これぞ有名ライターの底力?!「知らない駅で2時間以内に記事を書き上げる」エクストリーム執筆コンテストやってみた_PR
日本のおもしろWEB業界を代表するライターが一堂に集結!知らない駅に訪れて2時間で記事を書き上げる「エクストリーム執筆コンテスト」で、優勝賞金10万円をかけて争ってもらいました。
越中島(pato × 越中島駅)
越中島駅は京葉線にあるJRの駅だ。地下にホームがある地下駅だ。地上にはわずかな部分しか出ておらず、地下鉄駅のような佇まいだ。
地上に出ると分かるが、駅出口の目の前に東京海洋大学がある以外、目立った店舗なども見られない場所だ。
ありえないことだけれども、もしこの駅に降り立って2時間以内に記事をアップしろと無茶な指令を受けたとしたら、ありえないことだけれども、取り上げる店舗などを探すのが大変なのはもちろんのこと、そもそも、作業をするカフェなどがなく、結果、公園のベンチでママたちに訝し気な視線を投げつけられながらペチペチとパソコンを打つことになるだろう。ありえないことだが、もしあったらそうなるだろう。越中島駅はそんな場所だ。
私は桜子。この越中島駅前に広がる東京海洋大学に通う女子大生だ。大学では主にサンマ漁の研究をしている。
今日は講義もなければ研究室に顔を出す日でもない。それでもこうして大学に来ているのには大きな理由がある。
越中島駅の裏手には、古くからある一戸建てやアパートが立ち並んでいる。昔ながらの雰囲気を残す町並みに、木々の隙間から隅田川を挟んで向こう側には高層タワーマンション群が見える。その、奥深い路地の一角に佇むアパートに私は住んでいる。勉強するなら大学に近い方がいいだろうという親心で借りてもらったが、正直、もうちょっと賑やかな場所でも良かったかもと後悔している。
「さてと」
大学の正門を入り、守衛さんに挨拶をすると、スマホを取り出し、アプリを起動、何度か画面をタップする。さらにメッセージアプリを起動する。
「おねがい」
小さくそう呟いた。けれども、そこに新しいメッセージを告げる通知はなかった。
高志と連絡が取れなくなってから、もう2週間もの時間が経過した。長いようで短い、重いようで軽い、そんな2週間だった。高志は同じ大学に通う同い年の男子だ。ブリの養殖について研究している。
はっきりと言葉で確認し合ったわけではないが、私たちは付き合っていたように思う。大学の話、ブリの話、アルバイトの話、おいしいタピオカ屋の話、そんなとりとめのない話をメッセージアプリで交わしているときが何よりの幸せだった。
ただ、その幸せはふいに失われてしまった。
何の連絡もなく、高志から返事が来なくなったのだ。どれだけメッセージを送っても返事がない。それどころか、“既読”すらつかなかった。2週間前のことだ。何の兆候もなく、突如としてコミュニケーションを断絶されてしまったのだ。2週間前の私は本当に戸惑っていたと思う。
これが振られたとか、浮気をされたとかだったらまだ納得もできる。いや、納得はできないけど、とにかく、ある種の諦めのような踏ん切りはつくと思う。今のように、どうしていいのかすら分からない宙ぶらりんな気持ちにはならなかったはずだ。
思えば、高志の様子がおかしくなったのはあの時からだった。
「すっげえ面白いアプリ見つけたよ」
私のアパートでゴロゴロとテレビを観ていた時、高志がやや興奮気味にそう言った。無邪気な子供のような笑顔で言っていたことを思い出す。熱しやすく冷めやすい、そんな性格を地で行く高志は、いつもそんなことを言っていたので、そう気にすることはなかった。
「ふーん、そうなんだ」
その時はそう言って流したように思う。それでも高志の勢いは止まらない。
「こうやってね、携帯の位置情報を使うアプリなんだ」
そうやって説明してくれる高志の話を、わたしはほとんど聞いていなかった。興味がなかったわけではないが、説明されるほどのことではないと思ったからだ。
高志は会うたびにそのアプリの話をし、どんどんとのめりこんでいるようだった。少しだけ不安な気持ちになる私がいた。
「今日はさ、“でんこ”のレベルが上がったよ」
「新しい“でんこ”がガチャで出たんだ」
「はじめて駅をリンクできたんだ」
「くそっ! こいつ糞レーダー使ってきやがって!」
「俺が使うレーダーはいいレーダーだ」
その瞳には鬼気迫るものがあった。なんだか怖かった。
高志の話を統合すると、どうやら“ステーションメモリーズ”いわゆる“駅メモ!”というアプリゲームに思いっきりのめりこんでいるようだった。
これは、スマートフォンの位置情報を利用したゲームで、実在する駅(一部廃駅になったものも含む)を取り合うゲームだ。
簡単に説明すると、アプリ内の“チェックイン”ボタンを押すと、その時点の位置情報を取得し、最も近い場所にある駅にアクセスする。アクセスした駅は実績としてカウントされていく。そうやってどこかに出かけるたびに実績を積み上げていくゲームだ。“おでかけをもっと楽しく”のキャッチフレーズ通りと言える。
このゲームにはもう一つの側面がある。“でんこ”と呼ばれる独立思考型駅情報収集ヒューマノイドがプレイヤーと一緒に駅収集にあたるのだ。これらの“でんこ”は成長し、スキルを覚える。時にそのスキルが駅収集を便利にしてくれる。
また、“でんこ”はアクセスした駅を守護することもある。駅にアクセスした際、別のプレイヤーが所持する“でんこ”とバトルになる。そこで勝利を収めると“リンク”と呼ばれる状態になり、駅を守護することとなる。リンクする時間が長ければ長いほど、“でんこ”に入る経験値は上がり、強くなる。
そういったお出かけゲームとしての側面と、“でんこ”育成ゲームとしての側面を持ち合わせたゲーム性は、多くのユーザーを魅了して止まないという。高志も、そんな“駅メモ!”に魅せられた一人だった。
「クッソ! なんだよこの“カンカン1121”ってやつ、完全に地主じゃねえか!」
高志が消息不明になる直前、私のアパートでソファに座り、そう呟いていた。
「地主……?」
その言葉が高志の消息を掴む大きなヒントになると考えた。
「地主だ、もう地主になるしかない……」
そうメッセージを残して消えた高志、その高志を探して大学までやってきたのだ。なんとなくだが、高志は大学にいるような気がしたのだ。
もう梅雨が来ようかというこの時期の大学キャンパスは、中間試験期間を控えてひっそりとしていた。
高志が消息不明に前の言葉を思い出すと、妙にこの越中島駅に執着していた。その越中島駅の近くにある大学構内にいると思ったからだ。
スマホを取り出す。駅メモ!を起動する。私の“でんこ”が越中島駅にリンクしていた。
越中島駅はそう利用者が多い駅ではない。電車の本数もそう多くないので、他ユーザーからのアクセスはそう多くなかったが、何人かのユーザーがアクセスしていた。そのユーザーたちの名前を眺める。
「いた!」
そこに高志はいた。「ダイナソー高志3345」の名前で私の“でんこ”にアクセスしてきたのだ。これが高志のアカウントであることはすぐにわかった。
「この越中島駅の近くにいる!」
予想通りだ。そうとなれば話が早い。
本来なら、駅にチェックインしてきたからといって、必ずしも駅構内にいるわけではない。駅メモ!はあくまでも“チェックインした時点での最寄り駅”にアクセスする。つまり、駅前のビルにいてもこの駅になるし、駅の裏側のアパートにいてもこの駅にアクセスできるのだ。
けれども、越中島駅周辺だけは特別だ。時間を潰せるようなカフェなどがあるわけではないし、高志が立ち寄ることができる場所は私のアパートか大学構内しかない。
そして、この時期の大学構内に学生がいる場所といえば、学生食堂であるマリンカフェと相場が決まっている。すぐにマリンカフェに向かった。
高志はいた。予想どおりマリンカフェにその姿があった。
隅の方の座席に一人で座り、何かブツブツ呟きながらスマホを凝視しているようだった。
「高志」
後ろから話しかける。高志はよほど驚いたのか、小動物のように体を硬直させた。
「あ、桜子か……」
その目は虚ろだ。
「どうしたの高志? 2週間も連絡なしに。それに大学に来てるなら私に連絡してよ」
「いや、あの……その……」
高志はこちらに視線を合わせようとしない。そわそわと落ち着きのない素振りを見せている。
「とにかく、ちゃんと話を聞かせて」
そう言って向かいの席に座る。お昼が近づいてきたためか、マリンカフェ内に人が増えてきた。
改めて高志の表情を見ると、やはり落ち着かない。スマホを凝視し、なんども画面をタップしている。
「駅メモ!よね……?」
話しかけるが、反応はない。一点を凝視し、まるで人生を左右する大切な宝物のようにスマホを握りしめている。その力はかなり強く、画面が割れてしまいそうだ。
「地主……」
高志がポツリと呟く。
「え? 地主?」
意外な言葉に思った以上に高い声が出てしまった。
「俺はさ、地主になりたかったんだ」
そう告げた高志の瞳は、ショーウィンドウのトランペットに憧れる黒人少年のように澄んでいた。
ここでいう地主とは、土地を持つ人間を指した言葉ではない。ここでの“地主”は駅メモ!における“地主”だ。
駅メモ!においては自分が所有する“でんこ”が駅を守護する“リンク”という概念が大切になる。並み居る他ユーザーのでんこからのチェックインから守り切り、長い時間かけて連続して駅を守護することが命題となる。
もちろん、人の出入りが多い駅は、他ユーザーからのアクセスも多いので、リンクを維持することは大変だ。日本最大のターミナル駅である新宿などは、数秒単位でくるくるとリンクユーザーが変わる。
そんな中にあって、特に地方の駅などに多いが、拠点となる駅に常にリンクし、他のユーザーがアクセスしてきても鉄壁の城塞のごとき守りでシャットアウト、万が一、リンクを取られても圧倒的強さで即奪い返す。そんなプレイをしているプレイヤーを“地主”とやや揶揄の意味も込めて表現することもあるようだ。
ある駅において、例えばほとんどのユーザーがちょっと通りかかった際に駅にアクセス、というスタイルであった場合、地主にとっては大きな問題はない。ただし、複数ユーザーが同じ駅で地主プレイを狙っていた場合、骨肉の縄張り争いに発展することもある。
「容赦ねえんだよ、この“カンカン1121”って地主」
どうやら高志はこの越中島駅の地主になろうと奮闘したようだ。駅の規模として、越中島駅は地主プレイには申し分がないだろう。そこまで利用者が多くないからだ。
けれども、ここにはすでに“カンカン1121”というヘビーユーザーが根を張っており、容赦ない地主プレイを見せている。守備力の高さもさることながら、運よくリンクが取れた際も、数分以内に圧倒的火力による無慈悲な咆哮により即座にリンクを奪い返してくるらしい。
「もう我慢できなくなって、この駅を譲ってくれって交渉しにきたんだ。あんたは十分に堪能しただろう、今度は俺に地主プレイをさせてくれって直接交渉にきたんだ」
地主プレイの中には圧倒的火力でレーダーを使い、離れた複数の駅で地主をするレーダー地主というプレイスタイルもあるようだが、“カンカン1121”は通常の地主プレイだ。つまり、この駅を拠点にしており、この近くに潜伏している可能性が高い。
「このカンカン1121もこの大学の学生なんじゃないかと思うんだ」
地主プレイを行う拠点を選ぶ場合、職場か、自宅の最寄り駅で行うことが多い。なにせ、即座にリンクを取り返す機動力が重要だ。自然と、日常生活にリンクした駅を選ぶことになる。
そういった意味では、“カンカン1121”はこの駅の近くに実在するという考えは正解だろう。けれども、前述したように、駅メモ!のチェックインは、駅構内にいる必要がない。この駅が最寄りとなる範囲ならどこでも可能なので、かなりの広さになるはずだ。
「無理だよ」
高志を見つけるのは簡単だった。それは私が高志の行動パターンを知り尽くしていたからだ。けれども、何も知らない“カンカン1121”を見つけることは不可能だと思った。なにせこの大学のキャンパスはなかなかに広い。
「この名前の数字がカギだと思うんだよ」
高志は白い紙に何かを走り書きしながら説明した。
「普通、こういった数字を名前の後につけるのは、誕生日であることが多い」
「じゃあカンカン1121は11月21日生まれってこと?」
「いや、その可能性もあるけれども、もっと別なことを表している可能性がある」
高志はさらに紙に書き始めた。
「カンカン1121がこの大学の学生だとすると見えてくるものがある、この最初の1は1号館のことを表している気がするんだ」
正門を抜けの通路を進むと、1号館と呼ばれる建物がある。その建物が地主を探すヒントになると考えたようだ。
「行ってみよう」
マリンカフェから1号館まではそこそこに距離がある。気乗りはしないが、それでもついていくしかなかった。
「ここか」
1号館はひっそりとしていた。学生の姿も見当たらない。
「ここの1階の21番の部屋にいるってこと?」
そうすれば1121の説明はつく。ただ、この建物にはそんな部屋はなかった。
「数字はやっぱり誕生日じゃないの?」
そう告げると高志は首をひねった。
「じゃあ、カンカン、はどんな意味だろう」
いつの間にか正門まで移動してきてキャンパス案内の看板を食い入るように見つめていた。
「もしかして!!」
高志が急に大きな声を上げた。今度はこちらが小動物のようにビクッとなった。
「ほら、この大学のはじっこのほう、今まで気にしたことなかったけど、ここに天文観測所の跡があるじゃん」
確かにキャンパス内には商船大学時代の観測台が残されていた。有形文化財にも指定されているほどのものだ。
「その斜め前には、ほら、石像がある」
観測所から数十メートル離れた場所にある、石像を指差した。
「あれは菅船長の石像だったはずだ」
そう言って高志は得意げに口角を上げた。
「観測所に菅船長、似てると思わないか。どちらも頭を取ってカンカンだ、その二つを結んだ延長線上にはなにがある?」
「え、わからない。なに?」
「操船場さ、行ってみよう」
確かに、その先には隅田川と繋がる操船場がある。けれども、この時期、この時間に行っても誰もいないはずだ。
キャンパスを横切り、操船場に到着すると、やはり誰もいなかった。高志は酷く落胆した。
「カンカン1121、みつけることはできないのか。俺には地主は無理なのか」
落胆の激しい高志を慰める。
「この駅は諦めて、他の駅で地主になるってのはどう?」
その言葉に高志は首を横に振った。
「住んでる場所か大学近くじゃないと地主プレイは難しい。住んでる場所は県1位レベルの大地主がいるから……」
「じゃ、じゃあさ、地主プレイはやめてさ、もっとお出かけして駅を集めようよ。三江線とか取りに行ってもいい。日本縦断したっていい。なんなら年越し大回りだって、北海道全駅制覇だって、縄文時代から巡ってもいいじゃん!」
その言葉にも高志は首を横に振る。
「そんなの正常な人間がやることじゃないよ。俺は地主プレイがしたいんだ」
「高志のバカ!」
なんだか私は急に腹が立った。駅メモ!ばかりみていて私を見ていない高志にとにかく腹が立ったのだ。決して既定の2時間が近づいているからではない。
「駅メモ!はいろいろな楽しみ方があっていいと思う。そりゃ地主プレイをしてもいい。でも、それで苦しんでいたら何にもならないよ。楽しんでやらなきゃだめだと思う」
「桜子……」
「ちゃんとお出かけして楽しもうよ。それでいいじゃん」
高志は押し黙っていた。一方的にこちらの考えを告げる。
「明日、わたしとお出かけしよう。どこでもいい、いっぱい電車に乗って、知らないローカル線を取りに行こう。二人でローカル線の地主を蹴散らしにいこうよ」
高志は下を見て黙ってしまった。
「もし私と別れてさらに地主を目指すって言うなら、明日もこの越中島駅にアクセスし続ければいいと思う。でも、わたしとおでかけをもっと楽しくしたいなら。10時に東京駅で待ってる。やってきた合図にチェックインして」
そう告げてアパートへと帰宅した。
越中島から東京駅まではそう遠くない。京葉線ですぐだ。
越中島駅とは正反対に多くの人が行き交う東京駅のコンコースで駅メモ!の画面を睨みつけて待つ。
「おねがい」
そう呟いた。
東京駅の喧騒はどこか現実味のないものだった。
「カンカン1121 ←Check in ダイナソー高志3345」
そう画面に表示されていた。
「バカ」
そう呟いて周囲を見渡し、高志の姿を探す。
「わたしの誕生日を覚えてないことと、私のあだ名をおぼえてないことは許してやるか」
東京バナナの店の影から走り寄る高志の姿を見てそう呟いた。
今日はどこにお出かけしようか。おでかけをもっと楽しく。きっと素敵な一日になるはずだ。
※登場するユーザー名、人物名はすべて架空のものです。
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露骨にスポンサーに媚びてきやがった。駅メモ駅メモって何回言うんだ。
っていうか文字数えげつなくないですか?あの短時間で6,700文字もありますよ。
まあまあ。これがプロの仕事って事だよ。ちゃんとスポンサーの要求にも答えなきゃ。みんな周りが見えてないんだよ。
でも、もしこれでpatoさんを優勝させたらめっちゃイメージ悪いよね。「なんだよ!結局、媚びたら勝てんのかよ!」って。
それは本当にそう。これでpatoさんの優勝は無いわ。優勝したら「patoさんはスポンサーに媚びて10万円もらった」ってTwitterで悪口めっちゃ書こう。
おい!余計な事言うなって!
【編集部補足】JR京葉線「越中島」駅周辺のおすすめスポット
越中島は、もんじゃの聖地・月島と、江戸時代からの情緒が残る門前仲町のちょうど中間にあるエリアだ。晴海運河が近く、川沿いの越中島公園には水上タクシーの無人乗り場がある。
越中島公園は夜景がとても綺麗なスポットでもある。夜にはほとんど人がいないため、都内では珍しく落ち着いて夜景を楽しむことができる穴場だ。
エントリーナンバー6 ツマミ具依
では、先輩方の前で披露するのは恐縮ですが、私のやつを……。
「駅メモ!」と一緒に、知らない駅へ旅に出かけよう。
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