京都・大江山に伝わる「鬼伝説」話題の“鬼”満載のスポット特集!

古くから日本に伝わる伝説上の存在「鬼」。桃太郎の敵として、節分の風習として、子どもたちの遊び「鬼ごっこ」として、社会に定着してきました。

このように恐れられてきた鬼は多くの物語や伝説にその名を残しており、大ヒットした『鬼滅の刃』も鬼をテーマにした作品です。

しかし、なんとなく「怖い」というイメージのある鬼が、実際の歴史の中でどのように語り継がれてきたかを皆さんはご存知でしょうか?

今回は、古くから鬼伝説が伝わる「鬼の里」として知られ、日本一有名な鬼「酒吞童子(しゅてんどうじ)」の住処だったとされる「京都・大江山」を大特集!

鬼の痕跡が残る「鬼スポット」を通して、本当の鬼の姿に迫っていきます。

3分で分かる! 大江山に伝わる3つの鬼伝説

大江山には全部で3つの鬼伝説が残されており、それぞれを簡単にご紹介します。

陸耳御笠伝説

3つの鬼伝説の中で最も古いのが、陸耳御笠(くがみみのみかさ)という鬼にまつわる伝説です。

この鬼は当初青葉山(現在の京都府舞鶴市、福井県高浜市付近)に住み、悪行の限りをつくしていました。

しかし、襲われる人々からしたらたまったものではありません。彼らは古代日本の王族・日子坐王(ひこいますのきみ)に討伐を依頼。彼は青葉山から陸耳御笠を追い出し、由良川付近での激戦の末、大江山に逃げ込んだ陸耳御笠を見事に退治しました。

……ここまでだとキレイな鬼退治伝説なのですが、当時の大江山がある丹後地区は大和王朝(古代の日本政府)からすれば「北の異世界」。そのため、土着の勢力と大和王朝の争いを「鬼と人間の物語」という形で脚色して後世に残した可能性も指摘されます。

麻呂子親王伝説

6世紀(500年代)の末ごろのこと。大江山では英胡(えいこ)・軽足・土熊という三鬼が率いる悪鬼の集団が悪さをしていました。人々の苦しむ姿を見た用明天皇は、「あいつらを討伐してくれ!」と聖徳太子の弟と伝わる麻呂子親王に依頼。

麻呂子親王は神仏に「討伐を成功させてください……」と祈りをささげ、見事に三鬼を退治しました。

酒吞童子伝説

これが一番新しく、最も有名な鬼伝説です。

平安時代、栄華を極めた京の都の「裏庭」にあたる丹後地区で、酒吞童子という鬼が暗躍していました(別地方の言い伝えもあります)。都にも危害が及ぶようになり、占いをしたところ酒吞童子のしわざであることが判明。帝は源頼光ら部下を大江山に派遣し、酒吞童子の討伐を試みます。

しかし、酒吞童子は最強の鬼。正面から戦っては勝てないと悟った頼光らは策を講じ、酒吞童子たちに贈り物をしてパーティーを開かせます。上機嫌の酒吞童子にたらふく酒を飲ませ、酔っぱらったところを見計らって攻撃をスタート。さすがの酒吞童子も不意打ちにはかなわず、彼らに討ち取られてしまいました。

▲日本鬼の交流博物館に置かれる、酒吞童子と源頼光の戦いを描いた顔出しパネル

幼少期には絶世の美少年でありながら、好意をむける女性たちの想いが原因で鬼になったという出自や、最強ながら最後は卑怯な手で敗れてしまう実直さが人気となり、現代に至るまで多数のファンに愛される鬼でもあります。

鬼の痕跡をたどれる、大江山の鬼スポット

鬼伝説を整理したところで、いよいよ実際に大江山とその周辺地域で「鬼」を感じられる観光スポットをご紹介していきます。

玄関口から鬼づくし!「大江駅」

大江山のふもとに位置する山の玄関口「大江駅」も、じつは屈指の鬼スポット。

駅の看板には鬼がデザインされており、駅前には数多くの鬼瓦がならぶ鬼瓦公園や、鬼の像などが設置されています。

また駅舎内では鬼せんべいや鬼そば、鬼もなかなどの「鬼みやげ」も多数取り揃えられており、鬼ファンにはたまらない施設です。

実際、土産屋の店員さんに話を聞くと「酒吞童子が好きすぎて東京から移住してきて今の仕事をしている」とのこと。鬼のライトなファンからマニアまで楽しめる駅でした。

大江駅(京都丹後鉄道)

住所:京都府福知山市大江町河守409番地の2
電話番号:0773-56-2070
営業時間:7:50~17:50(売店は8:00~17:30)

道中に感じられる鬼の痕跡!「大江山」

大江駅から大江山に向かっていくと、道中のいたるところに「鬼」の痕跡が。町内には全部で13体の鬼の像が置かれているほか、看板や案内板にも「鬼」の文字が多くみられます。

そして、いよいよ鬼の住処であった大江山中へ! 入口にもさっそく鬼がスタンバイしており、山への期待感がふくらみます。

方向を教えてくれているのか親切な鬼も。

鬼伝説が残るだけあって、山の中は自然豊かな一方、不気味なほど静かです。いつ、どこで鬼に出会っても不思議はないという感じがしますね……。

自然をかき分けて歩いていくと、山の中で2つの鬼の痕跡に出会えます。

ひとつは、酒吞童子を討伐した源頼光が腰かけたとされる「頼光の腰掛岩」。かなり大きな岩なので、「ここに座った頼光はさぞデカい男だったのだろう……」ということが分かります。

そしてもう一つは、大江山に住む鬼が残したと伝わる「鬼の足跡」。大きな足で大地を踏みしめていた様子が伝わってくるスポットです。

 

厳かな空間にたたずむ麻呂子杉。「皇大神社(元伊勢内宮)」

日本でも最高の社格を誇る神社・伊勢神宮。そんな伊勢神宮をめぐる言い伝えに、祭神である天照大御神は現在地に鎮座する以前に日本中のさまざまな場所をめぐり、一時的に滞在したというものがあります。こうした伝承が残る地に鎮座する神社を「元伊勢」と表現します。今回ご紹介する「皇大神社」もそうした元伊勢のひとつ。

神社は人里離れた地にポツンと存在し、あたりはかなり静かです。厳かな雰囲気につつまれた境内では、どことなく不気味なほど「神」の存在が感じられました。

そんな皇大神社の鬼との関係は、2つ目の鬼伝説で麻呂子親王が鬼を退治したのち、神の加護に感謝して植えたと伝わる「麻呂子杉」があること。

3本植えられたのち2本は雷に打たれて倒れてしまったため、現存するのは1本のみです。しかし、倒れた杉の株からは、どこからともなく新たな木が生えてきているとのこと。生命のつながりを感じられる御神木です。

皇大神社(元伊勢内宮)

住所:京都府福知山市大江町内宮217
電話番号:0773-56-1011
アクセス:
(車)京都縦貫道「舞鶴大江IC」から約20分
(電車)京都丹後鉄道「大江山口内宮駅」徒歩約15分

鬼滅の刃に出てきた岩に似ている!?「神谷太刀宮」

鬼滅の刃の大ヒットにより、日本各地に誕生した「鬼滅の刃聖地」。

この神谷太刀宮も、そうした聖地のひとつと言えるかもしれません。

もともと、太刀を祀っていることから「太刀宮」と名付けられるこの神社ですが、境内にある「磐座」という2つに割れた岩が、作中で炭治郎が修行の際に真っ二つに分断した岩に似ていると話題になりました。

鬼滅の刃スポットになっただけでなく、パワースポットとしても知られる太刀宮。ほかにご紹介する施設からは少し離れた京丹後市久美浜に位置する神社ですが、久美浜湾の豊富な海の幸を味わうついでに、こちらまで足を延ばしてみてはいかがですか?

神谷太刀宮

住所:京都府京丹後市久美浜町1314

アクセス:
(車)京都縦貫道「与謝野天橋立IC」から約45分
(電車)京都丹後鉄道「久美浜駅」徒歩約10分

大江山だけでなく、世界の鬼を学べる「日本鬼の交流博物館」

ここまでは鬼の痕跡を体感的に学べる施設をご紹介してきましたが、知識や解説から鬼を学べる施設もあります。

日本でも珍しい「鬼」だけを専門に扱う博物館「日本鬼の交流博物館」です。

博物館名の由来は、「単に恐れられるだけの鬼を展示するのではなく、鬼と人の交流してきた様子を展示したい」という思いから。

館内では鬼がどういう存在で、どのように言い伝えられてきたかといった基本知識から、大江山だけでなく日本・世界の鬼伝説を一挙に学べます。

また、鬼に関連して日本の鬼瓦の歴史を実物とともに学べるなど、美術に活かされていく鬼の姿も目の当たりにできます。

鬼をしっかりと学びたい人は、各地の観光スポットをめぐる前に一度訪れてみることをおすすめします。

日本鬼の交流博物館

住所:京都府福知山市大江町仏性寺909
電話番号:0773-56-1996

開館時間:9:00~17:00
休館日:毎週月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月28日~1月4日)
入館料:一般330円、高校生220円、小中学生160円

アクセス:
(車)京都縦貫道「舞鶴大江IC」から約30分
(電車)大江駅から福知山市バス「大江山の家」下車徒歩約2分

グルメにも鬼!名物・鬼そばを実食

旅の楽しみであるグルメにも、もちろん“鬼”がいます。大江山の名物は「鬼そば」

いくつかの飲食店で提供されていますが、今回は昔ながらの風情を残す「食堂 大江山」の鬼そば(700円)をいただきました。

酒吞童子をイメージした盃に山盛りになっているそばと山菜はインパクト大。写真映えもバッチリです。

シャキシャキとした山菜の食感と固くコシのある麺は相性抜群で、ボリュームも満点。

ここの方言でかたいものを「こわい」といいます。 「こわいきそば」の”き”を旅人が「こわいと言えば大江山の鬼のこと」と勘違いしたという話が広まって、鬼そばと言われるようになったと言われているそうです。

大江山を訪れた際には、ぜひとも味わいたい一品ですね。

食堂 大江山

住所:京都府福知山市大江町河守171
営業時間:11:00~19:00
定休日:月曜

アクセス:京都丹後鉄道「大江駅」徒歩約8分

旅の疲れを癒す自然を活かした宿「かや山の家」

鬼を満喫したのちは、旅の醍醐味でもある宿へ。山の中にポツンと位置する大自然に囲まれた宿「かや山の家」に宿泊してきました。

もともと林間学校用の宿泊施設だったこの宿ですが、大規模なリニューアルを経てオシャレな宿泊施設に様変わり。

和と洋を巧みに調和させた空間は、居心地の良さと快適さを両立しています。

さらに、この宿の魅力はなんといっても食事にあります。ほぼすべての食材が宿の周辺で調達できるため、一泊二食付きで8250円ながら、絶品鹿肉カツや添え物に工夫を凝らした刺身プレートなど、王道を外しつつも食べやすく調理されたコース料理が堪能できます。

これだけの食材を完備しながら飲食物の持ち込みもOKなため、当日は現地で出会った皆さんと「鬼」に関連したお酒を集めて楽しいひと時を過ごしました(笑)。ちなみに、宿にはバーも併設されていて、ご当地で栽培されたホップを使ったおいしいクラフトビールやワイン、ウィスキーなども取り揃えられています。お酒を持ち込まない場合も晩酌の用意は万全ですね。

価格に対するクオリティが非常に高い宿で、コスパは抜群です。大江山観光の際には、ぜひ宿泊を検討してみてください。

かや山の家

住所:京都府与謝郡与謝野町温江1401
電話番号:0772-43-0860

アクセス:
(車)京都縦貫道「与謝天橋立IC」から約30分
(電車)京都丹後鉄道「与謝野駅」下車タクシー15分

結局、「鬼」ってなんなんだ?

大江山に伝わる鬼の痕跡をめぐる中で、鬼のさまざまな一面が見えてきました。単に恐れられているだけでなく、愛され、語り継がれ、尊敬されているのもまた鬼の姿なのです。

では、結局「鬼」とはなんなのでしょうか。日本鬼の交流博物館館長・佐藤秀樹さんをもってしても「とても一言では説明できない」と頭を抱えます。

「鬼は時代や文化によってさまざまに語り継がれてきました。ある時は人間の脅威として、またある時は人に幸福をもたらす存在として、またある時はアニメやゲームのキャラクターとして。全体的には『恐れつつも尊敬する』、つまり畏怖の対象として扱われてきましたが、一方で鬼は伝説上の生き物であるため、皆さんひとりひとりにさまざまな解釈をする余地があるのです」

世にも恐ろしい妖怪だとして鬼を恐れる人もいれば、鬼の大ファンだからと人生を捧げる人もいる。解釈の幅がじつに広く、どう捉えるかにその人の価値観が反映される存在が「鬼」なのではないでしょうか。

皆さんも、ぜひ大江山に伝わる鬼伝説から、自分なりの「鬼」を見つけてみてください!