【徒歩で100km】廃線になる三江線の全駅を死にそうになりながら記録してきた
三江線をご存知でしょうか?島根県江津市の江津駅から広島県三次市の三次駅まで35の駅を繋ぐ路線です。その三江線は利用者が少なく、惜しまれながらも2018年3月末までの営業をもって廃線することになりました。そして全長100km以上もある廃線前の三江線を、あるライターがその大半を徒歩にて全駅を訪れ必死でレポートいたしました。
ライター : pato(@pato_numeri)
全区間をあわせた一日の平均利用客が、2008年の時点で370人という鉄道の路線がある。
「あれ?それってヤバくない?」と思ってしまいそうだが、実際にヤバくて圧倒的な赤字路線になってしまっている。
2014年以降は日本で最も輸送密度の低い路線にまでなってしまった。
島根県と広島県の県境にある三江線(さんこうせん)というローカル線がそれで、島根県の江津市(ごうつし)から広島県の三次市(みよしし)を結ぶ全長108キロにおよぶJR西日本の路線だ。1930年から建設が開始され長い年月をかけて部分開業を繰り返し、1975年にやっと全線開業した古い歴史を持つ。
中国地方を縦に移動する移動手段として建設されたが、沿線の街の過疎化、マイカーの普及など時代の変化と共に利用者が減少。2016年9月、JR西日本は利用者数の落ち込みと、激甚化傾向にある災害へのリスクの高まりを理由に三江線の廃線を発表した。これをもって三江線は2018年3月末で廃線となり、この世から消え去ることが決定したのだ。
この世から消えゆくものは無条件で美しい。
造形や色彩など空間的な美しさは確かにあるが、それと同時に時間的な美しさという概念も確かに存在する。あるものが生まれ、存在し、そして消えていく、その消えていく前の一瞬の儚さは何物にも代えがたい美しさがある。花火は夜空に消えゆくから儚く美しい。あれがずっと夜空に瞬いていたとしたら、チカチカしてあまり美しくないのかもしれない。
多くのものはある日突然消えてなくなる。昨日までの存在が嘘のように、まるで幻であったかのように消え失せてしまうのだ。だから、消える直前の美しさを実感する機会はそうそう多くない。それだけに、そのうち消えることが分かりきっているものはそれだけで尊く、美しい。そう思うのだ。
三江線の駅も線路も車両も全てこの世から消え去ってしまう可能性が高い。
沿線の人たちの「三江線のある日常風景」は確実に消え去るだろう。その存在と美しさを、それらを記録しておかなければならないのではないか? そんな想いに駆られて今回、三江線の全駅を写真に収めてこようと決意した。
なくなってしまう三江線をどうしても記録に残しておきたかったのだ。
と、書くと何だかもっともらしいのだけど、真相は「廃止になる三江線を全駅記録してきてください」と編集部に言われたからであって、なんでそんなことしなきゃいけないんだ、っていうかそれって楽勝すぎるだろ、列車に乗って駅で降りて撮影してまた列車に乗る、簡単すぎてアクビがでる、ヌルい企画だぜ、ハナクソだ、ハナクソ、と気安く引き受けてしまったからだった。思えばこれが大きな間違いだった。
というわけで、朝6時、始発前の江津駅(島根県)にやってきた。
まだ薄暗い。朝というよりは夜の雰囲気だ。ちなみに東京からの旅程は、高速バス「スサノオ」号で12時間かけて出雲市へ、そこから山陰線に乗り継いで1時間程度だった。都合13時間の旅程を経てやっとスタート地点だというのだから恐ろしい。まあ、でも列車に乗って駅を撮影するだけだろ、楽勝だろ、そんな気持ちが確かにあった。そう、この時までは。
目次
三江線全駅巡り 駅No.01 江津駅 6:00
この江津駅は山陰の日本海側をひた走る山陰線と三江線の接続駅である。三江線が廃線となってもこの駅は残るため、消えゆくというわけではないがそれでも確かに儚い印象のある駅だ。早朝の時間ということもあり、駅構内にある待合室みたいな場所に3人くらいいた。吐く息が白く煙る気温の中、しばらく待っていると三江線の始発車両がホームに滑り込んできた。
なかなかパンチの効いた車両だ。この地方で盛んな「神楽」をモチーフにしているらしい。2両編成のワンマン車両で車掌兼運転手が1名いて、車内にはバズーカみたいなカメラを携えた鉄オタっぽい剛の者が数名いた。
6時発の始発電車三次行きは、僕と数名の剛の者を乗せてまだ薄明りしかない朝もやの中を旅立っていった。
車内には料金表と整理券発券機、そして料金箱が設けられている。ここに料金をいれるようになっているようだ。そのためか、2両編成の列車でも無人駅では1両目の前しかドアが開かないらしい。
列車は滑るように江津駅を離れ、すぐさま「まもなく江津本町に停車します」とのアナウンスが流れた。思っていたより駅間の距離が近い。僕は密かにこの江津本町に期待していた。
こう言ってしまうとなんだが、江津駅の駅前は何もなかった。銀行とまちプラザという名前の建物くらいしかなく、おまけにプラザのほうは工事中だった。鳥取県出身である僕は田舎を知り尽くしているつもりだったが、さすがに江津の中心となるであろう駅前でこれはないんじゃないだろうか、本当にこれが江津の中心なのだろうか、まさか、そんなことがあるわけない。そんな気持ちが確かにあった。
しかし、次の駅が「江津本町」であると聞いて安心した。きっとこの本町の方が本命のメインストリートなのである。広島市などもそうだが、駅と街の中心が一致しない場所は意外に多い。きっと江津もそういう街なのである。「本町」という名称、つまり本命の街である。ほのかな繁華街的なものがあるのを期待していた。
列車は2分ほどで「江津本町」へと滑り込んだ。
三江線全駅巡り 駅No.02 江津本町駅 6:02
江津本町に降りたって愕然とした。
なんかこえーよ。千尋が銭婆に会いに行ったときに降りた駅かよ。
周りに民家があるわけでもなく、全く人が住んでいる気配すらしない中、ポツンと駅が存在する。これが……本命の町、本町……!?
駅舎というか、待合室の中はこんな感じになっている。
さて、思っていた物とはちょっと違ったが、これで「江津本町」という駅は記録できたことになる。この要領で次の駅まで列車に乗っていき、またそこで記録、また乗って撮影、これを繰り返していけば良いのである。はっきりいって楽勝だ。
どれどれ次の列車は何時ですかな、これでも僕だってローカル線のことはある程度は分かってますからね、きっと本数が少ないんでしょう。それでも1時間、2時間くらいなら平気で待てますからね、まあ楽勝でしょう。どんときなさいや。
そんな軽い気持ちで時刻表を覗きました。現在は6時2分、さあ次は何時だ!
12時36分。
6時間30分後とはどういうことだ。
なんだかふいに遠い昔のことを思い出した。友人の家を訪ねて行った時に、「俺、こち亀全巻集めようと頑張ってんだよね~」そう言った彼の本棚には12巻までのこち亀があり、なぜかその次が103巻だった。12巻と103巻の間に彼に何があったのか。この時刻表はなぜだかそんな遠い記憶を思い起こさせてくれた。
異常に長い運転間隔もさることながら、1日に5本しか運行されないのもよく考えたらすごい。いや廃線になろうかっていうローカル線なんだからそれは不思議なことではないんだけど、
「三江線の全駅を撮影してくること」
楽勝かと思われたミッションであったが、深く考えると途方もないことだと気が付く。乗り降りする人がほとんどいないため、三江線の列車の停車時間は極めて短い。降りて、撮影、なんてことをしていたらすぐに発車してしまう。つまり1本の列車で1駅しか撮影できない。三江線の駅数は35である。1日5本の列車なのでこのままいくと単純計算で7日間を必要とする。とんでもない。編集部は俺を兵糧攻めにする気か。前世でどんなカルマを犯せばこんな発想ができるようになるんだ。
だいたい次の列車まで6時間半をこの駅で過ごし切る自信がない。最後の方とかすることなくなって座禅とか組んでそう。こうなったらもう……歩くしか……ないのか?
やっぱ歩くしかないんだろうなあ。
基本的に歩きで駅間を移動し、駅を撮影していく。1日に5本の列車は効果的に使うが、停車時間の関係で1本につき1駅しか移動できない。これを35駅で繰り返す。とんでもないことになってきやがった。釈然としない思いを抱えつつも次の駅に向かって歩き出した。それしかなかったから。
まだ薄暗い中、線路と並行して伸びる林道みたいな場所をひたすら歩く。
朝の冷たい空気に静かな風景、川の音しか聞こえない。三江線は江の川(ごうのかわ)と並行して走っている。この川とも長い付き合いになりそうだ。
歩き始めて20分でいきなり「踏切」という概念がなくなる。少し分かりにくいが、奥の家に行くにはかならずこの線路を横断しなくてはならない。しかしながら踏切の類は一切存在しない。こんな景色が沿線では数多く見ることができた。そもそも踏切のない線路を横断する前提で建てられた家が山ほどあった。
しばらくは道路と線路が並行して伸びていたが、あるところで線路の方が大きく曲がって山の中へと伸びていってしまった。大変危険だ。これでは駅を見逃してしまう。さっそく地図を確認し、駅の場所を調べる。
方角的にどうやらこの道の奥に次の駅があるらしい。本当に、あるのか……?
砂利道だぞ、砂利道。「駅前通り」というこれまでの人生で築いてきた確固たる概念みたいなものが覆りそうになるのを感じながら歩みを進めた。
のどかであり、それでいてどこか神秘的な感じがする景色だ。ここになら来世は東京のイケメン男子高校生に生まれ変わりたーい、と切望している女子高生がいてもなんら不思議ではない。
とにかくだんだん不安になってきたのでもう一度地図で、しかもかなり詳細なやつで駅の場所を確認した。
駅へと続く道路が、一切ない。途中で途切れてやがる。
難攻不落の城塞かよ。
とんでもねーなーと思いつつ進んでいくと普通に地図には載っていない道路が存在していて駅まで行くことができた。完全に初見殺しだわこれ。ということで3キロほど歩いてついに3つ目の駅に到着した。
三江線全駅巡り 駅No.03 千金駅 6:42
乗客数1人て。
「ちがね」と読むらしい。山と山の間みたいな場所に数件の家がまばらに建つ集落があり、その真ん中に駅はあった。やはり駅舎というか待合所みたいなものがあり、そこには手作りのクッションがいくつか置かれていた。
遠くから見ると、この家の人専用の駅みたいな感じすらしてくる。「〇〇家」みたいな駅名に変更した方が良いのではないか。ちなみにここまで地域住民や車なんかと一切すれ違っていない。人の気配すらしなかった。誰もいないくなった世界に僕一人と言われてもちょっと信じてしまいそうな雰囲気があった。
さて、待合室に掲示されていた時刻表を見てみる。
やはり何度見ても次の列車まではまだ6時間ある。まだまだ歩けそうだ。次の駅に向かって歩き出した。
綺麗な景色に静かな環境、程よい気温になんだか歩くのが楽しくなってきた。
道中にいた猫がむちゃくちゃ人懐っこかった。飼い猫のようなのだけどしばらくついてくるので、こいつが家に帰れなくなるんじゃないかと心配になるくらいついてきていた。
しばらく歩くとまた川が登場する。やはり「静か」な景色なのである。
さらに歩くと、ついに一人目の住民に遭遇した。恥ずかしがって写真は撮らせてくれなかったが、お婆ちゃんが畑で何かを燃やしていた。
しめた、これは焼き畑農業的な伝統的農法に違いない! 話を聞こうとお婆ちゃんに話しかける。
「何を燃やしてるんですかー? 何か伝統的な農法とかですか? 焼き畑的な」
「ゴミ燃やしとる」
「ご、ゴミですか!?」
「恥ずかしいゴミを燃やしとる」
お婆ちゃんが恥ずかしがるゴミってなんだろう。ズロースとかかな? と思いつつ、揺らめく炎をしばらく見つめていた。
お婆ちゃんに別れを告げ、また歩き出す。ただ闇雲、一心不乱に歩いて行く。
途中何度か踏切が登場してくるが、基本的に道路と線路の境界は曖昧である。
並行しているところではこのように仕切りも何も存在しない。
歩いて行くと集落が増えていき、畑なども多くなってきた。完全に駅がある気配だ。駅は近い、自然と僕の歩くスピードも速くなった。
途中、畑にこんなものがあった。
畑を取り囲むように有刺鉄線が張り巡らされ、おまけに電流まで流してあるらしい。完全に電流爆破マッチだ。山から大仁田選手がおりて来る。
どうやら山から降りてきた動物などが畑を荒らすのでその対策として用いているようなのだが、まさかローカル線の沿線を歩いていて、電流爆破マッチの中を歩かされるとは思わなかった。
おそらくこの画像に映る全ての金属に電流が流れている。秋葉原とは違った電気街がここにはあるのだ。
電気街を抜けると駐在所が登場してくる。完全に都市部だ。駅は近い。
さらには郵便局まで存在する。完全に都市部だ。駅は近い。
もう11月だというのに鯉のぼりが飾ってある。駅は近い。
ちなみにここでは2時間近く歩いて初めて遭遇する自動販売機まであった。次にいつ購入できるか分からないので持てるだけ水を購入した。
そしてついに4つ目の駅へと到着した。長かった。前の駅から歩いた距離はおおよそ4キロほど。
三江線全駅巡り 駅No.04 川平駅 8:03
「おっ!7人!正真正銘の街だ!」
レトロな雰囲気が漂う駅だった。以前は有人の駅だったらしく切符の販売窓口などもあったようだが、無人となり、その窓口は閉鎖されていた。
かなり雰囲気が良い駅なので映画の撮影などに使われることもあるようだ。駅内にも掲示されていたが、映画「天然コケコッコー」「砂時計」などに登場するらしい。それも納得の雰囲気のある駅だった。
レトロで古い駅ではあるが、ホームも駅もものすごく綺麗に掃除されていた。たぶん、地域の人が大切にしている駅で、頻繁に掃除しているんじゃないかなって思った。
ノートが置かれていた。訪れた人が自由に思いの丈を書き込めるようになっていて、覗いてみると、書き込みの大半は廃線を惜しむものであった。この種のノートは三江線の各駅で見ることができた。
さて、ここまでで4駅消化できたわけだが、最初の1駅は出発駅、もう1駅は列車に乗ってワープした駅、つまり走破したのは実質2駅である。2時間歩いて2駅ということは35駅走破には30時間以上かかる計算になってしまう。途中何度かワープを使える計画とはいえ、まだまだ先が長い、ペースを上げていかねばならない。
実はこの三江線は線路に並行して伸びる旧道みたいな道と、少し離れたところを走る大きな国道とがセットで存在している。ちょうど江の川を挟んで左右に旧道と国道が存在していると説明すれば分かりやすいだろうか。駅を走破していくのならば線路に近い旧道だが、もしかしたら歩きやすいかもという観点から、国道の方に移動して歩いてみることにした。
さすが国道、車通りがかなり多く、大型のトラックなどが物凄い速度で走っている。
歩いていると奇妙な看板を発見した。
「昭和47年7月洪水実績浸水深」と書いてある。豪雨によって江の川が氾濫し、この上にある看板まで水位が上がってきた、つまり川が氾濫すればここも決して安全ではないぞ、という戒めのようだ。川から見て比較的高い位置にある集会所なのに、こんなところまで水が来たのかと驚く。どれどれ、上の看板まで水が来たってあるけど、どれくらいですかな、と見上げると
こえーよ。こんなところまで水が来るのか。完全に水没じゃないか。
そしてここまでずっと歩いてきて、とても大切なことを見落としていることに気が付いた。そう、空腹なのである。思えば、出発も早く朝食は食べていない。歩くことになってしまってからもコンビニや商店どころか、ここまで自動販売機が1台あったっきりだ。
それに気が付いてしまった瞬間から空腹で目が回りそうになった。何か、食い物、とにかく食い物、どんな店でもいい、とにかく食い物を入手させてくれ、フラフラになりながら歩いていると、前方に物凄いものが現れた。
このフォルムは完全にローソンの看板! この先にローソンがある! うおおおおおおおおおおお! いつの間にか駆けだしていた。神の救いとはこのことか!
「ローソン 酒 たばこ トンネルでてすぐ」
今の僕には芭蕉の句より心に響く言葉だ。
「ローソン 酒 たばこ トンネルでてすぐ みつを」
って書いてあまり面識のない親戚の家の台所に貼ってあっても違和感がない。トンネルを出ればすぐにローソンがある。神々のローソンがある。食料を入手できてしまう。完全にすぐそこのニュアンスじゃないか。歩く速度が速まった。どうせすぐそこにトンネルあるんだろ。すぐだ、すぐ。
トンネルが見えない。なあにあの山影のところまで歩いて行けばすぐにトンネルあるさ。そうそう、すぐすぐ。
トンネルが見えない。なあにちょっとした手違いさ。きっとこのカーブの先にデーンとトンネルがある。
トンネルが見えない。どういうことだ! あの看板のニュアンスではすぐそこの感じだろ。なのにすげー歩いているのにトンネルのトの字も見えないぞ。
もうトンネルのことは忘れた。
トンネルなんて初めからなかったんや。トンネルなんてないさ、トンネルなんて嘘さ、あの看板は空腹が見せた幻覚。きっとそうなんだ。もうだめだ、空腹で動けない。
あああああああああああああああああああああああ! ト、ト、ト、ト、トンネルだああああああああああああああああ!!!!!!!!!!
ド――ン。
ついにトンネルが目の前に。ここを抜けると神々のローソンがある! 長かった。あの看板からここまで本当に長かった。こんなに遠いならあんな手前に期待させるような看板置くなよ! 期待させるようなこと言うなよ! 何が全国制覇だ! って三井に詰め寄った小暮の真似をしながらトンネルを抜けた(スラムダンクの話です)。
神々のローソンである。僕はこれまでの人生においてここまで神々しい光を放つローソンを見たことがない。ちょっと神秘的な感じすらする。
弁当を購入し、すぐさま食べる。ついでに、というかここまでの行程を振り返って見て、この先にコンビニがある保証は全くないので非常用の食料を買いこんでおく。なんとか生き返ることができ、再び歩き出すことができた。
そして、ついに次の駅へと到達することができた。
三江線全駅巡り 駅No.05 川戸駅 9:52
なんかこの駅間はすごい距離が長かったような気がする。調べてみたら前の駅からの距離は線路の長さで6.9キロあったらしい。ほぼ直線に走る線路でこれだから、道路を歩いているこちらはたぶん8キロくらい歩いている。そろそろ足が疲れてきた。
この川戸駅は三江線において一つの区切りとなる位置づけの駅のようだ。
まず駅舎が立派だし、駅前の集落の数も多い。さすが一日に40人が乗り降りする駅は違う。おまけに、なんと、駅にATMがある。金を降ろすことができる。さらには、江津市内から出ている路線バス(もちろん本数はかなり少ないが)の終点となっているらしい。ここからさらに山深くへと入っていくコミュニティバスの発着点にもなっているようだ。かなり賑やかな雰囲気がある。
活発な駅ではあるが、やはりここも昔は有人駅で切符売り場などもあったようだが、現在は無人駅。窓口は閉鎖されている。
ここで列車がすれ違えるように二つのホームを備えていたようだが、本数の減少に伴い、すれ違う必要もなくなったのか片方のホームの線路は撤去されていた。栄枯盛衰の儚さ、活発だった頃を想像して少し寂しい気分になる。こういった寂しい光景は多くの駅で見ることができた。
無人となり使われなくなった駅舎を市の図書館の分館として利用しているらしい。本当に小さな図書館だけどなかなか良いアイデアだ。
川戸駅を後にし、次の駅に向かって歩き出す。国道の方は車が多くて危ないし、何より駅を抑えていく場合に遠回りになることが多い。ここは線路と並行していて効率的な旧道を攻めていくことにする。
このように、旧道と線路は一蓮托生といった感覚で同じように伸びている。ここを歩いて行けばロスが少ないはずだ。
さて、次の駅まではほとんど何もなかった。途中、二階にニートが住んでいそうな民家が数軒あったが、それ以外は何もなかった。ということで、決して手抜きというわけではない。
三江線全駅巡り 駅No.06 田津駅 11:19
結構高い位置にある駅だった。ちょっとした高架駅だね。
ちなみに階段の横の民家にケルベロスみたいな獰猛な犬が繋がれていてすごい吠えてくるので怖くてなかなか駅に入れなかった。ごめんなさい、ごめんなさい、と犬に謝りながらなんとか入って駅を撮影する。
山の影になっていて日当たりがあまり良くないためか、ホームや駅舎には苔が生えていて、古めかしい味を出していた。
さて、ここから少々複雑な戦略的な話をさせていただきたい。ここまで6駅消化してきて、あと2時間ほどでワープゾーンとなる列車がやってくる。それを踏まえてここまでの状況をおさらいしておこう。
ここまでのペースを考えるに次のワープ列車がくるまでに2駅は消化できる。そうなると鹿賀という駅から因原という駅までワープをすることになる。その前提に立つと、、ある大きな問題が発生してくる。ちょっとこちらの地図をご覧いただきたい。
賀ー因原間は距離が短く、地形的にも平坦な感じがする。こんなボーナスみたいな区間でワープを使うのは完全に愚の骨頂である。それならば列車が来るまで少し頑張って3駅消化し、過酷そうで距離も長い因原―石見川本間でワープを使うべきである。
これはとても危険な賭けだ。下手をしたら列車を乗り過ごしてしまい、日に数本しかない貴重なワープを逃してしまうことにもなりかねない。慎重に選択すべきである。じっくり考え、まあ、あまり考えなかったけど、やはり頑張って2時間で3駅いくべきとの結論に達した。よし、3駅移動する! やってやる! やれるさ! そうと決まればこうしちゃいられない、早めに出発だ。
このあたりの旧道は多くの民家が立ち並んでいる。途中、おばあちゃんが各家庭にちぎっては投げちぎっては投げと言わんばかりの勢いで白菜をおすそ分けしていた。家主が不在でもガンガン玄関に白菜を置いていた。その光景に目もくれずとにかく急ぐ。かなりの早歩きだ。
綺麗な景色をゆっくりと見ている時間はない。とにかく急げ! 列車に乗り遅れるな!
三江線全駅巡り 駅No.07 石見川越駅 11:54
急いだ甲斐があって、これまでのペースならば1時間はかかったであろう行程を40分で歩くことができた。このペースで行けば大丈夫だ。
石見川越駅も駅舎であったであろう建物を兼ね備えているが、ここもまた有人だった痕跡は消え、窓口が閉鎖されている。この駅舎の看板をクローズアップしてみてみると、
「石」の字のところにツバメが巣を作っているのはご愛嬌だが、よく見ると「石見(いわみ)」のところだけフォントが微妙に小さい。本当に些細な違いだが、少しだけ小さい。「石見」とはこの辺りの地方を示す言葉だが、どうもこのフォントの小ささから、本来なら川越駅を名乗りたかったが、埼玉県の川越駅には勝つことができず、不本意ながら「石見」をつけなくてはならなかった苦悩のようなものが感じられる。
この石見川越駅は大きな特徴があり、これまでの駅では見られなかった自転車置き場が備え付けられていた。それもかなり立派なヤツである。
総じて言えることだが、どの駅もホームや駅舎に掃除が行き届いている。地元の人が大切にしていて掃除をしているのだろう。
さて、ここらで休憩したいところだが、ゆっくりしている時間はない。急いで次の駅に行かなくてはならない。とにかく急げ!
ぐおおおおおおおおお、いそげええええええええ。
三江線全駅巡り 駅No.08 鹿賀駅 12:48
三江線で最もスタンダードな形といえる、ホームの上に簡易的な待合所があるだけの駅だった。駅の場所自体は山間の結構開けた場所にあり、周囲に民家も多かった。
ちょうど僕が到達した時に、近所のおばさんがやってきていて、待合所の中を掃除したりしていた。やはり僕の予想通り、三江線の駅は地域の人たちが大切にしているのだ。そういうの、なんかいいよね。
古いながらも待合所の中は綺麗。地域の人々の気持ちが表れている。
さて、ここで画面の端に映っている時刻表をクローズアップしてみよう。
現在の時刻は12時58分。次の列車まで30分ほどしか時間がない。調べてみると次の駅までは線路の長さにして3キロぐらいあるらしい。ということは歩く距離は4キロほどか。人間は普通に歩くと1時間で4キロ進めるらしい。つまり、普通の歩きの倍の速さでいく必要があるということだ。いけるだろうか。やれるだろうか。自問自答が続く。
諦めてここでワープを決めるのはかなり効率が悪い。距離の短さもさることながら、30分待つというロスもついてくる。それならばやはり次の駅に賭けた方がいいのでは。そうだ、行くしかない!
これまでも比較的早歩きだったが、それ以上に早歩きで次の駅を目指す。
矢のように早歩きしている途中、長かった江津市が終わり、ついに二つ目の自治体、川本町に突入する。ちなみに川本町は島根県で唯一「町」を「まち」と読ませる自治体らしい。
本来ならこの境界を感慨深く眺めたいものだが、そんなことをしている時間はない。とにかく急げ、間に合わなくなっても知らんぞ!
恐ろしいほどの勢いで森の中をひた歩いていると、ぱっと視界が開けた。
街だ。
ホームセンターとドラッグストアが見える。途方もない大都会だ。新宿かもしれないし、池袋かもしれない。久しく見ていなかった光景だ。これは完全に駅が近い。きっと目と鼻の先だ。列車が来るまであと10分ある。これは完全に間に合った。
そう思っていたら、道路が大きく右に曲がっていて、かなり迂回しないと駅まで辿り着けない感じだった。これはまずい。間に合うかどうか微妙になってきた。ええい、もう早歩きとか言ってられない。走れ!
ついに全速力で走ることとなった。うおおおおおお、いそげええええ。
三江線全駅巡り 駅No.09 因原駅 13:28
間に合った。完全に滑り込みセーフといった感じだ。
前述したように、この街はホームセンターもドラッグストアもあり、かなり大きい。民家もかなりの数があり、完全に街を形成している。駅も比較的大きいが、やはり無人になっている。その代わりに駅舎自体を運送会社か何かに貸しているみたいだ。右側が駅入り口で、左側が荷物受付窓口みたいになっていた。
6時間以上ぶりにやってくる列車が近いためか、待合所には2名ほどの剛の者(鉄オタ)がいた。あとホームでタバコ吸ってる爺さんがいた。いよいよ、列車がやってくる。僕の胸は高鳴った。
ききききき、きたーーーーーー!
ありがたやー、ありがたやー、こんなありがたいものを廃止しようだなんてJR西日本はいったい何を考えてるんだ。
悠然と停車する列車、朝一番に乗ったものとは違い、無地の列車で1両編成だった。
さっそく乗り込み座席へと座る。本当にここまで長かった。車内には剛の者(鉄オタ)が数名、おばさんの集団が数名、老夫婦が数組となかなか盛況な様子だった。
いよいよ列車が動き出す。もう凄まじく速い。歩けば1時間かかるような行程を数分で行くって言うのだから驚きだ。完全にマリオがスターを取った状態だ。今ならなんだってできる気がする。空だって飛べる気がする。あっという間に列車は次の駅へと滑り込んだ。
三江線全駅巡り 駅No.10 石見川本駅 13:33
この駅は三江線の中でも中心的役割を果たす駅のようだ。なぜかというと、二つのホームが完全に機能しており、列車のすれ違いが行われている。これはこれまで見てきた駅の中でも初の快挙だ。
左が今乗ってきた列車で、右がこれから江津方面へと行く列車である。三江線のすれ違いという珍しい場面のためか剛の者(鉄オタ)がホームに躍り出て狂ったように撮影していた。狂喜乱舞、かなり賑やかだ。
駅舎もかなり立派で二階建て、乗り降りする人もかなり多い印象だ。おまけに、一番の驚きは、
有人駅であり、切符売り場が機能している。これには本気でたまげた。腰が抜けるかと思った。
すごいなあと思いつつ、駅のホームへと戻ってみると
あれ、なんか青いハッピを着た人が沢山いる。
様子を見てみると、列車から降りてくる人などに積極的に話しかけている。おまけに出発する列車にものすごい手を振って見送っている。あと、女の人が美人だった。
どうやら、ここ川本町を、そして三江線を盛り立てようとしている人たちのようで、こうやってやってきた旅行者たちに話しかけたりパンフレット渡したり、そうして盛り上げているらしい。もちろん僕も話しかけられて
「どちらからこられました?」
「東京からです」
「今日だけで東京からは7人目ですよ、しっかり楽しんでいってくださいね」
旅先でのこういう会話は良い。心が温かくなる。
少し待合室で休もうと椅子に腰かけていると、ハッピ集団の中でも一番貫禄ありそうな人が隣に座り、さらに話しかけてきてくれた。
「東京からですか?」
「ええ、そうです」
「やはり三江線を見に?」
「あのー、三江線の全駅を撮影しようとしてるんですけど」
「ふんふん」
「列車の本数少ないじゃないですか。だから江津本町からずっと歩いてきました」
僕がそう言うと、貫録のある人はいい子でいるのを辞めましたと告白された時の桜井君みたいな感じで「ん?」って顔してました(アフラックのCMの話です)。やはり僕がしていることはよっぽど不可解らしい。
「川本町にもぜひ寄っていってくださいね。いいところですから」
「はい、全駅撮影なんで今日はすぐ次の駅行っちゃうんですけど、きっとまた来ます」
こんな会話をしつつ、しかしこのオッサン、えらい気さくな人だなー、何やってる人なんだろう、とちょっと疑問を持ってると、それを察したのか自己紹介してくれました。
「私が、川本町の町長です」
川本町で一番偉い人じゃねえか。気さくなオッサンとか失礼なこと言わなくて良かった。僕がこれこれこういう理由で記事を書くための取材をしていると説明すると、
「しっかり載せてくださいよー!」
って町長がくっそ乗り気だったのでホームでパシャリ
気さくでありながら豪快、そんな面白い町長さんでした。三江線に行った際は是非とも川本町にもお立ち寄りください。
川本町公式サイト → http://www.town.shimane-kawamoto.lg.jp/
全然関係ないけど、町長の後ろに映りこんでる剛の者がいい味出してるね。
さて、なんとか待望のワープも終わり一気に進んで石見川本駅まで来ることができた。もう一枚くらいホームの写真を撮って次の駅まで歩くかーと思っていると、
あれ、さっき乗ってきた列車がまだホームにいる。
なんだろうと思って町長の横にいたおそらく町役場の職員であろう女性(美人)に尋ねると、なんと、この駅でしばらく停車した後に次の駅に向かって発車するらしい。なんたる幸運、なんたる僥倖、完全に運命に愛されている。
ここまで列車によるワープを1駅間でしか使えなかったのは、駅に降り立って駅舎などの撮影をしているうちに発車してしまうからだった。仕方がなかったのだ。しかしながら、こうして撮影した後もそれでも駅に列車が残っているということは、どういうことか。
そう、もう1駅ワープが使えてしまう!
ぐおおおおおおお! すげえ!
ということで、再度列車に乗りこみ次の駅までワープする。気分的にはスターの効果が切れそうになった時に何気なくブロック叩いたらもう1個スターが出てきた感じだ。
三江線全駅巡り 駅No.11 木路原駅 14:05
まさかの2連続ワープを決め、もしかしたらこの駅でも長いこと停車してくれて3連続ワープ行けるんじゃ、っていうか三次までそういう感じでいこうよ、と淡い期待をしたが、列車は厳かに、まるで逃げるように出発してしまわれた。
やはりまた徒歩の旅である。
「きろはら」と読むらしい。ずっと「きじはら」と読んでいた。先ほどの石見川本駅からほど近いこの駅はかなり簡易的な造りになっており、待合所もブロックを積み重ねて作った感じになっている。周囲には比較的新しい民家が多く、新しい家族が多いちょっとした新興住宅地のような印象を受けた。
駅から少し歩くと、川本町の定住促進住宅というものを建設していた。どうやらかなり安い家賃で一軒家に住めるらしい。その横にはおそらく先に建てられたであろう家が何棟かあり、かなり立派な家だった。こうやって定住者を呼び込もうとしているのだろう。興味がある方は定住してみてはいかがだろうか。詳しくは川本町役場定住促進課まで。
さて、ここで時刻表を確認する。
次のワープ列車はだいたい16時30分くらい。2時間半は猶予があるのでそれまでに2駅、場合によっては3駅進めそうだ。
歩き出してみて気が付いたが、ワープをする前に全力疾走などして歩きでは使わない筋肉を使ったからだろうか、これまで意識していなかった足の部位に強烈な違和感を覚えるようになった。まだ痛みというほどではないが、痛みださないように細心の注意をもって歩かなくてはならない。
また川沿いをただただひた歩いていく。
川本町が終わり、今度は美郷町という町に突入する。まだ島根県から脱出できない。
長いこと線路の横を歩いていると、だんだんと標識の意味が分かるようになってくる。これは「竹」という駅が近いで、っていう標識だ。きっと駅が近いはず。
やっぱりそうだ。あそこに見えるのは駅だ。
三江線全駅巡り 駅No.12 竹駅 14:58
ここもまた先の木路原駅と同じく、ブロックを積み上げた駅舎があるだけの簡易的な駅だった。