに衣類売り場とゲームセンターと食堂が付いたような小さなものだった。

小さかった頃はそこに連れて行ってもらうのが楽しみだったし、中学生ぐらいになると友達と行くようになり、そこで好きな子を見かけたりもした。まさしく生活と青春の中心が「やよい」だったように思う。

ただ、高校になるとその小さな田舎町の外の高校に行ったこともあり、次第に「やよい」から離れていった。大人になり、いつしか経営母体が変わり「やよい」ではなくなった時もあまりなんとも思わなかった。

いま、その「やよい」があった場所は更地になっている。ポカンと空洞のように町の中心に更地がある。いつなくなったかもわからないくらい自然に、そうであることが運命で決まっていたかのように「やよい」の建物はなくなってしまった。

不思議なことに、なくなって初めて、「そういや“やよい”の中ってどうなってたっけ。あー、写真を撮っておけばよかったなー」と悔やんだ。おそらくその時、はじめて「やよい」が僕の中で「思い出」になったのだと思う。

子どもの頃、ジュエルリングを買って欲しくて母親にねだった「やよい」。初めて友達だけで“やよい”に行った時、ちょっと大人になれた気がした。おもちゃコーナーにファミコンのディスクシステムを書き換え機械が導入され、みんなで見に行った。中学の時、好きな子を“やよい”で見かけドキドキした。ちょっと色気づいてくると“やよい”の整髪料コーナーで試供品のヘアスプレーをつけたりもした。ただ、そのシーンの景色はもう、思い出せない。どんな柱がたっていて、どんな床で、どんな大きさで、どんな階段で、どんな天井で、それらはもう思い出せない。

おそらく人は、思い出せなくなった時に初めて思い出そうと切望する。それが思い出になった瞬間なのだろう。だから思い出はいつだって手遅れだ。手遅れだからこそ思い出なのだ。

今回、僕が訪れ紹介した376駅はすべて誰かの「思い出」がある場所だ。そしてこれらは「単独では維持困難な路線」として廃止、バス転換、三セク化を含めて検討することになっている。

これらを絶対に残せだとか、残すべきだとか無責任なことを言うわけにはいかない。きっと、残る路線もあれば、姿を変える路線、なくなる路線をあるのだろう。たぶん、かなりなくなると思う。そうして今あるこれらがなくなり、姿を変えたとき、はじめてそれが「思い出」になる。それはもう手遅れという状態なのだ。

僕が一緒に旅をしてきた「駅メモ!」には明確なコンセプトがある。現代から遠い未来、移動手段の個人化が進行し、駅や鉄道が消失寸前になっている。それを阻止するために現代で“でんこ”と共に駅の思い出を集める。それが駅メモ!における目的だ。まさに手遅れとなった思い出を集めている。

今回登場した駅や路線に思い出がある人は、それらが手遅れになる前にもいちど見にいってもいいかもしれない。

そして、まったく縁がなかった人も、いちど訪れてみるといいのかもしれない。一度訪れたからこそ、それが手遅れになった時に思い出となる。手遅れというと悪いことに思えるかもしれないが、そうなることは決して悪いことじゃない。怖いのは、手遅れにすら感じずに多くのものが消えていくことなのだ。多くのものは手遅れを感じさせずにひっそりと形を変え、ひっそりと消えていく。

今回、紹介した路線だけじゃない。近所の路線でも駅でも、鉄道である必要もない。僕らはもっと思い出に敏感であり、鈍感でもあるべきだ。思い出が手遅れでやってきたとき、余裕をもって、笑顔で受け止める、それが大切なのだと思う。

だから僕はもっと見たい。もっと経験したい。それらがなくなり、手遅れになるその日まで精一杯、思い出を集めたいのだ。

さあ、手遅れを集めていこう。

おわり

 

 

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