鹿児島中央駅から新函館北斗駅まで新幹線の全駅に下車してきたので全力で紹介する_PR【駅メモ!】

本記事は『駅メモ! – ステーションメモリーズ!-』の提供でお送りいたします。
※取材は2020年10月下旬~11月初旬に行いました。
新型コロナウィルス感染拡大の影響でGo Toトラベルキャンペーンの一時停止が発表されました。外出自粛されている方も多い中、是非この記事で旅行気分を楽しんでいただければ幸いです。読み終わるのに1時間以上かかりますので、年末のお時間ある際にゆっくりご覧いただければと存じます!

1日目 AM5:30 鹿児島中央駅 (鹿児島県鹿児島市)

そこには静寂の世界があった。

鹿児島市の中央に位置するターミナル駅、鹿児島中央駅。そんな巨大な駅であっても、朝5時台という早朝ともなると人の姿もほとんどなく、駅内のコンビニもシャッターが半開きだ。ただ、それでも「みどりの窓口」には駅員さんがおり、改札も慌ただしく動いている。もう、駅は動き出しているのだ。

それにしても、どうしてこんなにも早朝に、それも鹿児島という場所にいるのか、まずはそれから説明しなくてはならない。そう、あれはSPOT編集部とのメッセージのやり取りだった。あれが全ての始まりだった。

編集部
「patoさん、patoさん」

編集部からのコンタクトはいつも突然だ。

 

編集部
「突然なんですけど、明日から鹿児島に行けますか?」

本当に突然だな。いろいろとおかしいだろ。

もっとこう、鹿児島レベルのところに行くならば前々から予約とか旅程とか考えて胸をワクワクさせてから行くものじゃないのか。そういうところだろ、鹿児島って。明日行けるか? ってそういうノリで行くところじゃないだろ。

ただまあ、SPOT編集部の言い分ももっともで、どうやらスケジュールの都合があるらしく、明日からしか取材スケジュールがとれなかったようだ。誇張とか一切抜きに、本当に前準備なしで翌日、鹿児島に来ることになってしまった。

 

編集部
「さて、それで鹿児島に行って何をしてもらうかなんですが……」

僕は過去に何度か鹿児島に来ているが、鹿児島に来ると80%くらいの確率でやらされることがある。それが「日本縦断」だ。仕方のないことだが、もう僕の中では「鹿児島=日本縦断」の方程式が出来上がっている。ちなみに日本縦断しないときの残り20%は九州一周である。

最南端の駅から最北端の駅まで青春18きっぷで日本縦断」も鹿児島スタートだったし、他サイトの記事だが「高速道路のSAでラーメンを食べて日本縦断」も鹿児島スタートだ。とにかく鹿児島と言えば桜島でも、黒豚でも、焼酎でもなく、日本縦断だ。もう体と脳にそうインプットされてしまっている。

だから、もったいぶってクイズ形式にしてやがる編集部に即答してやった。

pato
「日本縦断でしょ?」

編集部
「ご名答」

ほうら、やっぱり日本縦断だ。こいつら編集部は明らかに狂ってるので、ほっとくと何でも「日本縦断」で片づけるクセがある。いやー、そろそろ秋だしpatoに日本縦断させる? レベルのカジュアルさで企画を立てている。とんでもないことですよ、これは。

 

編集部
「ただ、安心してください! 今回は新幹線の旅です。同じ日本縦断でも新幹線で鹿児島中央から新函館北斗までいってもらいます!」

おお、それはすごい。さすがに編集部も成長していて、僕の体力的な面を気遣えるようになったらしく、新幹線で日本縦断させてもらえるようだ。

これは楽な取材ですよ。鹿児島中央から新函館北斗まで新幹線。その場合、九州新幹線、山陽新幹線、東海道新幹線、東北新幹線、北海道新幹線を経由することになるのですが、移動時間がだいたい13時間ほど、運賃は特急料金を含んで47,860円ほどです。13時間で日本縦断が終わるっていうんですから、まあ、取材としてはかなり軽い部類です。今までは4日も5日もかかるようなものばかりでしたからね。

編集部
「patoさんが新幹線好きだと思いまして、この企画を提案しました」

pato
「はい! 新幹線大好きです!(しめしめ。長時間乗るのは大変そうだけど13時間で終わるなら最高! もっと地獄みたいなのがくると覚悟してた)」

編集部
「よかったです。では、新幹線で日本縦断、いってきてください。ただし、全駅で下車してきてくださいね

pato
「は?」

編集部
「全駅で下車してきてくださいね」

pato
「は?」

あまりの衝撃に同じやり取りを2度繰り返してしまった。全駅下車……? 全駅、下車……?なんでそんなことをしなくちゃならないんだ。

編集部の言い分はこうです。この度のコロナ禍において、交通および観光業界は大きなダメージを負いました。けれども、Go Toトラベル事業が始まったことにより業界もにわかに活気づいており、それに合わせてお得なキャンペーンも始まっている、とのこと。その移動手段として新幹線が選択されることも多いので、新幹線駅の紹介ができたらいいなあ、と考えたようなのです。
(※12月15日編集部追記 : 新型コロナウィルス拡大に伴い、12月14日にGo Toトラベルの全国一時停止が決定いたしました)

 

編集部
「新幹線駅の魅力を紹介してみなさんの旅行のヒントになればと」

pato
「まあ、そういうことなら……」

ということで、いつもよく分からない理論に丸め込まれてしまうのですが、なぜか鹿児島中央駅から新函館北斗駅まで新幹線の全駅で下車し、その駅の魅力を紹介することとなりました。編集部より示されたルールがこちら。

 

新幹線全駅下車ルール

  • 鹿児島中央駅から新函館北斗駅まで新幹線全駅に下車する。
  • 駅やその周辺の紹介を行う。
  • 旅の記録には「駅メモ!」を用いる
  • また、新幹線の駅においてはその駅ならではのものを探し、「おでかけカメラ」で”でんこ”と共に撮影を行う。

というひどく単純なものだ。

今回、久々に旅のお供として登場してくれるのが、位置情報ゲーム「駅メモ!」だ。

駅メモ!とは、「おでかけをもっとたのしく。」をコンセプトに展開される位置情報ゲームで、正式名称を「 駅メモ! – ステーションメモリーズ! -」という。パートナーである『でんこ』達と協力して全国各地の駅を集めるゲームだ。対象の駅は全国9,000以上!

「チェックイン」という機能を使うと、その時点で駅メモ!に登録された最寄り駅にチェックインすることができ、その駅とリンクする他ユーザーの「でんこ」と時にはスキルを駆使してバトルする。移動しながらこれを繰り返し、なるべく多くの駅を、なるべく長い時間リンクすることを目的としている。

路線や県の駅を全て制覇したり、他のユーザーと駅を取り合ったり、ゲーム的な側面も重要だが、同時に旅の記録としての側面も持ち合わせている。また「電友」と呼ばれる友達登録を利用して他ユーザーとの交流も可能。

移動が重要となるゲームと思いがちだが、実際には家の最寄り駅をずっと保持して守るといった移動自粛にも対応した遊び方が可能なゲームだ。

>>「駅メモ!」のダウンロードはこちら

 

この駅メモ!の旅のログという部分を利用して今回の新幹線旅もしっかりと記録していく。

そして、同時に、この駅メモ!と連動した「駅メモ!おでかけカメラ」も使用する。

『駅メモ!おでかけカメラ』は、駅メモ!に登場するパートナー『でんこ』といっしょに写真撮影ができるカメラアプリだ。駅メモ!と連動し、所持する”でんこ”がカメラの撮影画面に現れる。

でんこの表情や大きさや位置は簡単に変更可能なので、旅行先で”でんこ”と撮影、が気軽に楽しめる。撮影した写真は、アプリ内の操作で簡単にSNSにシェアできる。

<おでかけカメラのダウンロードはこちら>

>>Google Play

>>App Store

ということで、またもや日本縦断をするために、感染症対策をばっちり講じたうえで、鹿児島にやってきたわけだ。これら「駅メモ!」や「おでかけカメラ」をお供に、新幹線全駅下車の旅、いってみましょう。

No.001 鹿児島中央駅(鹿児島県鹿児島市)

鹿児島中央駅
最南端の新幹線停車駅。新幹線だけでなく、川内方面、指宿枕崎方面、宮崎方面へと続く列車の起点となる駅。
旧名称は西鹿児島駅であったが、九州新幹線(鹿児島中央-新八代)開業に伴って現在駅の駅名に変更された。周辺は再開発が進み、鹿児島の中心としてさらに賑わいを見せている。同じ市内にある「鹿児島駅」とは明確に異なる駅。1日あたりの乗車人員は20,834人(2018年)


冒頭でも述べたようにあまりに早朝過ぎて駅内に人の姿はほとんどない。それどころか駅周辺にも人の姿はない。

駅の外側を見ても、朝というには暗すぎるのでシンボルである大観覧車も薄っすらと闇夜に浮かんでいる状態だ。この鹿児島中央駅は大型商業施設を併設しており、九州新幹線部分開業時から続く駅周辺の再開発も今なお、盛んにおこなわれている印象だ。日本縦断や九州一周のたびに来ているがいつもどこか工事をしているイメージがある。

それらの商業施設も、駅内のおみやげ屋にいたるまで全て閉店している状態だった。ただ、みどりの窓口は開いていたので、そこで切符を買うことにした。

鹿児島中央駅から新函館北斗駅までの乗車券、24,090円である。バカの子みたいな長距離切符だが、ちょっとしたお得情報を紹介したい。


<お得情報>

どこかに寄り道しながら長距離を鉄道で旅する場合は「途中下車」を利用するといい。101キロを超える距離のJR普通乗車券は、区間内の駅で後戻りをしないことを条件に、何度でも途中下車ができる(一部大都市近郊区間の絡みで認められない区間もある)。距離に応じて有効期限(200キロまでで2日、200キロ増えるごとに1日追加)が設定されるので、その期間内であれば日付を跨いで途中下車をしても良い。

この場合、下車ごとに乗車券を買うよりも安くなる。例えば、この切符も途中の京都駅で下車するとして、鹿児島中央駅から京都までの乗車券と、京都から新函館北斗までの乗車券をその都度購入した場合、12,650円+16,170円で28,820円となり、通しで買った方が4,000円以上お得になる。

4,000円あればそこそこのおみやげが買える。


目的地が遠い場合は、途中下車が可能なので、急ぐ旅でないなら途中下車をしてみるのも一興だ。ただし、特急券には適用されないので、特急券は下車(改札を出る)たびに購入する必要がある。

ちなみに、今回購入した切符は、前日夜に購入したら「新函館北斗駅」のつもりで発券してもらったのに「函館」までで出されていたので、朝一番で変えてもらった。

その際にも金額は変わらなかったので、これくらい長距離になると新函館北斗と函館なんて誤差レベルの扱いらしい。あと、夜に発券してくれた駅員さんと朝に変更してくれた駅員さんが同じ人だった。朝一番の窓口業務は前日夜から泊まり込んだ駅員さんがやっているのかもしれない。

さて、乗車券は通しで購入したが、新幹線特急券は途中下車が効かないので、次の「川内駅」までの新幹線特急券を購入した。値段は870円。

さて、切符も買ったし駅の写真も撮った、こうなると始発の新幹線で川内駅を目指すのだけど、もう一つ達成しなければならないミッションがあった。それが、「その駅ならではのものと”でんこ”をおでかけカメラで撮影してくる」というものだ。

新幹線駅にはその地方の特産品などが展示されていることが多い。あくまでも私見だが、地方の駅ほどその傾向が強い。そういった意味では、このミッションはそう苦しいものではないはずだ。

ただ、早朝の鹿児島中央駅はなかなかに苦しい。

なにせ早朝過ぎて、SFに登場する「人間が滅んだ後もなぜか自動で電気だけはついている駅」みたいな状態になっており、全ての店が固くシャッターを閉ざしているからだ。だから、何がどこにあるか分からない。そんな中、必死に駅の中をウロウロして見つけたのがこれだ。

<ミッション写真 No.1> 薩摩の焼酎とみろく

これもまた私見で申し訳ないのだが、何度か九州内を旅していて感じたことがある。「九州の駅、駅に酒を展示しがち」である。それだけお酒が特産品として根付いているということなのだろうけど、どこにいっても酒が展示されているような気がする。ということで、鹿児島中央駅では実に九州らしい、薩摩焼酎とでんこを撮影した。まだあまり使い方に慣れていないので「みろく」が宙に浮いたみたいになってしまった。

6:08 九州新幹線 さくら400号 博多行(特急料金880円)

九州新幹線には「みずほ」「さくら」「つばめ」の3種類の新幹線が走っている。これらは停車駅と所要時間が異なり、最も速いものが「みずほ」、次が「さくら」となっている。今回の旅は全駅で下車なので、大きな駅にしか停車しない「みずほ」はあまり縁がなさそうだ。ほぼ「つばめ」の旅になると予想される。

さすがに新幹線は速い。やっと座れたぜ、と座席に着いたら、すぐに軽快な音楽と共に「もう少しで川内駅に到着する」というアナウンスが流れ始めた。乗車時間は11分。まったく落ち着く暇がない。

車窓から見える景色はすぐに山間のものになり、しらじらと夜が明けてきた。この季節ならではなのか、まるで雲の中かと思うほど濃い霧の中を走っていた。その白い朝もやの向こうに切り立った山々が少し薄い色に見えて、水墨画みたいな綺麗な景色が続いた。

新幹線の車内はかなり空いていた。2割にも届かない乗車率だろうか。ただ、驚いたのは通学に使っていると思われる高校生の姿があったことだ。この区間は在来線の設定もあるので、普通はそちらを使いそうだが、もしかしたら寝坊をしたときだけとか、部活などで朝早く行かなければならないときだけ特別に新幹線課金をするのかもしれない。そんなこんなで川内駅に到着した。読みとしては仙台駅と同じだ。さっきから変換を間違えるのでイライラしてしょうがない。

No.002 川内駅(鹿児島県薩摩川内市

6:18 川内駅

ここ川内駅はもっとも速い設定の新幹線である「みずほ」がほとんど停車しないため飛ばされがちになる駅だ(1日に1本から2本停車)。つまり、新幹線の本数があまり多くないわけだ。駅名標の下に小さく映っている時刻表を見ればわかるが、概ね1時間に2本程度の新幹線が停まるようだ。待ち時間にして30分といったところだろうか。

これがこの旅の最大のネックである。新幹線を下車し、ホームでバシャバシャと撮影して駅メモ!にもチェックインし、乗ってきた新幹線にそのまま乗れれば効率がいいが、それはかなり難しい(ルール上は改札を出ろといわれてないので可能ではある)。それにせっかく来たのでしっかりと駅のことは紹介したい。そうなるとやはり下車して改札を出るしかないのだ。

よって、ホームでバシャバシャは本当に切羽詰まったときの最終奥義としてとっておいて、基本的には下車して改札を出るスタイルを維持していきたい。つまり、次の新幹線をしっかり待つことが必要となる。停車本数が少ない駅はとんでもないことになる可能性を胸に刻んでおく必要がある。

川内駅
九州新幹線、鹿児島本線、肥薩おれんじ鉄道の3路線が乗り入れる駅。2020年現在、最も西に位置する新幹線停車駅。九州新幹線では唯一の地上駅。鹿児島から見た場合、在来線の鹿児島本線はこの駅でいったん終わり、第三セクターの肥薩おれんじ鉄道へと引き継がれる。読みとしては宮城県の仙台駅と同じで、漢字としては岩手県の川内駅(かわうちえき)と同じ。1日あたりの乗車人員は2,908人(2018年、JRのみ)

この駅は、鹿児島駅から見た場合、熊本へと向かう鹿児島本線がいったん終わることになる場所だ。これより先は新幹線開業時に経営が引き継がれた肥薩オレンジ鉄道を利用することになる。

新幹線が開業するとなると華やかな側面が注目されがちだが、こうして採算が難しそうなJR在来線が姿を消すことになる。地方ではそういうことが往々にして起こる。地元民にとっては必ずしも喜ばしいことではないのかもしれない。

さて、新幹線に乗車しているときから、けっこうお腹の調子が悪く、駅に到着するや否や、トイレへと駆け込んだ。乗り降りする客も少なく、トイレにも全く人がいなくて助かった。これで行列とかできていたら、旅の序盤からとんでもなく深い悲しみという名の十字架を背負うことになっていた。

用を足していると、ドアの内側に貼られた張り紙が目に留まった。ここに伝えたいことを掲示するのはおそらく世界で一番効率がいい。みんな見るからだ。そこには「新型コロナ対策により、便器のふたを閉めてから水を流してください」と書かれていた。

なるほどね。一説によると、排せつ物を流すときにその勢いで排せつ物内のウィルスが拡散してあまり良くないと聞いたことがある。だから拡散しないようにふたを閉めて流せというのだ。理に適っている。ただ、そうなると一つ大きな問題がある。

僕くらいの大便マニアになると、トイレ設備に詳しい。あらゆる施設で大便をするからだ。そして、このタイプの便器はセンサーを兼ね備えている。しかも、この形式のやつはセンサーの感度が良く、かなりのスピードで勝手に水が流れ始めるのだ。つまり、ふたを閉めようと立った瞬間にジャーとなる可能性が高い。

「スピード勝負になるな」

さっと立ってカッとふたを閉める。一瞬の判断を逃すと蓋を開けたまま水を流すことになってしまう。時間との勝負だ。いくぞ!

そんな思いも空しく、やはり立った瞬間に水が流れてしまった。さすがに全部丸出しで蓋を閉めるのは滑稽だと妙に恥ずかしくなってしまい、いそいそとズボンを直していたら、ザーッと勢いよく水が流れてしまったのだ。

そんなトイレでの攻防戦はどうでもいいとして、川内駅ならではの物品を撮影しなくてはならない。幸いなことに、それっぽい物品が駅構内に山ほどあった。

やはり、九州の駅、酒を展示しがちである。

その隣には黒田官兵衛の甲冑が展示されているなど、なかなか盛りだくさんな中で僕がチョイスしたのがこれ。

<ミッション写真 No.2> 手作り神輿とルナ

川内工友会による手作り神輿。神輿好きなんですよね。この神輿はけっこう新しいデザインなので、モダンな駅舎にマッチしていて大変良い。ルナも満足そうだ。

さて、次の出水駅を目指さなければならない。一度改札を出てしまったので、新たに特急券を買いなおす必要がある。特急券は1,260円だった。こんな調子で、各駅ごとに新幹線特急券を買っていたらかなりの出費になりそうだ。特急券は長く乗れば乗るほどお得になるので、こうして1駅ごとに降りるのが一番効率が悪い気がする。

6:37発 九州新幹線 つばめ308号 博多行(特急料金1,260円)

最初はホームに人がいなかったが、時間が近づくにつれどこからともなく通勤っぽい人や通学っぽい人々が現れた。駅に到着してから次の新幹線までは20分程度と、なかなか短い待ち時間だが、それがちょどいい感じだった。これがもう少し長くなってくると時間を持て余すのかもしれない。

新幹線に乗り込み、やっと座れたぜと座席に着くと、またもやすぐに軽快な音楽がながれてきて「まもなく出水です。お降りのお客様は……」とアナウンスが流れ始めた。完全に息をつく暇がない。狂ってる。

No.003 出水駅(鹿児島県出水市)

6:49 出水駅

思いのほかと言ってしまったら失礼かもしれないが、降りる人がかなり多かった。ホームからの階段が混みあうレベルだったのでかなりのものだ。おそらく、鹿児島中央から乗ってきて出水駅まで行く場合、JR在来線でいくと肥薩おれんじ鉄道への乗り換えが必要なため少し不便なのだろう。だから新幹線が選ばれがちになる。そういった事情からか、この駅は九州新幹線の中でも屈指の定期利用率を誇っているらしい。

新幹線ホームから出水の町並みを眺められるようになっており、ちょうど明けきった朝の風景が気持ちいよかった。

出水駅
新幹線と肥薩おれんじ鉄道が乗り入れる駅。かつては在来線の鹿児島本線が通っていたが、九州新幹線開業時に移管され、肥薩おれんじ鉄道となっているため、JR在来線は存在しない。肥薩おれんじ鉄道車両基地を併設しており、同路線の拠点駅として使われている。ちなみに肥薩オレンジ鉄道は電化されているが、電車は高いという理由で運用されておらず、軽気動車で運用されている。新幹線定期利用者が九州新幹線の中では比較的に多い。1日あたりの乗車人員は1,130人(2018年度)

タイル状に並んだガラスがなんともポップな近代的駅舎だが、タクシー乗り場あたりは純和風の屋根が連なっており、和風とモダンの融合がなされている。

駅を出てすぐの場所に武家屋敷風の門構えが登場してくる。なにか武家っぽい施設があるのかなとワクワクしながら入ってみる。

自転車置き場だった。

もしかしたら日本で一番、武家っぽい自転車置き場なのかもしれない。

新幹線側の駅は、九州新幹線開業に合わせて作られた新しい駅舎で近代的な感じだ。その反対側の出口にある肥薩おれんじ鉄道、出水駅の駅舎はかなり年季が入っていて古めかしい。おそらく、鹿児島本線があったときの出水駅をそのまま肥薩おれんじ鉄道出水駅の駅舎として利用しているのだろう。

あと、これも九州の駅にありがちなのだけど、「九州の駅、駅の前に車輪を置きがち」である。この駅もしっかりと、画像の左側に車輪が置いてある。開通記念だと、かつて走っていた列車の遺産みたいなノリで駅に車輪が置かれることはそうそう珍しくはないが、九州の駅はその確率が高いように思う。酒の展示と車輪、これが九州の駅だ!

駅のロータリー内には、かつてのSLも展示されている。これを眺めながら、なぜか朝食を食べていないことを思い出した。鹿児島中央駅ではコンビニが開いていなかったし、川内駅はそういった朝食をとる設備がなかった。そろそろ何らかの形で朝食をとらねばならない。

そうなると、出水駅はなかなかに期待できる。特にこちら側の出口は大きなホテルもあるし、マンションも見える。思った以上に発展しているので、駅近くに朝食をとれる店があるのかもしれない。

なぜか、駅のロータリー内に焼肉屋があった。ただ、早朝過ぎて完全にクローズしている状態だ。でも、他にお店はないのにしっかりとロータリー内に焼肉屋があるのがちょっと興味深かった。

仕方ないので朝食は諦め、スゴスゴと駅に戻った。

<ミッション写真 No.3> ツルとシーナ

出水市はツルの渡来地として知られている。毎年10月中旬から3月にかけて1万羽のツルが越冬する。この渡来地は国の特別天然記念物にも指定されている。そのツルをかたどった模型が威風堂々と駅に鎮座していたので、でんことの撮影を敢行した。

おでかけカメラのコツを掴んできた。でんこを手間に配置し、腰よりちょっと上くらいが入るようにして撮影すると、一緒に旅してるみたいな写真が撮れる。

さて、次の新水俣駅までの新幹線特急券を購入する。新幹線特急運賃は1,260円だった。各駅で特急券買ってると想像していたより早いペースで所持金が減っていく。新幹線はすごい、走るスピードも金が減るスピードも一級品だ。

ちなみに、乗車券の方は、最初に新函館北斗まで購入してあり、途中下車を繰り返しているのでこういう状態になっている。

なるほど、途中下車をして自動改札を通るたびに「入場」「出場」と駅ごとに赤で印字されるらしい。でも、今回の旅では想定を超えた途中下車を繰り返す。いったいこの券面がどうなっていくのか。なんかちょっとワクワクする。

新幹線ホームから肥薩おれんじ鉄道出水駅(旧出水駅)の駅舎を見下ろせる。やはりかなりレトロで味のある佇まいだ。

さて、この出水駅も、「みずほ」などの最速設定の新幹線に飛ばされがちの駅だ。ホームドアが設置されているので、通過する新幹線は手加減なしの爆速で通過していく。

僕とお婆さんがホームで次の新幹線を待っていたのだけど、そこに爆速で通過する新幹線がやってきて、おばあさんが「ヒィ!」と腰を抜かしていた。それくらい、通過する新幹線って勢いがすごい。走るスピードも金が減るスピードも一級品だ。

7:27発 九州新幹線 さくら542号 新大阪行(特急料金1,260円)

新しい車両タイプの新幹線がやってきた。どうやら博多を超えて新大阪まで行く新幹線はこの車両が設定されているようだ。

この種の車両だと、全ての席に電源が付いているのでうれしい(一部車両は電源がなかったり、一番前の座席だけだったりする)。この手の取材をしていると、駅メモ!やおでかけカメラにかなりスマホの電力を消費してしまうので、充電が減少するたびに不安になっていく。その点、こうやって充電できることはかなり心強いことだ。

と思ったら、すぐに軽快な音楽が流れてきて、「まもなく新水俣駅に到着します、お降りの方は……」とアナウンスされた。あっという間だ。1%も充電できていない。新幹線乗ってる時間より待ち時間の方が長い。こりゃとんでもないことになってきたぞ。

No.004 新水俣駅(熊本県水俣市)

7:34 新水俣駅

じつに7分の乗車で到着である。むちゃくちゃ速い。短時間にめまぐるしく場所が変わりすぎてちょっと脳がついていかない。

新水俣駅
九州新幹線、肥薩おれんじ鉄道が乗り入れる駅。従来は駅が存在しておらず、信号場であったが、九州新幹線開業で新幹線駅ができると同時に、信号場が肥薩おれんじ鉄道に移管され、駅に変更して接続駅となった。1日あたりの乗車人員は576人(2018年、JRのみ)


いやはや、到着が早すぎてまったく充電できませんでしたな、と少し不満を抱えながら階段を降りる。ついに鹿児島県を通り抜けて熊本県入りとなった。いったいどんな駅が、と降りきると衝撃の光景が飛び込んできた。

暗すぎない?

これ、駅の裏とか外に出たところとかではなく、正真正銘にホーム降りて改札に向かう場所ですからね。この暗さは完全に闇属性の駅。雰囲気のある外国の映画みたいな暗さがある。

おそらくではありますが、もともとは自然の光を取り入れた設計だったんだと思います。その証拠に、向こう側の窓からは光が差し込んできて明るくなっている。

ただ、この画像からもわかるように、現在、駅の前面の外壁工事をしているわけなのです。それ用の足場が組まれていて光を取り込めないので、こういった闇属性の駅が誕生したのではないだろうか。工事が終わればきっと明るくなる。

駅の裏手すぐには、肥薩おれんじ鉄道の新水俣駅がある。もともと駅じゃなかった場所を、新幹線が来るからと駅にしたので、若干、窮屈さを感じるような造りになっている。

ちょうどおれんじ鉄道のくまモンがペイントされた列車が来ていた。本当に、くまモンは熊本に入った瞬間にかなりの頻度で登場してくるので、こうして姿を見ると、熊本に入ったんだなあという実感より、ヤツの領域(テリトリー)に入ったか、という気持ちを強く感じる。

 

駅の反対側に通路があり、そこからセブンイレブンに直結していた。各駅での新幹線特急券の購入で、なかなかの爆速で所持金が減っていくことに不安を覚えた僕は、このコンビニでお金を降ろすことにした。

どうやら、このコンビニの駐車場は送迎にも使われているらしく(たぶん駅のロータリーより入りやすい)、ここで降りて駅に向かう人の姿がちらほら見られた。

ガーっと駐車場に入ってきたワンボックスカーの後部座席からスーツ姿の女性が降りてきた。女性はすぐに助手席に回り込むと、チャイルドシートに座る息子に何やら話しかけていた。新幹線に乗って出張か何かに行かねばならず、息子と車を運転する夫を残していくことに不安を覚えているようだった。

「夜に泣いたら、Youtubeであの曲を聞かせて」

「寝る前にお茶を飲みたがったら飲ませて、必ずトイレに行かせて」

女性から旦那さんにかなり細かいところまで指示が飛ぶ。

「ウンチしたらちゃんとお尻を拭いてね!」

最後にそう指示されていて、ああ、息子さんがウンコしたらしっかり拭くように、痒くなっちゃうからね、という指示かと思ったら、旦那さんが満面の笑みでこう答えていた。

「ちゃんと毎日拭いてるって!」

これだけ細かく指示されているのだから、旦那さんが息子さんのお尻を毎日拭いているとも思えない。つまり、もしかしたら旦那さんがウンコの後にお尻を拭かない日がしばしばあって、ちゃんと拭くように言われたんじゃないだろうか。そんなトーンの答え方だった。めちゃくちゃ笑顔だった。ウンコしたらちゃんと拭けや。

さて、新水俣駅ゆかりのものと”でんこ”の撮影だが、どうもさっきから色々な場所で江口寿史先生のイラストを見かける気がする。どうやら江口先生はここ水俣市の出身らしく、けっこう市の広報に協力している感じだった。やっぱり江口先生のイラストはいいなあ。

<ミッション写真 No.4>江口先生のイラストとセリア

でんことの撮影は駅にあった江口先生のポスターと行った。でんことイラストの女性が同じくらいの大きさになるように調整して行うのに苦労した。

8:04発 九州新幹線 つばめ308号 博多行(特急料金1,260円)

隣の新八代までの特急料金は1,260円だった。時刻も8時を回り、新幹線車内の人々も通勤や通学っぽい人ではなくなり、旅行者みたいな人が増えてきた。

相変わらず10分ちょっとで次の駅まで着いてしまう。思いのほか、新幹線の駅間隔は短い。

No.005 新八代駅(熊本県八代市)

8:17 新八代駅

田園の中にポツリとある駅。新幹線ホームから眺める新八代駅の印象はまさにそれだった。ただし、周辺の開発が続いているようで、駅前には背の高いマンションが建ち、ビジネスホテルもある。大きめのショッピングセンターもあったりするし、大掛かりな建設工事も行われている。けれどもそれを取り巻く周辺は田園風景に近い。

新八代駅
九州新幹線と在来線、鹿児島本線が乗り入れる駅。九州新幹線部分開業時(鹿児島中央-新八代間)はこの駅で九州新幹線が終点となっていたため、ホームで新幹線と在来線特急「リレーつばめ」との対面乗り換えが実施されていた。また、新幹線が停車しない宮崎方面から旅客も、高速バスから流入する連接点となっている。1日あたりの乗車人員は1,907人(2018年)


さてさて、この駅で次の新幹線まで30分ほどの待ち時間があるようだ。さっき、ホームから見た感じでは、街中にあるような駅ではなさそうだ。この駅で30分はなかなかきつい。

しかし、ついつい田園風景の中にポツンとある新幹線駅、みたいな表現をしてしまったが、なかなか失礼だったかもしれない。ちょっと田園風景の中のポツン駅は失礼だったなあ、言いすぎだったなあ、別の表現を考えないと、と反省していたら、目の前に前衛的なオブジェが飛び込んできた。

このオブジェの説明文の冒頭にしっかりと「水平に広がる田園風景の中にポツンと現れた新幹線駅……」と説明されていたので、駅公認の表現だった。だから容赦なく言わせてもらう、新八代駅は田園風景の中にポツンとある新幹線駅です。

そんなポツン駅でどうやって時間を潰すか。思案していると目の前になかなか興味深い看板が飛び込んできた。

「松中信彦スポーツミュージアム」

福岡ダイエーホークス、福岡ソフトバンクホークスで活躍し、平成唯一の三冠王である松中選手のミュージアムがあるらしい。選手が八代市出身ということで自身で建設し、市に寄贈したらしい。駅からそこそこ近いっぽいので向かってみることにした。

駅から離れて歩いてみてさらにわかる。

田園

風景の中に

ポツンと。

そんなこんなで徒歩5分ほどで松中信彦スポーツミュージアムに到着した。

なかなかかっこいい建物だ。

もちろん、あまりに早朝すぎるので開館していない。通常は10時開館で入場料は310円のようだ。

このスポーツミュージアムは「八代よかとこ物産館」という地域の名産を販売する物産館と同じ敷地にある。その物産館の自動販売機付近にいたおじいさんが近づいてきて「松中はむかしはこの辺でサッカーをしていた」という、微妙に嘘くさい、本当だとしても、そりゃ野球選手もサッカーくらいするよ、と驚きもしない情報を提供してくれた。

そろそろちょうど良い時間なのでおじいさんに別れを告げ、駅に戻る。

さて、新八代駅ならではのもの撮影である。八代まで熊本に入り込んでくると、やはりくまモンの領域(テリトリー)なので、かなりの侵食をみせてくる。

例えばこんな感じだ。

この画像の中には”くまモン”が5体いる。もうこの街も完全にくまモンの手に落ちたと思った方がいい。そんなこんなで、撮影もくまモンと行うことにした。

<ミッション写真 No.5> くまモンとレイカ

やはり酒並べがちだし、船のモーターにまでくまモンが侵食している。

8:47発 九州新幹線 さくら544号 新大阪行(特急料金870円)

けっこう乗客が増えてきた。この新大阪まで一気に行くタイプの新幹線は利用者も多いようだ。確かに便利だもの。

車窓から景色を眺める。

本当に新幹線は広大な田園風景の中を走っていて、凄まじいスピードで移動しているのにそんなに景色が変わらないのが何とも心地よかった。

No.006 熊本駅(熊本県熊本市)

8:59 熊本駅


熊本駅
九州新幹線の全列車が停車する駅。鹿児島本線や豊肥本線も乗り入れる。駅前からな路面電車も発着し、高速バスも乗り入れるなど、熊本の一大アクセス拠点として機能している。2018年に在来線の高架化が完了し、周辺では再開発事業が活発に行われている。1日あたりの乗車人員は15,441人(2019年度)

駅周辺はかなり急ピッチで再開発が行われていた。もともと熊本市は駅周辺よりも中心繁華街がずいぶんと栄えていて、その繁華街までは路面電車で移動する必要がある。だから駅周辺は繁華街に比べるとやや閑散としている印象があった。

それがどうだ、いまやビックカメラもできるみたいだし、映画館の入った商業施設もほぼ完成している感じで、オープン間近という工事をしていた。熊本駅周辺は一気に様変わりしそうな雰囲気がムンムンに漂っていた。

さて、そんな熊本駅の新幹線ホームから階段を降りると、ある物体が目の前に飛び込んできた。

<ミッション写真 No.6>シャルロッテとくまモン

ヤツだ。

巨大くまモンの登場に、ここ熊本市がヤツの本拠地だと実感する。

さて、いい加減に朝食を食べないともたないので、ここ熊本駅で食べることにする。ここ熊本駅は全ての新幹線が停車する駅なので、さぞかし本数も多く、待ち時間も少ないと予想していたが、実際にはそうでもなかった。

確かに新幹線の本数は格段に多い。けれども、この次の新玉名駅がそこまで本数が多い駅ではないので、必然的に各駅停車の新幹線を待つことになる。結果、40分の待ち時間があるようなので、完全に朝食チャンスといってもいいだろう。

熊本駅の中には「肥後よかモン市場」という商業施設があり、お土産物屋や総菜屋、ドラッグストア、コンビニと一通りの店舗が揃っている。飲食店もラーメン屋から居酒屋までしっかりと揃っているので、必ずや朝食にありつけるはずだ。

その中で僕が選んだのは吉野家。カウンターのみを備えるオープンスタイルの店内なので、感染症対策を講じるのは大変だったと思う。かなり強引に全てのカウンターに仕切りのビニールがかけられていた。

ハムエッグ牛小鉢定食 458円+税

控えめに言って美味い。朝ご飯の正解がここにある。

最高に美味いなと考えつつ、黙々と食べていると、店の奥から話し声が聞こえてきた。女性がけっこうな勢いでマシンガントークをしているっぽい。このご時世にマシンガントークしながら食事とは豪気ですな、とそちらに目をやると、けっこうガーリーなファッションに身を包んだ女性が、スマホに向かって喋りながら牛丼を食べていた。

その内容と勢い的に、どうやら何らかの配信をしながら食べているようだった。

「はい、今日はついに大盛りいっちゃいます!」

とか言っていたけど、「今日はついに」という文言から、何回にも分けて配信をしてついに今日は大盛りに挑戦するというニュアンスを感じ取った。徐々に大盛りににじり寄っている。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。どうして大盛りをゴールにしたのか、よく分からなかったけど、ハムエッグ牛小鉢定食は美味しかった。

9:40発 九州新幹線 つばめ316号 博多行(特急料金870円)

ここからは、各駅停車の新幹線のみがメインで停まるような駅が続くので、かなり苦しい戦いを強いられることが予想される。気合を入れていかねばならない。

相変わらず短時間だが、10分ほどで次の駅に到着した。

No.007 新玉名駅(熊本県玉名市)

9:50 新玉名駅

九州新幹線は駅名標の下に時刻表が付いているので、到着すると最初に次の新幹線を確認する。待ち時間がどれくらいになるかが最も重要な要素だからだ。なんと、19分後に「さくら」があるようだ。一瞬、心が躍ったが、よくよく調べるとこの「さくら」は駅を飛ばしていくタイプの新幹線なので、次の新大牟田を通過してしまう。結局、次の「つばめ」まで1時間の待ちを余儀なくされることとなった。

新玉名駅
九州新幹線全線開業と同時に開業した新幹線のみが乗り入れる駅。玉名駅とは4キロほど離れている。在来線やその他の鉄道の乗り入れがないため、バスかタクシーで移動する必要がある。2016年に新幹線駅としては初となるホーム無人化が行われた。1日あたりの乗車人員は640人(2018年)

新玉名駅は他の路線の乗り入れがないため、基本的に人の流れがほとんどない。ただただ静かにそこに佇んでいる、そんな駅だ。

駅の前にはケーズデンキとホームセンターがあるのみ。めちゃくちゃ駐車場が広い。それ以外はサバンナみたいな草原が広がっているだけだ。

「ここに1時間か……」

途方に暮れるとはまさにこのこと。何をどうしていいのか分からない。

ケーズデンキとホームセンターしかないならケーズデンキいったるわ、と歩いて行ったら、けっこう目と鼻の先の近さなのに入口まで異様な遠回りを強いられてしまった。しかも、まだ開店しておらず、仁王立ちで開店を待つことになってしまった。

ただただ仁王立ちで待った。

10時となり、いよいよ開店である。誰も来ないかと心配されたが、開店時には7名ほどのお客さんが待ち構えており、一斉に雪崩れ込んでいった。たぶんお目当ての品があるのだろう。

僕はお目当ての品などないので適当にゲームコーナーでも冷やかしますかな、と入店した。ただ、どうやらこの店はゲームを扱っていないらしく、本当に何をやっていいのか分からなくなったので、意味不明に美顔器コーナーとか眺めていた。本当に、1時間、美顔器コーナーでつぶした。

途中、沢田研二みたいなお客さんが、店員さんを捕まえて「USBをUSBに変換するケーブルある?」と、なんとなく分かるんだけどなんとなく何が言いたいのか分かりづらい質問をしていたのを聞きつつ、本当に美顔器で1時間を潰した。型番とか性能とか値段とか暗記してしまった。

なんとか美顔の1時間を過ごし、新玉名駅ゆかりのもの撮影である。


<ミッション写真 No.7>さやと金栗四三像

玉名市は日本マラソンの父として知られる金栗四三さんゆかりの地ということで駅前には銅像が置かれている。この威風堂々な姿が仁王立ちでケーズデンキの開店を待つ僕と重なる。

10:50発 九州新幹線 つばめ318号 博多行(特急料金870円)

1時間待ちはけっこうきついな、と実感しながら新幹線へと乗り込む。

とんでもない疲労だ。座席に座った瞬間、もう二度と立てないんじゃないかという気だるさが全身を覆った。

はっきりいて舐めている部分があった。確かにあった。新幹線に乗って降りて写真撮るだけだろ、楽勝じゃん、そういう舐めた態度が確かにあった。けれどもそれは大間違いだと気が付いた。これ、想像の8倍くらいしんどい。

皆さんも、同じ目的地に行くのに、乗り換えなしのルートと、乗り換えを10回くらいするルートならば、間違いなく乗り換えなしを選ぶと思う。それは乗り換えという行為が肉体的にも精神的にも負担だからだ。みんなそれを自然に感じ取って乗り換えなしのルートを選ぶ。

降りなきゃいけないと意識して準備する、降りる、次の時間を確認する、間に合うように行動する、この負担はかなり大きい。もうここまで7回それを繰り返したわけで、すっかりと消耗してしまった。

本当に二度と立ち上がれないかと思ったが、座ってすぐに軽快な音楽、そして到着したとのアナウンス、もう立ち上がるしかなかった。単純に言って地獄である。SPOT編集部には何かしらの復讐をしなくてはいけない。

No.008 新大牟田駅(福岡県大牟田市)

10:58 新大牟田駅


ホームからは住宅街が見えた。雰囲気的には、ずいぶん前からここにあった感じで、新幹線駅に合わせて開発された感じでもなさそうだ。普通に住宅街があって、そこに新幹線駅ができたような雰囲気を感じる。

ちなみに、ここでの待ち時間も1時間である。厳しい。

新大牟田駅
九州新幹線全線開業と同時に開業。新幹線のみが乗り入れる駅。大牟田駅からはかなり離れている。2017年にホームの無人化を行い、2018年にキヨスクが閉店した。1日あたりの乗車人員は611人(2018年)


ここ新大牟田駅で大変なことが起こってしまった。いつかは起こるだろうと予想できたことだったが、ついにこの駅で起こってしまった。


自動改札機にきっぷが詰まった。

九州新幹線では、途中下車の場合、入退場の記録を赤で券面に印字する。もう赤字が多すぎて呪いの手紙みたいになっており、これが満杯だからエラーが出たのかと思った。

「すいません、印字が満杯になっちゃいましたかね?」

駅員さんにそう問いかけると

「いえ、15行まではいけるはずなんで……」

まだ13行しか印字されていないので、あと2回はいけるとのこと。

「15行を超えたらどうなるんですか?」

「それはわたしもちょっと分からない」

こんな心温まるやりとりがあった。結局、何回も自動改札に入れたことにより切符が曲がってしまい、詰まりやすくなったとのことだった。次回からはなるべく有人改札を通るようにしてくださいと言われた。

新大牟田駅の構内には、最近増えてきた誰でも弾けるピアノが置かれていた。いわゆるストリートピアノというやつだ。

1時間もあるので駅周辺を探索しようと思った。けっこう民家があるのでそれなりに何かはあるだろうと考えたからだ。けれども、なんだか危険な香りがした。目に入るのは民家ばかりで、それしかない可能性があるからだ。

1時間徘徊した挙句、紹介するのが一番かっこいい民家、とかだったら目も当てられない。こういった場合は、この旅でも使用している位置情報ゲームアプリ「駅メモ!」に大変すばらしい機能がついているのでそれを利用するしかない。

駅メモ!にはその駅を訪れたユーザーがメッセージを残す「駅ノート」という機能が各駅に備えられている。小さな無人駅に置かれたノートに訪れた人が記念に言葉を残していくイメージに近い。ここに多くのユーザーの書き込みがある。

地方の駅になればなるほど「シャル着弾記念」という意味不明な呪文みたいな言葉で埋め尽くされているが、そういったものは気にしなくていい。ただ、中にはその駅周辺のお得情報が書き込まれていることがあるのだ。

この駅ノートの機能により、新大牟田駅周辺の情報を入手することにした。

「駅近くの“チキン南蛮クレタ”のチキン南蛮が美味しい」

との情報をキャッチしたので、さっそく向かってみることにした。

情報通り、本当に駅の近くにあった。けっこう今風でオシャレな感じのビルの一角にチキン南蛮クレタはあった。どうやら、昼はチキン南蛮クレタとして営業し、夜は別の名前で営業するスタイルのようだ。

ここまで来ておいてなんだが、まだお昼にはちょっと早いし、熊本駅で朝ご飯を食べたばかりだ。ちょっとチキン南蛮を食べる気分ではない。それより、パンケーキがめちゃくちゃ美味しそうだったので、人気ナンバーワンらしい季節のフルーツパンケーキを食べることにした。


季節のフルーツパンケーキ 980円

はっきり言って、笑っちゃうくらい美味い。っていうか、あまりに美味くて実際に笑いながら食っていた。まず見た目の4倍くらい柔らかくてモチモチしたパンケーキ、これに甘さの自己主張を抑えめにしたクリームが、フルーツ本来の味わいを消し去ることなく上品にアシストする。本当に美味すぎて、30秒くらいで平らげそうな勢いだったけど、野武士みたいなおっさんがフラリとやってきてニヤニヤ笑いながらパンケーキを30秒で平らげたとなると、この店で代々語り継がれる逸話みたいになてしまうと思い、精いっぱいゆっくり食べたけど、それでも2分くらいで平らげてしまった。

2分で平らげてしまったことにより、大幅に時間があまってしまったので、住宅街を徘徊し、一番カッコイイ民家を探した。

そろそろ良い時間になったので、駅に戻って撮影をする。


<ミッション写真 No.8>もえと大牟田市役所模型

改札から新幹線ホームへと上がる場所にけっこう立派な模型があったので撮影をした。高い塔がそびえたち、なかなか迫力ある市庁舎、その模型らしい。

11:58発 九州新幹線 つばめ320号 博多行(特急料金870円)

基本的には数分の乗車を繰り返すのだけど、この「新大牟田-筑後船小屋」区間はこれまででもっとも短かったように感じた。乗車時間にしてわずか6分。座る席を探すのに戸惑った場合、座らない方が早い可能性すらある。

No.009 筑後船小屋駅(福岡県筑後市)

12:04 筑後船小屋駅

筑後船小屋駅
もともとは鹿児島本線が乗り入れる「船小屋」という駅であったが、九州新幹線開業時に「筑後船小屋」と変更された。筑後広域公園の中に整備されており、「全国初の公園内の駅」と広報されることもあるが、公園内に駅があること自体はいくつか前例があるので「全国初の公園内の新幹線駅」と広報すべきである。1日あたりの乗車人員は1,154人(2019年)

ここ筑後船小屋駅において、ついに乗車券の券面が満杯になった。

完全に呪いの手紙。もともとの印字が読めない状態だ。

新大牟田駅の駅員さんによると、この印字は15行までいけるらしいので、15回、入場と退場を行ったということになる。あと、決して粗末に扱っているわけではないのだけど、15回も自動改札に入れると切符がヘロヘロになってくる。いかんせん、以降は自動改札を通らないっぽいので有人改札で駅員さんに見せていくことになる。

この筑後船小屋駅での待ち時間も1時間ほど。ただ大きな公園の中にある駅ということで時間を潰すことはそう難しくはない。

駅を出た瞬間にめちゃくちゃ綺麗な景色が広がっていた。綺麗な芝生に青い空、暖かい日差し。新幹線の旅なんてやめてここで寝転んでいたいくらいだ。

地図を見ると、この県営筑後広域公園、かなり大きい公園であることがわかる。下手したら1時間では周れないかもしれないレベルだ。そして、駅がしっかりと公園内にあることもわかる。

<ミッション写真 No.9>いろはと九州芸文館 

公園内には九州文芸館という隈研吾氏が設計協力したモダンな建物がある。すげえな、上の画像、モダンすぎて”でんこ”とも相まって全てがイラストみたいだ。

駅の反対側には在来線のJR筑後船小屋駅がある。どうやら無人駅として運用されているようで駅の中はひっそりとしていた。けれども、なぜか周辺は俄かに活気づいていた。

駅のすぐ近くには球場があるようで、そこから軽快な音楽が流れてきてなにやら騒がしい。浜崎あゆみみたいなテイストの音楽がガンガン聴こえてくる。

どうやらこれはタマホームスタジアム筑後という球場らしく、福岡ソフトバンクホークスの2軍や3軍の試合が行われる場所らしい。雰囲気的に、いまから試合が始まりそうな感じだ。ユニホームを着た人もどんどん球場に吸い込まれていく。

駅から球場までの通路にはこのように、新入団選手を紹介するパネルなどが設置され、ホークスのユニフォームに身を包んだ人たちの流れができている。とりあえず、時間もあるし試合でも見るかとその流れについていく。

駅から見た感じではかなり近かったのに、実際に歩いてみると結構な大回りを強いられてしまい、かなりの距離を歩くことになってしまった。球場の入口付近はかなり賑やかで、人々がグッズを買い漁っていた。どうやら今日はこのあと1時から福岡ソフトバンクホークスと阪神タイガースの2軍の試合が行われるらしい。

ちょっと観ていこうかとおもったけど、入場口では感染症対策の一環として検温などが実施されており、長蛇の列ができあがっていた。かなり時間がかかりそうなので断念し、駅へと舞い戻った。

<ミッション写真 N0.9 (おまけ)>タマホームスタジアム筑後といろは 

せっかくここまで歩いてきたのでもう1枚。すぐさま人の流れに逆らって駅へと舞い戻った。もう新幹線の時間だ。

 

新幹線ホームから公園内のオシャレな休憩所が見えた。なんでこんな形なんだろうと思ったけど、これ、船小屋なんだな。中に船があってそれを収める船小屋だ。駅名にちなんだ休憩所なんだ。

このあたり一帯は、江戸時代ごろから土木用の船を格納する船小屋がたくさん堤防に設けられたことに由来して「船小屋」という地名になっている。それが駅名になった形だ。広域公園自体も川に沿うようにして存在しているのでこのあたり一帯にずらーっと船小屋が並んでいたんじゃないだろうか。

13:03発 九州新幹線 つばめ332号 博多行(特急料金870円)

球場に向かってなかなかの距離を歩いたのでかなり疲労した。ここまでずっと駅で乗り降りを繰り返しているが、駅内での移動は思いのほか体力を消耗する。階段の乗り降りや、出口から出口への移動。想像しているより何倍も体力勝負になっている。そこに球場への往復が加わって、本当に足を休めたかった。

けれども、次の久留米駅まで乗車時間は6分。座った瞬間に降りる準備だ。あまりに目まぐるしい。狂ってる。

そして次の久留米駅ではすさまじい試練が待ち受けていることが判明している。ここまで次の新幹線までの待ち時間が1時間とかザラだったが、今度は逆に死ぬほど短い待ち時間となるのだ。その時間、実に9分。これを逃すとちょっと待ち時間が生じるので、後々の展開を考えてもきっちりクリアしなくてはならない。

まず、新幹線を降りて駅の名標を撮影。駅メモ!でチェックインしてその画面をスクショ、そして有人改札で「もう自動改札通らへん」と事情を説明して改札を出て駅の外に出て駅舎を撮影。そして久留米駅ゆかりのなにかと「でんこ」との撮影、そして次の駅までの新幹線特急券を購入し、また説明して改札に入って新幹線に飛び乗る。これらを9分で片づけなければならない。厳しい。でもやるしかない。久留米タイムアタック、ぜひともご覧あれ。

No.010 久留米駅(福岡県久留米市)

13:10 久留米駅

久留米駅
福岡第3の都市、久留米の代表駅であるが、繁華街からはやや外れた場所に位置する。開業時は久留米の中心地であったが、その後、繁華街が西鉄久留米方向へと移動したという経緯がある。乗降者数としては西鉄久留米駅のほうが多い。九州新幹線の全線開業に合わせて駅ビルが整備され、再開発が進んでいる。1日あたりの乗車人員は7,856人(2019年)

<ミッション写真 No.11>久留米駅を象徴する長い自由通路のステンドグラスともぼ

13:19 九州新幹線 さくら402号 博多行(特急料金870円)

間に合った。本当に間に合った。人間やればできるものだな。9分でこれらをクリアできたのはかなり大きい。

駅の自由通路がかなり長く、駅の外に出るまでにかなりのダッシュを要した。めちゃくちゃ走ったので完全に息も切れ切れだ。なんで新幹線に乗って移動するだけの旅なのにここまで体力を消耗し、精神を擦り減らし、息切れをするのだろうか。もっと優雅なもんじゃないの、新幹線の旅って。

とにかく、ギリギリ間に合ったので新幹線に乗り込み、呼吸を整えていたらもう降りる準備をしろというアナウンスが流れ始めた。全然整ってない。ひどいな、久留米-新鳥栖間の乗車時間、4分だって。4分。これもう乗車じゃないだろ。

 

No.011 新鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)

13:23 新鳥栖駅

この駅での待ち時間は24分ほどあるようだ。そこまで急ぐ必要はないけど、ゆっくりもしていられない時間設定だ。 

新幹線ホームの屋根の構造が個人的に気に入って撮影していたら、それを見ていた後ろのおっさんも「何か重要な構造物……っ!」と思ったらしく狂ったように撮影し始めた。すいません、重要な構造物かどうかはわかりません。

新鳥栖駅
2020年現在、佐賀県内にある唯一の新幹線駅であり、九州新幹線西九州ルート(長崎ルート)の分岐点となる予定の駅である。長崎ルート全線開業後はかなり重要な駅となる。もともとは鹿児島ルートの新幹線において駅設置の予定がなかった駅だが、西九州ルート(長崎ルート)の計画策定により設置が決まった。佐賀県にある駅なのに、新幹線上りと下りの隣駅は福岡県という珍しい駅。1日あたりの乗車人員は1,653人(2018年)

ここ新鳥栖駅の改札で少し駅員さんと会話する。問題は、この乗車券が自動改札を通るかという点だ。おそらくではあるが、印字がいっぱいになったら自動改札は通らないだろう、それに切符がヘロヘロすぎる、今後は有人改札で見せてください、といったニュアンスのことを説明された。

今後も、久留米駅のようなタイムアタック要素のある駅が出てくるだろうが、そこでも有人改札を通らねばならない。有人改札、だいたいおっさんが駅員さんと揉めてて詰まっていて、足止めをくらうから思いもよらぬタイムロスに遭遇するかもしれない。

<ミッション写真 No.11>地元の小学校の6年生81名が作ったタイルアートとふぶ

鳥栖の名所が一目でわかる素晴らしいタイルアート。こういった地元の学校の制作物を駅が展示してくれるっていうのはなんだかよい。これを撮影しているあたりでやっとこさ呼吸が整ってきた。すげえよな、久留米からずっと呼吸が乱れてて鳥栖で整ったんだぜ。

 13:48 九州新幹線 さくら556号 新大阪行(特急料金870円)

次はいよいよ九州最大のターミナル駅、博多だ。長かった九州新幹線シリーズも終わりが見えてきた。なかなか感慨深い。

途中、博多南駅と思わしき施設が車窓から見えた。

博多南駅は、山陽新幹線の博多総合車両所、いわゆる車両基地に備えられた駅で、仕事を終えた山陽新幹線の車両はここに行くことになっている。車両基地だけれども駅があるので、ここから乗ることもここに乗っていくことも可能。その場合は新幹線でありながら博多駅まで在来線特急あつかいで100円が必要。注意深く見ていると、博多駅の新幹線ホームでも次の駅は博多南駅と表記されている新幹線がくることがある。

No.012 博多駅(福岡県福岡市)

14:00 博多駅

博多駅から駅名標(駅名を書いた看板)のデザインが青を基調にしたデザインに変わる。これは博多駅の新幹線ホームがJR西日本の管轄になるからだ。JR西日本の駅名標デザインが用いられているというわけだ。つまり、この先の隣駅は同じ九州内で同じ福岡県内の小倉駅だけど、区分としては山陽新幹線なので、その新幹線経路もJR西日本管轄となる。

博多駅
規模、利用客数、すべてにおいて九州最大のターミナル駅。多数の路線に、九州新幹線、山陽新幹線、地下鉄が乗り入れる。駅中や周辺に多数の商業施設を抱えており、駅の北西に位置する博多バスターミナルは高速バスの拠点となっている。まさに、九州の交通を司る拠点駅である。1日あたりの乗車人員は126,627人(2019年、JR九州のみ)

巨大すぎて全景を収められない駅舎、完全に大都会にやってきてしまった。

行きかう人の数が桁違いに多いし、みんなどこか忙しそうだ。いやー、やっぱり大都会はすごいな。

ちなみに、赤で印字されすぎて地獄みたいな状態になっている乗車券だけど、おそらくもう自動改札を通らないと予想されるので、筑後船小屋からずっと入場時、出場時に駅員さんに見せて改札を通過していた。

ここ博多駅の改札でも事情を説明して改札を抜けようとする。

「すいません、たぶんもう自動改札通らないんで、これで途中下車します」

と乗車券を差し出すと、若い駅員さんがマジマジと乗車券を眺めた。

「ちょ……なにこれ(笑)」

みたいに、真っ赤に印字されて原型をとどめない乗車券を見つめて半笑いになってる。

「なにこれ、初めて見た(笑)」

後ろにいた同僚っぽい人とめちゃくちゃ笑いを堪えている。そんなに笑わんでもええやない。

「プププププ、ちょっとまってくださいね。ププププ、出場のハンコを押しますので」

そう言って、博多駅で出たぞという記録のハンコを押してくれた。どうやら改札を出るときにはこれを押さなければならない(逆戻り防止)っぽいのだけど、ここまでの駅では押してくれなかった。押す駅と押さない駅があるようだが、博多駅はきっちり押すみたいだ。

<ミッション写真 No.12>準備中の巨大クリスマスツリーといずな

さて、次の小倉駅を目指すのだけど、おそらくここはかなり楽な展開になるはずだ。なぜなら、博多駅も小倉駅も巨大なターミナル駅なので、多くの新幹線が停車する、よって、どんな新幹線でも自由自在に選択可能となるからだ。

14:15発 山陽新幹線 のぞみ36号 東京行き(特急料金990円)

ついに東京行き新幹線が登場してきた。ここから山陽新幹線になるわけで、もっとも速い設定の新幹線は「のぞみ」である。ただし、「のぞみ」は主要駅のみ停車していくので、各駅を訪問するこの旅ではほとんど乗ることがないと予想される。

ただし、次の小倉駅も「のぞみ」が停まる駅なので、この区間は選択可能となる。こんなチャンスはここしかないかもしれない、ということで狙いすまして「のぞみ」に乗ることにした。

小倉駅までの乗車時間は15分。長い。ゆっくりできる。距離もさることながら、けっこうな都市部を通過していくので新幹線も本気のスピードを出さないのだと思う。とにかく15分も座れるのはありがたい。

No.013 小倉駅(福岡県北九州市)

14:30 小倉駅 

小倉駅もかなり新幹線の本数が多い駅だけれども、ここでの待ち時間は約1時間となっている。なぜならば、次の新下関がそこまで本数の多いわけではなく、そのほとんどが各駅停車の「こだま」だからだ。その「こだま」が小倉駅にやってくるのは1時間後ということだ。

ただ、これに関しては一つ、戦略的な作戦があるので、とりあえず一通りの撮影を終えた後に実行に移したいと思う。

小倉駅
九州の玄関口となる駅。山陽新幹線全列車が停車し、東九州各都市に向かう日豊本線の起点駅でもある。開業当初は現在の西小倉駅の付近にあったが、二度の移転を経て現在の位置となる。北九州モノレールも乗り入れる巨大ターミナル駅。1日あたりの乗車人員は36,183人(2018年、JR九州のみ)

ここ小倉駅は乗降者数が博多駅に次いで九州2位の大きな駅だ。来るたびに感じることだけど、北九州モノレールがダイレクトに駅ビルに飛び込んでくる光景がなんとも都会的だ。画像にもモノレールのレールが映っている。

<ミッション写真 No.13>北九州モノレールとニャッシュ

タイミングがいいと、駅コンコースの上部にダイレクトに飛び込んでくるモノレール車両を見ることができる。ちょうどタイミングが良かった。

撮影していると、急にトイレに行きたくなったのでトイレ、トイレと探すと、案内表示が目に留まった。その案内に指示されるままに歩いていく。

案内されるままに歩いていくと、からくり屋敷みたいな謎の通路に誘導されてしまった。華やかな小倉駅コンコースからの落差がすごい。このまま異世界に連れていかれるんじゃないかと思ったほどだ。

なんとか異世界に連れていかれることなく、トイレを済ませ、ここからやや戦略的な移動を試みることにする。

まず、大前提として、ここ小倉駅では各駅停車の「こだま」が来るまで1時間待ちの状態である。そして、その先の新下関駅はほぼ「こだま」しか停まらない駅なので、同じくらいの待ち時間があると予想できる。

しかしながら、この地図から分かるように関門海峡を隔てるものの、小倉駅と新下関駅の距離はそう遠くない。この間に在来線も運行されていてどちらの駅も在来線が乗り入れており、本数も多い。つまり、ここから在来線に乗って新下関に移動すれば、いま待っている「こだま」に新下関駅で乗ることが可能となる。1本短縮となるので1時間くらい得をするはずだ。

問題はそういったことが乗車券的に可能なのかという点だ。 

もはや地獄みたいでなんと書いてあったのか判別不能なので、出発時の切符を表示する。

やだ、綺麗。最初はこんなに綺麗だったんだね。

注目して欲しいのは「鹿児島中央→新函館北斗」の下に「経由:新幹線」と書かれている点だ。つまり新幹線を経由すること前提で出されている乗車券なわけだ。もしかしたら在来線には使えない可能性だってあるのだ。

まあ、もしだめなら別途、小倉から新下関までの切符を買えば済むことだが、いちおう、使えるかもしれないので駅員さんに聞いてみた。

「これなんてかいてあるんですか?」

券面は地獄みたいな状態なので駅員さんの第一声はそれだった。事情を説明すると、なんだか駅員さんも困った感じになり、先輩の駅員さんに相談したり、さらには奥の部屋に切符ごともっていかれたりして、予想していたより大きな騒ぎになってしまった。

「基本的に新幹線経由でも、同じ区間の在来線ならいいんですよ。ただ、この区間はちょっと複雑でして、乗れるんですけど追加料金がかかるかもしれません。詳しいことは、乗った電車の車掌に聞いてそこで追加料金を払ってください」

僕が乗ろうとしていた在来線の下関方面の発車時刻が迫っていることもあり、とにかく乗って向こうで聞いてくれと丸投げされてしまった。

14:52発 山陽本線 下関行き

この旅において初の在来線である。区間さえ同じなら在来線に乗ってもいい。これは大きな知見を得た。これまではJR在来線が乗り入れている新幹線駅がそう多くなかったけど、ここからは増えてきそうだし、上手に使えば時短になるはずだ。

この車両、ブラインドの張力がすさまじい。窓の上部からブラインドを引っ張って、下の方にあるくぼみに引っ掛けるタイプなのだけど、外の景色が見たいのでその引っ掛かりを外したら、ものすごい勢いで巻き取られてバチーンという轟音が車内に響いた。車内にいた乗客が全員こちらに注目したほどなのでかなりの爆音だった。

下関に向かう途中、関門トンネル手前の門司駅あたりで架電に流れている電気が交流から直流に変わる。その切り替え点の通過の際に電気が消える。突如として停電する。いよいよ九州を脱出すると実感する瞬間だ。本州に入るぞ!

ちなみに、車内を歩いている車掌さんに、また事情を説明して、小倉駅では車掌に追加料金を払えって言われましたと告げたところ、うーんとめちゃくちゃ唸っていました。

「自分、JR九州のものなんで、到着した下関駅はJR西日本の社員になりますんで、そっちできいてもらえますか?」

と言われた。たらい回しにされてなかなか追加料金を払わせてくれない。

なかなかもどかしい思いをするのだけど、ついに九州を脱出し、本州突入となった。果たして追加料金はいくらなのか。

 

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