ダイアログ・イン・サイレンスで僕が学んだ「伝える努力」の大切さ【コミュニケーションに悩むすべての人に】
「ダイアログ・イン・サイレンス」をご存知ですか?音のない世界で、言葉の壁を超えた対話を楽しむエンターテイメントで、1998年にドイツで開催されて以降、フランス、イスラエル、メキシコ、トルコ、中国でも開催。これまで世界で100万人以上が体験しています。今回は、そんな「ダイアログ・イン・サイレンス」の体験レポートをお届け。普段はつい忘れてしまうコミュニケーションの本質が体感できます。
最近、日本語が通じない外国人よりも、
日本語が通じない日本人の方が厄介だなあ、と思うときがある。
とはいえ、僕もライターのはしくれとして、「どうしたら読み手に伝わるか」は日々考える。
あれこれ試行錯誤もするが、同じ言語なのに「伝えること、理解すること」は、とにかく難しい。
そんな悩みが少しでも軽くなればと思い、先日、新宿ルミネ0にて期間限定開催された「ダイアログ・イン・サイレンス」に行ってみた。
ダイアログ・イン・サイレンスとは?
音のない世界で、言葉の壁を超えた対話を楽しむエンターテイメント。参加者は、音を遮断するヘッドセットを装着。音声に頼らず対話をする達人・聴覚障がい者のアテンドにより、静寂の中で集中力・観察力・表現力を高め、解放感のある自由を体験。ボディーランゲージなど、音や声を出さず、互いにコミュニケーションをとる方法を発見していく。
1998年にドイツで開催されて以降、フランス、イスラエル、メキシコ、トルコ、中国でも開催。
これまで世界で100万人以上が体験している。
結論から言うと、僕は「ダイアログ・イン・サイレンス」で、これまで味わったことのない感覚を体験し、コミュニケーションを最後まで諦めてはいけないことを学んだ。
僕同様、コミュニケーションに悩むすべての人に向けて、「サイレンス」の体験レポートと総合プロデューサー・志村季世恵さんのインタビューをお届けしたい。
かつてない体験に心震える、静寂のエンタテイメント、はじまる
取材したのは8月10日。蒸し暑い新宿南口直結のNEWoManに、「ダイアログ・イン・サイレンス」の会場となるルミネ0がある。
会場に到着すると、広くて静かな受付で、他メンバーが集まるまで待機。
全員揃ったところで、スタッフの方よりイントロダクションが始まる。
スタッフ「『ダイアログ・イン・サイレンス』では、最大12名でひとつのチームとなって、参加していただきます。つまり皆さんは、ここから運命共同体となるわけですね」
全員「よろしくお願いします…!」
スタッフ「皆さんのなかに、手話ができる方はいらっしゃいますか?」
女性「あ、わたし、少しできます!」
スタッフ「なるほどー、では、残念ながら今回は、手話は使わないようにしてください」
僕(意外……!)
なぜ手話を使ってはならないのかは、この後判明する。
イントロダクションはそのまま進行し、いよいよアテンドスタッフの登場。
今回のアテンドスタッフは、岩川さん。
スタッフ内では「王子」と呼ばれているらしい。めちゃ優しそうなイケメンだった。
アテンドスタッフは聴覚障がいにつき音が聞こえないので、ここからはボディーランゲージだけで会話が始まる。ジェスチャーで次の部屋に入ることが伝えられると、いよいよ静寂の空間へ……!
※ここからは若干ネタバレが入るため、いつか行われるであろう再公演のために見たくない方は、コチラをクリックください。
「ようこそ静寂の世界へ」
最初に入った部屋は、「ようこそ静寂の世界へ」。
防音が行き届いた空間で、さらにノイズキャンセリングのヘッドフォンを装着。耳鳴りすら消え失せそうな静寂が、突如訪れる。
ここで改めて、岩川さんから注意事項の再確認。
本格的な“対話”は次の部屋から始まるらしい。メンバー全員、ほんの少しの不安に駆られて緊張気味の表情のまま、第2の部屋へと足を進める。
導かれるまま入って行った第2の部屋は、「手のダンス」。
薄暗い部屋の真ん中に、発光する円卓。それらを皆で囲むと……
影絵を使って遊ぶことからスタート。
爆笑したり、真剣な表情になったり。言語を使わずとも、メンバー間の距離が少しずつ縮んでいく。
ウォーミングアップの場として設けられた部屋のようだったけれど、既に子どもに戻ったようで楽しい。
部屋を通るたび、コミュニケーションの手段を増やしていく
「全部屋について詳細に書くのはNG」とのことで、ここからはネタバレしすぎないように書くが、第2の部屋を出て、3,4,5と新たな部屋に入るたび、僕らはコミュニケーションの手段を増やしていくことになる。
最初は手の影でしかコミュニケーションできなかったのに、表情や指の細かな動き、ジェスチャーなど、言葉を発さずに喜怒哀楽やそれ以上の感情を伝える方法を、皆で模索していく。
日本の学校教育では、「AはA」と習うことが多いが、ここでは、ウサギひとつとっても、「どのような方法でウサギを表現するか」に頭を悩ませる。
自分の気持ちを相手に伝える方法は、決してひとつではないことを改めて実感させられるのだ。
頑張って言語以外の方法でコミュニケーションを取ろうとしても
この表情。完全に「え、ごめん、わかんない」の顔である。
「犬がいるでしょ!? 犬のうしろに、テーブルがあって! その周りにイスがふたつ! あと、右横に、台に乗った海ガメ! テーブルの左横には、自転車! あと、テーブルの上には猫! テーブルの後ろに街灯!!」
と、伝えたいのだが、これだけの情報を言語ナシで伝えるのって、難しい。
お互い失笑と爆笑を繰り返しながら、言葉を発さずに各アトラクションをクリアしていく。
いつの間にか、言葉がなくとも随分多くのコミュニケーションを取れるようになったと、後から気付かされていく。
そして第5の部屋でようやく、いくつかの手話も教えてもらえる。
冒頭で「手話NG」とされていたのは、参加者間でのコミュニケーションスキルの差をなくすために取られた配慮だったことがわかる。
「むずかしい」
「おもしろい」
「すき」
「きらい」
人の感情は複雑で、それらを表情やジェスチャーだけで伝えきるにはかなりの時間がかかるし、限界がある。手話という「言葉」を手にすることで、一気にコミュニケーションのハードルが下がっていくことが実感できた。
そして訪れる、ダイアログ・イン・サイレンスの真骨頂
そしていよいよクライマックスを迎える第6の部屋「対話の部屋」。
簡素なつくりの空間に、イスが丸く囲われている。
手話のできる通訳士さんも立っていて、岩川さんは、通訳士さんを通して僕らに話しかけ始めた。
岩川さん「ここでは、ヘッドフォンを外して、自由に話をすることができます。ここまでの感想を、通訳士さんを通して、ぜひ僕に聞かせてください」
それを聞いて、僕らは、大いに戸惑う。
これまで書いてきたとおり、最初の部屋でヘッドフォンを付けたときから、僕らのコミュニケーション能力は赤子のそれのようになってしまった。
そこからひとつずつコミュニケーションの手段を教えられたり、解放されたりして、なんとか岩川さんやメンバーとの距離を近づけてきたのが、ついさっきまでだったのである。
それが、ヘッドフォンを外し、喋ることを許された途端、制限がなくなりすぎて、かえって喋ることが難しくなってしまう。
普段、どれだけ言語以外を使わずに会話しているか。身振り手振りをせずに会話をしているのかが、ここにきて思いきり実感させられてしまうのだ。
僕らは、誰に対して、どのようなテンションで、どんな言葉で今の気持ちを伝えるべきか、言葉が使えなかったときよりも慎重に、少しずつ感想を口にして、残りわずかな時間を過ごしていった。
そこには、「聴覚障がいを持つ人の苦労を経験する」といった表面的な体験よりも、もっと大きな学びがあった。
人が幼いころからどのようにしてコミュニケーションを身に付けていったのか。
今の自分がどれだけ言葉に頼ったコミュニケーションを取っていたのか。
それらを実感し、まるで自分の人生が追体験されたような気持ちになるのだ。
それが、僕が感じた「ダイアログ・イン・サイレンス」における最も貴重な学びだったように思う。
こうして6つの部屋を通過し、岩川さんと別れを告げる。
最後の部屋では、参加したメンバーと別のスタッフだけで静寂での対話について思うところを伝え合い、カードにこの体験の感想を書き留めた時点で終了となる。
文章と写真でどれほど伝わったかはわからないが(それこそ伝えることの難しさを今改めて感じているが)、これが「ダイアログ・イン・サイレンス」の全行程だ。
圧倒的な体験は、第6の部屋以降で訪れる。取材からしばらく経った今でも、そのときの感覚は鮮明に残っている。
開催期間は2017年8月1日~20日。好評のうちに幕は閉じた。
しかし、次のインタビューで書かれているように、主催の志村さんは、常設開催できるよう、再演を目指すと語る。
このレポートを読んで興味を持った方は、ぜひ、次のインタビューも読み進めてもらいたい。