それでも“鹿児島唯一の遊園地”として続けたい。「ダグリ岬遊園地」の40年間が懐かしさと思い出に満ちている
鹿児島県志布志市の夏井海岸沿いにある「ダグリ岬遊園地」は、今年で開園から40周年を迎える鹿児島で唯一の遊園地です。広報活動をされているダグリンおばちゃんにその歴史や想いを伺いました。
子どもの時に訪れた遊園地は、記憶の中で特別な輝きを放っているものです。
かわいいキャラクターや色鮮やかな乗り物、園内で食べられるホットスナックやソフトクリーム、いつもの日常から離れたキラキラした世界に連れて行ってくれる遊園地は、子どもにとって夢の王国でした。
大型遊園地は高度経済成長期の頃、時代の波に乗って全国各地に続々とオープンしました。しかし、平成・令和の時代になり莫大な維持費や少子高齢化、人々の娯楽の変化などからいくつもの遊園地が閉園を余儀なくされています。2018年には福岡のスペースワールド、今年2020年にとしまえんが惜しまれつつ長い歴史に幕を閉じました。
そんな中、小規模ながら地道に経営を続けている昔懐かしい遊園地が鹿児島にあります。
鹿児島県志布志市の夏井海岸沿いにある「ダグリ岬遊園地」は、今年で開園から40周年を迎える鹿児島で唯一の遊園地です。
そんな「ダグリ岬遊園地」をレポートしつつ、運営会社の谷口製作所に今までの歴史や思い出について話を伺いました。多くの人が子ども時代に体験したであろう「キラキラした遊園地の世界」を懐かしく愛おしんでもらえたらと思います。
目次
「エモい」「昭和レトロ」なアトラクションの数々
お城のような造りのダグリ岬遊園地入り口。看板のフォントが昔懐かしい雰囲気です。
まずは入り口で支払いを。入場券は300円(志布志市民は半額の150円)、アトラクション利用時は乗り物チケット各210円が必要です。お得な回数券1000円分を購入すると一回当たり200円になるのでおすすめ。(※2021.10月時点の情報です。今後変更の可能性があります)
入り口横のポストには、ダグリ岬遊園地のマスコットキャラクター・ダグリンちゃんがいます。「幸せの黄色いうさぎ」と呼ばれ、一緒に写真を撮ると幸せを運んでくれると噂されています。
そんなダグリンちゃんの被り物をした、ダグリ岬遊園地の名物・ダグリンおばちゃんが迎えてくれました! 谷口製作所二代目と結婚して以来、ダグリ岬遊園地で働いていらっしゃいます。
ダグリンちゃんがマスコットになったのが、2007年(平成19)。その頃からダグリンおばちゃんとして広報活動されています。
「子どもが大好きで、結婚前は小学校の教師をしていました。好きだけじゃ教員はやっていけないところがあるのですが、うちの夫と出会って遊園地をやっていると聞いたとき、難しいこと抜きにシンプルに子どもに楽しさや笑顔を提供できる仕事に魅力を感じました。実は小さいころにここへ遊びにきたことがあるのですが、まさか自分が働くことになるとは!」
さっそく、園内を案内してもらいました。
「もうメディアに出る時にはダグリンおばちゃんじゃないと逆に恥ずかしくってね」と話すダグリンおばちゃん。
「『ダグリンちゃんの着ぐるみを作って』と社長(夫)に頼んだら『そんなお金はない』と言われたものだから、通販で白いうさぎの被り物を1500円で仕入れて地元の染物屋さんに黄色に染めてもらいました。『こげなん染めたことねえばってん』と言われましたがさすが染物屋さん、いまだに色褪せずに10年活躍しています」
まずは遊園地入り口の駐車場をぐるっと一周するパノラマモノレールに乗車。細いレールの上を進むので、結構スリリングです。海や山が見えて気持ちいい!
「テレビの取材でチョコプラさんがいらしたとき、松尾さん扮するJYパークさんが何でも褒めてくださって『駐車場に止められた車を見張るのにいいアトラクションですね』って(笑)」
園内でアトラクションに乗るときのポイント。それは近くにいるスタッフに声をかけてアトラクションの電源を入れてもらう必要があるということです。
「うちの社員は全部で11人。工場での溶接や園内でのメンテナンスや整備もしつつ、クルーもしています。だから、いつでもかわいいコスチュームを着て対応というわけにはいかなく、作業着のおっちゃんたちが『いらっしゃい!』とアトラクションにのせてくれます。」
遊園地に棚や看板を作るなど、なんでもできる技術者が多いとのこと。頼もしい社員さんたちです。
園内のアトラクション(コインで動く遊具は除く)はすべて谷口製作所のオリジナル。レトロでかわいい乗り物の数々にワクワクします。
「数年前に『エモい』って言葉が流行り出して、昭和レトロが注目を浴びるようになりました。遊具は40年前から変わらないんですけれど、『レトロ~』とか『エモい』と若い子にも言われるようになって、写真を撮っている若い人たちの姿をよく見かけるようになりました。」
確かに、写真を撮りたくなる「エモい」風景の数々です。
コインで動く遊具は、全国各地の遊園地やデパートの屋上で活躍してきたものたちを中古購入して設置。特にデパートの屋上遊園地は今ほとんどなくなっていますが、多くの子どもたちを楽しませて活躍してきた遊具はここでゆったりと余生を送っています。
メリーゴーランド。回転するのではなく、シンプルに上下運動を繰り返します。
テレビ番組でお笑い芸人さんに「普段乗っているメリーゴーランドの素晴らしさに気づかせてくれる」とイジられていました。
「いじられてなんぼです! 来てくださってありがたいですよね」
園内随一の絶叫アトラクション「ロックンロール」。このドラム型の座席がくるくる回転しながら全体がまわり、それが3分も続くという超恐怖のアトラクション。動いているときには必ず園内に絶叫が響いています。
園内の一番奥にあるのが観覧車。これも平日、お客さんが少ない時は人が乗るときだけ電源を入れて動かします。
「観覧車が停まっているからやっていないのかと思いました~とよく言われます。定休日の火曜日以外は絶賛営業中ですよ!」
観覧車は見晴らしが素晴らしく、志布志湾と地平線を見渡せます。
観覧車のある高台から遊園地を一望できます。
「平日のお客さんは10~30人程度なので、貸切気分を楽しめるチャンスです。お客さんは土日祝日やGW、夏休み、年末年始時期に多くて、特に多い日は一日で1800人くらい集中することもありました」
コロナ禍以前の年間来場者数は約4万人程度。最盛期の1980年代には一日5000人くらい来ていたこともあるそう」
園内にあるレストハウスには、ゲームコーナーも。
昔懐かしいレトロゲームは、大人も思わず童心に帰ってしまいます。
土日祝日はフードの販売もあり、焼きそばやフランクフルト、たこやき、フライドポテト、カレー、唐揚げなどが売られています。遊園地で食べるちょっとジャンクな食事って、子どもにはたまらなく嬉しいですよね。
「メニューは基本的にファストフードですが、うどんはうちのスタッフが出汁をしっかりとってこだわって作っています。スタッフの間でも人気で『お客さんに出すよりもスタッフに出したのが多かった』なんて日もありますよ(笑)」
さて、一通り見て回ったところで、ダグリ岬遊園地の歴史や背景、現在の運営についてお話を伺ってみました。
国鉄マン、遊具メーカー勤務を経て生まれ故郷に遊園地を
園内にある遊具(コインで動く自動遊具を除く)の設計・製作を行ったのは谷口製作所の初代、故・谷口利盛さんでした。
「義父は志布志の国鉄で技術者として働き、その後大阪にある遊具メーカー・岡本製作所に就職しました。そこで国鉄でのノウハウを使い数多くの遊具の設計や製作を行ってきました」
結婚した後、『技術を生かして地元に貢献したい』という思いを持って、生まれ故郷の志布志に帰郷。
「当時ここは公園で、植物があるだけで遊具はありませんでした。そこで義父が町に『小さい遊具でいいから置かせてもらえんか』と働きかけたのが遊園地の始まりです。ちょうど町おこしの気運が高まっていた頃で、義父の昔ながらの友人知人も応援してくれ、『それなら遊具を作る技術を生かして志布志に遊園地を建てよう』という流れになっていったようです」
時代はおそらく1970年代後半、「地元志布志に遊園地を」とワクワクする計画が進行しました。少し前の1960年代には全国各地に次々と大型遊園地ができており、1966年には熊本の三井グリーンランドがオープンしていました。
そうして1981(昭和56)年1月1日、ダグリ岬遊園地がオープン。町の土地に遊具を建てて、売り上げの何割かを収める契約として始まる形態でのスタートでした。
「こんな田舎にどこから人が湧いたんだろうっていうくらい列ができて、ジェットコースターは大行列。すごい大賑わいだったみたいです。昔は夏にプールサイドでかき氷小屋をしていたのですが、一日に千個以上出ていたと聞きました」
人気のアトラクションは、森の中を通るジェットコースター
一番人気のアトラクションはジェットコースターでした。
「『森の中通っていたよね』とか『スリル満点』とか評判で、いまだに「コースターないんですか」ってお客さんは今でも結構いらっしゃいます」
Twitterで「ダグリ岬遊園地」と検索してみても、ジェットコースターの思い出をつぶやいている人は多いです。
「まだ安全に稼働できるジェットコースターだったのですが、2007年(平成19)検査基準が厳しくなって時間も費用も大きくかかるようになった頃に採算を考えて廃止しました。当時小学生だった息子が、『将来僕が大きくなったら家を継いで新しいジェットコースターを僕が作る』なんて言ってくれました。今息子は大学を出て神戸のメーカーで働いています。今後どうなるのかわかりませんが、もし実現するなら楽しみです」
3世代に渡るお客さん
「ありがたいことに長く続けていると、『昔は親に連れて来てもらっていたけど、今回は自分が子ども連れてきました』とか、2代3代と来てくださる方がいらっしゃいます。『変わらんねえ』と」
「30周年の時には地元テレビで、局が保管していたオープン当初の映像を流してくださいました。その映像では、観覧車にお父さんと子どもが載って手を振っていたのですが、後日うちに『あれは父と私です。映像いただけませんか?』とお電話がありました。私から局に電話してみたら、映像をDVDに落として送ってくださった。そういうこともありましたね。小さいころ来たって思い出語って下さるお客さんがたくさんいらして、聞かせてもらえると長くやっていてよかったなと思います」
面倒見のよい頑固爺
「私が結婚した頃はすっかり穏やかで、厳しいことや嫌なこと言われた経験がないんですけど、昔の義父を知っている人から話を聞くと本当に頑固爺だったみたいです。でも、その反面すっごい後輩をかわいがる人で。町に飲みに行って『社長こんにちは』、と声かけられるとその辺にいる人たちみんなにごちそうしちゃうような豪快なところがありました。『あんたげのお義父さんには世話になっちょったんやよー』って話を後になっていろいろ耳にします」
「あと、とにかく遊具の安全性には徹底してこだわっていました。義父はジェットコースターの試験運転で、立って乗って安全性を確認するほどでした。立って乗って安全じゃなければダメと言う独自の理論で。現在後を継いだうちの夫は、義父がとても偉大な人だったので大変なことが多いと思いますけれど、追い付け追い越せと一生懸命やっています」
ダグリ岬遊園地が続いてきた理由
「いろんな方のご協力や応援があってのことなのですが、うちの一番の強みはメーカーであることです。自分たちですべて製作、運営、メンテナンスできるのは大きいですね」
自社製作・修理・整備ができるとはいえ、年々訪れる子どもが減っている遊園地の経営は大変なこと。だからこそ今日本各地で大型遊園地がその歴史に幕を閉じているのです。
「娯楽は不景気になると真っ先に家計から削られるので、ただでさえ大きな維持費のかかる遊園地は続けるのが難しい分野なのかなと思います。でも、子どもたちの笑顔は家庭の癒しですよね。お父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃんが頑張ろうって思う原動力は子どもの笑顔。だから、子どもが『楽しかった』『また連れて行って』と喜ぶ場を、細々とですけど、地道に守っていきたいなと思います」
さいごに
鹿児島の片隅でひっそりと地道に営業を続けるダグリ岬遊園地。地域密着でお客さんとの距離が近く、初めて訪れる人もどこか懐かしさを感じるようなアットホームな空気が流れていました。これからも鹿児島唯一の遊園地として歴史を重ねていくことでしょう。
この記事を読んで、自分が子ども時代に訪れた思い出深い遊園地やデパートの遊具乗り場を思い出した人も多いのではないでしょうか?
もしそんな場所がまだ存続しているのなら、子どもを連れて行ったり、友達と一緒に行ったりしてみてはいかがでしょう? 大人だけで行くのだって大いにアリです。子どもの頃の懐かしく愛おしい思い出が溢れてきて、もう戻れないあの頃を思うとちょっぴり寂しく、でも幸せな気持ちになることでしょう。
ダグリ岬遊園地
TEL:099-473-1061
休園日:火曜
開園時間:10:00-17:00
住所:鹿児島県志布志市志布志町夏井211-2
公式サイト:https://daguri.co.jp/
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/daguri__/