JR北海道の廃止予定駅を全駅訪問してきた ’22激情版

立待岬より、1年間のご無沙汰でした! オヒサシブリデスネー、ゐわむらです。

立待岬がどこにあるかって、アレですよ、函館

2020年夏2021年冬、2度にわたってお送りしたJR北海道廃止予定駅めぐりの奇行紀行文は、1年の時を経てまたまた北海道の地に戻ってまいりました。

なぜまたしても軽率に渡道してしまったかというと、これです。

はい、毎年毎年飽きもせずよくやるもんですよ。鉄道各社も私も。大体ね、改正っていうんだから、利便性の向上だけ図りなさいよ。駅の廃止で利便性が上がりますかってんだ。え? 余計な駅に停まらないから速達性が上がる? もうアレだね、特急が停まらない駅は将来なくなるねこれ。

というわけでやっぱり今回もJR北海道の駅が7つなくなることになりました。7つて。前年度、夏冬合わせて40駅以上降り立った私としてはね、7つなんて奥さん、ちょちょいのジョイですよ。

でももうなんか、それくらいなら行かなくてもいいんじゃない? ネタにならないんじゃない? なぜこんなことをしているの?

ええと私はハタチくらいの頃、ちょっぴり鉄道が好きだったばっかりに、日本全国の鉄道に乗ってみたい! 全ての駅に降りたい! などと、大した覚悟もないのに乗り放題の悪魔(一般に「青春18きっぷ」という)と契約して旅を始めました。
結果、安くどこへでも連れて行ってくれる代わりに全ての駅に降りねばならない呪いをかけられてしまっているのです。なので行くんですよ。

ちなみに立待岬は、今まで岬めぐりを最初の画像にしていたので旅程を変えてまで行きました。マジでムリヤリねじ込み過ぎて鉄道に乗るのがないがしろになった。本末転倒じゃないか。

※マスク着用やアルコール消毒液の携帯など感染症対策をしっかり取った上で実施しました。なお、一部激しい運動をする場面ではマスクを外している箇所がございます。

目次

みたび ながい たびが はじまる ……

さて恒例の廃止駅の発表ですけど、そろそろ既に行ったことある駅とか出てくるんじゃないかな。

函館本線:池田園駅、流山温泉駅、銚子口駅、石谷駅、本石倉駅
根室本線(花咲線):糸魚沢駅
宗谷本線:歌内駅

見事にどこも行ったことなかった。廃止は上記7つなのですが、実は今回廃止ではないけど名前が変わる駅というのが3つあります。

○移転のうえ名称変更
宗谷本線:東風連駅→名寄高校駅

○名称変更
札沼線(学園都市線):石狩太美駅→太美駅、石狩当別駅→当別駅

ということなので、廃止7駅と名称変更3駅の合わせて10駅に行くことにしましょう。そうしましょう。しかし毎度毎度廃止されるされる言われながらも生き残る留萌本線は何なんでしょう。今回も無事に堪えた。

さて、じゃ改めて10の駅を地図上にプロットしてみましょう。そ〜れ〜ぃ。

満遍。満が遍だよ。どうなってんだ。広すぎ涼子かよ。

ちなみに前回がこれ。

前回だって広かったけど道央、道北、道東だったからまだね、まだほら、何となく円周上にある感じじゃないですか。

それがなんやもう道南も入って全域やないか! 全の域やないかーーーーー!!!

うーん、ま、でも、思い切ってやっちゃおっかな! 「男なら……やってやれ!」だ!!

今回はダイヤ改正前の5日間で全ての行程をこなします。釧路から入って、帯広、旭川を経由して北上、その後南下して札幌近郊、最後に函館というプランでやってみましょうか。

さ、いざ! 北海道へ!

……と思いきや、何やら唐突に爆弾低気圧が襲来中だという。どうも現地は大雪になっているらしい。いやいや、言うて北海道ですからね、雪くらい降りますし、冬こそJRですしおすし。

初日 1112釧路→(鉄道)→1158厚岸

はい運休。冬こそJRじゃないのかよ! どうすんのこれ。先に進めないとかロープレの序盤かよ。さりとてなんかレベル上げたり依頼こなしたりとかすれば運転再開するとかそういうのでもなさそうだからもうアレだ、ぜんぶ雪のせいだ。

あ、待て、よく見ろ、普通列車は動くんじゃないのこれ。この日行くべきは根室本線(花咲線)の糸魚沢駅。ほら、花咲線、見て!

釧路〜厚岸間のみ運転
※厚岸〜根室間 運休

ハーッハッハ! 見ろ! 厚岸まで動くじゃないか! 動く、動くぞ、厚岸まで! あっけし……あっ、あっけ…………? 糸魚沢、厚岸の次じゃん……。

そんなことあります? たった1駅ですよ? 動かないんですか?

まあでもね、動かないものはしょうがない。動いている厚岸駅まで行ってみることにしよう。もしかしたら急遽運転が再開するかもしれないし。釧路駅のみどりの窓口で在来線特急にも7日間乗り放題の「北海道フリーパス」を買おうとしたら「えっ、特急動いていないですよ!?」ってめっちゃ心配してくれました。

ありがとう、でもね、いいんです。どうせ翌日以降特急が動くようになったら乗りまくるんだから。

気を取り直して行ってみましょう。車窓から見える景色はこんなにも晴れ渡っているのに、列車は途中までしか動かない。

心なしかエゾシカさんもこちらのことをコケにしているように見える。

チタタㇷ゚にして食っちまうぞ。金の神威の漫画によると、エゾシカさんは脳みそに塩かけて食うと美味いそうです。こんなにかわいらしいのに。

そのまま東へ下っていくと途端に視界が開けました。

厚岸湾が見えてきたということはもう駅が近いです。

厚岸というのは牡蠣が有名なところなんですね。駅弁のかきめしを北海道フェアとかで見たことあるという人も多いのではないでしょうか。その駅弁は駅前の商店で売られているはずなので、それを買ってお昼にします。完璧なはずだった行程が運休により一瞬で瓦解したので、楽しみを見つけながらなんとかこなしていくことにします。

そしてこういう駅弁はさっさとなくなってしまうので駅を降りたら一目散に向かいます。

あー、ほらほら。あれですあれ。こぢんまりとしたちいちゃな商店です。オイチイオイチイかきめしが待っていますよ。

なんでだよ! きょうは別に定休日じゃないだろうがよ!! アレか、大雪だからか。ぜんぶ雪のせいなのか?

なんかもういいよ、もうなんでもいいよもう。

だだ下がりのモチベーションを維持するにはやはり駅めぐりしかありません。厚岸駅から行ってやりますよ、糸魚沢駅まで。列車は動いていませんがここまで来たら行ってやろうじゃないですか。

実は持ってきていました。自転車。1年半ぶりに引っ張り出してきたので多少サビはありましたけど、多分大丈夫でしょう。帰ってきたGoTo号(前回の輪行時にGoToトラベルを使ったことからノリで名付けられた)で糸魚沢駅を目指します。

そうそう、同じ轍を踏まないのが私よ。夏の宗谷本線のときはひたすらケツが痛くなったので尻を保護してくれるものを買っておいたのです。

要はサドルにかぶせて使うクッションなんですけど、果たしてこれがうまく機能してくれるのか……。

初日 1158厚岸→(自転車)→????糸魚沢

さあお立ち会いお立ち会い。地獄の輪行の始まりだ。

ただその前に何か軽く腹には入れておきたい。何せこのあと行く糸魚沢駅は約12キロも離れているのだから……。かきめしはダメでしたが、駅の近くには道の駅がある。そこに行けば何かがあるはずです。

道の駅ではつのだ☆ひろさんばりのネーミングがイカすオーイ★スター君が出迎えてくれました。

店内にはなんかちっちゃい展示スペースみたいなのがあって、牡蠣の成長の過程が分かるようになっていました。わーデカい。楽しいなここ。

そういうのに気を取られている場合ではなく、何か食べるんです。何かっつってもここまで来て牡蠣を食べない訳にはいきませんので牡蠣を食べるんですけど、あんまりのんびりしていると自転車に乗り遅れてしまうのでなんかサクッと食べられるものがいいですね。

というわけで秒で食べられそうなものにしました。

チョイスしたのは2種類の蒸し牡蠣の食べ比べセットです。さすが一大産地。こういうのだよ、こういうの。

蓋を取ってみると、まあ、おいしそうなお牡蠣だこと。いただきまーす。テュルンと滑り込んだお牡蠣様は濃厚な味わいを口いっぱいに広げてくれました。

 

あっ

 

という間に牡蠣はなくなりました。こんなん10個でも20個でも食べられるのでカネにモノ言わせて全部買い占めてやろうかしら。

 

牡蠣食えば カネがなくなり 豪遊寺

煩悩まみれの豪遊寺でダラダラしていると糸魚沢駅に行くのタルくなってきたな。でも行きます。

 

冬、北海道の雪道をチャリで走ることがどれほどのものなのか、私はまだ知らない。持ち前の脳天気さを発揮して、あまり深く考えずにペダルを踏んでいきます。Googleマップ先生によると自転車だと45分で着くらしい。現在時刻が12時30分くらいなので13時15分くらいには糸魚沢駅にたどり着く計算です。

ひんやりとした空気が心地よく、軽快に進んでいきます。心配した路面状況はというと、きちんと路側帯まで除雪されていてそこまで雪の影響はありません。なんだ。こんなことなら前年の冬、日高本線のときも自転車持っていけば良かった。

ふんふーん、なんつってご機嫌で漕いでいたんですけど、アレだね。痛いね、尻が。クッション敷いているのにな。いや、クッションは悪くない。悪いのは普段運動しない私の怠惰っぷりに尽きるな。げぇ、あと7キロもある。

心地よかった冷気もだんだん体力を奪う厄介な存在になってきたし、そんな私の横すれすれをトラックがすり抜けていく。

さらに追い打ちをかけるかのようなアップダウンが出現。パンパンに張った脚では上り坂を漕ぐことはできず、押して歩くなどしていると時刻は13時45分に。45分というGoogleマップ先生の見立てに反して1時間15分が経過しています。

無限にあるかのような長い道のりを漕いでいるとなぜこんなことをやっているのか分からなくなります。抜海駅に行ったときもこんな感覚だった。

そしてようやく……

糸魚沢! 糸魚沢の看板です!

ということは……

着いた! よーやっと着いた!!

単なる小屋という感じの駅舎ですが、そこに駅があるというのはなんと安心感をもたらしてくれることでしょう。

雪に覆われ陽の光に照らされて、とことことやってくる列車をけなげに待っています。14時30分に来る列車を、列車……。あっ、列車来ないんだった。

列車が来ないということは、ここに列車が来ません。つまり、どういうことかというと、列車が来る厚岸駅まで帰らなければならないということです。地獄の輪行再び。またしても12キロを漕がねばなりません。

 

厚岸からは15時04分に列車が出ます。現在時刻は14時ちょうど。往路は1時間15分かかりました。ここから導き出される結論は一切タイムロスをせず、かつ10分以上ペースを上げねばならないということ。とにかく1分でも惜しい状況ですから、すぐに糸魚沢駅を後にします。

初日 1400糸魚沢→(自転車)→????厚岸

マイルール的には列車に乗るか降りるかしなければクリアとならないのですが、待てど暮らせどこの日列車が来ることはないんだからしょうがない、下車ではなく、訪問としてクリア扱いにします。列車が動かない場合の特例です。

後ろ髪を引かれながらも、自転車にまたがりもと来た道を戻ります。行きはよいよい帰りはなまらこわい。

こわごわペダルを踏んでいると、なんだか後ろから鈴の音みたいなのが近づいてきます。

しゃんしゃんしゃん……。

え、なんだろう、こんなアホみたいな旅を続けるくらいの命には意味がないなんつってお迎えが来たのかな……。本当に怖くなってきた。

しゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃん……!!! 音はどんどん大きくなってきます。

バカでかい除雪車でした。こえーよ。サンダーバードのメカかよ。

鈴みたいな音をかき鳴らしていたのは、2メートルくらいある車輪に巻かれていたチェーンだったんですね。なんかふっと気が抜けてしまいました。気が抜けると太ももがつりました。両脚ともつりました。ついにやりました。負傷です。

前回も前々回もめちゃくちゃ尻や脚に痛みがあったのに血が出ていなかったのでタクシーを使えなかった。今回も血は出ていませんが完全にダメです。生まれたての子鹿のような格好で自転車をゆ〜っくり押さないと動けません。よし、こうなったらタクシー使おうタクシー。

でもね、北海道にはね、流しのタクシーなんてあるわけないんです。途方に暮れているとパトカーが通りがかりました。おわーこんな車しか通らないような国道に大荷物で自転車を押す人がいたら普通気にかけてくれるでしょ! ヘイパトカー!

そのまま走り去っていきました。なんでだよ、しろよ職質。

痛いのを押し殺してチャリを漕ぎますが、残り2キロのところで14時55分になっていました。発車まであと9分です。9分! どうあがいても絶望としか言いようがありませんが、漕いでやろうじゃありませんか。

オラー!!!

 

間に合いませんでした。聞こえてくる出発の警笛。あのとき牡蠣を食べていなければ……。あのとき牡蠣の展示を見ていなければ……。押し寄せてくる後悔の念。俺は全力を出せていない……! なんという惨めな悪夢だ。しかしどんなに悔やんでも時間は戻せませんので切り替えるッピ。とりあえず厚岸駅に向かいます。

道中、街なかにフツーにエゾシカがいました。のんきなものです。いや、生きていくのに必死な彼らをのんきだなんて言ってはいけません。趣味に生きる私の方がよっぽどのんきです。

いや、一番のんきなのはこいつだったわ。

交ちゃんて。交通安全ロボットわたしは交(こう)ちゃんてー。

豪遊して、時間に間に合わず、がっかりな感じになっていますが、のんきな交ちゃんを見ていたらまだ自分は大丈夫と思えました。

なんとか厚岸駅に戻ってきましたが満身創痍とはこのことで、私もさることながらGoTo号も峻烈な旅路を超えてきたというのを示す勲章のような跡がありました。

つららですよつらら。はねた水が冷気に触れて立派に成長しました。そんな過酷な環境の中よく生きて帰ってこられたな……。

駅の掲示板には特急が運休になったことが書かれており、札幌近郊の北広島駅と千歳駅の写真が貼り出されていました。見事にレールが埋まっている。北広島駅の全てを諦めたかのように刺されたスコップが雪のひどさを物語っていますね。でも糸魚沢方面、関係なくない? 動けるんじゃない?

JRが動けないと判断したんだから動けないんでしょう。そんな中、厚岸まで動かしてくれたことに感謝するほかないですね。これから釧路方面に戻ります。

現在時刻は15時20分。次の釧路行きの列車は……17時55分!! 空き時間が2時間半もあります。くたびれた身体で、駅前に何もないこの駅でそんなに待たねばならないのはさすがにきちい。

だがそれは鉄道に固執した場合の話。この駅からは釧路方面にバスが出ているのです。しかも出発時刻は16時05分だから40分ほどでやってきます。この旅で珍しくうまいことハマりそうです。そうと決まれば時間まで厚岸駅を堪能しましょう。

うん、いるな、エゾシカが。

初日 1605厚岸駅前BS→(バス)→1719釧路駅前BS

定刻より5分ほど遅れたものの無事にバスがやってきました。

厚岸町の隣の浜中町がモンキー・パンチ先生のふるさとということでルパン三世のラッピングがなされています。

バスには学校帰りの高校生らがそれなりに乗っていました。地元ゆかりのデザインが施されたバスの車内で地元の高校生が爆睡している、このような姿に触れることこそまさに地方を旅する醍醐味というものです。

まあ本来これは鉄道で味わいたかったんですけどね。私も疲労が困憊だし爆睡するかな、と思ったんですけどなんか自転車を漕ぎすぎたせいなのか気持ち悪くなってきて寝られませんでした。

疲れているけど、それを癒やせる睡眠ができないというのは結構ツラく、ようやっと釧路のシンボル・幣舞橋が見えてきたときには嬉しくてもう死んでもいいと思いました。嘘です。死にたくない。

そうして釧路駅に舞い戻ってきたのが17時40分ごろ。この日は帯広まで行かねばならんのですが、乗るはずだった18時59分の特急おおぞら12号運休ですので、19時26分の普通列車まで時間があります。

 

であればお夕飯にしましょう!!

当初の予定ではセイコーマートとかで適当に済ませるはずだった夕飯の時間。運休によって爆誕しました。詰め込みすぎていた行程に適度な休息を与えてくれたので運休も必ずしも悪いことばかりではなさそうです。

まだ17時台ですが、昼に牡蠣2個しか食べていないし、24キロも走ったのでもうおなかと背中がくっつくぞ。

向かったのは駅から歩いて行ける距離にある「インデアン」というカレー店です。道東のソウルフードで、どれくらいソウルっているかというと、自宅から鍋持ってきて一家全員分テイクアウトするっていうようなことがフツーに行われているくらい魂に刻み込まれています。

あたしゃ何度も道東に行っているけど、基本的に営業時間中は鉄道に乗っているので食べたことがなかったのです。

念願のインデアンカレー。運休の賜です。注文したのはインデアンルーにチキンのトッピング。うん、香ばしくて深みがあるスパイシーなカレーですね! これは確かに多くの人に愛される味です! わー、おでかけ体験型メディアっぽいことをしている!!

バスの中で気持ち悪かったのはどうも空腹が原因だったようで、インデアンを出る頃にはすっかり元気になっていました。いや、疲労困憊なので元気ではないんですけど。

初日 1926釧路→(鉄道)→2205帯広

駅に戻って普通列車に乗り込みます。19時26分に釧路を出て、帯広に着くのは22時05分。実に2時間半の旅路です。帯広出身の知人が「釧路は隣町」って言っていましたが絶対に違う。ちなみに特急でも1時間半くらい。絶対隣町じゃない。

かかる時間の長さによって感じる北海道の雄大さ。そいつをアテに飲んでやります。飲まなきゃやってられっか。

ミーハーなので北海道に来たら必ず北海道限定のサッポロクラシックを選びます。さっぱりしていておいしいんだこれが。高校生グループの楽しげな会話に耳と杯を傾けているとどっと疲れが押し寄せてきました。やい、高校生。30手前にもなって一人寂しく駅めぐりをしている、こんなおっさんにはなるなよ。

アオハル高校生でいっぱいだった車内も一人、二人と降りていき、徐々に閑散としてきます。そして定刻通りたどり着いた帯広はすっかりしんとしていて、おっさんの心は物寂しさにあふれていました。

改札を出ると翌日の運行予定が掲示されていました。普通列車は動くも特急は運休。そして根室線代行バス(東鹿越〜新得間は災害のためバス代行中)が運休ときた。おぎゃ。これはまさに翌日乗らんとしていたもの。

さあどうしたものか。

とりあえず雪のちらつく中、駅前の宿に向かいます。そして帯広名物モール温泉に浸かって、キューピーコーワゴールドα錠を飲んで翌日に備えます。その翌日も試される大地が試してくることを、この時点でゐわむらはまだ知る由もなかった。

2日目 0730帯広→(鉄道)→0841新得

青空が広がった2日目。本来はもう1本早い06時49分の列車で出発する予定でしたが、新得駅で乗り換えるはずだった根室線代行バスが運休になってしまったので、それに合わせる必要がなくなりました。

それでも新得に向かうのは、旭川方面へ抜ける都市間バスが走っているから。このバスは帯広が始発ですけど、せっかく鉄道のフリーパスがあるので鉄道を使えるところは使いたいじゃないですか。バス代もちょっと安くしたいし。

そういうワケで、まずは鉄道でスタートします。昔ながらのディーゼル列車は帯広を出るとしばらく街なかを走りますが、じきに朝の日差しまぶしい十勝平野へと入っていきます。このあたりは時間の流れがのんびりしていて心が洗われるよう。

08時41分、予定時間通りに新得駅に着きました。

なかなか面白い訳をする案内板があります。WELCOME TO まで書いたところでSHINTOKUまで入らないことに気付いたのかな。それともその先の答えは自分で見つけろってことかな。

やっぱり何度見ても走らないものは走らない。でもみどりの窓口は開いていますし、とりあえず時間のあるうちに旭川から乗る特急の指定席券でも発券しておいてもらいましょうかね。

旭川から、と伝えると駅員さんがちょっぴりザワつく水曜日。

「ここから旭川まではどうやって……?」

「バスです」

「代行バスは運休ですけど……」

「ノースライナーに乗ります」

JRではないバス名を伝えると、ほっとしたようながっかりしたような表情できっぷを出してくれました。ごめんなJRじゃなくて。俺もホントはJRの代行バスに乗りたかったよ。

新得は2019年にNHKで放送された連続テレビ小説「夏空-なつぞら-」の舞台になったということで、それをアピールするオブジェが飾られていました。連続テレビ小説の舞台になるってのは、町にとっては一大事だったのでしょう。駅隣接の商工会館にもなつぞら色に褪せてしまったポスターがそのまま飾られていました。

そんな新得にはもう一つ特筆すべきポイントがあって、それは北海道の重心地ということ。中心地ではないです、重心というと、指先に乗せたときにバランスが取れる位置。

つまりどういうことかというと、北方領土を含めた北海道は、この新得がある位置を指先に乗せれば釣り合うということです。駅前にやじろべえのモニュメントがあるくらいだからそうなんでしょう。

ただ、正確にいうと、北海道の重心地はスキーを使って往復6時間かかるという山奥にあるらしいです。七国山病院かよ。いつか行ってみたい気がしますが、ヒグマがね……。

これは根室本線代行バス乗り場の看板です。ただでさえ1日4本という少なさですが、この日は一切来ません。

でも都市間バスがあるから大丈夫です。本当に? これだけ鉄道が止まっているのを考えると途端に心配になってきたな。でもまあバス停に4人くらい待っているから問題ないでしょう……。

あ、ほらほら。無事にやってきました。

2日目 0914新得駅前BS→(バス)→1131美瑛BS

3列シートで快適だなあ。根室本線の一端を担うここ新得駅から東鹿越駅は2016年の台風で橋梁が流されて以来バス代行が続いています。

そしてこの旅に出る直前、この区間を含む富良野駅から新得駅の間は鉄道の廃止が決定いたしました。具体的な時期は未定ですが、そういう事情もあったのでできれば代行バスでこの区間を往きたかったのです。まあ運休なので致し方ありませんが、あれもこれもぜんぶ雪のせいだ。

でも結局バスなら一緒じゃない? と思われる方もいると思いますけど、やっぱり代行バスと普通の路線バスは違うのです。代行バスは鉄道だけど、路線バスはバスですからね。今回のダイヤ改正のどさくさに紛れて一緒にこの区間が廃止にならなくて本当によかったよ。

この区間には狩勝峠という峠があります。鉄路では山をぶち抜いたトンネルを走っていきますが、バスはこの峠を越えていきます。うん、めっちゃ雪降ってるな。それでもしっかり走っていくのだからすごい。鉄道もこれくらい見習いなさいよ。

峠を越えると、休憩と称して道の駅南ふらのへ立ち寄りました。この近くにも幾寅という駅があるのですが、代行バス区間であり、もう5年くらい列車が来ていません。幾寅駅は高倉健さん主演の名作映画「鉄道員」のロケ地になったのに、鉄道が来ないどころかあまつさえ廃止が決まってしまいました。

道の駅には皮肉にも鉄路での復旧を訴える文言が掲げられていました。もうね、届かなかった地元の思いほど悲しいものはないですからね。悲しみ深く胸に沈めてバスは走っていきます。

上富良野町の深山峠も越えて、バスはほぼ定刻通り進んでいます。

いよいよ美瑛の停留所に着きます。旭川まで行くバスですが、極力鉄道を使ってやろうと富良野線の美瑛から鉄道に乗ることにしたのです。

さて、美瑛の停留所。駅前にあるのかと思いきやなんだか近くの国道に降ろされました。

え? 駅は? バスの乗務員さんに聞いてみても分からないとのこと。やべえ。これはしくったかもしれない。

慌ててGoogleマップ先生を起動すると、ここから850メートル離れています。現在時刻は11時34分。列車は11時48分に美瑛駅を発ちます。お前、そんなに時間ないじゃないかよ。急いで自転車を組み立て、駅へ出発します。普通に行けば大丈夫だ、問題ない。いっけー、GoTo号。

6分で着きました。いや、ほら、完全に雪道だったんですよ? 6分て結構頑張ったと思います。

2日目 1148美瑛→(鉄道)→1220旭川

あわや乗り遅れるところでしたが、それでも無事にこの日初の鉄道です。美瑛から旭川まで、雪煙を上げて走るディーゼルカーに揺られていきます。鉄道はいいぞ。

時刻は12時20分。北海道第2の都市、旭川に着きました。旭川からは13時35分発の特急サロベツ1号に乗って廃止予定駅の歌内駅の1駅手前、天塩中川駅まで行きます。そして天塩中川から自転車で歌内まで行くという計画です。

ちゃんと特急動くじゃん。いやまあそんなこと新得駅で指定券を取っておいたんだから分かりきっていたことなんですけどね、いずれにしてもこの旅初の特急ですので胸が高鳴ります。

でもその前に。出発まで1時間以上空きがございますのでお昼にします!

駅の外に目をやると、なんか太陽は出ているのにそれなりに雪が降っています。なんだこれ。ことさらに寒いところに出ていくこともないので駅の中で食べることにします。

旭川ラーメンののぼりが立っているので旭川ラーメンを食べなければならない気分になりました。頼んだのは至ってシンプルなラーメン。はてさてお味は……。

うん、あっさりとした醤油ラーメン! 醤油味! とっても醤油味! 別にラーメン通ではないので何を以て旭川ラーメンとするのかは知りません。旭川(で供される)ラーメンってことだったのかもしれませんが普通においしかったです。ぼくは、また食べたいです。

食堂で一休みしていると、落ち着いた室内になんだか切羽詰まった声のアナウンスが響き渡ります。なにやら不穏な感じですがよく聞き取れません。なんだろう、まさかね、13時35分の特急サロベツ1号が運休になったりして……なんてね

ドビンゴ。

オギャー!! そんなことあります!? さっきまで特急に乗れるっつってワクワクしていたのに? まいったなあ……。特急が運休になったら普通列車で北上するほかないね。こういうときの切り替えは早い。

普通列車は13時59分発で名寄駅に15時28分着。その先、歌内に行くには……、行くには……ねえ! 列車が、ねえ!

名寄駅から北に行く普通列車は16時39分と19時30分がありますが、いずれも音威子府駅止まり。音威子府より北にある歌内にはどうあがいても行けません。えっ、歌内に行けない……ってコト……!?

前日の糸魚沢の往復20キロでも死にかけたというのに、音威子府から歌内までは片道40キロあります。倍だぞ倍。くはー……こんなんどないせえっちゅうねん。いよいよダメかもしれません。これまでどんな困難も乗り越えて駅に降り立ってきましたが、自然の猛威の前に人間は無力です。もういっそこのまま全て投げ出しておうちに帰ってしまおうか……。

いや、ダメだ、そんなことしたら呪いによって一生苛まれることとなる。こうなったら這ってでも行けるところまで行こう。道中行き倒れたらそれまでの人生だったというまでよ。そうだ、なんとかなれーッ……!

度重なる不運によって錯乱、ついに命までなげうつ覚悟となりました。今にして思えばたかだか駅への来訪ごときで命を張るなんてカイジでもしません。

「真冬の北海道で廃止予定駅を見たいと40キロの道のりに単身繰り出すも、道中で凍死」なんてなったらダーウィン賞ものです。

まあ結果そうはならなかったわけですけれども、このときは、そのときに備えてとにかくエネルギーを補給しておこうと駅にあった立ち食いそば店でおそばも食べました。

おいしかったです。ぼくは、また食べたいです。でも、麺ばかり食べてちょっと苦しい。

ホームには比較的最近導入された電気式ディーゼルカー「DECMO」が停まっています。古い列車もいいですが、やはり新しいのは綺麗でいいですね。普段使いするなら新しくて性能が高いものがいいに決まっています。

これに乗ってとりあえず名寄へ向かうことになるのですが、ここで構内アナウンス。

「きょうは名寄駅で稚内方面の普通列車に乗り継ぎできます

うん? 稚内方面へ乗り継ぎ? 音威子府止まりじゃないのか? こうなってくると話は別です。

決死の覚悟で自転車を漕ぐ必要がなくなるということです。まあでもそんなん行ってみないと分からないですからね、期待はせずに発車を待ちます。嘘。めっちゃ期待の念送ってた。

2日目 1359旭川→(鉄道)→1528名寄

私は魔女のキキ! こっちは特急が動かなくなってしまったため使い物にならなくなった特急の指定券です。みんな、いくら乗り放題だからといって運行状況が見通せないときに北海道フリーパスを買うのはやめよう! 指定席を取った特急ですら突然乗れなくなるぞ! お兄さんと約束だ。

旭川を出発すると、うんまあ確かに沿線に雪はかなり積もっています。でも特急が運休するほどか、と問われるとちょっと微妙なところ。冬こそJR、というキャッチフレーズはもはや昔の話になってしまったのでしょうか。

などとJRに対して懐疑的な心持ちになっていると、北に進むにつれ文字通り雲行きが怪しくなってきました。

旭川から6駅目の蘭留駅で交換待ち合わせのために停車したのですが、写真でも粒が見えるくらいの大きさの雪がしきりに降っています。

うーむ、ちょっと場所が変わるとめちゃくちゃ天気も変わる。こんな過酷な環境だもんな、そりゃ何かあってからじゃ済まないんだからめちゃくちゃスピードを出す特急は運休にしないといけないんだな。JRさんは利用者の安全を考えて運休にしてくれたんだ! 普通列車でも動かしてくれるだけ感謝しなければならないんだ!

と思いきや名寄近辺では雪が降りそうな気配は全く皆無でございました。これなら特急動かしてくれ。

15時28分、列車が名寄駅のホームに滑り込むと、向かいにいました。見慣れた国鉄時代の気動車「キハ54」がいました。

なんとこれは本来14時59分に出発して稚内駅へと向かう列車。30分以上も待っていてくれたことになります。

新しいのがいいとはいいましたが、北海道には赤いラインのキハ54が似合います。やっぱり最後に頼るのは昔からの国鉄型ディーゼルエンジンね。キハ54、お前だったのか、いつも俺たちに寄り添っていてくれたのは。

2日目 1530名寄→(鉄道)→1753歌内

劇的なキハ54の登場で絶望が一転希望に変わりました。さよなら絶望。センセーショナル。何せ普通列車ですからね、旭川からトータル170キロの距離を往く時間はかかりますけども、歌内駅にも確実に停車します。これでダーウィン賞は免れた。

この列車は元々音威子府駅で1時間くらい何もせず停まるという列車。よって30分くらい名寄で待ったとしても音威子府で取り戻せるから元のダイヤにほぼ影響が出ないというおあつらえ向きっぷり。

途中、夏の宗谷本線で訪れた北星駅(廃止駅)を通過しましたが、味のある待合室は跡形もなくなっていました。諸行無常なり。

北星駅が乗車、もとい盛者、であったことがあったかどうかは分かりませんが、必衰の理をまざまざと見せつけられながら30分遅れで音威子府駅に到着しました。

それでも音威子府では30分の待ち時間が生じます。外に出てみるとこれまでで一番激しく雪が降っています。ちょっとした吹雪だこんなん。駅前の商店で食べ物と飲み物を調達し、これからの行程に備えます。

音威子府といえば、最北の駅そばというべき音威子府そばがあったのですが、つい1年ほど前(2021年)に店主がお亡くなりになったため店も閉じることとなりました。黒い麺に黒いおつゆが特徴的で、非常に食べ応えがあるおそばです。私は別の場所で食べたことがありましたが、駅で食べてみたかったなあ。

また、駅にはかつて国鉄時代に走っていた天北線を偲ぶ展示室がしつらえられています。新しく生み出されるものがあれば、惜しまれつつも消えゆくものもある。鉄道も駅も店も人が利用してなんぼ。改めて考えさせられます。

そんなこんなで発車予定時刻の17時になり、辺りは徐々に暗くなってきました。薄暮の宗谷路を走っているとにわかに速度が落ち、警笛が鳴り響きました。なんだろう、そう思って車両の前方に移動してみると……。

出ました! エゾシカ

いいですね、これぞ北海道。こちらのことなどお構いなしに悠々と線路脇を闊歩しています。私どもテツどもは列車を舐め回すように見るなどして鉄分をとっていますが、試される大地に生きるエゾシカさんたちは線路を舐めて鉄分をとるんですね。はい笑うところです、ここ。FeFeFe

ちゅうわけで、JR北海道では「この先、エゾシカなどの野生動物が多数出没する区間を走行いたします」なんつって急ブレーキに気をつけるよう注意を促す車内アナウンスが流れることがあるくらい、エゾシカの出没は日常茶飯事です。

写真の通りエゾシカさんたち、意外と根性あるのかギリギリまで逃げないんです。それどころか「私たちの食事を邪魔しやがって」みたいな目で見てきますからね、たくましいですよあいつら。ユㇰどもめ、オハウにして食っちまうぞ。

オハウとか言ってたらおなかがすいてきましたね。そんなときはなんの脈絡もなく撮ったセブンイレブンのおにぎりが役に立ちます。訓子府たれカツ丼の味とか書いてあって実に北海道っぽい。車内はね、やることがないんです。

エゾシカを撮ったりおにぎりを撮ったりしていたらいつの間にか歌内駅の手前まで来ていたようです。

辺りはもう真っ暗。くはー、これホントに降りて大丈夫なの? また雪降ってるよ。降りたら次の上り列車は2時間待ち。やっぱりアレだ、降りてしまえばダーウィン賞は次点くらいに入るかもしれん。

でも降りました。降りてしまいました。もちろん降りたのは私だけでしたし、車内にいたほかの乗客はびっくりしてた。

ホームは雪で覆われてアスファルトの地面が一切見えない状態ですし、さっき僕のことを救ってくれたキハは轟々と音を立てて北へと行ってしまいました。もう引き返せません。

なんだかとんでもないことをしでかしたような気がしますが、何はともあれ歌内駅に下車することができました。

都市間バスと普通列車を乗り継いで、当初の予定通り歌内駅をクリアしたのです。もうこれだけでクライマックス感ありますがまだ2/10です。ダイヤも乱れている中、あと8つも無事に訪れることができるのでしょうか。

歌内駅はいわゆる車掌車駅。錆び付いてひび割れた塗装が痛々しい。歌内駅には駅ノートが置かれていたので記念カキコです。キリ番を踏んだわけではありませんが、あしあとを残して行きましょうね。

ちなみにノートの表紙には平成29(2017)年5月1日の日付と「当駅廃止まで有効」という文言が記されており、既にこの段階で廃止が取り沙汰されていたことが分かります。それからよく5年も持ってくれましたよ。

駅舎内に貼られていた「今日も頑張れ 宗谷本線」というポスターは過酷な大自然にさらされながらもけなげに走る列車を描いたステキな一枚。エゾシカやヒグマなどの野生生物に紛れて撮り鉄が紛れ込んでいるのが笑える。

さて、駅ノートも書き込んでしまってとにかくやることがありません。2時間もあるのだから隣の駅までチャリを漕ぐという選択肢もなきにしもあらず。南の天塩中川駅までは8.6キロ、北の問寒別駅までは6.4キロです。自転車なら行けないこともない距離です。ちょっと外に出てみましょう。

うん、無理。このまま進んだら祟りとかありそう。

「俺の名前、“たたり”って打っても変換出るんだ」

高校時代、放課後の部室で唐突にそう言い放ったのは同じ美術部だった崇仁くん。いや、君の名は「める」であって「り」ではないぞ。彼は今どうしているだろうか。部室でずーっとデスビームだのなんだの言っていたのに東北大の院まで出た彼は。俺がここで死んだらそれは彼の祟りだろうか。

そんなことがフラッシュバックするほど死に瀕していたのかもしれない。祟りはともかく、駅前でこの程度の明るさということは道中は一切明かりがないということです。俺は知ってるんだ。

だもんでこのまま歌内駅に留まることにしました。まあでも仮に上り列車が不通になったら僕は死ぬ。折り返しキハ54がやってくることを望みながら戦略的滞在といたします。ちなみに北海道に明るい会社の上司に今歌内にいると伝えたら、「問寒別まで行けばゲストハウスがあるよ!」と教えてくれました。なんで列車が止まる前提なんだ。

列車の時刻まであと1時間半。何か動いていないと落ち着きません。意味もなくホームに出てみるとこれ。

なんだかホントに列車が来ない気がしてきたぞ。でも私にできることはただ列車の時間を待つだけです。そしたらせっかく雪がたくさんあるんだから雪を満喫しましょう。ありのまま、あるがままに行動するのです。少しも寒くないわ!

「あれ俺の手形なんですよ」

「雪だるまつく〜ろ〜ぅ」

これは雪だるまをつくっていて分かったのですが、さらさらのパウダースノーだと雪玉ができないんです。ムリヤリ圧縮してなんとか2体つくりましたがあれより大きいサイズの雪玉はつくれませんでした。栃木の湿気を含んだべちゃべちゃの雪とは大違いです。

まあそんな感じで遊んでいましたところ、手袋がめちゃくちゃ濡れまして急激に体温の低下を感じました。調子に乗って遊びすぎた。まだあと1時間近くあるのに自ら首を絞めるような真似をしてしまった! ミーのバカ! もう知らない!

すると駅前が急に明るくなりました。何かと思いきや、車です。こんな時間に車がやってきました。僕は、ついにこの苦しみから解放されると思いました。僕のテツの呪いを解き、現世(うつしよ)へと連れ戻してくれる救済の車に違いありません。積んでいた徳がようやく報われる時が来たのです。それだけだ

低くうなるエンジン音、そしてまぶしすぎるヘッドライト、そのライトに照らされるすらりとしたシルエット。おお、まるで後光が差しているよう……あなたが神か……。

??「こんばんは」

ぼく「はい! こんばんは!」

??「あの、駅の写真撮っていいですか」

 

テツかよ!!!

いや、全然いいんだ、全然。むしろとても丁寧で好感の持てるお兄さんだったし、天にすがるほど意識が飛んでいた私を本当の現実に連れ戻してくれました。でもね、お兄さん、そういうのはもっと日中にやってくれ。

そいでようやくね、列車の予定時刻まであと5分というところまで来たのですよ。

こんなに暗い中、果たして列車はやってくるの かい、 来ないの かい、 どっちなん だい!

パワー

2日目 1952歌内→(鉄道)→2149名寄

俺はもうほんとにずっと我慢してた。手形をつけた時も雪だるまをつくったときもすごい寒いのを我慢してた。本当に次男じゃなくてよかった。長男なのに家を顧みずふらふらしていてごめんなさい。

列車というのは偉大である。ダァが開いた瞬間そこはもうこれまでの外界とは隔絶された空間が広がっている。それは日常の延長とも言うべき空間で、単語帳をめくる者、缶ビールを呷る者、大口を開いていびきをかいている者、それぞれがそれぞれの営みの直線上を生きている。

おのおの干渉しないように過ごしている空間に、ワケの分からない駅から自転車を抱えた男が乗り込んできたらどうだろう。日常を脅かす闖入者は、凪いだ湖に投げ込まれた小石のように、そのしじまに波紋を与える。つまり乗客全員の視線が私に集まるのだ。

一身に注目を集めるこの瞬間こそが快楽なのである。この愉悦を我が身に与えてくれる列車を偉大と呼ばずしてなんと呼ぶのだろうか。

さっきまでパワーとか言ってた男が今度はセンター試験かってくらい堅苦しい発言をする。思考の乱高下がすぎるのは疲れているからにほかならない。

途中美深駅では、ダイヤにないのになぜか20分くらい停まるみたいなアナウンスがありました。

なんとなく駅舎に向かうと、既に窓口の営業が終了しているにもかかわらず駅スタンプがむき出しになって置かれていました。期せずしてスタンプを押せることになったので、急な停車というのも悪いことばかりではないですね。

約20分後、下り方面にやってきたのは特急の車両でした。これで翌日はようやく特急が動くようになるのかもしれません。

停まっていた美深を出て名寄駅にたどり着いたときには既に22時を回っていました。こんこんと雪が降り続く中、一緒に乗り合わせていた他の利用客たちはさらに南、旭川方面への普通列車に乗り換えていました。私はひとり、名寄駅でその列車を見送るとひときわ悲しく静かな世界が訪れました。

名寄の駅名標には、翌日訪れる予定の東風連駅への行き先が記されています。よく見るとシールになっていて、ダイヤ改正後にこれを剥がすと変更後の駅名が出てくるというシステムになっています。ほら、ダイヤ改正はもうそこまで来ているよ。

などとそんな感慨に浸っているバヤイではないのです。ここから宿に向かわねばなりません。おととしの夏、北星駅から16.2キロ、チャリを飛ばしたあの宿です。それが名寄駅からはたったの850メートル。

でも見てよ今の雪を。道路が完全に覆われています。なんだこれ。これが北海道の日常なんでしょうか。地元栃木も寒いっつったって、こんな大雪に見舞われることはそうそうありません。自転車を押していたら無事転びました。

ヒェー なにこれ

ホテルがあって本当によかった。そしてホテルの前のセブンイレブンも、あのときと同じようにあった。

サッポロクラシック! 辛味噌ホルモンラーメン! 美唄風焼き鳥!

おととしは箸をもらえずに歯ブラシとそこら辺にあった棒でラーメンを食べましたが、今回はきちんと箸をくれました。ところでおととし買った旭川醤油らーめんは税込み453円だったのですが、今回買った辛味噌ホルモンラーメンは税込み550.80円でした。この2年でじわじわと物価が上がっている気がする……。お賃金は上がらないのにな!!!

3日目 0751名寄→(鉄道)→0800風連

本当は06時45分に名寄駅を出る列車に乗って訪問する駅数を稼ごうと思っていたのですが、不測の事態への対処や余計なサイクリングなどによって3日目にしてもう既に疲労はピークに達しており、つまり寝過ごしました。

まあ、アレだね、俺ほどの域に達すると感覚で寝坊を確信したね。まあそういうわけで1時間ほど起床時間が遅くなりましたが、なんとかリカバリはできそうです。

ホテルの前に停めた自転車には雪が積もっていました。こんなこともあろうかとサドルカバーは外しておいたのです。偉い。

前日あれだけ降った雪が嘘のように止み、朝日に浮かぶ駅舎はまるで桜の花びらが散る速度である5cm/秒をタイトルにしたアニメ映画のよう。言っとくがアレの舞台の1つは栃木県だからな! 岩舟駅は無人化され、小山駅のそば店は閉店してしまったけれども。

あーあ、駅で待っていてくれる女の子がいればなあ。向かいのホームとかをね、いつでも探しているんですけどね、そんなとこにいるはずもないのにね。

それはともかく本題です。この日は東風連駅に行きたいのですが、まずは上り列車に乗って2つ先の風連駅に向かいます。これは快速なので本命の東風連駅には停まらないのですが、なにせチャリがあるのでね、1駅すっ飛ばされたところで問題ないのですよ。

車内は多くの高校生たちで賑わっていました。やっぱりなんだかんだでJRは地元の高校生たちの足になっているんだなあと実感します。

風連駅からも複数の生徒が乗り込んで旭川方面へ向かっていきました。その風連駅にはこの辺りの高校生がつくったとおぼしきポスターが貼ってありました。

高校生の女の子がお母さんとLINEでやりとりしている一場面。(車で)迎えに行こうかという母の提案に、JRが来るから大丈夫と答える女の子。

これなんですよ、JRというのは、鉄道というのは安心を提供しているのですよ。毎日決まった時間に来て決まった場所に連れていってくれる。確かに卒業後は乗る頻度も少なくなるかもしれない。だけど、次の世代、そのまた次の世代もやっぱり乗ってくれるんです。駅があるというのは、それだけで安心できるんです……。

それが見てくださいこの運賃表を。

スッカスカだよスッカスカ。廃止された駅についてはおととしの紀行文に詳しいですが、北永山駅から多寄駅の間は塩狩駅以外の奇数番号の駅がなくなってしまいました。ホントにそのうち特急停車駅しか存在しなくなるのではないでしょうか。

思いがけず心を揺さぶられるポスターとスッカスカの運賃表に見入ってしまいましたが、私は東風連駅に行かねばならないのです。自転車で大体6キロの距離です。1時間ほどあるしまあ余裕でしょう。

3日目 0800風連→(自転車)→0908東風連

前日の名寄駅周辺ほどではないですが、道路には薄い雪の層ができています。かえって滑りそうで怖いです。

そんな中をえっちらおっちら進んでいくとGoogleマップ先生がなにやら妙な道を指し示しています。

この先陸橋になっているのですが、その橋をまっすぐ行くのかと思いきや右斜め前に進めと出ています。右斜め前、雪しかありませんけど。雪に隠れている道があるのかと思って近くまで寄ってみるとご覧の有様です。

俺は何だ、ブルドーザーか何かか。初日に出くわしたサンダーバードのメカみたいなのじゃないんだ俺は。こんな雪道をノーマルタイヤの折りたたみ自転車で行けるわけないじゃろがい。うん、これはアレだな、クエストをクリアすれば季節が春になっていて通れるようになるパターンだな。今はまだレベルが足りていない。

後日Googleマップ先生で見てみると、通常時には砂利の未舗装道があるようです。さすがの先生も寒冷地仕様にはなっていなかった模様です。

仕方がないので多少遠回りになりますが、いや遠回りっつうか、これが正規の道だと思うのですが、国道239号経由で参ります。交通量は多いですが表面が見えるアスファルト部分も多く、自転車でも走りやすい道でした。

しばらく転がしているとありましたありました。東風連を指し示すアオカンです。そのまま裏道みたいなところを進んでいくと……。

はい! 東風連駅です!

いいですねー、仮乗降場のような板張りのホームに、物置を流用した待合室。これぞ北海道の駅です。

掲げられた看板にある通り、東風連駅は廃止ではなく名寄高校駅に名称変更の上、場所を変えます。見渡す限り集落も少ないこの地にあるより、高校の近くにあった方がさっきのポスターではないけど安心も増すし利便性も向上しますわね。一方、この駅に親しみを持っていた人もいるでしょうから、やはりここにしっかりと記録しておくべきでしょう。

駅や周辺施設をパシャパシャ撮っていると駅前を1台の路線バスが走り去っていった。これあれだな、チャリ漕がなくてもバスで来られたヤツだな。そういう気づきはいつも後からやってくる。お前はいつもそうだ。誰もお前を愛さない。もっと回りを見て生きていきたいものです。

3日目 0908東風連→(鉄道)→0912名寄

独り占めの東風連駅を満喫したところで列車がやってきました。これで一度名寄に戻ります。この日は特急に乗って札幌まで行かねばならないのですが、その特急が出るのが名寄なのです。果たして特急は動くのか……。名寄駅に到着してみると……。

どん!

はい、サロベツ2号の案内がある! ということは来るに違いありません。来い!

来たー!!! 待ち望んだ特急です。この旅でようやく乗ることができますイエー!! 特急イズ最高!!!

3日目 0925名寄→(特急)→1155札幌

特急サロベツに乗ってしまえばこっちのもんです。途中旭川で特急ライラックに乗り換えがありますがこちらもきちんと動くようです。なーんだ、札幌圏での大雪って、そんな言うほどだったんじゃないの。

岩見沢駅で結構な勢いで雪が降っていましたが特段停まることなく動きました。ほらー、全然行けるじゃん。そして札幌に着くくらいの頃にはすっかり青空が広がっていました。

なんて油断していたら出ました。ほらこれ見て。

※お使いのデバイスは正常です。

画像の読み込みが途中で止まったワケではありません。視界の半分まで積もった雪の壁です。うーん、前言撤回。こんなドカ雪だったら確かに列車は動けないわな。北海道の雪をちょっと甘く見ていた。

ところで札幌からどうするかというと、札沼線に乗り換えて駅名変更となる2つの駅に行きます。ただ、札幌圏ではまだ間引き運転がなされているようで、札沼線が動いているかどうかは駅で確認しなければなりません。さあどうでしょうか。

じゃかじゃん!

おお、正午に出る1本が運休になるものの、その後は通常運転みたいだ。それなら時間はたっぷりあるし札沼線を満喫してやりましょう。

ホントはこの日、札沼線の2駅に行ったら特急に乗って室蘭本線の各駅を回ろうと思っていたのですが、この辺りの特急は軒並み運休になっているので急遽札沼線めぐりに切り替えたのです。トラブルに見舞われたとしてもこういう臨機応変さが肝心なのよ。

ところでこの日は駅まで行かねばなりません。森駅がどこにあるかというと、函館駅と長万部駅の間です。

ただこの方面はどうも特急はおろか普通列車も動いておらず、札幌からだとまず長万部にたどり着けない状況です。

JR北海道の運行状況を示す公式アカウントによると前日の時点でこれ。JR北海道さんの苦労がうかがい知れます。そこで私はどうしたかというと、前日のうちにあらかじめ高速バスを予約しておいたんですね。高速はこだて号というやつ。なんという冷静で的確な判断力なんだ。

札幌から森まで約4時間20分。特急であれば3時間前後ですが背に腹はかえられん。これが18時10分に札幌を出るので、それまで札沼線で遊べるという目論見です。

3日目 1220札幌→(鉄道)→1247あいの里教育大

まず向かったのはあいの里教育大駅。降りたことない駅だったので。

ホーローの駅名標の文字ちっちゃ

ほらほら、こういうのですよ。こういうなんか細かい発見にわくわくするみたいなやつ。せっかく道内の鉄道を自由に乗り回せるきっぷを持っているのだから、意味もなく乗り降りしなくてはもったいないではないですか。そうして降り立ってみてびっくり。

背丈より高く積もった雪に駅舎が見えなくなっています。燦々と輝く太陽がかえって憎らしい。

3日目 1304あいの里教育大→(鉄道)→1318石狩当別

続いて石狩当別駅。ここはダイヤ改正をもって、ただの当別駅に変わります。以前も降りたことはありますが一応記録のために行っておきましょう。

この駅では職員の方々が除雪機を使ってホームを使えるように作業されていました。もうホント皆さんのお力があって我々は利用できているのですから頭が下がります。

ホームにある駅名標はなんか紙を貼り付けて当座をしのいでいるような感じ。もう既にその紙の下には新しい駅名標があるということだな! ある意味今しか撮れない貴重なものかもしれません。

一方外観はというと、うん、まだしっかり石狩当別駅という表記が残っている。私はこれを撮りに来たのだ。ちなみにこの駅には、隣の石狩太美駅のものと合わせてスタンプが設置されており、こいつもしっかり押してきたのであった。

3日目 1338石狩当別→(鉄道)→1348あいの里公園

お次は少し戻ってあいの里公園駅。やっぱりここも雪がすごい。なんか60センチくらいの高さを上がるエレベーターがあったよ。なんかそれもうスロープでよくない? って思いました。

3日目 1407あいの里公園→(鉄道)→1411石狩太美

はい、そしてお目当ての石狩太美駅ですが雪! 天気変わりやすすぎんだろ。お目当ての駅なのに一寸先は雪って感じで吹雪かれました。

そんな中でも職員さんたちは雪かきに追われています。ホントーにもう全員にホットコーヒーでも振る舞ってあげたい。そんなカネないけど。

程なくして青空も出てきました。はいそしてこれが石狩太美駅の外観です。どん!

ん雪!

全然外観見えないわ、カメラのレンズは曇るわで散々でした。

駅名標、なんかとってつけたような感じだし。

駅員さんはいないものの、小さな売店が併設されていました。おなかがすいたときのために、えぞわらび餅というこの辺りの銘菓を買いましたが買ったことをすっかり忘れて、栃木に帰ってから食べました。おいしかったです。また食べたいです。

3日目 1432石狩太美→(鉄道)→1442拓北

お目当ての石狩当別と石狩太美をクリアしたので次からはちょっとずつ南下していくことにします。まずは拓北駅。北を拓くと書くくらいなので開拓された土地なのでしょう。北口はそうでもないのに南口は雪が大変なことになっていて、早く南も拓いてほしいと思いました。

ところでこの拓北では大変良いものを手に入れました。それがこれです。

大正義セイコーマートが誇るお惣菜、ホットシェフのザンギです。これだよこれ。これを食べなきゃ北海道に来た意味がないのだよ。やはりセコマ、セコマしか勝たぬ。

3日目 1503拓北→(鉄道)→1506篠路

なんとなしに訪れた篠路駅ですが、なんか色々調べているとまもなく高架化され、この駅舎は見納めになるということです。え! じゃあ結果的に来ておいてよかったじゃない。

糸魚沢の無念を篠路で晴らす。たまにくるラッキーパンチに恵まれたようです。

こんなに味のある駅舎がなくなってしまうとは。まあでも本当に鉄道を残すことを考えたら利便性>ノスタルジーです。地元の人により使ってもらえるようになるのが一番なのです。

3日目 1525篠路→(鉄道)→1533新琴似

 

日暮れが迫ってきました。まだ大丈夫。もうちょい行けそう。百合が原と太平の2駅には駅スタンプがないそうなので、すっ飛ばして新琴似駅です。今までの駅と比べ、大きいし人の気配があります。

このね、自転車通行止めのガードがね、雪に埋まってしまっているんですけどね、その雪山をわざわざ乗り越えていった猛者がいるんですね。右に回れば通路があるのに。こういうお調子者がいるということは、だいぶ都会に近づいてきたということです。

3日目 1555新琴似→(鉄道)→1558新川

そろそろ書くことがないです。

3日目 1622新川→(鉄道)→1631桑園

桑園駅は札沼線の起点の駅にして、札幌駅の隣駅です。JRAの札幌競馬場が近くにあるので競馬ファンにはおなじみの駅かもしれません。僕は競馬は去年始めたペーペーなので特段思い出はございません。

この駅にはもう一つ大きな特徴がありまして、それは……

JR北海道本社ビルに直結しているということなんですね。こんな開放的でいいのかい? 特急が動かない腹いせに雪とか投げ捨てられないのかい?

そして東日本の人には見慣れたペンギンがいました。

多くの都民がその肖像を持ち歩くという大正義ペンギン様です。新宿にはその姿をかたどった像があるそうで、崇拝の対象となっているようです。

Kitacaのエゾモモンガくんとのステキなコラボレーションに見せかけていますが、Suicaの文字の方が大きく書かれています。これあれだな、新幹線が札幌まで延びたら在来種のエゾモモンガは外来種のペンギンに駆逐されてしまうんじゃないの。モモンガくん頑張れ……。

3日目 1654桑園→(鉄道)→1657札幌

午後5時前。うん、バスの時間もあるし、そろそろ潮時でしょう。駅めぐりはここいらで切り上げ、札幌で高速バスの時間を待つことにいたします。

これから約4時間のバス旅。バスは狭いし空気が薄いし、ホントはもう乗りたくないんだけど、前述の通り札幌から南へは特急はおろか普通列車もが動かないのでどうしたって陸路で攻めるしかないのです。いやまあ札幌・丘珠空港から函館空港までの空路っていう手もあったけどバス運賃の3〜4倍くらいかかりますからね。だったらバスにしますよ。ただでさえフリーきっぷの効力を無駄にしているというのに。

というわけで4時間の長旅に備えて食料だのなんだのを調達するため駅周辺をぶらぶらしていると、札幌駅の北口がどうも工事をしている。

これは何かというと、北海道新幹線の札幌延伸に向けた工事だということです。うわあ、本当に札幌に新幹線が来るんだ……。これが既に開通していれば僕はこんな長距離バスを選ばずに済んだというのに!

まあ開通していたら並行する函館本線はJRから切り離されているんだけどね!

時刻は17時40分。18時10分の発車まで30分となったところで、気は進みませんがぼちぼちバスターミナルまで行ってみますかね。

少々薄暗いバス乗り場に行ってみると、既に函館行きのバスを待つ人が複数人いました。吹きさらしで結構寒いのによく待ちますね、どうせ席は決まっているというのに。まあ言うて自分もギリギリが嫌だから早く来てしまったんですけど。

ひっきりなしにやってくる他の都市に向かうバスを眺めてボーッとしていると、係員さんが慌ただしくやってきました。

「函館行きのバスは札幌から折り返し運転になりますが、到着が遅れております」

はあ、まあバスが遅れるのはね、そんなん日常茶飯事ですからね。

「50分遅れになる見込みです」

期せずして時間ができてしまった。んじゃまあ肌寒いこの場所じゃなくてどっか別の場所で時間を潰すことにします。そこで札幌内にある自治国を訪れることにしました。

札幌ら〜めん共和国です。

公用語は日本語(一部北海道弁)、ら〜めんが主食で日本円を通貨とします。独立を主張していますが未承認国家です。共和国といいつつも、複数の店舗がそれぞれのれんを出しているので連邦国家の方が近い気がします。

そのうちの適当な店舗に入って味噌ラーメンを注文しました。

うん、やはり札幌といえば味噌ですな。万物に感謝。ヒンナヒンナ。

ちなみに共和国には入国記念のスタンプがあるようなのですが、新型コロナの影響で撤去されていました。スタンプというものは最近至る所でこういう仕打ちを受けていてかわいそう。もちろん不特定多数が触れる、という意味ではある意味最大の対策なのだけれども、なぜスタンプだけがこんなに悪者にされねばならんのだ。

満腹になったところでバスターミナルに戻りました。18時50分。うん、ちょうどいい頃合いでしょう。

「19時30分に再度状況をお伝えいたします」

まだこんのか〜い チーン(乾杯の音)

髭男爵をやったところでいざ始まればひとり芝居なもんでイタいや。こうなったら飲むしかない! 飲むしかないんだ!

うおおおお!!! うまい! これだよこれ! 疲れた身体に沁みるなあ!!! うおおおおおお

一気に飲んだら気持ち悪くなった。バスは全然来ないしなんなんだこれ。どうなってんだこれ。

そうしてようやっとバスがやってきたのは19時50分であった。当初の出発時刻より実に1時間40分遅れての到着でした。

3日目 2000札幌BT→(バス)→????森町BS

 

待ちに待ったバス。私の座席は一番後ろの4席並んだところの左から2番目。4時間過ごす座席としては最悪の場所である。ただまあ始発停留所だからか、窓側の座席に座る人はまだ乗っておらずしばらくは快適に過ごせそうです。

拓北のセコマで買っておいたガラナとか飲んじゃうもんね。札沼線の駅めぐりがなんだかもう果てしなく遠い昔のことのようだよ。

さて、出発は大体2時間遅れだったから、森町の停留所に着くのは日付超えて0時半くらいでしょうか。あーあ、翌日も朝早いのに災難だなあ。でもまあ行けるだけマシか、とかなんとか楽観的に捉えてTwitterでも見ながら過ごしていたのですが、どうも様子が変です。遅々として一向に進まないのです。窓の外に目を見やると自分の車線も反対車線もびっしりと車列になっています。

札幌行きが渋滞で2時間遅れたということは、つまり函館行きも渋滞で2時間遅れる可能性があるということです。

おほー、じゃ何か、森町に着くのは午前2時半とかだというのか。いやいやー、札幌周辺だけでしょ、混んでいるのは。大丈夫、大丈夫、案ずるな、寝て起きれば着いているさ。

そう言い聞かせながらまどろみの中に落ちていきます。

落ちていき……

落ちて……

……

ねね寝れないんだよ!

駅間をチャリだの徒歩だのでめぐるというアホなことをやっているにもかかわらず、こと睡眠に関しては繊細さを発揮してしまい、バスの中ではなぜか寝られない因果な体質なのです。

そうこう走行している間にバスは休憩のサービスエリアに入っていきました。おお、ここはどこだ。

有珠山SAです。

有珠山? 有珠山ってどこだ?

ふんふん、室蘭を越えて洞爺湖の辺り……

ってまだ半分じゃねーか!

自販機につららができている。なんだこの状況は。

極寒の23時25分です。まだ半分という事実に打ちひしがれ、すごすごと4列シートの左から2番目に戻っていきました。

こえーよ。なんだよここ。

ああもうやっぱり2時コースだ! 車内は空気が薄くて気持ち悪い! あったかい布団で眠りたい! もうおうちに帰りたい!!

時間の流れの感じ方というのは人それぞれで、私にとってバスでの旅は5億年に匹敵する長さでした。俺は宇宙を理解した。札幌を発って5時間、まずは最初のバス停である八雲に到着しました。八雲というのは長万部と森の間にある町で、バス停は比較的街なかにありました。ここで多くの人たちがぞろぞろと降りていきました。

私もなんなら一緒に降りてやろうかと思いましたが、すんでのところで踏みとどまりました。八雲で降りたところで、新鮮な空気に触れることはできますが凍死一直線です。

それからさらに1億年が過ぎました。時刻は午前2時。札幌を出発して実に6時間が経過していました。森町に着きましたよ、と一人降ろされたのがここです。

く、くらー……。

なんだこれ、なんでしょう一体。これアレじゃないの、気付いたら変な日本語を使う異世界にいましたってやつじゃないの。

真夜中2時過ぎにホラーだよこんなん。Googleマップ先生で調べると、ここは道の駅のようです。こんなに暗く寂しい道の駅なんて初めてだよ……。

この日の宿は森駅の前にただ一つあるホテルです。こんな時間に行って対応してくれるでしょうか……。一抹の不安がよぎりながらも自転車を漕ぐことにします。

これは空元気のサムズアップです。

真夜中のうら寂しい道を一人往きます。刺すように冷たい空気にさらされ、ハイになってきました。ライダーズハイ。俺は今、燃えている。このまま燃え尽きて灰になるかもしれない。

自転車を転がすことおよそ10分、森駅前にたどり着きました。

肝心のホテルは真っ暗でしたがインターホンを鳴らすと中に入れてくれ、歓迎してくれました。しかも自転車も中に入れてくれるという懐の広さっぷり。ありがたき心遣いに胸がいっぱいになりました。夜中の2時ですよ? 森に行ったら最高級のおもてなしをしてくれる駅前のホテルに泊まろう!

ああ……ベッドがある……。すぐにでも飛び込みたいのですが、ちょっと翌日のプランを立て直さないといけません。

本来ですと朝06時25分の列車で森駅を出発する予定でしたが、もう体力が疲弊戦隊ゲンカイジャーだし、どうせ特急も運休なのでゆっくりすることにします。Google先生曰く、路線バスがうまい塩梅の時間にあります。またバスか……。それでもこうなっては使えるものは何でも使いましょう。

さあこれで朝を迎えるだけです。バスに振り回されすぎてさすがに疲れた……。

4日目 0853森駅前BS→(バス)→0910本石倉BS

おはようございます(バッキバキの身体で)。時刻は07時30分。うん、本当に心地の良い朝です。やはり夜のうちにプランを立て直しておいて良かった。ゆとりを持って起きられました。

さて、駅めぐりは実質この日が最終日。残すは函館本線の5駅、頑張っていきましょう。

この日も長万部を経由する特急北斗は全便が運休。本当は特急で室蘭まで向かい、地球岬に行こうと思っていたのですけどねえ。動かないのならどうしようもありません。本当は冒頭、立待岬でなく地球岬になるはずだったのです。この日地球岬に行けなかったから翌日ムリヤリ函館で立待岬に行ったのです。

ということで、特急乗り放題の北海道フリーパスの効力は一度しか発揮できずに終わりそうです。フムゥ、これは次回があれば元という元を取ってやる。

この日最初の移動は路線バスです。もうバスは飽きたよ。でもこれで廃止される本石倉駅へ連れていってくれるのであればありがたく乗ります。地元の人とおぼしき乗客を数人乗せて路線バスはほぼ定刻通り走ります。

本石倉のバス停は駅前にありました。

その駅はというと、ちょっと高い位置にあるため階段を使って上っていく必要があるようです。おおー、なんだか味がありますね。

はいどん!

向かいには郵便局もあるし、この集落自体はそこまで寂れてはいないようですが鉄道の利用者は少ないのでしょう。あえなく歴史に幕を閉じます。

ところで、向かいのホームに行くにはどうしたらいいのでしょうか。一度階段を降りてみると……

線路の下がトンネルになっています! これは日高本線の大狩部を思い出すなあ。もっとも、案内板は郵便局のものしかなく、そもそも駅の利用を想定していないような感じです。そら廃止されるわ。このトンネルを抜けていくと……

おお! さっきまでいたホームの後ろに大海原が広がっているではありませんか。この日は曇りでしたが、夏なんて最高のロケーションなんじゃないでしょうか。もう二度と駅として夏を迎えることはないけど。

そんなことを考えながら大変なことに気付きました。駅にはバスで来てしまったため、どちらが上り線でどちらが下り線かが分かりません。階段の上り下りをしなければならないためもし間違えてしまっては列車を逃すこと間違いなしです。どうしたものか。

ふふん、目の前の郵便局はこういうときのために存在しているのではないか。局員さんに聞いてみましたところ、私が乗るべき列車は最初に降り立ったホーム、つまり郵便局とは反対側のホームだということが分かりました。さすが、毎日毎日間近で列車を見ているだけあります。懇切丁寧に教えてくださったので、せめてと思ってはがきを1枚買って風景印を押してもらいました。駅がなくなっても郵便局はいつまでも存続してほしいものです。

4日目 0935本石倉→(鉄道)→0941石谷

やってきたキハ40に乗り込んで本石倉に別れを告げ、お隣の石谷駅に向かいます。

ここも廃止されますが、線路は3線あるし駅舎も残っているしとても利用者が少ないとは思えない駅です。立派な木造駅舎の入口を開けると……

青春18きっぷのポスターにでも選ばれそうな絶好のロケーションです。夏なんて最高なんじゃないでしょうか。もう二度と駅として夏を迎えることはないけど。目の前のバス停にはバスを待つおばあちゃん。これ夏だったら(ry

私もバスを使って森駅に戻るのでこのおばあちゃんと世間話をしながらバスがやってくるのを待ちました。私が栃木出身だというと、栃木に出稼ぎに行った親族がいるだのなんだの教えてくれました。遠く離れた北海道で、不思議なご縁です。

というかおばあちゃん、あと20分くらい早く来ていたら列車に乗れていたんですけど、やっぱり道路から乗れるバスのが便利なんでしょうかね……。

4日目 1000石谷駅前BS→(バス)→1014森駅前BS

路線バスで再び森に舞い戻ってきました。森からは再び鉄道になるのですが、実はここから南はルートが8の字のようになっていて、行き着く先は同じなのですが途中駅が違います。

もちろん列車が出るタイミングも異なりますのでこれを上手く組み合わせればいい感じに色々回れそうです。

まずは森から駒ヶ岳を通り、新函館北斗を経由するルート(画像上部のルート)で七飯へ。七飯から大沼まで直行するルート(画像下部のルート)で大沼へ。大沼から自転車を使いつつ池田園など海沿いの廃止予定駅に向かうという行程を取ります。

我ながら突貫工事にしては素晴らしいプランニング。エクストリーム旅程組み立て選手権があれば銅メダルくらい取れそうな気がします。

旅程を確認したところで、次の列車まであと1時間半ほど時間があります。せっかく森にいるのですから森らしいことをしましょう。森らしいこと。何だろう、キャンプファイアーとか? いえいえ、そんな森林的なやつではなくて、それがこちらです。

なんの変哲もない商店。ここで手に入れられるものといえば……

はい、森名物のいかめしです。森駅はこれまで何度も利用していますが、大体朝早いか夜遅いかだったのでいっつも現地で食べられなかったんですよ。念願のほかほかのいかめしを森で食べる、これ以上の喜びはありません。うん、特急に乗れず普通列車をひたすら待つ旅というのもなかなかオツなものですな。誰もいない駅の待合室で食べてやりますよ。

開封の儀。

甘辛で香ばしい匂いが漂ってきます。そしたらやっぱりこいつも必要でしょう。

前日のバスの中で飲もうかと思って買っておいた北海道限定のハイボールです。多分あの過酷な状況下で飲んだら絶対にリバースしていた自信があるので飲まずに取っておいたのです。冬の北海道は天然の冷蔵庫みたいなもんなので十分冷たいです。

さ、いかめしいただきまーす!!

 

あっ

 

という間に食べ終わってしまいました。もう1箱買ってもいいくらいですね。買いませんけど。

これはその辺にいた猫です。かわいいね。

ちなみに猫にイカをやってはいけません。というか野良猫に餌付けをしてはいけません。

4日目 1146森→(鉄道)→1246七飯

森は森という名のわりに森というより海の街です。跨線橋からもほら、線路のすぐ隣が海だということが分かります。

一方、反対側に目を向けると雪を冠してでんと聳える渡島富士こと北海道駒ヶ岳の姿が。たまたま停まっていたディーゼル機関車の赤がよく映えています。もうちっと青空だったらよりよかったんだけどなあ。

ほぼ貸切状態の列車に乗り込んで、七飯駅を目指します。ぴったり1時間の旅路。いい具合に回ってきたさっきのハイボールの酔いを覚ますにはちょうどいい乗車時間です。ゆっくり景色でも見ながらのんびり行きましょう。

道中、大沼という名の巨大な湖の脇を通るのですが、水面が見えたのはほんの一部だけ。あとは氷なのか雪なのか分かりませんが冬の装いに姿を変えていました。

雄大な景色を眺めながらほげーっと過ごしていると列車交換待ち合わせのため新函館北斗駅で一時停車しました。

新函館北斗は、北海道新幹線の現在の終着駅。在来線のホームのすぐ向こうには東京へ向かう新幹線が止まっています。在来線のすぐそばに新幹線があるのはなんだか不思議な感じ。早く札幌まで延伸してけろ。おら生きてるうちに乗りたいんだけっとねぇ。

新函館北斗の次は七飯でございます。七飯では6分後に来る列車に乗らねばなりません。光の速さでスタンプを押して駅舎の写真を撮りました。

次に乗る列車は新函館北斗などを経由しない方、つまり大沼駅まで直行するルートです。

ちなみにこのルートは通称藤城支線といい、下り専用、そのうえ1日3本しか走らないという貴重な路線。これだっていつなくなるか分からないのだから、藤城支線始発(?)の七飯から終点(?)の大沼まで行くことにしたのです。ただ適当に乗り降りしているわけではないのだよ。

4日目 1252七飯→(鉄道)→1308大沼

うん、新函館北斗と仁山を通らないというだけで、別段変わったこともありませんでした。たどり着いた大沼駅は観光地の名を冠しているのにかなり年季が入った駅舎だ……。もっとも大沼観光をするのなら隣の大沼公園駅の方がお便利なのですが。

4日目 1308大沼→(自転車)→1520池田園

さて、大沼からは予定通りチャリとなります。先ほど通らなかった海側の支線、砂原支線側に向かいます。訪問すべき駅は残すところ砂原支線の3駅です。

寝不足だけど行ったるで。まずは自転車で4.5キロ漕いで池田園駅に向かいます。猶予は2時間以上あるので余裕でしょう。

この辺りは雪もほとんど影響がなく、自転車でも問題なく進めています。

そして唐突に現れるゲート。目をこらして見てみると「大沼遊園地」と書いてあります。間違いないな、テーマパークの残骸だよ。バブルがはじけてみんな潰れちゃったんだ。

やーそれにしても味があるいいゲートですね。今や内外を分ける必要がないにも関わらず存在していて、トマソン化しているよ。インターネットによると、かつてはゴーカートのコースがあり、GLAYの人が遊んだことがあるらしい。インターネットはなんでも出てくるなあ。さすがにWikipediaにページはありませんでしたけど。

もう少しこの遺構を眺めていたい気もしましたが、目的は駅ですからね、先を目指します。

坂道を登り切ると突如視界が開け、雄壮な北海道駒ヶ岳が目の前に現れました。すごい……。人は大自然の雄大な姿を目の当たりにするとどうして心が洗われるような気分になるのでしょうか。自転車を漕ぐ気力も湧いてくるような気がします。北海道はええぞ。

しばらく走り続けていると、農道のような小道を進むようにGoogleマップ先生に指示されました。ということは駅はもうまもなくでしょう。

ほら! 出ましたJR池田園駅と書かれたアオカンが!!

アイスバーン状態の道を進んでいくと……

黄色い駅舎がかわいらしい池田園駅に到着です。時刻は14時05分、列車の時刻まであと1時間以上ありますのでだいぶ余裕を持って来ることができました。

もちろん駅には誰もいませんので好き放題やらせていただきます。まずはホームの探索です。どうせ1〜2両くらいしか来ないのに、ホームはとても長い。

その端っこに駅名標がありそうなので行ってみます。さすがに列車が停まらない場所は除雪がされていないのですが、ツワモノどもが既に足跡をつけていました。鉄道ファンのこういう行動力はなんなんだろうな。

まあそのおかげで無事に駅名標を撮ることができたのですが、その行動力はもっと他のことに活かした方がいいよ。

そして探索を続けていると、見てくださいこれ。

うずたかく積もった雪を押し破るように木の芽が顔をのぞかせています。昔ど根性大根なんつってアスファルトを突き破って生えてくる大根がありましたけど、自然っていうのはとてつもない生命力を持っているんですね。僕もこれくらい図太く生きようと思いました。

さらにホームの反対側に行ってみるとこちらにも雪が積もっていました。

ただよく見てみると……

これ、何の足跡でしょう……。林の方に続いているのです。熊にしては小さいし、ウサギだとしたら付き方が妙だし……。もしかして、人間でしょうか……。池田園っていう怪しげな園が近くにあって、迷い込んだ乗客を拉致、そして夜な夜な改造手術を……。

正体が分からないことほど怖いことはありません。いったん駅舎に戦略的撤退します。おなかも空いてきましたし。何か食料があったはず……。リュックを探ってみます。

見るも無残な姿になった和風ツナマヨおにぎりですが、私にとっては貴重な食料ですし、図太く生きると決めた私にとって見てくれなんぞ些末なことです。誰だ、食べる気にならないなんて言ったのは。こんなにおいしいおにぎりを118円で売ってくれてありがとうファミリーマート。

足跡の謎も池田園という名前の謎も解けていませんがまもなく列車の時刻です。ホームに戻ります。

4日目 1520池田園→(鉄道)→1531銚子口

ザ・満☆員

びっくりするほどぎゅうぎゅう詰めでした。なんで? 心なしか高校生が多いような気がしましたが、そんな通路までいっぱいになるほどでしょうか??? ぼくはびっくりして驚きました。

この日は金曜日、まだ部活帰りの時間には早いような気がしますけどなんでしょうね。

10分ほどの辛抱で列車は銚子口駅にたどり着きました。ここでは私のほかに1人降りました。この旅初めての同業者です。しかし驚くべきことに、駅にはカメラを携えたテツとおぼしき人が1人、2人、3……4人います!! しまった囲まれた……! しかもヤツらはホームでカメラを構えたまま一向にのく気配がありません。

ということはこれは何かある……! そう思って私も、撮り鉄ですけどなにか? 的な雰囲気を醸し出して、わけもなくホームの端に行ってみたり写真を撮ってみたりしていました。

すると上り線に列車がやってくるではありませんか。そうです、列車交換の待ち合わせがあったのです。こんな廃止が予定されている駅なのに?

というわけで銚子口駅の駅舎を挟み込むように両サイドに佇むキハ40を撮ることができました。撮り鉄さん、教えてくれて、ありがとう。

銚子口は池田園ほど大きくはないものの、ちゃんとした待合室がありました。

ここにいたテツのうちのお一人は、待合室の大きさをメジャーで測って図面を起こしていました。世の中には色々な方がいるなぁと感心しました。なんだろう、模型でもつくるのかな。

残念ながらホーローの駅名標は取り外されていました。駅の廃止が近くなるとなぜかこういうものを盗んでいく輩がいますので、盗まれるくらいなら外しておけ、というのがここ最近の廃止予定駅の傾向です。完全な形で最終日を迎えられないというのは何とも悲しいものです。

さあでもとにかくこれで残るは流山温泉駅ただ一つ! 最後はやっぱりチャリで向かいます。その距離およそ2キロ。ラストスパート、頼んだぞGoTo号

しかし銚子だの流山だの千葉かここは。

4日目 1531銚子口→(鉄道)→1657流山温泉

銚子口駅の周辺には住宅が数軒点在していますが、道路には固まった雪が残るくらいのひなびっぷりです。そんな場所なんですけど幼稚園バスとすれ違いました。こんなところにいるのか園児。

なんか国語の教科書の挿絵にありそうな林ですね。たびゆくはさびしかりけり。

樹林帯を抜けるとアスファルトをぶった道路に出ました。もう駅はまもなくでしょう。

踏切を越えるとJR北海道の管理地という林がありました。唐突だな。この日はJR北海道のを出てJR北海道のに来るというなんとも因果な旅になりました。

いや違う違う。目的地は林じゃなくて駅です。流山温泉駅はもうまもなくのはずなのですが、駅らしい駅が見えてきません。あるのは牧場だけです。

はて、おかしいな。牧場に来てしまった。駅の入口はどこにあるのだろう。看板をよく見てみると……。

「流山温泉駅をご利用のお客様は……鎖の先……周囲にご注意の上ご利用ください」

んん??? 牧場の中に駅があるってことか?? でも車停めて入れって書いてあるしなあ。恐る恐る鎖の横を通って牧場の中へ入っていきます。

やあやあ、牧場というだけあっておウマさんたちがいますよ。この先にきっとゴールはあるはず。おウマさんたちを尻目にすっ飛ばします。きょうの勝利の女神はあたしだけにチュゥをするんだ。行こう、虹の彼方へ。

おお! 駅への案内板が出てきた! ということはやはりここで間違いない! 間違いないんだ!!

最終コーナーを曲がって最後の直線コースへ入ります。雪が残っていて重馬場どころじゃありませんが俺には末脚があるんだ。ハイヨーシルバー!!

威勢のいい掛け声とともにGoTo号を駆るのですが雪が重すぎて漕ぐのを諦めて押すことにしました。俺はそれなりに末脚も速いが諦めも早いのだ。そうして先に進んでいくと……。

駅ご利用のお客様へと書いてある! そして紐をはずすか、くぐってご通行いただきますようお願いされたので、大変お手数ですがくぐることにしました。

ロープを抜けた先は……

来ました、流山温泉! 流山温泉駅です!!!

誰もいない、貸切状態の流山温泉駅に、もう流山温泉という温泉が存在しない流山温泉駅に、この旅最後の目的地である流山温泉駅に、たどり着きました!

途中、居並ぶ名馬をごぼう抜きにし、いつしかトップに躍り出て、10馬身差をつけてゴールしたのです。1着になったのです。

くるっと回ってワオ!!!



急に寒くなってきました。よく考えたら俺は別に1着になっても賞金もタイトルも得られないじゃん。

これ自撮りしている最中に別のテツが徒歩でやってきました。恥ずかしかったです。

この駅にはかつて新幹線200系車両が展示されていましたが、老朽化が進んだため一部を残して撤去されてしまいました。残ったのは車輪とハナ。この頃の新幹線はまだハナが短いからゴルシちゃんでも勝てるかもね。今の車両はハナが長すぎて絶対に勝てそうにないけど。ハナ差が2馬身差くらいになっちまう。

1着になって喜んでいたのも束の間、徐々に太陽が傾き始めると列車は定刻通りやってきます。

これに乗り込んで、2021年度JR北海道廃止予定駅全駅訪問達成と相成りました。

もう雪はこりごりだ!!!

 

鉄道開業150年の節目に考える

新型コロナというのは鉄道にも大きな打撃を与えました。観光需要は減り、通勤通学もリモートで完結。社会全体で、移動が必要なものではなくなってきています。

7駅が廃止されたJR北海道、これらの駅はコロナ云々というより利用者がそもそも見込めない駅ばかりでした。コロナが経営難に拍車をかけたことは事実ですが、元々行き詰まっていたのです。この旅の直前、2016年の台風で橋梁が流されるなどした根室本線の一部区間はバス代行のまま復旧することなく廃止されることが決定しました。これにより根室本線は寸断されることになり、北海道の路線図はいよいよ寂しいものになってきます。

鉄道というインフラは定時運行・大量輸送というのがウリですが、人々に使われなくなれば文字通り無用の長物と化します。人口減少の時代、地方の路線はもはや前時代の遺物となりかねません。だからもう鉄道会社や地域の努力だけではどうにもなりません。もっと国や自治体が積極的に介入していくフェーズに入っているのです。延伸開業に向けて工事が行われている北海道新幹線ができれば札幌までのアクセスが大変便利になりますが、一方で並行する在来線(函館本線)はそのほとんどが廃止されます。第3セクターに転換したところで地元負担が大きく赤字は必至だからです。

こうした議論は道路では起こらないのが不思議です。「高速つくるから並行する国道は廃止ね」とはならないじゃないですか。なんだかね。そりゃ、道路は誰でも使えるけど鉄道は使う人しか使わないじゃないか、とか言われたらそれまでなんですけどね。でも貴方が運転している車のガソリン、貨物列車で運ばれてきてない?

なんだか最近はJR西日本も赤字路線を公表するなどして廃止に持っていこうとしていますからね。しかも最近北海道のようにコレクションしたくなる入場券を発売するなどしている。

うーん、まあ結局何が言いたいかというと、何でもいいから鉄道に乗りなよ! スタンプ押せるよ! 奇しくも今年は日本に鉄道が開業して150年の節目。僕もね、しばらく駅めぐりはしたくないけどそれなりに乗るようにするからさ!!

なんだか最後の最後でまとまりを欠きましたが、ここまで読んでくださったことに感謝を捧げ、さらには一日も早く平和な世の中が訪れることを願い、筆を置くことにします。

全駅訪問を達成した翌日、函館にて。これがホントのヒキガエル。

 

え? 留萌本線と函館本線と根室本線……?
うんまあそのうちにね……レッツ…………業…………。

 

 

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