目次
- 3日目
- No.051 那須塩原駅(栃木県那須塩原市)
- No.052 新白河駅(福島県西郷村)
- No.053 郡山駅(福島県郡山市)
- No.054 福島駅(福島県福島市)
- No.055 白石蔵王駅(宮城県白石市)
- No.056 仙台駅(宮城県仙台市)
- No.057 古川駅(宮城県大崎市)
- No.058 くりこま高原駅(宮城県栗原市)
- No.059 一ノ関駅(岩手県一関市)
- No.060 水沢江刺駅(岩手県奥州市)
- No.061 北上駅(岩手県北上市)
- No.062 新花巻駅(岩手県花巻市)
- No.063 盛岡駅(岩手県盛岡市)
- No.064 いわて沼宮内駅(岩手県岩手町)
- No.065 二戸駅(岩手県二戸市)
- No.066 八戸駅(青森県八戸市)
- No.067 七戸十和田駅(青森県七戸町)
- No.068 新青森駅(青森県青森市)
3日目
3日目 4:50 宇都宮駅
さすがに早朝がすぎる。朝5時だぞ、5時。
昨日の23時くらいに宿に入ったので、実質6時間後だ。これはもう宿泊ではなく長い休憩だ。悪夢だと思うけど、悪夢を見るほど睡眠をとっているわけでもない。完全に狂ってる。
なぜこんな早起きを強いられているかというと、始発がその時間にあるからだ。昨日の夜の段階で新幹線のダイヤを調べたら、北に行く新幹線の始発は6時54分。始発としてはまあまあ遅い。ゆっくり休めるぞと思っていたら、在来線の方の始発が5時13分だった。あまりに早い。しかもそれに乗るとかなり効率的に新幹線駅をクリアできることが分かってしまい、起きざるをえなかった。常にベストを尽くすしかなかった。ということでこんな時間になってしまったのだ。
No.051 那須塩原駅(栃木県那須塩原市)
5:13 JR宇都宮線 普通 黒磯行き
やはり5時13分という始発はあまりに早い。これが東京に行く方面なら通勤需要かなと考えるけれども、北へと向かう列車だ。何か特別な需要があって設定されているのかしれない、そう考えたが、特別な需要があるとは思えないレベルで乗客がいなかった。
僕と、あと2人くらいおっさんがいるだけだった。
6:03 那須塩原駅
1時間ほどの乗車で那須塩原駅へと到着した。在来線のホームはひっそりと静かで、ありがちなローカル線の駅といった佇まいだ。ただし、その横にそびえたつ新幹線駅は巨大で圧倒的でなんだか場違いな感じすらする建物だった。
東京近辺の駅ではそこまで感じなかったが、那須塩原までくるとさすがにJR東日本の領域に入ったと実感する。そこでJR東日本が提供するお得なキップについて紹介したい。
<お得情報>
お先にトクだ値スペシャル
http://www.eki-net.com/top/tokudane/
インターネット申し込み限定でJR東日本管轄の新幹線および特急の料金がほぼ半額になるサービス。例えば北海道・東北新幹線「はやぶさ」の東京駅-新函館北斗駅は23,230円が11,610円、北陸新幹線「かがやき」の東京駅-金沢駅は14,180円が7,090円となる。利用期間は8月20日から2021年3月31日まで。発売は乗車日の1か月前の10時から20日前の1時40分まで。インターネット予約サービス「えきねっと」で申し込む必要がある。特急券と乗車券が半額というとてつもなくお得なキップだけど、最低でも20日前の購入が必要なので、急遽実施が決まったこの旅では使えない。あとこまめに下車するこの旅には向いていない。
人がおらず、静かだった。
ピンクの服を着たおばさんがキップ売り場で「自分はどこに行くべきか」とちょっと哲学めいたことをブツブツ言っていたが、いつのまにかいなくなっており、それ以外は誰も乗客がいなかった。お土産売り場もまだ開いていなかった。ただただ静かで、ジリジリと太陽が昇ってくる音が聴こえてくるかと思ったほどだった。
3日目の時点で乗車券はこの状態だ。自動改札を通ることが判明してからずっと自動改札を通しているので、新たに印字されることはないが、今度は自動改札機内の摩擦によってどんどん印字が薄れている。このままでは函館に着くころにはまっさらになっている。あと、やはり自動改札機はキップに与えるダメージが大きい。どんどんヘロヘロになっていく。
駅から見える風景がこれだ。色々あるんだけど色々ない。地方の新幹線駅の典型のような風景が広がる。
看板、ホテル、背の高いマンション、といったものが点在するので決して何もないわけじゃない。けれども、もともと何もなかった場所に新幹線駅ができて、それを見越してそれらが作られるわけだ。そこにはそれ以外の厚みがなく、ただそこにあるだけなのだ。
これは駅を離れて探検してみても「この駅独自のもの」はなかなか見つかりそうにない。もちろん、那須塩原には色々なものがあるのだろうけど、少なくとも徒歩圏内にはなさそう。駅の敷地内で探すしかなさそうだ。
敷地内には巨大な釜のオブジェが置かれていた。その横には和歌が刻まれた碑がある。これは鎌倉時代前期の金槐和歌集のもので、頼朝がここ那須での狩りの様子を想起して詠んだものとされている。
この釜のオブジェ、実はオブジェではなく、実際に調理に使われるようだ。源頼朝が那須野ヶ原一帯で行った大規模な巻狩にちなみ「那須野巻狩祭り」の出陣式において、この大鍋で作られた巻狩鍋が振舞われるらしい。本当に調理に使うのかよってくらい中に落ち葉とかがたまっていたけど、使われるらしい。
<ミッション写真 No.51>巻狩大鍋とレイカ
No.052 新白河駅(福島県西郷村)
6:31発 東北新幹線 やまびこ291号 仙台行き(特急料金860円)
那須塩原始発の新幹線に乗れた。那須塩原始発という設定は大変珍しい。おそらく仙台駅への通勤需要を見越して設定されているのだと思う。とにかく、朝5時から動き出さなければ乗れなかった新幹線だ。早起きした甲斐があったというものだ。
ただ、日曜日ということもあってか、特に乗る人はおらず、完全に貸し切りだった。新幹線貸し切りってなかなか珍しい体験だ。
6:41 新白河駅
チェックイン画面をキャプチャし忘れてしまった。
新白河の駅は、ホームから町並みが望める。比較的に住宅地の中にあるようだ。ここにきて気が付いたのだけど、東北新幹線になってから駅名を示すホームの駅名標が少なくなったように思う。これまでは新幹線を降りてからちょっと歩けば見つかったが、けっこう歩いて探さないと見つからなくなってきた。
駅の構造が那須塩原駅にとても似ている。けっこう高い位置に新幹線ホームがあり、その下を補うように駅舎があるパターンだ。新幹線駅は一気に建設するので、そのときの流行りみたいな感じで周辺の駅と構造が似てくる、という仮説を以前に立てた。その理論で行けばここからの駅も似た構造が出てくるのかもしれない。
さて、ここでの待ち時間はしっかりと1時間ある。できればこの時間を利用して朝食といきたいところだ。
白河といえば白河の関と呼ばれるかつての関所があった場所だ。その関所を模したオブジェがいきなり駅構内からお出迎え。かつては関所を通らなければエリアの移動ができなかったわけだ。絶対に通らなければならない場所、関所、もしかしたら新幹線駅は現代における関所みたいなものかもしれない。
<ミッション写真 No.52>白河関とルナ
新白河駅には駅直結みたいな勢いでWINS新白河が存在する。中央競馬の場外馬券売り場だ。ちょうどこの日は天皇賞(秋)が開催される日だった。取材中なので馬券を買うのを諦めていたが、WINSがあるならばアーモンドアイにぶっこむ。この先の旅費もぶっこむ心づもりだ。WINSを見たなら絶対に買わねばならない。絶対に通らなくてはならない。もしかしたらWINSは現代における関所みたいなものなのかもしれない。
ただ、その関所もまだ早朝過ぎて開いてなかった。ぶっこめない。
朝飯を求めて新白河駅周辺を彷徨う。どうやら駅周辺はウィンズがある以外はほぼ住宅街で、いくつかの飲食店もあるようだけど、もちろん早朝から営業している類の店ではなかった。東横INNの1階で優雅に朝食を食べる人を羨ましく眺めつつ、近くに国道があるっぽいのでそこを目指して歩いていく。
このカラーリングは、松屋だ!
松屋のハムエッグ朝食はこの世のものとは思えない美味さなので、こういった取材のときでも重宝する。実は、このちょっと前にコンビニを見つけて朝食を購入していたのだけど、松屋を見つけた瞬間にその朝食をカバンにしまい、吸い込まれるように入店した。松屋を見つけたら入らずにはいられない。絶対に通らねばならない。松屋はもしかしたら現代における関所みたいなものなのかもしれない。
ちなみに、国道4号線沿いには関東からの犯罪流入を防ぐことを目的とした常設の白河検問所があり、本当に現代における白河関といわれている場所がある。
No.053 郡山駅(福島県郡山市)
7:44発 東北新幹線 やまびこ201号 仙台行き(特急料金860円)
良い時間帯になってきたのか駅に人の姿が多くなってきた。新幹線ホームでは、お父さんと新幹線でおでかけできることにテンションがぶちあがってしまった女児が狂ったように踊っていた。ちょっと狂気すら感じる踊りだった。
車内にも人の姿が多い。それでも空いている方だが、早朝の貸し切り新幹線を考えるとかなり増えたほうだ。
7:56 郡山駅
ついに福島県入りとなり、北関東が終わり、東北地方に入った。そうなってくるといよいよ旅の終わりが見えてきた感じになるが、冷静に考えるとまだまだ駅の数は多いのでぜんぜん終わりじゃなかった。ほんと、ひでえ企画だよ、これは。
ここ郡山駅は、駅のホームから見える景色もずいぶんと都会的だ。めちゃくちゃ雰囲気のある商店街の入口みたいなものもみえる。
やはりこの駅も駅構造が似ている。絶対に流行り廃りみたいなものがあって、建設時期ごとにスタンダードな駅構造が決まっているに違いない。
駅構内のこういった吹き抜け構造も、たぶんこのあたりの駅の特徴だ。仙台駅とかこれに近い構造だった気がする。まあ、あと数駅ほど行けば仙台駅だ。その時に確認すればいい。
駅の外に出てみてメチャクチャ驚いた。死ぬほど寒い。鹿児島からけっこうな薄着でそのまま来てしまったけど、さすがにここまで北上してくると耐えられない寒さになってきた。かといって防寒着の備えはないので、どこかで購入する必要がある。
<ミッション写真 No.53>がくとくんとセリア
がくとくんは音楽都市である郡山市のイメージキャラクターだ。音楽都市、楽都(がくと)ということで音符を模した頭部デザインになっている。僕は、こういった街角のイメージキャラクターがコロナ禍に合わせてマスクをしていることは本当にすごいことだと思う。
冷静に考えてみて欲しい。自分がこの”がくとくん”を扱う業務についているとして、コロナ禍だし”がくとくん”にもマスクさせましょう、みたいに考えるだろうか。たぶん考えない。考えたとしてもマスクを作る段階になって、けっこうでかいサイズだし、頭部が音符みたいだから長いひもが必要、そもそも耳がないのにどこにひっかけるんだと、となって死ぬほど面倒になり、やめると思う。だって”がくとくん”はどうあっても感染しないから。
つまり、けっこう面倒なのに、その仕事の結果としては啓蒙以上の効果はないのであまり効果を感じにくいわけだ。それでもやっちゃうのは非常に穏やかで心に余裕のある人の仕事だと思う。
また、周囲もそれに理解を示していて、そんなことして意味あんの?みたいな意地悪を言う人もいない。死ぬほど殺伐とした職場で「がくとくんにマスクさせましょう」なんて言ったらぶん殴られるかもしれない。こういった余裕こそがこのご時世では大切なのだ。これにマスクをつけたって結果はなかなかすごいことの積み重ねで起こっている。あと、そのマスクがちょっとずれているところもポイントが高い。
この駅での待ち時間は30分ほどあったが、あまりの寒さに腹をぶっ壊してしまったらしく、トイレにこもっていたらあっという間に新幹線の時間がきてしまった。あの面白そうな商店街にいけなかったのは残念だが、もう移動しなければならない。
いそいそと新幹線ホームに向かう道中、改札内の立ち食いソバ屋が目に留まった。なんてことない、普通のソバ屋だ。ただ、なんだか心がざわつく。ぞわぞわする。なんでこんなにもざわつくのだろうか。
このソバ屋は新幹線改札内の店だけど、店の後ろに映っている柵の向こうが改札の外になっている。そっち側にもカウンターがあるので改札の中と外、どちら側からでも食べられるソバ屋だ。
「ああああああああああああああ」
そこで思い出した。僕、ここでうどん食べたわ。だから既視感があったんだ。
僕は2017年の夏に青春18きっぷを使って最南端の駅から最北端の駅まで普通列車のみで日本を縦断するという旅をやっている(青春18きっぷで日本縦断。丸5日間、14,150円で最南端の鹿児島から稚内まで行ってみた[PR]))。その際に、ここ郡山駅に到着し、改札外からうどんを食べているはずだ。
ほら。「虹を見た瞬間から行ける気がしていたんだ」とか、かわいいこと書いてやがる。
その時は、ずっと普通列車に乗ってきたら柵の向こうの新幹線ゾーン、いいなあ、新幹線乗りたい、きっと楽に決まっている、って考えていたんだった。まさかその3年後に新幹線に乗りまくって、おまけにぜんぜん楽じゃない状態になるとは思わなかった。一瞬、柵の向こうに3年前の僕のゴーストが見えたような気がした。
「3年前の僕、よくきけ。信じられないかもしれないが、お前、3年後もひどい旅してるぞ……! それもまた駅メモ!だ」
3年前の旅との思わぬクロスオーバーに驚くのだけど、注目すべきはそこじゃない。3年前の旅も、今回の旅も、3日目の朝、ほぼ似た時間帯に郡山駅に到着しているのだ。つまり、青春18きっぷで日本縦断した場合と、新幹線で全駅下車した場合、その進度はほぼ同じということだ。ふざけんなよ、新幹線使って青春18きっぷと進度もしんどさも同じじゃねえか。微妙に韻が踏めたね。
No.054 福島駅(福島県福島市)
8:24発 東北新幹線 やまびこ203号 仙台行き(特急料金860円)
実はこの旅から新たに導入した秘密兵器がある。こういった旅をしているとスマホの充電は生命線だ。特に駅メモ!でのログイン、おでかけカメラの撮影を行う場合、常時なにかを起動しているので充電の減りも早い。
そこで登場するのがモバイルバッテリーなのだけど、実はこれも充電にケーブルが必要だったりとなかなか面倒なものだ。そこで今回導入したのが、コンセント一体形のモバイルバッテリーだ。
モバイルバッテリー自体からにょきっとコンセントが出ているので、コンセントと繋ぐ用のケーブルを必要としない。モバイルバッテリーをそのままコンセントに突き刺せばいい。最高。
本当にスマホの充電は生命線なので、短い乗車時間といえども無駄にはできない。さっそく、座席下のコンセントににょきっと突き出たコンセントを差す。ッッッッ便利! この手軽さがいい。充電してるぜ! ってランプが勇ましく点灯している。かっこいい!
8:37 福島駅
モバイルバッテリー忘れてきた。
便利すぎてコンセントにぶっさしたまま下車してしまった。そうだよそう、いつもこういうの怖いから、コンセントから延ばしたコードでモバイルバッテリー自体はポケットに入れたりしているんだった。便利なのも考えものだな。
まあ、心配しなくてもいい。こういうこともあろうかと同じものをもう1個買ってある。備えあらばなんとやらだ。これで充電を心配することなく先に進める。
この駅での待ち時間は16分とそう長くはない。そう長くはないのに、「すいませんモバイルバッテリー忘れちゃって、ええ、本体からにょきっとコンセントが出るいかしたやつです」「まだ届いてないですね」「ですよね、忘れたのついさっきですもの」という落とし物センターとの不毛なやり取りに時間を費やしてしまった。おまけにまだお腹の調子も悪いのでトイレにも行った。
東北地方に入り、「駅に酒を並べがち」が復活だ。しかもけっこうな数が展示されていて、プリキュアオールスターズみたいな貫禄がある。
駅前広場には何の脈略もなくウサギを模した手洗い場みたいなのが登場してくる。本当にあまり伏線もなく、説明もなく現れてくるので驚く。このキャラクターは福島市のご当地キャラクターで「ももりん」というらしい。福島市の吾妻連峰に積もった雪がウサギの形のように見える「雪うさぎ」をモチーフにしているようだ。
けっこうかわいいキャラクターなのだけど、僕の心は著しく濁っているので、けっこう攻めた場所に蛇口つけるなー、構造上、もうちょっと下にしますとか言われたらどうするんだろう、と考えていた。
<ミッション写真 No.54>キビタンとシャルロッテ
福島はご当地キャラクターが豊富だ。これは「キビタン」と呼ばれるキャラクターで、平成7年のふくしま国体の際に誕生し、その後もずっと県民に愛されているらしい。こういったキャラクターに靴だけはかせてしまったことにより、じゃあ、その他の部分は全裸ってこと? と感じてしまうのは僕の心が著しく濁っているからだ。
No.055 白石蔵王駅(宮城県白石市)
8:53発 東北新幹線 やまびこ123号 仙台行き(特急料金860円)
だんだんと写真を撮り忘れたり、キャプチャし忘れたりする頻度が増えてきた。新幹線を撮り忘れたので、なぜか撮影していた時刻表の画像で代用する。
こういった良く分からない旅を何回かしたことがあるから分かるけど、こんな症状が出てくるといよいよ危険が危ない。多くの場合、肉体より精神の方が先に限界に達するのだ。
車窓から見える景色がずいぶんとおおらかな感じになってきた。
9:04 白石蔵王駅
その大らかな景色のまま、白石蔵王駅へと到着した。ここでは50分ほどの待ち時間があるようだ。ちなみに、駅メモチェックイン画像をスクリーンショットし忘れた。はい、めちゃくちゃ怒られるやつね。っていうかね、これだけやってれば何回かは撮り忘れるでしょ。は? それが何か?
逆切れしながらホームを歩く。そこで「なるほどねえ」と思った看板がこれ。
これ蔵王山なのかな。本物の山の景色を看板に流用した形だ。
看板を作るときに、ここにドーンと蔵王山を載せてねってやってたら、ちょっとまてと、ここくり抜いたら本物が綺麗にみえるやん。マジやん。みたいなやり取りがあったかと思うと自然とフフッとなった。
この駅がある白石市は和紙が有名だ。改札へと向かう踊り場みたいな場所に、和紙が展示されていた。かなり綺麗だな、これ。
<ミッション写真 No.55> 白石和紙といろは
和紙とこけしが展示されていたので撮影を行った。意図してなかったけど、そういうボスキャラ戦みたいな画像になってしまった。この場合は左右のこけしを倒さないと“いろは”にダメージが通らないし、こけしを倒すと和紙のところが赤くなって“いろは”が強くなる。
50分の待ち時間があるので駅周辺を探索しようと思ったが、もし、周りに何もなかった場合のことが気になった。けっこうな距離を歩いたのになにもなかった、ではさすがに精神的ダメージが大きい。それでも探索に出たほうがいいのか、悩ましいところだ。
そんな僕の悩みもいとも簡単に吹き飛んだ。駅の出口の目の前、徒歩0分の位置に畑があったのだ。駅徒歩0分畑。
「探索に出てはいけない」
そう言われた気がした。なんとか駅構内で何かを探すべきだ。そんな警告のように感じた。
確かに、駅構内にも様々なものがあった。
ストリートピアノがあったり。
先に倒す必要がある“こけし”が展示されているスペースもあった。
心に余裕がないとなかなかマスクつけられないし、「拙者たちもソーシャルディスタンス」というメッセージを思いつきもしない、そんな甲冑もあった。
あと、やっぱり酒は並べがちである。
これらの駅内の展示は、白石を、蔵王を観光して欲しいという駅の人や、観光協会の人たちの熱意が伝わってくる熱心さだが、こういった展示も5分もあれば見終わってしまう。
どうしたものかと途方もくれたので久々にあれを頼ることにした。「駅ノート」である。
駅メモ!にはその駅を訪れたユーザーがメッセージを残す「駅ノート」という機能が各駅に備えられている。小さな無人駅に置かれたノートに訪れた人が記念に言葉を残していくイメージに近い。地方の駅になればなるほど「シャル着弾記念」という意味不明な呪文みたいな言葉で埋め尽くされているが、それは無視していい。中にはその駅周辺のお得情報が書き込まれているので、大変有意義なのだ。
さっそく駅ノートを見る。
「駅の構内にある温麺(うーめん)がおいしいですよ」
親切な駅メモユーザーからそう書きこまれていた。
そんな店あったけ、そもそも飲食店があったかと思ったが、あった。
ひっそりとしていて弁当屋か何かだと思ったら、その温麺を提供する店らしい。駅ノートの書き込みがなかったら見落としていたところだった。
温麺とはそうめんの一種であり、ここ白石市で生産される特産品である。一般的なそうめんは生地を伸ばす際に油を塗るが、うーめんは打ち粉をまぶす。長さは9センチに揃えられていることが多い。油を使わないことで体に優しく、長さも短いので食べやすい。
温うーめん 430円
なるほど。触れ込み通り優しい味わいだ。麺が爽やかで、おまけに短いのでツルっと食べることができる。その優しい口当たりによって、スープの味わいが口の中に広がり、体の隅々にまで行き渡るように感じる。ガッツリと食事というものではないが、朝食に夜食に、ちょっとした間食にベストな味わいではないだろうか。
No.056 仙台駅(宮城県仙台市)
9:52発 東北新幹線 やまびこ205号 仙台行き(特急料金860円)
次はいよいよ東北最大の中心都市、仙台市だ。新幹線全駅下車をしていると鹿児島の川内駅(せんだいえき)と宮城の仙台駅(せんだいえき)と二つの「せんだいえき」を制覇できる。
車窓からの景色は、仙台駅に近づくにつれて明らかに都市のそれになっていった。ポツポツとビルが現れ始め、背の高いマンションが姿を見せ、大きな商業施設、列をなす車、忙しなく歩く人々、徐々に発展していく景色。その賑やかな風景の集大成かのように仙台駅に到着した。
10:06 仙台駅
ホームを行き交う人もどこか足早に感じた。というかめちゃくちゃ人がいる。ホームに、改札に、駅前に、あらん限りの人だ。つい隣の駅が駅徒歩0分で畑だったことを考えるとその変化にちょっと脳がついていかない。この激しい変化も新幹線の醍醐味だろう。
仙台駅にやってきたのは久方ぶりだと思う。それこそ10年とかそんなレベルだ。いや、改札内は通っているので、改札から出るのが久しぶりなのかもしれない。
こんなもの完全に大都会だろ。しつこいようだけど、つい隣の駅が駅徒歩0分で畑だったとは思えない光景だ。
さすがに大都会だけあって駅前にしっかりとユニクロがある。忘れてはいけない。僕は鹿児島からめちゃくちゃ薄着で北上している。すでに寒いけれども、ここからもっと寒くなることが予想される。ここいらでダウンジャケットでも買って備えなければ死んでしまう。
「でもまあ、まだいいか。もっと北に行ってから買おう」
仙台駅の都会さに油断したのか、まだ買わなくとも大丈夫、という謎の自信が生まれつつあった。それより、久しぶりの仙台駅を探検したかったのだ。
こういった、広い空間があって、その向こうに一つ上の階があるという吹き抜け構造、これがこの周辺の駅と似ている。駅とは似てくるものなのだ。
めちゃくちゃ人がいるこの光景。本来、こういった画像の撮影をする際はモザイクをかけるのが面倒なのでなるべく人がいない瞬間を狙って撮影する。けれどもあまりに人が多すぎて全くその瞬間がなかった。この一角はとりわけて多い。
どうやらここは仙台っ子たちの待ち合わせ場所に使われているらしく、多くの人がスマホとにらめっこしながら誰かを待っていた。
「なぜここが待ち合わせ場所に?」
そんな疑問がわいた。多くの場合、待ち合わせのメッカ的な場所は目立つ何かがあるものだ。「大きな鈴の前ね」みたいに約束しやすいからだ。確かに大きくて綺麗なステンドグラスが目立つが、そこまで象徴的な場所かといったらそうでもない気がする。
「ここって伊達政宗像なかったっけ?」
そうだそうだ、伊達政宗がいた。はるか昔の記憶だけど、このへんの一角に大きな伊達政宗像があって「仙台っ子はみんなダテ前で」って待ち合わせするんですよ、って教えてもらったんだった。ちょっと場所は動いたかもしれないけど、その「ダテ前」の名残でこのステンドグラス前で待ち合わせするんじゃないだろうか。
「じゃあダテはどこにいったのか?」
待ち合わせのメッカになるくらいの象徴的な像がなぜ、と思うのだけど、調べてみると伊達政宗が青年時代を過ごした大崎市の岩出山に移設されたらしい。それからしばらく、伊達政宗のいない仙台駅だったけど、数年前に場所を変えて新たに設置、仙台駅にダテが帰ってきたらしい。
三階には、仙台の名物である牛タン屋が軒を連ねる牛タンストリートみたいな通路がある。まだお昼の時間ではないためほとんどの店がシャッターを閉ざしているが、その先に伊達政宗がいる。
いた。
かなり奥まった場所なので、以前のように待ち合わせのメッカというわけにはいかないだろうが、それでも多くの人に親しまれているらしく、女子高生の集団がバシャバシャと記念撮影をしていた。そのテンションから修学旅行か何かだと思う。
「みんなで撮りたいならシャッター押しましょうか?」
女子高生にそう告げる。無視された。
<ミッション写真 No.56>伊達政宗公とシーナ
でんこは無視しないからね。
No.057 古川駅(宮城県大崎市)
10:49 東北新幹線 やまびこ53号 盛岡行き(特急料金860円)
なんだかんだいっても東京―仙台間は新幹線の設定が多い。ただ、ここからは東京を離れて北上するにつれて本数が少なくなることを覚悟しなくてはならない。つまり、待ち時間が長くなり、難易度が上がる。
東北新幹線のいくつかは、このように赤い新幹線と緑の新幹線が連結された形でやってくる。赤い車両は秋田方面に向かう秋田新幹線「こまち」で分岐となる盛岡駅で切り離されて赤い車両だけ秋田に向かう。
秋田新幹線は、新幹線専用の線路が敷かれるいわゆる高規格の路線ではなく、在来線を利用するミニ規格新幹線である。全国新幹線鉄道整備法では主たる区間を200km/h以上の高速度で走行できる幹線鉄道のことを新幹線と定義しているため、正確には秋田新幹線は新幹線ではない。在来線だ。そんな秋田新幹線は在来線用として作られたトンネルなどを通るため、少し車両が小さい。
そんなちょっと小さい「こまち」が高規格の新幹線駅にきた場合は、ホームに隙間ができるため、このようにステップが自動で出てくる。
この旅では枝分かれ先にはいかないので行けませんが、いつか秋田新幹線にのって秋田にも行ってみたいですね。ってかくと、スケボーで秋田に行くとか斜め下の企画を出してくるのがSPOT編集部なので、訂正します。行きたくありません。
11:03 古川駅
仙台駅から14分の乗車を経て古川駅に到着した。もしかしたらここまでで最長の乗車時間かもしれない。おかげでモバイルバッテリーも十分に充電できた。
ここ古川駅は宮城県の大崎市に位置する。もともとは古川市であったが市町村合併により古川市が廃止され、大崎市となった。そんな古川駅で大変なことが2つも巻き起こった。この駅での待ち時間は40分ほどだ。どうやって過ごすかなと思案にくれながら改札へと向かったそのときだった。
「またモバイルバッテリー忘れた」
僕のモバイルバッテリーはモバイルバッテリー自身からニョキっとコンセントが出るめちゃくちゃ便利なやつだ。その便利さゆえに、既に1つ忘れてしまっているが、そんなこともあろうかともう1つ買っておいたのだ。ただ、それまで忘れてしまった。とんでもないことだ。
「あ、忘れた!」
と思った瞬間には、走り出した新幹線は視界から消え、見えなくなっていた。
そしてもう一つ。
品川事変により品川駅から自動改札を通していた乗車券。もう訳の分からないことになっているこの乗車券がついに臨界を迎えたらしく自動改札で詰まった。「こんな地獄みたいなキップ通るわけないだろ」みたいに言われたわけではないけど、そんなニュアンスでけっこうな勢いで怒られてしまった。もうダメだ。これは機械を通らない。また、自動改札を使えない日々が始まるわけだ。
キップがボロボロすぎてやばいのはともかく、モバイルバッテリー喪失は大きな問題だ。それもこの短い時間で2つだ。1つ目は朝の8時に失くしているので、3時間ぶり2度目の快挙だ。これはもしかしたらモバイルバッテリー2つ失くしタイムアタックの世界記録かもしれない。
二人の戦友を失ったことによりスマホの充電がけっこう危ない状態になってきた。これをなんとかしないと駅メモ!どころではない。古川駅探索より充電だ。
幸いにも、駅ビルには100円ショップのダイソーが入っていた。ここで充電用のソケットを購入する。
幸いにも、駅ビル内にはタリーズコーヒーがあった。僕はカフェで原稿を書いたりすることが多いので、あらゆるカフェの電源状況に詳しいのだけど、タリーズはコンセント付きの座席がある確率がだいたい50%くらいだ(個人的経験に基づいた経験則)。いけるか、いけないか。二つにひとつ。ええい、迷ってる暇はない。賭けるしかない。いくぞ。
<ミッション写真 No.57>タリーズのコンセントとさや
あった。賭けに勝った。興奮のあまりコンセントを“でんこ撮影”してしまった。とにかく勝ったのだ。
今度はいつ充電できるかわからないので、この席でホットコーヒーを飲み、40分間、ただただ静かに充電した。古川駅、ほんとに充電しただけだった。
No.058 くりこま高原駅(宮城県栗原市)
11:52発 東北新幹線 やまびこ55号 盛岡行き(特急料金860円)
充電の町、古川をあとにし、次の駅に向けて出発する。スマホの充電も万全とは言わないまでもある程度は戦えるレベルになっていた。
景色はどんどんと何かを失っていく。町並み、看板、人の気配、それらが減りきっていつもの「けっこうなにもない駅」がくるときの風景になった。
12:01 くりこま高原駅
今度はスマホごと忘れかねないので、絶対に手放さないように握りしめて乗車した。わずか9分の乗車。それでも今日の僕なら何か重大なものを忘れかねない。
ホームについて、新幹線ごしに巨大な建造物が見える。何もない駅ではなかった。なにか巨大なものがある。
なにもない駅かと思われたが、この駅を狙いすましたかのように周囲に施設が建っていた。
駅前にはAEONがある。駐車場の入りを見る限り、なかなか活況のようだ。
その隣には巨大な水車がある。あまりに巨大で驚いてしまい即座に“でんこ撮影”を行った。なんでも直径10メートルあるらしい。
<ミッション写真 No.58>巨大水車ともえ
そしていよいよ巨大建造物に向かう。本当に巨大で、周りに何もないだけにめちゃくちゃ目立っている。近くに来るとかなり迫力がある。
これは「エポカ21」という施設らしく、ホテルやレストランなどを備えた複合施設らしい。
中に入ると、このように観光物産館みたいなものがあってお土産物を売っていたり、陶芸の展示をしたりするイベントスペースがあった。あと、めちゃくちゃ上品そうな着物の婦人がクリームソーダ―飲んでいた。
エレベーターで最上階に行ってみる。どうやら最上階は展望レストランになっているようだ。
なるほどなるほど。なかなかに眺めがいい。ここで食事をとろうものならこのあたり一帯を支配している気分になれるかもしれない。
さて、思ったより盛り沢山だった「くりこま高原駅」だが、それでも少し時間があまってしまったので、駅に戻り、詳細な時刻表を見て今後の展開を計算してみた。ここからは本当に新幹線の本数が減るので、しっかりと準備しておかなければ命の危険があるからだ。
そして、そこで衝撃の事実が発覚する。
「これ、きょう盛岡までしかいけないじゃん」
さすがに今日中にゴールである新函館北斗駅は無理だとは思っていたが、最低でも新青森まではいけると思っていた。ただこの先は予想以上に本数が少なく、このままいくと新青森の手前、宿泊施設があるのか怪しい場所に放り出される展開になりそうだった。
どう乗り換えを計算しても、新幹線以外の三セクワープを使う計算をしてもダメなのだ。そうなると非常に危険で、いまの薄着では凍死の可能性すら出てくるのだ。それを避けるには、かなり手前の盛岡駅で3日目を終了する必要があるのだ。さすがにそれはあまりに進まな過ぎである。
「最終奥義を使うか」
最終奥義とは、主に長い停車時間を利用して降りたところでバッバッバッと撮影を済ませ、そのまま停車している新幹線に再度飛び乗る方法だ。これをやると次の新幹線を待たなくていいのでスムーズに進める。
時刻表によると、やや停車が長い駅で1回、それ以外に2つの駅で最終奥義を出す必要がある。そうすれば盛岡より先に安心して進めるし、計算では新青森まで到達できる。ということで、ここにきて3回、最終奥義を使うことを決意した。
No.059 一ノ関駅(岩手県一関市)
13:02発 東北新幹線 やまびこ57号 盛岡行き(特急料金2,360円)
いやー、本当に時刻表を確認してよかった。まだ昼の1時だというのに終電の心配をする羽目になるとは思わなかった。新幹線全駅下車、これは本当に危険なので早め早めのダイヤ確認が必須だ。
さて、次の一ノ関駅は停車時間がやや長い。ここで余裕をもって最終奥義を使わせてもらう。つまり、一ノ関で撮影を終えたら、そのまま同じ新幹線に乗り込んで進んでいくことにする。
13:14 一ノ関駅
この駅は新幹線ホームと在来線ホームが大きく離れているタイプの駅なので、新幹線ホームから動くことなく駅舎の撮影が行えた。在来線の方はホームは少ないのに線路の数が異常に多い。おそらく貨物列車の基地的な役割もあるのだろう。一関温泉郷と世界遺産平泉を大きな看板でアピールしているが、その色合いがどことなく土っぽいので、多数の線路の色とも相まって、全体的に土属性っぽい印象を受ける駅だ。
<ミッション写真 No.59>世界遺産平泉の看板ともぼ
やはり世界遺産平泉は外せない。
長い停車時間で完全に全ての撮影を終えてしまった。手慣れたものだ。すぐに先ほど乗ってきた新幹線に乗り込む。
No.060 水沢江刺駅(岩手県奥州市)
13:14 東北新幹線 やまびこ57号 盛岡行き
同じ新幹線にそのまま乗るというのは、なんと痛快なことだろう。全ての旅がこうあるべきだ。いやいや、普通はそうだった。普通は目的地、もしくは乗換駅まで同じ新幹線に乗りとおす。当たり前のことなのだ。
最終奥義、つまりホームで全部済ませて同じ新幹線に乗る行為を行う必要があるのはあと2駅だ。そのうち1駅は実施しなければならない駅が決まっている。もう1つはどこで行ってもいいので、どうせならさらに続けて乗ろうと、次の水沢江差駅で決行することにした。さらに同じ新幹線に乗れるという事実に興奮が隠せない。
13:24 水沢江刺駅
新幹線ホームからは絶対に撮影できないタイプの駅舎だった。つまり新幹線ホームと駅舎が離れていないタイプだ。この高さから考えるに、このホームの下に駅舎があるのだろう。
どこかでも述べたが、東北新幹線に入ると駅名標が極端に少なくなる。新幹線が到着し、ホームに降り立って駅名標がかなり遠くにあった場合、その時点でかなりの時間をロスしてしまう。伝家の宝刀によって持ち時間が短い場合は、その時点で致命傷になることもある。
幸いにも、すぐ近くに駅名標があって撮影に成功した。ただ、駅舎はダメだった。それでも頑張って撮影したのが上の画像である。これは、窓から見えた車たちを撮影したわけでなく、主たる被写体は窓枠である。そう、窓枠は駅舎の一部である。この窓枠をもって駅舎の撮影としたい。
<ミッション写真 No.60>駅舎の一部と言わざるをえない窓枠といずな
No.061 北上駅(岩手県北上市)
13:25 東北新幹線 やまびこ161号 盛岡行き
かなり厳しい撮影となってしまった。ホームでは「窓枠は駅舎だから」と言い切ってしまったが、新幹線に乗り込み冷静になった今思い返すと、「さすがに窓枠が駅舎は無理がある」と言うしかない。二度とこのような悲劇を繰り返してはならない。そう固く誓った。
13:33 北上駅
駅名標の後ろに立派な窓枠がズラリと並んでいた。窓枠とは駅しゃ、いやいや、さすがに連続でそれはよろしくない。
まことに不勉強ながら、僕は「北上市」という存在を知らなかった。一度は検索したことあるはずなんだけど、それでも覚えていなかった。北上市とは人口は9万人と、岩手県の中では5番目に多い市のようだ。駅舎ともいえる窓枠の向こうに見える町並みも、なかなか賑やかそうだ。
駅舎自体はけっこう古く年季が入っている。こういった造りの建物は昭和時代に流行ったものなので、何度か塗り直しは行っているが、駅舎自体は建て替えられていないのだと思う。高架になっている新幹線ホームだけこの駅舎よりやや新しい。
駅のド真ん前には、魚民に自我を乗っ取られつつあるショッピングセンターみたいな建物があった。「魚民」の看板がでかい。6畳の部屋くらいあるんじゃないか。
おそらく、長らく町の中心に位置し、北上市の皆を支えるショッピングセンターだったのだろうけど、郊外に大型店ができたりして客足が遠のき廃業、生涯学習センターやアートネーチャーが入る建物になり、魚民に自我を乗っ取られつつあるのだと思う。
<ミッション写真 No.61>自我を乗っ取られつつある建物とふぶ
駅からまっすぐ伸びる道路を歩くと、いくつかのホテルがあった。ここならあまり宿泊に困ることはなさそうだ。ただ、その先に進んでいくと急に寂しい感じになってきた。脇にはローソンがあり、そのローソンのさらに脇のゴミ置き場みたいなスペースに、ヤンキーが座り込んでいた。急に治安が悪くなってきた。
ヤンキーはめちゃくちゃ盛り上がっていた。なんだろうと見てみると、どうやら空中に放り投げたペットボトルを地面に立たせる遊びをやっていて、スタンと立った瞬間には贔屓のチームが優勝したときみたいな喜びを見せていた。めちゃくちゃ原始的な遊びに興じている。
そのまま、脇道へと入り色々と見て回る。不動産屋の軒先のチラシを見ながら「けっこう家賃は安くないんだな」などと考えているうちに一周してきたみたいで、また魚民に自我を乗っ取られつつある建物が見えた。
駅前では部活帰りと思われる高校生がベンチに座り、放り投げたペットボトルが地面に立つのかというゲームをやっていた。なに、これ北上市で流行ってるの?
新幹線の時間よりちょっと早めに駅に到着したので待合室に座る。待合室にも部活帰りと思われるジャージ姿の高校生がたくさんいた。この待合室は変わった構造になっていて、内部でソバ屋と繋がっている。
イートインタイプのソバ屋と繋がっているので待合い室内で食事をとることが可能だ。高校生の一人が「あと5分で改札内に入らなければならないけど、ソバを食べることができるのか」みたいなことを言いだして、周りが「いける!」「いける!」「いったれ!」と囃し立てていて、その彼は食券を購入していた。「うおーいけー!」と盛り上がっていたけど、店員さんのオペレーション的に出てくるまで3分はかかりそうだし、たぶん、無理だと思う。
ただ、こちらももう時間がきてしまった。結果を見届けることなく僕は新幹線改札へと進んでいった。
No.062 新花巻駅(岩手県花巻市)
14:34発 東北新幹線 やまびこ59号 盛岡行き(特急料金860円)
北上駅でけっこう歩き回ったのでかなり足が痛い。基本的には駅内での活動が主だが、駅内というやつは予想以上に上り下りが多い。この3日間の旅で完全に足が破壊されている。これはおそろしいことで、例えば、100キロ歩くとかだと「大変そう」とすぐに伝わるのだけど、「全部の新幹線駅で階段を上り下りする」はあまり伝わらない。でも、実際にはたぶん100キロ歩く方がダメージの蓄積は少ない。
そんな疲労困憊の体を抱え、新花巻駅に到着した。
14:41 新花巻駅
花巻といえばやはり宮沢賢治であろう。その辺はバリバリに意識しているようで、駅内や周辺の随所に宮沢賢治およびその作品を意識したものがたくさんあった。
敷地内の公園みたいなスペースには「銀河鉄道の夜」をモチーフにしたオブジェがある。
これは「セロ弾きのゴーシュ」だろう。たぶん、これまで訪れた新幹線駅の中でももっともテーマを持った駅だと思う。ごちゃごちゃのなんでもアピールとなりがちな新幹線駅だが、これだけ宮沢賢治にフォーカスしてくれると気持ちがいい。
<ミッション写真 No.62>銀河鉄道の夜とりんご
この宮沢賢治をフューチャーしまくった新花巻駅だが、さらにこの近くには「宮沢賢治記念館」があるらしい。距離はだいたい駅から2キロとのこと。
「2キロか……」
車なら数分の距離だが、歩きとなるとなかなか長い距離だ。この駅での新幹線待ち時間は1時間きっかり。人間は普通に歩くと1時間に4キロ歩けると言われている。つまり、2キロ先の宮沢賢治記念館まで往復してちょうど1時間だ。
「ただ、僕は歩くの早いし、少し早歩きでいき、途中ちょっと走ったりすれば15分でいけるのではないか。そうなると往復で30分。30分は記念館を見る時間ができる」
そういった打算のもと、歩いていくことにした。
2キロなんて軽い軽い。いくぞ。
途中、これまた銀河鉄道の夜をモチーフにした道しるべみたいなものが置かれており、地元の子供たちが描いた絵とともに、駅までの距離と、記念館までの距離を表示してくれている。よくみると「記念館まで14キロ」と書かれている。うそー、14キロだったら無理、殺す気か、とあらゆる力が抜けそうになった。きっと「.」が抜けていだけだよね。1.4キロの間違いだよね。
次の道しるべには「1.3キロ」と書かれていたので心の底から安堵した。
コンビニの駐車場脇に置かれた「グスコーブドリの伝記」のブドリとネリ像を目印に左折する。
なんだか様子がおかしい。
最初は平坦な道で、民家や店が多くあるルートだったのに、民家がなくなってきて微妙に上り坂になるし、トンネルまで見えてきた。
「これ、山を登らされるやつじゃないの?」
こういう旅ばかりしているとそういった類の嗅覚ばかり鋭くなる。何かが危険だ。でももう、引き返せない。やばい。
危惧していたら本当にここから山登りになった。
トンネルを抜けても延々と上り坂が続いていく。ひえー、助けてー。
ぜーぜーと息を切らしながら登ってきたら、やっと「宮沢賢治記念館」という看板が見えた。ついに到着だ、と思ったら全然違った。これは「ここが記念館やで」という看板ではなく「こっからさらに上り坂やで」という宣言だった。うひー。殺される。
ひゃー、めちゃくちゃきつい上り坂。前を歩くおっさん、めちゃくちゃ山登りの格好してる。
ぎゃーーー。
カンパネルラァァァァァァァ!
やっとこさそれらしい建物が見えるものの、それもかなり上の位置にあるため、さらに登らなければならずに完全に心が折れた。
到着する頃には息も絶え絶え、朦朧としてちょっと視界が霞んでいた。こんな思いまでして到達した宮沢賢治記念館、しっかり見るぞと思ったのだけど、ここまで歩いてくるのに35分かかってしまった。もう見るのを諦めるどころか、走って駅に戻らないと新幹線に間に合わない。
「なにしにきたんだ」
そう呟いて、まだ荒い呼吸を携えて来た道を戻り始めた。地獄かよ。
No.063 盛岡駅(岩手県盛岡市)
15:42発 東北新幹線 やまびこ163号 盛岡行き(特急料金860円)
山はね、上りより下りの方が足への負担が大きいのよ。何かの本で読んだそんなフレーズが頭の中に浮かんだ。なんとか走ることで新幹線には間に合ったが、2台しかない券売機の1台が調整中で、もう1台の方でカップルが延々と「え、やだ上野ってなに?」とイチャイチャと何度も間違いながら東京行きの切符を買っていたので、「上野は上野だろうよ」と思いながら有人窓口で切符を買った。
とにかく登りすぎ、走りすぎで死ぬかと思った。
15:55 盛岡駅
岩手県の中心都市である盛岡の駅だ。やはり中心だけあってホームから見える景色も都会的で賑やかだ。
さて、ここ盛岡駅は様々な意味でターニングポイントとなる駅だ。まず、東京駅から延々と続いていた在来線の東北本線の終着駅だ。つまり、ここでいったん在来線が断絶されるのでこれより北にはJR在来線だけでは行くことができない。
そして、新幹線においても「やまびこ」が運行するのはこの駅までだ。東京駅からここまで大活躍してくれた「やまびこ」だが、これより北に行く設定はなく「はやて」と「はやぶさ」のみが運行される。つまり、さらに本数が減る。そしてもう一つ重大な課題を与えてくれるのだが、その解説は後ほど行う。
<ミッション写真 No.63>盛岡駅開業130周年とニャッシュ
この駅で1時間半の待ち時間である。長い。さすがこの先はグンと本数が減るだけのことはある。さっそく洗礼を浴びた形だ。
駅の東口は、駅ビルがあったりしてかなり栄えている。周辺も昔ながらの繁華街があり、車通りも多く、賑やかだ。1時間半の待ち時間があり、あまりに持て余すのでこの東口で“まつエク”でもしてやろうかと思ったが、やる意味も理由も何もかもが理解不能なのでさすがに思い留まった。
また、かなり規模の大きな都会のように見えるが、駅ビルのエスカレーターで僕の前にいたお姉さんが、「あ、みくぴょんじゃん! 久しぶり!」「あれ? 今日はお休み? 私は買い物」と立て続けに知り合いとすれ違っていたので、けっこう狭い街なのかもしれない。
西口に行くとずいぶんと雰囲気が変わる。綺麗で近代的なビルや前衛的なオブジェが登場するが、そこまで人の姿はない。おそらくこの辺りは再開発されたんじゃないだろうか。
どっぷりと日が暮れつつあった。そうなると、白石蔵王で温麺を食べたきりなので、途端にお腹が空いてくる。盛岡といえばわんこそばだろ、よし、時間もたっぷりあるしわんこそばだ、と決意した。
駅構内に「わんこロード」なる表示があった。完全に勝利だ。この「わんこロード」は名称から考えるに、わんこ屋が軒を連ねる通りに違いない。こりゃどのわんこ屋にしますかなと迷ってしまいそうだが、とにかく行くしかない。
このわんこロードの表示に従って歩いていくのだけど、ただ南改札から北改札に抜けるだけだった。あれ?なんか間違えた?と戻ってみるけど、やはりわんこ屋はなく、南改札に抜けるだけだった。
どうやら、わんこ屋が軒を連ねるなんてのは僕の勘違いで、ただ南改札と北改札を繋ぐ通路に「わんこロード」という愛称をつけただけだった。僕が何かを見落としてるだけかもと、駅ビルの奥の方まで探したけど、わんこ屋が軒を連ねるゾーンは見当たらなかった。
結局、わんこそば屋を発見できず、それでも盛岡駅で何かをしたという証だけは残したかったので、まつエクでもしてやろうかと思ったけど、やる意味も理由も何もかもが理解不能なのでさすがに思いとどまった。
No.064 いわて沼宮内駅(岩手県岩手町)
17:37発 東北新幹線 はやぶさ31号 新青森行き(指定席特急券2,400円)
盛岡駅は秋田新幹線の分岐駅でもある。こうやって連結された新幹線の連結を外し、一方は北へ、もう一方は秋田へと向かうことになる。逆にこの駅で連結させて東京方面へと向かわせることもある。
そして、ここからが大問題なのだけど、ここから北に向かう新幹線は「はやぶさ」か「はやて」だけなわけだ。実はこの二つの新幹線、どちらも全席指定席で運行されており、自由席の設定が存在しないのだ。
つまりここから先は、一駅ごとに指定席を購入しなければならない。そして、指定席券は1回の乗車に対して530円(通常)の設定なので、普通にこの区間を乗りとおしていくならば一回で済むのに、毎回毎回、1回530円上乗せされた指定席特急券を買わねばならず、ここからさらに法外ともいえる料金がかかることになるのだ。あまりに救いがなさすぎる。
さらに次の「いわて沼宮内駅」だが、ここが3回目の最終奥義使用駅である。調べてみるとこのいわて沼宮内駅、新幹線駅でありながら1日に8本しか新幹線が停まらない駅なのだ。
時刻表によると、ここで降りてしまうと必然的に2時間待ちを余儀なくされてしまうようだ。ここをコンパクトにまとめない限り、今日中の新青森到達は不可能だ。よって伝家の宝刀を使わせてもらうことにする。
盛岡からいわて沼宮内の次の二戸までの新幹線特急料金は指定席で2,400円。いくらなんでも高価すぎる。
17:49 いわて沼宮内駅
もはや駅名標すらまともに撮影できていない。ホームから見る限り、見渡す限りの無限の闇が広がっていたので、ここで2時間待つことになっていたらとんでもないことになっていたと思う。
<ミッション写真 No.64>いわて沼宮内駅の新幹線ホーム待合室といちほ
駅舎の撮影はできないわ、でんこ撮影は意味不明に待合室だわで散々だが、ここをこうやってクリアしないと大変なことになってしまう。
No.065 二戸駅(岩手県二戸市)
17:49発 東北新幹線 はやぶさ31号 新青森行き
すぐさま乗ってきた新幹線に乗る。ちょっと停車時間が長かったようなので助かった。
そして車内では様々な検索を駆使して調べ物をする。何を調べていたかというと、神の救いについてだ。
よくよく考えてみて欲しい。盛岡より北の新幹線、全てが全席指定席ってあんまりにあんまりじゃないか。
普通は全席指定席の設定があったとしても、それとは別に、指定席でないものが走っていたりするはずだ。けれども、この区間は本当に指定席しかない。それはあまりに救いがなさすぎるではないか。これが東京から新幹線で来る、とかなら距離が長いので運賃全体に占める指定席料金の割合は低いので構わないが、例えば、いわて沼宮内から二戸、みたいに一区間だけ乗る人にとっては、その大部分が指定席料金になってしまう。それはあまりに救いがない。特に地元民に苦しい制度だ。きっとなにかあるはず。神の救いはあるはずだ。
と調べてみたら本当にあった。
<お得情報>
特定特急券
この名称のキップは様々な場面で使われ意味合いが違うが、ここでは盛岡以北の新幹線に適用されるキップについて解説する。本来は、この区間は全席指定席の新幹線のみで自由席の設定はないが、区間内の相互の乗車(路線は跨がない)に限って、指定席料金から530円引いた金額で乗車できる特定特急券を購入することができる(つまり自由席相当の料金)。この切符を使えば空いている指定席に座ることが可能。
このような神の救いが本当にあるのならば本当に助かる。ずっと指定席券を買わずに済むのだ。編集部に強いられて全駅で下車する人に向けて作られた制度としか思えない。
さっそく、二戸駅到着と同時に、次のキップをその特定特急券で購入してみた。券売機の表示はなかなか分かりづらく、途中まで指定席を買うノリで進んでいき、最後の最後に表示された「特定」というボタンを押すことで購入できた。JRとしてはあまり推奨してないのか、けっこう分かりにくい感じだった。
これが特定特急券。神はいたのだ。本来なら指定席料金が加味されるところ、880円でいけた。これは救いである。諦めないで調べてよかった。
18:00 二戸駅
指定席問題も解決し、めちゃくちゃ気持ちが軽い。ルンルン気分でホームを歩いていた。
二戸駅はなんだかめちゃくちゃかっこいい構造の駅だった。
この画像が一番わかりやすいと思うのだけど、ホームとその上の階にある改札とが一体となっている。同じ屋根を共有していて、ホームの一部に改札があるような形になっている。なんだかかっこいいぞ、これ。
この駅での待ち時間はほぼ1時間。さあて、駅の周囲には何がありますかねと意気揚々と周囲の景色を眺めた。
けっこう危険な気がする。なにかが警鐘を鳴らしている。確かに雰囲気はいいのだけど、ここで探索に出たらえらいことになりそうだ。なるべく駅の中を探索しなくてはならない。
<ミッション写真 No.65>九戸政実とベアトリス
ここ二戸駅から1500mいったところには九戸政実が籠城した九戸城があるらしい。久々に思い出したのでこじつけで言うが、やはり新幹線駅と城の親和性は高い。
新幹線改札から少し離れた場所に、いわて銀河鉄道の改札があった。もともとはJRの在来線だったが、新幹線開業の際に経営分離させられた路線だ。
この改札の前で一組の男女がなにやらネチョネチョと会話していた。どうやら彼女が週末をここ二戸のどこかにある彼氏の家で過ごしたらしく、これから彼氏とお別れし、いわて銀河鉄道に乗って帰宅するようなのだ。時間的にたぶん盛岡に帰るんだと思う。そこで見送りに来た彼氏となにやら言い合ってる。
「ホームまで送る」「いいよ、入場券必要だし」「送る」「いいって」「お金もったいないよ」「いいって、ちょっとでも一緒にいたいし」「お金もったいないよ、いっぱい使わせちゃったし」「いいって」「もう、怒るよ(プンプン)」と延々とやり合っていたので、もう僕が入場券を購入して「いってこいや」って投げつけてやろうかと思った。どうせなら彼女の最寄り駅まで送ってやれ。
駅から伸びる通路を歩いてくと駅直結の「tricolabo」という施設に到着した。どうやら観光案内をする場所のようなのだけど、コワーキングスペースも備えているらしい。
ハンモックもあったりしてなかなかオシャレな空間だ。この向こうにはコワーキングスペースがあって、女子高生が何人か勉強していた。どうやら無料で利用できるようなので、そこに混じってこの野武士のようなおっさんもこの原稿を書き始めた。この記事の鹿児島部分はここで書かれている。
No.066 八戸駅(青森県八戸市)
18:58 東北新幹線 はやぶさ35号 新青森行き(特定特急料金880円)
コワーキングスペースで時間を潰しつつ、スマホの充電も行っていたのだけど、充電用のプラグを忘れてきた。古川のダイソーで買ったやつだ。まあ、そんなことはどうでもいい。充電しているときからなんか忘れそう、と予感めいたものがあったので当然の結果だ。もうそういうことは大した問題じゃない。忘れるべくして忘れたのだ。
19:08 八戸駅
八戸駅に到着した。かつては東北新幹線の終着だった駅だ。いよいよ青森県入りをし、長かった東北新幹線シリーズも佳境となった。
八戸駅もまた、二戸駅と同じくホームと改札で同じ屋根を共有するタイプの駅だった。やはり近い駅って構造が似てくるのだ。
まだ点検中で動いていないようだったが、椅子の上にめちゃくちゃパワフルそうなヒーターが備えられていた。これがあると北国にきた感じがする。
東西自由通路を歩いていると、なかなか迫力のある展示が目に留まった。
これはユネスコの無形文化遺産にも登録されている八戸三社大祭に登場する山車だ。このモチーフは「鍾馗(しょうき)」と呼ばれる中国に伝わる道教系の神様で、図像を飾ることで疫病除け・魔除けの効果があるとされている。昨今のコロナ禍を鑑みて設置されたようだ。
<ミッション写真 No.66>疫病退散! 鍾馗とうらら
この駅での待ち時間も1時間以上あるので、とりあえず、駅の外へと出てみる。
駅前はけっこう煌びやかな感じで賑わっていて、なんでもありそうな気配がしていた。とりあえず食事でもできればいいと歩き出した。
歩き出してすぐに何もない感じになってしまった。進んでいけば何かありそうな気はするけど、妙にブルってしまった僕はそのまますごすごと駅に戻った。
八戸駅にはドトールがある。しめたものだ。ここで時間を潰しつつ、スマホを充電することができる。と思ったのだけど、充電用のプラグは二戸駅に忘れてきたので、ケーブルしかない。それでもパソコンに繋げば微力ながら充電できるのでジッと充電を待った。このパターンで行くと今度はパソコンを忘れかねないので、しっかりとケーブルを腕に巻き付けてアイスコーヒーだ。
奥の席に、おっさんとおばさんが二人で座っていた。二人はどういう時に人を殴りたくなるかというけっこう物騒な会話をしていた。
「マンガアプリのさ、一日に4話しか読めないのあるじゃん」
「あるある」
女性の言葉に男性がニヤニヤ笑いながら答える。
「もっと読みたいからタブレットや仕事用のスマホも駆使して読むじゃん」
「あるある」
「でも、間違えて同じ話を読んじゃったとき、殴りたくなるね」
「あるある」
あるあるじゃねえよ。それで殴られるの絶対にマンガアプリと関係ない人じゃん。絶対にとばっちりじゃん。
そんなこんなで八戸での1時間は過ぎていった。
No.067 七戸十和田駅(青森県七戸町)
20:13 東北新幹線 はやぶさ39号 新青森行き(特急料金880円)
ずっとトンネルなのかな?と思うほどの闇の中を走っていった。確かにトンネルもけっこう通ったとは思うけど、それ以上に、トンネル以外の部分も深淵なる闇であった。この闇の向こうにどんな駅があるのか。なんだか急に怖くなった。
20:25 七戸十和田駅
とんでもない闇が訪れた。
ホームから見える景色がすべて黒い。とにかく黒い。そんな駅に到着してしまった。
この駅も、やはり改札階とホームで同じ屋根を共有している。やはり新幹線の駅は周囲の駅と似た構造をしているのだ。
そして、お気づきの方もいるかもしれないが、この画像の上部あたりはガラス張りになっていて外の景色が見られるようになっている。それなのに黒いパネルをはめ込んだみたいになっている。
とんでもないことが起こっている。そう思った。ちなみにこの駅での待ち時間は1時間である。
<ミッション写真 No.67>絵馬とやちよ
とりあえず、あまりの闇に気が動転してしまい、なんでもいいから撮影! と無難に絵馬との撮影をこなしておいた。
駅出口から外に出る。
これはまずいですよ。
駅前のロータリー部分は明かりが灯っているけど、その先が完全なる闇。光を全く反射しない脅威の物体みたいな黒さを誇っている。
ただ、時間だけは持て余しているし、駅の中にもそれほど時間を潰せそうなものがなかったし、なにより、完全にお腹が空いてきたので、なにか店があるかも、そう闇なのはこの周辺だけでちょっと進めば国道とかあって、店とかたくさんあるかもしれない、そう思って先に進んだ。勇気のある行動だ。
こりゃダメだ。遭難する。新幹線駅から数分のところで遭難したら目も当てられない。
とりあえず、命からがら駅へと舞い戻り、逆側の出口から出てみることにする。こういう場合、意外と逆側は発展している、なんてことがある。
似たようなものだった。
ここで1時間? 本当に大ピンチだと思う。おまけに眩暈がしそうなくらい腹が減っている。くそっ、こんなことならさっきのドトールで何かを食べておくべきだった。カフェで何か食べるのは抵抗がある、カフェはあくまでもコーヒーを楽しむところだからね、って気取っていた自分をぶん殴りたい。マンガアプリのやつより僕の方が強くそう思っているはずだ。
もうどうしたらいいのか分からず、闇の中を彷徨った。
あまりに飾りっ気のないその建物、最初は工場か何かだと思った。それくらい地味な建物だ。ただ、この暗がりに燦然と輝く光、それは希望だ。近づいてみる。
「AEONって書いてある……」
ここまで来ても半信半疑だった。これがイオンであるはずがない。だって建物に飾りっ気もないし、入口もない。何より人の流れがなさすぎる。百歩譲ってこれがイオンだとしても物流センターとか倉庫とかそういうのだろ。これがイオンであるはずがない。絶対に違う。
半信半疑ながら、回り込んでみる。
これは、マハラジャ……? いいや、イオン!?
本当にイオンだった。助かった本当にイオンだった。駅から見えていたのは裏口だったのだ。本当に工場としか思えなかったけど、回り込んだらしっかりとイオンだった。
完全にイオンだ。ときめきポイントも10倍である。これでやっと食料を買える。空腹をしのぐことができる。
意気揚々と入店する。めちゃくちゃでかい。向こう側が霞んで蜃気楼みたいになってる。とりあえず食品売り場に向かわないと、と歩き出すと、良い香りがツンと鼻先をくすぐった。
あ、こういう香り好き。女性からこの香りがしていたら一発で好きになる。もしこれが香水ならなんて名前の香水なのか覚えておこう。と探したけど、一向に香水売り場が見つからなかった。
けっこう真剣に探したけれども見つからず、諦めて食品を探そうとした瞬間だった。
「本日の営業を終了させていただきます。またのお越しをお待ちしております」
閉店時間だ。どうやら9時で閉店らしい。もう9時を過ぎている。だからこんなにも客がいない無人の店みたいになっているのか。
結局、なにも買わずスゴスゴと退店する羽目になってしまった。香水にさえ気を取られなければギリギリで食料を買えたと思う。完全にこれは、その香水のせいだよ。熱唱する羽目になっていた。
駅に戻ると、みどりの窓口まで閉まっていた。いよいよ孤独になってきた。
そして、いよいよ空腹が限界に近い。あと薄着なので寒い。もしかしたらここで死ぬのかも、色々な光景が走馬灯のように流れ始めた時、松屋の映像がパッと脳裏に浮かんだ。
「ああああああああああああああああああ!」
そう、今朝の話だ。新白河駅で朝食を求めてさまよい、コンビニで朝食を買ったのだ。その後に松屋を見つけてしまい、その朝食をカバンにしまいこんで松屋の朝食を優先した。その朝食がカバンの中に入っている!
カバンの中で揉まれ、歪な形になったサンドウィッチとおにぎり、めちゃくちゃ美味かった。完全に生き返った。
No.068 新青森駅(青森県青森市)
21:22発 東北新幹線 はやぶさ41号 新青森行き(特急料金880円)
腹も満たされ、本日最後の新幹線だ。これで新青森まで移動し、本日は終了となる。とんでもない旅で永遠に終わらないと思われたが、いよいよ新青森からは北海道新幹線となり、新青森を入れて残り4駅、新函館北斗駅だ。終わりが見えてきた。
21:37 新青森
多くの人がぞろぞろと降りて行った。また一段と寒さが上がったような気がする。周りの人もみんなコートとか着て厚着で、僕だけ季節感のない小学生みたいになっている。さすがにこの格好で北海道入りは無謀だと思うので、できればどこかで防寒着を購入したい。
新青森の駅は思った以上に大きな駅で、たくさんの店が軒を連ねているような感じだった。ただほとんどが営業を終了しており、ひっそりとしていた。
<ミッション写真 No.68>ねぶたとリオナ
青森県内の駅は、山車やらねぶたやら、そういったものを展示しがちなのでいちいち迫力がある。
特に迫力があったのが、サッカー日本代表柴崎選手のこれである。迫力があるどころじゃない。なんか怖いよ。距離感狂うよ。
といったところで3日目はこれまで。ホテルにチェックインする際に「差し出がましいですが寒くないですか?」と聞かれたけれど、満面の笑みで「寒いです」と答え、最終日に続く! 残り3駅!
3日目のまとめはこちら
下車した新幹線駅 18駅
乗車した新幹線 14本
制覇した路線 東北新幹線
駅メモチェックインした駅 82駅
総移動距離 638 km
キップ代金 15,140円
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